ln   作:kiarina

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7-10

[ NumberingTitle_大人トノ対話_軽イ動作 ]

 

 ― 10 ―

 

「う~ん……」

 一夏が唸り、俺はベッドに寝転がっている。いつもの専用機メンバーが、なぜかこの部屋で大貧民をしていた。俺は不満が溜まり続けて現在無言のまま天井をぼーっと見上げている。

「私の番だな。よし、5の2カードだ」

「では、私は7の2カードで」

「ぬあっ!? 7は、あたしが出そうと思ってたのに!」

 やいのやいのと、騒がしい声が聞こえた。タッグマッチ戦の緊迫感はどこえやらといった感じで、今は女子達の騒がしい声だけが聞こえ続けている。一夏と組めなかった連中は、一夏に『何でも一つ言うことを聞いてもらう』という商品を賭けて勝負してる最中だ。

 シャルロットとセシリアは相乗りとばかりにゲームへ参加し、『俺を一日振り回せる権利』なんてのをこっちの確認無視で行っている。

「一夏、ちょっと風に当たってくる」

「え、ああ。わかった」

 そう言ってベッドから起き上がると、普段なら隠して持ち出す筈の煙草を机の引き出しからそのまま手にもつ。行動に驚いたボーデヴィッヒ以外の全員が注視してきた。

「え!? ちょっと喜久、あんた何やってんのよ!」

「喜久!? 貴様、そのような学生にあるまじき行為をして良いと思っているのか!」

 うっせーな、知ったことかよ。……ああ、そっか。こいつらは煙草を吸ってるのを知らなかったんだっけ?

 手に持っている煙草の箱を見た凰と篠ノ乃が、吃驚したようにして俺を注意を飛ばしてくる。

「ああ、チクリたきゃチクれよ。別に、謹慎になろうが退学になろうがどうでも良いからな。こんな何度も襲撃を受けるような場所にいたって、早死にする確率が高くなるだけだろ?」

 気の抜けたような顔をわざと作る反面、内心ではマグマが煮え滾るように苛立ちが募っていく。篠ノ乃 束の真意が見えない学園襲撃も、学園や政府の対処しきれない腐った手腕にも、嫌気が差してしょうがない。

「喜久さん、煙草は体に良くありません。吸うなら一本だけにして下さい」

「喜久、今日はお疲れ様。セシリアが言ったように吸い過ぎは良くないからね?」

「ああ、わーったよ」

 セシリアとシャルロットが俺の行動に肯定を示したが、やはり吸い過ぎの注意もしてくる。適当に手を振ると、そのままドアへ向かう。

「ちょっとセシリア、シャルロットも何で止めないのよ!?」

「そうだぞ! 喜久の行為は間違っている!」

「行って来い喜久、今の時期は外が冷える。余りの長居は体調を崩しかねんから、気をつけろ」

「ラウラもなに言ってんのよ!?」

 ボーデヴィッヒが言った言葉に手を振って、頗る居心地の悪い部屋を後にした。

 

     ◇

 

 次の日の朝、律儀に刻まれるノックの音がする。部屋のドアと正反対の方へ寝返りを打つ。こっちが動くことのない様子を察してか、一夏が反応しドアを開けに行く。

「ん? 誰ですかー?」

「はい私です!」

 発せられた声から誰が来たのか判別がついて、イラつく顔が一つ現れたことに軽く舌打ちしてしまう。

「織斑くん、市隈くん!」

「おい喜久、山田先生だぞ」

「取り調べです!」

「……は?」

 一夏の間抜けた声が室内に響く。

 ――取調べ? 何で俺達被害者側に当たる人間の方が、そんなものを受けなきゃならないんだ。

「今から二〇分後に始めるので、生徒指導室まで来て下さいね」

 ふざけたことをぬかしている発言に、拳を思い切り握りこむ。

「え、えっと……俺、今から出かけないと行けないんですけど」

「えっ? ダメですよ。事情聴取しないと報告書が書けませんし、戦闘に関わった専用機持ちは全員強制参加ですよ?」

 ついに、何かが限界に達した。

「おい一夏、出かけんだろ? さっさと行きゃ良いじゃねぇか。クソ教師の言うことなんて聞くことねーだろ」

「ダメですよ市隈君、受けないと政府のIS特務機関に拘束されます」

 ISを展開して蹴散らしてやろうか、来た奴から順番に血達磨にしてやろうかと思考が過ぎる。

 立ち上がってゆっくりと首を回すと、思い切り山田先生を睨む。

「上等だ、クソ教師が。てめぇらが対処しきれないから、専用機持ちが危険を冒すはめになったんだろうが。上の体裁なんて知ったことかよ。そっちの対応がだらしないせいで、俺らが割をくうなんて話が良すぎるだろ?」

「喜久……」

「こんな場所、その気になれば俺が一瞬で壊滅させてやる。今からでも試してやろうか?」

 ISの部分展開を行い腕を金属の装甲で覆っていく。一夏が慌てた声をあげ、後ろから羽交い絞めにしてきだす。

「喜久、お前なにやってんだよ!?」

「市隈君いけません! それは規則違反に該当する行為ですよ!?」

「知るかよ。これ以上に何か抑え付けようとすんなら、俺はあんたの頭を吹き飛ばしたって構わない」

「やめろ喜久!!」

 なに良い子ぶってんだ、一夏。お前だって被害者だろうが、なんでこんな奴らの側へつくんだよ?

 溜息を付くと、しょうがなく部分展開を解いて機械の腕を粒子化させた。一夏の腕を振り払うと、部屋を出るために移動を開始する。

「止めんなよ、そんな動作を一つでもしてみろ。こっちは生身のままで、あんたの顔を使い物にならなくしてやるからな。俺は屋上にいる、引きずって行きたきゃ織斑の奴でも連れて来い」

「ダメです市隈君、それでは貴方のためになりません!!」

「そうかよ」

「 !? 」

 ISTSを瞬間的に発動させて、放つ拳を山田先生の顔面へ寸止めする。あまりの速い動きに本人が対応しきれず、顔面蒼白になってその場に崩れ落ちていく。

「警告だ、次は止めないからな。一夏、お前もだ」

 そのまま廊下に出るため、ドアを力いっぱい蹴飛ばして屋上へ向かう。部屋を出た直後、一夏を尋ねに来たらしい簪が俺のことを驚いた様子で見ていた。

 恐がらせるつもりは無かったのだが、どうしても感情のコントロールが出来ない。おかげでむこうは俺の目付きに少し怯えた表情を見せた。

「喜久……どうしたの…………?」

「よく見とけ簪、こっちが俺の本当の顔だ」

 次の瞬間、蹴り開けたドアを再度蹴り飛ばして思い切り閉める。

「一夏は中にいる。悪いけどノックしてから入ってやってくれる?」

 呆気にとられている簪を残して、床を蹴りつけながら屋上に向かった。

 

     ◇

 

 屋上で寝転がりながらいつものように空を眺めている。時間の流れに沿って雲が流れ、形が変わっていく。同じように一定でなく過ぎ去るものは、人間の成長や老化もまた同じ具合だ。俺の蜉蝣《カゲロウ》みたいな寿命もいずれはやってくる。

 屋上の出入り口にあるドアの開く音がして、織斑姉が姿を覗かせた。

「市隈、あんまり山田先生を困らせるな。それと器物破損だ、屋上の鍵を壊したとは知らなかったぞ」

「あんたが俺を無理やり連れて行くなら俺は学園から出て行く。退学にでも何でもすれば良いさ、好きにしてくれよ」

 織斑姉は一つ溜息をついて俺の横に来ると、そのまま座り込んで軽く背伸びをしだす。

「これから私が言うことは、周りに吹聴するなよ。――正直言ってだ、私も市隈のように感情を剥き出しに出来れば楽なのだが。大人という生き物は、案外とそういう風にはいかないシステムに組み込まれているらしい」

「なんだよ、教師だって感情を吐露する場所が無きゃ精神的に潰れんだろ。まあそれじゃなくても、精神的にタフそうに見えるけど違うんすか?」

 思っていることを素直に告げると、織斑姉が俺のほうに手を差し出してきた。

「煙草を一本くれないか、持っているのだろ? それで屋上の件は無しにしてやる」

「あんた本当に教師かよ……」

 呆れてものも言えないし、匂いか口でばれてたのかもしれない。

 笹崎から貰った煙草とライターを織斑姉に渡していく。なんとも珍しい光景だ、万能にみえる本人が余りにぎこちない動きで煙草に火を点けた。一息分吸った後、なにか不味いものを食べたような顔をしだす。

「やはり煙草は合わんな、私には酒の方が良い。市隈、何を笑っている?」

「慣れない行為は辞めた方が良いと思っただけですよ。案外と柔らかい一面に、意外性を感じました」

「大人をからかうな、馬鹿者が。悪いが、事情聴取だけは受けてもらわなければならない。しかし、市隈が憤る理由も解っているつもりだ。お前の過去を知っていれば、なおさら怒りに駆られるだけの感情も理解しなければならないと思っている」

 再び空を見上げる。幾分かの沈黙の後で、ゆっくりと織斑姉に対して言葉を紡ぐ。

「なあ織斑先生、俺はあんたを信用して良いのか?」

「信用して欲しいと言うには、私達側の失態が多いな。確かにすまないと思っている。しかし、私自身は生徒が嘆くような事態を防いで行きたい。そう、思っていることも事実だ」

 非を認めた織斑姉を見る。傲慢でない人間にしか出来ない行為に、自身の判断をしかねた。

 学園を出たところで、ニコルと一戦するのは明白な確定事項だ。ニコルを潰しても、次がまた現れる可能性は大としか言いようが無い。心の中にある天秤がグラグラと揺れ続けた。

 ――結論を出すと、その場から立ち上がる。なにかが吹っ切れたわけではないが、合理的に判断を下したつもりだった。

「しょうがない、事情聴取に行きます。山田先生にも、後で謝らせてもらいますよ」

「そうか。市隈」

「なんすか?」

「お前がISに対して批判したときのことを覚えているか?」

「ええ、覚えてますけど」

「市隈の生い立ちを知った後で、私なりにだが考えた。今後において、どの国同士であったとしても、戦争回避が一番理想的だとな。でなければ第二第三のお前がいつ現れてもおかしくない。そんな未来は私もごめんだ」

 織斑姉の教育者として以外、本当の素顔が見えた気がした。

 本人も立ち上がり、その後ろに続いて屋上をあとにする。屋内に入って階段へ差し掛かるところで、背後から光が差し込んできているのに気づく。階段を降りる途中で未練がましく屋上へ続くドアを見た。あれが未来へ続くドアなのだとしたら、それを思い切り開け放ちたい気持ちになった。

 

 

 ― 11 ―

 

 とある国の海岸線で、二人の人間がゆっくりと歩きながら散歩をしている。一人は麦わら帽子にワンピースを着た少女。もう一人はスーツを着た屈強そうな男性だった。普通であれば男性の方が上のような立場に見える。だが、少女の方が彼へ気軽に話し掛けていく。

「ねぇ。なんかちっぽけな小島で、私と同じ顔の人間が発見されたって話しらしいの。どういうことかしらぁ?」

「さあ、スコールからの報告ですので。私には解りかねる事案ですね」

「そうね、貴方馬鹿だものねぇ。まあ良いわぁ、しかしねぇ。あらあらぁ困ったわね、私にお兄ちゃんが居たなんて知らなかったわぁ。コード0211は消滅して、生き残りが一人もいないって聞いてたんだけどぉ」

 少女は手に持っていた甘い飲み物が入っている容器の端に口を付け、美味しそうに一口飲んだ。男は特に顔色を変えず少女へ対応する。

「アメリカ軍が事実を隠蔽していたようですね。今のところ、真実かどうかは半々といったところでしょうか」

「あーあぁ、この目で一度確かめてみたいわぁ。直に見ないとねぇ、気が落ち着かないの。貴方にはぁ、それがどうしてかわかるかしら?」

「同じ血の混じった、肉親だからですか?」

「だって、同じ顔がもう一人いるなんて気持ち悪いじゃないぃ? だったらね、そんな存在は消し飛ばしてあげた方が気持ち良いに決まってるのぉ。私にはこの子さえいれば、後は何もいらないわぁ♪」

 少女はそう言って、我が子のようにIS待機状態の指輪を撫でる。左手の薬指に嵌められたそれは、歪な無機質の形と何色ものカラーリングが施されてなければ、結婚指輪でも通るものかも知れない。

「クスクス、機会があったら私のほうからお兄ちゃんに会いに行くわぁ。エムには悪いけど、そのまま心臓を潰して息の根を止めてあげなきゃねぇ?」

「大衆の目があります。この場では、余して良い発言ではありませんね。できればお控えください」

「あらごめんなさい、はしたなかったわねぇ。ねぇえ、この後ショッピングに行きたいの。付き合って頂戴、荷物持ちが必要なのよぉ」

 二人で歩いている中、一人の若い男性と肩がぶつかりあった。

「あらぁ、ごめんなさい」

「なんだよ、気を付けて歩けよ。ケッ」

「……」

 文句を垂れながら若い男性がそのまま歩いていく。連れ立っていたスーツの男性が即座に少女へ声をかける。

「我慢を覚えてください。ISの展開は余計な手間を増やすだけです」

「惜しいわねぇ。貴方が居なければ、私はあの男の脳天を撃ち抜けたのにぃ。残念だわぁ」

 少女とスーツの男性の頭上一〇〇〇メートル付近に、それは浮遊していた。赤と青の色を纏った射撃型ビットの先が真下を向く。

「あはははは、いーけなぁい」

 笑っていた声のトーンがいきなり低くなる。

「――手が滑ったわ」

 瞬間、射撃型ビットが白い発光色のビーム光を撃ち放った。

 ジュッ!!

 上空から飛来した光が、若い男性の体を一直線上に貫く。蒸発して一部が抉られたようになると、直ぐに肉の焼け焦げた匂いと血臭が辺りに充満しだす。力なく倒れて出来上がった死体を目の辺りにした人々の悲鳴と怒号が飛び交い、周囲がいきなり大騒ぎになる。スーツの男性は自分の胸辺りで軽く十字を切ると、そのまま笑顔で笑っている少女の方を睨んだ。

「ショッピングは中止です。車を回しますので今すぐ帰宅して下さい。このことは上に報告をさせて頂きます」

「物好きねぇ。なあにぃ、貴方も黒焦げになりたいの?」

「戻っていただきます」

「はぁ、しょうがないわねぇ。たかだかぁ腐った人間が一人だけぇ、この世からいなくなっただけじゃない。まったくぅ、うるさいし窮屈でしょうがない無いわぁ」

 少女が手を真っ直ぐ前に翳し、指を開く動作をする。すると、上空でビーム光を撃ち放った射撃型ビットが粒子化して、その場から消滅した。

 

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