[NumberingTitle_自然ノ食材]
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酒乱大会のような出来事のあくる日、元凶の更識は全く怒られなかった。
なぜなら、それどころではない人間が俺の前に二人ほどいたからだ。
「なんでセーブしなかったんすか?」
「まさかあんなに飲むとは思っていなかった…」
「面目ないです…、うぅ。イタ…頭が痛い」
目の前で、だいの大人である二人が二日酔いになっている。動く屍のようになりながらスキー場まで来たものの、結局は俺と一緒に休憩施設で二人揃ってぶっ倒れていた。
机の上でぐったりしながら織斑姉と山田先生が呻く。
「はぁ。山田先生は彼氏を探しに来たんじゃなかったんですか?」
「無理です~。明日に賭けます…」
この人の春は遠そうだな。
そして、俺はもう一人の春が遠いのか遠ざけてるのか解らない人物に指摘をした。
「織斑先生にしても一夏が嘆いてましたよ。これじゃ、まだ外には出せないなって」
「なに!? 一夏…」
「姉思いの良い弟じゃないすっか。織斑先生は幸せ者ですね」
「…市隈、お前も大概に良い性格をしているぞ」
弱っている分だけ織斑姉を苛められる。スキーなんて面倒臭いだけだと思っていたが、これで時間を潰せるなら俺は充分満足だなと思った。
「忘れっぽい鶏《にわとり》なんで、織斑先生の発言は三歩も歩けば綺麗さっぱり忘れますよ。ちなみに俺も姉さんくらいは飲めますんで、あしからず」
「市隈、堂々と未成年飲酒を暴露するんじゃない。…くっ痛つ」
「酒に弱い女は男にモテますから。良かったじゃないですか、姉さんよりマシですよ?」
織斑姉が心底気分の悪そうな顔で俺の方を睨む。
「全く嬉しくないな、そんなふしだらな男はこっちから願い下げだ…」
「だろうと思いましたよ。あーあ、か弱さが一つもない女性はこれだからな」
俺が肩を竦めると織斑姉の顔色が赤くなるが直ぐにまた青くなる。山田先生がやり過ぎだろうといった顔を俺に向けていたが、俺は全く気にしない。
「く…。市隈、学園に戻ったら楽しみにしておけ」
「俺は今を楽しませてもらいますよ、実際楽しいです。まあ、時間はありますからゆっくり待つとしましょうか。それまでは話でもして時間を潰しましょうや」
「明日には私も山田先生も復活だ」
「ええ、明日からですけどね。それまでは俺のターンなんで」
ニヤニヤしながら喋ると、山田先生が口元を引き攣らせている。そして、織斑姉が口をぐっと横一文字にした。半縄との初対面のとき以来、久しぶりのやりたい放題がたまらなく面白い。しばらくの間、俺はその光景を愉快に眺めていた。
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快晴の太陽に雪が反射して、光り輝く白銀の爽やかさは絶好のスキー日和となっている。そしてスキー場のリフトを使用し、ある程度の高度まで来た一団がスノーウェアを着込んだままうな垂れていた。
「記憶が無い…」
「あたしもよ…」
「僕はもうダメかもしれない…」
「……うう…私、もう…」
目下四人ほどの人間が昨日の出来事に対して泣きそうになっている。
「なあ、そんなに落ち込まないで楽しく滑ろうぜ? せっかく楯無さんが滑り方を教えてくれるって言ってんだからさ」
それを一夏は頬を指で掻きながら一生懸命励ましていた。
「そうよ~。おねーさんに任せなさい、今日一日で完璧に滑れるようにしてあげるわっ♪」
そして、朝からハイテンションで過ごす人間もいる。キッとその場にいた箒と鈴、シャルロット、そして簪が楯無の方を睨んだ。そんな対応にも楯無は余裕の笑顔を崩すことは無い。昨日の夜、箒と鈴は楯無に挑発をされて思わず酒を飲んでしまった。
シャルロットは悩みを忘れましょうと言われて、簪は心が大胆になれると言われてだ。結局は全員が楯無の口車に乗ってしまい、散々な目にあってしまった。
千冬と真耶のように大量に飲んでいるわけではなかったが、記憶が飛んだ二名と飛んでない二名がいる。簪とシャルロットは記憶が残っている側の人間だ。余りの気まずさに彼女等は朝から口数が少ない。特に簪は自分が行った行動のせいで、今も半泣き状態だった。
一夏は諦めずに簪を励し続ける。
「簪、俺は別に怒ってないから大丈夫だ! だから今日は楽しもうぜ、な?」
「……うう……ごめん、なさい」
簪は一夏の優しい言葉に振れて頭を引っ込めるカタツムリのように塞ぎこんだ。その様子を見ていた箒と鈴が一夏に恐るおそる昨日のことを聞く。
「一夏、昨日私はどうしていたのだ?」
「満足げに寝てたな、盛大に大の字になって。あとは――
「……もう良い」
(くうぅ! これでは何のためにわざわざ旅行に来たのだというのだ!! 悪印象を与えては元も子も無いではないか!?)
一夏は箒のことを特に気にすることも無く、まあしょうがない程度に考えている。が、箒の頭の中ではそれが理解出来ないほどマイナス思考に陥っていた。
だからこそ、当たり前のように指摘する一夏に対して泣きそうになる。結局、大好きな一夏の前で醜態を晒したことに箒は内心で落胆した。
そして鈴も意を決すると自身のことを一夏に聞く。
「一夏、あたしはどうだったの?」
「まあ、大体同じだったな」
「…そうなんだ。はは、ああ、はぁ」
箒と同じように鈴も内心で落胆した。
肩を落として顔もカツンと真下に向ける。雪によってぐっと少し埋り始めている自身の足元が見えると、今の内心を表しているような気がした。
(ああ、なんか泣けてきた。あたし、なんであんな安い挑発に乗っちゃたんだろ…)
落ち込んでいる鈴を見ていた一夏がそういえばと一つのことを思い出す。
「あとは、喜久が間違って転んだときに鈴の胸を触ってたくらいだな」
「はあ、え? よ、喜久ぁあ!!!」
一瞬だけぽかんとした鈴が一夏の一言で激怒する。が、現在喜久は遥か下の方で寛いでいた。
そのために一方的な叫び声だけがその場で木霊している。一夏は伝える情報を間違ったことに気づき、慌てて鈴の怒りを静め始めた。
「落ち着けよ鈴!? 喜久だってわざとやったわけじゃないぞ!」
「そんなん関係ないわよ!? よくもよくも、きーっ!! 通りで朝からよそよそしい態度をとるはずよね!!」
鈴は喜久と朝から一言二言しか会話をしていない。鈴は不思議に思っていたが、やっとその意味が解った。
体を汚された気がして喜久に対し盛大にブチ切れる。
「あんの捻くれ天邪鬼!! ふざけんじゃないっての…。一夏、あのさぁ?」
「な、なんだよ?」
「あんたは何もしてないでしょうね?」
傍と気づいた鈴が一夏のほうを向いて訝しげに睨む。しかし内心では違う感情が爆発し始めていた。
(ま、ま、まさか! いや、一夏はそんな変態じゃないはずよ!? でも、それならそれでも! 駄目よ、でも、ああもう、どうしたら良いのよ!?)
破廉恥な行為はごめんだが、しかし好きな相手からのアプローチだと思うと恥ずかしくも嬉しく感じてしまう。対して一夏は冷静に応じ自身満々に喋りだす。
「大丈夫だ鈴、俺はなにもしてないぞ! 大体、夜這いなんてする奴は男の風上にもおけないからな!! 俺が介抱してたのは千冬姉とラウラと簪だ、鈴は喜久が布団まで運んでたよ」
「どういうことよそれ! あんた舐めてんの!?」
「なんでそうなるんだよ! 俺はなにもしてないぞ!?」
「そこが問題だっつってんのよ!! こんの唐変朴がぁ!!」
バシッ
「ぐっ! 鈴、ストックを振り回すな!!」
「うっさいわね! あたしの勝手でしょうが!!」
鈴は一夏のことをストックで叩き始めた。
昨晩の一夏は自身から離れようとしないラウラと簪に精神を削られつづけてた。
しょうがなく二人を二階まで運んで喜久のベッドに放り込んで寝かせる。次いで帰ってきた飲み過ぎの千冬を介抱するはめになり、内心でだらしないところはだらしないと呆れたのだった。
喜久はシャルロットとセシリアを自身の部屋まで運んで一夏用に用意した布団に寝かせている。次いで、ぐったりしている一夏の変わりにしょうがなく鈴と箒を自身の姉である加代の部屋に運んだ。最後は山田先生を介抱してその日は終わっている。
鈴と一夏の様子を楽しそうに見ていた楯無がシャルロットへ呼びかけを行う。
「シャルロットちゃん、昨日のよっちゃんはとても幸せそうにしてたわよ?」
「思い切り怒鳴ってましたよ…。先輩、酷いです。僕はあんな形でのカミングアウトは望んでませんでした…」
シャルロットは恨めしそうな顔で楯無の顔を見た。
昨晩はあれだけの本音をぶちまけてしまい、シャルロットは酒に対して恐怖している。
「まあまあ、あれはよっちゃんの照れ隠しだから」
「喜久の照れ隠しは自分の頬や頭を指で掻いたりすることですから、後は人の頭を撫でるくらいです。怒ってる時は素直に怒ってますよ」
「あらぁ、よっちゃんのことよく知ってるのねぇ。まるでおしどり夫婦ね、おねーさんは妬いちゃいそうよっ♪」
楯無が嬉しそうにしてシャルロットの気持ちが余計に沈み込む。楯無は自身の顔をシャルロットへと近づける。そして耳元で小さく呟いた。
「シャルロットちゃん、良い話があるんだけど。聞く気はないかしら?」
「いいえ、結構です…」
「さっき係員の人から聞いたんだけど、明日はフリー参加のスキー大会があるらしいの。そこで一位になると、ペアでアトラクション遊園施設の券が獲得できるらしいわ。そしたらよっちゃんと二人で楽しい時間が過ごせるわよ?」
ピクッとシャルロットの耳が反応する。楯無は嬉しそうな顔で彼女を見ていた。
しかし、やはりシャルロットは乗り気になれない。
「やっぱり良いです。僕自体が初めてのスキーですし、喜久が首を縦に振ってくれるとは限りませんから」
「賞はシャルロットちゃんが取るとして、昨日のお詫びに後は私がお膳立てをしてあげるわよ?」
「それでも遠慮します、なんかそういうことすると最近は災難の方が多いので」
夏にはプールで鈴と人騒ぎし、最近はラウラと結託して失敗をしている。シャルロットはやろうとしたことが裏目にしか出ていないために今回の話を流すことにした。
反省し欲をかかない方が良い、それが彼女の学習して得た結論だ。しかし、楯無はその上から覆い被さるように言葉を載せていく。
「あーん、無理に誘ってもしょうがないわねー」
楯無はちらりとだけ視線を別の場所へ移す。
「じゃあ、セシリアちゃんを誘ってみようかしら?」
「やります!!」
シャルロットは即答した。
セシリアに持ってかれるよりはマシだと、そして今度こそはと彼女は己の心中で決意し始める。その横で楯無がシャルロットの肩にポンと手を乗せた。
「よく言ってくれたわ、それじゃあ頑張りましょう!」
「はい!」
「これでシャルロットちゃんの結婚願望も順風満帆よっ♪」
グサッと楯無の言葉がシャルロットの胸に突き刺さった。
「先輩、僕の心に塩を塗りこむのはやめて下さい…」
「あらん、女の子には大事なことよ?」
そう言って楯無は他のメンバーにも同じような感じで呼びかけを行い始める。もちろん一夏と一緒に二人だけで遊びにいけるという餌を撒きながら。そして、その場にいた三人ほど女子を釣り上げた。
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雪が積もっている白銀世界の中で青色の金属物が宙をフラフラと飛んでいる。あるところまで来ると、それはピタリと静止した。
瞬間、レーザー光が雪山の中で地面に向かって打ち出される。ドムッと地中が破裂して大量の土と雪が宙を舞う。そして抉られた地面から冬眠中の兎が一匹、ものすごい勢いで外敵から逃げようと雪の中を走り出した。
サクッ!!
「よし、これで二匹目だな」
「やりましたわね、ラウラさん!!」
ラウラのナイフが野兎にヒットして刺さった。
そして、ブルーティアーズの射撃ビットを操作していたセシリアがラウラの横で喜んでいる。二人はスキーを既に投げ出して楽しそうに狩りへと勤しんでいた。
ゲレンデに到着してラウラのそわそわした行動が気になり、セシリアはラウラに何をするのか聞いてみる。すると、それを聞かれたラウラがさも当たり前のように答えた。
『昨日は一夏に迷惑をかけてしまった。野山なら野生の動物が生息しているからな。そこでだ、ハンティングを行い食料を調達して喜ばせてやろうと思っている。一夏は私の嫁だからな、しっかり精のつくものを食べさせてやらなければ』
『行きます!! 是非ご一緒させて下さい!?』
イギリス人のセシリアは故郷で貴族伝統の狩りを楽しんで興じている。なので昨日の酔い騒ぎを頭の端にしまい込み、大はしゃぎでラウラの後に続いて行った。
「あと三匹も狩れば人数分の食料として足りるはずだ。これで夕食は大丈夫だな」
「そうですわね、きっと皆さんも喜ばれると思います!!」
地面には既に息の根を止められ絶命した野兎が縄で一匹ばかり縛られている。セシリアは無断で展開したスターライトmkⅢを両手で持ち上げ、次の獲物を探すために雪の中で埋もれていそうな動物の穴倉をスコープで覗きながら探し始めた。
「……。…!? ラウラさん、見つけましたわ!」
「流石だな、狙撃が専門だけあって目が良い」
二人が会話しながら移動を始めた途端、深い茂みからガサリと音がする。セシリアとラウラが身構えて待つと、そこから一匹の獣が姿を現した。
黒い色に人間と同程度の大きさがある風貌だ。そんな月の輪熊を見た二人はお互いが顔を見合わせて喜びだす。
「セシリア、私たちはついているぞ。今日は良い狩り日和だ」
「大物ですわね!? ラウラさん、必ず仕留めきりましょう!!」
熊がガアアッと叫んだ瞬間、二人は嬉しそうにISを無断で全て展開した。
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おい、お前らなにやってんだ…。
一日も終わりかけた夕方の今現在、スキー場のゲレンデは大騒ぎになっている。騒ぎの発端である物体は俺の前でものすごい光景を作り出していた。
あるのは狩られたらしき動物が三匹、野兎が二匹と頭部が無い状態の熊だ。狩をしてきたセシリアとボーデヴィッヒが、そんな状態をお構い無にとても嬉しそうにしている。俺の横にいる一夏はあんぐりと口を開けっ放しにし続けていた。
「喜べ一夏、大量だ。今日は新鮮な肉料理が食べられるぞ」
「ラウラ…」
なにを言っていいものかといった感じで、一夏がとりあえず名前だけを呟く。
「喜久さん! 私、今日は久しぶりに充実した一日を過ごしましたわ!!」
「一夏、お前がどうにかしてくれ…」
俺は本気で放置をしたくなり、そのまま一夏へ対応を振る。一夏は顔を青くしながら阿呆どもに話しかけた。
「二人揃って朝から何をやってたのかと思えば…。ラウラにセシリア、それって明らかに法令違反になるんじゃないか?」
「なに! そうなのか!?」
「ウ、ウン! 私は確かにラウラさんを一度はお止めしたのです」
「嘘付けやセシリア! お前今さっき万面の笑みで充実してたとかいったじゃねぇか!!」
ふざけんなよイギリス人!! 頭の無い熊とかスプラッター以外のなにものでもねぇだろうが!!
俺が怒鳴るとセシリアがうろたえて言い訳を開始する。
「し、仕方がなかったのです! 狐狩りとはイギリスの伝統文化なのですから!! 熊の一匹を狩ったとしてもそれは許容範囲内の筈です!!」
「狐と熊じゃ規模が違いすぎるだろ!? それじゃなくても論外だ!! 大体、お前ら朝から何しに行ってたのかと思ったら、狩なんてもんをして良いはずないだろうが!!」
「うぅ…。すいません」
シュンとセシリアが小さくなる。そして、一夏がラウラを諭し始めた。
「ラウラ、気持ちだけ貰っておくよ。係員の人に事情を話して許してもらおうぜ?」
「しかしだな、せっかく狩ってきたのだ。せめて少しくらいは肉を切り落としても文句を言われないと思うが?」
たく、めんどくせぇな。ボーデヴィッヒ、お前も少しは反省しろ。
一夏の意見に食い下がろうとするボーデヴィッヒに俺は止めを刺すことにした。
「ボーデヴィッヒ、織斑先生に捨てられるぞ?」
「!? いや、待て、私はそんなつもりでは!! 違うんだ、説明をさせてくれ!!」
すげえな、効果覿面《こうかてきめん》だよ。
ボーデヴィッヒがものすごい勢いでおろおろしだす。というか、なんか泣き出しそうな顔になっていた。
「はいはい、だったら一夏のいうことを聞けよ。そしたら大丈夫だ」
「わかった!!」
俺の一言で必死の形相をしていたボーデヴィッヒが一夏の方を向く。織斑姉が行きの電車の中で言っていたことではないが…。
この日、確かに溜息をつく出来事が発生した。