90.これからの話と
ソノヘンの村……いや、街を出てから馬車で移動する事暫く。
見覚えのある城壁が目に入る、王都へと遂に帰って来たのだ。
「いやぁ、帰って来た……って言うとちょっと違うかな?」
「私達のメイン拠点ではあるけど、此処を外すことも多かったからね……」
クロッカス王国の首都、ウィスタリアへと戻って来た僕達は冒険者ギルドに顔を出した。
そこで受付を行い、昼食をとるために併設の酒場の席へと腰掛ける。
「それじゃあ、サンドイッチとエールを一つ。それから焼いた……」
「私もサンドイッチ!」
数日振りの街での食事だが、ホームで飲食ができるのであまり感動感は生じなかった。それにしても、しっかりとアルコールを頼んでいる。まあ別に構わないけど、まだお昼なのに……
ツェツィはやはり一度王都へ戻って来たという事で王城に向かうらしい、やはり一国の王女であるのだが……普段の言動からどうにも忘れてしまいそうになる。普段から随分と親しみやすいから。
「お待たせしました、こちらが……」
料理がテーブルに届く、何処となく視線を集めている気がするのは、僕達も冒険者として有名になって来たという事なのだろう。断じて昼間から酒を飲むグレイエル・スノウリリィが面白がられている訳ではないだろう……そういう事にしたい。
「そういえばノル君、シエナちゃん。今使ってる装備、手に入れたのは何時か憶えてるかい?」
「僕のですか? それは、えっと……」
「私のはね~」
こういう時は、最近使ってなかったあれを使っておこう。
『スキル:マイページ』
【名前】ノマル・フトゥー
【年齢】16
【スキル】
【HP】394/394
【MP】880/880
【SP】354/354
【力】420
【防御】300
【魔力】620
【素早さ】312
▲装備
・魔鉄鋼の短剣 氷属性魔法の攻撃力/消費魔力低減15%(装備効果)
・灰色銀の杖 魔法威力+25%魔力操作補助15%
・スライムの首飾り 食事による魔力回復量を強化する
・精錬鉄の胸当て 保護箇所のダメージ低減
・精錬鉄の肘当て 保護箇所のダメージ低減
・上級魔道士のローブ 保護箇所のダメージ低減/魔力回復量+10%
▼使用可能魔法38種
▲備考
・剣術の心得 上級剣士相当
・魔力操作 上級魔法使い相当
・イベント誘引(旅が
マイページを開けば、現状装備しているものが一覧として表示される。
ステータスはこう見ると、かなり伸びてきた。
特に最近は剣士関連の伸びが凄まじい、黒い本での訓練やスキルで得た剣士としての心得が大きく響いているのだろう、何故か開拓をしていたのに全体的なスキルアップに繋がってしまった。とは言え今確認したいのは、あくまで装備の話だ。
「グレイさんに杖を送ってもらったのが……4年前ですかね? 短剣は村を出た時にカジおじさんが作ってくれたモノで……防具は何回か変えましたっけ」
「うんうん、つまり……そう言う訳だ」
グレイさんはそう言って頷いてから、焼いたソーセージを口に運ぶ。
彼女が言いたいのは、そういう事なのだろう。確かにシエナの剣や、ダンジョンでドロップした首飾りなどの更新は合ったものの……装備の更新が滞ってしまっている。
「でも、グレイさんの送ってくれた杖だし……」
「いやぁ、そんなに大切に使ってくれるのは私としても嬉しいよ? 嬉しいんだけどさ、流石にここから先の旅路には少し力不足かなと思う訳だよ。時間があったから修めてただけで、私は別に杖づくりのプロって訳じゃないし」
この杖は特に思い入れが強い、師匠が僕の卒業祝いに送ってくれたモノだからだ。
質が良いのもそうだし、何より思い入れのある品だからずっと使い続けていきたかった。
「基本は壊れるかガタが来るまで使って、最低限の更新は出来てるけど……防具はS級どころか、他のA級の装備にも見劣りするだろうね。特に前衛の防具は最重要だ、その軽快さを活かすためには軽装の方が好ましいとは言え……ね」
「まあ、全部避けれる訳じゃ無いからね……でももっと私が強くなれば……!」
「あぁ、まあ……うん……念には念を入れた方が良いよ?」
冒険者たるもの、こだわりは重要だ。だけどそのこだわりで……自身の身だけならまだしも、パーティメンバーを危険にさらすかもしれないと来れば話は別だ。
思い返すのは、『賢者』アメティスタ・クレイドールとの一戦。
僕の渾身のウインドブラストは、竜の皮に刻み込まれた魔法式による守りによって防がれた。
これからもギリギリの接戦で、装備が勝敗を分ける事なんて想像に難くない。
「そう……ですね、分かりました……」
「そっ、そんな捨てられた子犬みたいな顔をしないでくれよ!? 別に捨てろって言ってるわけじゃないんだ、折角『ホーム』があるんだし予備に持っておけばいい」
「そうですね、僕の部屋に大切に飾っておきます」
「飾っ……!? いや、そんなに大切に思って貰えてるのは嬉しいけどさ……ううん、なんでもない」
何処かバツが悪そうに居住まいを正したグレイさんは、コホンと一つ咳払いをして続ける。
彼女が長年の冒険者としての知恵を、教えてくれるという事だろう。
「装備更新は幾つか方法がある。一番ポピュラーなのが武器屋・防具屋に行く事だ。他にもオークション、ダンジョンでのドロップを狙うなんてのもあるね」
「この剣は、宝物庫でもらったよ?」
「国の宝物庫から……あれは外れ値だ、普通はある事じゃないよ」
それこそ王都への襲撃を企てた12魔将を討伐でもしない限りは、そうそうあんな事は無いだろう。
あんまりにも融通を利かせられ過ぎると、それはそれで問題が発生するから。
「必然的に質の良い装備が集まりやすいのは、魔族と人間の前線の方向……グリーンウッドと丁度真反対の、北方向。ドワーフたちの住むクリムゾンモルテンの方に向かうのが良いんじゃないかな」
「温泉のある、山の方にある国だっけ?」
ここから北の方にある山脈にある、ドワーフの住む国……クリムゾンモルテン。モノ作りに長けた彼らは、鍛冶だけでなく様々な技術に精通している。確かにそこなら良い装備があるかもしれない。
前線に近ければ近い程、供給が増えるという側面もあるが……強い魔物が多くなるという側面もある。特に強い魔物は、それだけ固く鋭い爪や皮を持っている。賢者の付けていた服なんかがそうだ。強い魔物の素材は、それだけ優秀な装備になりやすい。
「後は一般的じゃないが……君のスキルならダンジョンで運任せと言うのも、意外と現実的な選択肢になるのかもしれないね。その……傍点、だったっけ」
「前よりもずっと強くなったからねぇ、最深部まで行けちゃうかも?」
この街のダンジョンを攻めるというのもありだ、僕達は他の冒険者に比べてミービーちゃんと言うアドバンテージがある。それにスキルで人より少しばかり、宝箱が狙いやすいという利点がある。
「どんな手法を選ぶにしろ、S級冒険者になりたいというのなら今の装備のままと言う訳にはいかないだろう。それだけは、憶えておいてくれよ?」
「分かりました、師匠!」
「また師匠って言ったなぁ、このぉ……」
一杯目なのに酔っぱらっているかのような表情の彼女に脇腹を突かれる、まあ僕はもっと人のことを言えないのだが。酔った時のことは……正直もう思い出したくもない。だけど流石にあのままと言うのはあれなので、あれから定期的にアルコールは摂取している。そのお陰か一口や二口では、別に酔わなくなったのだ。
それからエールをぐいっと飲み干した彼女は、上機嫌そうに二杯目のエールを注文して……少し表情を戻して僕達に向き直る。
「まあ全部をすぐにって言うのは難しいだろうけどね。憶えておいて欲しいのは、装備更新が必要って事」
「はーい!」
「そうですね、分かりました」
酒場で時間を潰すこと暫く、酔っぱらったグレイさんを介抱してその日は終わりを告げた。
明日以降、どうするかは……今の所、決めていない。