ln   作:kiarina

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[NumberingTitle_ノマレル人々]

 

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「ただいま~っと、あれ?」

「どうした?」

「いや、鍵が開いてない…。どうしたのかねっと」

 

雪が下ろされている実家について鍵を開けようとしたら閉まっていたために、俺は持っていた自分の鍵で玄関のドアを解錠した。

そんな大きくない家の中へ俺に続いて織斑家の人間が上がりこむ。

 

「ほう、市隈のお姉さんは絵が趣味なのか?」

「なんか油絵を描くのが趣味らしいですよ。時間のある時は画材を出して庭で楽しそうにしてます。俺はよく解らないし、油絵の具とテレピンの匂いが駄目なんで近づこうとも思わないですけど」

 

それに俺には絵心なんて無いしな。

玄関のところに飾られている姉さんが描いた絵を見て織斑姉が感心したような声を出した。

カンバスサイズが五十もあると殆どの人が目を引かれるらしい。描いてあるのは風景画で、その中に小さく姉さんの父親と母親が描かれている。

 

「良い趣味だな、それに上手だ。そう言えば、市隈のご両親はどうされている?」

「父親は癌で母親の方はそれより随分前に他界してるみたいですね。俺は墓を一緒に訪ねたことはありますけど、姉さんと暮らし始めた時には既にいませんでしたよ。まあ、姉さんと言っても歳は大分離れてますしね。あの人は今年で三十路に突入しましたから」

「そうか、それは失礼なことを聞いてしまった。それと市隈、女性の歳は簡単にばらすな」

「そうですね、まあとりあえず上がってください。」

 

俺は二人を促して先に玄関から上がる。そして居間に入るとソファーに座ってもらうように促した。

 

「置時計か、それも随分古いな」

「ああ、それも姉さんの趣味です。壊れてて動かないけど衝動買いしたらしいですよ。値段を聞いたら内緒だそうです」

 

そう言えば、一夏も前に家に来た時に同じようなこと聞いてきたな。

俺の家には人の大きさくらいある大きな置時計がある。姉さんが一目惚れして買ったらしいのだが、はっきり言って掃除の邪魔なだけだった。

姉さんの趣味は理解出来ない、いつも買ってくるお土産は変な物だらけだ。しかし、嫌な顔をすることも出来ないので一応の感謝だけは言っている状態だった。

 

「一夏、お茶入れるから手伝ってくれ」

「ああ、わかった」

 

俺は一夏に呼びかけてお茶の用意を始める。すると、織斑姉も立ち上がった。

 

「私も手伝おう、お邪魔させてもらっている身だしな」

「いや、織斑先生は家事がずぼらだって一夏から聞いてますんで。手伝われて物を壊されても困りますから、静かに座ってて下さい」

「喜久ぁあ!?」

 

一夏がムンクの叫びみたいに盛大な悲鳴をあげる。次の瞬間、織斑姉の目が光りだす。

 

「一夏、私のことを周りの人間にどう伝えているのか一度詳しく聞く必要があるようだな」

「待ってくれ千冬姉!! 俺は別―――

「こっちへ来い!!」

 

織斑姉がものすごい力で一夏を廊下へ引きずって行った。

 

 

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ビジネスホテルに到着すると宿泊メンバーの一行は別れて各々の部屋に散らばっていく。真耶とセシリアは同じ部屋だったために二人で並んで歩いていた。

向かっているセシリアが溜息を吐き始める。

 

「はあ、本当は喜久さんのお家へ行きたかったのですが…」

「オルコットさんは本当に市隈君のことが好きなんですね。良いですね~、恋は女を綺麗にすると言いますが、私もそういった相手がいれば良いのですけど」

「山田先生は意中の殿方がおられないのですか?」

「いれば良いのですが、生憎のところIS学園は完全に女子校ですから。織斑君と市隈君が余りにも特別ですね、学園に男性教員はいませんし。職場恋愛もなければ、それでなくても忙しいので出会いも難しいんですよ」

 

学園には真耶の他にも教員がいるが、実家からお見合いの話をするように言われて過保護な親に嘆く同僚もいる。干渉的ストレスがないだけマシだと思っているが、それでも焦る気持ちもあった。

セシリアは一人で何かを納得したらしくウンウンと頷いている。

 

「確かにそうですわね、ISに携わられる方は女性の方が圧倒的に多いですから。下手したらいきおくれになる可能性が高いのかもしれませんわ」

「うぅ…。オルコットさん、そんな不吉なことをいわないで下さい。これでも結構悩んでるんですから…」

「山田先生、そんなに拗ねないで下さいな。明日は滑りに行くのですから素敵な出会いが待っていますわ」

 

セシリアが両手の平を合わせながら真耶を激励した。

年下に気遣われてしまう自分が情けないと思うが、真耶はセシリアの励ましによる心遣いに感謝する。そしてやる気があるぞと見せるために、その場で小さくガッツポーズをして意気込む。

 

「そうですね! そのために私はここに来たんです!!」

 

エレベータの前まで来ると、セシリアが人差し指を顎の辺りに当てながら今後の予定を聞く。

 

「私は荷物を部屋に置きました後で、喜久さんのお家にお邪魔するつもりなのですが。先生も行かれますか?」

「う~ん、そうですね。織斑先生もいますし、私も行かせてもらいます」

 

チンッと、エレベーターの到着した合図の音が聞こえた。

 

 

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ホテルの部屋についたシャルロットとラウラは互いの荷物を片して、用意されていたお茶で小休止している。シャルロットの両手に持っているコップの湯の表面が反射して自身の像が映りこむ。

 

(人の命よりもお金だなんて…。お母さん、なんであんなお金の亡者と一緒になったの?)

 

国際IS委員会は今後の対応を審議中、デュノア社からの指示は暫くの現状維持。これがシャルロットの置かれている今の立場だった。

第三世代機として投入されたラファール=リヴァイブⅢだが、アリーナでの暴走行為は皮肉にも格好のデモンストレーションの場と化してしまった部分がある。他の第三世代機を一度に二機以上相手にしても対等に渡り合い、一対一ならラファール=リヴァイブⅢの方が性能で勝っていたのだと。実際に状況報告を聞いたデュノア社の技術スタッフや社の幹部クラス役員は手放しにして喜んでいた。

結局、突き詰めてみればラファール=リヴァイブⅢはアピールポイントの方が暴走行為より目立っている。IS本体の量産ではなくとも機能自体の制御機構システムや新たな武装だけで、とんと大金が転がり込んで来るのは目に見えた結果だった。

社のトップであるヴァレールも内心では今回の暴走を肯定している。そして、それを知ったシャルロットは社の運営実体に落胆し、自身の父親とも新たな感情の隔たりと急激な温度差が生れて始めていた。

彼女は今なら喜久がISを憎んでいた理由が理解できる。そして何故、彼が半縄の考えに共感したのかも納得がいく。だんだんと変わってきている自身の心境の変化によって、今のシャルロットは兵器開発に従事する自身に嫌気が差し始めていた。

 

「どうしたシャルロット、顔色が優れない様子だが?」

「うん、ちょっとね。ありがとうラウラ、僕は大丈夫だから」

 

ラウラに声をかけられて、シャルロットは自身が思考に耽っていたらしいことに気づく。

 

「ねぇ、ラウラは今の生活に満足してる?」

「私か? そうだな、ここには教官がいるし一夏もいる。私にとっては今の生活は確かに充実しているのかもしれんな」

「そっか、ごめんね変なこと聞いちゃって」

「別に構わん。ついこの間にあった出来事で、沈んだ気持ちが尾を引いていてもおかしくはないからな」

 

そう言ってラウラは自分のコップに茶を継ぎ足す。シャルロットは苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

「明日は雪山に滑りに行くのだろう、今はそれを楽しみにして過ごしたら良いのではないか?」

「そうだね、そうさせてもらうね」

 

ラウラの気遣いに感謝してシャルロットは気を持ち直す。

 

「僕は初めて滑るんだけど、ラウラはどれくらい滑れるの?」

「そうだな、人並み程度といったところだろうな。競技に参加したこと無いが、ジャンプ台があれば飛ぶことは出来るぞ。昔、訓練の一環でついでにスキージャンプを習得したことがあるが、なんならシャルロットもやってみるか?」

 

何が人並み程度の基準なのかラウラの常識外な回答にシャルロットは苦笑いした。

 

「いや…、僕はただ普通に滑ることができれば良いかな。ラウラ、次の機会には宜しくお願いするね」

 

この分だと、スキーを教えてくれと頼もうものなら難易度の高そうなジャンプ技まで叩き込まれそうだ。スパルタ教育はごめんだと、シャルロットはラウラ以外の人間に教えを請おうと心の中で誓いを立てた。

 

「それにしても、喜久が滑れないのは残念だね」

「喜久は怪我が完治したわけではないからな。それでなくとも、奴は基本的に外出行動が嫌いな人種だ。今回もゲレンデで休めて良かったなどと考えているだろう」

「はぁ、もう少しアクティブなら良いのに。暇さえあれば寝てるか本読んでることが多いし」

「あいつは一夏とは真逆だからな」

 

シャルロットが喜久の甲斐性無しな部分に溜息をつく。本当に時々だが、なんで自分が彼のこと選んだのだろうと思う時がある。

 

「前に一度、休日にセシリアと二人で外に無理やり引っ張り出したことがあるんだけどね。買い物につき合わせたら、最後に持つように頼んだ荷物の量を見て喜久が逃げようとしたんだ」

「ほう、どのくらいの量だったのだ?」

「僕はそんなに無いけど、セシリアは大分買ってたね。多分そのせいだと思うよ」

 

彼女は何気なく言っているが大きい箱に入ったものが二つ、大きめの袋が八つで喜久でなくても普通の男性なら嫌になる荷物量だった。

それでなくても、たまの休みを潰された彼はそれだけで悲しんでいる。しかしセシリアとシャルロットはそれを理解してくれなかった。

 

「ラウラ、あとで喜久の家にお邪魔しようと思ってるんだけど一緒に行く?」

「そうだな。喜久の家には一夏もいるし一緒に行かせてもらうとしよう」

 

シャルロットとラウラは互いにお茶を口に含んだ。

 

 

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ホテルの部屋で箒はうな垂れていた。

 

「うぅ…。私が最下位だなどと、認めん…」

 

原因は行きの電車の中で行った一夏の席を賭けてのトランプゲームが原因だ。ダウトをしたのだが、嘘を見抜くのが下手糞な彼女にとっては最も苦手なゲームだった。

しかも直ぐに思ったことが顔に出てしまう短気なところもある。それが余計に辛くなってしまう状況を作り出す。そんな箒と真逆に位置しているのが楯無で、彼女は持ち前の器用さで簡単に一位を掻っ攫って行った。

結局、心で泣いた箒は一夏の横へ堂々と座っていた楯無を見て内心で嫉妬し続けていた。

 

「箒があんなにに弱いとは思わなかったわ…。しかし、あの生徒会長が提案した理由がよく解ったわよ!! キーッ!! あたしが負けるなんて!!」

 

そして箒以上に悔しがっている鈴がいる。彼女はその場で少し地団駄を踏んだ後でベッドにダイブした。

テレビゲーム以外のゲーム類で勝つことに自信があったため、楯無に完敗したことへの納得がいかない。最後は一夏の横に座れるという景品を抜きにして真剣に勝負していたが負けてしまった。

 

(次は絶対に負かしてやる!!)

 

一つだけ溜息を吐いて、鈴が枕を抱きながらムクリとその場で顔を上げる。

 

「そういえば箒、あんたって明日は誰にスキーを教えてもらうつもりなの?」

「セシリアか山田先生だな。織斑先生とラウラはどう見ても温くない訓練のような教え方になるに違いない。ラウラに至ってはスキーですらなさそうだ」

「ああ、それは言えてるわね。雪山で生き残る術を教授されてもって感じだし、あたしはそういうのはパスだわ。山田先生辺りにしといた方が無難ね」

「そうだろうな」

 

(たく、なんで一夏の馬鹿は滑れないのよ。せっかくマンツーマンで過ごす良い口実になったのに!?)

(できれば一夏に教えてもらいたかったのだが…。なぜあいつは滑れんのだ!?)

 

箒と鈴は一夏が滑れないことに憤っていた。

二人して身勝手な言い分だったが、一夏に対して恋をしている彼女たちは自分中心で物事の判断が始まってしまう。そんな中で箒は疑問に思っていた部分を鈴に聞く。

 

「しかしだな鈴、一夏に恋愛の本をあれだけ渡したが本当に矯正の効果があるのか?」

「なに言ってんのよ、あんただって賛成したじゃない。一夏の朴念仁を一ミリでも良いから直していかないとダメなのよ、藁でラクダを潰すじゃないけどね。あれだけ本を渡せば多少は変わってくる筈よ」

 

冬休みに入って直ぐ、二人は一夏ヘ大量の恋愛本を渡している。恋愛感を養って欲しいと思ってのことだったが、箒は今になって効果が余りないような気がし始めていた。

 

「う~む。そういうものか?」

「そういうもんよ。それより箒、ここに居ても暇なだけだし一夏のところへ行かない? どうせ他の人間も行くでしょうしね」

「そうだな。よし、支度して出るとするか」

 

そう言って箒は荷物整理と外へ行く準備を開始した。

 

 

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「それじゃあ、よっちゃん! 私たちは友好を深めるためにちょっと飲んでくるわね」

「あい、解りました。姉さん、頼むから加減をしてくれよ?」

「大丈夫よ、それじゃあ遅くならないうちには帰るから!」

 

あー、あれは飲む気満々だな。

大はしゃぎの姉さんと教師二人は駅前の居酒屋に向かう。それを俺と一夏が見送っていた。

現在人口過密地帯になっている自宅は女子たちで溢れ返っている状態だ。まさか、ホテルに宿泊する筈の人間が全て家に遊びに来るとは思っていなかった。

そして、大勢を賄うための食料なんてないので俺と一夏は買出しに出かけている。

 

「なあ喜久、加代さんてお酒が強いのか?」

「ああ、まさに笊だな。平気で他の人間を酔い潰させるよ、男が引いて近寄らなくなる理由の一つだな」

 

姉さんが独身貴族なのは仕事の多忙さ、酒、そして変な趣味の三つが原因だと俺は思っている。なかでも、酒で相手が潰れるまで容赦なく飲ませるところがタチが悪い。独身女の三人組が雑踏の中に消えていくのを見て一夏が不安そうな顔をした。

 

「そうか…。大丈夫かな、千冬姉と山田先生」

「良い大人なんだから、無理ならセーブするだろ。それより荷物が重いから早くもって帰ろうぜ?」

「ああ、料理はシャルと更識さんが作ってくれるって言ってたからな。皆お腹空かせてるだろうしさっさと帰るか」

 

そう言って、俺と一夏は互いにスーパーの荷物を両手に下げながら家路を目指した。

 

 

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「あはははは!! 喜久遅いよぉ!!」

「よひひさん~。もうわたひは、待ちくたびれましたわ~」

 

何だ、前に見たことがあるようなこの光景は…。

そんなに大きくない家の居間で女子連中がすごい状態になっている。買出しに行っていた俺と一夏が家に着くと、そこでは臨海学校で行われた規模より人数が多い酒乱大会みたいな状態になっていた。

 

あーあ、嫁入り前だろうにスカートが捲れあがってるよ…。

女子連中は既に全員が酔った状態で、凰と篠ノ之が完全にノックアウトしてだらしなくぶっ倒れている。嘔吐している人間がいないだけマシだが、はっきり言って危険な状態には違いなかった。

そう思っていると、酔っ払ったボーデヴィッヒが一夏のほうへふらつきながら近寄ってくる。

 

「一夏ぁ~。お前は私の嫁なのに、なぜ私の横にいないのだー?」

「おい、ラウラ!?」

 

一夏が焦ってボーデヴィッヒに近寄ろうとした。

 

「酷いぞ! 何故だぁ!?」

 

サクッ!!

 

「ひっ!!」

「うおっ!!」

 

人様の家で壁に穴あけてんじゃねぇ!!

ボーデヴィッヒが突然投げたナイフに俺と一夏が驚き、ナイフはそのまま壁に突き刺さる。俺が泣きたいのに、奴はなにが悲しいのかその場で泣き崩れ始めた。

 

「ウッウゥ…一夏ぁ~。お前まで私を捨てるのかー!?」

 

ボーデヴィッヒ、お前は誰に捨てられたんだよ…。

 

「落ち着けラウラ!?」

「ボーデヴィッヒは泣き上戸か。誰だ、こんな混沌とした場を作り上げやがった馬鹿は?」

 

一夏が慌ててボーデヴィッヒを介抱し始め、俺は状況確認のために辺りを見回す。見れば、若干一名の人間が嬉しそうに一升瓶の日本酒をお猪口に並々と注いでからグビグビと飲んでいる。

 

「あらん、よっちゃん。お帰り~、うぃっ酒池肉林の出来上がりよぉ?」

 

どっから酒なんて持ち出しやがった、こんの馬鹿やろうが!!

全ての元凶らしき人間が頬を紅潮させながら嬉しそうに俺と一夏に手を振った。

 

「阿呆が、誰がこんなもんを喜ぶんだよ!! 全部お前が原因か更識!?」

「楯無さん…。生徒会長が率先して未成年飲酒させてどうすんですか…」

「いやぁね、おねーさんは一人で飲んでたんだけどねぇ~。試しに飲んでみたいって皆が言うからお裾分けしたんだけどぉ~、皆あんまり強くなかったみたぁいー。えへっ♪」

 

はぁ…。どうせ更識のことだ、上手く持ち上げまくって全員をその気にさせたんだろうな。

俺は溜息を吐きながら、ボーデヴィッヒに泣きつかれている一夏の肩に手を置く。

 

「一夏、ボーデヴィッヒを横にして寝かせとけ。更識、織斑先生が戻ってきた時にどうなっても俺は知らねぇからな、って、うお!?」

「あはははは!! ずるいよー喜久ぁ、なぁんで先輩だけとしか話さないの~?」

「そうれすよ~、わたくひ、体がとっても、あついのれす~。よひひさん、冷やしてくらさいな~?」

 

デジャブじゃねぇんだぞ!?

臨海学校のときと同じようにシャルロットとセシリアに押し倒される。

 

「う、あはははははは!! 喜久~、二階って喜久の部屋があるよね~? 今日は一緒に寝たいな~? ダメかなぁ~?」

「駄目に決まってんだろ!! お前ら一度で懲りたんじゃなかったのかよ! いい加減にしろ!!」

「よしひさささん~。そんなに~、邪険に~、あつかあなひでくらさっても~、良いらないれすか~?」

「セシリア! お前は呂律が回らな過ぎなんだよ!!」

 

横でラウラに泣かれている一夏が俺のどうしようもない状態を見て盛大に溜息を吐いていた。

 

「セシリアとシャルはどんだけ飲んだんだ…」

「ねぇ~、喜久~あ、あははははははは!! ねぇ~ってば~、僕のこと好きなら良いでしょ~? 僕は幸せな家庭が欲しいなぁ~ぷぅ、あはははははははは!!」

「ふざけんなシャルロット!! お前どこまでの将来を妄想してんだ!?」

 

素面《しらふ》でこんなことを言われた日には周りにものすごい誤解を与えかねない。俺は酒にのまれた人間が何でも平気で口走れることに恐怖する。

 

「よひひさん~、あらくしと情えつ的なぁ~、一夜をすごろしましょうらよ~?」

「言ってることが意味不明なんだよ!! お前もなに考えてんだ!!」

 

何となく言いたいことは理解できるが冗談じゃない、俺は無理やり酔っ払いの二人を引き剥がす。

 

「くっそが!! 痛ぇ!?」

 

すると空になった一升瓶の上に片足を乗せてしまい、今度は後ろへスッ転んだ。

 

「うぅ…ん、一夏のエッチィ…むふっ♪」

「うおっ!?」

 

凰の寝言が聞こえて顔を向けてみれば、奴の殆ど無い平らな胸に俺の手が乗っかっていた。

俺はすぐさまその場から逃げ出すようにして立ち上がる。凰の嬉しそうにしている寝顔を見てみれば、きっと夢の中じゃ一夏が凰の胸を触ったことになってるんだろうことが理解できた。

良かった…。起きててまともだったら、俺はきっとこの中国人に八つ裂きにされてたな。

 

「あーあ、女の子の胸を触るなんてぇ~、きゃー、変態~っ♪」

「更識この野郎!! てめぇ、本気でマゾに目覚めさせてやろうか!?」

 

俺と一夏を肴にして更識が嬉しそうに酒をかっくらっている。奴の足もとには既に缶ビールが何缶も転がっていた。

この飲んべぇは一体どれだけ飲んでやがんだよ…。

 

「一夏ぁ。ちょっと私の話を聞きなさいよ!!」

「「はぁ!?」」

 

今度は誰だよ!?

一夏と一緒に声のした方を向くと簪がこっちの方へやって来ていた。

 

「一夏! 貴方私のこと、どぅー考えてるの!?」

「かんざし、さん?」

「いいから、こ、た、え、なさい、よぉおお!?」

 

なんだこの酒乱女は…。

怒り上戸っぽい簪を見て思わず引いてしまう。一夏は一夏で簪に胸倉を捕まれて頭を揺さぶられている。

 

「ま、待て!? お、お、落ちつ、けよ!」

「更識、お前のせいで簪がおかしくなったぞ? どうすんだよ…」

「う~ん。しょうがないわねぇ~、ここは一夏くんに任せて放置しましょうっ♪」

 

うわ、こいつ一夏に投げやがった…。

俺の横で一夏と簪の強烈な漫才は続いている。

 

「落ち着け簪!?」

「あーに、言ってんのよ!! いっつもいっつも周りの人間に邪魔されて、私は端でメソメソしてんのに!! 一夏は全然解ってくんないじゃない!! こんの朴念仁がぁ!!」

 

バシィッ!!

 

「痛えっ!!」

 

なんだこの異常に積極性のある人間は…。

キレた簪が一夏の頬に思い切りビンタをかます。まるで別人のようになっている状態に俺は唖然としてしまう。

 

「よっちゃーん、ちょろっと散歩に行きましょう。付き合ってくれるかしらぁ?」

「そんなん、一人で行って来い」

「いやぁね、下のお話もしたいのよ。良いかしらあん?」

 

ああ、そういうことか。

下とは地下特別区画のことだろう。俺は更識が何を言いたいのかが解り頷いて答えた。

 

「わーったよ。一夏、後は頼んだぞ」

「な!? 待ってくれ!! だったら俺も一緒に行くぞ!!」

「一夏ぁあぁ! まぁだ、話は終わってないわよ!!」

「ぐえっ!!」

 

ついに簪は一夏の首を締め上げ始める。一夏は必死にそれを引き剥がそうとしていた。

 

「おい、本当にあんたの妹は放置して平気なのか?」

「大丈夫よ~ん、だいじょ~びぃ。あはっ♪」

 

俺の質問を一蹴したようにして千鳥足で更識が玄関の方へ向かって行く。俺は溜息を吐きながらその後に続いた。

 

 

_\|/_

 

 

冬の夜はよく冷え込む。そんな中を酔っ払っている更識と並んで歩き続ける。

 

「あらぁら、白い息ね~。雪女なら人を凍らせそうな~かんじねぇー」

「更識、あんたはどこまで聞いてる?」

「う~うん、なーんもっ! 聞いてないっ♪」

「篠ノ之 束と会話した。あいつは狂人だ」

 

くるくるとその場で回って愉快そうに立ち回っていた更識の顔が普通になる。頬は以前として朱に染まっていたが、意識がしっかりしていることがわかった。

 

「やっぱり話したのね。学園の襲撃理由は?」

「くだらねぇよ、情報漁りだそうだ」

「よっちゃんとだけ話したのはなんでかしら?」

「直接言いたかったんじゃねぇの? 俺を消したいんだそうだ」

 

更識が考え込む仕草をしてお互いの会話がなくなる。少しして、彼女が再び口を開く。

 

「そう、篠ノ之博士がそう言ってたのね…。よっちゃん、このことは特にだけど箒ちゃんには言わないでおいてくれるかしら?」

「言わねぇよ、そんなことしたら篠ノ之が塞ぎこむだけだ。俺はそんな奴の姿を見るのはごめんだしな」

「このことは他に誰が知ってるの?」

「織斑先生と一部の学園関係者だけだな、後は上の仕切ってる最上位の連中だろうさ」

 

流れる情報に流れない情報、もし篠ノ之が今回のことを知ったらどう思うだろうか。俺は傍若無人な姉を持った篠ノ之に憂いを感じた。

 

「もう一つあるわ、非公開情報だけれどオーストラリアの軍事基地の一箇所が、単独のISによる攻撃で壊滅したらしいの」

 

穏やかな話しじゃない、俺は更識が真剣な顔つきになったことが解った。

 

「やったのは?」

「亡国機業でしょうね。ISが一機強奪されたわ、基地にいた人間の殆どが死亡したそうよ。そして最悪な一番の問題点なのだけれど、IS国家代表が戦って重傷を負ったらしいわ」

 

国家代表、一国の中で頂点に君臨するたった一人のIS操縦者がいる。基地壊滅、IS強奪、IS国家代表操縦者が重傷。これだけのことを一人で行えるだけの人間の力量がどの程度なのか全く想像できない。

 

「襲撃した奴は、どうやって相手のISを破壊したんだ?」

「ただの鉄製ナイフだそうよ、それを代表者の首に一突きしたの。出血多量でショック症状の末に命だけは取り留めたらしいわ」

 

サイレントゼフィルスの操縦者、織斑 マドカが言ってた言葉を思い出す。同じ顔をしているらしい、もう一人の俺という存在が頭の中で過ぎる。

 

「…ISTSしかないか。それにしてもやり方が狂ってやがるな」

 

光出力系統兵器等ですらない単なる刃物で相手の息の根を止めようとする行為。それは、俺の中で一種の殺人鬼が好みそうな儀式の手段のように感じられた。

 

「よっちゃん、それについて心当たりがあるのね。良かったら私に教えてくれないかしら?」

「ああ、キャノンボール・ファストの時に襲撃してきたクソ女が言ってたんだよ。俺と同じ顔の奴がもう一人いるってな。今の話しにしてもまさか絶対防御を突破してくるなんて、相手からしてみれば不意打ちでしかないだろうな」

「そうね。味方なら心強いけれど、敵になったらまさに凶敵といって差し支えないでしょうね」

「俺がな、昔に暴走した時は一方的に相手の操縦者を殺したよ。相手は二人いたけどな、ものの三分と持たずに死亡した」

 

アイリアとナイザとの戦闘を思い出す。あれは一方的な殺戮だったし、ゼロ距離に持ち込めば俺の勝ちが決まっていた。

 

「よっちゃん、貴方は前を見なさい。後ろを見て確かめることも大事だけれど、最後の結果で全てが決るわ。貴方にはこれから自分を変えていけるチャンスが幾らでもあるのよ」

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

いずれもう一人の自分と会うことになるかもしれない予感が拭えない。更識に言われて夜道を真っ直ぐと見つめる。暗い道の先では街灯と人家等からの光が発していた。

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