何とか商人と顔合わせを終えることが出来た僕は、ようやく本題に入る事にした。
それはつまり、この村の商売の規模を何とかして大きくできないかと言う話である。
「商いをもっと大きく……ですか。確かに仰られる通りこの規模の村に対し、私が1人で必要な物資を運び切るというのは難しいものがありますからな」
「その為の障害を取り除くという段階ですけど、商人の立場で気になったことがあればお聞かせ願いたいなと」
「そうですなぁ。私程度の商人の浅知恵でよろしければ、是非お手伝いさせていただきたいですな」
善意だけでなく、勿論拡大する商いに一枚噛めればいいなという打算ありきの話だろう。だけどそれは利害が一致するかぎり彼が味方であるという事だ。
「幾つかの障害が考え付きますが、例を挙げるとするなら……」
そう言って彼は懐から出した地図を広げ、この村の辺りの地形を指さして見せる。
「今の街道は踏み固められただけの土の道ですし、幅も一頭立ての馬車が通るのがやっとですからな。大規模な商隊を率いてここを訪れるには……少々厳しいものがあります」
確かに村を行き来する時はとても狭い道があった、うちのパーティの場合は馬や荷物状況が特殊過ぎてスムーズだったが……流石に特殊過ぎる。
「そこさえ何とか出来れば、交通の問題はありませんな」
「成程……」
そして流石に口にはしていないものの、そんな魅力も今の所この村には無いというのが現実だ。
それ故にもしも必要なものがあるなら、こちらから出向くか彼に注文しなければならない。
村の中では物々交換で回しているところもあるが、やはり外貨の獲得は早急な課題だと認識し直すことになる。
「ありがとうございました、一先ずは家畜の購入を考えているのですが……」
「おお、家畜ですとな。ちょうど伝手があるので辿ってみましょう。次回にはお持ちいたします」
それからも探るようなジャブだったり、今後について聞かれたりしたが……
この村に投資させるだけの『価値がある』と、彼に思わせられたかは分からない。
とりあえずこれで家畜は時間が経てば解決するだろう。
後はインフラ整備をするべきだが……金と人手が要る。今後の事を考えれば、石畳とまでは言わなくても石を敷き詰めて粘土で固めた道を作りたいところだが……そもそもこの村にそこまで大工仕事をできる人間が居ない。
切り出すための岩山と並べる職人、それを揃えるのにいくらかかるのか。
いつまでかかるのかすら分からない、いや……
自分でやればいいのでは?
あれと話さなければいけないのが、酷く憂鬱だけど。
念のため、一人で話していても怪しまれない自室へと戻って来た。
石を並べるというような単純作業なら、精度の低いゴーレムでもなんとかなると踏んで活用する事にしたのだ。戦闘中も上手く使えれば便利だし。
『スキル:よみあげ』
『老ノマル』
▶『賢者アメティスタ』
『オシエル』
『戻る』
本当に良い手だと思う、教わる相手が……
【待ってたよノマル君、本当に! こっちから連絡する手段が無いんだから、早く呼んでくれたまえよ!】
この人じゃなければ、だけど。
「今日は……」
【何か面白い事でもあったかな? というより、前よりスキルのよみあげ範囲が変わっているね? 調節出来たんだねぇ、それ。まあこの私がいちいち部屋に何があるかだとか、面白みのない草原があるだとかよみあげるのも時間の無駄だから、良い判断だと思うよ? それに……】
「はぁ……」
【ん、何か嫌な事でもあったのかい? 人生の先輩でもあるこの私が、相談に乗ってあげようじゃないか】
「いや、ちょっと静かにしてくれればそれで良いので」
うるさい、そして……うるさい。
こっちから物事を頼むんだし、彼女はS級冒険者だ。
僕が下手に出なければいけないのは分かっているが、それにしてもなんというか……うん。
声は良いんだから少し静かにしていてほしい、そう切実に思う。
「ゴーレムを作ろうと思っているんですが……」
【成程? 私はS級だぁよ、そんな相手に手の内を教えて欲しいって言うんだね?】
「その道のエキスパートであるアメティスタ先生に、是非教えて貰えればなと思ったんですが……」
【ふぅん、でも……】
押せばいけるか?
正直彼女に貸しを作るのは後々が怖いから、なんとか上手く教えて貰えればと思ったんだけど……
「そうですよね、賢者ともなれば忙しいですよね? 可愛くて頭脳明晰で優しい賢者様に教わろうと思ったんですけど、その辺の魔法使いに頼むとします」
【いやいやいや、その辺の程度の低いゴーレム使いから教わる事なんて何も無いよノマル君。私が手取り足取り教えてあげよう……】
そこなんだ、気に入らないところ……と言う言葉は喉の奥に仕舞った。
万が一にでも聞かれれば、面倒臭い事になるのは分かり切っていたから。
だけど正直本当に助かる、彼女以上にこの世界にゴーレム作成に詳しい人間は存在しないだろう。
なにせ町一つゴーレムにしてしまう位の天才だ、別に僕に魔法の才能が少ししか無くても最低限動けるゴーレムくらいは作れるようになるだろう。
【それじゃあまずゴーレムの構成からおさらいしようか。勿論知っていると思うけど……ゴーレムは基本的にボディとそれを動かす魔術式、そして動力源であるコアによって構成されている訳だ。それ以外に高精度のモノを作るためには、触媒を用いたりするけどね? そういえば最近竜の心臓をコアにしてゴーレムを作ったんだが、ボディを竜の鱗と血肉で構成したんだよ。そうしたらどうなったと思う? そう、魔力の循環効率が大幅に増加する……そこまでは読めたんだが、今回はそこに別の種族の竜の素材を4種複合させていたんだ。そうするとどうなったと思う? なんと、驚くべきことに単一の竜で作った時よりも、出力が向上したんだ。勿論混ぜれば混ぜるほど良いという訳では無いが、最近はこのゴーレム材料工学とも呼べる分野で遊んでいて……】
「まっ……」
早まったかもしれない、そう思ったのも束の間……まるで滝のような情報が脳に流し込まれる。
自分の得意とする分野に対する情熱を、饒舌さを舐めていたと後悔して眠りに就いたのは……それから凡そ10時間後の事だった。
村から少し離れた所にある山で、僕は魔法の杖を片手に持ちながら頭を押さえていた。
あれから三日に渡る集中講義の末、ようやくGOサインが出た僕は実際にゴーレムを作って活用するという所まで漕ぎつけたのだ。寝てる間も止まらないラジオのせいで、かなり不眠症気味だが。
とは言え本当に助かった、それは確かなので……
「その……」
【ん? なに、この私が教え込んだんだ。土木整備のゴーレムくらいは優に作成……】
「ありがとうございました、本当に助かりました」
【……へっ? へぇ、まあその? 頑張りたまえよ、うん】
とは言えここから先を見られる訳にもいかないので、よみあげを切った。
流石にまだ監禁されたくは無いし、冒険を続けていたいから。
『スキル:ハーメルンの上の方にあるやつ』
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ウィンドウを表示させると、何時ものようにスキルを発動させる。
石材を綺麗に切り出すために、岩肌がむき出しになった山の斜面に───
『特殊タグ:下線』
岩山に、綺麗に切り出すための線を引いていく。
この線に沿って切り出せば、道に使う用としても使いやすいだろう。
『お気にいり呼び出し → ウォーターカッター』
『
「───
三小節の魔法を呼び出して、強化し───放った。
砂塵が舞い、石粉が舞い散っている。
水で切っているからかその量は少ないものの、万が一にでも吸い込んだり目に入ると事だ。
それ故に切り出した後は離れた場所で粉塵が落ち着くのを待つ。
その間に鞄から昨日徹夜で描いた魔法文字を取り出すと、コアになる魔法石と一緒に辺りの魔力を多く含む泥に埋め込む。これが一番きつかった、何せ文字の大きさや配置にまでも意味があるのだ。10枚描き直してようやく一つ目が完成した、それを三つも作ったのだから……それは夜も明けるというものだ。
「えっと、後は起動を……クレイドール相伝の魔法は流石に僕には難しすぎたから、一般的なゴーレムの……」
当たり前だが、クレイドール相伝のゴーレム製作は酷く難しかった。
それこそ数年単位で勉強しなければいけない程にだ、それも賢者の手ほどきありで。
「我が命に従い、起動せよ───マッドゴーレム」
唱えてから数刻、起動に失敗したかと焦った僕の前で───目の前の泥が隆起した。
それは球体から次第に手足を生やし、まるで不格好な人型のような形をとる。
石材で作ったゴーレムを一体、泥で出来たゴーレムを二体順調に起動させた僕は遠くからその作業を見守る事にした。
人に比べて大きなサイズのそれは、切り出した石材まで歩いていくと……その石材を命令通りに何処かへと運んだり、丁度いいサイズへと砕き始める。賢者に比べればあまり難しい事は命令できないものの「石を砕く」、「石を運ぶ」と言った簡単な命令なら動かせるらしい。
これで格段に街道の整備は楽になるだろう、今後も維持やメンテナンスの問題はあるが……
村に人を呼び込む、その第一段階は着々と進行していく。