ln   作:kiarina

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[ NumberingTitle_未来提示ノ人種_葛藤ノ結論_銀ノ福音 ]

 

 ― 7 ―

 

 

 なんだ、これ?

 散々な目に合った次の日、俺は意味不明の物体を前にして考え込んでいた。

 遡ること、一夏と朝飯を食って渡り廊下を歩いている。そこで、篠ノ之が訝しげになにかを観察していた。

 一夏が訊ねるが、「私は、知らん」と言って先に行ってしまう。二人して見てみれば、地面に変な機械の物体が刺さっている。木の看板がそのまた後ろに刺さっていて、『引っ張って下さい』と書いてあった。

 そして、現在に至る。

「一夏、これって旅館の新しい客寄せかなにかか?」

「いや、ちょっと違うと思う。心当たりは……、なんとなくある」

 なんだよ、歯切れ悪ぃな。

「あら、お二人とも。どうなされたのです?」

「セシリア。これさ、なんだと思う?」

 朝食を食べ終えてきたらしいセシリア言われて、俺は鸚鵡返しのように聞き返した。

「ええっと、耳……でしょうか?」

「耳だな。抜いてみるか」

 彼女に返答した一夏がさっくりと、そのへんちくりんな物体を引き抜く。下は細い棒以外はなにもなく、刺さっていた物は二つ分だった。

「なんにもなさそうだな」

 面白い出し物を期待したが、結局は何も出てこなかった。

 キィィィイイインッ!!

 なんだ、あのふざけた物体は!?

 突然の風をつんざく高音に、思わず頭上を見上げる。すると、オレンジ色に塗装された物体が、一直線にこっちへと落ちてくるのがわかった。

 驚いて固まっていると、物体は地面に突き刺さり、ものすごい砂煙を吹き上げていく。やがて視界がはっきりしてくると、人参を模したような機械の外装が現れた。

「おい、一夏。この、ふざけた人参みたいな塊はなんだ?」

「多分、束さんだ……」

 束? ……まさかな、こんなのは違うだろ。

 俺が呆れながら一夏に聞くと、奴は知っているらしい人名を挙げる。言われた名前が頭の中でわずかに引っかかった。

 だが、目の前の物体は余りにも馬鹿らしいフォルムをしてた為に、俺は考えるのを辞める。

「きゃっ!」

 セシリアの驚いた声が聞こえた。

 飛来したオブジェクトが縦にパックリ割れて蒸気を吐き出し続けていく。やがて人型の大きさが、中からぴょんっと飛び出してきた。

 「あっはっはっ! 引っかかったね、いっくん?」

 一夏の奴、なんか戸惑ってんな。

 どこの国の衣装かわからないような姿で現れた女が、嬉しそうに笑って一夏に喋りかける。本人は困惑していたが、それでも相手はノリノリらしい。一方的にマシンガントークのような会話が続く。

「やー、前にほら、ミサイルで飛んでたら、危うくどこかの偵察機に撃墜されそうになったからね。私は学習する生き物なんだよ、ぶいぶいっ!」

 いや、変な生き物の間違いだろ……。

 しっかし、やけにテンション高いな。

 視線を変な生き物から一夏へと移してみれば、俺と同じように呆れている。

「お、お久しぶりです、束さん」

「うんうん。おひさだね。本当に久しいねー。ところでいっくん。箒ちゃんはどこかな? さっきまで一緒だったよね? トイレ?」

「えーと……」

 一夏が回答に困りだした。

 しょうがなく、俺が代わりに喋りかけることにする。

「なあ、あんた。篠ノ乃なら、朝食を食べ終えて部屋に戻ったみたいだけど」

 すると、今まで一夏と話していた奴が顔をグリンッと、こちらに向けてきた。

「私は今いっくんと話してるんだけど? 誰だよ君? でもまー、箒ちゃんのことを教えてくれたから許してあげるよっ! じゃあね、いっくんまた後でね~!」

 はぁ? なめてんのか、こいつ? 

 俺がイラついている間に、そいつは勝手に走り去って行った。

「おい、一夏。あのふざけた態度をとった、頭がスポンジみたいな女は一体なんなんだ?」

「喜久さん、それは言いすぎです。言葉はもう少し選ぶべきです」

 セシリアに言葉を窘められたが、そんなの知ったこっちゃない。一夏は頬を掻きながら、俺の方を向いて申し訳なさそうにする。

「あの人は、あれが普通なんだよ。だから怒らないであげてくれ、喜久。あの人は箒の姉さんだ。篠ノ乃 束さんだよ」

「え……? ええええっ!? い、今の方が、あの篠ノ乃博士ですか!? 現在、行方不明で各国が探しつつけている、あの!?」

「そう、その篠ノ乃 束さん。おい、喜久どうした?」

 あれが……、ISの開発者。あんなのが母さんの尊敬してた、可能性の開拓者だと?

 俺のような、この世に存在しちゃいけないものを創り出した全ての元凶で。あんな、ふざけた奴が――――――――――俺を苦悩と地獄の人生へ突き落としたのか?

 ダンッ!!

 気づくと、力いっぱいその場で片足を踏み込んでいたことに気づいた。

「喜久さん、どうされたんです!?」

「どうした、喜久!?」

 くく、ははは……。

 そうか、俺はあんなのに、狂った人生を歩かされたのか。

 こんなんじゃ俺もアイリアもナイザも、あの中東で俺が殺した全員も、本当になんのために、この世に生まれてきたんだ?

 こんなんで……、自殺した母さんは報われるのか?

「なぁ、セシリア、一夏。俺は今さ、どんな顔してる? 教えてくれないか?」

「えっと……」

 セシリアの戸惑った声が聞こえた。

 次いで一夏が答てくる。

「笑ってるよ。お前、大丈夫か?」

 ……そうか、笑ってるのか。俺は、そんな顔をしてんのか。

「ああ、大丈夫だ。悪いな、俺は少し気分が悪くなった。時間まで部屋で休むわ」

 感触が走る。二人に背を向けて歩き出した瞬間、手を何かに掴まれた。

 後ろを振り返れば、セシリアが俺の手を咄嗟に掴んでいるのがわかった。

「本当に、大丈夫なのですか? 私には喜久さんの顔が、とてもお怒りになっている様に見えました」

「ああ。セシリア、大丈夫だよ。大丈夫だから」

 虚偽の笑顔を浮かべて、ゆっくりとセシリアの手をどける。

「装備の試験運用までまだ時間があるだろ? 疲れたから、ちょっと休ませてくれよ」

 軽く手振りをして、自分の部屋へ向かって歩き出す。

「……母さんからの遺言めいたのが無けりゃ、今すぐにでもあの元凶の首を掻き切ってやれたのにな。本当に、もったいねぇったらねえよ」

「ん? なんか言ったか、喜久」

 ――ああ、そうか。独り言が聞こえちまったか。

 一夏に後ろから声をかけられた。

「いんや、なんでもない。それじゃ、また後でな一夏、セシリア」

 今度こそ、そのまままっすぐ部屋へ向かって歩き出した。

 

 

     ◇

 

 

 運用試験の集合時間。俺は遅れてしまい、織斑姉の前に立たされている。自分の他には、専用機持ちのメンバーだけが集められていた。

「ようやく全員集まったか。――おい、遅刻者」

「はい」

「は、はいっ!」

 俺とボーデヴィッヒが、織斑姉に鋭い目付きで見据えられる。

「二名が遅刻か。ラウラ、ISのコア・ネットワークについて説明してみろ?」

「は、はい。ISのコアは――

 ボーデヴィッヒが織斑姉に言われて、細かく説明をし始める。一通り喋り終えると、織斑姉が遅刻を許してボーデヴィッヒは胸を撫で下ろしていた。

 

「次に市隈。お前は、どうして遅刻した?」

「部屋で吐いていて、遅刻しました。山田先生も見ていたので、詳細は山田先生に聞いて下さいよ」

 織斑姉が考えるような仕草を取る。

「そうか。体調管理は大事なことだ、浮かれるのはわかるが自己管理は怠るな。市隈、お前は後ろで休んでいろ」

「はい」

 後ろへ下がるために後ろを向く。先ほど部屋へ戻ると、過去の記憶がフラッシュバックしていまい、少し飯を吐いて戻していた。

「喜久さん、大丈夫ですか?」

「喜久、大丈夫? 朝の食事を取っていた時までは、普通に見えたけど」

「ああ、先生の言ってた通りだから。それだけだよ」

 セシリアとシャルロットに言われて、適当に答えながら後ろへと歩いていく。織斑姉は俺が適当に腰掛けて見学しているのを確認すると、試験運用についての話を始める。

「よし、専用機持ちは全員揃ったな」

「ちょっと待って下さい。箒は、専用機を持ってないでしょう?」

「それは……」

 凰が織斑姉に意見をする。案の定、篠ノ乃は戸惑った声を上げた。

 確かに篠ノ乃は専用機を持ってないな。

 なんだ、なんかあるのか?

「私から説明しよう。実はだな―――

「ちーぃ、ちゃ~~~~~~んっ!!」

 朝から俺を最悪の気分にさせた元凶が声を上げながら、ものすごい勢いで織斑姉に抱きつこうとする。織斑姉を見れば、いかにもうっとおしそうな顔をしていた。

「……束」

「やあやあっ! 会いたかったよ、ちーちゃんっ! さあ、ハグハグしようっ! 愛を確かめ――ぶへっ!?」

「うるさいぞ、束」

織斑姉は飛んで来た奴の頭を片手でキャッチすると、そのままアイアンクローをし始める。しかし、奴は全くめげる様子がない。

「ぐ、ぬぬぬ……相変わらず、容赦のないアイアンクローだねっ!?」

 笑ってやがるが、あいつはマゾなのか?

 観察していると、奴が織斑姉のアイアンクローをするりと抜け出して、今度は篠ノ乃の方へ行き始めた。

「やあっ!」

「……どうも」

「えへへ、久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりかなぁ。おっきくなったね、箒ちゃん。特におっぱいが」

 なかなか過激な姉妹だな、平気で引っ叩いてやがるよ。

 奴が下ネタを言った瞬間に、篠ノ乃が持っていた日本刀の鞘で奴の顔を殴り飛ばす。漫才みたいな光景を眺めていると、織斑姉が呆れきった表情のままに動きだした。

「おい束、自己紹介くらいしろ」

「え~、めんどくさいなー。私が天才の束さんだよっ! ハロー、終わりっ♪」

『えぇっ!?』

 奴が自己紹介した瞬間、凰とボーデヴィッヒ、シャルロットが驚きの声を上げる。すると、ボーデヴィッヒとシャルロットが遠巻きに俺の方を見て来た。

 あいつらは俺の素性を知っているからな。二人とも、こっちのことは気にしなくて良いんだよ。

 俺は意思を伝えるために、軽く笑って片手をぶらつかせる。ボーデヴィッヒは直ぐに見るのを止めたが、シャルロットはまだ心配そうにこちらを向いていた。

「それで、頼んでいたものは……?」

「うっふっふん。それはすでに準備済みだよ。さあ、大空をご覧あれっ!」

 篠ノ乃がためらいがちに聞き、奴は嬉しそうに上空を指差す。すると、どこからともなく飛来した物体が、こっちに向かって一直線に落ちてきた。

 最終的に一夏の目の前辺りに、銀色をした菱形の物体が不時着する。ISの技術応用なのかわからないが、物理の法則を捻じ曲げた急停止の末、それは宙に浮いていた。

 次いで、奴がリモコンみたいのを操作すると物体が粒子化して中身が現れる。そこには、赤い外装の見たこともないタイプのISが鎮座していた。奴は嬉しそうに話を始める。そう、まるで新しい玩具を弄るようにして。

「じゃじゃーんっ! これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿』っ! 全スペックが現行ISを上回る、束さんお手製だよー」

 現行ISを上回るね。まあ、開拓者ってのはいつも人の何歩も先を行くってことか。

「なんたって、『紅椿』は天才束さんが造った第四世代型ISなんだからね~」

 奴がそういった瞬間、周囲がざわつき始めた。

 そらそうだろうな、今やっているのは第三世代型の試験運用だ。こんな、まだ机上の空論でしかないもが目の前にあったら、驚く以外の反応は無い。他の国からすれば、喉から手が出るほど欲しい存在だろう。

「さあ、箒ちゃん。今からフィッティングとパーソナライズを始めようか!? 私が補佐するからすぐに終わるよんっ♪」

「……それでは、頼みます」

 奴と、ぎこちない篠ノ乃の会話で作業が進んでいく。織斑姉が促して篠ノ乃を乗り込ませると、今度はコンソールを呼び出してものすごい勢いでデータを打ち込み始めた。

 打ち込み作業が終わると、奴が篠ノ乃を促して上空に上がるように指示する。すると砂埃を巻き上げながら、数秒も立たないうちに篠ノ乃の機体は豆粒みたいに小さくなった。

 ――速いな。本気で速度を出して瞬時加速《イグニッション・ブースト》をかけようものなら、一体どれだけの瞬間時速を叩きだせんだ?

 動きの指示を出して、向こうが武装を展開したらしい。今度はレーザー光のようなものが雲を貫く。続いて展開された軍用ミサイルが、数十発以上連続で発射される。紅椿は、それも難なく撃ち落とした。

「た、大変ですっ! 織斑先生ーっ!」

 俺は飛んでる紅椿から、声のした方へと顔を動かす。すると、いつもより慌てた様子の山田先生がやってきていた。

 

 

 ― 8 ―

 

 

「では、現状を説明する」

 織斑姉が、緊張した面持ちで説明を始める。旅館の広間を借りた一角で、その会議は行われていた。

 部屋は締め切られて薄暗い。俺の前にある空中投影型のディスプレイには、機密情報の塊が表示されている。

「ニ時間前、ハワイ沖で実験稼動中にあったアメリカとイスラエルの共同開発、第三世代型軍用IS『銀の福音』が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった。これ以後、福音と呼称する。情報によれば、無人のISとのことだ」

 ……は?

 俺は、織斑姉が一体何を言っているのか理解できなかった。

 アメリカ、軍用IS、暴走。言われたことに対して、脳の処理が追いついくと同時くらいに織斑姉が説明を続ける。

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過することがわかった。時間にして五〇分後。学園上層部からの通達により、我々が事態に対処することになった。教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちにしてもらう」

 最高だ。俺は思わず、まだ表には出ていないだろう機密情報に歓喜していた。

 朝から最悪の気分にさせられたが、こんな良いことがあるのなら今までのことを全部帳消しにしても良い。あのアメリカ軍の幹部首脳の連中にISの暴走で大きい打撃を与えられるなら、それはかなりのダメージになる。

 体裁的にまずくなるし、重要なプロジェクトもいくつか凍結になるだろう。下手すりゃ、俺を捕まえたがってるあのクソ野朗の大佐も左遷されて、命令を下されてるニコルもいなくなる可能性が高い。暴走させたどっかの馬鹿は間抜けだが、俺は大いに感謝して頭を下げてやる。今回のことで被害が出て死人報告なんて聞きたくもないけどな。

 だが、ただ暴走して他国を空域侵犯で引っ掻き回し続けてくれるだけで充分だ。そんなことをすれば、直ぐに国際問題へ発展するだろうことが予想できた。

 思考している間に、作戦会議はどんどん進行していく。

「織斑、これは訓練ではない。実践だ。もし覚悟が無いなら、無理強いはしない」

「やります。俺がやってみせます」

 織斑姉に覚悟を聴かれ、一夏が意気込みの言葉を紡ぐ。続いて織斑姉が俺の方を向いた。

「市隈。お前は、なぜ笑っている?」

 ――ん? ああ、顔に出てたのか。まあいいさ、そんなの些細なことだ。

 俺は訝しげに見ている織斑姉に、立ち上がって答える。

「すいません、不謹慎でした」

 素直に自分の非を認めて謝った。

 そして、そのまま言葉を続ける。

「織斑先生。さっき、一夏に辞退することは自由だと言ってましたよね?」

「そうだが?」

 周りを見渡す。部屋にいた全ての人間が、俺の奇怪な行動に注目していた。

 その中で、シャルロットは目を瞼で半分伏せていく。ボーデヴィッヒは真っ直ぐに、こちらをじっと観察している。俺が笑った理由を彼女達だけは知っていた。

「先生、悪いけどさ。俺は、辞退させてもらいますよ?」

 殆どの人間が俺の発言に驚いている。

 は、そんなの知ったことかよ。俺には好都合でしょうがないんだ。だったら、こんなところにいる意味なんてねぇからな。早いとこ退室させてもらうさ。

 せっかく転がり込んできた良い流れなのだ。俺は、そのまま傍観を決め込むことにした。

 

 

     ◇

 

 

 俺は現在自室の部屋で本を読んでいる。作戦終了までは、情報漏洩防止手段として待機命令が出ていた。

 外には監視として教員が一名ほど待機している。作戦が開始されてから、何時間たったのだろうか。本を開いたままで一眠りして惰眠を貪っていた時、不意に廊下側のドアからノック音が聞こえてきた。

「失礼いたします」

「喜久、お邪魔するね?」

 セシリアとシャルロットが部屋に入ってきたのを見て、読んでいた本を一旦閉じる。セシリアが辛そうにして、口を開いた。

「一夏さんが怪我を負って倒れました」

 作戦が失敗したのか。

 ち、一夏の馬鹿が。なにつまんない怪我してんだよ。暴走ISなんて、ほっときゃいいものを。

 次いで、シャルロットが口を開く。

「喜久、お願いがあるんだ。僕たちは――

「嫌だね。どうせ、リベンジに行くんだろ? それに、それはちゃんとした正規の作戦なのか?」

 やっぱりな、私怨で動いてるのか。

 シャルロットの言葉を俺が潰して喋る。二人が、なにかが喉に詰まったような表情をしだす。一瞬怯んだセシリアが、再び言葉を発し始めた。

「それでも、私たちは行くつもりです。たとえ後で、どのような罰を受けようとも」

「僕とセシリアは、喜久を説得しに来たんだ。僕は、喜久にも一緒に戦って欲しい」

 続いて、呼応したようにシャルロットも口を開く。それに俺は笑いながら答えてやる。

「シャルロットは知ってるよな、俺の過去のこと。セシリアには、まだだけどな。セシリア、丁度良いや。少しだけ教えてやるよ、種明かしだ。俺が昔いたところの正式名称はな、アメリカ陸軍所属第二特殊専行IS中隊、通称ISジェノサイド部隊だ。この部隊の主な任務は、アメリカ軍が有利にことを運ぶために邪魔なものを排除すること。要はテロ組織、ゲリラ組織、反政府組織の一掃が目的なんだよ。どうだ、アラスカ条約なんて役に立たないだろ?」

 持っていた本でトントンと、畳を軽く叩き続ける。

 素性がばれる?

 面白いじゃないか、相手が欲してる情報は開示してやらなきゃな。否が応でも、現実を突きつけてやるよ。

「俺が殺した人数は、最初の三〇人くらいしか覚えてない。その後は何人殺したのか、もうわからないんだ。当時のガキの俺には、人を殺すことが罪だなんてわからなかった。そういう教育をされてたからな。そんな奴が、少しくらいまともな思考になったらさ。もちろん、それを作り出した奴らを憎むだろ? だから俺は、今回の件には傍観させてもらう。アメリカが落ち度を世界にさらけ出してくれるなら、願ったり適ったりなんだよ」

 喋り終えると、一気に部屋を沈黙が包み込む。しばらくすると、セシリアとシャルロットが同時に俺を見てくる。これだけの黒い部分を語っても、二人は真っ直ぐ綺麗な瞳でこちらを射抜く。

 俺には、それが覚悟の出来ている人間の目に感じた。

「喜久、僕は前に言ったよね。一人が辛いなら、一緒にいてあげるって。喜久が今までどれだけの目に合っているのかは、僕には想像が付かない。でも、前を見るべきだって僕に教えてくれたのは喜久だよ」

「だから?」

「喜久は、基本的に人が傷付くことを嫌っている。そのことを僕は知ってる。この作戦で、一夏が既に大怪我をした。今後、もしかしたら被害の人数がもっと増えるかもしれない。僕は喜久が、それが許せない人なのを知ってる」

 シャルロットが喋り終えると、今度はセシリアが喋りだす。

「私は、喜久さんの過去を今回と合わせて二度お聞きしました。ですが、私の知っている喜久さんは今の喜久さんなのですっ! 私は、だからこそ戦って欲しいのですっ! 今は傍観している時ではありません、少しでも罪を悔やむのでしたらっ!! 喜久さんにとっては、それを償えるチャンスでしかない筈です!?」

 ……嫌な目だね。希望に満ち溢れてる目だ。

 二人の目を交互に見る。

 ――ち、一回だけだからな。一回だけ、俺の過去に触れて怯まなかったことに敬意を表してやるよ。

 本を放り投げると、その場から立ち上がった。

「人を動かすなら、もっと上手くやれよ。お前らの説得の仕方は下の下だよ」

 セシリアとシャルロットの顔が沈むのがわかった。

「でも、気分が変わった。その作戦無視っていう行動は、面白そうだ。やってやるよ」

 セシリアとシャルロットが一気に笑顔になる。

「ただし、条件がある」

 二人を見据えると、自分のギリギリ妥協点を提示した。

 

 

 ― 9 ―

 

 

 夕暮れの浜辺はオレンジ一色に染まりあがっていた。

 遠巻きにボーデヴィッヒと篠ノ乃、凰が見える。俺とセシリア、シャルロットがその場所へと歩いて向かう。

「来たか、お前が来ることはないと思っていたが。過去の清算でも付けにきたか?」

「そんなお上品なもんじゃないよ、ボーデヴィッヒ。やる気になったわけでもないしな」

 軽く手を振って答える。すると、凰がげんなりした顔になった。

「じゃあ、アンタは一体なにしに来たわけよ……?」

「俺か? 作戦違反を犯すって聞いたから、楽しそうなんで混ざりに来たんだよ」

 いたずら好きのガキが喜びながら出すような回答に、セシリアとシャルロットが苦笑する。篠ノ乃がボーデヴィッヒの方から、俺の方へと顔を向けてきた。

「来てくれて、ありがとう」

「礼はいらないし、俺には礼節なんて柄じゃないから。だいたい、参加は条件付だしな」

 セシリアとシャルロット以外が困惑の表情をしだすが、それに構わずに言葉を続ける。

「俺はサポートだな。みんなが動きやすいように、防御を張ってやる。安心しろよ、誰一人怪我はさせないからさ」

「誰一人って、どうやってそんなことするのよ?」

 凰が理由を聞いてきて、答えるようにその場でISを展開した。

 黒い外装に青のラインが入ったブラックペタルが、嬉しそうに小刻みな駆動音を鳴らしていく。子供の合成音が耳元へと囁いてくる。

【よしひさ ようじ】

「ああ、少し付き合ってくれ。これから良いことさせてやるからよ?」

【わかった】

「凰、これが俺のISの武装だ」

 そう言って視界の伝達から脳内イメージの構築を行い脳波をティアーニが読み取りだす。ISの背中に組み込まれてる実像物理再現ジェネレーターが唸りを上げる。

 青紫の発光した花びらのような面が、八メートル四方で自分の前に出現した。

「こいつは、ペタルズ・スワイルっていってな。これで味方の前に張れば、ある程度の攻撃は無効化できる。出せるのは全部で六つ。重ねると、その分強度も増してく。なにかご不満は?」

 殆ど何もないISの外装と、一度も見たことがないであろう特殊すぎる主武装に集まったメンバーが驚いている。皆を促して、俺は先に上空へ上がった。

「さっさと行こうや。俺は面倒臭いことは終わらせて、早く爆睡したいんだよ」

 

 

     ◇

 

 

 胎児のように蹲っている銀色の翼を纏ったISが確認できる。

 ――あれが福音か。

 ズンッ!

『初弾命中、続けて砲撃を行うっ! 行くぞっ!!』

 シュヴァルツェア・レーゲンからの砲撃による一発で、戦闘が開始された。

 標的となっている福音が防衛反応からか、攻撃元へと突貫しだす。

「ティアーニッ! シュヴァルツェア・レーゲンの手前に五枚のペタルを張れ!?」

【よしひさ うるさい きこえてる】

 くそ、説明を受けた速度より全然速く感じるぞ!?

 相手の高速移動を必死で視界内に納めながら、ティアーニに指示を出す。AIが文句を言いながら、シュヴァルツェア・レーゲンの前にペタルズ・スワイルを発現させた。

 途端に現れた青紫の壁に、福音が激突して跳ね返る。しかし、直ぐに失速から復帰して回避行動を取り始めだす。

 ほんの少しできた隙、奴と同じような速さで紅椿が切り込む。紅色が放つ一撃をまともにくらって真っ逆さまに叩き落されるが、それでも粘るようにして海面すれすれで軌道を整えていく。

『セシリアッ!』

『承知いたしましてよっ!』

 ボーデヴィッヒが叫び、絶え間なく指示を飛ばす。ブルーティアーズが狙撃用ライフルで福音に精密射撃を行う。安定飛行に復帰した奴が、何発もの光弾を全て綺麗に避けきった。

 しかし、真後ろから現れたラファールカスタムのショットガン攻撃をまともにくらって被弾する。

 クソが、しぶとすぎだ!?

 これだけの攻撃を受け続けても福音は体勢を立て直し、なお他からの射撃を避け続けていく。奴が左右に一回転して正面を向いた瞬間、銀色に輝く背中の翼を大きく広げだした。

 今度は今までのお返しとばかり、大量の砲門からエネルギー弾の弾幕を張りだす。蹂躙するようして、味方の一機だけへと集中砲火を浴びせていく。

「ティアーニッ! オレンジのラファールにペタルを全部だっ!!」

【うるさい どならないで】

 こちとら必死なんだよ、それぐらい我慢しろっ!?

 ラファールカスタムに当たるはずだったエネルギー弾が、全てペタルズス・ワイルに防がれる。しかし、六枚中三枚の壁がそれによって貫かれた。

『喜久、助かったよっ!』

「喜ぶのは、終わってからしろ!?」

 シャルロットに檄を飛ばす。福音は今の戦闘状態に対してエネルギーの消耗が激しいと判断したのか、顔を上げて一気に急加速しだした。

 クソ野郎が、させるかよっ!!

「ティアーニ、福音の軌道上にペタル全部だっ!!」

【たのむから どならないで】

 トップスピードになる手前。軌道上にペタルズスワイルを出現させ、奴がそれに激突して動きを止める。

「やっちまえ、凰っ!!」

『ナイス喜久っ! 箒、このまま行くわよ!?』

『ああっ!!』

 紅椿の背中に乗っていた甲龍が離脱し、砲門から熱殻拡散衝撃砲を弾幕のように放ちだす。加速した勢いを活かし、そのまま一気に間合いを詰めていく。素早く展開し振るった双天牙月で、福音がまともに攻撃を受けた。

 続く二連撃目、代わるようにして飛び込んで来た紅椿の刃が、奴の胴体へとまともに入る。

『たあぁぁああああああああっ!!』

 連続斬りからの一回転、さらに展開装甲の踵落しによる一撃が決まった。

 福音が勢い良く落下して行き、海柱が空へと突き上がる。奴が海の底へと沈んで行く。

 ――終わったのか?

「篠ノ乃、手ごたえはあったか?」

『ああ、確かに仕留めた筈だ』

 篠ノ乃が息を切らしながら答えた。

 途端、再び海面が爆発したようにして、盛大な水柱を巻き上げていく。発光現象が辺りを眩く照らし、青白い光の中心で福音が不気味な唸りを上げだす。

『まずいっ! これは、『第二形態移行《セカンド・シフト》』だっ!!』

 ボーデヴィッヒが声を荒げて叫ぶ。

「ふざけんな!?」

 クソッタレが、速すぎる!? これじゃ、防御のペタルを張れるだけの間合いがないっ!

 光の羽を生やした福音が、一瞬でボーデヴィッヒの元へと詰め寄っていた。

 ゼロ距離で発射される大量のエネルギー弾が、全てシュヴァルツェア・レーゲンに直撃していく。なす術もなく被弾しつづけた後、気絶したようにして海面へと落下していった。

『ラウラ!?』

 怒りに任せてシャルロットが福音に突っ込みだす。

 だめだ、そんなんじゃ返り討ちだぞ!?

「ティアーニ、ペタルを俺の背中に四枚っ! ラファールカスタムと福音の間に二枚だっ!」

【はぁ もういい ささざきに まいく せいぎょ たのもう】

 こんな時に溜息なんてついてる場合じゃねぇだろ!?

 人間に似すぎだ、このAIッ!!

 心中で叫ん出いる間に、背中に四枚と残りの二枚が福音の前に出現しだす。

「おぉぉおおああああああっ!!」

 今度は声に出して叫びながら、瞬時加速《イグニッション・ブースト》をかける。四枚のペタルズ・スワイルが呼応し、翼を広げたようにして羽ばたいた。

 瞬間的に距離を詰めきり、すかさずシャルロットをキャッチする。そのまま離脱した直後、福音が溜め込んでいたエネルギー弾から収束砲型レーザーのようなものを発射した。

 さっきまでの第一形態と、威力がダンチかよ!?

 ペタルの二枚が一瞬で粉々に吹き飛ぶ。福音が狙いを変え、今度はセシリアに攻撃目標を定めだす。奴が一直線に突貫し、余りの速さに目が追いつかなくなってしまう。

「セシリア、緊急回避しろ!?」

 叫び、ISTS発動して能力を使用する。ゆっくり動く福音を捕らえきると、ペタルを全部重ねて福音の前に出現させた。

『きゃああああああっ!!』

 あの野郎、瞬間的に軌道をずらしやがった!?

 俺の読みを先読みしたのか、福音は高速移動している軌道を捻じ曲げて、ペタルの壁をサーカスの曲芸師みたいに回避しきった。

 そのままセシリアの後ろに回り込みきると光る羽根が巨大化し、ブルーティアーズを囲い込むようにして丸呑みにする。強烈な攻撃を受け、蒼の機体が力無く海面へと落下していった。

「……シャルロット、セシリアを拾ったら全員でここから離脱しろ」

「え?」

 抱えていたシャルロットを離す。

「離脱しろ、後は俺がやる」

「でも!?」

「うるっせぇんだよ、良いから行けっ!!」

 もうこれ以上、被害を増やしてたまるかっ!!

 怒りに任せて思い切り叫びながら福音を見据える。

「クソ鳥、俺が相手をしてやるよ!? ティアーニッ! ペタルを一枚を丸めて鋭角にしたら、俺の右腕に乗せて回転させろっ!!」

【うるさい】

 出し惜しみしている余裕なんてない、即座にISTSをフルで発動させる。福音へ向けて飛び込んでいくと、奴の方も全力でエネルギー弾の弾膜を張って対応してきた。

「俺と戦うんなら、回避を優先すんだったな!? くたばれクソ鳥っ! ティアーニ、残りのペタルでクソ鳥を囲めっ!!」

【……】

 無人機なら遠慮は要らない、一気に顔を貫いて吹き飛ばしてやるっ!!

 止まっているようかのようにスローで動く弾幕を避けきって、福音へ最短距離で詰め寄る。奴は回避行動を取ろうとしたが、ペタルに全方位を囲まれて突破するのに一瞬の隙が発生しだした。

 腐れ無人機が、あめぇんだよっ!!

 完全に間合いを詰めきって繰り出した攻撃が絶対防御を突破していく。ペタルの回転ドリルを伴って、奴の顔面を貫ききった。

 ただし、貫けたのは顎の右下辺りで、外装が一部破損しただけに留まってしまう。それは、奴が攻撃をくらう寸前で首を捻って緊急回避しようとしたのが原因だった。

 次の瞬間、俺は自分の目を疑いだす。渾身の一撃が外れたことと違う意味で戸惑ってしまい、体勢を立て直すために奴から一旦距離を放す。

「――クソッタレがぁ!! 年取った老獪ってのは、いつだってやってくれやがる!?」

 無人機と聞いていたはずのそれには、決して存在しない筈のものがあった。

 顎の右下にある破損した部分から、人間特有の肌色が覗いている。そうなると福音は無人機ではなく、人間が搭乗した有人機だ。詰まるところの結論、向こうの軍部がこっちに寄こした情報は誤情報だった。

 そうかよ、目の前で浮いてるこいつも切り捨てられた人間なのか……。

 軍の体質てのは、いつだってこうなのかよ……。

「ふっざけんな……、人間はてめぇらクソ上層部の玩具じゃねぇんだよっ!! 何でもかんでも、平気で人の命を駒のように扱ってんじゃねぇえええええええええええええっ!!」

 気づいた時には、勝手に咆哮の叫び声を上げていた。

 そこで、初めて傍と気づく。

 ――ああ、そうかと。母さんが言ってたのはこの事だったのかと。ISを作った篠ノ乃 束が問題なんじゃない。それをどう扱うか決めている人間の方が、圧倒的に問題なのだと。

『喜久、待たせて悪かったっ!』

 不意に一夏の声が聞こえた。

 再び開始された、福音によるエネルギー弾の弾幕攻撃を避けながら応答する。

「遅ぇぞ、もちろん戦えんだろうな!? 一夏ぁ!!」

『大丈夫だ、まかせろっ!』

 ISTSの反動がきついな。持って、あとどれくらいだよ?

 こりゃ、長くはなさそうだ……。

「一夏、俺がクソ鳥の動きを止めてやるっ! 一発で決めろ!?」

『それで充分だっ!!』

 俺は回避運動を取りながら後ろ下がりだし、福音を真っ直ぐに見据え続ける。

 仲間を守るのが最優先だ、悪いがくたばってくれやクソ鳥。

「ティアーニ、これで最後だ。福音の周りを囲むようしてペタルを全部出せ。鋭角に出現させて、奴のボディを削ってやれ」

【よしひさ やっと ふつうに しゃべった さいしょから そうして】

 福音を全てのペタルズスワイルが取り囲む。奴は避けようとしたが、面の端の方に体が当たり自分から攻撃をくらっていた。

『うぅおおぉぉおぉおおおおおおおっ!!』

 一夏が零落白夜を纏った状態のまま全力で叫ぶ。そのまま奴に対して雪片弐型を思い切り突き立てた。

 目を焼き潰さんばかりの強烈な閃光が迸り、二機が大海を割り続けていく。最後は巨大な波飛沫を巻き上げて浜辺に突っ込んでいった。

 膨大な光が放たれていたが、やがてそれも収束していく。

「終わったか?」

『ああ、終わった』

 自分の体が限界に達して、力を失っていくのに気づく。どうしようもない状態なので、とりあえず一夏に声をかけた。

「一夏、一つ頼みがある。……もう、体が持たないみたいなんだわ。だから、拾ってくれると助かる――――

 最後に見えたのは、夜を割って出現する眩しい朝日だった。

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