ln   作:kiarina

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「今日はお前らとかよ…。たく、狩りなんてやってから変な罰則をくらうんだよ」

「うぅ…。反省いたします」

「まさか、動物を狩ることが禁止されるとは思わなかったのだ…」

 

セシリアとラウラが狩りなんてもんをやらかしたせいで、今日は二人揃って俺と一緒に休憩施設でお留守番をくらっている。昨日、騒ぎのせいで織斑姉と山田先生は係員に謝罪のお辞儀を繰り返していた。

そして酒乱のときより酷い内容なために、二人は織斑姉から猛烈な説教をされのたのだった。

説教をしていた織斑姉は当時が二日酔いなこともあって完全に疲れ果てている。なので、今は姉さんの部屋で寝こんでいた。

 

「あれだな。これはIS学園に留学は良いが、そこ以外で生活しないのが問題だな。俺も最初に日本に来たときは靴のまま実家の玄関をあがったよ。いきなり姉さんに頭を叩かれたし、他にも色々やらかしたけどな。まあ、そんな二の轍《てつ》を踏まないために二人は個人での校外学習でもしてみたら?」

 

ただでさえセシリアは貴族出身の身分が高い人間だし、ラウラに至っては職業まで既に決定している純粋培養の軍人だ。これで世間に疎くない方がおかしいのかもしれない。そう思っていると、ふとセシリアが何かを思いついたように嬉しそうな顔をした。

 

「喜久さん、でしたら私に一般的な教養を教えて下さいな。勿論、マンツーマンでご指導して下さいましねっ♪」

「言うと思ったよ、セシリア。悪いけど俺以外を当たってくれよ、親しい仲だと甘えが出るだろ?」

 

俺は肩を竦めながら適当な理由をつけてセシリアの誘いから逃げに専念する。が、そんなことで彼女がめげる筈もなかった。

 

「ですが、この前のお買い物でご馳走の御持て成しをさせて頂く約束も致しました。でしたら、それも兼ねましてお付き合い下さいな」

 

セシリアに言われて思い出してみれば、更識を追い込んだ時にそんな約束もしたような気がする。正直、面倒臭いしシャルロットが恐いので惚けた方が無難だなと思った。

 

「あれ、そうだっけ?」

「ティアーニさん、時刻は覚えていまして?」

【12月17日の午後5時44分、32秒19ね。ここからセシリアが食事を誘い始めたわ】

 

もういやだ、なんだよこの犬の首輪代わりみたいな時計は…。

ティアーニが余りに細かい時間を言ってくれたために言い逃れが出来なくなる。俺は、今日一日だけで良いから毒舌アナログ時計を雪の中に埋めてやろうか考えた。

そして、目の前ではフフンと勝ち誇ったような笑顔のセシリアがいる。

 

「喜久さん、付き合って下さいますわね?」

「わーったよ、わかりました。はぁ…、一日だけだからな」

「はいっ♪」

 

俺はぐったりとしてその場で上半身をテーブルの上に乗せた。

そして俺とセシリアのやり取りを見ていたボーデヴィッヒにアドバイスをする。

 

「ボーデヴィッヒ、こんな具合でセシリアみたいに一夏を誘ってみれば? あいつは人が困ってる部分には過敏に反応するからな、凰と篠ノ之に見つからなければ上手く誘い出せるんじゃないのか?」

「そういう手もあるか、今度やってみるとしよう。これなら、ラブホテルにもいけるかもしれんしな」

 

…は?

俺の目が点になり、横で上品そうに食べ物を摘んでいたセシリアが喉を詰まらせ咳こみ始めた。

むせ返る彼女の背中を慌てて擦る。

 

「おい、ボーデヴィッヒ…。お前は軍も学園も辞めたいのか?」

「どういう意味だ?」

「お前の口から出た場所はどんなところか知ってるのか?」

「私は副官からは愛を確かめ合う儀式のような場所だと聞いたが。なんだ、違うのか?」

 

なんだよその中途半端な答えは…。

ボーデヴィッヒが小首を傾げながら俺に疑問で返してきた。

前々から思ってたが、どうやらボーデヴィッヒの同僚らしき人間がおかしな知識を吹き込んでいるのが俺の中で発覚した。

しょうがないので本当のことを教える。

 

「ボーデヴィッヒ、ラブホテルはセックスする場所だ」

「なに!?」

 

ボーデヴィッヒが衝撃を受けた顔になった。

次いで顔が真っ赤になり、彼女は何故かそのままもじもじとし始める。その様子から察するに満更でもないのかもしれないことが理解できた。

そしてなにやら呟き始める。

 

「私が、一夏と…一夏と…一夏と…」

 

駄目だ、ボーデヴィッヒがこの前みたいに壊れやがったよ。

自分の世界に入ったのか、奴の口がだらしなく嬉しそうに垂れ下がっている。この分だと近いうち、俺は一夏がボーデヴィッヒにラブホテルへ連行されるかもしれないと思った。

 

「なあ、どうするよセシリア。ボーデヴィッヒが――

「あん、いけませんわ喜久さん。私たちは学生同士なのです、そんなことが許される筈がありません。しかし、いえ、ですが、強引で情熱的なのもまた!?」

 

なに独りでに悶えてんだよ…。

 

「セシリア、お前も現実に戻って来い…」

 

なんか変なスイッチが入ったらしきセシリアが、勝手に妄想のという名のレールをひた走っている。どうしようもない二人の状態に俺は呆れた。

 

 

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雪山の頂上の方ではスキー大会が開かれており、そこには大勢の参加者がスタートを心待ちにしている。

 

『それでは、ペアスキー競争大会を只今より開催したいと思います!!』

 

係員の男性が拡声器を使って参加者等に呼びかけを行う。その中で楯無と組んだシャルロットが始まりの合図を待っている。他のメンバーは誰と一夏が組むかで散々に揉めたのだが、箒と鈴、一夏と簪のペアが出来上がった。

決定打は一夏の一言だった。

 

「タッグマッチの時は簪と組んでたからな。俺は簪とで良いよ」

 

鈴と箒は心が荒れ、今は一夏が目の敵にされ始めている。一夏の言い草ではシャルロットがフリーであれば、きっと彼女とも組んでいた可能性があるのが解った。

そんな考えが脳裏に過ぎると余計に腹が立つ。

 

「一夏ぁあ! 絶対にあんただけは邪魔するからね、覚えときなさいよ!!」

「一夏! 簡単にはゴールさせんからな!!」

 

(…こ、恐い)

 

二人に怒鳴り声に簪が一夏の背後で怯えた。

そんな簪の肩に手を置いて、一夏は彼女に笑顔を向ける。

 

「あいつらはなんで怒ってだんよ…。簪、俺たちは精一杯ベストを尽くそうな!」

「……一夏…少しは考えて…」

 

鈴や箒の気持ちも考えてあげて欲しい、簪は一夏にお願いをした。

 

「そうだな、やるなら作戦をしっかり立ててこうぜ!」

 

そして女心を理解してくれない一夏に対して溜息をつく。きっと、この人は誰に対してもこうなのだろうと。確かにこれでは鈴や箒が怒るのも無理は無いのかもしれない。

 

(…でも…今は……一夏と一緒…ならそれだけで良い)

 

しかし、簪は一夏が自分のことを選んでくれたことは正直に嬉しくて仕方がなかった。

そんな一夏たちの一連のやり取りを見ていたシャルロットは呆れて、楯無は楽しそうに様子を窺っている。

 

「よっちゃんとは違った意味で女の子の敵になるタイプよね、一夏くんて」

「それは否定できませんね、一夏は早く他の人の気持ちに気づいてあげれば良いのに…」

「でも、シャルロットちゃんはそんな一夏くんに惹かれた部分もあったんでしょ?」

「ええ、一夏は思いやりのある優しい人ですから。喜久も根っこの部分はそうなんですが、あの性格のせいで帳消しになってますね」

 

シャルロットが喜久のことを思い浮かべる。色んな顔が思い浮かぶが、楽しそうに悪戯している彼の顔が一番しっくりと来た。

楯無はそんなシャルロットの背中に手を添えて優しく笑う。

 

「よっちゃんは短気なところがあるけど、思いやりのある素直な子よ」

「先輩、狙うなら一夏のほうでお願いしますよ。喜久はあげませんからね」

「あらん、どうしようかしらっ♪」

 

そんなやり取りが行なわれている中で係員が説明を行なっていく。

 

『スタートの合図を出しますので、その後はゴール地点まで雪山のコースを下って行くだけの競技になります。しかし、ペアの組が必ず二人一緒にゴールしなければなりませんので、ご注意ください。なお、この競技ではペアの方々に蛍光色の粉末が詰った布袋を一つだけ支給させて頂いております。それを投げて他の方に当たった場合は、当てられた方が失格になりますのでよろしくお願いします。投げて良いのは始まってからコースの道を少し下りまして赤いラインを越えてからですので、お間違えの無いよう宜しくお願いします』

 

布袋が当たっても痛くはなさそうだが、競技が危険になるのではと言った声が参加者から聞こえ始める。そんな中で今のアナウンスを聞いて、とても嬉しそうにする二人組みがいた。

 

「箒、スタートダッシュよ。いきなり仕掛けて、あのバカ一夏を即座にリタイアさせてやるわ」

「そうだな、一夏の奴にはお灸を据えてやる必要がある」

 

箒と鈴が苛立ちの怨念を一つの蛍光色粉末が入っている布袋に込めだす。その殺気までは気づけないが、なんとなく寒気を感じた一夏が少し顔を青くしだした。

 

「なんだ? 急に冷えてきた気がするぞ、天気はいいはずなのにな…」

「…一夏。…風邪…引いた?」

「いや、気のせいだろ。それにしてもみんな上達が早いよな、たった一日の練習だけでプロみたいな動きになるし」

 

一夏が昨日のことを思い出ていく。楯無の教え方も上手だったのだが、元々超の付くエリートの養成学校のようなIS学園で、更に上から数えた方が早い人間が一夏の周りには集まっている。よって、一夏たちは僅か一日足らずで普通の一般人よりも滑れるようになっていた。

しかし、やはり群を抜いて上手なのは教える側に徹していた楯無だ。彼女は最後の方では手本としてストックを使用せずに滑っている。それを見た一夏は改めて楯無の万能さに驚いていた。

係員の一人がスタートのカウントダウンを始める。

 

『それでは開始します。5、4、3、2、1、スタート!!』

 

大きな声が響き渡り、参加者が一斉にスタートする。一夏と簪も勢い良く雪の上を滑り出した。

 

『おおっと、これは速い!? いきなりトップに躍り出たのは女性のペアのようです!!』

 

解説を行っている係員から驚きの声が上がる。まるでオリンピック候補のような滑り出しで鈴と箒が一気にトップへと踊りでた。

 

「良いわね箒、赤いラインを越えたらターンして仕掛けるわよ!?」

「ああ、だが良いのか? ダミーで作った雪球に粉末をかけてフェイクにするのは納得がいくが、雪の中に石を詰めるというのは些かやり過ぎではないか?」

「大丈夫よ! 狙うのは一夏だけだもの、あいつに当たる分には問題ないわ!?」

 

(いや、やはりやりすぎだろう…)

 

箒は鈴の暴走を止めるべきだろうと思ったが、ペアを組むときの恨みもある。そして、怒り狂っている鈴を止めるのも疲れそうなので、結局は放置を決め込むことにした。

そんなことを知らない一夏は簪と共に中間順位の辺りで滑り降りていく。

 

「やっぱり箒と鈴は上手いな! よし、俺たちも後に続こうぜ!?」

「…うん!」

 

無邪気に喜ぶ一夏に呼びかけられた簪が蛍光色の布袋を握りながら嬉しそうに答えた。

そして赤いラインが見えた辺りで、いきなり何かが一夏の顔面スレスレを通り過ぎていく。

 

ブッ!

 

「うおっ!?」

「一夏ぁあ!? あんた避けないで当たんなさいよね!!」

 

一夏の前方で赤いラインを越えた鈴と箒が先手必勝とばかりに何かを投げ込んでくる。

 

「アホか! そんなん無理に決ってるだろ!?」

 

一夏と簪の前方で箒と鈴が投球フォームを取り始める。彼から見て、スキー板の重みを全く感じさせない足の上げ方と共に、彼女たちがどちらの手にも何かを握り込んでいるのが確認できた。

他の参加者たちは恐い顔をした鈴と箒の報復を恐れて皆が素通りを決め込んでいる。

 

(おい、さっき俺に向かって投げたのは一体なんなんだ…?)

 

布の袋は一つだけ、それなのに投げる構えをとる二人に一夏の頭が混乱していく。鈴がさっき投げたのは、もちろんフェイクで作られた石入りの雪球だった。

 

「くらいなさいよね!!」

「一夏、覚悟!!」

 

鈴と箒から同時に二発分の雪球がカタパルトから射出されたように飛んでくる。一夏は持ち前の運動能力を発揮して、それをギリギリで回避しながら自身に投げ込まれたものが何なのかを視認した。

 

「おい! 雪球なんて、なに考えてんだよ!?」

「うっさい! 全部あんたが悪いのよ!!」

「男なら潔く当たって砕けろ!!」

 

二人揃って言っている内容が無茶苦茶なために一夏が顔を青くする。

 

「くそ、簪! 一気に降りながら二人の間を突破するぞ!!」

「わかった!」

 

彼は簪に呼びかけを行い、そのままスピードをかけながら二人揃って急加速をかけ始める。一夏たちの滑り降りてくるスピードが上がったのを確認していた箒と鈴が、そこでにやりと笑った。

 

(焦ったわね一夏! 本命はこっちよ!!)

(よし、このまま至近距離で当ててやる!!)

 

ぐっと蛍光色の粉末が入った布袋を箒が力強く握りこむ。一夏は簪と共にできるだけ雪道のコース端を抜けきろうとする。

 

「これで終わりよ!!」

 

鈴がピッチャー顔負けのようなフォームで一夏にめがけ雪球を投球した。

 

「二人揃って大会の趣旨が変わってるぞ!?」

「甘いぞ一夏! 私を忘れてもらっては困る!!」

 

鈴が投げたフェイクの雪球を一夏がギリギリでかわす。が、その瞬間を狙っていた箒は本物の蛍光粉末が入った布袋を一夏に投げ込でんだ。

 

「させない!」

「なに!?」

 

そして間髪いれずに簪が自分の持っていた布袋を箒が投げた布袋に投げて命中させた。

箒が驚きの声をあげ、それを見た一夏が思わず感動している。

 

「ありがとな簪! 助かった!!」

「……早く、ゴールへ」

「そうだな! これ―――

 

バスッ

 

「はいアウト~。お疲れ様ね、一夏くんっ♪」

「一夏、ごめんね~」

 

まるで機会を窺ってたかのように楯無が放った布袋が一夏に命中した。

一夏のスキーウェアの一部が蛍光色で塗れる。楯無が愉快に、シャルロットが申し訳なさそうに一夏の横を素通りしていく。

 

「楯無しさん、酷いですよ…」

「お姉ちゃん…」

 

そんな二人組みを呆然とした姿で一夏と簪が見送る。楯無が漁夫の利を掻っ攫っていく姿を見ていた鈴が吼えた。

 

「く、一夏は倒したけれど全く釈然としない!!」

「実にあの人らしいやり方だな…。どおりでゆっくりと滑ってきたわけだ、納得がいった」

「なに言ってんのよ! これで一位を取られようものなら、あたしが納得いかないわよ!!」

「そうだな、行くか!」

 

二人は再び滑り出し、既に何組もの蛍光の粉末が衣類に付着している参加者がいるのが確認できる。鈴と箒より前に出ていた楯無とシャルロットは、前方を見据えながら一気に加速をかけて滑り降り始めた。

 

「シャルロットちゃん、近道を使うわよ?」

「はい!」

 

まるで息の合った二人が平気で高低差のある場所をジャンプする。膝を使い極限まで衝撃を殺して着地すると、ジグザグに曲りくねる雪道を串刺しにするような形で同じように越えていく。人間離れした動きをし始めた楯無とシャルロットに対して、一緒に大会参加していた人々があんぐりと口を開けた。

 

『えぇ、ショートカット!? 確かにルール違反ではありませんが!! ねぇ、これってやって良いの?』

 

解説をしていた係員が戸惑い素の言葉を話し始めて、他の係員に大丈夫かの確認をしている声が聞こえた。

そしてもう一組、後追いするペアが同じようにショートカットをし始める。

 

「箒、形振《なりふ》りかまってらんないわ! 必ず追いついてやるんだから!?」

「なんだろうな、もう普通のレースではなくなっている気がするのだが…」

「そんなん関係ないわよ!! 良いから一位でゴールするのよ!?」

「ああ…」

 

箒は鈴に対してどうでもいい返事をした。

 

(なんかもう、これは違うな…。ゴールしても一位と認めてもらえない気がする)

 

そして、ゴールを目指していた一番早い組が楯無とシャルロットのペアを邪魔し始める。布袋が投げられた瞬間、楯無がシャルロットの肩を掴んでバランスを取りながら思い切り片足を振り上げた。

 

「私を敵に回すにはちょーっと、早すぎるわね!」

 

スキー板の先端が布袋を綺麗にキャッチすると、今度は体全体を捻ってそのまま投げた相手に向って投げ返す。相手はまさかと言った感じで布袋に当たってしまったが、それよりも雪上の下り坂で中国雑技団のような動きをした楯無しの運動能力に衝撃を受けていた。

 

「追いついたわよ!」

「抜かせてもらう!」

 

そして猛烈な勢いで鈴と箒が追いついて来る。二人の恐い顔にシャルロットが内心で少し引いた。

楯無はそれを嬉しそうに見ている。が、滑っている途中でスピードを落として突然二人に道を譲り始めた。

 

「おねーさんは、二人の熱意に負けたわ。先に行って頂戴」

「なに、勝ちを譲ってくれるっての?」

「ありがとうございます」

「良いのよん、可愛い後輩のためだものねっ♪」

 

そんなやり取りをしている楯無の行動をシャルロットはジト目で横から見ていた。

まるで、行動パターンが喜久と酷似していると思いながら。しかし鈴と箒は目の前のゴールに喜びを見出し始めている。

 

「よーっし! 一位よ!!」

「これで終わりだな!!」

 

(これで一夏とデートが出来る!?)

(勝ちを譲ってくれるなんて、なんて心の優しい人なのだ。よし、獲得したチケットは絶対に無駄にはしないぞ!!)

 

バスッ

 

ゴール直前、何かが箒の背中に当たる音がした。

 

「え?」

「ごめんね、箒」

 

シャルロットがものすごい申し訳なさそうな顔で謝罪している。見れば、楯無が愉快な顔をしていた。

箒が自分の背中を見てみれば、確かに蛍光色の粉末で衣類が汚れているのを確認できる。

 

「ごめんね箒ちゃん、私のペアのシャルロットちゃんも可愛い後輩には変わりないの」

「布の袋を他の参加者の人にもう一つだけ譲ってもらってたんだ。ズルじゃないけど、やっぱり怒るよね?」

 

会話したままゴールに到着する。すると、呆気に取られていた鈴が怒り始めた。

 

「なにそれ!? インチキじゃない! しかも騙まし討ちなんて卑怯よ!!」

「あらぁ、確かに道を譲ったわよっ♪ それに布袋を投げたのはおねーさんじゃないのだから、これは不意打ちにはならないと思うけど?」

 

箒は溜息をついて視線を上に向ける。

 

「く、確かにこの人はこういう人だった…」

「なに言ってんよ!! ペアの人間が投げたんだから充分卑怯よ!!」

「鈴ちゃん、おねーさんはシャルロットちゃんが布袋をもう一つ持っていたなんて知らなかったのよ。知っていたらきっと教えてたと思うわ、私も卑怯なことは好きではないのよ」

 

楯無が鈴に実に爽やかな笑顔を向けた。

 

「そんなん、信じれるわけないでしょ!!」

「嘘じゃないわ、それに証拠もないでしょう?」

 

鈴がなにを言っても楯無にうやむやにされる。この後、鈴は納得が行かず抗議を一時間ほど続けたが、楯無に全てのらりくらりと隙のない言葉を返されて言い負けてしまった。

結局、鈴は心の中で次からは絶対に楯無の言葉に賛同してはならないと決めた。

 

 

_\|/_

 

 

「うう…。なんで、途中までは上手くいっていたはずなのに…」

「気を落とさずに、きっと良いことがありますわ。だから元気になられて下さいな」

 

施設の休憩所では山田先生が俺の対面で座っていた。

俺の目の前で山田先生が暗雲を背にしたように落ち込み、それをセシリアが宥めていた。

どうも、容姿が良いので声をかけられナンパはされる。されるらしいのだが、山田先生はどうも他の部分で男に逃げられているのが理解できた。

 

「会って、話して会話が弾むんです。グループに誘われたりして皆で楽しくしていたんですが…」

「ですが?」

「職業がIS学園の教師だと言った瞬間、皆さんが私の前から逃げていきました」

「なんで真っ正直にそれを言っちゃうんすか…」

 

女尊男卑の決定打であるISは、世の中の男性に嫌われている節がある場合がある。それは男が力を誇示できずプライドと自信を持ちにくい社会を構築したからだ。そんなISに携わる仕事で、しかもそのど真ん中の中心で働いてます、エリート女性の育成をしてますなんて言えば結果が目に見えていた。

男からしてみれば山田先生が幾ら可愛かろうが、中身はガチガチの女性優位主義者に見えてしまうに違いない。

 

「職業なんて、フリーターとか適当に誤魔化しときゃ良いじゃないすか。付き合ってから就職先がIS学園に決まったとでも言えば良いのに」

「そんな人を騙すようなことは出来ません…」

「頭が固いですね、そんなんじゃ本当に彼氏なんて作れやしませんよ?」

 

山田先生がいじけて半分涙目になりながら俺に文句を言ってきた。

 

「彼女のいない市隈君に言われても説得力に欠けます」

「いや、俺は中学時代は付き合ってた彼女がいましたから」

「えぇ!?」

 

俺の発言を聞いた瞬間、予想外の答えに山田先生が衝撃を受けていた。

ガタッとけたたましい音をたてながらセシリアが立ち上がる。

 

「それはどういうことですの!?」

「付き合ったって言っても半年くらいだよ。どっちも興味本位だったしな、最後は自然消滅したけど」

「何故その方とはお付き合いできて、私とでは駄目のですか!?」

 

軽率すぎたか、こりゃ失敗したな…。しょうがない、正直に話すか。

俺はセシリアを宥めるために自分の本音を話すことにした。

 

「前はそういう気持ちがあったんだけどな、今は無くなっちまったんだよ。当時はな、俺は何も常識なんてなかったんだ。相手の気持ちを解ってやれるだけの力もないし、今より数倍無責任だったと思うよ」

 

本当は恋愛を半年して自身の寿命のことを考え始めた。

それから、俺は異性と恋愛感情で繋がることに拒否感を示し始めたと思う。だから自分から告白したくせに付き合った相手を振ったのだ。最後は相手に泣かれるし殴られるし、もう散々だった記憶だけが残っている。

セシリアは頬を膨らまして俺のことを睨む。

 

「臆病者」

「だよね、俺もそう思うよ」

「半端者」

「言い訳はしないよ」

「甲斐性無し、はぁ…。他の部分は躊躇しませんのに、どうしてもその部分だけは別なのですわね」

 

彼女は最後に視線を下に向けて溜息を付いた。

セシリアが俺のことをこのまま諦めてくれれば良いのになと正直に思う。

 

「俺は凡夫なんで、そんなに人間が出来てる訳じゃないんだよ」

「喜久さん、私は諦めませんわ。その臆病な部分も必ず変えてみせますから」

「ああ、ありがとさんなセシリア」

 

セシリアが優しい笑顔になり、俺は心の中で彼女が幸せになってくれることを願う。シャルロットと指きりした時にことを思い出すと、女性の方が男性よりよっぽど度胸があるのかもしれないと思った。

そして、俺のことを思いやってくれる人間がいる。それだけで幸せを感じられる俺自身は幸せ者なのだと自覚できた。

セシリアとのやり取りを見ていた山田先生が感心したような声をだす。

 

「はえ~、市隈君は意外と繊細だったんですね」

「どういう意味っすか? そういう山田先生は小動物みたいですよね」

「え…、どういうことですか?」

 

失礼なことを言ってくれた山田先生に俺は攻撃を開始した。

 

「織斑先生にいつもちょっかい出して怯えるプレーリードッグみたいです。やんなきゃ良いものを阿呆の一つ覚えみたいにやっちゃって。学習能力がないんすか?」

「酷いです、そこまで言わなくても…」

「それに頭が固くて彼氏作れないわで、女性の魅力も全くないんでしょうね。二日酔いになるくらい飲んで、だらしない格好しながらて帰ってくる辺りは先がしれてますよ。こんなんじゃ嫁のもらいて――

 

プッ何かが切れた音が聞こえた気がした。

俺はこの時、言いすぎには本当に注意しなければならないということを学習したのかもしれない。

 

「…うぅ」

 

俺の目の前で山田先生が唸り始める。

 

「う?」

「うがぁーーーー!!!! 私が市隈君にそこまで言われる筋合いはありません!!! 大体、年下の癖にどれだけ上から目線なんですか!!! 暴力は平気で行使する、遅刻しても悪びれない、平気で嘘をつく!!! いい加減にしなさい!!!」

 

まずい! 山田先生がキレた!?

山田先生に思い切り胸倉を掴まれる。そして力任せに思い切り持ち上げられた。

 

「ちょ、俺は病人!? セシリア、ボーデヴィッヒ、山田先生を――

 

止めてくれとお願いしようとしたら、奴らは既にこの場の状況を放棄して出口へ向かって歩き出していた。

そして、俺だけがこの場で山田先生と対峙している状態になっている。

 

「あいつら見捨てやがったな!?」

 

グキッ

 

「痛ぇ!!」

 

顎部分を捕まれて顔の角度を無理矢理に変えられる。目の前には怒れる山田先生の顔があった。

 

「市隈君!!! まだ私の話は終わってませんよ!!! ちゃんと人の話は聞きなさい!!! 大体、貴方は素行態度が問題だらけなんです!!! 一度、加代さんにきっちりと再教育を施してもらう必要がありますね!!!」

「なんでだよ! 姉さんは関係ないだろ!?」

 

辞めてくれ、あの容赦ない姉にそんなことをされた日には俺が潰れてしまう。

 

「関係ないわけないでしょう、家庭が全ての基本です!!! それでなくても私が市隈君のせいで、どれだけストレスを溜め込むはめになっているのか解ってるんですか!!! いつもいつも余計な仕事ばかりが貴方のせいで増えていくんです!!! これで白髪が増えたらどう責任とってくれるんですか!!! 大体、専用機持ちの子達はいつも恋愛ばかりにかまけていて、どうしようもありません!!! 私が学生だった頃は皆がもっと真面目に勉学へ勤しんでいたというに、まったく今の子は弛みきっているんです!!!」

 

おいおい、なんかだんだんと俺以外の愚痴が出始めてないか…。

この五分後、俺は普段の鬱憤を溜め込みすぎている山田先生の愚痴を永遠と二時間ほど聞かされる羽目になった。

途中で逃げ出そうとしたが首根っこを引っつかまれると、山田先生の鋭い眼光が二倍増しになった。

 

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