[NumberingTitle_桜舞イ_再浮上ノ2人_嵐ノ傷痕_蜘蛛ト蝶]
_11/_
地価特別区画は今も戦闘の様相を呈している。地下施設も半壊し、最早通常使用できる状態は既に崩壊していた。
ボオォオッ!!!!
『きゃあぁああ!!!』
ガンナータイプのISが巨大なレーザー砲による攻撃を命中させて、簪がもろに後ろへ吹き飛ばされる。
「簪ちゃん!? よくもっ!!」
楯無が清き熱情《クリア・パッション》を発動させて、ガンナータイプのISがその場で爆発に巻き込まれた。
「くぅっ!!」
相手をしていた六本腕のブレードを持ったIS無人機が楯無に襲い掛かる。それを楯無は紙一重で回避すると、そのまま連動するように小人のIS無人機がブレードを振るってきた。
楯無がさらに避けきって何とか回避に転じる。ジリ貧。その言葉が楯無の頭を過ぎった。
敵の数はガンナータイプのISに六本の腕を振るうIS、そして小人のISの三体だが、楯無のISミステリアス・レディのエネルギー残量が残り少ない。
(簪ちゃんのこのままだと同じような感じね、敵のブレードから絶対防御を突破する攻撃はやはり一番危険だわ…)
覚悟を決めた楯無がミストルテインの槍を発動する。
「私はね、賭け事では誰にも負けたことがないの……だから今回も勝たせてもらうわよ!!」
巨大な槍がその場の全てを蹂躙した。
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「ぐぁっ!! くそ!!」
織斑一夏は既に何回を越えたか解らないだけの切り結びを行っていた。
二機のケルベロスは連携攻撃によって、実際に生きている犬の群れのように行動しながら獲物の狩をしている。束の制御下にあるために一夏の殺人は行わないものの、重傷か半死まで追い込むために苛烈な攻撃は続いていた。
「はあぁああああ!!」
追い込まれて劣勢になっている一夏が苦し紛れの一刀を雪片弐型から繰り出す。
ジュッ!!
「ぐうっ!!」
ケルベロスの一機に攻撃を仕掛けようとして、隙を見つけたもう一機からの熱線が一夏に直撃する。一夏は一旦バックダッシュで距離を離して体勢を整えようとした。
(まるで、二機で一機に感じるぞ…。どうしたら良い?)
一夏自身の焦りが余計に本人の思考を鈍らせる。相手の攻撃に関する手札が見えているが、余裕が持てないくらいに彼は精神が疲弊していた。
無機質な十二個のレンズアイが一夏の気力を削ぎ落としていく。そして、いつもの頼りになる仲間がここに来ることも無い。
(まずは確実に一機を仕留めるんだ。じゃなきゃ、俺はここで負ける!!)
息を吸って吐く。ゆっくりと確実に滑らかな呼吸をしていき、気持ちを冷たい鋼のようにする。
「はあっ!!」
ドンッと一夏が零落白夜を発動し白式を駆って、機動性を活かしケルベロスの方へ切り込んでいく。バリアシールドを前方に翳しながら、雪片弐型を逆手に構えての突撃をケルベロスの二機は両脇へ別れるように飛びのいた。
「うおぉぉおおお!!!!」
そのまま一機の方へ突撃するとケルベロスから熱線が放たれたが、そこは持ち前の機動性で何とか避けきる。
ザンッ!!
「がぁあっ!?」
確かに雪片弐型がケルベロスの頭一つを切り飛ばしたが、攻撃を受けたケルベロスはそのまま怯まずに捨て身の攻撃を一夏に加えた。
(!?)
そのまま追撃とばかりに、残りのケルベロスが牙を剥き出しにして襲い掛かってくる。そして―――
ガッ!!
いきなり現れた赤いシルエットのISに蹴り飛ばされて後方に弾き飛ばされた。顔を一つ失ったケルベロスも警戒のために一旦距離を離して相手の様子をうかがうようにする。
「待たせてすまなかった」
「千冬姉!?」
ISに搭乗していたのは千冬だった。
それを見た一夏が驚きの声を上げる。
「織斑、お前は更識たちの援護に回れ。私が犬型の二機を相手する」
「でも、千冬姉!?」
「お前は作戦に私情を持ち込む馬鹿なのか? そんな人間に私は育てた覚えはないぞ、行け!!」
「駄目だ!! あの敵は連携してくる、俺も一緒に戦う!!」
それでもなお食い下がろうとする一夏に、千冬は不敵に笑って答える。
「見くびるなよ織斑、これでも私はブリュンヒルデだ。お前の百倍は強いことを忘れるな」
「くそ! 千冬姉、絶対に死ぬな!!」
納得の行かないままに一夏が楯無と簪の方へ向かい、千冬は自分の敵対しているケルベロスの二機と向かい合う。
「ふ、あいつも言うようになったじゃないか。さて、お前ら程度で私を止められると思うなよ?」
雪片と不知火を片腕づつに構えながら暮桜の能力である零落白夜が発動する。次の瞬間、ケルベロス二機に向かって千冬の駆る暮桜が突撃を開始した。
ケルベロスが連携して千冬に襲い掛かっていく。ダダッと一機が跳躍して残りの一機は地を這うように挟み込もうとする。
ガギィィンッ!!
暮桜がいきなり急ブレーキをかけて勢いを即殺した。
床に刺し貫いた不知火によって地面から盛大な火花が飛び散っていく。跳躍して攻撃するタイミングを狂わされたケルベロスの一機が回避行動をとろうとして、それをサポートしようともう一機のケルベロスが千冬に攻撃を加えようとする。
「遅いぞ、犬ッコロ」
ザンッ!!
ケルベロスの攻撃を綺麗に流れるように避け切ると、お返しにとばかりに雪片によって攻撃を加える。攻撃が直撃してケルベロスが盛大に吹っ飛んだ。
「お前もだ」
その勢いのままに地面に突き刺さっていた不知火を抜き取ると、残りのケルベロスに向かって投擲を行う。ケルベロスはそれを避けるためにバーニアを噴かした。
「隙だらけだぞ」
ギイィイイインンンンッ!!
千冬が雪片を使用してケルベロスの胴体へ横薙ぎから斬激を与える。雪片が切り裂いていく部分から高熱の火花が撒き散らされて、最後には一文字に切り裂ききった。
ケルベロスの一機が爆散する。
「奇襲するなら、もっと上手くやるのだな」
ジュッ!!
一機だけ残ったケルベロスが千冬の後ろを取って熱線を放つが、千冬は後ろにも目が付いているかのようにその攻撃を避けきった。
投擲した不知火を拾い上げる。
「来い、三枚に卸してやる」
不適に笑いながら顎を斜めに上げて挑発すると、それに呼応したかのごとくケルベロスが千冬に向かって突進を開始した。
ダンッと、踏み込んで上空へと思い切り跳躍する。すると千冬が今度は雪片をケルベロスに向けて投擲する。それを避けるためにケルベロスがバーニアを噴かして回避した。
ズンッ!!!
「これでリーチを学習したな、良い勉強になったろう?」
不知火がケルベロスの胸の辺りを思い切り貫く。そのまま千冬に蹴り上げられて不知火が抜き取られると同時、盛大な爆発が発生した。
_\|/_
敵は残り二機、しかし負ける。楯無の攻撃によって六本のブレードを振るうISが完全に破砕された。
が、簪のISが既にエネルギー切れ寸前で楯無も同じような状態だった。
『お姉ちゃん!!』
簪の張り詰めた声が耳に響いて、楯無は二コリと笑って返す。
最悪でも簪と一夏は助ける。それが今の私の役割だとボロボロの体を抱えながら気力を振り絞った。
『楯無さん!! 遅くなってすいません!!」
「一夏くん!?」
事態が楯無に好転し、一夏が駆けつけて楯無の横を白式と共に陣取る。
(ほら、やっぱり賭けは私の勝ちね)
「一夏くん、タフな男の子はもてるわよっ♪」
「……。気持ちが萎えます、止めて下さい」
「あん、イケズね~」
一夏は泣きそうになりながら前方を向く。小人のISとガンナータイプのISが二人の様子を窺っている。
「一夏くん、エネルギー残量は?」
「ないですね、犬型のに削られましたから」
「連携で決めるわよ、付いてこれるかしら?」
「良いですね、それで行きましょう」
楯無と一夏が構えの姿勢をする。そして白式が最後の零落白夜を発動させた。
「行くわよ!!」
「はい!!」
白と青緑の機体が敵に向かって突撃を開始する。
ボオォオッ!!!!
ガンナータイプのISが射撃を行ってくるのを回避して、そのままの勢いでさらに加速していく。
『一夏くん!! 今よ!!』
「うおおおおおお!!!!」
一夏が雪片弐型を上段に振り上げ、それを小人のISが阻む。
ガァンッ!!
『せっかちさんは嫌われるわよ!!』
それをさらに楯無が蛇腹剣《ラスティー・ネイル》を使用して薙ぎ払った。
ザァンッ!!
ガンナータイプのISが真っ二つになって爆散する。直後に白式がエネルギーを完全に失って粒子化した。
「まだ一体居るってのに!?」
『一夏くん!?』
楯無の牽制が間に合わず、小人のISが一夏へと飛び込む。次の瞬間、飛来した暮桜の不知火が小人のISを吹き飛ばした。
『うちの生徒たちが世話になったな。礼だ、受け取れ』
そしてそのまま千冬が雪片で小人のISを横一文字に切り裂く。後は爆発が起り戦闘が終了した。
_11.5/_
シャルロットは自室でベッドの上に寝そべり横になっている。今の彼女はなにも考える気力がなかった。
そこへ陶器のコップを持って来たラウラが声を掛ける。コップからは湯気が立ち上っていた。
「ココアを入れてきた。私はこれで気持ちが落ち着くが、シャルロットも分もあるぞ」
「……ごめんねラウラ、気持ちだけ貰っておくね。ありがとう」
声だけで返すのが精一杯の返答だった。
シャルロットは自身の先の見えない今後の未来予定はどうでも良い。それよりも彼女には、もっと思いつめていることがあった。
今回のラファール=リヴァイブⅢが撒き散らした暴風のような痕はアリーナの損壊だけに留まっている。しかし、これが一旦その場所から出て暴走を始めていたらと思った時に、シャルロットは自身が望まない血塗れた手を得てしまっていた可能性に恐怖した。
そして彼女自身が大好きな人間を傷つけてしまったことに、気持ちが張り裂けそうなくらいの絶望感に近い感情を抱く。シャルロットは喜久のことを考える。
学園の医療室にいる彼は無事なのだろうかと…。
もしなにかあった場合は自身がどう責任をとれば良いのか、苦悩の渦にどんどんと呑まれていく。
「シャルロット、お前が落ち込んでもなにも始まらんぞ?それでは喜久の努力がまるで無駄になるだけだ」
「…ごめん、今は気持ちが上手く切り替えられないんだ」
「喜久は、こういう時にどうやってシャルロットへ気遣う?」
ラウラに話し掛けられて喜久と過ごした時間を思い出す。二人で過ごした初日の夜はデコピンを額にされた。
(あれにはびっくりしたし、痛かったな。もっと他にやり方があるのに…)
彼なりの気遣い方はシャルロットとにとっては下手糞な感情表現だと思ってしまう。しかし、心はとても暖かくなり気持ちが良かったのを覚えている。
「デコピンを頭にされたよ。女の子に対して本当にデリカシーがないと思ったかな」
「なるほど、あいつらしいな。私がいた隊では基本が顔への平手打ちだったが、随分と優しいのだな」
「……ラウラ、多分それだったら僕は喜久のことを好きになれてなかったかもしれない」
シャルロットはラウラとの価値観のズレに苦笑いしか出来なかった。
彼女は喜久の過去を知っている。彼は彼の口からシャルロットへ罪の告白をしたことがあった。
ISによる無慈悲の殺戮、それを十二歳まで行っていた青年。それと同じ行為をしようとした自分がいる。シャルロットは手前で止まったが、彼はそれを犯していた。
(喜久はどうやって立ち直ったんだろう? 僕には到底真似できないや…)
ベチッ!
「痛ったぁ!? 酷いよラウラ!!」
いきなりラウラがシャルロットの顔のある方へ回り込んでデコピンをした。
「ふむ、確かに元気になるようだな。支度しろシャルロット、今から喜久へ会いに行くぞ」
「え…。でも、僕は―――
「合わせる顔がないとでもぬかすなよ? 会ってお前の顔を見せて安心させてやれ。今のあいつにとって精神安定の特効薬になるのはシャルロットだけだからな」
シャルロットはしばしの間考え込む。本当に自分が会いに行っていいのかと。そして、勇気を出して決断した。
「…わかった、ラウラが言ってくれた通りにさせてもらうね。ありがとう、ラウラ」
ラウラの気遣いにシャルロットが微笑んで返す。確かにそうなのかもしれないと。先ずは喜久に会おう、それから次を考えようと。彼女は立ち上がって外出の準備を始める。
「それとなシャルロット」
「うん?」
「ココアが冷める。今のうちに飲んでおいた方が味が不味くならないと思うが?」
「そうだね。ラウラがいてくれて良かったよ、僕は弱い人間だね」
「シャルロット、人は皆弱い生き物だ。だから周りに人が必要だし、それは私も変わらない。一人で生きていける人間は強いのではなく孤立してるだけだからな」
ラウラは昔のことを思い出す。彼女は千冬によって今の生活が成り立っている。自身が挫折を味わった時、そこに一人の励ましがあるだけで立ち直ることが出来た経験があった。
そして、それが彼女の強固な精神の一端を担っている。
「ありがとう。喜久は今頃どうしてるかな?」
「あいつならセシリアが横についているからな。問題は無いだろう」
「……え?」
またやられた。そんな気持ちがシャルロットの中で渦巻く。
「ラウラ、今すぐ行こうよ!?」
「焦るな、時間はある。シャルロットも怪我が無いだけで、安静にしてなければいけないことには変わりないのだからな」
彼女は大急ぎで着替えると身だしなみを整えて、多少温くなり始めたココアを一気飲みした。
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余りにも力が無い、誰かを守れない。
(限界なのか、俺は?)
一夏は苦悩していた。
誰かを守る、家族や大切な仲間を守りたいと思っているが現実はそうではない。結局、今回の地下特別区画での戦闘で最後は千冬に助けられた自分がいた。
これでは何のために自身がこのIS学園へ来たのかと考えてしまう。チャンスを活かせていないことが腹立たしくてしょうがない。戦闘が終了した後で喜久が倒れたと聞いた時も、一夏は自分が未熟なせいだと感じた。
(前と同じだ、また俺は千冬姉に助けられただけだ)
偶発的な結果から学園に入ってしまったが、これで自身が誰かを守れる側になれると思っていた。
慣れない環境の中で与えられたカリキュラムをこなしていき、訓練も出来る限り行ってきたのだ。厳しいと思うこともあれば、命を危険に晒したこともある。襲撃を受けたこともあれば実践をこなしたこともあった。
しかし、それでも自身の理想には遠い。一夏がそう思っているとノック音が室内に響き、楯無が入室してくる。
「あら~、しょげてる一夏くんなんて珍しいわ。なかなかに可愛いわねっ♪ 少しお話良いかしら?」
「…ええ、少しなら大丈夫です」
楯無は適当なところに腰掛ける。
「よっちゃんの片目の色素が抜けて真っ白になったの。これがどういうことか解るかしら?」
「……え、それってどういうことですか?」
一夏は初耳なこともあるが、彼女の言っていることが理解できなかった。
「自分を犠牲にしてシャルロットちゃんを助けたの。一夏くんはこのお話をどう思う?」
「どうって聞かれても…。シャルが暴走した原因はわかってないって聞きましたけど…」
「一夏くん、少し真面目なお話よ。よっちゃんはね、おおよそ30歳までしか生きられないかわりに彼だけの特別な力があるわ。シャルロットちゃんはそれのおかげで助かったの」
一夏は絶句した。普通の人間の三分の一しか生きられない人生、それが全く想像できない。
「良い、一夏くん? 一夏くんはあの状況で良くやったわ、自分を褒めて良いのよ。悔やむことは無いの。そして、よっちゃんのようなことを絶対にしては駄目よ?」
楯無の言葉を理解するのに苦労する。解る部分もあるが、全く理解出来ないこともある。
「楯無さん、なんで喜久は三十までしか生きられないんですか?」
「一夏くんはISに適正できた世界初の男性操縦者よね。その確率はざっくりとして見ても三十五億人の中でただ一人なの。これがどれだけ特別なことか解るでしょう?」
…まさか。
一夏は自身の中で辿り着きたくない結論に達してしまう。喜久は試験管ベイビーとは聞いていたが、何のための試験管ベイビーだったのか。楯無はその様子をじっと窺っていた。
「なにか解ったって顔ね。そうよ、彼はISに適応した人間じゃなく、ISに適応させるために作られた人間なの。これ以上細かいことは話せないけど、彼はISを操縦できる代わりに命を代償とした。だからね、そんな過去があってよっちゃんは一夏君よりもずっと前から、とある場所でISに触れているの。彼がなぜISの操縦が得意なのかも納得がいったかしら?」
たしかにそうだ。当たり前のように感じていたが、そんなことは実際はありえるわけがない。理解したと同時に一夏の中で戦慄が走った。
そして、自分の立場がいかに特別なのかを思い知る。
「一夏くん、彼のように強くなりたいと思っても良いわ。だけれど、やり方を間違えては駄目よ。貴方はこれから伸びれる可能性を幾らでも秘めているの。よっちゃんを超えれるだけの潜在的な力も眠ってる可能性が充分あるのよ。だから焦らずに行きなさい」
「…楯無さん、喜久は何でいつもあんなに飄々としてられるんですか?」
自分のことより他人のことが一夏の中で無意識的に優先されてしまう。だから彼は自分の苦悩を横にどけて喜久のことを心配する。
「そうね、それがよっちゃんの強さじゃないかしら? けれども一夏くん、それはよっちゃんが作っている一つの顔なのかもしれないわ」
「…俺は喜久に対してどう接すれば良いですかね?」
「あら~、そんなの簡単よっ♪ 普通で良いのよ、それだけでよっちゃんは幸せになれるわ」
「普通ですか?」
「ええ、もちろんよ。だから一夏くん、貴方は今まで通りに頑張りなさい。それから、今の話はオフレコよ?」
楯無がにっこりと笑い、一夏も気を持ち直していく。
「俺は口が固い方だと思ってます。誰にも言いませんよ」
(そうだよな、俺は俺の出来ることをやろう。あきらめなきゃ、いつでも前に進んでいける筈だ!!)
「良い顔ねー。や~ん、おねーさんも惚れちゃいそうよ? お風呂と私とどっちが良い?」
楯無が一夏を弄り始めて一夏がげんなりとする。
「……。今日は疲れました、もう寝ます…」
「あらん、添い寝が良かったなんて一夏くんのエッチ~!」
「今までの話が台無しです…」
一夏は限界を迎えて完全にグロッキーになった。
そこへ、楯無が持参していたらしき飲み物のペットボトルが渡される。
「はい、これあげるわね。水分補給は大事よ?」
「ありがとうございます」
それを一夏が素直に受け取る。が、彼は前に窓の外へ投げ捨てられたシュークリームのことを思い出した。
蓋を開けると未開封されていたらしくガス抜ける音がする。回した時にパキパキとプラスティックの千切れる音もした。
大丈夫そうだ、そう思って一口飲んでみる。
「ブッ! エホッエホッゴホッ!! 楯無さん!!」
「甘いわね一夏くん、底から針で穴を空ければタバスコが注入可能なのよ!」
いつの間にか出入り口の外にいる廊下側の方で、楯無が死ぬほど嬉しそうな顔をしていた。
「そんな説明は要りません!!」
「きゃーっ♪」
ダッと楯無が走り去り、一夏は楯無の行為にどうしてやろうか考える。そして携帯を取り出して喜久に教えてもらったサイトへアクセスした。
犬の置物を一つ注文してから、今度こそ完全にベッドで寝込んだ。
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深海で乗り物が動いている。海水による大量の圧が掛かろうとも、そのクラシック車のような外見をした潜水艦ですらない機械は平然と道無き道を進んでいた。
乗り物の座席には久遠が乗っている。
「申し訳ありません束様、暮桜の方は確認をしましたが市隈 喜久の方は失敗しました」
『良いよ良いよ、頑張ったねっ♪ くーちゃん、お疲れ~。ちーちゃんは以前から解っていたことだろうし、コックローチくんも気づいていたしね。超早い私の頭ではそこは問題ナッシングなのだよ!』
久遠が申し訳なさそうにするが束は全く気にしない。むしろその工程から得た結果を楽しんでいる。
「明日にはそちらへ戻れると思います。お借りしていたケルベロスを消化しました」
『犬くんは幾らでも生産可能だよん、そこも気にする必要は無いからね~。くーちゃん、楽しい時間はここからが始まりだよ、これからもっと面白くなるからねっ★ それにね、くーちゃん。なかなかの新発見を束さんはしたのだよー!』
束がとても嬉しそうな声を出す。それは自分が驚かされたことに歓喜しているものだった。
『まさか人の方からISに合わせてくるなんて、なかなかにダーティな実験を行ったのがいたみたいだね? さてさて、どこのお馬鹿な国がそれをしたのか調べてみようか~』
人が肉眼では捕らえられ上空から、束は暴走したラファール=リヴァイブⅢの様子を観察している。それは自身が行い痕跡を残すことなくやってのけた、外部ハッキングによる人工衛星から捉えた視界によるものだった。
描いたシナリオではラファール=リヴァイブⅢの暴走自体は停止されるだけ、暮桜を確認する為だけの囮として機能する筈だったのだ。それが、自身の予想外の結末を迎えたことに束は新しい玩具を手に入れたような感覚になった。
予想外の展開は束に新たな娯楽が加わり、ラボでご機嫌な様子に久遠が安堵する。久遠の中では束は母親、恩人、師というような感覚であった。
だから自身がISの関係で不幸に陥った過去があったとして、その原因の一端に束があったとしても久遠はISを認める意思がある。ISを否定することは束を拒否してしまう、だから久遠はISを肯定する。
「束様、喜久さんにご興味が?」
『そうだね~、最初は邪魔なだけだったんだけど。束さんにしては珍しく興味が湧いたねっ♪』
束と久遠の会話は続く。
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目に入る光は俺に生の実感を与える。気づけばどこかに寝かされているらしいことが解った。
「…そか、誰かが運んでくれたんだな」
「ええ、私がお運びしました。やっと目が覚めましたのね」
なんか、いつもこういう時はセシリアが俺の横にいるよな。
目が覚めて声のした方へ顔を向ける。そこにはセシリアがいて、いつもの保健室ではない場所で寝かされていることに気づいた。
「なあ、セシリア。ここってどこの部屋だ? 俺、初めての場所でよく解んないんだよね」
「学園の医療室ですわ。喜久さんの体は内出血を起している箇所がありましたから、こちらでということになりましたの」
「シャルロットは、どうなった?」
「大丈夫です、シャルロットさんはもう目覚めて自室で安静にしています。ラウラさんが一緒におられますわ」
俺はセシリアの言葉でほっと安堵した。
ぐっと上半身までを起すと体のあちこちに痛みが走る。しかし、あれだけISTSを使用したのにこんな程度で済むはずがない。俺は生きているだけで奇跡に感じた。
「セシリア、鏡ってあるか?」
「…渡したくありません。喜久さんはそれでも確認をされたいのですか?」
「ああ、目を塞いだって現実から背いただけで意味は無いからな。あるなら貸してもらえない?」
セシリアがとても悲しそうな顔をした。
「……わかりましたわ」
「ありがとさん」
セシリアがいつも使っているらしき化粧用のコンパクトを渡される。俺はそれを開けて自分の顔を確認した。
―――片目が白いままだ、これがISTSを使いすぎた代償か…。
ラファール=リヴァイブⅢのIS同調率にくいこんで侵食しきった結果、シャルロットは助かり俺の片目は完全に色を失っていた。
見慣れた茶色の瞳は、片方の目には最早存在しない。あるのは何かが抜け落ちて真っ白な色素の眼球があるだけだった。
このことから、俺の寿命が二十歳以上まで持つか自体が解らなくなったのが、何となく察っすることが出来る。
「は、しょうがねぇよな。まあシャルロットが無事だったんだからそれで良いか」
「喜久さん」
「ん?」
パァンッと思い切り頬を叩かれる。叩いたセシリアの方を向くと、彼女は涙ぐみながら俺のほうを見ていた。
そして、ベッドで上半身だけを起き上がらせている俺に勢い良く抱きついてくる。俺がそのまま姿勢を維持すると、セシリアが泣きながら声を絞り出していく。
「もう、お願い…ですから、頼みますから……無茶をしないで…」
「悪かったよ、セシリア。だけど皆助かったろ?」
「貴方は…どうして……そこまでご自分を犠牲にするんですか?…私には……それが耐えられません」
どうしたもんかな…。
俺は頬を掻きながらどうしたら良いか解らず、とりあえずセシリアの頭を撫でる。
「丸く収まったってことにしようや。俺は馬鹿だからな、あれくらいしか方法が思いつかなかったんだよ」
「…馬鹿です……貴方は本当に………大馬鹿ものです!!」
「そうだな、俺もそう思う。まったくさ、いつも思い通りに行けば人生楽なんだけどな」
俺は天井を見上げると、軽く溜息をついて苛烈に過ぎ去る時間に泣きそうになる。が、今は少しぐらい楽にしたって罰は当たらないだろうとも思った。
しばらくの間、このまま動かずにセシリアが泣き止むのを待つ。やがて泣いていた声が止むと彼女は自分で持っていたらしいハンカチで涙を拭った。
「落ち着いたか?」
「はぁ、全然反省の色がありませんのね。これだから喜久さんは…」
俺の飄々とした態度にセシリアが呆れる。
「なんだ、押し倒して欲しかったのか?」
「……いえ、結構ですわ。これではムードもなにも、あったものではありませんから」
「だよね、俺もそう思う。ところでさ、織斑先生はどこにいるか知ってるか?」
「いえ、私はずっとここにおりましたので。ふぅ、少し気が抜けて疲れてしまいました」
セシリアがそのまま自身の上半身を俺の下半身部分に乗っけてきた。
重い…。
「おい、俺は病人だぞ…」
「それだけ口が回るのでしたら、もう大丈夫ですわね。些か疲れましたの、少しこのまま休まして下さいまし」
「誰かに見られたら恥ずかしい気持ちとかは持ち合わせてないのか?」
「あら、それでしたら既成事実が成り立ちますわね。私には好都合です、だから少し…寝かし、て。下さい……な…」
あーあ、本当に寝ちゃったよ…。
セシリアの頭をもう一度だけひと撫でして、俺は思考に耽る。すっと頭の中を過ぎる篠ノ之 束の笑う声が俺の中で怒りを増徴させた。
落とし前は必ずつけさせてもらう、そう思いながら俺は痛む腕を無視して一度だけ拳を力の限り握った。
コンコンコンとノック音が響き、ドアがゆっくりスライドする。
「市隈、頼むから子供が出来たなんて問題は起してくれるなよ?」
「そんなのは、こっちから願い下げです」
織斑姉が入室して寝ているセシリアに気遣い小声で話してきた。
「なんだ、面白くないな」
「おい…。あんた教師だろうが」
「ふ、冗談だ。座らせてもらうぞ?」
「はい、どうせ面白くない話でしょ?」
「そうだな」と言って、織斑姉は手近な椅子に座る。そして、溜息を一つ吐いた。
「お前は奴と話したのか? 織斑に聞いたが、お前は下での戦闘中に織斑と交代して上に上がったと聞いた」
織斑姉が指摘する奴とは篠ノ之 束のことだろう。この言葉を隠すのはセシリアが狸寝入りを決め込んでいる可能性があるかもしれないと踏んでのことか。
「ええ、話しましたよ。どうも俺が邪魔らしくてね、わざわざ攻撃しにくい子供にお使いを頼みやがった。良い性格してやがるよ、ラファール=リヴァイブⅢのそれの一環だと思って間違いないでしょうね。奴が子供に頼んだお使いは二つで一つは俺、もう一つは下で眠りこけてるISの確認だそうですよ」
「そうか、生徒たちを巻き込んだ理由はそんな下らんことだったか…。市隈、お前は今後一切においてISTSを使うな。これ以上無理をすれば現状のような程度では済まなくなる。お前のために泣いてくれる人間がいるんだ、これ以上悲しい思いはさせるんじゃない」
「努力はしますよ、俺も極力使いたくないですしね。それよりシャルロットの今後の扱いはどうなるんです?」
デュノア社の一族の爪弾き者、それがシャルロットの今の立場だ。彼女の置かれている状態も綱渡りに等しい部分がある。俺はどうしても彼女が不幸になるのを見るのが嫌だった。
「今回の件は下には伏せて、上には上げさせてもらうということになった。が、上は保留するだろうな」
織斑姉が保留といった理由には察しがつく。危険物の火薬庫は使い方次第で良くも悪くもなる、篠ノ之 束を犯罪者にするよりは優遇して迎え入れた方が得と踏むだろう。国際IS委員会の立場として結局は黙殺が良いところか…。
「ち、下らねぇ利己主義者どもが多いな。デュノア社は意味が解らずにお咎め無しで?」
「あくまで私の考えだがな、暴走の問題は擦り付けるのか、それとも不問かのどちらかといったところだろう」
「ラファール=リヴァイブⅢの扱いは解体して保管てとこですか? それとも完全消滅で試作機自体が無かったことに?」
俺が昔に暴走した時は、結果として処分はコア以外が消滅したことなっている。今回はどうなるのだろうか。
「暴走した原因は市隈が綺麗さっぱり消滅させたようだな、調べたら痕跡の欠片も残ってなかった。あれは今後の運用においては問題が無いだろうな。デュノアのことに関してもそうなるだろう」
「奴は今回のことを面白がっていた、先生にはその理由が解りますか?」
織斑姉が押し黙る。難しい表情をした後で、俺のほうを見た。
「……ああ、察しはつく。あれでも腐れ縁には違いない、確かに私にとっての友人だ。しかし、分別がつかんところはガキも同然だ。私はあいつを止めなければいけない義務があると思っている」
「そっすか。先生、俺は奴に借りが出来ましたよ。これはきっちりと返さないと気がすまない、その時が来た時には俺は好きにさせてもらいますよ」
真剣な表情で織斑姉を見た。
俺は覚悟を決めた。絶対にこれだけは譲れないし、譲ってやる気も無い。
「奴に対して直に会ったらお前はどうする?」
「殴ります、全力で。その後は法に裁かせる、それでも俺が納得がいかない時は……」
…その時は、俺の手で息の根を止めてやる。
「熱くなるな、市隈。生徒たちに対しては冬休みの前に散々な終わり方をさせてしまったな、私としてもすまなかったと思っている。それと市隈、お前にはカラーコンタクトが必要なようだな」
俺の顔を見ながら織斑姉が指摘した。
「ああ、そうですね。そうだ、他の連中は?」
「他の者は皆元気だ。負傷したのは更識姉妹と織斑、ラウラだな。あまり長居は良くないからな、行くぞオルコット」
「……もう少しだけこうさせて下さい」
セシリア、お前起きてたのかよ…。
「だめだ、さっさと退室するぞ。一緒に来い」
「……はい」
織斑姉がセシリアを引っ張りあげて、そのまま一緒に退室していった。
俺はもう一度自分の手を握りこんだ。殴れるだけの力があることを確認して、前方を思い切り睨む。次の下らない出し物を出される前にはケリをつけてやろうと、自分に対して喝を入れた。
_13/_
『ハローミア、どうしたの急に? そっちはなれない土地だと思うけど元気してる?』
「ええ、おかげさまで」
『貴方が日本に留学して、もうすぐ一年が経つのね。卒業したら戻ってこれるんでしょ? そしたらまた一緒にどこか行きましょう!?』
電話越しの向こうでミア=コリンズからの電話に同世代の少女が嬉しそうにいる。
「ありがとうアラルティア、私も貴方に会えなくて寂しいわ」
『ねぇ、冬の休みには一旦こっちに帰って来るんでしょ?』
「そうね、パパの墓参りに行かなければならないし。ママにも会いたいしね。でも、私はそれを済ませたら直ぐにまた日本へ戻らなければいけないの、ごめんなさい」
ミアは監視という名目のために日本から殆ど離れることが出来ない。そして、アラルティアはそのことを知らない。
『お互い忙しいわね。まあ、会おうと思えば会えるのだから私はミアのことを待ってるわ! それで、今日はどうしたの?』
「ええ、それなんだけど」
ミアが一旦言葉を区切ってからアラルティアに再び喋りかける。
「ねえ、貴方のお姉さんは味方に殺されたって知ってた?」
『…え?』
電話の向こうからの言葉がしばしの間停止する。
『……ミア、それってどういうこと? 確かに姉さんは死んだけど…』
「良い事を教えてあげるわ、アラルティア。貴方のお姉さんは、当時サーフォ=イリノイカという子供にお腹を貫かれて殺されたの。そいつはね、今は私が留学しているIS学園でのうのうと気楽に、楽しく、罪を忘れて無責任に生活を送っているわ」
ミアの内心でどす黒い感情が渦巻く。電話越しの向こうで喋っていたアラルティアがミアの言っていること理解できずに戸惑った。
『…でも、軍の方は私達家族に戦死したって確かに伝えてきたわ』
「それは軍がでっち上げた嘘よ。本当は暴走を起こした味方に殺されたの」
『嘘よ、そんなはずないわ!?』
電話の向こうで動揺した叫び声が聞こえる。ミアはその様子を頭に思い浮かべて口元をニヤリとさせた。
なんでミアがそんなことを知っているのかと、アラルティアはそれが考えられないほどの衝撃を受けている。いずれそのことを聞かれたとしても、それは真実を上手く改変して伝えてやれば良いとミアは思考した。
「アラルティア、これは本当の話なの。私の言っていることは全て偽りのない事実よ」
『……うぅ』
「ねぇ、アラルティア。復讐を出来るチャンスよ、大好きだったお姉さんの仇を討ちたくはない?」
『でも…。私は……』
もう一押しだ、ミアは嬉しそうに自分の手を眺めた。
監視するはずだった人間には、逆に自分が脅されている。だったら、彼女は他の人間を利用して排除してやろうと考えた。
そのためのカードを用意する。今の会話はそのための準備段階だ。
「アラルティアには、力があるでしょう? それを使えば簡単にやりたいことが出来るわよ?」
『待って、話が急すぎるわ…。お願い、考える時間をちょうだい!』
「ごめんなさい、大好きな友人の頼みでもそれは聞けないわ。時間がないのよ、お姉さんの仇は来年の夏にイタリアへ留学してしまうの」
ミアは平気で嘘を吐く。相手を焦らせて冷静な判断を鈍らせていき、電話越しの向こう側から発せられる言葉が途切れるたびに、アラルティアを懐柔していく成功率が上がっているのを確信する。
『……。……姉さんの仇がそこにいるのね?』
嬉しい答えだ、それはとても嬉しい答えだとミアが内心で喜んだ。
「ええ、名前が変わっていてね。今は喜久 市隈という日本人名を名乗っているわ」
『ヨシヒサ シクマ、大好きだった姉さんの仇がそこにいる…。良いわミア、そのヨシヒサについて詳細なことを教えて。来年の春頃までには短期留学の手続きをとるわ、その時に私は日本へ行く!』
いつの間にかアラルティアの声に変化が出始めていた。
その声には一つの感情が芽生え始めている。怒気を含ませた彼女の声から蜘蛛の巣に絡め取ったことが解り、ミアは黒い笑顔をした。
「わかったわ、私も全力でバックアップするから任せておきなさい」
『ありがとうミア、貴方にはいくら感謝しても言葉が足りないわ』
「アラルティアは大切な友人だもの、教えるのは当たり前でしょう? それじゃあまた追って連絡するわね」
『ええ、お休みなさいミア。良い夜を』
通話が途切れて、ミアはゆっくりと携帯電話を机の上に置く。彼女が歪んだ笑顔をしながら彷徨わせる視線はどこを見ても地獄のように見えていた。
そして、その矛先が全て喜久に向けられる。
「あはははは、期待しているわよ。アメリカ合衆国の代表候補生さん」