街道の整備と家畜の購入、そして防衛費等々……お金を使う事ばかりが増えている。
そろそろ外貨の獲得手段を急いだ方が良いと思っていたのだけど、それも深刻になって来た。
だけど幸運な事に、その一助となるべき出来事は僕のあずかり知らぬところで起こっていた。
この村の独自の特産品は、既に意外な所にあったのだ。
その男性二人は、村の畑の近くで農家の方としきりに意見を交わしていた。
そんな彼は、農家が掘り出したばかりの農作物を口に含み……頷く。
「ここのサトウダイコンはやはり質が良い、しかも他の農作物も前に比べ……ふむ」
彼は炎の料理人フランベ、言わずと知れたこの国では有名な料理人である。
そしてその傍らに立つのも、界隈では名の知れた有名人。
「成程、貴方から話を伺った時はまさかとは思いましたが……此処までの糖度とは」
甘味づくりのプロフェッショナル「アマイノ」とは、彼の事である。
そんな彼らがこんな何もない村を訪れたのは、即ち『何か』があるからに他ならない。
それ即ち、サトウダイコンである。
僕が手を出す前から、何故か。
何故か品質の良かったそれの噂を何処かからか聞きつけて、買い付けに訪れる事があったらしい。
確かに数年前に人材ガチャをした時に見た、フランベさんの姿が見て取れる。
「何故この村の農作物だけ品質が高いのは不明ですが……良いですね」
「ふふっ、インスピレーションが沸き続けて止まりませんよ……これは」
「この村で精製された砂糖に合わせるなら───」
楽しそうに語り合う中年男性二人を横目に、僕はスキルを発動させ……問いかける。
『よみあげ』
それにしても……何でだと思います?
【……さぁ?】
こっちにはあまり干渉しないとか言ってませんでした?
【偶然とは、怖いものですよね……全く】
まあ、有難く使えるものは使わせてもらうべきだろう。こんな田舎の村に実際に料理人がわざわざ買い付けに来るくらいだ、しっかりとお金と精製工程を整備してブランド化すれば名産ともいえるものになるだろう。
サトウダイコンの次は、別の作物。そして家畜などに繋げていければいいが……
今は自給用の農作物がメインだ、今後はもっと大規模にする方法も考えなければならない。
だがそれだけで賄えるとは思っていない、故に今まで保留していたメインの策を。
今───打ち出す。
【ところで───】
「どうしたんです?」
【───アマイノはスイーツを作る予定がありそうですね】
「……わざわざ溜めてまで言う事が、それですか?」
なんともしまらない一幕になってしまった、本当に。
既に使っていなかった土地を借りて簡易拠点を作り、この村周りの植生や伝承を調べていたらしいクロッカス王国の錬金術ギルドの面々。そんな彼らにアポイントメントを取ると、驚くほど早く了承の意が告げられる。
そんな訳で後日、彼らの住む拠点を訪ねたのだが……
「嬉しいわぁ、わざわざ訪ねてくれるなんて思ってもおらんかったからな?」
「こちらとしても有難いんだけど、忙しかったんじゃないのか? ノマルの旦那」
「まあ、何とかそちらには一区切りつけてきました」
メディコさんと……見た目で判断するのは失礼だと分かっていても、どうしても警戒してしまうアンバーさん。本当に失礼なのだが、彼のような喋り方で薄目で人好きそうな笑みを作られると何故か警戒しなくてはいけない気がしてしまう。恐らくは小説の読み過ぎなんだろう。
「それで、どないしたん? 僕とお話ししたいだけっていうのも、全然大歓迎なんやけど」
「幾つかこの村で作りたいポーションがあって、専門家にアドバイスを頂ければと」
「えぇで、ただ商売とかはメディコちゃんとかの方が詳しいんちゃうかなぁ」
……意外だ、見るからに商売に精通していそうな人なのに。
「僕はまだ知らないものを、錬金術の可能性を追求したいだけなんや。そんなこんなで必死こいて研究しとったら、いつの間にかこんな立場にまでなってしもうたって訳や」
「そうなん……ですね……」
ここまで良い人だと、初対面の時に疑ってしまったのが申し訳なくなる。
なんか悪い様にはせえへんとか言われたから、儲かるから知りたいのかと勘繰ってしまっていた。
「それで、作りたい物って何なん? 新しいレシピやと、僕も嬉しいんやけど」
「あぁ、そうですね。本題に入ります」
ポーチの中から試作した紫色のポーションを取り出す。
どれがどれか分からなくなりそうなので瓶に色を付けただけで、初めからこんな色だった訳では無いけど。
「これが毒消しのポーションです」
「ほぉ、ええ所を責めるね。それで何の毒に効くん?」
「毒に効きます」
「だから何の毒に……ちょっと待ってな?」
お互いに顔を見合わせて、マジマジと瓶を見る2人。
暫くの沈黙の後、ようやくアンバーさんが口を開く。
「もしかして……そういう事なん?」
「そういう事です、毒に効くんです」
「あっちゃぁ、そんなもんこんな所で話すような事や無いわ。防音の魔道具使わせるから、そこで少し待っててな?」
何かしらの魔道具を起動した彼が、眉間に皺を寄せた顔をして帰ってくる。
大体、ツェツィに話した時と同じ反応だった。
「それで、その事はおうじ……ツェツィちゃんは知っとるん?」
「ツェツィにはもう相談してます」
「あっちゃあ、それは取り扱いに困るなぁほんまに……」
困った顔で瓶を見つめている彼らを横目に、もう一本の黄色いポーションを取り出す。
「それでこっちは、暗視のポーションで……」
「なんでもう次の話をしとるん?」
意図的に無視して、そのまま次のアイテムをポーチから取り出す。
「これが、乾燥の粉薬と虫避けの水薬です」
「ちょい、ちょい待って。置いてかへんで……」
「押し付けて、アンバーさん達にどうにかしてもらおうかなぁと……」
「……えぇ根性しとるやん、自分」
とりあえずは今日持ってきた商品になりそうなものは出し終わった、満足だ。
それとは別に幾つか冒険に使えそうなポーションを拵えたが、これを表に出すかどうかはツェツィ達と相談している。
「メディコさん的にはどう思います?」
「まあ外貨の獲得という面では、申し分無いと思うぜ? 問題は……申し分なさすぎる事だな?」
黄色のポーションをゆらゆらと揺らす彼女が、真剣そうな声で呟く。
「これ、あんまり安く……それも誰にでも流通させると危険すぎるぞ」
そう言って語り始めた彼女が、視線を僕の方に向ける。
表に出す危険性は、ある程度は皆と話はしている。
「例えば盗賊、夜目が効くなら奇襲するのも酷く簡単だろうな」
「流通の仕方はよく相談した方が良いとは、確かにそういう話になりました」
「一旦は冒険者と国、それも一定以上の等級の人間に絞った方が良いな」
確かにそういう話は出ていた、本当は毒消しとか各家庭において欲しいくらいなんだけど……現実はやはりそうも行かない、らしい。
「そこはおいおいだな、今ここで決め切れる話じゃねえ」
「ですね。それでお願いと言うのは、原料の薬草はこの村で育てる予定なんですが……」
「精製をできる人員、錬金術に詳しい奴があんまりいないって事か?」
「そうなります、ちょっと人手が足りなくて……」
当たり前だが、錬金術に詳しい人間なんて村に何人も居る訳がない。
今村に居るのは二人で、そちらもどちらかというと砂糖の精製とかそういう事に駆り出されることが多い。
「ノマル君さえよかったら、うちの支部を建てるって言うんはどうや?」
「えっ、良いんですか? 助かりますが……」
「ええのええの、むしろ一枚噛ませてくれた方がうちとしてはありがたいわ」
「またその場で決めやがって……回す人員の相談してからだろ、そういうのは」
メディコさんは研究中は本や器具が散らかってて、少し思い切りがいいというイメージのある人だったが……凄いしっかりしている。いや、アンバーさんが結構その……研究第一みたいなところがあるから、真面目にならざるを得ないのだろう。
「レシピは纏めてきました、後は……」
「値段や何本作るかやな? そこはおいおい、まずは扱いの簡単そうな乾燥の粉薬と虫避けの水薬から詰めていくといきましょか。でも個人的にはやけど、肝心のレシピが気になって仕方ないわ」
会議は順調に進み、追加の人員は早急に手配してくれるとの事だった。
これで資金問題は、時間が解決してくれるだろう。
非常に有意義な時間だった、とはいえそろそろ身体を動かさないと鈍ってしまいそうだ。
ある程度は代官さん達に任せて、冒険者としての本懐を果たしたい。
そして特産品の開発はこれでいったん終了で良いだろう、つまり……
『特産品を開発しようをクリアしました』
報酬:情報の取得 → 『女の子にもてたい貴方に贈る調理レシピ100選!』
……あの?
【……冗談ですよ? ただ、少しばかりこれを渡すべきかを迷っていまして】
報酬:物品の取得 → 『黒い本』
そう言って目の前に現れたのは、一冊の黒い本。
しかし、タイトルがあるべき場所は黒く塗りつぶされていて何も見えない。
【塗りつぶしたのですよ、意図的に。そうでもしなければ……いえ、なんでもありません】
これは……一体何なんですか?
【貴方の力になると、それだけは確かです】
真っ黒で名前のない本、自室の机の上に置かれたそれは……
何処か刺々しくも、物悲しい雰囲気を感じさせるものだった。