[NumberingTitle_同ジ顔_二ツノ厄災]
― 8 ―
俺のことを上から見据えてくる目隠し女が、ライフルを構えて再び発砲してきた。偏向射撃に対応するため、自分の周りを取り囲むようにぺタルを出現させて防御する。
観客席の方を見れば、突然のアクシデントに会場中が大混乱を開始しだす。
『なんなのだ、あれは!?』
近くにいた篠ノ乃が声を上げた。
「うざい組織の下っ端戦闘員だろ。篠ノ乃、一夏の方に行って奴のエネルギー補充をしてやってくれ。客席の方を攻撃されたら俺でも対処しきれない」
『うぅ……、しかし、一人で平気なのか!?』
「無理だから言ってんだろ。戦力は一人でも多い方が良いからな、いいから行って来いよ!」
【死角から来るわよ】
前回と同じように、死角からのビットによるビーム光が飛来してくる。防御に回したペタルが四散した。さらに連携したようにライフル射撃から繰り出される攻撃で、前方のペタルが破壊されだす。
こっちの方を見ていた篠ノ乃が、納得のいかない表情のままに離脱して一夏の方へ向かう。連続して行われる目隠し女の高機動重視から繰り出す攻撃をかわしながら、奴の方へ突撃を敢行した。だが、前の戦闘でこちらの攻撃方法が知られているため、軌道妨害用に張ったペタルが綺麗に避け続けられる。その上で奴のほうが高機動型だ、当たり前のように距離をはなされてしまう。
ペタルを背中に出現させるにしても、一〇枚以上ないと追いつくのは難しい。
「ち、やっぱり速さで向こうに負けるか」
『くく、そのゲテモノISをお前ごと破壊してやる』
嬉しそうに嘲笑の笑みを称えて奴が喋る。するとティアーニから珍しく檄が飛ぶ。
【喜久、今すぐにあの生意気な小娘の口を塞ぎなさい。ついでに顔も潰してしまいなさい】
「おい、笹崎のルールに歯向かって良いのかよ!?」
【可愛い反抗期よ】
駄目だこのAI……、何でルールがティアーニのことを縛っているのか納得がいったよ。
『喜久さん大丈夫ですか!?』
「セシリア、他の奴はどうした!?」
『喜久さんの攻撃のせいでサイドの壁に激突して、ラウラさんとシャルロットさんはしばらく動けませんわ! 鈴さんは直ぐに来ます!』
いち早く合流したセシリアから恨みがましい叫び声が聞こえる。
音速を超える中でのレースだ、ピンボールのように跳ねて壁に激突すれば確かにダメージが大きいか……。
【余所見をしないことね、頭上よ】
「ちぃ、こそこそ死角ばっかり狙ってんじゃねぇよ!?」
一瞬だけISTSを使用して、全方位から来るビーム攻撃を認識しきる。連続する六本のビーム光を避け切れば、上から降るように突撃してきた目隠し女がいた。
七連続目となる銃剣のようなものを寸でで避け切り、奴の離脱を許すまいと突撃を敢行する。
「ISがゲテモノなら搭乗者も同種のようだな。まさか、今の攻撃を避けるとは思わなかったぞ?」
「は、てめぇと出来が違うんだよ。下っ端戦闘員が」
ペタルで動きを止めるために、目隠し女の周りを取り囲むようにして張っていく。
「低脳が、何度も同じ手が通じると思うな?」
クソッタレが、近接戦は元々俺のカテゴリーじゃないんだよっ!?
奴の攻撃型ビットが、背後にあったペタルを攻撃して四散させる。そのまま即席の穴を作り出し、脱出しながら偏向射撃を行ってきた。俺は銃撃を受けに徹するだけの装備に対して反撃できないことに、思わず歯噛みしてしまう。銃撃戦でなら、既に三回以上仕留めている自信がある。だが、射撃できない今の武装ではそれが不可能だ。
【蜂の巣になるわ、一回体勢を立て直して連携なさい】
「セシリア、援護してやる! 突っ込めっ!!」
『承知しましてよっ!!』
奴から繰り出される攻撃を防御と回避に徹しながら、セシリアに連携を求めた。ブルーティアーズが一気に目隠し女へと距離を縮めていく。
セシリアへ向けて放たれる攻撃を全てのペタルで防ぎきると、奴が笑いながら俺の方を向いた。
『やはり、戦闘での核はお前か。他は雑魚だな』
『私をあまり舐めないで下さいまし!?』
セシリアが突撃して奴に組み付く。そのまま天井のシールドバリヤーに、青い機体が二機とも揃って激突した。
『喜久さん! 今です!!』
『貴様……』
「充分だセシリア、離れろ!?」
『はい!』
背中に一一枚のペタルと、腕に回転させたドリル状のペタルを出現させていく。そのまま、瞬時加速《イグニッション・ブースト》の上乗せを行って、一気に奴との距離を詰めた。
「くたばれ、目隠し野朗がぁ!!」
セシリアが組み付くのを辞めて回避すると同時に、入れ替わりの攻撃が目隠し女目掛けて突き刺さる。
ズンッ!!
「くっ!?」
【おしかったわね、外れたわよ】
「うるせぇ!」
クソが、なんて反射神経してやがるんだっ!?
当てきったと思った攻撃が防がれた。それは、奴自身が持っていた狙撃ライフルを咄嗟に防御として使ったためだ。
バキィィィィィンッ!!
そして奴の背にあったシールドバリアーが衝撃に耐え切れず、砕け散って破損した。互いにアリーナ外へと飛び出していく。
「逃がすかよ!?」
「ち、やはりお前の側に一人着くと、私の方が不利みたいだな」
追従しようとすると、奴が防御型らしいビットをばら撒きだす。
「しゃらくせぇ!」
街に被害が出る前に終わらせてやる!
迷わずペタルの回転ドリルでビットを破壊する。そして、手間取っている僅か数秒間が致命的となってしまう。
目隠し女はバックダッシュに瞬時加速《イグニッション・ブースト》をかけ、その場から緊急離脱しだした。
【街に出られたわね、追撃するにしても一度戦力を整えた方が良いわ】
「くそ、ミスっちまった……」
『サイレント・ゼフィルス!! 逃がしませんわ!』
なにっ!?
「待てセシリア、一人で先走るな!?」
こっちの制止する言葉を振り切られる。セシリアの駆るブルーティアーズが、破損した穴から抜け出して目隠し女を追いかけていく。
「馬鹿野朗が!!」
【彼女、随分と頭に血が上っているようね。失敗したら返り討ちにあって死ぬわよ】
「冷静に語ってんじゃねぇよ! お前は黙ってろ!?」
『喜久、援護して!」
今度は真横を抜き去るようにして、甲龍を駆っている凰がやって来た。俺は慌てるようにして聞き返す。
「他の奴は!?」
「まだよ!」
市街地だと、無防備な一般市民だらけなんだぞ。ち、一方的な戦力で詰めるなら後二人は欲しいところなのに……。
考えている余裕なんてありもしない、ティアーニからの追加の報告があがってくる。
【どんどん二機との距離が離れていくわよ、決断は早い方が良いわね】
「……ち、他を待ってても埒があかないか。凰、セシリアの馬鹿が先走った! 俺に掴まれ!」
「どうするのよ!?」
説明してる暇なんて無い。すぐさま凰を抱き、前方を思い切り睨む。
「ちょっと!」
「直ぐに追いつくぞ、舌噛むなよ!?」
ペタルを全て背中に出現させる。そのままペタルを羽ばたかせると、前方の二機を追うために瞬時加速《イグニッション・ブースト》を使用した。上乗せされた急激なスピード上昇で、音速の壁を突き破っていく。
「くぅ……ッ!? アンタのISは本当に無茶苦茶ね!」
「見えたぞ、離脱しろ凰」
「え! もう追いついたの!?」
スピードを維持しつつ、凰を両腕からゆっくり下していく。切り離すと同時、セシリアと交戦している目隠し女の腹部目掛けて蹴りかます。
『ちぃ!?』
「クソッタレが、また外れかよ!」
奴もISTSが使えるとかいう、オチじゃないだろうなっ!?
最高速度から放たれる蹴りを目隠し女がギリギリで回避しきる。奴の危険回避能力が異常性を持つほど高いことがわかった。これだけの域に達していると、もはや化物クラスのIS操縦者と大差がない。
『貴様の前に、まずは雑魚の掃除が先のようだ』
『くっ!』
目隠し女がセシリアの方へ突撃しだす。セシリアはビットを使って応戦するが、それも簡単に回避されていく。奴が精密射撃を行い、ブルーティアーズの機体に対して部分一極集中攻撃を行う。
「逃げろセシリア!」
目隠し女の周りにペタルを張るが、無駄な動作を一切排除したような綺麗な避け方で回避された。
『馬鹿が、死ね』
『あぁぁああああああああああああああああああっ!!』
セシリアが腕の辺りをナイフのようなもので刺され、絶叫の悲鳴を上げていく。
【まずいわね、彼女やられるわよ】
「だったら、ISが強制解除される前に終わらせてやる!!」
ISTSをフル状態で発動させた。途端、全てが止まったような時間が訪れる。瞬時加速《イグニッション・ブースト》をかけて、目隠し女へ一気に詰め寄った。
奴が仕掛けてくるスローで動く攻撃を全て避けきり、
『くっ!?」
こっち側に死人が出るよかマシだ、後のことなんて知るか。てめぇを殺した罪も負ってやる。
「くらえやぁ!!」
驚いている表情めがけ、死亡確定の一撃をかます。足と共に繰り出される回転ドリルのペタルが、絶対防御を突破する。そのまま奴の顔面を吹き飛ばした。
「ぐあっ!!」
自身の持てる最大の一撃が、直撃寸前で回避された。目隠し女の顔につけていたバイザーが剥がれて吹き飛ぶ。
「ぐ、貴様ァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「くそが、顔を吹き飛ばしたはずなの――
それ以上の言葉が続かずに困惑してしまう。
――――似ていた、いや、似すぎていた。前方で怒り狂う人間の顔が、織斑姉にそっくりだった。
「殺してやるっ!! ……なに、ふざけるなスコール!? くっ!」
呆けている間に、奴が離脱を開始しだす。
『バーンッ♪』
セシリアの声が聞こえた。放たれたビットの偏向射撃が、織斑姉に似た奴へと追従していく。
『死にぞこないが!』
『それはアンタでしょうが!』
『ちぃ!?』
凰の衝撃砲が奴をさらに追い詰める。我に返りペタルを張って応戦するが、全て避けられた。凰が追いかけるが、それでも奴の射撃に撃ち負けて距離を離されていく。
落下していくセシリア受け止めながら、ゆっくりと地面に着地した。
『待たせたな!』
「駄目だ、行くな一夏! 今のお前じゃ、奴に勝てない!」
一夏の声が聞こえて俺が焦る。
『やってみなきゃわからないだろ!?』
「奴はぼろぼろだ、あれじゃ暫くは何も出来ない! これ以上下手に追い詰めると、街に被害が出る可能性がある。今は逃がした方がマシだ!」
一夏と凰の操縦技術じゃ、目隠し女が手負いだとしても勝てる見込みが少ないだろう。ましてや、奴自身の動体視力と勘が尋常じゃない。単体での実力は、間違いなく国家代表クラスだ。
制止の呼びかけに一夏が止まる。しかし、もう一人の勝気な人間が俺の意見を阻みだす。
『なに弱気になってのんよ!? 行くわよ一夏!』
「止めろ凰、今のお前じゃやられるぞ!?」
『うっさいわね! あんたは黙ってなさい!』
――クソッタレが、いい加減にしろ。
「やめろ凰。言うこと聞かないなら、俺が相手になってやる。全力で相手してやるから、今すぐかかってこい?」
『なに言ってんのよっ!? くぅ……、あああ、もう! 後でどうなっても、あたしは知らないからね!?』
「充分だ。今はそれで良いよ」
やっとの思いで止められ安堵する。セシリアの方へ顔を向けると、ISの機能で傷口の血が止まっているのが理解できた。
「喜久さん」
「大丈夫か?」
「ええ。今は少し休みたいですわね」
「俺も体がきつくてしょうがないな。俺がセシリアを運んでやる、だから少し寝とけよ。あとで誕生日パーティのときに、騒ぐ元気を残しとくべきだろ?」
「そうですわね。すいませんが……宜しくおね…………が――
セシリアがスースーと寝息を立てていく。完全に気を抜きながら、織斑姉の顔をした奴の去っていた方へと顔を向けた。急激な体の疲れが襲ってくるが、しばらくの間は混乱が頭を支配していた。
― 9 ―
「せーのっ」
「一夏、誕生日おめでとうっ!」
パンッ! パンッ!
「お、おう。サンキュ」
シャルロットの掛け声とともに、拍手とクラッカーの弾ける音が飛び交う。現在、織斑家のリビングは人数過多を起こしていた。みんなが騒ぐリビングの端から立った状態で、その騒ぎを遠巻きに眺めている。
「狭《せ》めぇ……。これならカラオケ屋のでかい部屋でも借りて、騒いだ方が良かったんじゃないのか?」
「カラオケ屋? なんです、それは?」
横にあるソファーの方から、座って休んでいるセシリアが尋ねてきた。彼女の包帯が巻かれた腕を見て、思わず溜息を吐いてしまう。
「なんでもないよ、気にしないでくれ。それより、本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫ですわ。それに、この催しに出席するように言われたのは、喜久さんではありませんか?」
戦闘の場では安心させるために言ったけど、まさか本当に来るとは思わなかったよ。
過度のお祭り好きではないはずだと思えば、貴族の嗜みというものなかと考える。どっちにしても、個人的には好ましくない状態だ。
「本人の意思は尊重するけどさ、傷が痛むようだったら直ぐに言えよ?」
「ご心配ありがとうございます。喜久さん、気がめいる言葉は止めませんか? せっかくの一夏さんの誕生祝の席でなのす、楽しまないのは損ではなくて?」
「はいはい、わかりましたよ」
ぐっと、背伸びをして壁にもたれかかる。みんながガヤガヤと騒ぐ光景を見ると、キャノンボール・ファストの乱入騒ぎが嘘のように見えた。
織斑姉に瓜二つだった奴の顔を思い出す。あの場に間近で見たのは俺だけで、疑問が拭えずじまい。気づけば、つい考え込んでしまう自分がいた。
「それにしても」
「ん?」
「喜久さんにこんなに優しくしていただけるのでしたら、もっと怪我をしてもいいかもしれませんわね」
セシリアが嬉しそうに笑い、俺は御免だと首を左右に振る。誰だって大事に思っている誰かが、傷を追って苦しむ姿は見たくない。
「勘弁してくれ」
「ふふ、冗談です」
「俺はそういう冗談は嫌いだ」
「あら、冗談で生活しているような方にいわれても説得力に欠けますわね」
【ついでに非常識もつければ完璧ね】
「おい!」
彼女の悪口にティアーニが便乗した。げんなりしてその場に座り込むと、一夏がこっちに向かってきた。
「喜久、セシリア、今日はありがとな。二人とも疲れたり怪我してるのに俺のために来てくれて感謝してる」
「ああ、たまの機会だ。こういうことは大事だろ? それと一夏」
そう言ってプレゼントを手渡しする。
「プレゼントだ。革の財布だから使い込めばその分味が出てくるだろさ」
「おお、ありがとな! 大事に使わせてもらうよ」
子供のように喜ぶ顔を見て、セシリアと二人して苦笑した。
「一夏さん、私からもプレゼントがありますの。受け取って下さいな?」
「ああ、セシリアもありがとな」
「開けてみて下さないな?」
セシリアが一夏に箱を手渡すと、その中身を見るために包装紙を取り除く。中身のティーセットを見て呻いてしまい、一人が自慢げにウンチクを開始した。
「コホン! これはイギリス王室御用達のメーカー『エインズレイ』の高級セットでしてよ。それと、私が普段愛飲している一等級茶葉もお付けしましたわ」
「おお……、なんかすごいな。サンキュ、大事に使うぜ」
何も知らない一夏と、喜ぶセシリアを見て顔を横に背ける。この前に行った買い物で、四〇万が安く済んだとか言い放った奴だ。陶器の高級メーカーなんて知らないが、明らかにおかしな値段がするに違いない。
恐くて値段なんて聞けないし、能天気に喜ぶ一夏を見れば、知らぬが仏が大事なのかもしれないと思った。
「一夏、セシリアからもらったティーセットは、極力大切にしたほうが良いぞ」
「え、何でだ?」
「カップを割ったときに、お前の心臓が止まらないためだよ」
「おかしなこと言う奴だな、何で俺の心臓が止まるんだよ? セシリア、ありがとな」
「はい! 喜んでいただけて私としても光栄ですわっ♪」
おかしな会話が成立し、その光景を苦笑いしながら傍観した。
「一夏、ラウラが庭に来て欲しいって言ってたよ。行ってあげて」
「ああ。ありがとなシャル、ちょっと行ってくる」
シャルロットの呼びかけで一夏が庭の方へ向かう。彼女の両手には飲み物が入ったグラスが二つあった。
「喜久にセシリア、はいこれ」
「ありがとうございます、シャルロットさん」
「ありがとさん、酒ならもっと良かったな」
「そんなこといってる人には、あげないからね」
セシリアに片方渡すと、俺の分がシャルロットに飲み干さていく。
「おいおい……、まあ良いけどさ」
「喜久には、キャノンボール・ファストの試合も滅茶苦茶にされたしね」
「そのあと全員で、俺のこと攻撃してきたじゃねぇか」
「それは喜久の自業自得だよ。僕とラウラは、殆ど何も出来なかったし」
「ISのピンボールなんて中々ないもんな」
シャルロットが思い切り睨まれる。どうも俺のせいで装備が一つ壊れたらしく、一連の出来事の後に一回だけ足を踏まれて痛い思いをした。
「はぁ、もう良いよ。あれ、喜久?」
「なに?」
「明かりのせいかもしれないけど。前より目の色がほんの少し薄くなってる気がするけど、僕の気のせいかな?」
「あら。言われてみれば、そんな感じがしなくもありませんわね」
二人がこちらの顔を覗き込み、自分の心臓が飛び跳ねあがる。
「ごめん、ちょっとトイレ行って来るよ」
「行ってらっしゃい」
「早く戻ってきてくださいね?」
二人に軽く手を振って、一夏にあらかじめ聞いておいたトイレに向かう。中に入ると直ぐに設置された鏡を見た。
「――ち、まさか寿命が近いんじゃないだろうな?」
ISTSに関しての知識は、母さんから聞いている分でしか理解できていない。当時の研究資料は第二の俺を生み出さないために、全て母さんが破壊している。
だから、使用し続けて目の色素が薄くなるなんて知らないし、寿命のリミットがあとどのくらいあるのかなんて、想像すらつかなかった。二人に言われて初めて気づいたが、鏡を見れば明らかに目の色が少し変わってきているのがわかる。
「あと何年だ……、俺が生きてられるのは?」
辛気臭い顔が鏡に写り、一瞬だけ殴って破壊したい衝動に駆られてしまう。
数秒過ぎたところで蛇口の水を使って顔を洗い、備え付けられたタオルで顔を拭いていく。
――やめよう。
前に自殺未遂をしたあの日から、精一杯生きると決めたんだ。だったら、生き抜くことだけ考えれば良い。俺にはそれだけあれば充分だ。一分だけこの場所に留まって気持ちを切り替えると、トイレを後にしてみんなの騒いでいる部屋に戻った。
◇
「お、良かった。売り切れはないな、喜久も持ってくれるか?」
「ああ。本来は、お前にやらせることじゃないんだけどな」
「良いんだよ。今日の俺は、何もしてなかったしな」
一夏と二人して会話をしながら、自販機の前でジュースを買っている。現在、買出しのために外へ出ると、織斑家の近くにある自販機へと足を伸ばしていた。
タバコが吸いたいので、さらに足を伸ばそうと思い一夏に提案を持ちかけてみる。
「一夏、ちょっと飲みたいものがないから、他の自販機探しに行って良いか?」
「……」
いつもの陽気な反応が返ってこない。
「千冬姉《ちふゆねえ》……?」
「――いや、私はお前だ織斑 一夏」
声のした方へ顔を向けた。そこには織斑姉を逆再生して若くしたような、本人に瓜二つの人間がいた。
「な、なに……?」
「今日は世話になったな」
一夏の戸惑いと同時に俺が身構える。
「 !? お前、もしかしてサイレントゼフィルスの――
「そうだ。そして、私の名前は織斑 マドカだ」
「よう、目隠し野朗。キャノンボール・ファストじゃ世話になったな?」
横槍を入れるように言った瞬間、奴が始めて俺の方を顔を向けてくる。
そして……、なにがおかしいのか突然、腹を抱えて笑いだす。
「あはははははははははははははっ! そうか、スコールが面白い顔を見たと言っていたが、そういうカラクリだったか。何で絶対防御を破壊できたのか、通りで納得がいったぞ。そうか、あいつには兄がいたのか。これは最高に面白いジョークだ、あははははははは」
「あぁん、そらどういう意味だよクソ女?」
俺が兄?
どういうことだ、あの実験じゃ俺以外は全員死んだはずだぞ!?
奴が笑う様子に、戸惑いと焦燥感が募りだす。一種の異様な光景に、俺と一夏が次の動作に移れない。
「奈落の落とし子が二匹もいたとわな。ゲテモノ、一つだけ良いことを教えてやる。お前と同じ顔の人間がこの世にもう一人存在するぞ。まあ、私には関係ないがな……織斑 一夏、私が私たるためにお前の命をもらう」
そう言って奴が拳銃を取り出す。瞬間、ISTSを使用して腕を瞬時展開させつつ、ペタルを一枚だけ一夏の前に出現させた。
パァンッ!
「ち、邪魔をするなゲテモノが」
「どういうことか詳しく聞かせてもらうぞ。逃げられると思うなよ?」
銃弾が俺の防御に弾かれる。
「ゲテモノ、お前の首は私が撥ねる、織斑 一夏の命も必ずもらう」
「逃がすかよ!!」
【喜久、上から未確認物体が急降下してくるわよ】
なに!?
上空に待機していたらしい六つの射撃型ビットから、一夏に向かってビーム光が放たれる。両腕までを何とか瞬時展開しきって覆うと、二枚のペタルを頭上に張って一夏を庇う。
ドンッ!
「ぐあっ!」
ペタルで相殺しきれなかった攻撃が、クロスさせた腕を破壊する。破損して剥き出しになった内部部品が火花を散らす。直ぐに辺りをを見回すが、奴は既にこの場からISを展開して逃げ出していた。
「クソッタレがぁあああああ!!」
「喜久!」
夜空を見上げながら咆哮する。クソ女を逃がしたこと対して、自身の甘さを罵った。