[NumberingTitle_(好転シダス歯車+矯正開始)_逆襲ノやまや]
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三度の学園襲撃が遭った後で冬休みになる。怪我も大分良くなり、片方の白目を隠すために慣れないカラーコンタクトを付けながらの生活は多少のストレスを俺に与えていた。
今現在、俺は何人が住むことが出来るのか解らないような純日本風の屋敷を訪ねている。廊下を歩いていると立派な庭園で鹿威《ししおど》しが鳴る音がした。
「こちらになります」
「どうもありがとうございます」
屋敷で雇われている使用人の人に案内されて、俺は障子の引戸の前に立つ。
「市隈です」
「おう、来たか。入って来ていいぞ」
九嶋の爺さんの声が聞こえて障子の引戸を横へスライドさせる。そして俺のことを待っていたであろう二人のうちの一人の顔を見て内心で危機感を持った。
そうかよ、俺に会わせたいって言った人間の素性を隠したのはこれが原因か。
「小僧、前は世話になったな。やっと最近まともに食べ物が喉を通るようになったばかりだ」
「なんでニコルの使いっぱしりがいやがる。おい爺、俺を売り渡すつもりだったのか?」
俺の目の前には畳の部屋が広がりその先には爺さんともう一人、俺が以前に半殺しにした人間がこの場にいた。
爺さんを睨みつけるが本人はさも面倒臭そうな顔をする。
「さっさと入って来い。坊主、お前は喧嘩っ早すぎるな。もう少し大局をみれるようになれ」
「その前に説明してくれんだろうな? きちんとした説明がなかったら、俺はこの屋敷を木っ端微塵に破壊してやるからな」
「いいから入って来い、お前は目上に対して礼儀を弁えない教育を受けてきたのか? 座ったら説明してやる。たく、これだから青臭いガキはかなわん」
「うるせぇ、なんでてめぇが爺の家に居る?」
ニコルの手下の諜報員が笑いながら俺のほうを見る。俺は舌打ちしながら睨み続けると、奴は肩を竦めて挑発してきた。
「まあ待てよ、今日はお前に有利な話を持ってきてやったんだ。俺はお前に一度は顎を割られてるしな。ニコルさんに言われてなきゃ、俺としてもここに来る気もなかったがな」
「どういう意味だ? ニコルのクソ野郎がてめぇにどんな下らないお使いを頼んだってんだ」
「CIAはジャスパーを落とす準備をしていて、そのための交渉を頼まれて俺はここにいる。どうだ、聞く気になったか?」
俺は言われた意味が解らずに一瞬だけ呆けてしまった。
そして直ぐに立ち直ると再び手下のクソ野郎を睨みつける。搦め手が得意な連中だ、はっきりいって信用できない。俺は油断させてはめ込む手段だと疑ってかかった。
「坊主、いい加減にしろ。この話を自分の手でご破算にする気か? 良いから座って話を聞かんか、この阿呆たれが」
「爺、俺に散々やってくれた奴らをどう信用しろってんだ? そんなもんはな、こっちから願い下げなんだよ。ふざけんじゃねぇ、だったらてめぇから血祭りにあげてやる」
二人揃って余裕こきやがって、上等だクソどもが。
【貴方だけが子供のようね、癇癪はやめて席についたら】
「だまれクソAIが、お前もこの場でぶち壊すぞ?」
毎度の毒舌AIが俺に歯止めをかける。そして爺さんは何がおかしいのか俺のほうを見て笑った。
「ほう、面白いな。ISとかいうのには、最近は音声補助が付くようになったのか? いやいや、時が流れるのは早いもんだな。そうは思わんかね、リアム君?」
「そうですね、私もそう思います。さて小僧、お前はこの交渉で得する人間がいるといったらどうする?」
…どういうことだ?
俺の中で疑問が浮かぶ。ニコルの手下であるリアムの発言に頭を回転させて考える。しかし、クソ大佐が潰れて得をする人間が思いつかなかった。
しょうがなく、俺は睨んだまま敷居を跨いで開けていた引戸を閉める。その場で座ると首を鳴らしながら右手に嵌めているアナログ時計をリアムに解るようにチラつかせた。
「これはISが待機している状態だ、展開したら一瞬でアンタの頭を吹き飛ばすことが出来る。それを忘れるなよ?」
「笑えない冗談だな。最近の子供は随分と危ない玩具を扱えるようだ」
「ニコルのクソ野郎はここにはいないのか?」
「いたら俺は奥の部屋でこの場の監視だな。九嶋さん、話を進めても?」
俺が一応の確認を取るとリアムは爺さんの方を向く。
「ああ、進めてくれたまえ。わしも面倒臭いのは早いところ済ませてしまいたいからな」
「了解しました。小僧、結論から言わせてもらうと軍内の派閥争いだ。ジャスパーの相手はコナー中将でな、中将は奴の失脚を狙っている。その決め手になるものとして、中将はお前さんをご所望だそうだ。良かったな、堂々と凱旋帰国が出来るぞ?」
話が上手すぎるな。駄目だ、全然食いつく気になれない。
「それで俺という駒が必要だと? 俺はな、お前らCIAが信用できない。無条件でそんなことに納得がいくわけないだろうが」
「もちろん交換条件も用意してある。本部がお前の願い事を呑む準備があるそうだ。もし、なにかあるならこの場で言ってみろ。俺が国に持ち帰って聞いてきてやる」
ギブアンドテイクを提示してくる。俺はその場で一つのことが頭に過ぎった。
「おもしれぇ、だったら一つ返してもらおうか。俺が欲しいのは情報だ、IS開発者の篠ノ之 束の居場所を特定しろ。それが出来るなら従ってやるよ」
「なんでそんな情報を望む?」
「あのクソ快楽者には借りがあんだよ、絶対に返してやらないと気が済まない。錯綜してダミー情報を掴まされたとしても構わねぇ。見つけた全ての情報をよこせ、それで俺はアンタの用件に応じてやるよ」
後は、俺自身の手でそこへ襲撃してカタをつけてやる。
リアムが押し黙った。
少し沈黙した後で軽く溜息を付いて俺のほうを見る。
「篠ノ之博士は世界中の国が居場所を探してる状態だ。大体な、今の話は流石に俺が話しても本部が呑まない可能性があるぞ?」
「だったらそれまでだ、クソ大佐を落とすよりもそっちの情報保持の価値が上ならそれでも良いだろうさ。俺はお前らに協力しないだけだしな、そっちが好きな方を選べよ」
「聞いてはみるがな、情報開示の可能性が低いのは理解しておけよ?」
「充分だ、後はあんた次第だから精々上手くやるこったな」
こちとら全然期待はしてないからな。無理難題を吹っかけて煙に巻いたほうが俺としては得だ。
トントンと畳を叩く音が聞こえる。見れば爺さんが渋そうな顔をしていた。
「用心深いのは良いことだがな。坊主、お前は先を読む力が疎いな。リアム君、こいつは危なっかしいからな。わしはもう歳だ、よく見てやってくれると助かる」
「勘弁してもらいたいですね、私だってこんな機関坊はごめんです」
「おい、言いたい放題言ってんじゃねぇよ。俺は今すぐ破棄しても構わないんだぞ?」
「それは困るな、話は持ち帰ってやる。後日に結果を報告してやるよ」
そう言ってリアムに名刺を渡される。名前、住所、会社等が記載されていて全てが偽物の情報だとわかった。
「電話だけは繋がるようになってる。後は気にしなくて良い」
「ああ、わかったよ」
十五分程度だけ今後のあり方について話すと、俺は席を立って爺さんの屋敷を後にした。
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週末になり一夏は自室でスキー旅行の準備をしていた。
喜久は用事があると朝から出かけていたために今は一人で準備している。横を見れば既に準備を済ませてある喜久の荷物が置かれていた。
(あいつ本当に片方の目が白いままだったな)
片目の色素が無くなった目を一夏に見られた喜久は「下らねぇこと気にすんなよ、一夏も早く準備済ませとけよ」と言って笑っていた。
一夏の頭の中で楯無の言葉が反芻する。普通でいれば喜久は幸せでいられると言われていたが、それがどうにも難しく感じていた。
意識するなと言われてしまうと逆に意識が強くなってしまう。そんなことを考えていると、不意にドアのノック音がする。
「一夏、すまないが話したいことがある」
箒の声が聞こえて一夏が応対するためにドアを開く。そこには箒と一緒に鈴が待っていた。
「どうした箒? 鈴もいたのか」
「どういう意味よそれ? あたしがいちゃ悪いわけ!?」
「いや、別に問題ないぞ。二人ともどうしたんだ? もう旅行の用意は済んだのか?」
一夏が二人に聞くと、彼女達はいきなり十冊程の本を一夏に押し付ける。
「うお! なんだいきなり!?」
戸惑いながら一番上の本に書かれているタイトルが目に入る。『恋愛必勝法 男がモテるための100の方法』と書かれていた。
「はぁ? 何だよこれ…」
「良いから! アンタはこっちの勉強もしなさい!!」
「一夏、旅行中に今渡した本を全部読破しろ!」
(んな、無茶な…。二人とも何考えてんだよ?)
一夏は顔を横に逸らして背表紙に書いてある他の本のタイトルも適当に流し読みしてみる。『恋愛上手の処世術』『これであなたもモテモテ! 女性をものにする口説き方』『イケ面になれる本 中身を磨く毎日の習慣』『女性の心理 男性の対応』と書かれていた。
恋愛に関するハウツー本を大量に渡された一夏が混乱する。それでも何とか意識を保って理由を聞こうとした。
「えーと、箒に鈴。何で俺に恋愛マニュアルの本を?」
「あんたの頭が悪いからに決ってんじゃない」
「そうだ、だから冬休み中にそれを読んで頭を柔軟にしろ」
一夏は理解不能だった。しかし箒と鈴は必死だった。
「こんなに貰っても読む時間なんてないぞ。大体、俺は休み中も生徒会でも忙しいしな」
「だったら徹夜して読めば良いじゃない?」
「そうだな、一日の時間はみんな平等だ。寝る間も惜しめばなんとでもなる」
「なるわけない、そんなわけないだろ…。旅行中は何とかなると思うけど、流石にこの量は無理だ」
う~んと唸る一夏に箒と鈴が追い討ちをかける。
「あんたさ、今まで彼女とかいたの?」
「どうせ、一夏にそんなものなどいるまい。ダサいからな」
余りの言われように一夏がカチンと来る。が、言われたとおり今までに恋愛をしたことは無かった。
痛いところを付かれて一夏は心の中で膝を付く。
(確かに、俺は今まで恋愛をしたことが無い…。これってすごく不味いことなのかも知れない)
これで彼女がいたことがあるなんて言われれば二人は立つ瀬もない。密かにドキドキしていた箒と鈴が心の中で安堵した。
「だろうと思ったわよ。良いこと、ちゃんと読みなさいよ」
「確かに渡したぞ。後で必ず感想を聞かせてもらうからな」
「まあ、時間の許す限りは何とか時間をやりくりしてみるよ…」
一夏がそういうと二人は嬉しそうする。
「そういえば一夏、あんたってスキーできるの?」
「そうだな、発案者だが滑れるのか?」
「いや、初めてだな。こういう機会って中々無いからな、箒と鈴はスキーしたことは?」
一夏は初めての体験に嬉しそうにして、残りの二人は揃って視線を横へ泳がす。実は箒も鈴もスキーをしたことが無かった。
「喜久は多少は滑れるって言ってたけどな。あと、セシリアとラウラは得意らしいな」
喜久は姉にしばかれて強制的に覚えさせられ、セシリアは嗜みとして。ラウラは軍隊訓練の一環で雪山を滑れるようになっていた。
「く、セシリアとラウラは良いとしても喜久まで滑れるのか…」
「あれ、じゃあシャルロットも初めてかしら?」
「シャルもやったことが無いらしいな。良かったな先生役が三人もいて助かったよ」
浮かれる一夏に対して箒と鈴は違うことを考えていた。
そして発覚した事実に二人して嘆きそうになる。今更だが、実は雪滑りはラウラの独壇場だったことに気づいた。
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スキー旅行の当日、実家行きの電車に乗るために俺たちメンバーは駅の新幹線乗り場にいた。
そして俺は飲み物を買うといって今は一人で行動している。もちろん、目的は飲料ではなく煙草だった。
適当な売店に入るとレジの奥には宝の山のように煙草が陳列されて並んでいる。
「これ四箱下さい」
「身分証を拝見させてもらえますか?」
欲しい銘柄を指差して、いつも愛煙している煙草を買おうとしたところで売店の人に止められた。
「ああはい、これですね。ホームで待ってる姉に買って来いって言われてるんで」
「ありがとうございます」
いつも使っている姉さんが発行した成人登録カードを提示すると、店員は安心して俺に煙草4箱を渡してくる。
「ありがとさんです。さて―――
「なにしてるの喜久?」
「お姉さまはご実家にいらっしゃるのでは? このような場所にいるなどとは初耳でしてよ」
三度ほど角を曲がって撒いた筈なのに…。
俺が後ろを振り返ってみれば、そこにはシャルロットとセシリアがいた。
二人はにこやかにしながら揃って仁王立ちしている。
「いや、姉さんのお土産にな」
「僕は日本に地域限定の煙草があるなんて知らなかったよ。喜久は物知りだね」
「お姉様は吸われておられませんわよね? 喜久さん、今すぐ店員の方へ商品返却をお勧めしますが?」
「……はい」
俺は泣く泣く店員に煙草を戻した。
二人に引きずられるようにして新幹線乗り場のホームへ戻る。すると、前方では待っているメンバーがやいのやいのと騒いでいるのが確認できた。
「一夏の隣は私に決まってんでしょ!?」
「いいや、私の方が良いに決まっている! 鈴は対面で良いのではないか?」
「なにを馬鹿な、一夏は私の嫁だ。ならば夫婦が隣同士なのが普通に決まっているだろう」
まだやってるよ…。
俺が売店に行く前も篠ノ之と凰、ボーデヴィッヒが言い合いしてたから、かれこれ十分以上騒いでいたことになる。違う方を見れば会話に混ざって主張をしたそうにしている簪と盛大に溜息を付いている織斑姉がいた。
山田先生はまあまあと織斑姉を気遣っている。そして一夏は一人だけ他の場所で、どこで手に入れたのか黙々と恋愛に関する本を読んでいた。
「よっちゃーん。シャルロットちゃんとセシリアちゃんのどっちが、よっちゃんの隣に座るのかしら?」
「もちろん僕ですよ。セシリア、今回は譲ってくれるよね? 臨海学校のときはセシリアが喜久の横だったでしょ」
「なにを言っておられるのです? この場合は私以外ありえませんわ、シャルロットさんはいつも末席と決まっているではありませんか」
うわ、こっちも始めやがった…。
いつの間にか近くに来ていた更識の一言でシャルロットとセシリアが火花を散らし始める。
「煽ってんじゃねぇよ。更識、あんたの後ろに盲導犬がいるぞ」
「ひぃっ!? …よっちゃん、よくも騙しわね!」
阿呆が簡単に引っ掛かりやがった。
「お互い様だ、あんたが始めたんだからちゃんと収拾つけろよ? 俺は知らねぇからな」
「良いわよ~。しょうがないわね、おねーさんが一肌脱ぎましょうっ♪」
「全裸になって捕まるなよ?」
「よっちゃん、まるで私が変質者のような言い方ね」
「違うのか?」
「あらん、よっちゃんはそういうのがお好みかしら?」
更識の中で恥じらいというカテゴリーは存在しないらしい。俺は会話に疲れ始めた。
すると奴は嬉しそうに周りのメンバーに呼びかけを始める。
「これから一夏くんとよっちゃんの隣の席を賭けて勝負をしたいと思います。やる人はこの指、とーまれっ♪」
掛け声をかけた瞬間、席決めを言い合っていたメンバーが飢えた鮫のように更識の方へ群がった。
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電車の中で女子連中が更識とゲームの内容を決めている。そして、凰が持っていたトランプでダウトがスタートした。
俺は一夏と適当に隣同士で座ってそれを見物する。それにしても、馬力が掛かりすぎている連中に思わず呆れてしまう。
「なあ一夏、あの騒ぎをどう思うよ?」
「元気なのは良いことじゃないか? それに、楽しむことは大事だと思うぞ」
「そうだね、でもあれじゃあ頭の中までフィーバーしてる感じだけどな」
対面には私服の教師二人組みが既に引率のような役目を放棄していた。
織斑姉は缶ビールを開けて飲み始めている。山田先生も酒は飲まないが寛いでいる様子だ。
「うちの馬鹿どもは手におえん、これでは先が思いやられるな」
「学生時代は私もあんな感じでしたね、いやぁ懐かしいです~♪」
山田先生が女子連中の方を見てキャッキャと浮き足立っている。
「なんだ、山田先生にもちゃんとした青春があったんですね」
「市隈君、どういう意味ですか!?」
「瓶底眼鏡でガリ勉だと思ってました」
俺が指摘すると、山田先生が突然後ろにもたれかかる。そしてなにやら劣化フィルムのように背景を背にしたような感じで呟き始めた。
「…フ、どうせ私はガリ勉でしたよ。だって親が厳しかったんですもん、しょうがないじゃないですか。学園のカリキュラムもこなすのに必死だったんです。恋愛の一つだってしたかったんですよ、だから嬉しそうにしている同年代のカップルを見るたびに心の中で泣いてましたよ。だから――――
なんか禁句に触れたらしい、俺は前も大浴場の時にこんなことがあったことを思い出した。
「おい一夏、山田先生が壊れたぞ。どうしたらいいと思う?」
「どうしたらって…。お前がちゃんとフォローしろよ、ん? 千冬姉…」
「どうしたよ?」
一夏が織斑姉の方を見ると、山田先生を見て笑っていた。
この人は酒が入ると良い性格になるのかもしれない。俺はしょうがなく織斑姉に話し掛ける。
「織斑先生、山田先生って何が大好物なんですか?」
「そうだな、今は男じゃないか?」
「完全に酔ってますね、もう良いです。山田先生、俺が悪かったです。あとで何か奢りますからそこらで逃避してるのを止めれませんか?」
半分涙目になっていた山田先生が俺のほうを向く。
「市隈君、男に二言は許されませんよ?」
「はい、大丈夫ですよ。ある程度は守ります、多分」
「喜久、お前の返事が曖昧すぎだぞ…」
山田先生に対して返答する俺を見た一夏が呆れている。山田先生は嬉しそうにしながらオホンと喉を整える動作をする。
「じゃあ市隈君、旅行の間だけ先生の彼氏になって下さいっ♪」
「セシリアとシャルロットに殺されるので無理です」
おいおい、この人は一体なにを言い出してんだよ…。
「本当のお付き合いではありません。擬似恋愛です、だから平気だと思いますが?」
「あんたは俺に死ねと言いたいんですか?」
「それはそれで面白そうですね」
「あんた鬼だよ…。無理です、遊ぶなら一夏で遊んでください」
「喜久!?」
言った途端一夏が吃驚して俺のほうを見る。そしてどこからともなく織斑姉が発言してきた。
「良いじゃないか市隈、山田先生に付き合ってやれ。面白そうだ、私が許可してやる」
「おい理不尽教師、あんたが不幸になったら俺は大笑いしてやるからな」
「ほう、言うじゃないか。しかしだな、既に市隈の方が不幸に好かれているようだぞ?」
…え?
「喜久さん、そんなに年上がお好みですか? 私という人間がいながらいい度胸ですわね?」
「喜久、随分楽しそうだね。少し別の車両でお話しない? きっと今後の生き方が変わると思うんだ、僕はまっとうな人間に生まれ変われると思うよ?」
「なんでそうなる…」
ゲームに興じていた筈の二人の金髪頭が俺の横で立っていた。
声のした方を向けば目の光を失っていたシャルロットとセシリアがいる。そして次の瞬間二人にものすごい力で持ち上げられた。
「おい待てよ!? 俺はなんにもしてねぇよ!!」
「擬似恋愛をするのでしょう?」
「するわけないだろ!? そんなのは勝手に山田先生が決めただけだ!!」
「山田先生、本当のところはどうなんですか?」
シャルロットが山田先生に真意を聞く。
「きゃっ♪ もちろん本気ですよ?」
舌を可愛らしく出して悪戯っ子のような顔をする。俺は山田先生の逆襲がかなりきついことが解った。
「喜久、隣に行こうか?」
「ふざけんな!! 誰が行くか!!」
「市隈君、行ってらっしゃい。良かったですね~、モテモテじゃないですか」
「どうしたらそう見えんだよ!?」
俺は一度でいいから山田先生の服を全部脱がして路上に放置してみたくなる。そう思っていると一夏がなにやら納得したようにポンと手を打った。
「そうか、これがモテル男って奴か」
「おい一夏!! お前は変な知識を蓄えてんじゃねぇ!!」
「行きますわよ、喜久さん」
「喜久、二時間はここに戻ってこれないからね?」
セシリアとシャルロットが俺を隣の車両へ連行した。