ln   作:kiarina

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5-8-10

[ NumberingTitle_因果応報_駆ケ抜ケル王子タチ_青イ敵兵 ]

 

 ― 8 ―

 

 

「あ、いた!?」

 校舎の裏で屈んで適当に休んでいると、シャルロットが少し怒った顔でこちらにやって来た。

「駄目だよ皆が頑張ってるのにっ! 喜久だけだよサボってるの!?」

「だるい……。良いじゃん別に、ちょっと休むくらいさ?」

 文化祭の開催日、シャルロットはめかしこんでメイドの衣装を着ている。そして、俺も無理やり執事みたいな服を着させられていた。

 制服で良いと反抗したが、クラス中の奴らになす術もなく取り押さえられたのだ。IS学園だけあって女子とも言えど、普通の女性よりアスリートみたいな訓練をしている。よって、力が並みの男性と全く変わらなかった。

【シャルロットも、ああ言っているのだから。さぼってないで、さっさと働きなさい】

「ティアーニ、お前は黙ってろ」

 笹崎め、何で精密スピーカーなんてもんを取り付けたんだ……。

 半縄に出向いた日、笹崎の部屋から出る際に時計を返されて腕にはめる。そして三分も経たないうちに、ティアーニが言葉を発し始めた。

 結果、シャルロット以上の毒舌を浴びせられ、予想以上にストレスが溜まるはめになってしまう。気乗りしないままに手をぶらつかせる。

「だいたい、うちには客寄せパンダの一夏がいるんだから良いじゃん。客なんて入り放題だろ?」

「そういう問題じゃないでしょ? 良いから仕事してっ!」

 流石に三〇分は、まあ休みすぎたか。そろそろちゃんとやるかね。

 お冠のシャルロットが腰に両手を添えて仁王立ちする。現在の割り当てとして、一夏は中で接客を俺は木で作成したプラカードを掲げ外回りの宣伝をしていた。

「わぁったよ。そろそろ仕事に戻らせてもらいます」

「それと、空き時間に一緒に回る約束、ちゃんと覚えててね? それじゃ僕は戻るから」

「シャルロット」

「ん、どうしたの?」

 本人が晴々と咲く向日葵みたいに、にっこりと笑う。すると、気持ち的に少し弄りたくもなる。

「スカートのジッパーが、半開きだぞ?」

「え!?」

「冗談だよ」

「もう、これだから喜久はっ!」

 俺が立ち上がりながら嘘をつくと、シャルロットが怒りながらドスドスと歩いて持ち場に戻って行く。しょうがなく、言われた通りに校舎に入り宣伝を始める。だが、行動を開始して一分もせずに飽きがきた。

 普通に言っているだけじゃ面白くないし、どうせだから少し誇張してやるか。

「ご奉仕喫茶で~す、ご奉仕喫茶はいかがっすか~? 織斑 一夏が上半身裸でご奉仕する、喫茶店はいかがっすか~?」

「それ、本当なの!?」

「今なら、まだやってるのかしら!?」

「嘘じゃないでしょうね!?」

 言った瞬間、声に反応した女子がすごい勢いで群がってくる。

 すげぇな、これが織斑効果か。あいつってホストやれば、すごい稼ぐんじゃないの?

「ポッキー遊びと王様ゲームもついてきますよ。なんかあと、一時間以内らしいっすけどね?」

「急ぐのよ、まだ間に合うわっ!!」

「友達誘わなきゃ!?」

「クラスの人たちに、教えてあげないとっ!」

 話を聞いていた一〇人くらいが、あれやこれやと騒ぎ出して散っていく。一人頭で一〇人くらい増えるとして、おおよそ一〇〇人は呼び込めそうだ。これで自分が担当していた分の仕事が終了したと確信した。

 満足していると、ティアーニの呆れた声が聞こえてくる。

【あなた、あとで絶対にしっぺ返しを食うわよ? 因果応報って、言葉を覚えていた方が良いわね】

「美人な女子が群がって来るなら、手放しで拍手までしてやるよ?」

 さてと、この後はどうっすかな。

 不意に、ポケットの辺りが小さい振動をしだす。ポケットから鳴り続けている携帯電話を取り出して応答する。

「はい、お疲れ様。ここまで来るのに遠くなかった?」

『いえ、大丈夫よ。それで、よっちゃんは今どこにいるのかしら?』

 姉さんからどの場所にいるのかを聞かれ、頭の中に学園の見取り図を思い浮かべる。

「いいよ、姉さんがいる場所教えてくれない? 今から迎えに行くからさ」

『わかったわ』

 プラカードを肩に担ぐと、逆襲のために必要なカードの手札を揃えるために歩き出した。

 

 

     ◇

 

 

 学園祭日和だからなのか、空はなんとも晴れ渡っている。人気の無い寮の屋上で、姉さんと二人きりで会話を交わす。

「忙しいところごめん」

「大切な家族なのだから、当たり前でしょ。約束のもの、調べてきたわよ」

「ありがとう、助かるよ」

 姉さんが紙の束を渡してくる。適当に捲っていくと、出て来る情報の量に心の底から感謝した。

 ――へぇ、瞬発的肉体強化実験ね。表じゃ実験の成功を謳ってるけど、実際は予想以上に死人が出てるなんてな。また、随分と黒い情報だ。しかも指揮者がミアの父親だなんて、よく出来たシナリオだよ。洗い出して欲しい人物が大物の当たりだとは思わなかった……、あいつは被験体になるのをどんな気持ちで受け入れたんだろうか。

 さらに捲っていくと、実験の被験者リストが出てくる。マジックで名前の上から横線が引かれ、ところどころで塗り潰されているのが見受けられた。

「姉さん、このマジックのは?」

「……死亡者よ」

「ああ、そう」

 姉さんの沈み込む顔が見て取れる。随分と酷な内容を調べてもらっていたのだと、思わず自責の念にかられた。

「よっちゃん?」

「なに?」

「この世の中は矛盾に満ちているように見えるけれどね、良心のある世界でもあるの。それを忘れては駄目よ」

「そうさな。確かに良心は、俺もあると思うよ」

 頭に最近付き合いのある専用機持ちの連中を思い浮かべていく。素直で良い人たちだ、今の俺にはこれだけ解っていれば充分だろう。紙の束を丸め、自分の肩を叩く。

「今日は、まだ時間もあるから。よかったら、姉さんも楽しんで行ってよ?」

「ええ、そうね。それよりも織斑先生にご挨拶をしたいから、職員室の方へ寄らせてもらうわ」

「律儀だね?」

「大事なことでしょう?」

「まあね」

 そう言って、俺と姉さんは屋上を後にした。

 

 

     ◇

 

 

 クラスに戻ると、『休業中』の文字が入ったプレートが教室のドアに下げられていた。

 そして、明らかに苛立っている顔つきのクラス女子数人が、俺を教室内へと放りこむ。見れば、係り全ての人間が脱力しきって倒れていた。

 一夏は俺が嘘をついた通り、本当に上半身裸になって床に寝ている。寝ているというより、くたばっているといった方が正しい。

 そして、動く屍が恨みの篭った言葉を吐き出した。

「喜久……体力が戻ったら、お前にも同じことをさせてやるからな? 絶対にだ」

「ああ、うん。まあなんだ、儲かって良かったんじゃないの?」

 指で頬を掻きながら言うと、他の専用機持ち四人がものすごい顔で睨んでくる。

「ほう、全ての元凶がよくもほざくものだ。喜久、今すぐその口をナイフで潰してやろうか?」

「ボーデヴィッヒさん、メイド服がよく似合ってると思います」

「喜久さん、よくもやってくれましたわね。でまかせの嘘に対して、私たちがどれだけ対処に苦労したかお分かりですか?」

「セシリア頑張ったね、確かによく働いたと思います。今日はもう完売で午後から楽ができるしょ?」

「喜久、僕は限度があると思うんだ。一気に二百人以上も呼び込む必要がどこにあるのかな?」

「予想以上だシャルロット。俺は、サボらずに頑張ったよね?」

「喜久、その減らず口を縫わせてもらうぞ。お前には必ず滝打ちをやらせてやる」

「修行僧じゃないんで、篠ノ之みたいに古風なのはいらないや。それじゃ」

 即座にトンズラを決め込むため、逃げ道を探して後ろへ回れ右する。

「クラスの総意よ? 覚悟しなさい」

 出入り口のドア付近、貝田と他三人の女子が仁王立ちしていた。

「あ、先生」

【嘘よ】

 ティアーニ、てめぇ!!

「いい加減にしなさいっ!!」

 スパンッと、頭を思い切り叩かれた。

 

 

 ― 9 ―

 

 

 クラスの連中から散々叱られて、容赦の無い鉄拳制裁が下った。

 午前も終わり、午後の時間がやってくる。俺はセシリアとシャルロットの二人と共に廊下を歩いていた。

 ご奉仕喫茶の材料は午前中で底を尽きてしまい、今は完全にクローズしていた。

「喜久さん。この後は全て私のために、時間を空けて下さいますのよね?」

「喜久、僕との約束を忘れたわけじゃないよね? もちろん、今日は全部お金は喜久持ちだよね?」

「悪かったよ、もう勘弁してくれ……。それにしても、まさか一夏が本当に上半身裸になってるなんてな」

 あの後、一夏にもしばらくの間、ヘッドロックをかまされ続けたことを思い出す。シャルロットが溜息をつきながら、どうし様なさそうな表情で答えてくれた。

「あれは、先輩が遊び半分で脱がせたんだ。一夏は死ぬほど嫌がってたけど、最後は逃げ切れなくて捕まってた」

「更識か……、可哀想に」

「そうさせたのは、どこのどなたでしたっけ?」

「はいはい、俺ですよ。ん?」

 適当に足を止め、出し物だらけの廊下に並ぶもので幾つかかが目に入った。

 『吹奏楽部の楽器体験コーナー』と書いている文字が見える。

「ほんとに全部の部活動が出し物してんだな。そう言えば、セシリアってバイオリンが本当に上手だよな。同室の時はよく聞かせてもらったけど」

「ええ、はっ!? そうですわ、喜久さんは何か楽器はお出来になりますか?」

「いや、俺は読書と睡眠が趣味だから。そういうのは聞くだけでいいかな」

 クワッと、セシリアの目が見開かれだす。

「今からでも遅くはありませんっ! 喜久さんも音楽という芸術を嗜むべきです!?」

「セシリア。僕はその前に、料理をもっと練習するべきだと思うな?」

「くっ!」

 ノリノリになりかけたセシリアに、シャルロットが言葉を放ち撃沈した。

 シャルロットが学園に来た日、屋上でセシリアの劇薬料理が発覚している。それ以来、俺とセシリアは彼女に毎週一回だけ、可能な時間帯で料理を教えてもらっていた。

「まあ、でもあれからセシリアも、だいぶ上達したよな。余計なスパイスとか入れなくなったし」

「喜久さんは、殆どつまみ食いしかされていませんわね。シャルロットさんが怒り出す前に、ちゃんと料理をなさってはどうですか?」

「セシリア、喜久は根っからの天邪鬼だからしょうがないよ。味覚が大丈夫なだけでも奇跡だと僕は思うよ?」

 奇跡ってなんだよ……。

「シャルロット、お前は毒舌が直らないよな。なにをすれば、直るわけ?」

「それはね、初日に会った時に僕にした責任をちゃんと取ってくれたら直ると思うよ?」

「喜久さん、どういうことです?」

 シャルロットがいらんことを言ったせいで、セシリアが勘違いを始めた。

「ほら、シャルロットは最初に性別を誤魔化してただろ? だから白状するように少しちょっかいを出しただけだよ」

「お尻叩いたり、抱きついたり、下品な言葉を連発してたけれどね」

 おいシャルロット、火に油を注ぐんじゃないっ!!

 セシリアの目付が鋭利な刃物のようになりだす。

「喜久さん、どこかお話できる場所へ入りましょう。貴方には一度女性へのマナーを勉強して頂きます」

「確かにいいアイデアだね。セシリア、向こうに喫茶店があるみたいだから入ろうか?」

「待てよ、おい!? あの時は、そうしないとシャルロットのためにならなかったんだよっ!」

「でも喜久、部屋から出てく時に、ごちそうさまとか言ってたよね?」

「シャルロット、お前は俺に苦しみを与えたいのか!?」

「今はそうかな?」

 ご奉仕喫茶の恨みをここで使わないで欲しかった……。

「喜久さん?」

 セシリアに肩をすごい力で捕まれる。

「行きますわよ?」

 問答無用でドナドナのように連行された。

 

 

     ◇

 

 

 本日二度目のお叱りを受けた後で適当にぶらついていると、どこからともなく更識が現れた。

「あらよっちゃん、いいとこで会ったわ。おねーさん今日はついてるわね」

「一夏の服を脱がしたらしいですね?」

「一夏くんも大変喜んでいたわっ♪」

「あんた最悪だよ」

 俺の言葉に全く悪びれた様子も無い。更識はさらに「ありがとう」と、お礼を言う始末だった。

「これから生徒会で出し物を行うの。セシリアちゃんにシャルロットちゃん、ちょっと良いかしら?」

「え?」

「なんでしょうか?」

 更識がなにやら二人に耳打ちする。

「喜久さん、ちょっと行ってまいりますわっ♪」

「喜久、また後でねっ♪」

「おいおい、いったいどうしたよ?」

 セシリアとシャルロットがとても上機嫌で、嬉しそうに俺の前から去っていく。更識も後に続くが、それを話し掛けて引きとめる。

「なあ、あの二人になにを言ったんです?」

「演目の説明よ。シンデレラをやるんだけれど王子様は一夏くんがやるの。まあ面白いと思うから楽しみしててくれると、おねーさん嬉しいわっ♪」

 また、なんか碌でもないことを考えてそうだな……。

 行く必要は全く無いが、どうにも含み笑いが気になる。しょうがなく、演目場所まで出向いて客席に座ることにした。

 

 

     ◇

 

 

 真っ暗な場所でライトが光り幕が上がって行く。すると、一夏が動揺したように顔をキョロキョロさせながら現れる。衣装は確かに王子のような感じだ。

 しかし、舞台に肝心な他の役者がまるで見当たらなかった。

 なんだ、一体どんなシンデレラをやるつもりだよ?

「あ~、よっしーだ~」

 だれだっけ?

 後ろからした声の方を向く。暗くて顔が見えにくいため、目を細めて観察する。ああと、顔よりも特徴的な袖の長い服装を思い出す。

「なんだ、布仏か。よっしーってのは辞めてくれって言ってるだろ?」

「えー、だって言いやすんだもん~。それよりよっしーは、演劇に参加しないのー?」

「かったるい」

 言いながら、視線を舞台のある前に戻していく。

『昔々、あるところにシンデレラという少女がいました』

 おいおい、もう始めていいのかよ? どう見ても役者が足りねぇだろ、早くしないと劇の構成がおかしくなるぞ?

『否、それは最早名前ではない。幾多の舞踏会を抜け、群がる敵兵をなぎ倒し、灰燼を纏うことさえ厭わぬ兵士たち。彼女たちを呼ぶに相応しい称号……、それが『灰被り姫』っ!』

 これはもう、自分が知ってるのとは明らかに違うな……。

 呆れているうちにも台詞が続いていく。そして突然現れたシンデレラ役らしき凰が、いきなり一夏にクナイみたいなのを投げつけた。

 これってシンデレラだよな……、どこでカンフー映画に変わったんだ? しかも凰が、ものすごい勢いで一夏に何かよこせとか言ってるし。

 一夏も逃げる為に、必死の形相になっている。そして見ているうち、シンデレラ役だけがどんどん増殖されていく。催しは原作から外れ、ついにはシンデレラだけ祭りのような状態になった。

 一点だけ原作と完全に違うとすれば、シンデレラが武器を持って王子を襲ってるのがシュールな光景だ。武器が全部本物らしく、逃げ惑う一夏が泣きそうになっているのがわかった。

 そして更識の催しが、ドッキリテレビより性質が悪いことも理解した。

「ね~、内緒なんだけどー、皆がー、何を目的にしてるか知ってるー?」

 後ろから再度、布仏に声をかけられる。

「いんや、目的って?」

「なんかねー。おりむーの上に乗っかてる王冠を取るとー、一緒に住めるんだってー」

「ふーん、あっそう……って、はあ!?」

 吃驚してしまい、あんまりな内容に大声を上げた。

 ふざけんじゃねぇ! そんなことしたら、一夏と同部屋の俺が部屋から自動的に出ることになるじゃねぇかっ!! クソッタレ更識が、下らない催しを用意しやがってっ!?

 何でセシリアとシャルロットの二人があんなに喜んだのか、やっと理由がわかったぞ。あいつら王冠を取って他人に渡した後で、独立した俺の部屋に雪崩れ込むつもりだな。

 無理だと思っても、どうせ更識の奴が『会長特権』とか言いやがったに違いない。権力の権化が、今すぐこんな催しはぶち壊してやるっ!!

 ならば、俺が取るべき行動も一つしかない。

「一夏ぁ!! 今すぐ頭に乗ってる王冠を粉々しろ、お前の王冠は同室者扱いになる権利権だっ!!」

「えぇ!? そんなん聞いてないぞ、楯無先輩どういうことですか!?」

 やっと襲われる意味を知った一夏が、素っ頓狂な声で更識に叫ぶ。

『あはっ♪ ここでまで来たら変更は効かないわよ? 王子様にとって王冠とは全て。その重要機密が隠された王冠を失うと、自責の念によって電流が流れます』

「はい? ぎゃあぁぁああっ!?」

 えげつねぇ、更識の奴まじで電流を流したのかよ!?

 一夏が自分の王冠を外そうとした瞬間、まるで死刑囚が泣き叫んだような声を上げだす。更識はどうあっても、一夏から王冠を外させる気が無いらしい。

 だったら俺が粉砕してやる。

「一夏、今すぐこっちへ来いっ! 痛みは一瞬だ、俺が壊して無効にしてやる!?」

「頼む喜久っ!!」

『そうはいかないわっ! さあ、ただ今からフリーエントリー組の開始ですっ! みなさん、王子様の王冠目指して頑張ってください!?」

 ものすごく嬉しそうな掛け声がかかった途端、会場中から騒がしい音が発生しだす。見れば、ざっと数十人以上のドレス姿が現れていた。

 そして、更識の奴はさらに追い討ちをかけてくる。

『シンデレラの皆さん、チャンス到来ですっ! 王子様はおばあさんから教えてもらった魔法を使い、一人から二人に増えましたっ! ただ今より、王冠を被っていない王子様役の市隈くんを捕まえれば、自動的に王冠をゲットしたことになりますっ!』

「ふざけんな更識ぃ! やりすぎだこの野郎っ!!」

 変なアドリブかましてんじゃねぇ!?

 叫んだ瞬間、暗がりの客席にいた俺の位置を完全に把握した、半分程のシンデレラがこちらを凝視してくる。

【本当に短気は損気よね】

「うるせぇ!! 一夏ぁ! 捕まったらお前のこと本気で恨むからなぁ!?」

 パツッ パツッ!!

 はぁ!? なんだよ今のは!?

 耳辺りを鋭い風切り音が通過していく。舞台の上を観察すれば、ライフル特有のサイト用レンズ板がキラリと光って反射していた。

「今俺のこと狙撃した奴、後で裸にひん剥いてやるからな!? 覚えとけ、クソッタレッ!」

 あまりの出来事にもはや余裕も無い。捨て台詞を残しながら、すぐさま後ろへ振り返ってダッシュを開始した。

 サクッ!

 走り出して一秒としないうちに、何かの突き刺さる音がする。走りながら後ろを振り返れば、ナイフが床に突き刺さっていた。

 舞台ではボーデヴィッヒが悔しそうに舌打ちしている。

「喫茶店での仕返しをここでしてんじゃねぇ!!」

「喜久ぁ! いいから、とっととやられなさいっ!」

 お前ら、いい加減にしろっ!!

 今度は凰の奴が俺に向かって、一夏に投げたクナイみたいのを投げてくる。

「お返しだ、攻撃すんなら女でも容赦しないからな!?」

 こんな下らないことに使用したくなかったISTSを、しょうがなく一瞬だけ使用した。

 飛来したクナイの動きが止まったようになる。そのまま柄の部分を掴み取って、勢いを殺さず横に一回転しながら凰目掛けて投げ返す。

「ひぅっ!?」

 クナイが凰の顔面すれすれ三センチくらい、本人の髪を少しだけ切って通過し壁に突き刺さった。

「この馬鹿喜久、私を殺すつもり!?」

「猪突女が、お前が先にやったんだろっ!?」

 俺と凰のやり取りを見ていたのだろう。追って来ていた半分程のシンデレラのうち、三分の一が無抵抗型の一夏へと目標を切り替えていく。

 しかし三分の二は根性を出して、怯まずこっちの方へ向かってくる。泣きそうになりながら、全速力で会場外へと走りぬけた。

 

 

     ◇

 

 

 走り続けること十分間。校舎内の人が多い廊下へ逃げ込んで、何とかドレスを着た連中を撒ききった。

 息も切れ切れに壁へと寄りかかり、疲れきってその場にへたり込む。

「はぁ、はぁ……、ふぅ……。更識め、絶対にやり返してやる」

【貴方、ほんと良いようにあの子に遊ばれてるわね】

「だったら、やり返すための知恵でも貸してくれ?」

【そんな下らない浅知恵よりも、はやく大人になることね】

「うっせぇ」

 ティアーニが言い合っていると、突然後ろから誰かに肩を叩かれた。

「喜久」

「うお、まだやんのかよっ!?」

 思わずボーデヴィッヒから距離を取る。

「シンデレラに関してはもう終わりだ。それよりもやることができた」

「あん、なんだよそれって?」

 彼女が不敵に笑う。

「解析の借りをここで返してもらうぞ。子供が喜ぶヒーロー気取りをするつもりはないか?」

「それだったら、俺は間抜けな敵役の方があってるよ」

 片手をぶらつかせながら答える。

「ヒーローは一夏だけで充分だろ? ――んで、敵ってのは誰になんだ?」

 聞くとボーデヴィッヒが寄って来て、顔を俺の耳の近くに置く。

 そして、小さく囁いてくる。

「喜久が昔いた場所では、聞いたことぐらいあるとは思うがな? 敵は、亡国機業だ」

 

 

 ― 10 ―

 

 

 ボーデヴィッヒに借りを返すために、学園の近くにある見晴らしの良いマンションの屋上にいた。

 現在、作戦を立てた当人は、セシリアを連れて敵を追っている。こっちはバックアップを任され、敵の捕獲に取りこぼしの無いよう待機していた。

 ボーデヴィッヒが捕獲対象に対して逃げるであろう的確なルートを割り出すのを見物していたが、流石は軍人としかいいようのない鮮やかな手際を良さ感じた。

「ティアーニ」

【なにかしら?】

 最悪の場合だが、二人が敵を逃がした場合を想定していく。

「俺が敵を攻撃する場合、行動不能までならオーケーだよな?」

【相手が半死以上までいかないのであれば、タブーには触れないわね】

 ティアーニの回答からだと、相手の主要箇所になる骨を折るくらいは問題なさそうだな。

「そら結構、それだけわかれば充分だ」

【一つ忠告よ】

「あん?」

【私が自制機能を働かせるわけではないの。前回ミアの時は私がしょうがなく警告をしたけど、制御の流れ的に言えばISのコアで笹崎の引いたルールに載る私のAIとなるわ。相手の生命反応等をIS自体が勝手にスキャニング感知して展開を解除してしまう、そこを忘れては駄目よ?】

 随分とややこしい設計がされているもんだな。まあ、俺は俺のやることを全うしましょうかね。

「了解だよ、頼んだぞ相方さん?」

 ズンッとさ、ほど遠くない距離の方で軽い発光音がした。

 すぐさま確認を取る。

「サボってないよな?」

【仲間を助けにきたらしい一機が襲撃に来たけど、随分と速いわ。感知してから次の行動までの動きが滑らかね。ようは手練れと言うことよ、シュヴァルツェア・レーゲンが被弾したわ】

「ち、ボーデヴィッヒが被弾したのかよ」

 あいつが被弾したってことは、ISに乗ってる襲撃者は軍隊の人間並みかそれ以上の実力ということか。

「出るぞティアーニ。クソどもを叩きのめしに行こうや」

【荒い言葉は好きじゃないわね。直しなさい】

 ISを瞬時展開し、足が地面から切り離されて宙に浮く。それと同時、六枚のペタルを全て背中に出現させた。

【相手に追いつくには数が少ないわ。あと二つほど足しなさい】

「なんでだよ、もう出せないだろ?」

【はぁ、本当に抜けているわね。私はアップデートを受けているのよ?今は最大で12枚まで出せるわ】

 俺の方が溜息を吐きてーよ……、抜けてるもなにも、こっちは笹崎からそんな説明もらってねぇんだからさ。

 しかし、出せる数が二倍なのは色々とできることが増えそうだ。

「あいよ。だったら出し惜しみは要らないだろ、全部出して突っ込むぞ?」

【本当に良いのね? 後で文句は聞かないわよ。それ、と瞬時加速《イグニッション・ブースト》は使う必要はないわ】

 一二枚のペタル、全て背中に出現させていく。

「へぇ、そんなに早いのかよ? だったら直ぐに追いつけるな。さてと、戦闘開始だっ!」

 ペタルを翼のように羽ばたかせた。

「は、すげぇなおいっ!?」

 途端、一瞬で景色が線のように伸びだす。視界に収まる全てが、スパゲッティのように伸び続けていく。今までに比べて余りに違いすぎる馬鹿げた速さ、未知の領域に足を突っ込みすぎて頭の処理が追いつかなくなった。

【止まるのに時間が掛かるから、しっかりと距離を計って動くことね】

「じゃじゃ馬は嫌いじゃないからな、このまま敵を蹴り飛ばしてやるっ!」

 一気に距離を詰めたところで、ボーデヴィッヒたちから逃亡中の相手が前方に迫ってきた。

 次の瞬間、青い機体を纏った相手の顔面に目掛けて足を振りぬく。

『なに!?」

 ガァギィンッ!!

 ち、外したか。

 けたたましく金属の削れ合う音から、相手が何かで防ぎきったことがわかる。俺は蹴り抜けて先へ進み、相手は思い切り仰け反る体制を取っていた。

『……誰だ?』

「別に良いじゃん、そんなの。お前は俺を敵だって、認識できりゃ充分だろ?」

『――オータム、お前は自力で帰投しろ。私はこのふざけた奴の相手をする』

「なんだと!? おい、ふざけるなっ!」

 オータムと呼ばれた女が叫ぶのを無視し、青い機体が地面に急降下して行く。そして助けて運んでいたであろう仲間をまるで、ゴミのように振り払らって地面に投げ捨てた。

 再度急上昇してくると、大口径のライフルを構えて対峙してくる。

『見たことの無いISだ、何者だ?』

 自分のフルフェイスマスクを指で、二度ほどコンコンと叩く。

「顔をお互い隠してんだ、聞きたきゃお前の方が先に顔を晒すんだな? まあ、どうせ中身はかび臭い顔なんだろうけどな」

【品性を疑う挑発ね】

 そんなもんは、生まれた時から持ち合わせてねぇよ。

『ふっ……少し遊んでやる。ついでに、お前の両目を抉ってやろう』

「は、やれるもんならやってみろや?」

【六、九時方向からくるわよ】

 会話は終わりだとばかり、いつの間にか死角に設置されていたビットからビーム光が放たれてきだす。形から予想はしたが、相手はブルーティアーズによく似ている。焦らずペタルを三枚づつで指示された方向に出現させると、相手の攻撃は俺を貫けずに張ったペタルだけを四散させた。

 正面から目隠し女の機体が高速移動し、円軌道をランダムに描いて精密射撃を行ってくる。続けざまに放たれる光が、顔へと吸い込まれるようにやって来た。

「随分とお上手な射撃だな? まあそれでも俺を殺したきゃ、ブリュンヒルデでも連れてくるんだな」

 背中に八枚のペタルを出現させて、瞬時加速《イグニッション・ブースト》をかける。ビーム光を紙一重で全て避けきると、一気に目隠し女へ間合いを詰めきった。

 すると、奴はすぐさまピンクの蛍光色に発光したナイフを取り出す。

「もらったぞ、くっ!?」

「は、ざまあねえな?」

 目隠し女が歪んだ笑みを崩し、俺が内心で笑う。足から繰り出したペタルの回転ドリルつきの蹴りをギリギリでかわされた。

 奴が距離をとろうとしてスラスターを噴かす。

 ガツッ

『なんだこのISはっ!?』

 だが、先読みして設置されたペタルに激突する。初めて対峙するであろう読めない攻撃方法に声を上げだすが、構わずに追撃を狙う。

【回避なさい、来るわよ】

「ち、目隠し野朗が。お前も同じようなもんじゃねぇか」

 いきなり現れた防御型のようなビットが、こっちの進行方向に対し行く手を遮りだす。瞬間、四方向から同時にビーム光が俺目掛けて放たれてくる。自分自身をペタルで囲い込んで防御しながら、瞬間的にISTSを発動させた。

「とっておきだ、くらっとけ」

『なっ!?」

 そのまま避け続けようとする相手へ追従し、回転し続ける腕の鋭角ペタルで殴りつける。問答無用、こっちの攻撃が奴の絶対防御を貫くようにして突破した。

「ぐあっ!』

【機動性は相手の方が上ね。さすがに油断が消えたでしょうから、不意打ちは辞めた方が賢明かしら】

「ああ。やっぱ速いな、逃げ足だけは得意らしい」

 目隠し女は受けたダメージで、破損した右脇を抱えながら俺の方を見据えてくる。隠れてる目は見えないが、歯を剥き出しにして威嚇しているのが理解できた。

『なぜ防御を突破できるっ!?』

「馬っ鹿じゃねぇの、誰が教えるってんだよ? 自分で考えろや、能無し頭が」

『お前は今ここで殺してやる』

 目隠し女の読み合いが始まり、俺がペタルで動きを止めようしていく。奴はそれを高速に動きながら回避し続ける。近づいたり離れたりが繰り返されて、馬鹿が逃げの一手を行いながら射撃をし続けてきた。

 時折混ざる偏向射撃がある。だが、防御用にペタルを張っている限り、まったく問題がない。

「不毛だな!? このまま行けば、お前の方がエネルギー切れが速そうだっ!」

『ほざいていろ、――戻れだと? こいつはこの場で私が始末する。ち……、了解した』

「なにが了解だよ、逃がすわけねえだろ?」

 連絡を取っていたらしい目隠し女が、いきなり大口径のライフルを俺から違う方へ向ける。

『勝負は預けたぞ? 次は、必ずお前の首を撥ね飛ばしてやる』

【まずいわね】

「なにっ!?」

 あの野朗、弾を広範囲にばら撒きやがったっ!!

 目隠し女が、全ての銃器類で一斉射を撃ち放つ。それは自分にではなく、何の関係もない一般人のいる市街地へ向けてだった。

 ISTSを発動させて、すぐさまペタルも出現させていく。

『喜久さん、ご無事ですの!?』

「セシリアッ! クソ女が撃った攻撃を相殺しろっ! 俺のペタルだけじゃ足りない!?」

 クソッタレが、これでもまだ足りないのかよ!?

 セシリアが銃撃とビットによる相殺を狙うが、それでも敵の放った攻撃量が上回る。

「ティアーニ、突っ込むぞっ!」

【どうするのかしら】

「腕をくれてやるっ! 機体は破損するが、人間じゃないから代えは利くだろ!?」

【今はそれくらいしか方法がないわね、わかったわ】

 ペタル無しで瞬時加速をかける。

「は、上等だクソッタレがっ!!」

 ドンッ!!

 機体の左腕が爆散して飛び散った。

 激痛が走るが、気力で無理やり捻じ込む。

【逃がしたわね】

「くそ、離脱しやがったか……」

『ご無事ですか!?」

 相殺作業を終えたらしいセシリアが、こっちの方へ向かってくる。

「ああ、修理をお願いしなきゃな。助かったよ、セシリア」

「喜久さんは、無茶をし過ぎですっ!」

「でも守れたものもあるだろ? それに、この後にもう一回戦控えてるしな」

 戦闘で酷使した体を抱えながら学園の方を見た。

 外も内も敵だらけな状況に、思わず笑ってしまう。とりあえず安心を得るには、中の掃除をしなければならない。

 首を軽く回すと、ボクシングのレフリーが第二ラウンドの合図を告げたようにして、心の中でリングに見立てた学園へ帰投を開始した。

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