ln   作:kiarina

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[ NumberingTitle_流言ノ効果_不意打チ万歳 ]

 

 ― 6 ―

 

「はい、それでは皆さーん。今日は高速機動についての授業をしますよー」

 山田先生が自身へ注目するようにと生徒に呼びかけている。俺は後ろの方で軽く首を回し、欠伸をかみ殺しながらそれを見学していた。

 今いる第六アリーナでは、高速機動実習が出来る。現に上を見上げれば、学園のシンボルみたいな一際高さのある中央タワーがそびえ立っていた。

 アリーナと高速機動の説明を終えると、専用機持ちである一夏と横にいるセシリアが実演に指名される。

「行って参りますわ」

「怪我だけはしないようにな?」

「セシリア、気をつけてね」

 シャルロットと二人で見送ると、ISを展開しきった二人が準備を始める。そして、ある程度浮き上がったところで一気に加速を開始しだす。IS特有の急激な飛翔をしきると、タワーの天辺を目指して飛んでいった。

 首を曲げて適当に見学していると、横に居るシャルロットが話し掛けてくる。

「この前の食事中に言ってたけど。喜久のISはハイスピードのモード設定でも、高速移動の機体制御が難しいの?」

「いんや、この前は全開でスピードを出した時に、その機能は使用してなかったからさ。相手に攻撃した時も、ほぼ勘で蹴り飛ばしただけだし」

 シャルロットに言われて考える。この前の戦闘では後先度外視で、最初は何も考えずにペタルを全て背中に張って対応した。その際にモード設定はいじっていなかったので、今思えば随分と上手くいったものだったと思ってしまう。

「まあ、喜久だからしょうがないよね」

「なんだよそれ……」

 シャルロットの良くわからない返事に呆れながら答える。すると、本人は笑顔で毒を吐く。

「喜久には、余り常識が通じないってことだよ」

【良い言葉ねシャルロット、今度使わせてもらうわ】

「ティアーニ、変な知識を増やすんじゃない」

 いつも思うが、シャルロットとティアーニは本当に仲が良い。しいて言えば、その種類は毒舌九官鳥だろうか。下らないことを考えているうちに、実演を終えたセシリアが戻ってきた。

「お疲れさん」

「セシリア、お疲れ様」

「無事に終わりましたわ。やはり、一夏さんは呑みこみが早いですわね。このクラスの中で、成長が一番早いのではないでしょうか?」

「あいつはそういうタイプだよな。本人の能力として優れてる部分なんだろ?」

「一夏は僕が教えていたときも、直ぐに言われたことを覚えてたね」

 セシリアが一夏のことを褒めていると、俺もシャルロットも納得して頷く。奴は入学後からの成長が著しく、スポンジに水をかければ吸収するように、呑みこみがとにかく早いタイプの人間だった。最初は下でも、最後は上に登りつめている大器晩成型なのかもしれない。

「市隈、お前も実演をしろ。お前の力量なら、クラスの連中にとって良い手本になる」

「え、俺もですか?」

 面倒臭ぇ……、なんでいつも俺なんだよ。アンタだってブリュンヒルデなんだろうが。訓練機に乗ってでもいから、たまには自分で実演してくれよ。

 織斑姉が俺の方を見て実演を要求してきた。

「訓練機の生徒を一人だけ対比としてつかせる。一緒にやる相手は実際の差と、市隈の動きを間近で勉強出来る良い機会になるだろう」

「じゃあ、私が訓練機に乗ります」

 貝田が手を上げて立候補する。

「貝田か、乗り込んだら待機して待て」

「はい」

 しょうがなく、その場でISを展開をする。

「だるい……」

「喜久、嫌だからって手を抜いたら、お手本にはならないからね」

「喜久さん、頑張ってくださいな」

 セシリアとシャルロットに言われてから、軽く上空へ上がる。視界指定でモードを切り替えてハイスピードに設定すると、その場でゆっくりと停滞した。

「市隈、真面目にやらなければ何度でもやらせるぞ。どうせだ、一回で全力を出し切って気持ちよく終わらせろ」

 織斑姉が軽く笑いながら檄を飛ばしてくる。前回の戦闘行為でわざと破損させて新しくなった、腕部の調子を丁寧に確認していく。

「ティアーニ、半縄でつけてもらった新しい腕の調子はどうだ?」

【問題はないわ。それと、千冬の応援を無駄にしないようにすることね】

 どこが応援だよ、完全に叱咤の激励じゃねーか。

 山田先生の号令でスタートの合図が掛かり始めると、前回と同じように背中へ一二枚のペタルを張りだす。扇状に張り出されている最中、ISが一夏の音声を拾った。

『なんか派手で宝塚みたいだな』

 一夏、恥ずかしくてしょうがないからその発言は止めろ……。

 ――2・1・ゴー!」

 スタートの号令が響きわたる。ISを駆って、一瞬で加速し音速を超える。モードを切り替えたお陰だろう、この前の戦闘と違って視界が追いつく。

 それにしても、相変わらずの馬鹿げた速度に呆れてしまう。中央タワーの方まで進むと、ティアーニにカーブするための移動手段を述べた。

「ティアーニ、曲がる時間を省略するぞ」

【ペタルの枚数を減らして減速するのかしら?】

「レール制御だ、ペタルを並べて強制的なループ状の曲がり道を作るんだよ」

 背中にある一〇枚のペタルを無くして流用する。前方にロフトするイメージでペタルを連ねると、ナーブス曲線のように滑らかな一八〇度ターンできる道を出現させた。

 勢いを殺さずに姿勢を傾ける。縫い針の小さい穴に細い糸を通すような感覚で、慎重にタイミングを測りながら滑るように足を着地させていく。

 ――チ、ジジジジィイイインンンンン!!

 膝を使い、バランス制御をかけながら進む。足の先から裏にかけて摩擦による火花が盛大に飛び散り続けた。

 鋭角なターンによる独自のショートカットを無事に終え、スタート地点に戻り始める。途中、全く折り返しに達していない貝田とすれ違う。

 貝田の顔が『駄目だ、この男子』と語っていた。

「真面目にやったからな、これなら文句はないだろ。ていうか、俺のやり方は変則すぎて参考にならないと思うけどな?」

【まあ、喜久だからしょうがないわね】

「ティアーニ、お前絶対にわざとだろ」

 相方に文句を垂れながら、再度ペタルを全て背中に出現させて急降下をしだす。最後の方はペタルを前に付け直して逆噴射、全力ブレーキをかけた。

 完全に勢いを殺して着地の姿勢に入る。俺は頑張った筈なのに、下に居たクラスの連中が呆れた視線を向けてきていたのが理解できた。織斑姉が良くも悪くもと言った顔をしているのが確認できる。

「市隈、私は手本を要求した筈だが? リトライだ、今度は普通に曲がって来い」

 やっぱりな、そうなるだろうと思ったよ。

 俺より後に到着した貝田が、全く参考にならなかったとぼやく。真面目にはやったが手本にはならず、今度は単独でもう一周だけ実演をする羽目になった。

 

     ◇

 

 究極に面倒臭い実演が終わると、織斑姉と山田先生が指示を出して訓練機組みの選出を開始し始める。セシリアとシャルロットの方に戻ると、二人が批難がましい視線を俺の方に向けてきた。

 セシリアに至っては、地面でのの字を書きそうな勢いだ。

「何も施されてない基本状態で、あんなに速度が出せるなんて。これでは、私の立つ瀬が全くありませんわね……」

「なんでだよ、射撃武器がある分だけブルーティアーズの方が有利じゃん」

 こっちはもともとの武器が無いに等しいんだぞ。だいたい、標準状態の盾壁機能だけでどうやって戦えってんだよ……。

 そう思っていると、シャルロットがセシリアの肩に手を置く。

「しょうがないよセシリア、喜久は反則の天才だからね」

「ひでぇ、俺は真面目にやっただけなのに」

「だって喜久だもの」

 なにを返してもシャルロットに攻撃をされそうなので、喋るのを辞めることにした。どうも高速機動に自信のあったらしいセシリアの威厳が、俺によって傷ついたらしいことがわかる。

 しょうがないので、悩んでいる様子の一夏の方へ向かう。本人が調節している場所まで移動して、後ろから声を掛けてみる。

「よう、一夏はどうやって機体調整するつもりなんだ?」

「出たなチート野郎」

「お前もかよ……」

 半眼で見れば、笑って返された。

「冗談だ、半分は本気だけどな。お前の方は調整が済んだのか?」

「一夏と一緒でね、どうしようもないよ。雇い主は、まるでやる気がないしな」

 当日は適当にすればいいし、半縄についてもどうでもいいか。

「俺の場合は、もう『雪片弐型』を封印してやるしかないな。後は、避けるか体当たりするしかないと思ってるよ」

「まあ、シンプルで解りやすいよな。白式は元々の能力値が高いんだから、後は一夏の問題か」

「だよな。これじゃ、他のみんなに置いて行かれてる気分だ……」

 一夏までセシリアのようになり始める。心中で溜息を吐き、しょうがなく助け舟を出すことにした。

「一夏、白式の欠点はなんだ?」

「燃費が異常に悪いことだな」

「利点はなんだ?」

「そら、雪羅もあるけどな。やっぱり零落白夜じゃないのか?」

「だったら良いやり方があるだろ。例えばさ、俺が白式を扱うとして相手からしたら何を嫌がるかを考えるんだけどさ。その場合、一撃必殺型の零落白夜をチラつかせる」

 実際のキャノンボール・ファストを想定しながら話を進める。案の定、打開策を見出せない一夏がくいついてきた。

「どういうことだ、喜久?」

「エネルギーを気にするなら実際に雪片弐型を取り出す必要はないけどな。事前に言っておいても、別に問題はないだろ? 『俺は高速機動でも雪片弐型を使うよ』ってな。後は当日に一位の奴の真後ろに張り付き続けて、高速機動中に雪片弐型を取り出す動作をし続ける。それだけで対戦相手はストレスが溜まっていくし、そうすると焦りが出て冷静な判断ができなくなってくる。スタート前に一瞬でも零落白夜を発動させて、それを見た相手が意識すれば後は完全にこっちの思う壺だ。実際に一夏自身がやばいときには発動して使っちまえば、嘘にもならない」

話し終えると、一夏がとても嫌そうな顔をしていた。

「……喜久って、間違いなく詐欺をする側だよな?」

「おいおい、頭を使うのは大事だろ」

「お二人とも、どうでした?」

 様子を見て回っているらしい山田先生が、陽気な声で話しかけてきた。

「あ、山田先生。いや、やっぱりみんなすごいと思いましたよ」

「織斑くんも頑張って下さいね。キャノンボール・ファスト本番では妨害有りのバトルレースになりますから、立ち回りが重要ですよ」

 横で話を聞いていると、山田先生が一夏のために模擬戦の申し出をしてくる。二人がISを展開すると、試しとばかりに口を開く。

「山田先生」

「はい、市隈くん。なんでしょうか?」

「一夏は零落白夜を使用して、山田先生の後ろを追従する作戦みたいです。下手すると機体がバッサリやられる可能性があるので、注意が必要かもしれないですよ」

 言った途端、山田先生のにこやかな顔がサーっと、青くなる。そのまま一夏の方に近づくと、俺の発言に本人が怒った。

「喜久!!」

 特に気にせず、一夏にだけわかるように小声で喋る。

「まあ聞けよ。実際に使う必要はないし、予行演習だと思えば良いだろ? 勝つ必要はないから、とにかく山田先生の後ろに張り付き続けて結果を見てみろ。あくまで俺が提案した一例だしな、当日にやるかどうかは一夏の自由だ。それに、後ろに張り付いて山田先生の動きを真似て勉強もしてこい。あの人は基本に忠実で綺麗な動きをするからな、すごく参考になるぞ?」

「はぁ……、やっぱ、喜久のやり方は俺には合わない。でも、山田先生の動きは後ろから勉強させてもらうよ」

 やる気が戻った元気に笑う一夏を見て、俺も苦笑する。

「俺のやり方にあわせる必要はないよ、お前はお前でやればいいと思うし。ま、お互い頑張ろうや」

「ああ、ありがとな喜久。それじゃ山田先生、よろしくお願いします」

 二人して山田先生の方を向くと、カチコチに緊張した本人が油を注してない機械のようになっていた。

「え、ええ、あ、あひ……。宜しく、お願いします」

 これは、一夏の参考になるのだろうか……。

 というか、俺がやり過ぎたのかもしれない。

 見学をしている中で、高速機動戦闘が開始される。そして、後ろばかり気にしていた山田先生がタワーに近づいているのに気づかず、壁に激突しそうになっていた。

 

 ― 7 ―

 

 ―――というわけなの。だから、良い成績を期待しているわねっ♪」

「いきなり当日に、そんなこと言われても……。俺は対処のしようがないですよ」

 ちくしょう、俺は楽をしたかったのに……。

 客席超満員で迎えたキャノンボールファストの当日。俺の予定は既に狂い始めている。招待券を贈った笹崎が学園の方へ出向いてきて、会った途端になんと試合で勝つことを要求してきた。

 なんでも、試合で良い成績を残せば、国から半縄への補助が加算されるらしい。そんなわけで、笹崎は既に研究のための新しい軍資金のことしか頭にない。年甲斐にもなく期待して喜んでいるのに対して、俺は思わずげんなりしてしまう。

【非常識は貴方の特権でしょう、期待されているのだから喜びなさい】

「どういう意味だ、ティアーニ?」

【ようは準備なしでも、貴方の場合は何とかしてしまうだけの力があるということよ】

 この毒舌AIが、人の気も知らないでよく言うよ。

「市隈君は実践訓練でも良いデータを残しているから、私もすごく助かってるわ。政府の役人も、完全に兵器開発が進んでいるものだと思い込んでるし。結果で出た数字の羅列だけに囚われて、碌に中身を見てないのが笑えてしょうがないわね」

 うわ、ティアーニの生みの親も毒舌だな。

 三〇の大台に乗った独身女が、嬉しそうに笑っているのを見る。ティアーニも、やっぱり笹崎との親子関係が成り立っているのだと確信した。

「はぁ。わかりました、やるだけはやってみます。でも、相手も代表候補生に第三世代の専用機で、武装だらけなのは理解していて下さいね?」

「ええ。それじゃ、私は観客席で見学させてもらうわね。良い結果を期待しているわ」

 笹崎が観客席の方へ向かうと、俺も自分の持ち場へ移動を開始する。そして向かう途中、避けたつもりだったのだが一人の海外人に肩をぶつけてしまった。

「あ、すいません」

「いえ、大丈夫よ。貴方は平気かしら?」

 見た目はファッションショーに出てくる、モデルのような金髪の女だ。ゆっくりと手を上げて、問題がないとアピールして応じる。

「大丈夫です、お気遣いありがとうございます」

「格好を見ると、貴方もこの学校の生徒さんかしら?」

「ええ、そうなります。準備がありますので、僕はこれで失礼します」

「引き止めてごめんなさい。試合に出るのなら、貴方の幸運を祈らせてもらうわね」

「今日は勝てそうな気がしますね。ありがとうございます」

 そう言って金髪の海外人と別れる。一種のきな臭さが、この会場を支配し始めている感覚に陥った。

「あらよっちゃん。試合があるのだから、早くピットに向かった方が良いわよ?」

 ピットへ向かう途中、俺に気づいた更識が声をかけてくる。

「ああ、わかってますよ。それより更識さん、ちょっと気になったことがあるんすけど」

「あはっ♪ 何かしら? もしかして、おねーさんに愛の告白かしらー?」

「違いますよ。さっきモデルみたいな女に、わざと肩をぶつけられたんだけどさ。あれって、あんたのお友達か? 余りにも動きに無駄がなさ過ぎるし、見えた手の裏側がやけにごつかった」

 更識は笑顔のままで俺の言葉に反応する。そして、次に彼女の喋る声が数トーン落ちだす。

「――どこで見たのかしら? 私のお友達なの、助かったわ」

「俺の来た方向を追っかけてみれば? 直ぐに見つかると思うぞ」

「ありがとうね、あとで何かお返ししてあげるわ」

「そんなんいらねぇよ。それじゃなくても、今日は試合中も少し警戒させてもらうとするわ」

 言って、本人の横を通り抜けようとする。

「そうなさい、今日は荒れるかもしれないわ。でも何かあったら、よっちゃんがおねーさんを助けに来てくれると嬉しいなー?」

「あんたは一人で充分強いじゃん……」

 あんだけ毎日、一夏を叩きのめしてる人間の言葉じゃな……。

 呆れながら手を振って、更識と別れた。

 

     ◇

 

 戻りたくもないピット内まで戻り、半縄の方針を話して真面目にやることを伝える。シャルロットとセシリアが、すごく嫌そうな顔をした。

「喜久が真面目にやるなら、強敵が増えちゃったね」

「全くですわ。私の中では、既に欄外扱いになっていましたのに」

 欄外より、学園側で棄権扱いにしてくんないかな。

 げんなりしながら、セシリアの言葉に追従する。

「俺もやる気はなかったよ。しっかし、雇い主方から言われちゃうとな」

「喜久、正々堂々と頑張ろうな!」

「えー、俺は適当にやるよ」

 横にいた一夏がスポーツマン宣誓のようなことを言い、余計に気持ちが沈む。いかにも三六五日が暑苦しい健康青年は、晴れ晴れとした無駄に爽やかな笑顔を向けてくる。こんな人間になりたいとは思わないが、全てを楽しんでいる一夏が少し羨ましくも思えた。

「みなさーん、準備はいいですかー? スタートポイントまで移動しますよー」

 場にそぐわない、山田先生の暢気な声。ISを展開し、ピットから移動して専用機持ちの連中とともにスタートラインにつく。

 だるいなと思いながら、軽く左右を見回す。みんな気合が入っているらしく、スタート時の瞬間を真剣に窺っている様子だ。

 ペタルを全て背中に出し切ると、そのまま状態を維持して待機する。

『それではみなさん、一年生の専用機持ち組みのレースを開催します』

 アナウンスと共に、自分以外の専用機持ち組がスラスターに火を噴き始めだす。

 首を回しながら高速起動用の設定に切り替えて、シグナルランプを確認していく。

 ――――3………………2…………1……プゥアッ!!

「ぐっ!?」

「がっ!?」

「痛ぁ!?」

「えぐ!?」

「なぁ!?」

「善久!?」

 瞬間、俺以外の全員が攻撃を受けたような声を上げる。

「またあとでな」

【貴方、いきなり試合を台無しにしたわね】

 そして、俺だけが六枚のペタルを使い、瞬時加速《イグニッション・ブースト》をかけて他の専用機持ちを一気に引き離しだす。後方を確認すると、鬼の形相をした六人が猛烈な勢いで追いかけてくる。スタートの瞬間、ペタルを六枚だけ背中から無くして全ての専用機持ちの前に出現させた。

 あとは当然、自分以外が不意打ちを食らい、ペタルの壁に激突し出鼻をいきなりくじかれた形になる。

『喜久さん! 貴方には、騎士道精神というものがないのですか!?』

「俺ヨーロッパ人じゃないし、武士道とかも知らないし」

『喜久この野郎!!』

「勝てば官軍だ、覚えとけ一夏」

『汚いよ善久!!』

「勝ち逃げ万歳だシャルロット、引っかかる方が悪いんだよ」

『逃がさんぞ、お前は必ず蜂の巣にしてやる!!』

「ボーデヴィッヒ、それは俺に追いついてから言うんだな?」

『アンタ! 本っ当に、根性が捻くれてるわね!?』

「嬉しい言葉をありがとさん。これが俺のやり方だ、凰」

『貴様の、その腐った根性を叩き直してやる!!』

「やれるもんなら、やってみろ。篠ノ之、第四世代機が泣いてんぞ」

 ペタルを再び全て背中に出現させる。そして、全員に距離を離してトップに踊り出た。

【すごいわね、一瞬で全員の敵になったわよ】

「上等だ。俺は既に駆け引きから抜けきったし、後ろは後ろで潰し合いをしてくれるだろ?」

 一人で独走状態がキープできると思ったのも束の間、後ろから真紅の色を纏ったレーザー光が横すれすれを通過した。

「うお!? 紅椿はやっぱりオーバスペックか!」

 吃驚して後ろを向くと、攻撃のしようがない一夏と凰以外の全員がこっちに向けて発砲と砲撃をしてくる。

「なんだよ、全員が俺だけ狙いかよ!?」

【激突させたあとに煽ったのが間違いだったわね。貴方は口を改めなさい】

 恨みを買いすぎたか、次からはやりすぎ注意だな。

 ティアーニの言葉にイラつき、自分の思惑が見事に外れてしまう。後続組みは全員が一致団結を行って一切攻撃をし合わず、攻撃目標が完全に俺だけになっていた。

 ISのスピードで距離は何とか保っているが、攻撃は全部俺の方に飛んでくる。流石に弾幕のような攻撃は避けきれず、しょうがなく二枚ほどペタルを無くして防御用に回した。もちろんスピードも落ちてくるために、ジリジリと後続組みが追いついてきだす。

「喜久さん! その性格を矯正して差し上げますっ!!」

 一番乗りしてきたセシリアが、こっちに向かって叫び声をあげてくる。

「お疲れさんだ、後ろでゆっくり休んでくれ」

「ふん! 私が二度も、同じ手をくらうと思いまして!?」

 セシリアが張ったペタルと避けようとして急上昇した。

 ガツッ!

「なぁ!?』

 そのまま避けた方へと予測して張っておいたペタルに激突する。当たり前だが、蒼い機体が丸ごと盛大に後ろへと吹っ飛ぶ。

『セシリア! 仇は必ず取るからな!?』

『一夏さん! 私を勝手に殺さないで下さいな!?』

 二人がトンチンカンな漫才をしている。そして今度は凰が突撃を敢行してきた。衝撃砲はサイドに向いていて、前方に位置するこっちには明らかに攻撃が出来なそうだ。

「セッティングを誤ったみたいだな。抜かれたあとの対処もするべきだろ?」

「アンタはここでリタイアよ! くらっえぇえええええええええええ!!」

 甲龍が瞬時加速《イグニッション・ブースト》を使用して真横へ並ぼうとしてくる。

「来年また頑張れ」

【やり方が最悪ね】

 さらに背中のペタルを三枚減らし、凰を六面体のような形で取り囲んだ。阿呆が逃げ道を失い、避けきれずにダイレクトアタックをくらう。

 ガツッ!!

『喜久ぁ! 試合が終わったら覚えときなさいよー!?』

「無理」

『鈴! お前の仇もとってやるからな!?』

『一夏ぁ! セシリアみたいに、あたしのことも殺してんじゃないわよ!?』

 速い装備は二人だけだからな。

 確認のために後ろを見れば、余計なことを二連発で口走った一夏が、セシリアと凰から攻撃を受け始めていた。

『なんでだ!? 狙うべきは喜久だろ!』

『一夏さん! 貴方の性格も矯正して差し上げますわ!』

『一夏ぁ! アンタを先に潰してやる!!』

 すげぇな。三分で出来るインスタント食品より、お前らの団結の方が短いのが良くわかったよ。コーナーに差し掛かると、レールを作ろうとしてペタルを根こそぎ背中から減らす。

『そうはさせん、追いついたぞ喜久』

 ボーデヴィッヒの声とともに、大口径リボルバー・キャノンから砲弾が発射された。

ペタルを使って砲弾を防ぎながら、わざと後ろへ下がるためにスピードを落としていく。

「だったらボーデヴィッヒがレールの代わりだな」

『なにっ!!」

 ガッ!

 シュヴァルツェア・レーゲンを思い切り踏みつけた。ボーデヴィッヒが流れる景色とともに、一気に後ろへ消えていく。

『貴様ぁ!!』

「お前も来年頑張れ」

『くぅっ!?』

「シャルロットも来年だな」

 死角から出現して抜き去ろうとしたシャルロットが、連続して真っ直ぐに並べられた八枚のペタルに激突した。最初の五枚までは何とか壊せたみたいだが、そのあと三枚は壊すのに火力が足りなかったらしい。

『喜久の甲斐性無しぃいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!』

 甲斐性もなにも、そんな既成事実は存在しないだろ……。

 誤解を招きかねない発言を叫びきり、オレンジの機体は後方へ吹き飛ぶ。そしてボーデヴィッヒっと仲良く後ろに消えていく。

『喜久、覚悟しろ!』

 篠ノ之の声が木霊す。紅椿の展開装甲が相手だと、流石にペタルは相性が悪い。純粋にスピード勝負へと意識を切り替えた。

 ペタルを全て背中に出現させて、さらに瞬時加速《イグニッション・ブースト》をかける。ぐんっと篠ノ之との距離が開いていく。

『く、やはり速い!』

「戦闘じゃこっちの分が悪いからな、普通に引き離させてもらうわ」

 攻撃を避けつづけながら、コーナーのたびにペタルのレール方式ショートカットでさらに紅椿との距離を広げていく。そして、あるところで速度を落とし始めると俺は、篠ノ之の方に呼びかける。

「篠ノ之、速度を落とせ」

『なんだ、試合中だぞ!?』

「敵だよ」

 そう言った瞬間、専用機持ちの連中と違う種類のレーザー光が自分の下へ向かってきた。試し撃ちされたような射撃をペタルで防御して防ぎきる。

【貴方って、本当に暴力的な子から好かれる傾向があるようね】

「そいつはご免被りたいな。よう、遅かったじゃねぇか。いい加減待ちくたびれたぞ?」

『この前の借りを返しに来た。約束通り、お前の首を撥ねさせてもらう』

 完全に動きを止めてその場に停滞する。視界の先で、青い機体を纏った目隠し女が俺を見据えるように佇んでいた。

 

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