ln   作:kiarina

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[ NumberingTitle_切換方_1ツノ結論 ]

 

 ― 8 ―

 

 翌日の放課後、第二整備室に新しい五人目が加わる。目の前では一夏が黛を呼んできていて、今は整備の為の交渉を始めていた。

「いやあ、黛先輩! 今日は来てくれてありがとうございますっ!」

「言っておくけど私は高いわよ~? 独占インタビュー、……ううん、デート一回ね?」

「ええっ!?」

「織斑くんとデートかぁ。ふっふー、自慢しまくっちゃおう」

「勘弁してくださいよ~。じゃあ、喜久もおつけしますよ?」

 一夏が欠伸をしている俺のほうを向く。

「俺は対象外だ。実際に頼んだのは一夏だろ?」

「…………くそ、なんで俺だけ一人で行かされたのか理由がわかったぞ。汚いぞ、喜久……!」

 今さら気づいたらしく、ものすごく悔しそうな顔をしだした。昨日の飛行テストで新しい整備の人間が必要との結論に達し人集めを『一夏だけ』にお願いする。思惑に気づかぬまま、奴は一人で整備のお願いを黛に頼み込んだ。

 横で見ていた黛が、ことさら不満そうな声をあげだす。

「え~、よっちゃんはつかないのー? 残念ね、デートは駄目でもインタビューはできると思ってたのに」

「まあ、そういうことです。悪いけど、生贄は一夏だけですから」

「なんで、いつも俺は喜久に丸め込まれるんだ……」

 俺のやり方に嘆いている。

 だが、仮に一夏みたいなことをさせられた場合、金髪二人組に見つかった時のことを予想していく。きっと悲惨なことが起きる、気がして考えるのをやめた。

「ふーむ。それじゃあ後は、京子とフィーに手伝ってもらいましょうかねぇ」

 黛が口元に指を当てながら携帯電話を取り出し、どこぞへと電話をかけ始める。

「京子、ちょっと良いかしら? ええ、整備の依頼で報酬もあるわ。……うん、織斑くんと二ショット写真。自費で良いなら学内デートもOKだけど?」

『マジで!?』

 通話口の向こうから大きい声が聞こえて、一夏がげんなりする。これで整備の問題がなさそうだと思い、他の場所へ足を向けることにした。

「一夏、俺はどうせ傍観だしさ。ちょっと席を外させてもらうわ」

「なんか用事か?」

「まあ、そんなとこ。終わったらまた戻ってくるからさ」

 適当に片手を振り、簪と布仏に断りを入れて第二整備室を後にした。

 

     ◇

 

 あるドアの前に付くと軽く溜息をついてしまう。生まれてこのかた職員室と校長室、視聴覚室に生徒会室とは相性が最悪だ。覚悟を決めて、鬼門ともいうべき部屋のドアを三回ほどノックした。

「はい、どうぞ」

「失礼します。やっぱ、入りたくねぇな。はぁ……」

 扉を開ける前に、もう一度だけ部屋のプレートネームを確認する。そこには『生徒会室』のフ札がかけられていた。

「あら、よっちゃんじゃないの。これは珍しいお客様ね。どうぞ、入ってちょうだい」

「ちゃんと生徒会長やってんすね。怠慢して、部屋には居ないと思ってましたけど?」

 ドアを開ければ、更識が会長席みたいな場所で椅子に座ったまま出迎えてくる。部屋の端で作業中だったらしい、集会で見たことがある布仏姉が俺を注意しだす。

「あなた、お嬢様に対して失礼ではありませんか? 歳が下なのですから、礼節と言葉には気をつけなさい」

「私自身、確かに非のあることと理解しております。しかし、それは礼節を重んじておられます、上級生の貴方様のみにさせて頂きたいのです。俺は目の前の奴に色々とやられてるからな、そんなの冗談じゃねぇよ」

 前後の言葉使いの違いに二人して吃驚している。更識がケラケラと笑い出し、布仏姉が未だに絶句し続けていた。

「ギャップが面白いわね。よっちゃん座って頂戴、今お茶を出すわ」

「いいから手間は省こうや。それより、今日は頼み事があってここへ来たんだ。要件は更識さんの妹さんのことだよ」

 ふっと更識の顔が一瞬だけ陰り、布仏姉の方も同じような感じだった。適当な場所に座ってポケットから小型のメモリースティックを取り出す。テーブルの上に置くと、二人が不思議そうな顔をして覗き込んだ。

「『打鉄弐式』のデータの一部が入ってる。マルチ・ロックオン・システムのデータプログラムが未完成で、今回はそれを完成させて欲しいんだよ。そっちの布仏さんにな」

 依頼に対して、布仏姉が何かを考えながら返答してくる。

「なぜ私に頼むのかしら?」

「更識さんが自分の機体を作った際に、頼ったのが布仏さんだって聞いてたんで。だったら、これを三日程度で完成させるのも、わけないと思ったんですよ」

 どんなデータ量と作業量なのかもわからない、その上で三日と言い切って二人がさらに考え込む。

「『打鉄弐式』の整備状況を報告すると、はっきり言って芳しくない。このままだと俺が頼んだお願いの部分まで、作業の手が届きそうにないんです。無理そうなら他を当たってみます。できそうですか?」

「いいわ、やってみましょう。これはお嬢様のお役に立ちそうなことでもありますし」

 疑問に対して布仏姉が直ぐに返答を返す。更識がとても助かったような、申し訳ないような顔をした。

「ごめんね虚ちゃん、ありがとう」

「お嬢様を支えることが、私の役目ですから」

 一通りやって欲しいことの細かい部分を説明し終えると、俺は座席から立ち上がる。一礼して、ドアへと向かいだす。

「じゃあ、宜しく頼みます」

「ええ、わかったわ。それにしても」

 布仏姉がこっちを見て微笑み、なにかと首を傾げてしまう。

「なんすか?」

「外見に似合わず気が回るのね。粗暴なだけだと思っていたけど、見直したわ」

「そらどうも。一応、褒め言葉として受け取っておきます」

 たく、裏方ってのは本当に骨が折れる作業だね。俺の役割はこれで終わりだな。

 一度だけ会釈して生徒会室を後にした。

 

     ◇

 

 目の前で黛とISを纏った簪が、大会前日の最終チェックを行っている。

「よーしよしよし、何とか基本部分はこれで完成ね。更識さん、機体の動作に違和感はない?」

「だ、大丈夫……です」

 一通りの基本動作を終えると、黛と京子と呼ばれている上級生がこっちを向く。

「それにしても、随分根回しが良いな一年。まさか、私たちと別口でマルチ・ロックオン・システムの構築を頼んでたなんて知らなかったぞ」

「俺は交渉してきただけですから。無茶言ったけど、完成させてくれた布仏の姉には感謝してますよ」

 思ってきた以上の結果に、実は自分も驚いている。頼んでおいたプログラムは、九割以上完成した状態で俺の手元に返ってきた。おかげで『打鉄弐式』の整備問題も全てクリア、簪本人が最初に求めていたゴール地点に辿りついた感じだ。

「さてと一夏、とっとと片付け始めようぜ? 俺はさっさと楽になりたいよ……」

「さーてっ! それじゃあ、私たちは先に上がらせてもらおうかしら。よっちゃん、あんたも来なさい」

「どうしたんすか?」

 黛に言われて疑問に思ったが、簪の視線が一夏にいっていることに気づく。なにをしたいのか納得し、ここは上級生に対して素直に従うことにした。

「そうすね。じゃ、後は宜しくな一夏」

「ちょっと待てよ、俺だけかよ」

 朴念仁が、お前はいつもそうだよな……。

 一夏がそんな阿呆なといった感じの顔をしだす。

「いやいや、ここは織斑くんに任せましょう。頑張ってね織斑くん」

「そうか、じゃあ後は宜しくな織斑」

「あらあ、優しいですねぇ。んふー」

「やた。じゃあおりむー、よろしくね~」

「……わかりました」

 黛の提案に殆どの人間が納得し、押し切られた一夏が俺を恨めしそうに見ている。

「……あ、あの!」

「簪、お礼ならハキハキと言えよ?」

 もう一歩だなと、簪が言いたいことを察して指摘してみる。

「スゥッ……あ、ありがとうございました。わ、私一人じゃできなくて。あ、あの本当にありがとうございました!」

 彼女がこれでもかというくらい頭を下げて、内心で微笑ましい姿に和やかな雰囲気をになっていく。他の人間も慈愛の表情を浮かべながら、二人の様子を眺めていた。が各々ねぎらいの言葉をかけて、俺も声をかける。

「お二人さん、明日は頑張れよ。チームワークが大事なんだろ?」

「ああ、そうだな。喜久、また後でな」

「……喜久……ありがとう」

 適当に手をぶらつかせて返答すると、そのまま上級生と一緒に第二整備室を後にした。

 

 夜、寮の屋上でいつもの様にぼーっとしてから自室を目指す。部屋の近くまで行くと簪が何かを抱えながら壁に背を預けて座っていた。何かをぼそりぼそりと呟くような声が聞こえてくる。

「あ……あ、ぁっ……ぃ、や……いや……いやぁ…………」

 彼女の目の前辺りまで行くが、全く気づいた様子がない。ただずっと、壊れた音楽が流れているように泣いていた。しょうがなく、内心で溜息を吐いて簪の前で腰を降ろす。

「 !? 」

「静かにしようや。どうせ誰かにばれたくないから、声を殺してたんだろ? お前は本当に感情を表に出すのがへったくそだよな。気が紛れる場所に連れてってやるよ。校則無視だかならな、楽しいぞ?」

 驚く簪に小声で話し掛けた後、立ち上がって彼女の前に手を差し出していく。動くまで待ってやると、やがてゆっくりと俺の手を掴んで立ち上がる。

「それじゃ、行きますかね?」

「……うん」

 声を押し殺して泣き続ける簪の手を引き、気分転換のために再び寮の屋上を目指した。

 

     ◇

 

「ちなみに、俺の気分転換はこれがないと始まらないんだ。悪いけど今からする行動は黙っててくれよ?」

「 っ!? 」

 寮の屋上に辿り着くと、簪から少し距離を離して煙草を吸い始める。女性が吸う銘柄の煙草は、半縄へ出向いた際に笹崎からもらった物だ。

「……喜久……やっぱり、不良……」

「そうだよ、だからどうしたって感じだけどな。愚痴りたいことがあるなら付き合ってやる。だから、煙草のことは黙っといてくれると助かるんだけど?」

 二人して適当にその場へと腰掛ける。会話は当たり前のように続かず、簪が黙ったまま考えに耽っている様子が窺えた。何分かが経った頃、煙草を吸っていた俺の方が先に口を開く。

「俺はね、簪のことが羨ましいと思ってる」

「え?」

「だってさ、お前には実の父親も母親も姉もいるんだろ? 俺には血の繋がってない姉だけがいる。血の繋がってない母親は死んで、もうこの世にはいない」

 簪がこっちの語ったことに吃驚している。彼女が目を丸くしている様子に、思わず笑いそうになってしまう。

「俺が血の繋がっている人間はね、この世に一人もいないんだよ。だから家族が揃ってる簪が、羨ましいと感じる時があるんだ。まあ、無いものねだりなんてしても、意味無いんだけどな」

「……私は……そんな……羨ましがられる、人間……じゃない……」

「隣の芝なんてのは、いつも青く見えるもんな。俺は俺だしお前はお前だから、誰かと代わることができない。だったら、俺はそれでいいと思うんだけど?」

「……わ、私は……いつだって……お姉ちゃんの後ろ」

 少しずつ、簪が泣くのを止めて落ちつきを取り戻し始めていく。鼻をぐずっていたが、構わず会話を続けた。

「別にそれで良いんじゃないの? だいたいさ、簪は更識が嫌いなのか?」

「……嫌い……じゃない。……でも、お姉ちゃんの後ろも……嫌…………」

「頑固だな、それにみみっちい世界だ」

「……喜久には、わかるわけない。……私の……気持ちなんて………………」

「じゃあさ、お前に俺の気持ちがわかるのか?」

「そんなの……、関係……ない」

 吸いきった煙草を携帯灰皿に片す。そんな俺の行動を簪はじっと観察していた。

「そっか。じゃあ簪は誰にも何も言わずに、心に蓋をして寂しく一生を過ごすのか。くっだらねぇな、何も言えない人生に、姉の後を追うことしか考えてない時間がそんなに楽しいかね」

「く、……楽しいわけじゃない、でも……私は」

「肩肘張ってるのは、一人だけなんじゃないの? 俺をお前のもとによこした更識のことも、少しは考えてやるべきなんじゃない?」

「……それは余計な……お世話……でしかない」

「お前のことを考えてなかったら、更識はお前に対して無関心なんてだけしか残ってないよ。……はぁ、なんか俺が説教爺みたいで嫌になっちまうな」

 もう一度煙草を咥えて、簪の方に一本差し出す。彼女が再度吃驚した顔をしてしまう。

「……いらない」

「そっか、まあ肺に悪いしな。なあ、良いことを教えてやるよ」

「 ? 」

「何かを壊したいと思ったらな、後のことを考えずに勢い任せで行け。少しでも考えたらそこで止まっちまうからな。全部クソッくらえぐらいに思って、なりふり構わず動いてみろよ? 場合にもよるけど、偶に良い終わり方をする時もある」

「……私は、喜久じゃない」

「そらそうだ。でも、そう思うことが大切だとも俺は思う。一回で良いからやってみな、少しは何かが変わる切欠になるかもしれないぞ?」

 疑問を投げかけると、簪が立ち上がって持っていた袋を渡してくる。

「……部屋に戻る。……はい、これ」

「なんだ?」

「……いらないから、あげる」

「ああ、まあそれじゃ貰っとくけど。明日はタッグマッチだ、もう一つだけ言わせてくれない?」

「……なに?」

「一夏だけどな、お前のこと信頼してるぞ。ちゃんとそれに答えてやれよ?」

「……クソッくらえ。わかった……やってみる」

 泣きすぎて腫れた目の簪が、いきなり俺の教えた言葉を言い放つ。そのまま少しはにかむようにして笑い、屋上から去っていく。彼女が言った最後の言葉に面食らってしまい、しばらくその場でポカンとしてしまった。

 

 ― 9 ―

 

「ふあ、眠いな……」

 タッグマッチ戦当日の朝、昨日の疲れからピット内で席にだらしなく座っていた。近くでは他のチームが本番に備えて、余念のない表情をしている。

「喜久、やる気がそがれるんだけど……。もうちょっと、きちんとした姿勢が出来ないかな?」

「シャルロット、今は試合に向けて集中するべきだ。喜久はどうせ棄権しか考えていないぞ」

「そうだな、ボーデヴィッヒが正解だ」

 話しかけてきたシャルロットがげんなりしだす。このピットには現在シャルロット、ボーデヴィッヒ組みが一緒にいる。一つだけ電源が入っているモニターでは、更識が画面に映っていた。

『どうも、皆さん。今日は専用機持ちのタッグマッチトーナメントですが、試合内容は生徒の皆さんにとってとても勉強になると思います。しっかりと見ていて下さい』

 いかにもまともなことを言って、白々しくも実に会長らしい発言をしている。シャルロットとボーデヴィッヒは画面を真剣に見つめているようだ。

 だが、どうせこの後で、その雰囲気をぶち壊しにする気しかしなかった。

『まあ、それはそれとしてっ!』

 嬉しそうに更識が扇子を開き『博徒』と、書かれている。途端に二人の顔つきが変わり、嫌そう視線をモニターに向けだす。

「今日は生徒全員に楽しんでもらうために、生徒会である企画を考えました。名づけて『優勝ペア予想応援・食券争奪戦』!」

 あーあ、やっぱりな。ここまで大々的に言えるんだ、この分だと教師全員も更識の奴に丸め込まれたな。

 ガンッと、ボーデヴィッヒがそこらにある椅子を蹴り飛ばす。

「あの女、私に対して競走馬になれと言いたいのか!? ふざけるな!!」

「ラウラ、落ち着いて!?」

 賭けの対象にされて荒れだし、シャルロットが必死に宥める。普段よっぽど更識に弄られているのが、とうとうここにきて爆発したらしい。暴走してレールカノンをここで撃たれても面倒だ。しょうがなく、ため息を吐きながら俺も共に宥める側へまわった。

「落ち着けよ、ボーデヴィッヒ。本番が始まれば、いずれどこかで更識とあたるだろ? そこで日頃の鬱憤をぶつければいいんじゃないの?」

「く、あの女。当たったら直ぐには降参させんぞ、絶対に後悔させてやる……!!」

 ボーデヴィッヒが打倒更識を掲げ、苛立ちながらそこらにある椅子へと座りなおす。

「ありがとう喜久。それにしても、先輩はいつもやることが突飛すぎだよ……」

「あいつは三度の飯より人を弄るのが好きだからな。要は、あいつのペースに飲まれなきゃ良いんだよ」

 ディスプレイでは更識の合図と共に対戦発表が現れていく。第一試合でいきなり簪の対戦相手に更識が当たっているが解った。これは、初戦からかなりの荒れ模様になりそうだと感じた。

 

     ◇

 

 待っている間、オッズの状況がディスプレイに現れていく。その状態に思わず驚いてしまった。

「なんだよこれっ!?」

「喜久、これは棄権したら袋叩きに合うかもね……?」

「ふん、あの女がやりそうなことだな。どうやら、奴は怠けることを許さないと言っているようだな」

 賭け事は順調に行われている。だが、おかしいことに俺が勝った場合、賭けた数に対してもらえる数が他より二倍に設定されていた。

「更識の野朗が、計りやがったな! 俺が一番人気とか、明らかにおかしいだろ!?」

「喜久が勝てば、配当される食券の量が普通の倍なるんだね。なんか喜久に賭ける人数が、まだ増え続けてるよ……」

【人気者は辛いわね、精々頑張りなさい】

「うるせぇぞティアーニ」

 シャルロットが口元を引き攣らせながら答える。三人で画面を見ているが、俺に賭ける人間が未だに増え続けていく。そして、ボーデヴィッヒが嬉しそうに俺の肩を叩く。

「喜久、お前にも私の気持ちがわかったろう。絶対にあの女の鼻っ柱をへし折るぞ?」

 意気込む奴の言葉に対し、俺はやる気を持って追従した。

「ああ、完全に機能停止状態まで追い込んでやる。間違いなく一発は、顔面に叩き込んでやるよ」

「喜久、完全に会長のペースに飲まれてるよ……」

 シャルロットが呆れたようにこっちを見てくる。

「あいつが売ってきた喧嘩だ。だったら買ってやるのが道理だろ? クソッタレが、あの野朗――

【三人ともISを展開なさい、下らないお客のお出ましよ】

 言葉を言い切る前に、ティアーニから警報のような一言が発せられた。その場にいた三人が、各々のISを展開しだす。

 ドンッ!!

 瞬間、天井を粉砕しながら見たこともないISが顔を覗かせた。飛び込んで来た勢いでボーデヴィッヒに突撃する。

「させるかよ!」

 六枚のペタルを出現させて遮った。すると、侵入者はまるで何事もなかったかのようにペタルを腕のブレードで全て真っ二つに切り裂いてしまう。

「強化したばっかだぞ、どうなってやがる!?」

「下がってラウラッ!」

 シャルロットがパイルバンカーを打ち込もうとするが、それを侵入者が後ろに下がって綺麗に避け切る。ボーデヴィッヒが回避を許さずに、AICを発動させた。

「くらえっ!」

 ガクンッと、侵入者がその場で動きを停止させだす。迷わず侵入者に向けて突貫を開始した。

「ボーデヴィッヒ、下がれ!」

「任せたぞ!」

 入れ替わるように前にでる。AICの呪縛から解放された侵入者が、両腕のブレードを振るう。

「見え見えなんだよ、馬鹿が!!」

 ISTSを一瞬だけ発動させ、相手の攻撃をかわしつつそのまま懐へ飛び込む。

「沈めや!」

 流れるように動き、二機のビットと両手に備わっているグリコシドを発動、間髪入れずに四発分を侵入者に射ち込んだ。

「これは……やっぱりそうか」

 五秒と立たずにもがき始めた侵入者の動きが止まる。笹崎が言っていた機能停止の四発以上を同時に打ち込んだが、本当にあっけないくらいに相手が停止してしまった。

 形が戦乙女《ヴァルキュリヤ》を連想するような出で立ちに変わっていたが、侵入者のISは春ごろに一戦した無人機を類似させる造りだった。

 ドンッ!

 クソが、いったい何匹がこのアリーナに進入してやがる!?

 他の場所でも爆音が続き、今は考えに浸っている時間も無い。

「これは無人機だ、この後は間違いなく停止して動かない! ボーデヴィッヒ、シャルロット、セシリアと凰の方を任せたぞ!? 俺は他へ行く!」

 きっとコンピュータ制御だから一発で停止したんだ、じゃなきゃこの侵入者はもっと動けてるはずだ。

 二人の確認を取らず、無人機が空けた天井から外へ飛び出す。上級生らしき人間たちの様子が見えたが、遊ぶように無人機を攻撃しているので他へと意識を向ける。

【左下よ、苦戦してるわ】

 ティアーニの指示する方に更識と篠ノ乃がいた。すぐさま背中にペタルを全て出現させ、一直線に戦闘状態の場所へ向かう。

「更識、一瞬でいいから敵の動きを止めろ! 後は俺がやる!」

『よっちゃん!? 敵は絶対防御を貫通できる攻撃を持ってるわ!』

「良いから! 篠ノ乃と二人で一瞬だけ敵の動きを止めろ!!」

 そういうことかよ、クソがっ! だからあんなにも簡単に、ペタルを切り裂けたのか。

 呼びかけに応じてくれたらしい、更識が敵への攻撃パターンを変えだす。

『了解したわ! 行くわよ箒ちゃん!?』

『はい!』

 更識と篠ノ乃が逃げ道を塞ぐようにして、無人機攻撃を加え続ける。爆発と炸裂音が響き渡るが、敵は人間の関節の造りを無視した避け方をしていた。

「二人とも充分だ、下がれ!!」

 一〇枚のペタルを使って奴を囲い込む。しかし、更識の言っていた絶対防御を貫通するブレードが、再びペタルを綺麗に切り裂く。

「これで二匹目だ――!?」

 無人機のレーザーのような攻撃を再びISTSで避け切る。だが、何をどこで覚えたのか。こっちの攻撃を読むように無人機が瞬時加速《イグニッション・ブースト》を使い、その場からバックダッシュして回避行動に徹しし出した。

「甘いんだよ!」

 ガンッ!

 出現させた後ろのペタルに無人機が激突する。そのまま二機のビットが無人機に突撃した。

 しかし、相手が張ったエネルギー式らしきシールドに一機が弾かれてしまう。残りの一機が無人機のシールドバリアーへ突き刺さった。

「くたばれ!!」

 無人機の動きが少し鈍くなった隙を逃すまいと、続けざまに両手に装備されている二発のグリコシドを射ち込む。

『よっちゃん、下がりなさい!』

「ああ!」

 ほぼ動きが停止状態になりかけている無人機から離れきる。入れ替わるようにして、更識が馬鹿でかい槍の攻撃で無人機を破砕し始めていく。攻撃が無人機の胴体に思い切りめり込み、爆散して破片が煙を吹きながら飛び散った。

『簪ちゃんたちが苦戦してる!』

 更識の呼びかけに従い、三人で一夏と簪の方へ向かう。見れば、簪が無人機に向かってミサイルを乱れ打ちしているところだった。

「更識、簪の方へ行け! 俺と篠ノ乃で無人機を相手する!」

『喜久!?』

「無事か一夏!?」

 声のした方を向くと、一夏が痛々しい姿と共に白式を駆っている。あいつは、下がれといって下がるようなタマじゃない。

「一夏、援護してやる! 相手は無人機だから遠慮することなんかねえ、ぶった切っちまえ!!」

『おう!!』

 篠ノ乃と二人、ビットや飛び道具を撃ち続けて無人機を牽制する。俺は連続でペタルの出現する位置を変え続け、無人機の逃げ道を削り続けた。

『左腕、もらったぞ!!』

 篠ノ乃の紅椿から真紅のレーザーが二発、圧倒的な速度と威力で全てを薙ぎ払うように発射された。

『うおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!』

 紅椿の存在するもの全てを貫くようなレーザー光によって無人機の左腕が千切れ跳ぶ。連携した一夏が敵が防御に使ったブレードごと真っ二つにしきる。そのまま二発目の横薙ぎによる一閃で、無人機の装甲が弾けとんだ。

「堕ちろや、鉄屑がっ!!」

 飛ばしていた二機のビットが止めを刺すように、無人機の奥にあるISのコアへ目掛けて続けざまに突き刺さった。

 無人機の動きが止まり、すぐさま他の戦況を確認する。他の場所でも残りの無人機を倒したらしく、アリーナは一応の静寂を取り戻し始めていた。

 ―――――――安心すると同時、俺の中で一つの疑問が浮かび始める。

 無人機の攻撃による二度の学園襲撃。どこかの国がやらかすにしては、リスクが高すぎる出来事だった。こんなことで破格のISコアを失うのは、余りにも馬鹿げている。そして使い捨てのようにISを扱える存在は、俺の頭の中では一人しか思い浮かばない。春の無人機による襲撃では、予測の範囲を越えることが出来なかった。

 しかし今回のことで、とある回答に行きつく。どこかでほくそ笑んでいるであろう人物に、心の中で敵意を向けた。母さんが残した言葉を無視してはいけないが、それで人を傷つけて良しとすることが肯定されるわけじゃない。

 

「篠ノ乃 束、あんたは一体なにを考えてる? これだけの被害を出して、俺の納得いく回答をもらえなかったのならだ。今度会った時に、俺は全力であんたを潰しに行くぞ」

 

 無人機の脅威は去ったが、慌しい騒ぎがやまない。この後も、しばらくはアリーナが混乱して教員が対処に追われていた。

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