ln   作:kiarina

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[ NumberingTitle_凶悪ナ得物_二重メンテナンス ]

 

 ― 6 ―

 

日曜日の現在、新しい武装整備のために半縄の研究施設を訪れている。朝から出張ってきてるのだが、整備作業で時間がかかるらしい。そのために職員から応接ロビーのような場所へと案内されていた。

 適当に寛いでいると、一休憩入れるためなのか笹崎がこちらへとやってくる。朝に顔を合わせた時は、キャノンボール・ファストで荒れた時の様子がなりを潜めているようだった。

 だが、本人は頭の中で今なにを考えているのだろうか。疑問がわいてしょうがないが、聞いてもしょうがないとも思ってしまう。

「ここ、良いかしら?」

「ええ、大丈夫です」

 おいおい、ロビーフロアは禁煙スペースじゃないのか……?

 笹崎がテーブルを挟んで対面席に座り、煙草を取り出して火を点けだす。呆れた顔をしてみせると、本人が笑いながら答えだした。

「私は施設所長から、許可を貰ってるのよ。どこで吸っても構わないってね。まあ、主任特権みたいなものかしら。市隈君も吸う?」

 なんて縛りのない、自由な会社だよ……。

「どうして吸ってるって、思うんです?」

「だって歯が黄色いもの。息は隠せても、口の中までは無理でしょう?」

「未成年に煙草を勧める笹崎さんは、本当に自由人すね。でも、貰えるなら喜んで吸わせてもらいます」

 笹崎が子供のような笑みで、煙草の箱と洒落たジッポーを渡してくる。今日はセシリアとシャルロットがいないので、こっちも気兼ねなく羽を伸ばす。

「あら、やっぱり点け方が手馴れてるわね。良い絵になってるわよ?」

「それは映画の俳優じゃないと様になりませんよ。俺は、端役で気楽なのが良いですね」

 煙草を一本だけ貰って、笹崎に残りを手渡しで返す。

「他の人には内緒でお願いするわね。じゃないと、私の首が飛びかねないわ」

「はは、そらそうだ」

 本人の口から一息分の紫煙が宙を舞い、漂う。

「さて、新武装の件だけど。私の考え方は変わっていない。ISに求めるのは、建設性のあり方だけよ」

「じゃあ、今回はISに何をするんです?」

「蛇のような毒の牙を付けるわ」

 毒? どういうことだ、毒って?

 ISは生の生き物ではない。頭の中で、思わず唸ってしまう。

 笹崎の言葉を聞いて自身の中で思考する。しかし、毒という言葉《ワード》にも攻撃的要素が含まれているように感じられてならない。

 本人は片方の手の平を作り、残りの手の指で突付くようにしてみせた。

「ようは、ISの本体にコンピューターウイルスを射ち込むの。これはね、兵器開発が嫌いな私の中で、妥協点に当たる部分になるわ」

 笹崎が表情が微かな憂いを見せる。それは、本人が本当に兵器開発を嫌っているのだと感じさている証拠のように思えた。

 あえて気にしないようにして、話の続きを促すことにする。

「でも、どうやってそんなものを射ち込むんです?」

「シールドバリアーを逆手に取らせてもらうわ。あれはISと操縦者を守るように張られているけれど、裏を返せば一番触れやすい場所でもあるのよ。そこからウイルスを流し込んで、相手の行動を麻痺あるいは使い物にならなくさせるわ。武装に攻撃が当たった場合は、使用許可《アンロック》の状態を無理やり使用不可《ロック》へ変更させ続けるウイルスプログラムが走り続けるようになるわね」

 笹崎の説明に納得する。この毒《ウィルス》による攻撃は、強制的な武装放棄をさせるということなのだと。

 矛盾と紙一重のような妥協点だが、ダメージを与えずに無抵抗化できるメリットは大きいといえる。対峙した操縦者が死なないという点では、ある意味では理想的な兵器といえるのかもしれない。

「相手のIS本体へ射ち込んだ回数で、威力の内容が変わっていくわ。一つ射ち込めば少ししてから麻痺し始めて、四つ以上射ち込めばおおよそのISが最後は機動停止ね。本体機能を停止させれば幾らISでも、ただの鉄の置物でしかなくなるわ」

 俺は思考する。確かに相手からしてみれば、これから追加される新しい武装は脅威の対象になるだろう。

 しかし、当たらなければ意味がない。織斑姉の顔をした、クソ女のサイレント・ゼフィルスを頭の中で思い浮かべる。軽く思考して戦闘シュミレーションしてみるが、あれに当てるのはかなりの至難技に感じた。

「笹崎さん、その毒による攻撃ですけど。相手に向かって飛ばすことは、出来ないんですか?」

「……あなたの意見が大事なことも理解できるわ。私もこの前のキャノンボール・ファストでは、その部分を考えさせられたしね」

 笹崎が吸っていた煙草の先が全て灰になる。本人は少し思考に耽った後、再び俺の方を向いた。

「良いわ、これが本当に私にとって最後の妥協点。今回、搭載予定していたのは両腕部だけのつもりだったわ。だけれど変更よ。半縄では試作実験段階の状態だけど、他の部署が独自研究してるビット兵器へ組み込んで搭載させるわ。現時点で用意できる数は二機、ビット自体を相手に直接当てられれば、そこからウイルスを流し込めるようにする。これを扱えるかどうかは、もちろん市隈君次第となるわね」

「ありがとうございます。それだけ付けて貰えれば、立ち回りを随分変えられそうです」

 上手くいくかどうかは解らないが、手数が多いに越したことはない。笹崎に感謝してから、もう一本煙草を貰う。再び二人の周りで紫煙が漂い始めた。

「あのISのコンセプトは紫陽花が元になっているの。今回の追加は急な用件だったから、まだ名前が決まっていなかったわね。紫陽花には、グリコシドという毒素があるわ。丁度良いから、呼称はこれにしましょう」

「わかりました」

 またそんな適当に決めて大丈夫なのか?

 紫陽花ね……。しかし、それじゃあIS本体が黒い色になったのはいったい誰の趣味だ?

 半縄の適当加減を考え込んでいると、笹崎がありありと不満を漏らす。

「それにしても、安全だと思っていたIS学園のあの体たらくには、正直怒りを通り越して呆れたわ。どうなってるのかしらね、まったく」

 ――安全な場所か。俺もIS学園に入るまでは、そこが身の安全のために何とかなる場所だと思って、しょうがなく入学したんだけどな。

 二度の学園襲撃を思い出す。一度目は無人機、二度目はサイレントゼ・フィルスのクソ女だ。それじゃなくてもミアの件もある。入学した後で目まぐるしく動く環境に、眩暈がしそうになったこともあった。

 だからといって、学園生活がなければ出会わない人間がいたことも確かだ。そして入学するかしないかのどちらに転んでも、俺は結局何かと戦う羽目になっているのも理解できた。笹崎が煙草を吸いきって席から立ち上がる。

「さて、ジェネレーターの改良強化の整備も終わってるころでしょうから。私は戻らせてもらうわ。よければ市隈君も一緒に来る?」

「え……、背部のジェネレーターも、何か手を加えたんすか?」

「ええ、ペタルの硬度を上げたのよ。ジェネレーターのある背中の部分が少し厳つくなったけど、まあしょうがないわね」

 またかよ、ティアーニのアップデートの時もそうだったよな……。

 何も知らされていない間に、勝手に装備が強化されている。どうも、こっちの適当なところと、半縄のあり方が少し似てるのかもしれないと感じた。

「一緒に行って見学させてもらいます」

「じゃあ、ティアーニも待ってるでしょうし。現場の方へ行きましょうか」

 

 ― 7 ―

 

 いつものように四時限目の授業が終了して昼休みに入る。それと同時、一夏が俺の元へとやって来た。

「おい喜久、簪のとこ行こうぜ?」

「えー、後はお前に任せたじゃん。俺はゆっくりしてたいんだけど?」

 一夏が簪を契約を取り付けてからというもの。最近、なぜかいつも目の前のハッスル人間に連行され続けていた。

「喜久は俺と簪のサポートだし。だったら一緒にいないと、駄目だろ?」

「んな、四六時中一緒にいる必要がどこにあるよ? だいたい、簪とはいつも放課後に会ってんじゃん」

「楯無さんを召還するぞ?」

 一夏に言われた瞬間、心底げんなりする。ここのところの話だが、こっちがなにを苦手にしているか流石に一夏も解ったらしい。反抗すると『更識』の単語を言うようになった。

 思わず手を左右に振って、拒否してしまう。

「やめろ。あんな冷かしだけを生甲斐にしてるモンスターを召喚されたら、俺の昼休みが台無しだ。それにしても一夏さ」

「ん?」

「お前、だんだんずる賢くなってきたな?」

「これは喜久に影響されたんだよ」

「ひでぇな。なんだよ、俺のせいかよ」

 はぁ……。二学期に入ってから、日増しに環境がどんどん悪化してる気がするな。

 軽く首を回すと、しょうがなくその場で立ち上がった。向かうは、四組にいるネガティブ女子のもとへだ。

「わあったよ、行きますよ。たく、しょうがねーな」

「織斑君、そろそろ喜久を返してくれないな?」

 やってられないと思っていたら、シャルロットが不満そうにしてやってくる。一夏が俺のことをやたら引っ張ってるせいで、シャルロットが急に冷たい対応をとり始めていた。

 そして二人して向かう先に、一人の女子がいる。これがさらに拍車をかけていた。ちなみに一夏に断られた凰とボーデヴィッヒは、現在完全に一夏のことを無視あるいは敵視している。

「う、ごめんなシャル。悪いけど、タッグマッチが終わるまでは喜久を貸してくれ」

「おい、俺は貸し出し物じゃないぞ。物みたいに言うな」

 シャルロットに手を合わせている一夏に文句を言うと、彼女がありえないくらいの笑顔で一夏に対応する。

「おかしいね、織斑君たら何を言ってるのかな。僕の名前はシャルロットだよ?」

 うわ、怖ぇえ。なに、この恐妻家みたいなの……。

 一夏がシャルロットに攻撃されて困惑し始める。他人事のように傍観していると、今度はセシリアが俺たちの元へやってきた。

「喜久さん。今日こそは私と、昼食をご一緒して下さいますわよね?」

「セシリア、あのな――

 一夏が何か言おうとした瞬間に、キッとすごい勢いでセシリアが睨みだす。二人に攻撃されて、奴が自身の心と共に二歩ほどその場から後退していく。

【喜久、時間は有限よ。優柔不断は損するだけね】

「どうして優柔不断になんだよ? はぁ……、あのなシャルロット。セシリアもだけど、悪いけどしばらく一夏の方に合わせさせてくれない?」

「喜久さんは四組の簪さんとはタッグではない筈では?」

「喜久、僕たちも我慢できる限度があるよ?」

 変に取り繕ってても、一向に埒が明かない。深く溜息をついて、しょうがなく真面目に答えることにした。

「俺は物理的な補佐をする気はないよ」

「おい!?」

 こっちの回答に一夏が慌てているが、気にせずに話を続ける。

「そっちは一夏に丸投げだな。俺がするのは妹さんの精神的な補佐と、できれば修復の方だ。更識姉妹は仲が良くないんだよ。俺には姉が一人いるけどさ、家族は大事にすべきだろ? 俺がしたいのは、その部分だよ」

 セシリアは両親、シャルロットは母親を亡くしている。二人が今の話で食事の件を納得してくれると思い、本心をきちんと話すことにした。二人は思い当たる節があるのか、その場で少し黙り込む。そして溜息を一つすると軽く苦笑した。

「良いよ、行ってきなよ喜久。そのかわり、タッグマッチが終わるまでだからね?」

「シャルロットさんが言われた通り、私も引くのは今回だけですわ。喜久さん、くれぐれも言っておきますが。私はシャルロットさんの他に恋敵が新たに生まれることを好ましく思っておりません。今ここで、釘だけはささせて頂きます」

 セシリアの堂々とした宣言に、今度は俺が苦笑した。

「はは……まあ、ありがとな。それじゃ一夏、行くか?」

「ありがとなシャル、セシリア」

 感謝してから二人して教室を出た。

 

     ◇

 

 いつもの様に簪と合流する。毎度のように食堂で適当に注文を済ますと、一つのテーブルを陣取って座りだす。自分の食事を手を付けながら、一夏と簪の方へ顔を向けた。

「いただきまーす」

「い……いただき、ます……」

「何で言い方がたどたどしいんだよ。そんなんじゃ、飯が不味くなんぞ?」

 指摘すると、簪が嫌そうな顔をしだす。言葉を受け入れていない辺り、なんとも一丁前にプライドが高いのは理解できた。

「……喜久、……一々うるさい……」

「俺に言われたくないなら、すぐにでも直すこったな?」

「く、……あなたのせいで……余計に、不味くなる……」

 苦言を呈してくれば、それを見た一夏は苦笑している。

「まあまあ簪。喜久も悪気があって、言ってるわけじゃないんだから」

 三人で行動し始め、俺たちは互いを名前で呼び合うようになっていた。一夏は持ち前の人当たりで、俺の場合は初日のどつきあいのおかげだ。一夏が嬉しそうに自分の飯を食いながら、簪のほうを見る。

「おー、かき揚げべちょ漬け派か。気おつけろよ、サクサク派のラウラに見つかると、エンカウントバトル開始だぞ?」

「……違う、一夏……これは、たっぷり全身浴派……」

 何派とか、そんなもん食べれれば、どうでも良いじゃねぇかよ……。かといって、それをこの二人に言おうもんならあとでうるさそうだな。

「それにしても、今日のチキン南蛮は出来たてホヤホヤで最高だなぁ。簪、食べてみる?」

「……え?」

 一夏が自分の食いもんを一口摘んで、簪に食べさせようとする。当人は顔と耳を真っ赤にして俯きだした。知り合って間もない相手にこういう芸当が出来る辺りが、なんとも天然というか自然というか。これで顔の造りが良いから許されてるが、じゃなけりゃ女子どもから凄い反感を買いそうだ。

「そ、そう……やって…………」

「ん?」

「いつも……女の子を落としてるの……?」

 簪がぼそぼそと呟き、一夏はとくに解ってる様子もない。篠ノ之、凰、ボーデヴィッヒがこの場にいたら、奴がサンドバッグにされる光景が目に浮かんだ。

「この朴念仁はそうだな。まあ、天然だから大目に見てやってくれよ」

「おい、喜久……」

「うるせぇ、タラシ野郎が。気をつけろよ簪、油断してると丸々食われるから」

「 !? 」

 案の定、簪の顔中がボッと真っ赤になる。一夏が俺のほうを向いて怒り出す。

「なんでそうなるんだよ!? 簪、喜久の言ったことは気にするなよ」

「そうだな。どうせ取って食われる身だから、潔く諦めた方が良いんじゃないの?」

「お前本気で怒るぞっ!」

 簪が食器を持って移動し席を一つ分空け、一夏に背を向けて食事をし始めた。おかげで奴の顔が泣きそうになっている。

「……一夏、不潔。……私に……近付かないで……」

「喜久、お前は何がしたいんだよ……?」

「お前が更識召喚とか言うからな。お返しだ」

 更識と言う言葉を発したため、そっぽを向いていた簪が俺たちの方へと向き直る。

「ああそうだ、なあ簪。あの冷かし魔の姉の弱みとか、なんか知らない?」

 そう言った瞬間、一夏も興味心身で簪の方を向く。二人しての飛びつき方を見て、彼女が少し驚いていた。

「……わからない。……でも、編物が苦手」

「ち、やっぱ駄目か。あの更識を黙らせる方法が、どうにかして欲しかったんだけどな」

「う~ん、やっぱ難しいか。あそこまで隙がないと、俺も喜久もどうしようもないんだよな」

 編物が苦手くらいの情報じゃ、どうにもならなそうだ。もっと、更識が悲鳴を上げて逃げ出すくらいのものが無いだろうか………………駄目だな、本人が生理的に拒否したいもの意外は無理そうだ。

 ふと気づけば、簪がこっちを不思議そうに見ている。

「もしかして……二人とも……姉さんが、苦手……?」

「情けない話だけどな。更識が苦手じゃない奴がいたら、教えて欲しいくらいだ。あんなのが彼女だったら、人生振り回されっぱなしだな」

「どうしても向こうが一枚上手になるんだよ。俺も喜久も、目下の悩みの種だ」

 うな垂れていると、簪が小さく笑いだす。

「私も……姉さんが苦手。……一夏も喜久も……私と一緒なのね……」

「苦手の内容は違うけどな。大まかに言えば、似たようなもんか」

「そう考えると、ここにいる三人は似た者同士だな」

 簪の答えに二人して追従する。三人揃って話し込んでいるうちに、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。

 

     ◇

 

 放課後の第二整備室が慌しい。学年の壁がなくなったように、各々の人間が協力を仕合っている。前の俺だったら間違いなく避けて通る場所で、そして一番嫌っている場所だ。観察をし終えて一夏と簪の方を向くと、彼女がISを呼び出そうとしている最中だった。

「おいで……、『打鉄弐式』……」

 粒子が彼女自身を包み込んで、次には鉄のドレスを纏ったような格好になった。ここ何日かは三人と、新たに加わったもう一人の人間で整備室に溜まっている。一夏のほうをみれば、四人目の人間である布仏と機体について、あれこれと話し合いをしだしている様子だ。

「おい喜久。お前もサボってないで、手伝ってくれよ」

「そこは一夏に任せたよ。だから頑張って」

 適当な場所を陣取って座り手を振ると、言われた一夏がすごく嫌な顔をしだす。そして奴は布仏に突っ込まれる。

「おりむー、よそ見しないのー」

「あ、ごめん。たく、お前は何のためのサポートだよ……」

 さあね、少なくとも一夏のためじゃないな。

 打鉄弐式と白式は同じ倉持技研で開発されている。そのためデータ互換の相性が良いらしい。一夏と簪はお互いの成長を伸ばすようにして、機体調整をし続けていた。毎度のように、簪と布仏から叱咤の激励が一夏へと飛ぶ。

「おりむーはさ~。束博士の作った機体性能に甘えすぎなんだよー。本当は、ISって~いっぱい、いーっぱい、手をかけてあげないとダメなんだよー」

「ISの……自己進化と最適化はすごい……。けど、甘えちゃ……ダメ」

 布仏に正しい指摘をされて一夏がへこみ、さらに簪の突っ込みでぺちゃんこになってしまう。だが、何かに気づいたらしく、こっちを凝視し始めだす。

「あそこにもう一人だけ、俺以上に甘えまくってる奴がいるぞ?」

 俺を巻き込んでどうするのよ……、一夏君。せめてやるにしても、自分の原因を追究してからにしろ。

 そう言えばといった感じで、女子二人がこっちを向く。

「だとさ、ティアーニ。お前も第二整備室《ここ》で、改修してもらったら?」

【面白くない冗談は貴方の顔だけで充分だわ。そのことは前に言ったはずだけど、もう耄碌して痴呆にでもなったのかしら?】

 ティアーニに喋りかけると、相変わらずの毒舌が返ってきだす。やり取りを見ていた女子二人が、苦笑いして軽く引いている。文字通り、足も一歩引いていた。

「ティアーニがごねるんだ。だから俺のせいじゃないぞ、一夏?」

「喜久、お前は明らかにそれを盾にしてるだけだよな?」

「そうとも言うな」

「こいつ、肯定しやがった……」

 くだらない話し合いをしていると、ある程度の調整を終えた簪が一夏のほうへ顔を向ける。なんともたどたどしく、緊張しながら話し始めていく。

「と、ところで……その……え、えっと」

「言うならはっきり言えよ、一夏が困るぞ?」

「う、その……えっと……」

 だめだこりゃ……、修正を試してみるが効果がない。

「どうした簪、トイレでも行きたいのか?」

「 !? 」

 ――こりゃ両方とも重症か。

 一夏の言葉に簪が顔を真っ赤にして茹蛸《ゆでだこ》のようになりだす。ちぐはぐな会話のあと、その様子を見ていた布仏がスパナ!? で一夏を軽く殴った。

 ガンッ!

「いってえぇええええええええ!?」

 おとなしい顔して、やることがエグイ……。今ので打ち所が悪けりゃ、重症患者のできあがりだな。

 一夏を殴った本人は、いつも通りに陽気な顔をしている。まるでホラー映画の悪役みたいに微笑を崩さない。

「おじょうさま~、不敬者を殴っておきました~。おりむーは~、でりかしぃないと思いますー」

「ぐっ……」

「たとえほんとーにトイレだったとしても~、言わないのがマナーというものだよー?」

 布仏に常識という名の正論を言われて一夏が頭を抱えだす。さらに普段より五割増くらいで苦悩していた。どうやら布仏に言われたということが、一夏にとってよっぽど堪えたらしい。話が進まなそうなので、しょうがなく先へと促すことにする。

「で、簪は一夏に何をお願いしたかったんだよ?」

「あ、あの……一夏に……飛行テスト……付き合って、欲しい」

「だってよ一夏」

「なんだ、そんなことか。もちろん、いいぜ」

「あ、ありがとぅ……」

 二人のやり取りを微笑ましく感じ、一歩下がって他のことを考え始めた。ここのところ四人で行動しているが、明らかに整備のスピードが遅い。やはり、ここらで一つ手を打つべきだなと一人考え込む。このあと飛行テストのために布仏を残して、俺たちは第六アリーナへと移動を開始した。

 

     ◇

 

 三人で第六アリーナまで来ると、それぞれが専用のISを展開していく。

「喜久、なんか前と形が変わってないか?」

「なんか……悪魔みたいな、形に見える……」

【悪魔は失礼ね、訂正を要求させてもらうわ】

 ティアーニの言葉に簪が少し萎縮してしまう。

「やめろティアーニ、話が進まないだろ。まあ、半縄で色々と組み込んだから、ゴテゴテになった感じではあるよな」

 改めて自分のISを確認する。ブラックペタルの背中に搭載されているジェネレータには、放熱フィンのような物が増設されていた。次いで、新たに追加された武装のビットが、ブルー・ティアーズのように肩の横で浮遊いている。これも背中に収納すると、まるで羽が生えた生き物のような印象をもつ。

 気難しいAIの手前で口には出さないが、確かに羽の生えた化け物みたいな感じになった気がする。各自準備を終えると、一夏に指示を出す。

「俺は下で待機してる、一夏は上を頼むな?」

「ああ。じゃあ、俺が先に飛ぶからタワーの一番上で合流しよう」

「わ、わかった……!?」

 どうせマスクのせいで顔は見えないだろうが、笑いながら簪の背中を軽く叩く。

「気楽にして心に余裕を作れ、上も下も安全なんだからな。お前は遊ぶ感覚でやってくれば良い」

「……あ、ありがとう」

 簪がたどたどしい感謝を述べてくる。

「もう一回」

「え?」

「お礼くらいは、ハキハキと言えるようにならなきゃな」

「あ、ありがとう」

「よく出来ました。それじゃ、行ってこい」

 そう言って一夏と簪を送り出す。一夏が先に上がると、次いで簪が上空へ上がっていく。見守るようにして、上空にいる二人の様子を窺った。問題なく二人揃ってタワーの上の方へ辿り付くと、今度は降下を開始する。大丈夫そうだと思っていた瞬間、打鉄弐式の一部が突然火を噴きだす。

「おい、どうした!?」

『喜久! 打鉄弐式の右脚部ブースターが爆発したっ!』

「ち、やっぱり少数のIS整備じゃ付け焼刃が良いとこか。一夏、簪を受け止めろ! 俺はそれに合わせてペタルを張る!」

『わかった!!』

 一夏が瞬時加速《イグニッション・ブースト》で、タワーの壁に激突しそうな打鉄弐式を受け止める。そのまま急いで出現させたペタルへと激突した。

『ぐうっ!?』

『い……一夏……』

『……へ、へへ。大丈夫か? ちなみに俺は、ムチャクチャ痛え』

「大丈夫そうだな一夏、簪を持ったまま下に降りて来い」

『ああ、わかった』

 今の事故が一夏本人の衝撃による痛みだけで済んだことに、ほっと胸を撫で下ろす。二人揃って降下してくと、思わず脳裏に浮かんだ三人組を哀れんだ。一夏に抱えられている簪の顔を見て、内心で苦笑してしまう。

 あーあ、これは篠ノ之と凰、ボーデヴィッヒが見たら泣くだろうな。

 三人でISを粒子化して展開解除を行う。

「なあ簪、独力の成果はどうだった?」

「……わかってる……くせに……」

 俺が言うと、簪がとても嫌そうな顔をする。それは認めたくないが、認めるしかないといった表情をしていた。

「なら、これ以上は他人の手を拒むなよ? というわけで、決まりだな一夏」

「ああ、そうだな。簪、やっぱり整備科の人に手伝ってもらおうぜ?」

「う、うん……そうする……」

 一夏に言われて簪が振り子のように頷く。

「そうか、ありがとな簪。えーと、じゃあ……のほほんさんはオーケーとして、黛先輩にも声をかけてみるか?」

「し、知り合い……なの?」

 一夏の口から出る女子の名前に、ピクリと簪の片眉が上がる。

「ああ、そうだな。一夏の尊敬する先輩で、ものすごく仲が良いぞ。なあ、一夏?」

 会話に横槍を入れて一夏に声をかけると、簪が衝撃を受けて落胆しだした。内心で笑い、ゆっくり後ろに下がり始める。

「そんな……」

「こら喜久、何言ってんだよ。黛先輩は新聞部で、よく俺に会いに来るからさ。普通に話しをしてる人だよ」

「……っ!?」

 一夏の言葉によって急激に回復した簪が、ふと何かに気づいたらしい。怒ったような顔をしだし、こっちを睨みつけてくる。しかし、既に俺との距離は一〇メートル以上離れている。

「喜久っ!!」

「お前って、からかうと面白いよな?」

 言った瞬間、簪が顔を真っ赤にしながら突撃を開始してきた。

 

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