スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』   作:天野ミラ

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9.話し合いは平行線

 グレイ師匠が村を離れてから一月ほどの時間が経った。魔法とスキルの修行をする毎日だったが、その結果このよく分からないスキルについての理解も深まったと思う。

 

 例えば、その辺りに落ちている、()ですら()()するだけで……

 

「どうしたノルの坊主……って、そいつは魔鉄鋼じゃねぇか!? どこで拾ってきたんだ!?」

 

「そこの道に落ちてたんだよ、カジおじさん」

 

「そんなはずが……いや、鳥系の魔物が持ってくることだってあるか? なんにせよラッキーだったな、ノルの坊主。お前さんが旅に出る時はそいつで短剣でも打ってやるよ」

 

「ありがと、カジおじさん!」

 

 こんな風に、世界にとって強調するべき意味のあるモノだった事になる。これで僕も最強になれるのでは? と思ったがどうやらそういう訳にはいかないらしい。というのも、このスキルでは既に僕が認識した事象を書き換えることは出来ないみたいなのだ。

 

 僕にありふれた才能しかないのは、誰よりも僕が分かっている。僕に出来る事は、僕自身が理解できている。だから、僕自身を特別に強調する事が出来ない。

 

 

 掌の上で、先ほど拾った拳よりも大きい石を転がす。確かによく観察してみれば、普通の石よりも硬く力を感じる……気がする。専門家じゃないから詳しいことはわからないけど。

 

 この石は時間が経ったからといって普通の石に戻ったりはしない。つまり、僕のスキルで僕が認識したものは不可逆であり……バフなどとは違ってずっと続くという事。永続だからこそ、僕はあの事件以来……人の能力に対してこのスキルを使うのを恐れていた。

 

「どうしたのノル君、考え事?」

 

「シエナ!? いっ、いつから後ろにいたの? 全く気付かなかったよ」

 

 いつの間にか、後ろに立っていたシエナ。昔は引っ込み思案で、外に出る時はよく僕の後ろをついてきた彼女だが、最近は家の中に居ても僕の後ろにいることが多い。そして裏山の一件があってからというものの、近くで見られている事にすら気づけなくなってきていた。

 

「え~? いつからだと思う?」

 

「……石を拾った所からかな?」

 

「正解〜! さっすがノル君!」

 

 つまり最初からずっと見ていたらしい、話しかけられるまでそれに気づかなかった。というか見ていたのなら話しかけてくれればいいのに。

 

 シエナと一緒に裏山に行ったあの時、僕が彼女の『強さ』に対してスキルを使った事を少し後悔している。あの日、良かれと思って使った僕のスキルは彼女の人生を大きく歪めてしまうことになった。

 

「今日はもう剣の訓練はもういいの?」

 

「うん! そんなことよりノル君と一緒にいる方が楽しいもん!」

 

 屈託のない笑顔を向けてくれた彼女の気持ちは嬉しいが、やはり罪悪感が募る。彼女は強い。いや、強すぎた。

 

 あの時の僕が必死だったからか、最初のスキル発動だったからか……もしくは彼女自身の素質があったのか……理由は定かではないが、彼女は強くなり過ぎてしまった。それこそ競える相手がいないと漏らすほどに。

 

 それを決定付けたのは、この前起きたあの一件だ。今でも鮮明に……はショック過ぎて思い出せないけど、このスキルを使えば振り返ることは出来る。

 

「特殊タグ───『水平線』」

 ほら、なんとなく過去を語りたい気分になってきた───

 


 

 それは、シエナに『剣聖』のスキルが発現してから暫く経ったある日の事。

 

 朝起きると、村の村民達がとても騒がしかった。どうやら100年に一人の逸材というのは誇張表現でもなんでもないようで、国のお偉いさんと騎士団がこんな田舎にある村を訪れたようなのだ。

 

 間違いなく日常からかけ離れたイベント。僕は噂の騎士団を一目見ようと、村の入り口に一目散に駆け出していた。

 

 

 そこに泊まっていたのは、見たこともないほど大きな馬車。

 

「これはこれは、このような村にわざわざ……」

 

「いや、こちらとしても急に押し掛けてしまい申し訳ないですぞ」

 

 そして見るからな屈強な身体の銀髪の騎士。腰の弱い村長さんがあんなに腰を低くして対応しているのだ、相手は相当凄い人なんだろう。隣にいる情報通のオシエル君もビックリして腰を抜かしてるし。

 

「あっ、あのお方は……!」

 

「オシエル君……知ってるの?」

 

「あぁ、一度だけ王都に行ったときに見た事があるんだ。あれは王国最強の騎士……」

 

 

「申し遅れましたな、吾輩はクロッカス王国騎士団が団長───」

 

 自己紹介をしているだけだというのに、彼の存在感が場を満たすような錯覚を覚える。これが、物語における英雄に位置する人間……

 

「───オットー・マグヌスですぞ」

 

 2メートルを優に超える背丈と屈強な筋肉。そして上手く言葉には表せないが、僕とか村の名前に比べて凄く重要人物な名前な気がする。なんとなくだけど。

 

 

 

 オットーさんは村長さんと一緒に村長さんの家に行ってしまった。王国の騎士団長さんと話せるチャンスなんて滅多にないだろうし、話を聞いてみたかったが……ただの村人に過ぎない僕に彼と話せるような機会がある訳がなかった。

 

「それで、騎士団長さんってどんな人なの?」

 

「知らねえとか正気かよノル!? 今代の騎士団長と言えば、王国の盾なんて言われてる超有名人じゃねえか!」

 

「なっ、名前は勿論聞いたことあるよ? でも詳しい話は知らなくてさ」

 

 そもそもこの田舎では情報なんて会話でしか入ってこないし、そもそも僕はそんなに友達が多い方ではなかった。まあシエナほどじゃないけど。

 

「仕方ねえから教えてやるよ。オットー・マグヌスと言えば『上級騎士』の更に上である『聖騎士』のスキルを授かった凄い人なんだぜ!?」

 

 僕が無知なのは否定はしないが、オシエル君は少し詳しすぎる気がする。もしかして彼のファンなのだろうか。

 

「あの人の振るう剣は、王国の盾と称されるだけあってすっげぇ堅実なんだってよ! 噂では『剣聖』とも立ち会った事があるらしいぜ!? 一度でも見てみてぇよなぁ……!」

 

 雲の上の話すぎて、僕にはしっくり来ない話だ。だけど、彼の剣術を見てみたいというオシエル君の願いは……思わぬ形で実現する事となった。

 

 

 

 家に帰って、いつものようにお気に入りの本を読む。裕福ではないうちが、本をいくつか持っているのは……僕が駄々をこねたからに他ならない。

 

 代わりに一時期は父さんの晩酌の頻度が減った、本当にごめんなさい。

 

「ノル君、何読んでるの~?」

 

「勇者ホワイトの英雄譚だよ、シエナも読む?」

 

「……また? 本当にノル君はそういうのが好きだよね~」

 

 英雄譚は好きだ。本の中の英雄は、いつだってカッコいい。剣を振れば光の奔流が敵を一掃し、魔法を唱えれば山が吹き飛ぶ。

 

 凡人の僕には決して届かないであろう、“特別”がそこにはあった。

 

「そろそろご飯の時間だから、私はノル君のママのお手伝いしてくるね?」

 

「うん、僕も手伝うよ」

 

 シエナは家が隣なのもあるが、寝る時等以外はこの家にいることが多い。それは、単純に僕に会いに来たのもあるだろうが……シエナの両親が既に帰らぬ人となっていて彼女が家に一人で住んでいるからだろう。

 

 父さんからは、優秀な冒険者の夫婦だったとは聞いているがそれ以上の事は聞いていなかった。当人以外がずかずかと踏み入るべきでもないだろうと思って。

 

 食事の用意の為に部屋を出ると、玄関がノックされた音がした。来客だろうか、うちに来客なんて随分珍しいなんて思っていたが……思わず腰を抜かしそうになる。

 

「ここだろうか、『剣聖』のスキルを授かったシエナ・ティソーナ殿がいるというのは」

 

 家の前にいたのは、あのオットー・マグヌス───その人だったのだから。

 

 

 

 あの騎士団長が僕の家にいる。座っているだけなのに物凄い存在感を放つ彼に、まるで絵本の中から飛び出てきたような錯覚すら覚える。

 

「吾輩がこの村に来たのは理由があってだな。ううむ、回りくどいやり方はあまり得意ではないのだ、故に単刀直入に言わせてもらおう」

「剣聖殿には剣術の鍛錬のために王都に来ていただきたいのだ」

 

「……それはノル君やノル君のパパとママも一緒?」

 

「彼らにも彼らの生活がある故、離れる事にはなるであろうが……1年に1度は帰ってこられるよう手配する事を約束しよう」

 

「1年に1度だけ……? じゃあ……ヤダ!」

 

「ならば半年に1度……」

 

「3……」

 

 そう言って指を3本立てたシエナ、なんだか猛烈に嫌な予感がする。

 

「3ヵ月に一度か、厳しいがそれなら───」

 

「3日に一回は会えないとヤダ!」

 

「───なんと?」

 

 オットーさんが驚くのも無理は無いだろう。何故なら、この村から王都までは……7日程かかるのだから。それはつまり、シエナが王都に行くつもりは無い事を意味していた。

 

「そういう訳にはいきませぬぞ、『剣聖』は百年に一度の才能である。腐らせるのはこの国……ひいては世界の損失になりますぞ」

 

「でも……ノル君が居ないなら意味がないよ?」

 

「困ったのである……少年からも説得してくれないだろうか」

 

 困ったようにこちらを見るオットーさん、騎士団長としての権力を笠にして連れていく事も無理ではないはずなのに……説得を試みてくれているのは彼の人柄か打算かは分からなかったけど。

 

「シエナ、こんな機会は滅多にない事だと思うよ。それにしっかりとした剣術を学べることはシエナの為にもなると思うんだ。だから、ゆっくり考えて決めてほしいな」

 

「えっ……でも……」

 

 梯子を外されたような表情で僕を見たシエナに罪悪感が募る。確かに、シエナと離れるのは……とても寂しい。だけど、一時の感情を優先して今後の人生を棒に振るような真似はしてほしくなかった。だから、ゆっくりと考えてから決めてほしいと思っていたのだが。

 

「もし拒否を続けるのであれば……“王命”という形を取る事になるかもしれぬ。平時なら当人の自由にさせる事も出来たやも知れぬが、事態は一刻を争うのだ」

 

 スキルは天からの贈り物だと言われている。だからこそ、天からの与えられたものを理由に誰かの行動を縛るなんて事は……よっぽどの事が無いとされない筈だ。

 

「なんで王家がそこまで強引に? 物語みたいに魔王が復活する訳でもないでしょうし……」

 

「……吾輩の口からは何も言えぬ」

 

 オットーさんは僕の口から出た世迷言を……否定しなかった。真偽はともあれ、もし王の命令と言う形が取られれば……一介の村人でしかない僕たちに断ることは勿論出来ない。

 

「……あなたと王国は、私とノル君が一緒にいるのを邪魔しようとしてるの?」

 

 後ろから聞こえた、聞きなれたはずの彼女の声。

 

 それは僕に対して向けられた言葉でも無いのに、そのあまりの冷たさに思わず背筋がゾクリと震えた。底冷えのするような声色のシエナの声は、普段の彼女からは想像もつかない程に冷たくて。まるで別人のようだった。

 

「そうしたい訳ではないが、そうなる可能性は大いにあるという事である。騎士団としての仕事もある以上、吾輩がこの村に頻繁に通う訳にもいかぬのでな。王命を拒否する事がどういうことか分からん訳でも無かろう?」

 

 それに対して、威圧をかけるかのように告げたオットーさん。彼は王国を守護する騎士団の団長だ。当然、国を守る為なら非情に徹する事も辞さないだろう。

 

「教わる事が無ければいいんだよね?」

 

「確かに、吾輩が教える事が何もなければ王国に来てもらう必要は無いが……」

 

「つまり──────私があなたより強ければ問題ないってことだよね?」

 

「ちょ、ちょっとシエナ!? オットーさんに失礼じゃ……!」

 

 齢12の子供が、王国の騎士団長である彼より強いと宣うのだ。無礼だと切り捨てられてもおかしくは無かった。それでも、それに対して彼は表情を変えずに長い髭を撫でながら答えた。

 

 

「……成程、受けて立とうではないか」




過去回想は水平線

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  • 主人公が無双無双してる方が良い
  • 紆余曲折と苦難を乗り越えてほしい
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