ln   作:kiarina

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[ NumberingTitle_モウ1人ノ男子_本人ノ実力_候補生ノ気持チ_5月ノ転入生 ]

 

 ― 4 ―

 

 

 学園に来て二日目の朝。起きるとオルコットの寝息が聞こえてくる。眠気眼のままにボケた頭を抱えて、静かに着替えてから部屋を出た。

 目指すは空腹を満たす場所である食堂のラウンジだ。朝食の時間には幾分か早かったが、そっちの方が都合が良かった。

 昨日の昼から一食も取ってない。結果、腹が鳴りっぱなしの状態だった。

 俺は一つの内容が女子の間で話題に挙がると、伝播するのが早いと思っている。それが、面白い話題であればあるほどだ。きっと、今頃は俺に関する噂が広まっているのが予想できる。もちろん、当たり前だが悪い意味で浸透して伝わっているにちがいない。

 食堂のラウンジまで歩いていくと、配膳を取って適当な席に着く。朝食を取り始めると、昨日殴られた箇所から鈍い痛みが走った。

 周りは朝から部活動があるであろう、数人の生徒だけが疎らに座っているのが確認できる。ゆっくり食べていると、だんだんと生徒の数が増え始めていく。

「横、空いてるか? 確か市隈で合ってるよな?」

 顔だけを動かして横を見ると、織斑 一夏が手に朝食の膳を持ちながら俺を見ていた。

 次いで、なにか痛そうなものを見たようにして顔を顰めている。隣で一緒に食堂へ来たであろう女子も、意外なものを見たようにしていた。

 思わず口に手を当てて驚いた顔をしている。俺はと言うと、片方の頬が青みがかっていた。

 そして、その上から絆創膏を貼って痣を誤魔化している状態だ。

「……頬のところ、どうしたんだ?」

「お前のねーちゃんに殴られたんだよ。三発目には、腹へ喰らって気絶した。随分鍛えてんのな、あの人。久々に良いのもらったよ」

 笑いながら話すと、織斑弟もつられて苦笑する。「千冬姉は怒らすと怖いんだよ」と言った。

 なんか傍目から見ても、この弟は姉と随分性格が違っているらしい。織斑弟と連れの女子が、俺の対面に座りこんで朝食を取り始めていく。

「あー、えっと……」

「一夏でいいよ」

「そうか。なら、俺も喜久でいいから」

 一夏がフレンドリーに話し掛けてくるのを見ると、俺の中で気さくなタイプなのかと適当にあたりをつける。せっかくなので、連れ添っている女子にも話し掛けることにした。

「そっちの人は? 悪いけど、昨日はごちゃごちゃしてて、なにも覚える余裕が無かったんだよね」

「篠ノ之 箒だ。呼び方は適当で良い」

 二人とも根っからのお人よしなのか?

 篠ノ之が俺を悪印象に捉えていない話し方で接してきた。

 なぜ昨日の授業のことで自分に嫌悪感を持たないのかと疑問がわく。そんな事を考えていると、ふいに篠ノ之が話し掛けてきた。

「昨日は織斑先生と、なにかあったのか?」

「寮の部屋の入り口で同室の奴と一悶着あって、そこに来た一夏のねーちゃんと更に喧嘩になったんだよ。けど、ワンサイドゲームで三発喰らってノックアウトだ。お陰で顎が痛くて上手くご飯がかめない」

 これは、三日は柔らかいものの世話になりそうだ。

「まあ、喜久は昨日あれだけIS批判してたからな。あんまり良いイメージは、持たれてないかもな」

 一夏が欠伸をかみ殺しながら適当に答えると、コップに注がれた飲み物を口から注ぎこむ。俺も痛む顎を我慢しながら適当にパンを噛み千切った。

「市隈、同室の相手と言うのは誰だ?」

 当然のように篠ノ之が疑問の言葉を投げかけてくる。

「ああ、高慢ちきのイギリス人だ」

 二人揃って『げっ』となり、俺のくじ運の無さにご愁傷様といった表情を浮かべている。そこで、いきなりコツリと頭を硬いもので軽く叩かれる感覚がした。

 一夏と篠ノ之の顔が変わり、少し頬が引きつっている。何事かと振り返って見ると、とても作り笑いしてますといった表情のオルコットが俺を見下ろしていた。

「おはようございます、なにやら私の話しをしていたようですが。なにを話されていたのです?」

「なんだよ。俺は、お前のいびきが酷くて寝れないって話しをしてただけだ」

「へぇ、そうですか。てっきり、私は貴方が屋上でしていた行為をそこの野蛮人にも勧めているのかと思いましたわ」

 このやろう……。

 お前、俺に対しての切り札を切るのが早すぎだろ。こっちが見せた弱みをどこで使ってくるのか、駆引きの仕方を見てみたかったのに。どんだけ気が短いんだよ。

 少し呆れた表情が顔に出ただろうが、特に気にしないことにした。

 オルコットの奴が今度は心底嬉しそうにしている。俺の呆れ顔を嫌そうにしている表情ととったのだろうか。

 最後の一口を食べ終えると席を立つ。だが、オルコットは立ち上がると同時、俺の両肩に手を置いてきた。

 一夏と篠ノ之も状況が掴めずに、一体なんだといった表情をしている。

「私はこれから食事なのですが、膳を取りに行って並ぶのが些か疲れますのよね。取ってきてくれません?」

「そんくらい、自分でやれや」

「あら、外を見れば今日はとても晴れていますのね。どのような場所でも気持ち良く過ごせそうですわ。それが、人の目の届かない所だとしても。ねぇ?」

 どんだけ揺さぶるつもりだ、このやろう。

 俺は中指だけを立てながらオルコットの顔面へと持っていく。

「お前、絶対に後ろから刺されるタイプだろ?」

 俺は捨て台詞を残してトレイを持ち上げると、一夏と篠ノ之は理解が追いつかないといった表情でぽかんとしていた。

 しょうがなく、イライラを溜めながらもう一度生徒が並んでいる配膳列の方を目指すことにする。

「それと」

「あん、まだなんかあんのかよ?」

 首を捻って顔だけオルコットに向ける。

「私の名前はセシリア=オルコットです。お前ではなく、オルコットとお呼びなさい」

「めんどくせぇ、やってられっか」

「ついでにタ・バ・スコもとってきてくれません?」

「わかったよ、オルコットッ!」

 半ばやけくそ気味に答えて生徒の並んでいる列へと向かう。そして、まったく可愛げのない対応をしてくるオルコットに対して、俺は不快指数を思い切り強めていった。

 

 

 ― 5 ―

 

 

 次からは絶対に弱みを見せねぇぞ、クソッタレが。

 あれから一週間、俺はオルコットの良い奴隷と化していた。

 毎日毎度毎回と、ことあるごとにに煙草を吸っている事をちらつかせてくる。ストレスのせいで、持ってきていた煙草の一箱が僅か三日で底をついた。

 そして、今日は今まで溜まったものを吐き出すための逆襲日を迎えている。そんな対戦当日の現在、俺は格納庫で二種類の機体を見て回っていた。

 両方とも量産機で鎧武者みたいなのと、角張ったボディラインの多い変形ロボットみたいなのだ。ISが嫌いなはずの俺は、見るのもごめんなそれらの名前を知っていた。

「打鉄とラファール=リヴァイヴの好きな方を選べ。国家代表候補であるオルコットに対してだがな。ひよっこ同然のお前が、一体どう勝つつもりでいるのかの根拠は正直わからん。しかし、あれだけの大口を叩いたのだ。勝つ算段がついているのであれば、結果で見せてもらう」

「わかりました。で、どこまでやっていいんすか?」

「どういうことだ?」

 織斑姉は怪訝そうな顔で此方を見ていた。思ったままのことを正直に告げる。

「相手が骨折するだけの攻撃をして良いのかってことです」

「駄目だ、これは戦闘ではない。少しは常識的に発言しろ、馬鹿者が」

 拳骨を振り下ろされてもろに喰らう。頭に響く痛感覚が一瞬だけ、昔に嗅いだ硝煙の臭いを脳裏に蘇らせる。小さい頃は拳を頬に喰らっていて、俺の性格を矯正しようとしていた女性がいた。

 が、そんな彼女はもうこの世にいない。ラファール=リヴァイヴの前まで来ると、手を触れてISを感じる。三年前まで毎日感じていた名残。そして、IS学園の入学試験で体感した感触が、俺の感覚を外界から覆うようにして支配した。

「こっちにします。武装は自由に選んでも?」

「良いだろう。山田先生、レクチャーしてやってくれ」

 織斑姉から指示を受けた山田先生がこちらに歩いてくる。

「市隈君、良いですか。武装を選ぶのはこちらのパネルに触れてください」

「ああ、大丈夫です。自分でわかりますから。予習したんで」

 そう言って、俺は当たり前のように作業を進めていく。なんてことは無い、昔いたところで使ったことがあるだけだった。

 当時はISの基本操作の反復運動を体に染み込むほど教え込まれている。整備ミスや操作手順ミスの結果は、イコール自分の死に直結していた。

 だから操作の仕方も知っている。淡々と作業をこなしていく横で、山田先生が感心したような表情で画面設定を覗き込んできた。

「随分手際がいいですね。……まさか、ISを扱った事があるんですか?」

「いいえ、マニュアル通りやってるだけです」

 覗き込んでいる途中で突然、山田先生が「えっ?」と言う声を上げる。気になったのか、離れていた場所で見学していた織斑姉が俺の方へとヒールを鳴らしながら近づいてきた。

「ほう、長距離用のスナイパーライフルを三丁だけで、エネルギー弾のストックを積み込めるだけとわな。思いきった行動だな、相手が遠距離特化型なのに自信があるのか?」

「あるとか無いとか関係ありませんよ。俺は自分がやり易いように武器を選んだだけです。もう乗り込みますんで」

 「そうか」と、織斑姉が言って山田先生と一緒に機体のから距離を取る。俺は首を軽く捻って回すと、軽い準備運動の後で機体に背を預けた。

 金属が体を覆っていく。まるで、強固な檻に閉じ込められていくような感覚になった。

 機械の駆動音と共にピットのハッチが開いていく。射し込む日の光は眩しく、思わず顔を顰めてしまう。

 段々と目が慣れると、外気の臭いが部屋に溜まっている微かな埃の臭いを塗り潰していく。一夏ならワクワクするだろうが、俺にはそんな感慨は沸かない。あるのは――

 ――――あるのは、頭を過ぎり続ける悪夢のような思い出だけだ。

「この試合で勝ったほうが、織斑と試合するんすよね?」

「そうだ」

 織斑姉に聞くと簡潔に答えられた。

 試合の展開上で一夏の奴は専用機がまだ届いておらず、結局このまま俺とオルコットが先に試合をすることになる。ハッチが開ききると、俺はラファール=リヴァイヴを地面から切り離して宙に浮かせた。

 そのままゆっくりと前進して、アリーナへと足を踏み入れる。頭上を見上げれば、視界にくっきりと映える青が基調のシルエットがこちらを見下ろしていた。

 画面にブルーティアーズの名が表示されている。

『逃げださずに来たことは、誉めて差し上げますわ。降参を言われるのでしたら、今だけは見逃して差し上げましてよ?』

 降参なんて、冗談にも程があるだろ。

「クソ教師に言われてから考えたんだけどな。お前の中での常識的な決闘ってのは、負けた奴がどんな状態になれば終わりになんだ?」

 俺はオルコットに先の言葉を促す。

『もちろん、地面で無様に這ったときですわ。まあ、それをするのは私ではなく貴方ですが?』

 なかなか良いことを言う。同感だ、俺もそれぐらいやらないと納得がいかなかったところだ。その透かしきった笑顔を泣きっ面に塗り替えてやるよ。

『あらあらいけません、私としたことが軽率でしたわ。既に貴方は這いっぱなしでしたわね、下僕さん?』

 予定変更だ。絶対に、こいつの笑みを後悔の二文字に変えてやる。

 ち、しっかし運が良い奴だな。

 ――実践だったら本当に半殺しにしてやったのに……。

 ビーっと、ブザー音が鳴り響くと同時、俺とオルコットの機体が素早く移動を開始した。

 

 

     ◇

 

 

 俺は満身創痍のような状態で、地面にめり込んだまま頭上を見上げている。そこには、空の色に保護色で紛れそうな青い機体が空中を漂っていた。

 浮いているオルコットが、余裕とも不敵ともとれそうな笑みを浮かべながら。

『口ほどにもありませんわね。まあ、挑んできた勇気だけは誉めて差し上げます。ワンサイドゲームで物足りませんが、これで終わりです。私を引き立てる為に華々しく散りなさいっ!』

 上空でオルコットのブルーティアーズが、ライフルの銃口をこちらに向けた。

 視界端に写っているエネルギー残量を確認する。

 五三か。まあ、腐ったハンデにはこれくらいで充分だろう。瞬時加速《イグニッション・ブースト》は一回程度しか使えないが、それだけあれば余裕だ。

 俺は起き上がると、スナイパーライフルの銃口を無造作にオルコットへと合わせ――

 ――引き金を引いてブルーティアーズのビームをこちらのレーザーで相殺した。

『なっ!?』

「驚くなよ。これくらい射撃に特化した人間なら、朝飯前だろ?」

『くぅ、まぐれに決まっていますわっ!』

 オルコットは叫んで武器を乱発し始める。一、二、三、四、五、六発。奴から撃ち放たれるビームに対して、こちらのレーザーが難なく追従していく。俺は欠伸をするような感覚で相殺作業を行う。

 すると、きりがないと感じたのか他の武器らしきものを射出し始めた。

 直ぐに視界で相手武器の説明が表示される。

 へぇ、ビット武器ね。

 俺は自身が避けられる幅を確保するため、すぐさま上空まで飛翔してある程度の高度をとりだした。

「貴方、どこまで私をこけにするおつもりですかっ! それだけの力量を持っていながら最初から何故、全力で私に挑んで来なかったのです!?」

 頭上からオルコットの怒鳴り声が、距離の離れている俺のところまで良く響く。よっぽど腹に据えかえたらしい。オルコットはビットを四つ射出しきると、自分の周りに停滞させだした。

「別に、全力で行く必要なんかないだろ。ほら、ハンデだ。俺の残量エネルギーは五三。まあ、ほぼ一撃で落ちる数値だからな。嬉しいだろ?」

『くう、どこまでもぬけぬけと!? 良いでしょう、そのまま堕ちなさいっ!!』

 話しは終わりとばかりに、ビットを勢い良く加速させて俺の周りを取り囲もうとする。俺はスナイパーライフルを両腕で抱えると、散歩道を歩くような速度でオルコットの方へゆっくりと近づき始めた。

 ――六時、三時、八時、〇時と順次に角度が決められた位置からビットのレーザ攻撃が飛んでくる。見上げるが本体からの攻撃はない。

 捻りがないな。

 そう思いながら最低限の移動で攻撃を避け続け、オルコットへと距離を詰めていく。相手からしてみれば回転独楽が軸を失ったような避け方に見えるような感じだろうか。

 しかし、俺がいくら近付いても当人の顔に焦りのような表情が見えない。まだなにか、もう一つくらい隠し玉を持っているのかと一応の警戒をする。

 しっかし、こいつは表情に出すぎだな。今のままだと敵と殺し合った日には、手の内を読まれて確実に嬲り殺されるぞ。

 内心で溜息を吐きながら、距離を一〇メートルまで詰めた時だった。

「これで終わりでしてよっ!!」

 オルコットの声がしっかり届く範囲まで近づいたところで、突然サイドスカートになっている部分が持ち上がる。そのまま俺に向かって実弾ミサイルが四つ、空を切るようにして飛び出してきた。

「勉強の時間だ。先ずは下に這うんだな?」

 次の瞬間、俺は呆れながらオルコットの顔面三センチ付近にスナイパーライフルの銃口を突きつけていた。

 種も仕掛けもあったもんじゃない、単にミサイルの下を掻い潜っただけだ。

「そんな、瞬時加《イグニッション・ブー》――

 ドンッ!!

「きゃあぁああっ!!」

 相手が言い終わるのなんて待つ道理もない。構わずにゼロ距離射撃を敢行した。

 オルコットは盛大に叫び声を上げて一瞬パニックになる。絶対防御があろうが衝撃を全部殺せるわけじゃないし、ましてや顔面に大口径の銃口を向けられたら普通は正気でいられない。相手の頭上まで機体を上昇させると、そのまま足を振り上げていく。

「何発耐えれるか、確認してやるよ?」

 弓なりに振り上げた足をピタリと止める。俺の力を絞って出された蹴りは、そのまま矢を放つような速度でオルコットの顔面めがけて振りぬかれた。

 オルコットはパニックから回復したわけじゃなく、慌てて咄嗟に庇ったのだろう。蹴りがオルコットの両腕に阻まれて、甲高い金属音がそのまま上空で木霊す。

 それでも勢いは殺せなかったのだろう。奴の両腕が弾き跳んで、全体がら空き状態になる。

「一発で終わると思ったか?」

 体全体を捻りながら丸ごと回転させて、続けざまに二発目の蹴りをオルコットの腹部に放つ。

 ズンッ!

「きゃぁああっ!!』

 相手の腹に、自分の足が沈み込むような感触の手ごたえを感じる。今度は綺麗に攻撃が決まり、オルコットは体をくの字に曲げると重力の従うままに地面へと落下した。

 地上で土煙が膨らむように膨張して拡散していく。そのまま両手にスナイパーライフルを構えると、標準を覗き込んで獲物を狙う。サイトの中心をヘッドショットにあたる位置へ固定できた。

 地面に埋っているままのオルコットの顔面に合わせて、トリガーを引――

『勝者、市隈。終わりだ、そこまでにしておけ』

 はぁ? なめてんじゃねぇよ、こっからが本番だろうが。

 会場内に響くスピーカ越しの声に、即座に俺は織斑姉の居る方向を向いた。

 盛大に舌打ちし、銃を肩に預けて担ぎ上げる。

『市隈、この後どう戦うつもりだった?』

 織斑姉の声がスピーカ越しに聞こえてきた。

 そんなことは、決まってる。

「頭にヘッドショットを撃ち込んで、組み付いて武器を全損させます。相手のエネルギー残量が無くなるまで、ひたすらオルコットの顔面にゼロ距離射撃の繰り返し。止めに全治三週間くらいの骨折をさせて終わりでしたけど?」

『貴様は、ピット内での私の言ったことを聞いていなかったのか?』

「いいえ。だから最後に威力を調整してエネルギー残量をギリギリ一にした後で、瓦解寸前の絶対防御中に折りたい場所を貫通して打ち抜くつもりでした」

『市隈、オルコットを立たせて反対のピットへ運んでから自分のピットへ戻り、そのまま待機していろ。話しがある』

「イエス」

 はぁ、しょうがねぇな……。

 俺は気だるく返事をすると、スナイパーライフルの武装を解除してオルコットの方へ近づいていく。最後までヘッドショットはやり続けるつもりだったが、良い気づけにはなっただろう。地上に着地すると、オルコットが青ざめた表情でこっちの様子を窺っていた。

 大方、さっきの会話を聞いて恐怖したのだろう。俺はゆっくりとISの纏った手をオルコットの前に差し出す。すると「ひっ」と、裏返った声が聞こえた。

「もう攻撃はしないって約束する。それに最後に貫通させるなんて言ったのは、あの教師のやり方にむかついてるから反抗してるだけ。お前は、俺があの教師にイラついてるの知ってるだろ? それと、戦闘中に行動が顔に出すぎなんだよ。立てるか?」

 俺はそのまま、しばらく体勢を維持している。やがてオルコットは顔を引きつらせながら、恐る恐るといった感じでゆっくりと手を差し出してきた。

 手に重みを感じると、それを握ってゆっくりオルコットを立たせていく。右にまわり込んで体を支えながらピットの方へと向かう。運んでいる途中でオルコットが、ゆっくりと小さな口を開いた。

「……貴方は、容赦がありませんのね?」

「そうだなぁ。まあ、俺は子供の頃に防弾ガラス越しで、実弾をゼロ距離射撃され続けたことがある。最初の二日間は、なんにも喉に通らなかった。三日目でも食事を吐いて戻したよ」

 俺の発言にオルコットが絶句する。吃驚した顔のまま、こちらを見続けていた。

「なぜ、そのようなことを……?」

「いろいろとね、毎日そんなことばっかやってたんだ。だから、十二までは学校なんて行ったことがない。容赦も何も、俺の基準なんてもともとズレまくりなんだよ。音声は向こうにも届いてるからな、俺がお前に話せる内容はこんくらいだ」

 独白のように俺は自分の過去を語る。じっとりと手に汗が浮かんだような気がした。

 なんとなく――なんとなくだけれど、ISは平和に届かない代物だと言うことを体感して欲しかったのかもしれない。だから、自分が昔に受けた過酷な思い出の一端を同じように再現したのだろう。そこに後悔感はない。そして、それ自体がエゴだと理解できている自分がいた。

 オルコットは無言でこちら側を見ている。整った綺麗な顔立ちは、埃で汚れていても健在だった。

 ほんと、どんな状態でも絵になるってのは美人の特権だな。

「なあ、競って強くなって、国の代表になって世界のトップになってさ。その先にあるのってなんだ? もし、軍事バランスが崩れて戦争になった時に、お前は敵国の人間をISで殺すのか?」

「……わかりません。ですが、今の私にはISが必要なのです」

「まあ、事情は人それぞれか。話しは終わりだな」

 そう言って、オルコット側のピットに二人して辿り着く。奴と別れると、俺は自分のピット側に向かいだしながら前方へと視線を動かす。ピットを見れば、鬼の形相をした織斑姉が立っているのが確認できた。

 戻りたくはなかったが、結局きつい一発を喰らうために足を運んだ。

 

 

 ― 6 ―

 

 

 試合後に織斑姉のきつい一発を顔面にくらう。それから一時間の休憩を挟んだ。今は一夏との試合になり、二人揃ってISで空中に浮いている。一夏には黄色い声援がとび、俺には凄まじい野次の嵐が続いていた。

 前回の試合でオルコットに顔面ゼロ距離射撃なんてのを敢行したせいで、殆どの生徒が今や敵になっている。ようは、一夏が正義で俺が悪役といった構図が生まれていた。

 試合の後で一夏に「やりすぎだ」と言われたが、俺は「あれぐらいがちょうど良い」と言った。

 なので、今はお互いが険悪な雰囲気となっている。

『市隈、聞こえているか?』

「なんすか?」

 うっとしい声が聞こえて、自分の口から自然と剣呑な声がでた。

 先ほど織斑姉は、治りかけの頬に突き刺さるようなパンチングを行っている。結果、今はささくれだった感情のせいで適当に答えることしかできない。

『織斑相手に手加減する必要はない。半殺しでやってかまわん』

「はぁ? ここでは普通、俺にセーブさせるところじゃ?」

『お前にできるならな』

「――へぇ」

 こいつ本当に教育者か?

 面白ぇよ上等だ、その挑発に乗ってやるよ。

 俺は通信を終えると一夏に喋りかける。

「一夏、お前の姉からお達しが出たぞ」

『なんだよ、それ?』

 一夏もつっけんどんな会話をしてくる。話してる間にビーっと、試合 開始のブザー音が鳴り響く。俺はスナイパーライフルを構えながら笑って伝えてやる。

「半殺しにされてこいだとよ。俺も人のこといえないけど、お前の姉も恐ろしいな。野郎相手だ、最初から全力でいってやるから武装を呼び出せ。準備できたら始めるぞ?」

『ああ』

 一夏の奴に武装の展開を促す。しかし、しばらくして焦りだすと、なんの覚悟を決めたのか剣を構えだした。

 あいつ、何で銃器類を構えないんだ?

「一夏、何やってんだ。お前さ、それ近接戦闘用だろ?」

『しょうがないだろ!? こっちは武器がこれしかないんだよ……』

「嘘つけ、ちょっと見せてみろ?」

 試合がしらけるがしょうがない。俺はライフルをしまうと、無防備を強調して一夏に近づいていく。奴もぶつくさしながら剣の構えを解いた。

 一夏の肩に捕まりバランスを取りながら、二人で装備を一緒に確認する。すると、俺は馬鹿げた装備内容に思わず戦慄した。

「お前これ、装備内容をごっそり剣一本に持ってかれてるぞ。それのせいでスロットにも余裕ないじゃん……」

「何でだよ!?」

「俺に怒るなよ。つまんね、しらけた。どうせ、まだ一次移行が終わってないんだろ? ゆっくり待ってやるから、終わったら始めんべ」

 それにしても、雪片弐型ね。随分とごつい名前がついてるな。

 一夏から距離を取る為に背を向けて、移動をゆっくりと開始する。ある程度の距離幅をとって、振り返りながら一夏の方を向く。俺は本当の試合開始を待つために、その場でゆっくりと待機した。

 一向に試合が始まりを見せないのを不信に感じたのか、観客席からは声援と罵声が消えていく。そして、一体いつ始まるんだといった雰囲気になりだした。

『なにをしている? 時間がもったいない、早く試合を開始しろ』

 観客の声と入れ替わるようにして、織斑姉の命令が入ってくる。

「一夏の準備が終わってないし、剣のみじゃ話しにならないですよ。そっちが、なにを考えてんのか知らないし、知る気もないっすから。俺は俺のやりたいようにやらせてもらいます」

『始めなければ、お前を失格にするぞ』

 一夏の方を見れば、一次移行が未だに終わる様子もない。俺は肩を竦めながら織斑姉に答えた。

「やりたきゃやれよ。俺は別に勝ち負けに興味なんてねぇよ、最低限で適当に卒業できりゃ良いしな。バトルジャンキーは他を当たれや」

『そうか』

 そのままビーっと、ブザー音が鳴り響いた。

 今日の試合は終了し、もちろん勝者は一夏になった。

 

 

     ◇

 

 

 俺は、ここでの生活にきっと疲れ始めている。女ばかりの空間は色々な意味で苦痛なのだろう。愚痴を吐ける相手もいない。現に今も、試合放棄と目上への態度不謹慎の罰をくらっていた。

 試合後に課せられた罰は寮の大浴場の掃除だ。俺の隣では一夏も掃除をしている。理由を聞けば、俺だけ罰をくらうことに対して納得が行かないらしい。

 律儀なんだが、意見を押し通す辺りが頑固だ。真面目で頑固で一本気なんて俺と正反対だと感じた。

「なあ、喜久。お前なんで俺の一次移行まで待ってたんだ?」

「そらぁ、オルコットの奴は最初から戦える状態だったしな。一夏の場合は、わけもわからず乗ってただろ? フェアじゃないのは嫌いなんだよ」

 お陰でデッキブラシ片手に床を擦ってるけどな。織斑姉め、殴っても無駄だと判断したら今度はこれかよ……。

 オルコットとの試合で俺だって少なからず体を酷使してんだぞ。

 一夏が笑いながら喋りつつ、ブラシを床に当て続けている。

「喜久って律儀なんだな」

「お前にだけは言われたくないな」

 「なんだよそれ」と一夏が言って、仲良く一時間かけて風呂の端までブラシをかけた。

 掃除が終わって道具の片付け終がわると、俺は気になっていることを一夏に聞く。

「それより一夏。オルコットと試合すんだって?」

「ああ、お前が試合放棄して俺が勝ったことにしたんじゃ、負けたオルコットは意味不明な状態だろうからな」

 教室へ向かいながらも話は続き、一夏はうんうんと考え込んでいる。

「そらそうか。確かにそれじゃ、むこうさんも納得しないわな」

「だろう。俺だって、あいつと同じ立場なら考えて悶々としてるだろうしな」

 まあ、俺の気分で試合をぶち壊したんだ。そら、悪いのは俺だしな。

 他の女子連中からは、随分生意気に見えるだろうことが予測できる。

「試合は明日だっけ?」

「ああ」

「まあ、一夏じゃ勝てないだろーけど応援はしてやるよ」

「言ったな。暗にお前の方が強いって聞こえるぞ?」

 俺もオルコットも搭乗時間が一夏よりも圧倒的に長い。この差はどうにも埋めようがないし、一夏はそれをわかってないらしい。

「さあな。まあ、俺は授業以外で極力ISに乗るのはごめんだからな」

「なあ、なんでお前そんなにISを否定してるんだ?」

 純粋ってのは怖いね、人が聞いて欲しくない質問も平気でしてくる。

 俺はどう答えるべきか頭の中で思考する。理由を話せば、必然的に言いたくない過去も話すことになだろう。しかし、その話題は避けたい。それが、今の俺が置かれている現状だった。

「授業中に言った通りだよ。IS否定の本人がISに乗ってるんじゃ、矛盾してるけどな」

「そうか。喜久のIS嫌いが、少しでも良くなるといいんだけどな。俺はギスギスしたのって苦手なんだよ。オルコットとは、俺も含めてだけど仲直りしてくれよな?」

「それこそ説得力のない言葉だな。まあ、向こうは基本が上から目線だからな。SM女王みたいに蝋燭と鞭を持ったらさぞ似合うだろうよ。結局は相手の態度しだいだろ?」

 教室で鞄を取って寮に戻る道すがら、俺の耳に入ってきた言葉がある。市隈は女の敵で外道だと。やった後の後悔もあれば後の祭りかんも否めない。が、生徒たちから絶大的な人気のある教師にまでたてついたんだ。当然、悪口にも拍車がさらにかかった。

 寮まで来るとそのまま二人して俺の部屋に向かう。ノックをすると、ドア越しからオルコットの「開いてますわ」という声が聞こえた。

 自室なのに、なにが悲しくてノックしなけりゃならないんだろうか……。

「織斑も一緒だけど良いか? オルコットと、話したいことがあるんだそうだ」

「どうぞ」

「だとさ、入ろうぜ一夏?」

「ああ」

一夏を促して部屋に入ると、セシリアが西洋アンティークみたいな椅子に座って足を組んでいた。

 一夏が思わず部屋の状態に驚いている。西洋家具で埋め尽くされた部屋なんてものは、学園でもこの部屋だけに違いない。

 俺も周りを見渡して驚いたから当たり前の反応だわな。

「オルコット、試合中は悪か――

「セシリアと呼んで下さいな、喜久さん。一夏さんもすいませんでした」

 そう言って、オルコットは俺の言葉を遮りながら頭を下げた。

「はぁ!?」

「えぇ!?」

 思わず一歩仰け反って部屋の壁の端に頭を打ってしまい、一夏も驚いて俺の方を怪訝な表情で伺っている。まるで、お前なんかしたんだろといった顔だ。というか、俺の方がなにかあるのかと勘ぐっちまう。痛む後頭部を摩りながら俺は慌てて一夏に弁明した。

「待て、俺は試合以外はなんもしてねぇよ……」

「じゃあ、なんで俺にまで謝ってんだよ?」

「一夏さん、勘違いですわ。喜久さんは、なにもしていません。私が間違った行動を取り続けていたのです。ですから、謝罪するのは当然のことなのですわ」

 これじゃ話が進展しないな……。

 俺も一夏も驚きすぎて、余りのことに頭の中で慌てふためいている。しょうがなく、核心だけ聞くことにした。

「なあ、オルコット。なんで――

「セシリアと呼んで下さいまし」

 なんで、親しくもない相手に呼び捨てを強要すんだよ……。

「なあ、セシリア。間違ったなんて言ってるけれど、いったい何を間違ったと感じたんだ?」

「そうだな。俺も聞きたい」

 俺の後に一夏が言葉をかぶせる。セシリアは一拍置いてから独白のように喋り始めた。

「私の両親は既に亡くなっていてこの世に生きていません。両親が生きている間、父は婿養子という立場もあり母に引け目を持っていました。ISの登場で女尊男卑になると、余計に父は臆病になっていったのです。私はそれを端から眺め情けない表情に嫌気が差していました。情けない男は嫌いだと。それがいつしか、周りにいる全ての男性に当てはめていたのです。喜久さんと試合をして、恥ずかしながら自身の勘違いに気づかされました。喜久さん、あなたが疑問に感じていたことに、お答え致しますわ。私は家族から残されたものを守るために、IS乗るという手段を選んでこの学園に来ました」

 セシリアの口から出たのは、なかなかにヘビーな内容だった。

 しかし、拒絶から友好的な態度への変化が激し過ぎる。俺は理由には納得いくが、未だに疑ってた。

 なにせ、この一週間を下僕のように扱われてきたのだ。自業自得だったが腑に落ちない。一夏は素直に納得し俺の肩に手を乗せてくる。わかってやれよといった表情で見られると、俺だけが悪役みたいだった。

「喜久も俺もだけど、セシリアと仲直りしたくて話をしに来たんだ。こっちこそ、ありがとうな。だろ、喜久?」

「はぁ……。戻って部屋に入ったら、てっきり鬼の形相で構えてると思ってたんだけどな。しおらしくなってるから、正直びっくりしたよ。まあ、なんにせよ俺にも謝らせてくれ。試合中は悪かった、俺も頭に血が上ってたよ」

 セシリアは嬉しそうに頷くと、泣きかけだったのか軽く目尻を拭いた。

 俺も一夏も頷いて、その場に和気藹々とした雰囲気が広がる。俺はオルコットの奴隷から解放されたことを確信し、それも嬉しく感じた。

「そっかそっか。じゃあ、引き続き煙草のことは黙認てことで良いんだよな?」

「なに!? おい喜久、お前煙草なんて吸ってんのか? そんなの駄目に決まってるだろ、今直ぐやめろ」

 げ、一夏は反対派なのかっ!?

「それとこれとは話が別です。今すぐ、お止めになるべきです」

 結局、俺はセシリア側に援軍を送ってしまい、そのまま二人に煙草をやめろという説教を小一時間垂れられる。告げ口はしないが止めるよう散々言われた。

 

 

 ― 7 ―

 

 

 晴天に広がる青空が清々しく、視界に入るだけで気分が和む。世界中どこで見ても、この光景だけは変わらない。そんな上空で二機のISが浮遊している。そして、急降下してくると一機だけが派手に地面へと激突した。

 無残にも地面に埋ったのは、一夏の展開している白式。で、これが俺の眼前に広がるIS学園での授業風景のひとコマだ。

「馬鹿者、誰が地上に激突しろといった。グラウンドに穴を開けてどうする?」

 これは一夏の奴、精神的にくるだろうな。

 織斑姉から檄が飛ぶ。周りのクラスメイトがクスクスと笑っていた。

「ふむ。市隈、お前が手本を見せてみろ?」

「嫌ですよ、面倒臭い」

「私は寛大だからな。風呂掃除を一週間連続と、どちらが良いか選ばせてやる」

 このやろう……。

 反抗的に視線を向けながら、学園から半ば強制的に与えられた俺専用のラファール=リヴァイヴを展開した。

 専用機なんて欲しくもなかったが、受け取らないと懲罰扱いだなんて言われりゃしょうがない。だが、受けとった直後はアクセサリーの状態を見て溶鉱炉へ投げ込んでやろうか考えた。

 それでなくとも入学してから一ヶ月近く経つが、未だに織斑姉とは仲が悪いままだ。手早く終わらせるために、無言のまま一気に上空まで急上昇する。そのまま、今度は一気に急降下すると、減速と反発的に一瞬だけ瞬時加速《イグニッション・ブースト》を行った。

 織斑姉は、珍しく感心したような声を上げる。

「ほう、スピードも殆ど落とさずに一センチ以内か」

「どうも」

 まったく面倒だ。

 周りの女子達からは失敗しないことへの舌打ちなどが聞こえた。

 ISの展開を解くと、俺は輪の中心から外れようと移動を開始する。

「市隈、まだ戻って良いとは言っていないぞ? 武装展開の開放課題が残っている」

「そんなん、俺じゃなくても良いじゃないすか?」

「三度目は言わんぞ、戻れ」

「イエス」

 俺が再び輪の中心に戻ると、一夏とセシリアは既に部分展開を行っている。セシリアはある程度が順調だった。

 一夏は上手くいったが展開時間のせいで怒られている。二人が課題をおえると同時、織斑姉が俺の方を向いた。

「市隈、やってみろ」

「イエス」

 面倒くさがりながら、無言でスナイパーライフルを呼び出す。それを引っ込めるとブレードを展開して、また引っ込めた。

 あんまりすんなりと行ったからだろう。教師二人以外が、ぽかんといった表情で見ていた。

「市隈、もっと早く行ってみろ? 手抜きは許さん」

「んだよ、これが限界ですから」

 ち、提出した経歴以外で、どんだけ俺のことに探りを入れるつもりだよ。

「風呂掃除は確定だ。これ以上増やされたくなかったら、各々の手に違う武装を同時展開をしてみろ」

「……スパルタめ」

 そんなに俺の全力が見たいなら、一回だけ見せてやる。

「いきますよ」

 言葉を発しながら、両腕に違う武器を同時にそれぞれ呼び出した。

 これには、織斑姉以外が驚いて俺の方を見ている。

「やはり異なった武装の同時展開も素早く使えるのか。もう良いぞ、展開を解け。市隈、お前は授業後に織斑とグラウンドの穴を埋めるように」

「そら、嬉しいご褒美だな」

 俺は展開を解くとそのまま輪から外れて適当なところを陣取る。すると、そこで授業がおわったらしく織斑姉は号令をかけて授業を終わらせた。

 クラスの奴らが教室へ戻ろうとする中で、俺は一夏に声をかける。

「なあ、一夏が開けた穴を埋める為の土は一体どこにあるんだ?」

「いや、俺が聞きたいくらいだ……」

 周りを見れば、余分な土を貯蔵している場所が見当たらない。しょうがなく、二人して地面の穴を埋めるための土を探すところから作業を開始した。

 

 

     ◇

 

 

「ふぅあ、落ち着くわ」

 星が微かに見える夜の時間。俺は寮を抜け出して、こっそりと喫煙タイムに耽っていた。

 最初のストックが三日で切れ、中学時代の不良仲間にカートンで煙草を小包にして送ってもらっている。そして、囮として一箱はわざと同室のセシリアに見つかるようにして取り上げられた。

 次いで、しつこく返してもらえるように食い下がるのも忘れない。これで、向こうは煙草をもう吸えないと認識しただろう。しばらくして、吸い終えてから吸殻を携帯灰皿にしまうと寮を目指して歩き出した。

「ちょっと、そこのあんた。道を聞きたいんだけど?」

「んあ。ああ、俺のこと?」

 寮への帰宅がらに声を変えけられて後ろを振り向く。すると、見慣れない髪形の女子に声を掛けられていた。

「そうよ。寮ってどうやって行くのかしら?」

「そりゃ、ちょうど良かったんじゃないの。俺も今から寮に戻るところだよ。なんなら一緒に行くか?」

「ラッキーッ! ところでさ、あんたはIS学園の生徒なの?」

「一応な」

「へぇ。男子は一人しか居ないって聞いてたんだけど。こっちの情報が古いのかしら?」

 情報もなにも、俺のことは学園自体が最近把握したばかりだからな。三ヶ月前までは、国の一部の奴らも知らなかったわけだし。まあ、言う必要もないか。

 そんなことを考えていると、横を歩く女子Aはしげしげとこちらの顔を覗き込んでいた。

「あのさ、織斑 一夏って知ってる?」

「一夏ってのは、あの天然だろ?」

 俺が寮から少し離れた方向を指差す。一夏が篠ノ之と、なにやら口論になっていた。

 いつもの良く見慣れた夫婦喧嘩だろうから、そういうのはほっとくに限る。しばらく観察していると、篠ノ之を慌てて追いかけるように一夏が去っていく。

「な、なな、なんで……!?」

 横から声が聞こえて顔を向ければ、苛立ちを隠さない女子Aが一夏の方をずっと睨んでいる。この反応だと一夏の知り合いかなんかだろうか。

 だったら、ここは薮蛇は突付かないに限るな。

「このまま、まっすぐ行けば寮の正面玄関だから。それじゃな」

「ちょっとちょっと、あんたも寮に戻るんじゃなかったの?」

 前方の寮を凝視して見ると、仁王立ちしたセシリアが外に向かって睨んでいた。

 こっちにはまだ気づいてないことに、俺は内心で安堵する。

「俺は鬼の居ない裏口に行くとするよ。正面に金髪の子がいるでしょ?」

 誰が好き好んで捕まる方へ行くというのか。この前の試合のあと、一夏とセシリアが試合してセシリアが勝った。

 どちらも相手の武器を把握していたが、遠距離戦に徹したセシリアに軍配があがったのだ。しかし、セシリアは経験をつんで欲しいからと一夏にクラス代表を譲った。

 まあ、俺のせいで試合形式自体が滅茶苦茶になったせいもあるのだろう。そんなわけで、今日はクラス一同が一夏の代表祝いと称して騒ぐらしい。俺は行きたくないが、一夏とセシリアは強引にでも連れて行く算段らしかった。

 だいたい俺が行ったところで、結局は場がしらけてしょうがないだろうに……。

 外に一服しに行った理由も、それが一番の原因だったりする。

「なにあれ、あんたの彼女?」

「良いなぁ、その発想は好きだな。残念だけど彼女じゃないし、今の俺には高嶺の花だな」

「ふーん、まあ良いわ。ここまでありがとね。ところで名前を聞いてなかったわね。あたしの名前は凰 鈴音ていうの。どうせ学年一緒だし、また会うでしょ?」

「同じ一年ならそうだな。俺は市隈 喜久。適当に呼んでくれりゃ良いよ。凰て苗字からして中国人だろ? 最近の海外の人って、みんな日本語がそんなに流暢に喋れるん?」

 セシリアの時もそうだが、IS学園に留学してくる海外人は総じて日本語が上手だった。

 この凰て子にしても、やはり綺麗に滑舌が回っている。

「さあ、それはわかんないわね。私の場合は日本に住んでいたことがあるから」

「ああ、ハーフかなんかか。悪いな長話して、それじゃな」

 俺は適当に話しを切ると、凰を見送ってから寮の裏口へと戻るために歩きだした。

 

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