スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』   作:天野ミラ

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8.戦利品

 目が覚めると、高い遺跡の天井が目に入る。焚き火はすでに消えていて少し肌寒いけど、火種が燻っている辺りそこまでの時間は経ってない……と良いんだけど。

 

「おはようノル君、体調は大丈夫?」

 

「まだちょっと頭が痛いけどもう動けると思う。見張っててくれてありがとう、シエナ」

 

「ううん、結局誰も来なかったし守護者も動かなかったから本当に見張ってただけだよ」

 

「それでももしもの備えって大切だから……あれ、グレイ師匠は?」

 

「ふーん? グレイさんなら今は最深部の書斎を見て回ってるよ」

 

 何故か少し不機嫌そうに答えたシエナ、何か気に障る事を言ってしまっただろうか? 気になる所ではあるが、あまりゆっくりもしていられない。遺跡の守護者を倒せただけでここから出る見込みが立った訳ではないんだ、食糧が尽きる前に脱出の目処を立てなければ。

 

 最深部にある書斎の中に入る。戦闘中はゆっくり見ている暇が無かったが、よく見てみれば随分と質の良さそうな調度品が揃えられている。此処を使っていた誰かは、名のある誰かだったのだろうか。

 

「目が覚めたんだね、調子も悪くは無さそうで一安心だ」

 

「ありがとうございます、2人のお陰でゆっくり休めました」

 

 部屋に入ると師匠は机の引き出しを開けて中身の確認をしていた。手元の用紙に何かを記している辺り、ここで見つかったモノのリストを作っているのだろう。

 

「結論から言うと……おそらくはこれが入口の開閉レバーだと思う。何か書いてあるからノル君に読んでもらえれば確実だね」

 

 師匠が指さしたのは机の引き出しの隠し棚の中に意味ありげに存在している謎のレバーだった。確かに何か文字が書いてはあるので……

 

『スキル:ルビ(るび)

「そこには確かにΓια άνοιγμα και κλείσιμο(開閉用)って書いてありますね」

 

「つくづく思うが絶対に他の人にはバレないように気を付けるんだぞ? 特に学術院には」

 

 備品の辞書として管理されかねないからな……なんて笑う彼女の台詞には妙に現実感があって、とてもじゃないが冗談として笑いとばすことが出来なかった。

 

「さて、用意が出来たら脱出しようと思うんだが……ここを隠し通すのはちょっと厳しいかもね。塞がれた出口を誰かが見ている可能性もあるから」

 

 確かにリスクは高そうだ、そうなると少し残念かもしれない。ここにある本の中で幾つか面白そうだなって思ったものがあったのに。

 

「一応この遺跡の探索は国からの依頼だから、見つけたものは基本的に国が買い取る形になる……貴重な出土品なら尚更ね。残念なのは読めもしない本にそこまで高い価値がつくとは思えない事と、学術院はこれを手放したりしないだろうという点だ」

 

 折角面白そうな本が沢山あったのに読めもしない所に持っていかれてしまうのは勿体無いなと思う。

 

「これは独り言なんだけど───これだけ本があれば数冊ぐらいは無くなっていても気づかないかもしれないね? 私もほら、記憶力が良い方じゃぁないからねぇ」

 

 そう言って悪戯の成功した子供みたいに彼女は笑った。幾つか気になる本があったんだ、そう例えば……

 

「やっぱり『薬草学』の本ですかね?」

 

 正直、村で薬草学の権威なる人を見てから少しだけ気になっていたのである。

 

「そっ、そこは魔法の本じゃないのかい?」

 

「冗談ですよ師匠」

 

 流石にあの威力を見た後では魔法の本が最優先だろう、僕に使えるものは限られそうだけど……‥

 

「師匠を揶揄うとは随分と生意気になったものだね全く……!」

 

「ノル君とグレイさん……いつの間にそんな仲良くなったの?」

 

「何故かこの話を長く続けるべきじゃない気がする、早く地上に帰るぞノル少年……!」

 

 幾つか気になる本を見繕って、背負ってきたバックパックに詰める。その間師匠とシエナは部屋の外で何かを話していたようだが───そこで何が話されていたのかは、僕には教えてはくれなかった。

 

 

 

 隠し通路のあった台座から出ると、通路を塞いでいた天井は既に上がっていた。隠し通路が塞がらないのは、他の人たちが持っていったという宝石の方に何か仕組みがあったのかもしれない。

 

 長い遺跡の通路を抜けようやく出口へと辿り着く。久しぶりの日光がとても眩しいが、地上に帰ってこれたのだという安堵の方が大きかった。

 

「ようやく帰ってこれた……!」

 

「眩しいね、でも太陽を懐かしく感じる事があるなんて……」

 

「拠点に帰るまでが冒険だ、気を抜いちゃダメだよ。まあ嬉しいのは私も同じだけどね?」

 

 とは言ったものの村に戻るまでの道中はとても快適で、魔物一体出る事も無かった。シエナが木剣の代わりに木の枝を持っていたのは、少し疑問だったけど。

 

 

 

 村に戻って、死んだように眠って……それからはここまでと同じように師匠と魔法の修業をしたり、冒険のお話を聞いたりして時間が過ぎていく。そして遂に『その日』を迎えた。調査や報告である程度は長引いたものの、必ず来ることの決まっていたその日。

 

「本当に……明日行っちゃうんですか、グレイ師匠」

 

「この村は居心地が良いけど……何時までも留まっている訳にもいかないからね。金銭的にも───私自身の目的の為にも」

 

 辺りはすっかり暗くなっている。いつもの村はずれからの帰り道が、こんなに寂しく感じるなんて考えた事もなかった。

 

「随分と魔法も上手くなったね、私が居なくてもしっかりと精進するんだよ?」

 

「勿論です、少しでも早く師匠に追いついてみせますから」

 

「随分と強気だなぁ、まあ魔法だけじゃ厳しいかもしれないが……その『スキル』も合わせれば、意外と直ぐに追いつかれちゃうのかもしれないね。勿論私もそうそう抜かれる気は無いけどね?」

 

 初めは魔法を教えてくれれば誰でも良いと思っていた。だけど、魔法以外にも沢山の大切な事を師匠に教えてもらった。冒険者としての心持ちも、世界についても。だから

 

「もし、師匠さえよければ───」

 

「もう少しだけ魔法を教えてくれませんか」なんて続けようとして……止めた。彼女は冒険者だ、何時までも引き留めておくことは出来ないなんて事は分かっていた。それに彼女が『Sランクの冒険者』を目指していたのは分かっていたから。その夢を引き止めていい訳がない。

 

「今生の別れって訳じゃあないんだ、そう湿っぽい顔をしないでくれよ。君が冒険者を目指すなら、自ずと会える時が来るさ」

 

「そう……ですね」

 

「少し待っていてくれるかい?」

 

 そう言って家の中に向かう師匠。話すことに夢中になっていて、僕は家の近くまで来ていた事に気付いていなかったらしい。少しして戻ってきた師匠の手の中には、一本の見慣れない杖が握られていた。

 

「弟子の卒業を祝って手作りの杖を贈るのが、私の故郷の慣習でね。一流品には見劣りするかもしれないが───」

 

 彼女の持っている杖は、確かに手彫りであるらしい。そして先端には彼女の髪と同じ銀色の宝石が嵌めてあった。

 

「───受け取ってくれるかい?」

 

「勿論です、ありがとうございます師匠……!」

 

「それだけ喜んでもらえると、頑張った甲斐があるというモノだね」

 

 嬉しさで思わず泣きだしそうになるが、ぐっと堪える。僕の手の中には、師匠の作ってくれた紛れもない『特別』があった。夜の暗さのせいで確信は持てなかったけど、彼女の長い耳も朱く染まっていた……ような気がする。

 

「師匠だと思って、大切に飾りますね……!」

 

「いや、道具なんだからちゃんと使ってくれたまえよ!?」

 

 夜が更けていく。興奮は冷めなかったが、別れの日に寝不足の顔を晒すわけにもいかないだろうと思い眠る用意をする。布団に入れば眠気というモノは意外と直ぐにやってきて、しっかりと体を休めることが出来た。

 

 

 

 そして次の日、朝起きて朝食の為に師匠を起こしに行ったはいいものの……そこには師匠の姿どころか荷物すらなかった。確かに明日の何時に帰るとは言っていなかったけど、まさか朝の早くに帰るなんて……

 

「グレイさんならさっき王都の方に向かっていったわよ? ノルを起こそうと思ったんだけど「ああ、起こさなくても良いです。別れの挨拶というモノはどうしても湿っぽくて苦手でね」なんて言ってたから……」

 

 確かに師匠の言いそうな事だ、それでも一声ぐらいかけていってくれたらよかったのに……!

 

「お母さん、僕行ってくる……!」

 

「うん、王都までは流石についていっちゃダメよ?」

 

 居ても立っても居られなくなって、寝巻のまま家を出て村の門に向かって走ったけど……師匠は既に村を出た後らしかった。せめて一言、お礼の言葉くらい言いたかったのに……届けられるか?

 

『スキル:二段階拡大』

 

 

 

 

 

 整備が行き届いていない街道を歩く彼女は、嬉しそうな顔をして笑ったり、しきりに何かに頷いたりを繰り返している。おそらくこの旅の振り返りでもしているのだろう。

 

「にしても、少し露骨すぎたかな。まさか自分の髪と同じ色の触媒の杖なんて……」

 

 なんて、少し恥ずかしそうにする彼女だったがそれも当然かもしれない。人ならいざ知らず、エルフにとって『杖の触媒の色』は重要な意味を持つのだから。

 

「でも、あれだけ将来有望なのに他のパーティに勧誘されるのもなぁ……」

 

 幼いうちに彼を囲い込む事を良しとしないプライドと、それはそれとしてぽっと出のパーティに持っていかれたくないという絶妙な人間心が産んだ何とも言えない感情の行きつく先が『あれ』だった。

 

「……挨拶くらいしてくるべきだったかな」

 

 湿っぽい挨拶が苦手だというのには理由がある。それは彼女自身の寿命が常人のそれより長い事に起因するものだった。それでも何の挨拶もせずに出ていく事は流石に良くなかったなんて思ってはいたのだろう。そんな時、誰かの声が聞こえた───気がした。

 

 

「師匠~! 短い間でしたけど! ありがとうございました!」

 

 

「全く、あの子は……ふふっ」

 

 彼女は歩いていく、王都までの道のりは長いが……それでもその足取りは軽やかだった。

どれくらいが好み?

  • 主人公が無双無双してる方が良い
  • 紆余曲折と苦難を乗り越えてほしい
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