[ NumberingTitle_クラス対抗戦_本当ノ実力_不明点考察_目覚メタ後デ ]
― 8 ―
次の朝、いつもの様に一夏と篠ノ之、最近加わったセシリアの四人で教室のドアを潜る。すると、教室がいつもより少しざわついていた。
四人別れて各々の席に向かうと、鞄を置いたセシリアが俺の机に近づいてくる。いつもは一夏と篠ノ之もやってくるのだが、遠巻きに見ると一夏が他の女子に捕まっているっぽく見えた。
篠ノ之は基本が一夏に追従なので、まだこちらにはやって来ない。
「なにやら朝から騒がしいようですが。一体なにがあったのでしょうか?」
「そらきっと、どっかのクラスに転校生なんてのが来たからじゃない?」
俺は昨日会った、時期外れの転校生を思い浮かべながら頬杖をつく。が、セシリアに行儀が悪いと窘められ、なくなく頬杖を止めて適当な他の姿勢をとることにした。
「喜久さんは、なにかご存知ですの?」
「ほら、昨日俺は外に逃げてただろ。その時に寮の場所を教えてくれって、そいつに頼まれて案内したんだよ」
「はぁーん、そうですか。私から逃げている間に、そのようなことをなされていたのですわね」
「なにを勘ぐってんだか。今さら、女子高みたいなとこ来て、女子に夢見たりなんてしないから。この一ヶ月で現実をよく学ばせてもらったよ」
「そうですか。なら、良いですわ」
セシリアが、にこにこと笑う。好意もってくれてるのも妬いてくれるのも嬉しい。本人が俺をどう思っているのか、気持ちの予想もつく。だが、毎日セシリアと過ごしていて、ねっとりと甘ったるいような関係はそこにない。
今の関係は、まさに母親のセシリアと悪ガキの俺という構図と化していた。
そんな状態では恋愛感覚もへったくれもない。
「それはそうと、昨日案内した凰は教室の入り口で何やってんだ?」
俺に言われて、セシリアがドアの方を向く。そこでは、凰が一夏に向かって「二組の代表は私よ」と言っていた。
そして直ぐに織斑姉が出現し、叱責と出席簿による打撃攻撃をくらう。そんな光景を見ていた俺は、顔面パンチよりあっちの方が良いなと考えていた。
隣を見ると、セシリアがおずおずと自分の席に退散し始めている。女子でも容赦なく振り下ろされるあの凶器は、彼女も怯えてるんだろうなと感じた。
◇
午前の授業が終了して、いつもの昼休み風景になる。俺は席から腰を上げると、一夏がこちらを向いて手を上げていた。
それを見たクラスの女子達が、恨みがましそうに俺の方を見てくる。しょうがなく、溜息を吐いて一夏を牽制することにした。
「おい一夏、俺が邪魔でクラスの女子がお前を誘えずにいるぞ。たまには、他の奴を誘ったら?」
「セシリアのことは、もう済んだだろ。現にセシリアも一緒に飯を食べるようになったし。大体、昨日はそれを改善しようと、ずっと寮で待ってたのに来ないお前が悪いぞ」
「わかってるけど、反省する気もないからって、痛ぇ!」
後ろからいきなり耳を引っ張られた。
「なにに駄々を捏ねているのです? 早くしないと、食堂が埋りますわよ」
「なにすんだよ!? い、やめ、わかったからっ!」
俺はピエロじゃないぞクソッタレッ!
セシリアに耳を引っ張られて、こっちを見ていた一夏と篠ノ之が苦笑している。クラスの女子もいい気味だだとばかりに笑っていた。
しかし、そんな気持ちも置いてきぼりをくうくらいに、セシリアが耳を引っ張り続けた。
「待ってたわよ、一夏っ!」
食堂につけば着くで、今度は例の転校生が待っていた。
適当に席を陣取って、昼食を取りながら話をする。聞けば、やっぱり一夏の知り合いだった。
篠ノ之と幼馴染だとは聞いていたが、凰も同じような感じらしい。先ほどから会話を交わしているが、どちらも一夏が好きなのがわかる。
はっきり言って、傍から見てる分には笑えるし面白い。が、当人だったら最悪な板ばさみだ。
俺がセシリアと話していると、凰の顔がぐるりとこちらを向くる。
「ところでさ、喜久。隣の人は本当にあんたの彼女じゃないの?」
いきなり話を振られて、今まで話をしていたり聞いていた面子が俺の方を向いてくる。俺は溜息をつくと、箸を下に置いた。
隣とは、もちろんセシリアのことだ。
「俺とセシリアの関係は、躾る母親と躾られる子供みたいなもんだよ」
「なによそれ?」
凰は「その意味不明な解釈はなんなの」と反応し、一夏と篠ノ之は納得したような顔をする。対照的にセシリアが少し拗ねた顔をしだした。
そして、肘内を地味に鳩尾へと入れてくる。
「痛いんだけど、それ。無言で肘を入れないでくれない?」
「おほほほ、なんのことでしょうか?」
セシリアのじとっとした抗議の視線を受け流しつつ、再び食べ物を口に運ぶ。そのまま水を飲んで口内を空にした。
「というわけだ、凰。そっちが肴に出来るようなものは、なにも提供できないよ」
「ふーん。でも、一夏よりぼけてもいなさそうね?」
「一夏より酷かったら、入院確定だろ?」
仲良くなってから聞いた話だが、一夏は両親がいないと言っていた。
そうなると織斑姉が本人を育てたのだろうが、どうしてそんなに異性関係に疎いのか。
一夏の精神年齢はいったい何歳だ?
「なあ。なんで俺は酷い言われようなんだ……?」
「お前が鈍すぎるのだ」
一夏が抗議の声を上げるが、篠ノ之がそれを撃沈した。
こういうことは自分で気づくしかないだろう。というか、篠ノ乃と凰が可哀想なので、直ぐに気づいてやって欲しい。凰が興味を無くして話題が近況に変わる。すると、ISの話が出始めた。
「悪ぃ、俺ちょっと先行くわ」
「ああ、後でな」
一夏が返事をして俺は席を立つ。
「ちょっと、お待ちになられて下さいな!?」
食事中にまでISの話は聞きたくない。膳を片すために歩き出すと、少し遅れてセシリアが後を追ってきた。
◇
あれから、数週間の時間が過ぎた。
どうも、一夏と凰は喧嘩したらしく、俺とは会話しても一夏は無視されていた。
まあ、一夏がなにかをやらかしたのだろう。そして今日は、クラス対抗戦の当日。俺は人気の無い寮の屋上で煙草をふかしながら、アリーナの活気を見下ろしていた。
なんとも大規模な行事だ。学園で唯一の専用機持ち男子の一夏と、新しい専用機持ちの凰は話題性抜群だろう。セシリアも見に行ったから、今ごろ篠ノ之と隣同士で観戦中にちがいないことが予想できた。
あの二人は協力して、毎日一夏を鍛えている。俺も無理やり誘われたが、絶対に嫌なので参加していなかった。
アリーナから少し視線を動かす。外に設置されている金の無駄遣いを象徴しているような、一際大きなモニターが目を引く。
「ここにいたんだ」
は?
後ろを振り返ってみると、初日に会話を交わした貝田がこちらを見ていた。
今の俺は手に煙草が握られている。つまり、もう隠すのは手遅れだという事実だけは理解できた。
現に、貝田も少し驚いた様子でこちらを見ていた。
「えー、黙っててくれません?」
「どうしようかなー?」
「ですよねー」
もういいやとばかりに、やけになって俺は隠しもせず煙草を吸う。フェンスに腰掛けると、何故ここに来たのか聞くことにした。
「俺と話してると、他の女子にハブられるぞ? それに、一夏の試合見に行かなくて良いんか?」
「友達にはトイレに行くって伝えてて、先にアリーナへ行ってもらってるの。なかなかこういう機会ってないからね。市隈君には、どうしても謝りたくて」
貝田が申し訳なさそうに言う。女子同士は男子のそれよりも、付き合い方が面倒臭いことは知っていた。
それに、いつもは一緒にいるセシリアも今日は試合を見に行っている。貝田はセシリアが俺の傍に居ないのを見計らってたのかもしれない。
俺は適当に手を振ると、吸いきった煙草を携帯灰皿にしまった。
「別に気にしてないよ。もともとは、授業中に俺が取った行動が原因だしね」
「それでも、無視してたのは私だし。市隈君が織斑君やセシリアさんとかと普通に話してるのを見て、私が考え方を変えた方が良いなと思ったの」
「さいですか。まあ、どっちでもいいけどね。とりあえず、貝田さんの好意には甘えておくよ」
「ありがとう」
貝田が「これは仲直りのしるしね」と言って、背中に隠していた両手を前に出す。そこには缶ジュースが二本握られていて、そのうち一本を俺によこした。
特に断る理由も無いので、受け取ってプルタブを開ける。二人して飲んでいると、少しの間を置いて貝田が話し掛けてきた。
「市隈君は、なんでISが嫌いなのに学園に入ったの?」
「まあ、やむにやまれぬ事情ってやつかな。そっちは?」
セシリアの時は事情が事情だったけど、他の奴はどうなのだろうか。
「私の理由は単純だよ。ただ、ISに乗ってみたかったから。そのために猛勉強もしたし、おかげで憧れの織斑先生にも会えたし。クラスのみんなは良い人多いしね。前から聞きたいことがあったんだけど、なんで市隈君はIS操縦があんなに上手なの?」
「感覚が良いからじゃ答えにならないよな……。じゃあ問題だ、代表候補生がISに乗っている時間はどのくらい?」
「え、いきなり!? う~ん、三〇〇時間くらいって覚えてたけど……」
はい、良く出来ました。正解です。
答えを聞きながら、俺は青空を見上げて上空に手を翳す。貝田は俺の行動が理解できないらしく、ぽかんとした表情で見ていた。
「まあそんくらいだよな。一日一時間として、約一年くらいだろ? じゃあさ、俺が乗ってるのがそれくらいだとしたらさ。まあ、こんな具合になるわけだっ!」
上空からアリーナの方へ飛来する人型めがけて、瞬時展開した腕。さらに展開したスナイパーライフルから弾を発射する。人型は挨拶代わりの攻撃を回避しきって、こちらを見据えていた。
「煙草のことは黙っといてくれよな?」
ISを部分展開から全面展開すると、瞬時加速《イグニッション・ブースト》で人型と同じ高さまで上空を一気に駆け上がる。相手の姿を完全に視界に納めると、そいつは異様な光景だった。
全身が完全に装甲で覆われている。こんなISの型は今まで見たことが無いし、記憶にも無い。軍事系列の特殊な物だとしても、これはなにか異質だ。
スナイパーライフルを展開しながら前を見据える。普段の校則では普通時のIS展開は禁止だが、今は緊急事態だから知ったこっちゃない。
「どこに行こうっての、部外者はさっさと退場してくれない? なぁ、全身装甲さんよ」
「――」
少しの間のあと、相手からの答えは腕部から発射されたビーム砲だった。
― 9 ―
戦闘行為が始まって五分。敵ISを最初に体当たりで海上へ押し出すと、そこからお互いが得物の撃ち合いよる膠着状態になっていた。
無骨でゴリラみたいな姿形から予想していたが、こっちのラファールより向こうの方が明らかに火力が高い。たまに瞬時加速《イグニッション・ブースト》を混じらせながらでないと、避けようもない攻撃もある。このままだと、いずれはこちらがエネルギー切れでジリ貧になることが予想できた。
機能停止させるなら、相手のエネルギーを無くすか、ISの心臓である核《コア》を潰すしかない。核《コア》は大抵守りやすい背中辺りにあるはずだ。
――――くそ、わーったよ。やってやるよっ!
「いくぜ、木偶の坊っ!」
喝を入れる為に叫びきって、瞬時加速《イグニッション・ブースト》を使い相手の懐に潜り込もうとする。すると、相手は腕部のビーム砲撃を中止して、思い切り振りかぶりながらパンチングしてきた。
「甘えんだよ、のろま」
さらに単発的に瞬時加速《イグニッション・ブースト》を連続で使い、ぐるりと相手の背中に回り込む。ライフルの一発を後頭部へ放ちきると、高速切替《ラピッドスイッチ》で両手にブレードを取り出す。
「避けるもんなら、やってみろっ!」
そのまま、両手を相手の背中に振り下ろた。ものすごい勢いで、紫電と火花が散っていく。
――俺は、俺だけが持っている能力がある。しかし、これには馬鹿みたいに大きいリスクがつく。迷ってる暇なんて無いからな、忌々しいがやってやるよっ!
「引きずり出されろ、クソッタレッ!」
叫んだ途端、自分の五感が鋭くなる。
そして、ピシリと音がするとブレードが瞬間的に絶対防御を突破したのがわかった。
そのまま、背中の装甲へとブレードがめり込んでく。
これで終わ――!?
「なん、ぐぁあ!」
視界が回転し――
「うん、がふぁ!」
たと思ったら、今度はなにかに叩きつけられた。
色が青から、より濃い青へと変わる。混乱したあとで、そこが海中だと気づいた。
くそ、視界が霞みやがる……。
海面に激突したのが効いたか。俺は一息に体制を戻すと、海面から飛び出して再浮上した。
「足掴んで、投げ飛ばしやがって。核《コア》が背中に無いなんて反則じゃねーか」
「――」
「だんまりか。そら、そうだよな。無人機の鉄屑じゃ、喋るわけ無いわなぁ」
ち、どこの国だ……?
無人機なんて初めて見たぞ、おまけに馬鹿げた襲撃なんぞしやがって。
俺の読みが外れてしまい、核《コア》は背中に存在しなかった。
目の前で胸に穴が空いている無人機ISが佇んでいる。そして視線を移せば、初回に消耗した分のせいでエネルギーが一〇〇を切っていた。
形勢が一気に逆転して、有利な状況が無人機ISへと傾く。手にはジトリと汗が滲むのを感じた。
このままじゃ、最悪は殺される可能性もあるだろうか。もう一度、力を使うなんて論外だ。あれは、長時間使い続けると俺自身が危なくなる。
くそ、どうすれば良い……?
『市隈、聞こえているか?』
突然、織斑姉から通信が入る。
「冷静な対応なんて出来ないけどな! 今、良いところなんだよ!?」
敬語で話す余裕なんてないし、会話を待ってくれる相手じゃない。再び無人機が腕部からビーム砲を撃ち始めて来る。
『お前が所属不明ISと交戦中なのを確認した』
「遅い報告よりも、援軍を寄こす連絡だろうなっ! こっちは、もう持たねぇぞ!?」
戦闘が学園内なので、騒ぎに気づいて直ぐに援軍が来るものと期待していた。
が、今はその読みも外れている。
『今現在、手の空いている教員を大至急向かわせている。あと三分で良い、持たせろ』
「死んだら絶対に呪ってやるからな、覚えとけよ体罰教師っ!」
俺は集中するために通信を一方的に強制遮断する。正直、三分なんて今の状態じゃ持たない。考えている間にも、どんどん相手の攻撃でエネルギーが削られ続けていた。
瞬時加速《イグニッション・ブースト》も残りは最悪二回しか使えない。
やるしかないのか?
……クソッタレが、死んだら本当に化けて出てやるからな!?
「行くぜ、鉄屑ゴリラがっ!」
俺はもう一度、三年前に決別したはずの呪われた能力を引きずり出す。 瞬間、今度は何かが脳天に突き刺さったような感覚に陥って――
――全てがクリアな世界に感じられた。
「――」
無人機は両腕を前に突き出して、ビーム砲を打ち出してくる。
「遅せぇ、んだよっ!」
まっすぐ突進しながらビーム砲を目視だけでかわしていく。俺の目には、視界の入る全てが止まったように見えていた。
ビーム砲の弾幕を抜け切り、相手の無人機を前にしてブレードを発生させる。そのまま勢いよく、両腕を振りあげた。
敵が砲撃を止め、急接近した俺を殴りとばそうとする。最後の瞬時加速《イグニッション・ブースト》を使用すると、ギリギリのところで無人機の側面に回り込んだ。
「顔ががら空きだぞ、鉄屑がっ!」
これで核《コア》があるとしたら、人の顔が普段ある頭部だ。それじゃなくても、せめてカメラを仕込んでそうな視界だけは潰してやる。
「くらえやぁ!!」
もう一度、無人機の絶対防御を突破していく。ブレードは相手の顔を捉える。一気に突き刺せば、そのまま問答無用で顔面にめり込み続けた。
「ぐぅっ!?」
後ろを取ったわけじゃない。気づけば、無人機の腕が俺の体を鷲掴みして握り潰そうとしていた。
ラファールの装甲が、ひしゃげていく音をどんどんと増やして悲鳴を上げていく。それを無視して、あらん力の限り叫び続ける。
「く、た、ば、れえぇええええええええっ!!」
数秒後、綺麗に無人機の頭を吹き飛ばした。無人機の腕がだらりと下がる。やがて完全に停止したらしく、そのまま力なく海中へ落下していった。
核《コア》を潰せた手ごたえはないが、エネルギーは切れたらしい。
「俺の方が一枚上手なんだよ、ざまぁみろ」
だるい、眠い、もう嫌だ。俺は二度とこんな騒ぎはやりたくない……。
結局は援軍が来る前に無人機を破壊して戦闘が終わった。
◇
無人機ISの破壊を終えて勝手に自室に戻る。そこで初めて気を抜いた。
貸し与えられたラファール=リヴァイヴは、もはや半壊の様相を呈している。退学の二文字が頭を過ぎった。
だけど、今はそんなこと知ったこっちゃない。
「はは、だっせぇ……。異物に頼っちまうなんて最悪だな」
自嘲気味に呟き、こと切れたように思わず床に倒れこむ。全身の発汗作用が止まらず、体中がガクガクと揺れ続ける。三年ぶりに使ったIS同調《ISTS》システムは、とても反動のきついものだった。
強い力には跳ね返りも強い。使用の代償は、俺の寿命だ。今回のせいで確実にそれを蝕んだろうことが理解できた。
鏡に自分の像が写る。そこには見慣れた赤髪はなく、白髪で真っ白。ついでに眼球も真っ白になっていた。
こうも完全に色が変わってしまうと、最早一時間は元に戻らない。しょうがないとは言え、とても見慣れたくない姿だった。
不意にドアの開閉音が聞こえる。頭だけ動かしてみると、セシリアの姿が目に入った。
クラス対抗の試合が終わって戻ってきたのか。
「……よお、お帰りさんだな」
「喜久さん、どうされたですか!? なぜ髪の色が変わっているのです!?」
セシリアの困惑した声だけが耳に入る。声も篭っているような聞こえ方しかしない。第一、自分がちゃんと喋れてるかもわからなかった。
人が来たのなら後はお願いしてしまえば良い。俺は楽になりたいとばかり、その場で意識を切り飛ばした。
― 10 ―
学園内の一室は薄暗く、光源として青白い発光色が室内を照らしている。部屋の中央では、学園を襲撃した無人機ISが寝かされいた。
全く反応せず、今はゆっくりとスキャニングをかけられている。
「先ほどから調べていますが、登録されていない核《コア》でした」
「そうか」
教員である千冬と真耶が会話を交わす。
「ISの核《コア》は世界で四六七個しかありません。しかしこれには、そのどれでもない核が使用されていました。どこから、誰が一体こんなことを……」
「それもそうだが。まさか、無人機がこんな状態で回収されるとわな」
お互い、疑問が尽きることのない状態だった。
真耶が続けて報告を行う。
「無人機の状態も頭と胸部が欠損しています。随分激しい戦闘を行ったようですね。しかし、これは一体どうしたら……」
「無理やり絶対防御を突破した結果だろう。しかし、尋常ではない威力がなければ無理だがな」
疑問の焦点が核から、もう一つの問題へとスライドしていく。現在、彼女達は二つの問題に悩まされ続けていた。
スキャニングをかけられている無人機の状態が物語る事実。それが、証拠として彼女達に突きつけてくる問題として。
「市隈君ですが、彼の個人履歴は本当なのでしょうか?」
「政府直轄で通達が来た人間だからな。中身の公表も殆どされていない。真耶、これを見てみろ」
千冬が手元に持っていたファイルを真耶に手渡す。それには、喜久から一時的に回収されたラファールの行動履歴が記載されていた。
しばらくすると、資料のグラフを読んでいた彼女が絶句した表情になる。
「これって……、戦闘の際の動きや切り替えも凄まじいです。ですが、記載されている同調率が、ところどころで計測不明なのは一体なぜでしょうか?」
「これはあくまで仮定だが、一〇〇パーセントを超えたのだろう。私としては、それ以外に説明がつかん。それにしても、これではISに選ばれた男というよりはISのために作られた男といった感じを受けるな」
二人して思考の渦に呑まれそうになる。真耶が不安げな顔をして千冬を見た。
「それにな。もう一点だが、オルコットから妙な報告を受けた。試合観戦後に部屋へ戻った際、市隈の髪と眼球が真っ白に染まって倒れていたそうだ。髪と眼球は、しばらくしてから元に戻ったらしいが。それも関連性があるのかもしれんな」
「……彼は一体何者なのでしょうか?」
「さあな。だが、いずれは本人に聞かなければならないだろう」
沈み込んだ雰囲気は誰しも好ましくない。千冬はわざとらしく肩を竦めて苦笑いしだす。
「まあ、それでなくとも手のかかるガキには困ったものだ」
「そう言ってますが、手の掛かる子はそれだけで愛着が湧きますよね?」
追従するように真耶が言葉を返していく。
「そういうものか?」
「そういうものですよっ♪」
彼女が笑い、つられて千冬も笑ってしまう。
「まあ、感情が素直に出やすい分、まだ可愛げはあるがな。さて、こいつの解析を済ませてしまおう」
「はい」
二人は再び作業を再開した。
― 11 ―
「目が覚めましたわね」
セシリアの声が聞こえた。
意識を手放してどのくらい経ったんだろうか、経過時間が全く把握できない。目だけ動かせば、周りにはセシリアの他に一夏と篠ノ乃、凰が俺の様子を窺っていた。
そして、いつもより一人多く貝田が追加されている。依然として全身が疲れを訴えていたが、俺は構わずに体を起こしていく。
「おはようさん」
「喜久、体の調子はどうだ?」
「おおかた大丈夫かな。悪いね、心配かけたな」
あー、これは随分と寝すぎたな……。
無理やり背伸びをして体に鞭を打つ。しばらくは抜けなさそうなダルさに軽く嫌気がさした。
時計を見れば、夜の八時を回っている。
「貝田さん、いきなり話を切って悪かったね。教師に連絡してくれたのって貝田さんでしょ?」
「ええ。それより、本当に大丈夫なの? さっきまではあんなに髪が白かったのに……」
何人に見られたんだ……?
思わず周りを見渡して、脳裏には恐怖感が渦巻いていく。俺は出来るだけ平静を装うように務める。
「あらら、そっか見ちゃったの。理由を挙げるなら、俺は特異体質でちょっとだけ体が変なんだよね」
「それより喜久、俺たちはアリーナに居たんだ。それなら直ぐに助けを求めれば良かったのに。なんで一人で戦ったんだ?」
一夏が話をずらしてくれて、少しだけ恐怖感が薄れる。
「そうですわ。会場には私もおりましたのに、なぜです?」
一夏とセシリアが俺を見て怒っている。無人機に向かって戦闘を仕掛けようとした時、後で必ず言われると思っていたことだ。もちろん言い訳は用意していた。
「焦っててね、余裕なかったんだよ。一夏のねーちゃんと通信会話もしてたけど、すごい暴言しか吐いてないしな。それにさ、アリーナは人だらけじゃん。そんなところに突っ込むわけにも行かないでしょ?」
「本当はどうなんだ?」
いやに突っ込んでくるな、なんだってんだよ一体さ?
一夏が俺を見据えながら言う。
「なに? それしかないけど。じゃあ、本音を言えば一人の方がやり易かったからだよ。俺以外は足手まといだったからだ」
「アンタッ! それが、心配した人たちに言う台詞なの!?」
こりゃ殴られるかな……。
黙っていた見ていた凰が、いきなり俺に噛み付いてきた。
そう思っていたら、一夏が凰を手で制止する。
「鈴、ちょっと待ってくれ。喜久、お前さ。誰かが傷つくのが嫌だったからじゃないのか?」
「俺にそんな良心なんてないぞ。大体、ISが大嫌いな人間がそんなことするのかよ?」
おいおい、なんで今のお前は変に鋭いんだ?
「喜久がISを嫌いなのは知ってるよ。でも、俺や他の連中とは普通に接してるのはなんでだ? お前って、ISは嫌いだけど人は嫌いじゃないからだろ。違うか?」
一夏の澄んだような黒い瞳が俺を見る。俺は少し沈黙した。
たぁく、くさいセリフ平気で吐きやがって。
一拍の間を空けた後、話を続けるために口を開く。
「アリーナに被害はいってないだろ? 一夏は今日、勝ったのか?」
ああ、対戦相手は君だったのね。
言った途端、凰が苦虫を噛み潰した顔をした。
俺は対戦表ぐらい見とけばと、少し失敗感を感じる。しかし、勝った一夏も嬉しくなさそうな顔をしていた。
「ああ、お前が守ってくれた試合だからな。勝ったよ。でもな、次からは必ず俺たちに頼れ。試合なんかより、お前が傷つくのを止められない方が俺は嫌だからな」
「そうですわ。なにも知らずにいる方が、ずっと辛いです」
すっと、少しだ緊張の糸が解れるのを感じる。思ったよりは、ここで俺の存在を認めてくれる奴らがいるんだなと思った。
一夏とセシリアに心の中で感謝する。
「わかった。次からは必ず知らせるようにしますよっと。一夏、右手出せ」
「どうした?」
わけもわからずと言った感じで、一夏が右手を俺に差し出した。
俺は笑顔を向けながら拳を握る。
「違うよ、握って出すんだ」
一夏の握った右手に、自分の右手を軽く打ちつけて静止させる。
「おめでとさん」
「おお、サンキュな」
中学以来、男同士の砕けた会話が愛おしく感じる。だから前が当たり前で、今がストレスの連続ばかりだと感じていた。
しかし一夏と知り合えたおかげで、ここでの生活も少しは満更でもなさそうだと思えた。
そして、当たり前のように恐怖の時間がやって来た。
「市隈、体の具合はどうだ?」
「うおっ!?」
いつからそこにいたんだよ!?
ノック無し、ドアの開閉音無し、歩行音も無い。一夏の横からスライドするように、軍曹織斑姉が現れた。
当たり前だが、他のメンバーも驚いて一歩その場から離れている。
「なにを驚いている。私も鬼じゃない、今のお前を殴ることはないから安心しろ」
「はあ」
ああそうだ、俺は戦闘中に暴言を吐きまくったんだよな……。
今度はどんだけサンドバッグにされるんだ?
「お前に渡したラファール=リヴァイヴだがな。随分派手に壊してくれたので、回収して修理の方に回したぞ。それとな、お前は今回ISの無断展開使用がある。結果、一週間の謹慎処分が学園から通達された。良い機会だ、一週間は部屋に篭ってそのまま休んでいろ」
「なんでそんな温いんだよ、退学にしてもおかしくないだろ?」
俺の発言に、織斑姉は軽く溜息をつく。
「教師には敬語を使えと言っているだろう。まあ、今回は学園を守ったという大義名分があるんだ。しかし、ケジメはつけなければならないのでな。学園長は擁護側だったが、しょうがなく罰したというのが本当のところだろう」
「そ、すか」
随分と甘い処分が下ったもんだな。
俺は気が抜けたように背中を丸めた。
「市隈」
「まだ、なにか?」
「今日は、あの状況でよく凌いだ。良くやったな」
「はぁ?」
え、なに? なんか今、褒められたの? こんな俺が……?
ぽかんとして、織斑姉の方を見た。
「お前ら、今日はもう時間だ。さっさと寮に戻れ」
織斑姉がみんなを促して保健室の外へ追い出していく。俺は一緒に退出しようとする織斑姉に慌てて声をかけた。
「先生、ちょっとっ!」
「なんだ?」
「その、迷惑かけました……」
「そうか。だったら、今の反省は今後の態度で示すんだな」
笑った顔のまま、織斑姉がドアをスライドさせた。
俺はしばらく保険医が来るまでの間、狐につままれたようにしていた。