パーティでの会議もひと段落して、どんなポーションが売れるかは何となく方向性が決まった。
問題は、どのポーションを作るのか。
そんな問題も、取りあえずはポーションの素材になる薬草が生えていなければ始まらないと遺跡の周りを歩いてみれば……殆ど全て揃っていたからこそ困ってしまった。
だがその中で薬草自体の栽培が容易そうなものを見繕えば、自ずと数は絞られた。これならば特殊な条件も無いし、農作物と同じように畑で育てることが出来るだろう。
つまりポーションの製作ラインさえ用意できれば、このポーションはこの村の特産に出来る……だけでなく僕達の冒険にも役立つ、つまり冒険の強い味方になるだろう。
「虫避けのポーションと、乾燥や消臭の粉薬なんかは作りやすそうだし……」
そう言う事なら今度錬金術ギルドのお二人に顔を出してみるのが良いだろう、彼らも村を訪れたばかりで少し忙しいとは思うからまた後でアポを取ってからにしようとは思うが。
そして何と言っても、特産品作りにばかり必死になっている訳にもいかない。
今この村に足りないのは、『食料と人材、そして収入源』とは代官のスチュワードさんの言っていた事だ。食料は今動いていて、収入源もとりあえずの方向性は立てられた。
だが新しい人材に関する話は、ほとんど手つかずと言って良い。
それに領主としても、村人としても……既に居る村人を大切にしていかないといけない。
むしろ今いる人材こそを大切にしていくべきなのだ。
「とは言っても、何から手を付けたものか困りますよね……オシエルさんはどう思います?」
【そっ、そこでわたしに振るんですか? ちょ、ちょっと……待っていてくださいね……】
ガチャリとティーカップを置く音が頭の中に響く、何となくそんな気はしていたけどやはりこちら側を見てはいたらしい。物語を読むなんて例えをしていたけど。
【最近少し、頼り過ぎではありませんか?】
「もしかして迷惑でしたか……?」
【いえ。ですが、指針を一から十まで
「それはその……そうですよね」
確かに最近少し頼り過ぎだったかもしれない。
人の情報を教えてくれるのはまだしも、指針まで尋ねるべきでは無かったのだろう。
【とはいえ村人でしかなかったあなたを捕まえて、領主をしろなんていうのも過酷な話ではあります。それで私とは全く関係ない話なんですが、推薦一覧が更新されているようでしたよ?】
「ありがとうございます?」
【よしてください、私は無関係なので。ですがどうしてもと言うのなら、畜産には力を入れてくださいね? おすすめですよ? 特に鶏がおすすめです】
鶏……卵……そういう事か。
それは前向きに検討しておくとして、推薦一覧に目を通す。
どうやら僕も、あの方の扱い方が何となくわかって来たらしい。
【聞こえてますからね? そのモノローグ】
『スキル:推薦一覧』
●推薦依頼一覧
★長期推薦─進行中─
・ソノヘンの村に戻ろう! 報酬:???
★短期推薦─進行中─
・インフラの整備を行おう
・人材の把握を行おう
・特産品を開発しよう
・商人を呼び込もう
・人材不足を解決しよう
・家畜を飼おう
★感想推薦─進行中─
・ランキングから読書をしよう! 報酬:成果によって変動
▼受諾可能一覧
確かに短期推薦の欄が増えている、だが……多すぎる。
分かってはいたが、あまりにもやるべき事が多い。
今見えている推薦はこれだけだが、一つ解決すればそれに伴った問題が出てくるだろう。当然だが、その全てを直ぐに解決できるようなものでもない。
そして領地経営に力を入れたいのもあるが、何時までもこの村に居る訳にもいかない。
僕達は冒険者パーティで、シエナとツェツィはともかく……グレイ師匠を完全に待たせてしまっている形になっているのだから。
【後は……厄介に思うのも分かりますが、『よみあげ』の2人は強力なアドバイザーです。そちらを頼るのも視野に入れた方が良いとは思いますよ?】
「うぐっ……」
賢者は勿論面倒くさいし、おじいちゃんには頼り過ぎてしまいそうで怖いのだ。
それに賢者との事をあれこれ言われるに決まって……いや、そもそも同じ時空を生きた僕なのか?
彼が僕と全く同じ道筋を辿って来たとは限らないし、そもそも彼が今の僕にあった時点で未来の僕には間違いなく影響が……なんて危うい方向に逸れかけた思考を元へ戻す。
まずは、目の前の問題を解決するべきだろう。
「畜産……」
【おぉ!】
「より先に人材の把握をします、わざわざ推薦にあるという事は……何かあるんですよね」
【えぇ、その方が良いでしょうね。賢明……賢明な判断です……本当に……】
何処かがっかりとした様子のオシエルさんを置いて、村の人材の把握の為に村の中心まで歩き出す。
と言っても村の人間の殆どは顔見知りだ、それくらい人の居ない村だったのだ。
今更探して、目新しい人は殆ど居ない筈なのだが……
「そういう事ですか?」
【さて、なんのことかは分かりませんが……】
考えてみれば村長さんに任せきりで、挨拶をしに行った事が無かった。
そこまで手が回らなかった、とも言うけれど。
村の中を歩くこと数分。
だだっ広い防壁に囲われてしまったこの村は、今や土地だけなら余る程存在している。
そんな村の隅にある一角を貸し切って、テントや臨時の厩舎らしきものが建てられているのが遠目からでもよく見えた。
当然だが馬や人と言うのは維持するのに非常にお金がいる、これだけ立派な騎士を賄うにはそれだけコストが必要になるだろう。とは言え、防衛をおろそかにするなんて言うのは有り得ない。
テントには何かしらの魔法の意匠が見て取れる、恐らくはそれ全体が何かしらの魔道具なのだろう。
村長さんから聞いた話によれば規模は17人、王都襲撃があった際の防衛戦に出撃していた練度の高い兵が来てくれているとは言っていたが……
そのままテントの方を見ていると、王国の意匠の入った鎧を着ている男性と目が合う。
かなり距離がある筈なのに、しっかりと視認されている……かなり視力が良いのだろう。
その騎士は、見るからな屈強な身体の銀髪の騎士。
その男性は2メートルを優に超える背丈と屈強な筋肉で、頑丈そうな盾をなんなく背負っていて。
そして随分と……見覚えのある顔で……
「なっ、何で貴方がここに……」
「何故とは……姫様直々に命じられたからでしてな……」
昔記憶で見た彼と何ら変わらない……どころかさらに屈強な筋肉を携えた彼は、聞くまでも無く……
「お久しぶりですな、ノマル男爵。吾輩はクロッカス王国騎士団が団長───オットー・マグヌスですぞ」
「おっ、お久しぶりです……」
思わずその風格に圧倒される。なんというか幼少期の僕との『実力の差』のイメージが強すぎてプレッシャーを感じるのだ。
そんな彼は間違いなくオットー・マグヌスその人だった。
記憶よりも若く見える彼は、銀色の顎髭をさすりながらどこか気まずそうに当然の疑問に答える。
「ルークも随分と実績を積んだようですし、ここらで経験を積むのも大切かと思いまして。留守を預けてきた……というわけですな」
確かに12魔将の討伐の際は随分と頼りになった記憶がある、だからといって団長が自ら……姫様が自ら来ているのだ、今更というものなのかもしれない。
「それに我自身も弛んでおった、その事をあの敗北で突きつけられたのでな。願わくばもう一度手合わせしたいと思う所存である」
あの立ち合いで折れずに、その後随分と鍛えたのだろう。
その事が分かる身体つきと、闘志の籠った目で遠い空を見つめる彼。
「村の警備は全力で当たらせていただく、心配は無用なのである」
「とっ……とても、心強いです!」
あまりにも過剰すぎる戦力と圧に、思わず声が上擦ってしまう。
だが確かにこれなら、生半可な魔族の襲撃があったとしても恐れるに足りないだろう。
そんなこんなで騎士団の団員さん達とも顔合わせが終わり、推薦にあった人員の確認はクリアできたと言えるだろう。僕個人としては気まずいのだが、相手方が気にしていないのであればこちらから気を回す必要は無い。
そして、味方であればこれ以上頼りになる人もそうそういない。
そんな顔合わせから数日経ったある日の事、村の隅では朝早くから夜遅くまで木剣の打ち合う音が響き渡っていたという。
『人材の把握を行おうをクリアしました』
報酬:情報の取得 → 『難民問題』