ln   作:kiarina

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6-1-3

[ NumberingTitle_外側ノ裏ノ裏_雑多ナ会話_指キリ ]

 

 六巻分

 

 ― 1 ―

 

 ニューヨーク、ボストンの一角にあるカフェの席で男は待ち人を待っていた。

 モバイル端末をいじって今日の見出しニュースを読んでいると、テーブルを挟んだ反対側の席に一人の男性が座り込む。椅子を引く音で気づき、笑顔で対応した。

「やあ、元気かいフィール?」

「ああ、おかげさまでね」

 フィールは店員にコーヒーを注文しながら席に腰掛けていく。端末の画面をオフにすると、スーツのポケットに入れる。

「尾行はあったかい?」

「ああ、平気だ。頭が筋肉で出来てる連中なんだ、内通しているのは、ばれないさ。怪しまれてる素振りもないだろう」

「そら結構だ。それで、学校の方は順調かな?」

「どうも、家主が犬を放ったみたいだがね。しかし、噛み付く相手に鼻を潰されたみたいだ」

「へぇ、なかなかやるじゃないか」

 フィールから嬉しそうに報告を聞く男は、とても愉快に笑う。

 彼らの中で、隠語が飛び交っている。学校はIS学園、家主は米軍のジャスパー、犬はジャスパーから監視の命を受けた人間を指していた。

「こっちが頼んでいる人間の方が、向こうの犬よりも優秀なのはありがたいね」

「まったくだな。俺の動きにも、家主は気づいてないようだしな」

 頼んでいる人間とは、ミア=コリンズのようにIS学園へ留学している学生の一人を指す。依頼した留学生には、同じ国の留学生達の動向をフィールに逐一報告するように伝えていた。

 フィールが先を促すために口を動かす。

「それで、情報はどのくらいたまったんだ?」

「まだまだだね、もっと資料が欲しいとこだな。家主を大衆の前に引きずり出して裁くには、時間が掛かる。もっと深いところを洗い出していかないと、周りを納得させるだけの決定打には欠けるな」

 男がお手上げのポーズをとると、フィールは野球のボールを取り出す。それを男の手に渡すと、店員が持ってきたコーヒーを啜る。

「チップが入ってる。中身は奇跡の子の生みの親に関しての内容と、実験内容の一部だ」

「危険な橋は、余り渡らない方が良いんじゃないのか?」

 フィールが「もう既に渡ってるじゃないか」と笑う。男は野球のボールを軽く握って中身の感触を確かめるような仕草をした。

 奇跡の子はサーフォ=イリノイカを指し、生みの親はティアーニ=イリノイカを指している。今日の用件が済むと、フィールが気になっていたことを聞いた。

「この前会った奇跡の子は元気だったかい、ニコル?」

「ああ、元気の塊みたいなものだからな。危うく爆発させかけて、僕の方が消し飛ばされかけた。安心していい、あの子は元気にやってるよ。可愛いガールフレンドもできたみたいだしね」

 ニコルの話を聞いたフィールが嬉しそうにする。

「本当かい? そうか、それは良いことを聞かせてもらった。最近で一番ホットな話題だよ。ニコル、この試合は出来るだけ早く終わらそう」

「そうだな。僕も子供の犠牲の上に成り立つような、病んだ国はご免だからな」

 お互いがお互いの本音を述べた。

 フィールが席から立ち上がると、ニコルも同じように席を立つ。

「ニコル、彼はこの国が嫌いだろうが、それでもここが彼にとっての生まれ故郷だ。堂々と入国させたら、生みの親の墓参りをさせてやらなきゃな。母親の眠ってる墓の場所を知らないのは、余りにも不憫すぎる」

「次に会う時は、もっと良い報告を出来るようにする。それじゃ、また追って連絡をくれ」

 ニコルが背を向けて立ち去ると、フィールは店員に会計の合図を出した。

 

 ― 2 ―

 

 忙しかった学園祭も終わり、青い未確認ISから受けた腕のダメージも完治しつつある。いつもの様に食事を食べていると、一夏と話していたシャルロットが疑問を投げかけた。

「一夏の誕生日って今月なの?」

「ああ、そうだけど」

 一夏は特に気にした様子もなく、食事を続けながら答える。そのまま当人から、幼馴染である篠ノ之と凰の方へと視線をスライドさせた。案の定だが考えなし発言のせいで、いきなり居心地を悪そうにし始めだす。

 当日は一夏を独り占めしたいだろうし、確かに言わない方が得だわな。ただし、一夏が当たり前のように暴露することが計算しきれてなけりゃ破綻だが。

 頭が良いのか悪いのか……、二人を見ながら肩を竦めてしまう。当然の結果として誕生日を知らないボーデヴィッヒだけが、荒んだ目で一夏に詰め寄っていく。

「お前は、どうしてそういうことを黙っているのだ?」

「え? いや、別にたいしたことじゃないかなーって……」

「ボーデヴィッヒ、今さらだ。知れただけマシなんだから、良かったじゃん?」

 一応のフォローを入れておく。一夏が「今さらってどういう意味だよ?」と聞いてきたが、朴念仁は自分で気づくしかない。しかしながら、ボーデヴィッヒも女性なので、蔑ろにされたことで苛立ち始める。

「わかってはいるが。だからと言って、知ってて黙っている人間がいるという状況もな」

「別に隠していたわけではない、聞かれなかっただけだ!」

 おいおい篠ノ之、自分の首絞める言い訳してどうすんだよ……。

「そ、そうよそうよっ! 聞かれもしないのに喋るとKYになるじゃない!?」

 駄目だこいつら……、濁し方が下手糞すぎる。

 苦しすぎる言い訳は虚しさだけを醸し出し、二人は誤魔化すように食事を再開していく。俺は入れ替わるようにして、呆れ顔に口を開いた。

「でもさ、自分からボーデヴィッヒに教えてやるのは、大事なことじゃない?」

「なによ、喜久ったら随分とラウラの肩を持つじゃない。怪しいわね、まさかそういう関係なわけ?」

 凰が勘繰るようにして突っかかってくる。

「フェアじゃないだろ?」

「あんたが正論を吐くのが、異様にムカつくわね……」

「だったら俺より大人になるこったな?」

 凰は「その憎まれ口がさらに腹立つわね」と言うが、特に気にせず食事を再開していく。

「そういえば、喜久って誕生日はいつなの?」

「そうですわね。私としたことが、ついうっかりしていました。喜久さん、教えてくださいな?」

 セシリアとシャルロットが、俺の生年月日を聞いてくる。

 実は自分も知らないなんて言えないものな。今の決まってる誕生日だって、確定させたのは姉さんだし。

「あれ、言ってなかったけ? 俺の誕生日は三月だから、もう終わってるよ」

「だったら、お祝いするにしても来年だね」

「わかりました。喜久さん、来年は楽しみにしててください」

 どんな時でも、自分のことを祝ってくれる人間がいるというのは嬉しい。素直に二人へと感謝の意を示す。

「二人ともありがとな。一夏、話戻すけど、お前の誕生日って九月の何日なんだ?」

「二七日だよ。中学のときの友人が俺の家に集まって祝ってくれるんだけど、みんなも来るか?」

 一夏がいつものスマイルで問いかけてくる。

「行くに決まっているっ! 一夏、何時からやるのだ?」

 篠ノ之が聞くと、今度は少し困った顔をしだした。

「四時くらいからなんだけどな。でも、当日はキャノンボール・ファストがあるだろ?」

「そうだな」

 俺が他のメンバーを代表するように返答した。

 キャノンボール・ファストは誰が考えたのか、ドラッグレースまがいのIS版みたいなものだ。ようは高速スピードレースなのだが、一点だけ確実に違いがあるとすれば、兵器類で相手を妨害して良いという凶悪極まりないルールがある。

 派手で見栄えが良いが、やることになるであろう身としては怪我をしたくない。俺は実践訓練での結果が出ているのために、キャノンボール・ファストは最下位で楽をしたいと思っていた。

「そういえば、明日からキャノンボール・ファストのための高機動調整を始めるんだよな? あれって具体的には何をするんだ?」

「ふむ。基本的にはパッケージのインストールだが、お前の白式には無いだろう」

 一夏の疑問に感じた発言に、ボーデヴィッヒがフォークで指し返しながら答える。白式はブラックペタルと一緒で、他の武装等を嫌う傾向があった。

 というか、俺が預かっているISを製作した半縄は、どうみてもまともな武装を造る気が無い。笹崎が管理と指揮をとっているのだが、そのおかげでIS武装には良くも悪くも武器という概念が殆ど存在しなかった。

 一夏が唸るように悩みながら、白式の調整を頭の中で試行錯誤している。シャルロットも会話に参加していたが、知恵熱を起こしていた一夏がふと何かに気づいてセシリアの方を向きだす。

「確か高機動パッケージっていうと、セシリアのブルー・ティアーズにはあるんだったよな?」

「ええ、そうですわっ! ブルーティアーズには主に高機動戦闘を主眼に据えたパッケージ、『ストライク・ガンナー』が搭載されていますっ!」

 セシリアが席から立ち上がって誇らしげに答え、それを横目に聞きながら思考に耽る。この前に遭遇した青い機体との戦闘で、自分の機体が弾き出した馬鹿げている速度を思い出す。ぺタルが一〇枚の速度までならギリギリで制御可能だが、最大枚数に当たる一二枚は、流石に自身の力量だけでは持て余してしまう。なので、最大速度の際には、単に曲がること自体が難しいだろうと予想できた。

 現に青い機体へ蹴りを入れられたのは、真っ直ぐにしか動いていなかったから可能だったし。まあ、キャノンボール・ファストはビリで良いからのろのろとゴールすればいいか。

 ――久はどうするの?」

「え? なに?」

 突然シャルロットに話題を振られ、何の話をしているのか聞き返す。

「もう、みんなが話してることはちゃんと聞こうよ。喜久のISはキャノンボール・ファストの際に、どうやって機体を高速化させるつもりなの?」

 話を聞いていないと頬を膨らまして怒っているが、彼女の場合は笑顔でにじり寄ってくる時の方が怖い。本人にサドっぽいと言ったら、きっと拳骨をくらう。

「そうですわね。半縄は何か追加のものを用意されているのですか?」

 セシリアが重ねるようにして、ISについて聞いてきた。

「ああ、それはアタシも興味あるわね。あんたの機体って、コンセプトがかなり尖ってるもの。どうするつもりなの?」

「喜久、お前は何を使って速度を出すように調節を行うのだ?」

 便乗するように篠ノ之と凰も聞いてきた。

 こっちとしては調節も何も、どうしようも無いんだけどな。

「無難な答えはアナログ時計様にお願いだな?」

【私に振られてもね。笹崎も特に何も考えてないと思うわよ。実績だけをまともに出してれば、彼女自体は自分のやりたいことだけに没頭してるだけでしょうから。さいわい喜久は千冬に怒られて実践訓練の結果だけは残すようにしているのだし、一つくらい落としても問題はないでしょうね】

「だとさ」

 ティアーニのまるでやる気の無い、ドライな発言に専用機持ちの一同が呆れだす。自分たちの試行錯誤を無碍《むげ》にされるような発言をされれば、そら嫌にもなる。気まずい雰囲気を造るのもあれなので、しょうがなく適当に答えることにした。

「ティアーニがアップデートされただろ? ペタルの張れる量が二倍に増えたら、孔雀の羽みたいな状態で羽ばたきながら移動できる感じにはなったよ。速度計測なんてしてないけど、福音の第二形態並くらいには、スピードが出せるようになったんじゃないか?」

 言った瞬間、その場にいた全員がさらに呆れた顔をしだした。

「喜久は何の努力もなしに、ズルばかりが上手くなっていくよな」

「あんたって、ほんとにやること全部が無茶苦茶よね」

「喜久は僕たちのやる気を無くさせるのが、ほんとに上手だよね?」

 お前らそれは言いすぎだ。ISが勝手にパワーアップしただけで、俺は何もしてないだろうに。なんで、そんなに叩かれなきゃならないんだよ。

「喜久さんは本当に運任せの人生ですわね?」

「お前は発言のたびに、男の格を無くし続けていくな」

「喜久、お前はまさに自堕落の象徴だな?」

 ボーデヴィッヒ、お前の言葉が毎回一番酷いのはなんでだ?

 場を和ませることに失敗し、余計に集中砲火を浴びてしまう。失言をしたことに後悔した。

「そう言えば一夏、あんた生徒会からの貸し出しはまだなの?」

「ん? 何か今は、抽選と調整をしてるって聞いたぞ」

「ふーん……」

 凰が一夏に部活動派遣が決まったかを聞く。他のメンバーも話題をそちらにシフトさせた。

 調整ね。要望と取り合いが熾烈そうだな。

「そういえば、みんな部活動に入ったんだって?」

 そうだね。俺の場合は強制的にだけどな。

 一夏の言葉にげんなりし、篠ノ乃が無意味に胸を張る。

「私は最初から剣道部だ」

 竹刀を振り回す本人を思い浮かべる。両手に持つ竹刀が凶器に見えた。屋外で振り回し、一夏を追いかけ青い服の人に補導される光景を思い浮かべてしまう。

「やりかねないな」

「なんだ、喜久?」

「いんや、なんも」

 篠ノ乃から疑うようにして見られたが、俺は両手を上げて他意も無く答える。一夏が続けて凰へと話を振り出す。

「鈴は?」

「ラ、ラクロスよ」

「へえ、ラクロスかっ! 似合いそうだな!?」

 褒められた本人が照れ臭そうにして、はにかみながら笑顔になる。

「ま、まあね。あたしってば入部早々、期待の――

「おい一夏、お前の言葉が足りてないぞ。本当は棒を振り回す原始人みたいだって思ってんだろ?」

 どうも当たりだったらしい、一瞬にして一夏の顔が青くなりだす。その様子を見たラクロス部員が、勢い良く立ち上がる。

「ぬあんですってぇえええええ!?」

「ま、待て鈴!? 痛ってぇ!」

「ぐあ!?」

 凰から拳骨が飛び、二人揃って頭にくらう。一夏が横目で恨みがましく見てくるが、半分はお前にも非があるだろと無視した。

 怒れる鬼が、ドスンと勢い良く腰掛けなおす。

「フンッ!!」

 剥れたまま一言も発さなくなった。お前が何とかしろよと訴えてくる一夏の視線をスルーする。奴は二秒ほどした後で諦めたらしく、凹んだままにシャルロットへと話題を振りなおした。

「で、シャルは?」

「僕は学園祭投票で二位っ! の料理部だよ」

「くっ!」

 わざわざ二位を強調する部分が、セシリアへの嫌がらせにしか見えない……。

 シャルロットが嬉しそうにして、セシリアが悔しそうにする。そして俺がげんなりした。

「日本料理も覚えたいしね、喜久と一緒に頑張ろうと思ってるよ」

「俺はサボらせてもらいます」

「喜久はサボったら、別の部屋へ行くことに決まってるから。それだったら料理部の方がマシだと僕は思うけど?」

「え? なにそれ?」

 寝耳に水な話だ、思わず聞き返してしまう。そこでボーデヴィッヒが横から喋りかけてきだす。

「喜久」

「ん?」

「お前が部活動をサボった場合だがな。茶道部の顧問である教官が、茶室でしばらくの間は正座をさせるそうだ」

 ふざけんな、誰だそんなの決めた奴っ!!

 ボーデヴィッヒが教官と呼ぶのは一人しかいない。見れば、一夏が憐れみの表情を俺に向けていた。

「おいおい、なんでそうなる……」

「会長であるあの女が、そうするようにと指示を出したそうだ」

 更識ぃ! お前どこまで俺を弄り倒せば気が済むんだぁ!!

 俺は完全に脱力してテーブルへ突っ伏した。そうしている間に話題が進み、冬休みのことへと変わっていく。横から話を聞いていると、海外勢の人間は全員日本に残るらしい。

「そういえば、喜久はどうするんだ?」

「実家は雪が大量に降るからさ、雪下ろししないとな。車で少し移動すれば、スキー場もあるけど。俺は実家でコタツに丸まって、みかん食べながら惰眠を貪って天国を満喫するよ」

 一夏に聞かれて答えると、セシリアとシャルロットが身を乗り出しくる。二人の目がすごんでいると、嫌な予感しかしない。

「冬休みに僕は喜久の家に泊まるから。良いよね?」

「私は既に、お姉様からお許しを頂いていますので。喜久さん、今年は喜久さんの家で新年を迎えさせて頂きます」

「辞めて下さい。前回の悲惨すぎる目に会うのは、もうたくさんだ」

 夏休み中に掃除のため実家に帰ろうとしたが、セシリアが無理やりくっついてきたために予定が大幅に狂う。そしてシャルロットまで乱入して、二人の争いが始まったのだ。俺の部屋は二人の強引なIS展開によって、見るも無残に荒れ果てた。

 嵐の去った後の部屋を掃除したが、気に入っていたジッポーと灰皿がBT兵器に焼かれて消し炭になる。そして部屋を二人にガザ入れされて、隠していたエロ本を全部庭で燃やされた。

 野焼きは駄目だと反対したが、二人の前にはその言葉も無力と化す。寝床に関しても結局すったもんだの末、俺がホテルに泊まって終わった。

「箒は神社の手伝いをするのか? 夏休みもしてたよな。また終わったら一緒に――

「ば、馬鹿者!」

「いてぇ! な、何すんだよ!?」

「う、う、うるさい! 軽々しく言うな!」

 死に掛けている横で、篠ノ乃が一夏を叩く。そして、この後で凰とボーデヴィッヒが一夏にどういうことなのか理由を話せと締め上げていた。

 

 ― 3 ―

 

「よくもやってくれたな更識。言いたいことがあるが、その前に何であんたがこの部屋にいんだよ……?」

「おかえりなさーい。あ、お邪魔してるわよ」

「楯無さん……」

 一夏と二人で自室に戻ると、当たり前のように更識がベッドで寝転がりながらファッション誌を読んでいた。

 後ろに続いていた一夏が、がっくりとうなだれていく。おかしい、もうこれ以上は部屋に入り浸る必要がない筈なのにと、俺は頭の中で考えながら泣きそうになってしまう。

「鍵は掛かってた筈だぞ、どうやって入ったんだよ?」

「ああ、それならこれで開けたわっ♪」

 疑問をぶつけると、更識が鍵を一つ取り出した。奴はそれを手のひらの上で、俺と一夏にわかるように見せる。

「この寮のマスターキーだから、どの部屋でも開けられるのよ」

「おい、今すぐそれを寄こせ。そんな人のプライベートを奪うようなもんは、今すぐ俺がへし折ってやる」

 更識のふざけた回答に、急激なストレスを感じた。ボーデヴィッヒも同じようなことをしてドアをピッキングしたが、痕跡が残らない更識のほうが明らかにたちが悪い。

「これは一応借り物だから、よっちゃんの要望に答えるにはちょっと難しいわね。それにしても、一夏くんと同じような反応がないのは、やっぱりおねーさんとしては悲しいかな~」

「あ、あのですねぇ! スカートで、足をパタパタしないでくださいよ!? イヤでも見えちゃうじゃないですか!?」

「ふーん、見えたんだ?」

 更識の挑発に一夏がうろたえだす。

「一夏、更識は愉快犯タイプだ。お前の反応で余計につけあがるぞ? お前はいい加減、この人の嗜好性を読み取れよ」

 そう言って、俺はズボンのポケットから携帯を取り出す。カメラモードにして更識の方へ向けてやる。パシャリと部屋の中で音が鳴った。

「あは、よっちゃん。盗撮はいけないわねっ♪」

「うるせぇ、こっちはいい加減にして欲しいんだからな。今すぐその行動を辞めないと、ネット中にお前のパンチラ画像を流すぞ?」

 撮った写真を見せるために、携帯をひっくり返して更識に見せる。

「あーん、一夏くんよっちゃんを止めてー」

「楯無さん、少し反省して下さい」

「そういうことだ、俺は損しないからな。好きなほうを選べ」

 

 

 

 

 

 流石に二人に反抗されては立つ瀬もないらしい。更識は素直に応じて行為を辞めた。俺と一夏は溜息を吐きながら、適当な場所へと座っていく。

「あんたはまどろっこしいんだよ。一夏で遊ぶにしても、せめて用件を終えてからにしてくれ」

「喜久、なんでそうなる……」

 一夏が俺に非難の声をあげる。

「そうね。ちょっと真面目なお話をしましょう。非公式な情報だけど、先刻アメリカのIS保有基地が襲撃されたらしいわ」

 なんだと?

 思わず、予想外の知らせに心が躍る。ミアの件では時間を稼いだと思っていた。

 しかしそんなことがあったなら、軍が俺に対して割ける時間の余裕はもっと少なくなるはずだ。

「は、そいつは嬉しいニュースだな?」

「よっちゃん、人が怪我をしているのよ。気持ちはわかるけど声に出すべきじゃないわ」

「ああ、そうだな。話を切って悪かったよ。それで?」

「犯人は学園祭を襲撃した組織と同じね。狙いはISの本体強奪。一夏くんもよっちゃんも、自分のISを奪われないように注意してね?」

 更識が少し声のトーンを落とし、警戒するように俺と一夏に告げた。

「警戒するってのは組織をか? 油断する気はないけど、俺が戦闘した奴は俺よりIS操縦の腕が下に見えたけどな。機体の相性ももちろんあるが、あんな奴らに捕まる間抜けがいるのかよ?」

「喜久、その間抜けは俺のことを指しているのか?」

 え……、お前は捕縛でもされかけたの?

 思わず一夏の方を見ると、奴がイライラしながらこちらを見ていた。

「……サルも木から落ちることがあるよな?」

「今更遅いぞ……。はぁ、二回も同じ手はくらいませんよ」

「よろしい、男の子はそうでなくっちゃね。私が惚れちゃうくらい良い男になってね」

 更識が惚れるくらいの良い男を連想する。奴のからかいを簡単に流せるだけの度量のある人間なんているのか、軽く考えてみた。

 一夏も同じようなことを考えてるのか、顔が悩んだ表情になっている。

「あら、おねーさんの心配? 大丈夫よ。私だってただの女なんだから、収まるところに収まるものよ」

「はぁ」

 微妙な返答に、一夏が一応の言葉を漏らす。

「案外、一夏くんを好きなったりしてね」

「ははは」

 空返事と空笑いで返す一夏に、更識は少し不満そうにして頬を膨らました。真面目な顔を見せた更識を思い出し、自分の考えを奴に述べることにした。

「頭で現実主義って割り切ったら、人間らしくないだろ?」

「あら、よっちゃんは情熱的な方がお好みなのかしら?」

「俺はそっちの方が、断然良いね」

 素直な回答に、更識が意外とばかり驚いた顔をする。構わす話を続ける。

「誰だって、自分に嘘ついて後悔するような人生はごめんだろ? 更識さんは更識さんの立場があるだろうけどさ、俺は後悔のないほうが良い」

「よっちゃんは、この手の話は余り好きなようには見えなかったけれど。考えを聞かせてくれてありがとう、是非とも参考にさせてもらうわ」

 更識が嬉しそうに答えてファッション誌を閉じた。

「打てば響くんだから、更識さんが真面目に話すなら俺も合わせるよ」

 何かおかしなことを言ったのだろうか、一夏が俺の方を見て驚いていた。

「お前、前にバストとヒップがでかいだけの女性が良いとか言ってなかったか?」

「……一夏、お前はあれを本気にしてたのか」

 呆れていると、更識が手をぽんと叩く。

「なるほど。そっちの回答のほうが、よっちゃんらしいわね」

「……あんたがどんな目で俺を見てるのか、だいたい想像がつくよ」

 そんなに色欲塗れだったら、初日にセシリアを襲って退学してるだろうが。俺はそこまでガッつかねぇんだよ。

 げんなりしていると、出入り口のドアからノック音が聞こえてきた。

「喜久、入って良いかな?」

「ああ、どうぞ」

 シャルロットの声に俺が返事をして、彼女が入室してくる。そして更識が見えたところでフリーズしだした。

「え……、三人で何してたの?」

 更識が笑顔で軽く手を振り、俺が適当に答える。

「雑談だよ、どうした?」

「喜久、先輩はもう部屋に居ないって言ってなかったっけ?」

 これだから女子は面倒臭ぇ……。

 シャルロットが明らかに不機嫌になり始めて、少し呆れ顔をしながら更識のほうへと顔を向ける。

「マスターキーでどこの部屋でも入りたい放題だそうだ。どうせなら、追い出すのを手伝ってくれないか?」

「先輩、喜久の部屋に入りたい放題というのは本当ですか?」

 あれ?

 意見に追従すると思いきや、シャルロットは全然俺の望んでいない、別のレールを走り始める。

 やめろ……、これ以上ボーデヴィッヒみたいなのが増えるのはごめんだ。

「本当よ。会長権限で私が持っているのだけど、時々シャルロットちゃんにも貸して上げるわよ?」

「やめろ! 一夏、お前も止めろ!?」

「諦めろ喜久、楯無さんには何を言っても通じない」

 一夏、お前は何で更識に懐柔されきってんだよ……。

「更識、もしシャルロットに貸してみろ。さっき撮った画像は即日で世界中に発信してやるからな?」

「あら、それは困るわね。ごめんねシャルロットちゃん」

「大丈夫です、ちょっと言ってみただけですから。それに、そんなことまでしたら喜久に嫌われそうですし」

 溜息を吐きながら、更識の画像データを密かに削除した。

「それより喜久、ちょっと良いかな?」

「ここじゃまずいのか?」

「部活動のことで相談があるんだよ。先輩、少し喜久をお借りしますね」

「ええ。大丈夫よ、私もそろそろ失礼させてもらうわ」

 そう言って一夏を残して三人で部屋の外へ出る。更識が去り際にシャルロットへ話しかけた。

「そうそう、シャルロットちゃん?」

「なんでしょうか?」

「よっちゃんは情熱的な恋愛が好きらしいわよ」

「おい!?」

 今ここでそんなことをシャルロットに言うんじゃない!!

 俺が更識の方を睨むと、愉快犯は嬉しそうにして歩き去って行った。

 気まずいままにシャルロットの方を向けば、当の本人は「え?」っといった表情をし出している。

「……喜久って、胸とお尻が大きい女性が好みじゃなかったの?」

「シャルロット、お前もか……」

 一夏に続き、シャルロットも俺の冗談を鵜呑みにしていた。

「それで、部活動がどうとかって言ってたけど?」

「ああ、それは違うよ。本当は一夏の誕生日を選ぶのに一緒に出かけようと思って、喜久のことを誘いに来たんだ」

「そういうことか。だったら、もう二人ほど誘うべき人間がいるな」

 いうと、明らかにシャルロットが不満そうな声を漏らす。

「えー、僕としては喜久と二人で行きたいんだけどな?」

「じゃあさ。ボーデヴィッヒって、どんなプレゼントを一夏に渡すと思う?」

「……なんだろう?」

 シャルロットの視線が泳ぎ苦笑いになる。俺の予想はごつそうなナイフ類が連想された。

「せめて、まともなものが一夏にいったほうが良いだろうし。その方がどちらにとっても、良いことだろうと思うんだよな」

「そうだね、ラウラに予定が空いてるか聞いてみるよ」

「後は、根を詰めすぎてる人間だな。たまには気分転換も必要だろ?」

 俺が言うと、シャルロットも納得したらしく二人でセシリアのことを考えた。

 どうせ今日も訓練に明け暮れてるに違いない。俺には、今の彼女はガス抜きが必要だと考えていた。

「セシリアの方は、俺が誘ってみるよ」

「わかったよ、当日は四人で買い物に行こうか。ところで喜久さ、さっき先輩が言っていたことは本当?」

 シャルロットが頬を赤く染めながら、指をもじもじさせて聞いて来だす。正直、この手の話は面倒臭くてしょうがない。それでもしょうがなく、溜息を吐きながら答える。

「そうだな、なんでもそうだけどさ。良くも悪くも後悔だけはしたくない選択って大事だと思わないか?」

「確かにそうだけど。喜久、それじゃ僕の欲しい答えになってないよ?」

「ようはさ、俺の場合は好きな相手を自分で選びたいくらいの我侭があるってことだよ」

 ちゃんとした回答に、シャルロットがさらにドギマギした表情になっていく。

 こんな表情で言い寄られたら、大抵の野郎はくいつくな。

「えーっと、喜久の中で、僕は、ど、どの位置辺りにいるのかな?」

「……はぁ。あんまりさ、こういう類の話は苦手なんだけどな」

 そう言ってシャルロットの頭を軽く撫でた。シャルロットが俺の行動に思わず戸惑った表情になる。

「え?」

「俺にとってはシャルロットは高嶺の花だよ。俺はね、普通の人に比べて人生が短いから、一緒になった相手を不幸にすることしか考えられない。この考え方は今後に出会う、誰と一緒になっても変わらないと思う。まあ、暗い話はしないに限るからな、俺の恋愛観を話すのはこれくらいで良いだろ?」

 普通に考えてみれば、俺が死んでから結婚相手を向こう六〇年近くも未亡人にしちまう。相手は耐えられないし、何より俺自身はもっと耐えられないだろう。そんな自信もなにも、到底ありゃしない。

 シャルロットの肩を軽く叩き、自分の部屋に続くドアを開けた。

「一夏、ちょっと早いけど食事に行くぞ!?」

「ああ、わかったっ!」

 部屋の奥から一夏の声が聞こえた。

「喜久?」

「ん?」

「喜久が僕を離したくないと思うくらいに、必ずさせるから。そうなった時に僕がそっぽを向いて、喜久が悲しむことになっても知らないからね?」

「それは恐いな、生殺しにするつもりかよ?」

「うん、そうだよ」

 シャルロットが微笑み、俺もつられて笑ってしまう。本当に良い仲間に巡り合えたものだと、心の中で素直に感謝した。

「指きりしようか?」

「なんで?」

「いいから、喜久は手を出して」

「はい?」

 手を差し出すと彼女が言葉を紡ぐ。

「無事に卒業した時に喜久の気持ちが変わってること」

「おいおい、そんな約束できないぞ?」

「指きりげんまん、ウソついたらクラスター爆弾のーますっ♪ 指切ったっ♪」

 誰だ、シャルロットにこんな指切りの仕方を教えたのは…………。

 俺が止める前に、思わず呻きそうな内容の指切りが行われた。明らかに針千本より強力そうな、言葉の言い回しに口元が引きってしまう。

「二人とも何やってんだ?」

「ああ悪い、準備が終わったなら行くか」

「今日はなにを食べようかな。一夏は決まったの?」

 シャルロットが一夏に質問をし、二人の後に続くようにして歩き出した。

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