スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』   作:天野ミラ

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79.領主になるということは

『難民問題』……その情報を取得したのが前回の推薦依頼の報酬らしいが、正直困惑している。てっきりステータスや現物での報酬だと思っていたが、ここに来てこういう形の報酬があるとは思わなかった。

 

 そしてその詳細が……これだった。

 

『topic:難民問題 → 3年前に起きた12魔将『鋼鉄のシャリブレン』の進軍により計4つの村と1つの都市が壊滅状態となった。頼れる伝手のあるものはこの土地を離れたが、頼れる者がおらず留まらざるを得なかった難民はキャンプでの暮らしを余儀なくされている』

 

 あの時の侵攻で、進路上にあった村や付近の村は大きな被害を受けたという。命からがら生き延びても、帰るべき家や畑には丁寧に火をつけられ……当然侵略された後だ、復興するための資材も人材も居る訳が無い。

 

 

 そしてこれが只の情報……という訳では無いだろう。

 人材不足を解決するため、それに役立つ情報……それ自体が報酬という事だろうか。

 

 まあ確かに、スキルの報酬で人間が生えてきても怖いし納得ではあるが……

 その判断は慎重にならざるを得ない、今までの施策とは訳が違うのだから。

 

 

 だからこそ、この内容に詳しいであろう彼女に話を聞いてみる事にした。

 

「……難民を、ですか。難しい問題ですね」

 

 難しい顔で読んで居た資料らしきものを騎士に下げさせ、指先を胸の前で組んだツェツィ。その正体は忘れがちだがこのクロッカス王国の王女、ツェツィーリア王女殿下である。彼女ほど国の問題に詳しい人間はそうそう居ないだろうと思って彼女が滞在している部屋を訪れたのだが……忙しい時に邪魔してしまっただろうか。

 

「ごめん、忙しそうならまた後で出直すけど……」

「いえ、そちらは目を通し終わったので大丈夫です。それにノルさんとのお話より優先するべき事柄は、今のところありませんでしたので」

 

 そう言って口角をあげて嬉しそうにする彼女、話のペースを完全に持っていかれてしまった。こういう所で彼女に張り合える気が全くしないのは、やはり経験から来る物なのだろうか。

 

 そんな彼女は申し訳なさそうに目を伏せて、そこについての情報を語ってくれた。

 

「まず、王国側も彼らの事は認知しております。私個人としても非常に心苦しく思っていますが……現実問題として、民の抱えるすべての問題に対処する事は……出来ません」

 

 我々の力不足で悔しい限りではありますが、と彼女は付け加えた。

 

「ソノヘンの村の経営に携わったノルさんなら分かるとは思いますが……村を建て直し、維持していくのには途轍もない労力と金……そして人手がかかるのです」

 

 元より被害の少なかったソノヘンの村の経営ですらこれだけ大変なのだ、一からとなるとその労力は計り知れない。この国にも無尽蔵に金と人手がある訳ではないのだから仕方ない事だとは思うが……

 

 当事者からしてみれば、仕方ないなんて言葉で片づけられる程軽いものでは無いだろう。

 

「個人的な意見としては、お勧めしません。行くにしても……時期尚早という所だと考えています」

「まずは今の村を安定化させるべき……って事だね?」

「えぇ、その通りです」

 

 

 

「……それに極度の貧困と飢えは、人の醜い部分を容易く剥き出しにします。ノルさんのする事に異を唱えるつもりはありませんが……生半可な覚悟を持っていけば、きっと後悔する事になりますよ」

 

 責任は重い、絶対に失敗できないとは思っていたものの……人の生活を、命を預かるという重圧が重く肩にのしかかる。ツェツィや王族の方々は……これよりもたくさんの重圧を抱えて生きているのだろう。

 

 そう思うと、軽率に難民を村に迎え入れるとは口が裂けても言えなかった。

 

 もしやるにしても、今じゃない。

 もっと基盤を整えてから、そして覚悟が出来てからだ。

 

 今の僕とこの村には、何もかもが足りなさすぎる。

 

「ありがとう、ツェツィ」

「いえ、お力に慣れたのなら幸いです。是非これからも頼ってくださいね?」

 

 

 

『スキル:推薦一覧』

 

 ●推薦依頼一覧

 

 ★長期推薦─進行中─

 ・ソノヘンの村を開拓しよう! 報酬:??? 

 

 ★短期推薦─進行中─

 ・インフラの整備を行おう

 ・特産品を開発しよう

 ・商人を呼び込もう

 ・人材不足を解決しよう

 ・家畜を飼おう

 

 ★感想推薦─進行中─

 ・ランキングから読書をしよう! 報酬:成果によって変動

 ・幼なじみを口説いてみよう! 報酬:剣術の心得

 

 ▼受諾可能一覧

 

 

 これまた碌でも無い推薦が増えている。

 報酬は魅力的だが───無いな、これだけは自分の意志で決めるべきだ。

 

 スキルが示したから、誰かを口説くなんて……それこそ相手に失礼だと思うし。

 もし将来を供にしたい相手が出来たとして、その時は自分の気持ちをぶつけたい……なんて、ちょっとロマンチックすぎるだろうか。

 

 このモノローグも見られてるんだった、とっても忘れて欲しい。

 

 

 感想に来ていた家畜を飼うのは良いアイディアだ、おすすめされていたのは鶏。

 餌は余りものの野菜……もそうだし、サトウダイコンの搾りカスの消費先にもなる。

 

 個々人の家庭で出来るというのなら、益々やらない理由がないだろう。

 誰かさんの意向に沿う形になるのが、本当にちょっとだけ何とも言えない気分だけど。

 

 

 鶏を飼うと言っても、まずは鶏が居ないと始まらない。

 野生の鳥でいいものが住んでいないかと思ったが、家畜化された品種が王国内に存在するらしい。

 

 別に全てをこの村の交配した種や開発したもので固める必要は無い。

 それ故に購入しようと考えていたのだが……

 

 

 当たり前だが、この村を訪れる商人は殆ど居ない。

 

 

 

 

 

 村長さんにとある言伝を頼んでから暫くして。

 僕の家に応接室なんて高尚なものは存在しないので、またしても村長さんのお家の応接間をお借りしている。

 

「商人のウルベル・タヌロットと申します。それにしてもノマル・フトゥー男爵様自ら、しがない商人であるわたくしにお話がしたいとは……なんとも有難い事もあったものですな」

「こちらこそお時間を取って頂いて感謝します。領主のノマル・フトゥーです」

「お噂はかねがね伺っております。冒険者としての才も聞きし及ぶところではおりましたが、領地経営にまで秀でているとは……感服いたしました。知勇兼備とは正しく閣下の為にある言葉ですな」

「いえいえ、ぼっ……私もまだまだ学ぶ事ばかりでして。これも優秀な代官のお陰です」

 

【商人『ウルベル・タヌロット』、歳は42。ここからソノヘンで最も近い都市であるクアンタムと、周辺に広がる村を中心に商いをしている商人ですね。商人としては非常に優秀ですが、繋がりや縁を重要視する本人の性格から辺境を中心に活動していて、商いの規模はそこそこ止まりです。そのお陰か、周囲からの評判はかなり良いとか。若い頃は野心的に……この辺りの情報は語るべきではありませんね】

 

 この村を定期的に訪れる商人としては最大規模にして……唯一の旅商人である彼は人当たりも良く……そして小さい頃からお世話になっているからこそ、その人となりは多少なりとも理解しているつもりだった。

 

 そんな相手から、閣下なんて呼ばれるとむず痒いという他無い。

 正直恥ずかしい、未だ領主になった自覚すら薄いのだから。

 

「閣下は昔から本……それも冒険譚の類を好むと伺っております。これは心ばかりの品ですが……前にお読み頂いたものと同じ作者の新作でございます。是非お楽しみいただけるかと」

 

 ───気を抜けば、これだ。

 

 当然のように、一村人でしかなかった僕の事を憶えていて……贈り物すら用意している。

 それがどれだけ困難な事かは、想像に難くない。

 

「それとは別に閣下のために僭越ながらこのようなモノを用意させていただいたのですが───ノマル様はイケる口ですかな?」

「あまり強くは無いのですが、折角なので頂いてもよろしいでしょうか?」

「そう言っていただけると、こちらとしても有難い限りでございます」

 

 堅苦しい話し方を好まないと見るや、即座に少し砕けた口調へと切り替えて来る。

 温厚そうな商売人の顔しか知らなかったが、確かに優秀だという情報は間違いないのだろう。

 

 とてもじゃないが、話の主導権を握るなんて事は出来そうにない。

 ツェツィとは違う雰囲気と言うのだろうか、恐らくは熟練の商人特有の場の雰囲気の作り方。

 

 そもそも僕自身、舌戦に自信がある訳では無い。

 故に出来るのは、あくまで誠意を持って対応する事くらいだ。

 

「こちらは5年前のクロッカス王国の建国記念の日に、1000本だけ作られた王国西部のブドウで造られたワインでしてな。酸味はそれほど強くなく、果実感が強いので飲みやすいと話題の一品ですな」

 

 そう言って取り出した木箱から現れたのは、確かにクロッカス王国の意匠の掘られたワインだった。わざわざ建国祭のモノを出してくるあたり、ツェツィーリア王女殿下が後ろにいる事も知っての選択だろう。

 

「それでは僭越ながら私めが最初の一杯を頂いても? 旅の最中は酒精の類は取らない事にしているのですが……お恥ずかしい話、香りに堪えきれなくなりましてな」

 

 そう言って封を開け、ワインをグラスへと注ぐ彼は別に……待ちきれなくなったという訳でも無いのだろう。恐らくは、毒見。これに毒を入っていないという事を、自らの身をして示しているのだ。

 

 ワインに口をつけ、舌の上で転がすが……確かに芳醇な香りがする……気がする。

 とてもじゃないが、ワインを楽しむなんて出来ない。

 

 正直に言えば、酔っぱらわないようにするだけで精一杯だった。

 

「美味しい……ですね」

「そうですかそうですか! ご満足いただけたようで何よりでございます」

 

 ゴクリとワインを飲み干して、それから一息つく。

 っふぅ……

 

 

 

 やっぱ僕にはこういうの無理だって!!! 

 助けて! ツェツィ!! 

 

 

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