[NumberingTitle_帰リノ1コマ_新年ハ爆発]
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「ふぅあ、もうそろそろ昼か」
右手にはめてあるアナログ時計を見ると既に昼を回っていた。
目覚めると停車していた帰りの新幹線が発車していたことに気づく。出発までの時間までと思っていたが、案外と疲れて寝ていたらしい。
「うぅ、なんで起こしてくれなかったのよ…」
「今まで生きてきて、一度たりとも寝坊なぞしたことがなかったのに…」
篠ノ之ってすげぇな、一度も寝坊したこと無いってどんだけ真面目人間なんだよ…。
そして、俺の目の前で対面席に座っていた凰と篠ノ之がいる。彼女らは座席に座りながら頭を抱え込んでいた。
今の電車内で俺を含めて三人以外の見知った人間の顔はない。なぜなら、それは凰と篠ノ之が朝のホテルで起きてこれなかったせいで新幹線に乗り遅れたからだ。結局、帰宅経路がよく解っている俺が一人で残って阿呆どもの面倒を見る羽目になった。
「帰りの電車で更識を負かしたいからって、トランプゲームなんぞを徹夜で朝の四時まで二人して練習してるからだ。まったく、小学生じゃないんだから勘弁してくれよ」
「しょうがないじゃない、やり返すためには練習が必要なのよ…」
「最下位をどうしても抜け出したかったのだ…」
だからって、夜遅くまでひたすらやることないだろうに…。
どうも理由を聞いていると二人揃って筋金入りの負けず嫌いみたいだ。おまけに優等生だからISの訓練同様で、馬鹿の一つ覚えみたいにひたすら繰り返し練習をしていたに違いない。
「それにしても、起きる時間を間違えるのはいいけどな。挙句の果てに用意がどうのこうのとか言い出すから、さらに帰るのが遅くなんだよ」
「仕方ないだろう! 身だしなみを整えることは大事なことだ!?」
「爆発した頭で人前に出れるわけないでしょ!? これだから男子は!!」
そっくりそのまま返してやる、お前ら女は時間が掛かり過ぎだ。
帰りの新幹線のチケットを予約した時間に間に合わず、他の連中には先に帰ってもらっている。俺が残ると知ってセシリアとシャルロットがごねたが、そこは織斑姉が睨みを効かせてことなきを得ていた。
「大体さ、今頃はきっとボーデヴィッヒか簪が一夏の横を独占してるぞ? 裏目に出たな二人とも」
「ぐっ!! うっさいわね、どうせあたしはボケツを掘ったわよ!?」
「これなら、きちんと寝ておけばよかった…」
凰が俺に吼えて篠ノ之がさらに沈み込んでいる。俺は溜息を付くと、適当に二人へ話し掛けた。
「なぁ、そういえば凰と篠ノ之は一夏のどこが気に入ったわけ?」
「な!? ば、ばか! いきなりなに言い出してんのよ!!」
「そ、そ、そうだぞ!? なぜ、そんなことを聞く!?」
質問したのは俺であって一夏じゃないんだけどな、なんでそんなに慌ててんだよ…。
凰も篠ノ之も勢いよく慌てだす。まるで自分の大事にしている秘密が暴かれたかのように必死にしていた。
俺は軽く欠伸をして背伸びをする。その後、面白そうなので少し二人をからかって遊ぶことにした。
「そんなに好きならストレートに言えば良いじゃん、キスでもしてさ。二人とも見た目は良いんだし、早いもん勝ちになるんじゃないの?」
「う、うっさいわね! それができたら苦労なんてしないわよ!!」
「キ、キ、キス!? いきなりそんなこと出来るわけないだろう!!」
誰もいきなりしろなんて言ってないだろうよ、篠ノ乃…。
二人揃って顔を茹蛸のように真っ赤にしながら噛み付いてくる。簪とはまた違った面白さに、俺は思わず内心で笑ってしまう。
「なあに、カマトトぶってんだよ。そんなに純情を貫いてっと、ボーデヴィッヒに先を越されるぞ? あいつはなんでも正直なタイプだからな、二人より可能性があるんじゃないの? それに近いうち……まあこれは良いか、個人の問題だしな」
俺が、さもなにかあります的な口調で余韻を残す。当たり前だが、凰と篠ノ之の眉がピクリと反応する。そして眉間に皺が寄りだして恐い表情になりだした。
「ちょっとそれ、どういう意味よ?」
「なんだそれは、どういうことだ?」
「いんや、まあ二人は二人で頑張れば良いじゃん。早く既成事実の一つでも作っちまえば?」
やり過ぎなければ、これはこれで面白いな。
俺がニヤニヤしながら答えると、二人してものすごく嫌そうな顔になる。
「あ、あんたって! 本当にデリカシーの欠片もないわね!?」
「セシリアとシャルロットは、一体このろくでなしのどこに惹かれたのだ…」
俺のぶっちゃけた発言に凰が怒りだして篠ノ之は呆れていた。
「さあね、まあ良いじゃん。それにしても、そんなに二人揃って奥手なら俺が適当に言っといてやるけど?」
「ふざけんじゃないわよ!! アンタが一夏にあたしのことで一言でも変なこと伝えたら、ただじゃおかないからね!?」
「鈴に同意だ! 喜久、なにかしようものなら貴様のような天邪鬼は剣の錆びにしてやる!!」
そろそろ俺のほうが吹き出しそうだし限界だな。
実際には頭の中で腹が捩れそうなほど笑ってい転げている。というか、もはや笑いを耐えるのに必死になりだしていた。
まさか、俺は凰と篠ノ之が恋愛的な部分でここまでいじりやすいとは思ってなかった。
いやはや恋は盲目なのだろう、俺にいじられていることに全く気づいていない。これは、しばらくの間はストレス発散に持ってこいなのかもしれないと思った。
「まあまあ、そう怒るなよ。そうだな、一夏のことについて一つ教えてやるからそれで手討ちってのはどうだ?」
「それ本当でしょうね!?」
「教えてくれ!!」
ぐっと、いきなり二人揃って身を乗り出してきた。
まだなにも中身を話していないのに凰と篠ノ之が必死の表情で食いついてくる。俺は片手をひらひらとさせながらそれに答えた。
「一夏だけど、最近売り出し中のアイドルに熱を上げ始めてたぞ。俺は興味ないから知らないけどな、まあ見てくれのスタイルは良かったな」
もちろん真っ赤な嘘だけどな。
あの天然に限っては、そんなことがあるわけがない。が、俺の言葉に対して過剰反応する人間が二名ほど存在する。
「なんですって!? そんなの聞いてないわよ!!」
「なに!! 一夏が他の女子に恋心を抱いただと!?」
「さあ、そういうこともあるんじゃないの? まあ、帰ったら本人に聞いてみれば?」
まるで落雷でも受けたかのように凰と篠ノ之が衝撃を受けていた。
そして、二人が揃ってどす黒いなにかを纏い始める。
「フフ、フフフ、帰ったら絶対に縛り上げてやる。一夏、待ってなさいよ」
「これはきっちりと問いただす必要があるな。待っていろ一夏、必ず剣の稽古で死んだ方がマシだと思いたいほどの気持ちにさせてやる」
あー、これは今さら嘘だと言ったら俺が半殺しになりそうだな。
心の中で一夏に合掌し、俺は座席から静かに立ち上がるとトイレの方へと逃亡を開始した。
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喜久が鈴と箒を弄っていた頃、先に新幹線に乗って出発していた一夏たちは小声で話をしていた。
「一夏、それは本当なの?」
「喜久さん…」
「ああ、千冬姉が寝込んでたのを良いことに夜中にだけだけどな。喜久の奴、嬉しそうに一人で酒を飲んで煙草を吸ってたよ。俺が注意しても、『今日ぐらいは良いだろ?』とかいって人の話を聴かないしな。それにしてもあいつ、いつの間にどこであんなに色んなものを仕入れてきたんだろうな」
小声で一夏が話した内容に専用機持ちの連中が呆れている。楯無とボーデヴィッヒは許容範囲内だとばかりに落ち着いていた。その中で、普段の説教から全く反省の色を見せない喜久に対して二人ほどの人間が苛立ちを募らせ始めた。
「ねぇ、セシリア?」
「なんでしょう、シャルロットさん?」
シャルロットはセシリアに話しかける。
「喜久には一度、体内に溜まってる毒素というか、本人の悪い部分を搾り出す必要があると思わない?」
「そうですわね、でしたら学園内にあるタワーの天辺で一日吊るしてみてはいかがでしょう? きっと本人の口から二度と喫煙はしないという懺悔の叫びが聞けるかもしれません」
「他には浴びるほど新鮮な空気を吸わせてあげたら良いかな。喜久の時計を外した後に僕がISでジェットコースターをさせたら、きっと色んな悪いものが削げて行くと思うんだ」
(…喜久……死ぬかもしれない)
セシリアとシャルロットが物騒な話をし始め、それを横で聞いていた簪はぞっしたものを背筋に感じた。
今二人が言ったことは実行されないと思いたい。が、それに近い仕打ちはあるのかもしれないと考えるとかなりの恐怖感を持ってしまう。
そんな困惑した様子の彼女に姉である楯無が優しく肩を叩きながら声をかける。
「簪ちゃん、大丈夫よ」
「…え?」
「よっちゃんなら、それくらい平気で耐えれると思うわ。愛さえあれば乗り越えられないものなんてないのよ」
「……お姉ちゃん…それは…無茶だと思う」
まるで大丈夫に聞こえない回答に対して簪が最後の砦の方を向く。ラウラは彼女の視線に気づくが特に気にすることも無く適当に喋りだす。
「ん? 喜久は煮ても焼いても食えん奴だからな。その程度、私にすれば温い方だ。私だったら奴の頭上にリンゴを置いてからレールカノンで撃ち抜くくらいはする。一夏が何かしでかしたら、私は今言ったことを躊躇なく決行するだろうしな」
(なんだろう、喜久の立場より俺のほうが危なくないか…?)
ラウラの発言を聞いた一夏がその場で顔を青くした。
他の座席では二名ほどがゆったりと座席に座っている。千冬と真耶は適当な雑談を交わしていた。
「ふう、正直言って今回は散々な旅行だった。これだったら、まだ自宅でのんびりとしていた方が良かったな」
「織斑先生は殆ど加世さんの部屋で寝込んでましたからね。まあ、私も結果が出ませんでしたが…」
「真耶、今回は良い教訓になったんじゃないか? 市隈が言っていた頭の固さを少しはほぐしてみてはどうだ?」
「……それは考えさせて下さい。それじゃなくても、今回はとんだ醜態を晒してしまいました」
ふっと、真耶は昨日のことを思い出す。弾みとはいえ、喜久にキレてしまった自身がいたことに後悔感が残っている。
(でも、あれだけ言われれば誰だって怒るに決ってます!)
かといって、心の中では納得がいかない部分のほうが圧倒的に多かった。
その様子を見ていた千冬が笑いながら話しかける。
「生徒に同調しては教師としての視点は持てんぞ。今後は市隈を御しれるくらいの胆力をつけるのだな」
「そういう織斑先生はどうなんですか? 二日目では市隈くんに攻撃され続けてましたけど」
千冬が本気で嫌そうな顔をした。
その後、軽く溜息をついてから軽く笑う。
「…正直に言う。時々だが、私から見て市隈は妙に達観し過ぎていることがある。大人ぶっているわけではないだろうし、本人も気づいてはいないだろうがな。それでなくてもあの性格だ、変な方向に知恵が回る分だけ疲れる生徒でもあるのは間違いないな」
(生きてきた過去と先の終わりが見えているせいなのかもしれんな。本人の歩いている人生は壮絶すぎるし、私よりも遥かに濃い人生を送っている。それでなくても十歳児の思考力であの性格は出来すぎだ。これは加世さんが努力してきた結果なのだろうな)
一日目に飲みに行った際に千冬は加世と話し込んでいた。
真耶には解らないように喜久の昔話を聞いたが、彼は随分と常識外れな行動を起こしていたことを千冬は加世から教えられる。加世が喜久を引き取った時に中学生程度の勉強は出来たが、日常生活は出鱈目なことばかりをしていた。
喋り方の一人称は僕で、中学最初の登校初日には生徒を一人、二階のベランダから一階へと突き落としていたのだ。その後で直ぐに加世が学校側から呼び出しをくらう。改めて理由を聞けば、苛めてきた相手に対して頬を殴られた後に持っていた鉛筆で苛めた相手の腕を躊躇せずに突く。さらにそのまま、すかさず蹲る相手の顔面へ蹴りを入れた。
そして、最後には襟首を持ったまま引きずって二階からとなった。
その場にいた他の人間には開いた鋏を見せた後に自身の腕を傷つけてみせる。そして、血が垂れる腕を見せながら笑って彼らに警告をしたのだという。
『殴って来いよ、次はこれを君たちの首でやる。いつどこにいても、必ず切り裂いてやる』
次の日から学校の中で彼は一瞬にして孤立した。
余りにも思考が危険すぎて、声をかけるものなど皆無だったのだ。そんな彼へ声をかけたのは苛めた生徒たちより日常が破綻していた不良グループの連中だった。
喜久は面白半分に彼らと意気投合し、そして善悪の判断がつかないまま不法行為に手を染め続けていく。加世はそんな彼を全力で矯正してきたことを千冬に語った。
加世は喜久のことを随分とマシになったという。千冬は彼女の話を聞いていて確かにそうなのかもしれないと思った。
彼女にも一夏という大切な弟がいる。もし喜久のような弟だったらと思うと、女で一つで育てるにしては少し自信が揺らいだかもしれないと感じた。
「織斑先生、どうされました?」
麻耶が不思議そうに声をかけてくる。
「…いやな、少し考え事をしていた。山田先生、帰ったら溜まった仕事が待っているぞ?」
「そうですね、はぁ。次こそは良い出会いがあるといいんですが…」
「そうだな」
溜息をつく真耶の肩に千冬が軽く手を置いた。
箒と一夏
簪、ラウラ、鈴が探し回るが見つからず。(喜久気を使って誤魔化す)
喜久は
篠ノ之神社の釣鐘が落ちる。
吃驚した簪がISを展開してミサイルを鳥居に撃ちこんで破壊する。
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篠ノ之 箒は今の自身がおかれている現状に嘆いていた。
「……」
「どうしたんだよ、箒?」
(一夏、どういうことだ!! なぜここにお前以外の連中を連れてきた!?)
目の前には一夏たち、いつものメンバーがいる。しかし、場所はIS学園ではない。しかも彼女は彼らと違う立場として同じ場所にいた。
「ほう、巫女装束というは中々独創的なデザインの服装なのだな。我がドイツでは見たことがない」
「日本の民族衣装って色合いがシンプルだよね。朱と白のコントラストが綺麗だな~」
「イギリスの自宅にも古伊万里が何点かありますが、この国は赤い色を使うのが本当にお上手なのですね」
ラウラとシャルロット、セシリアの海外勢が感心したように箒の方をジロジロと見る。箒はその視線に耐えられず顔を真っ赤にしてしまう。
(く、案外と似合ってんじゃない…)
(……背筋が伸びてて…格好良い。…羨ましいな)
そして鈴と簪は巫女装束を着ている雅な姿をした箒に嫉妬心を抱く。悔しがる二人は自分も何かしなければと心の中で画策をし始めた。
「馬子にも衣装だな。ボーデヴィッヒの着物もそうだけど、やっぱり女子は化粧と一緒で衣類でも化けるんだな」
「なんだと!?」
「売店で商売中だろ、店員はスマイルが第一なんじゃないの?」
「ぐっ! 喜久、貴様…」
最後にもう一人、一言以上に余計なことをいう喜久に箒は怒りをあらわにした。
彼らが居るのは篠ノ之神社で深夜の十一時くらいを回っている。現在、箒はこの場所で臨時の手伝いを行なっていた。
「あら箒ちゃん、お友達?」
「え!? あ、はい。そうです…」
突然後ろから彼女の叔母にあたる雪子が声をかける。いきなり声をかけられた箒は吃驚した声を上げた。
雪子が楽しそうにしてそのまま一夏たちへと喋りだす。
「箒ちゃんがいつもお世話になってます。もう交代の時間だから少しだけ待っててね」
「ええ、わかりました。ありがとうございます」
「お、おばさん!?」
一夏が笑顔で御礼を言って、箒がそんな予定など組まれていなかったことに思わず声をあげる。が、雪子はにこにこ笑いながら彼女の肩を叩いた。
そして、箒に耳元に顔を近づけると小声で囁く。
「前も遊びに来てくれた子ね、頑張りなさい。叔母さん応援てるわよ」
「!!」
箒の心臓がバクンと跳ね上がる。顔が赤を通り越して、さらに真っ赤に染まりあがると恥ずかしそうに俯きながら声を絞り出した。
「……わかりました。用意をしてきます」
そんな彼女の様子を見ていた喜久が軽く溜息を付きながら鈴に声をかける。
「なあ凰、さっき見つけた出店で射的があったんだけど勝負しないか?」
「イヤよ、なんでアンタとそんなことしなきゃいけないのよ?」
彼女は当たり前のように彼の申し出を拒否した。
が、喜久はその上でさらに挑発を吹っかけていく。
「あらいやだ、この人ったら射撃が下手だからって逃げ出すんだ? だからISでも俺より弱いんだな」
「ぬぁんですって!? 良いじゃない、やってやるわよ!!!」
射的はどうでも良いが、ISが絡めば話は別となる。しかも彼の口調から発せられる微妙なオカマ言葉がさらに鈴を苛立たせていく。彼女は一夏と一緒に居られるという焦点が完全にずれて怒りの矛先を喜久に向けた。
そんな彼の誘導手腕を見ていたセシリアとシャルロットは相変わらずだなと呆れてしまう。
「決定だな、簪とボーデヴィッヒもやらないか?」
「うむ、面白そうだ。参加しよう」
銃というカテゴリーにラウラが興味を持つ。しかし一人だけ乗り気にならない人間がいた。
喜久はそんな本人の耳元で小さく囁く。
「簪、一夏に良いところを見せるチャンスだぞ?」
「わかった」
今までやる気のなかった簪が意気込んで彼にコクリと頷く。そして喜久は一段落だなと踏んで一夏に声をかけた。
「一夏、俺たちは先に射的をやってっから。篠ノ之とあんまり遅れないで来いよ」
「ああ、わかった。俺たちのことは気にしないで楽しんでてくれ」
お互いに声をかわした後で、喜久がチラリと視線を箒の方に向ける。『お膳立てはしてやったんだから、無駄にするなよ』と言われた気がした彼女は、彼のとったまさかの行動に驚いた。
喜久は野次馬的な部分もあるが、今回は箒を立てる。
(なんだ、なんなんだ…。奴は一体なにを考えている? まさか、いや……ええい、全く解らん!?)
彼の普段の行いがあるせいで、箒はその意図が読みきれず頭がパニックになる。結局、混乱したままの思考で留まった。
「喜久、僕は途中で食べ物が売っている出店も見てみたいな」
「そうですわね。私も珍しいものが多いので色々と見てみたいですのですが」
「あい。じゃあ、適当に見ながら射的の出店へ行きますかね」
シャルロットとセシリアが喜久に同調して合わせる。喜久の考えを尊重した彼女たちは、箒を心の中で応援することにした。
シンデレラのような限られた時間が一夏と箒の中で開始される。
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一頻り出店を回ってからいつものメンバーで射的の場所へ来ると、俺はもときた道を一瞬だけ振り返った。
たまにしか着れない衣装なんてのを着てんだから、少しは頑張ってみろよ篠ノ之。しっかし凰は勝気な分だけ、本当に扱いやすいよな。
「おっちゃん、やらせてくれない?」
「一回、三百円ね」
「あい」
射的の出店で店番の人に皆が一回分のお金を渡す。凰は既にいきり立っていて、直ぐにでもゲームをスタートさせろとやる気満々だ。店の人はその様子に笑っている。
「なあ、距離を離さないか? 俺らがやると全員分の的がなくなっちまうからな」
「なんでも良いわよ!? いいからさっさと始めさせてよね!!」
このメンバーだと射撃する定位置が余りにも近すぎるな。
凰にまあまあと言って、俺は提案をすることにした。
射的の場所を占拠している店の人はIS学園の生徒だと知らないために今の発言を笑って聞いている。
「そうだな。しかし弾の威力が解らんのでは、ゲームにはならん。的が倒れる位置を調べるべきだ」
「そうですわね、でしたら私が試し打ちしてみましょう」
ボーデヴィッヒの提案にセシリアが頷く。そして、定位置から三歩ほど下がり玩具で出来たライフル型の銃を構えだす。普段は本物の銃も使っているために、サイトの見方なども解っている分だけ姿勢がものすごく安定していた。
コンッ! ポテッ
落ちれば景品になる的の中で一番重そうな物があっさりと倒れて落ちる。的のどの位置に当てれば倒れやすいかまで計算していたらしく、余りにもあっけない光景に店の人が驚いた表情をした。
「店員の方、申し訳ありませんが今倒した的をもう一度立て直していただけませんか?」
「お嬢ちゃん、景品いらないの?」
「ええ、宜しくてよ。私は距離を測りたいだけですので」
そういって店の人は不思議そうな顔をしながら景品を立て直した。
この後、セシリアは店の人と何度も同じようなやり取りしながら、どんどんと自身と店の距離を離していく。結局、適度な位置が割り出せる頃には出店の位置がかなり遠くなっていた。
既に店の人は苦笑いをして今の状況に呆れている。
「この辺りが定位置になりますわね」
「ごくろうさんセシリア。じゃあ、凰からスタートするか?」
「あったり前よ!! あたしの腕を見せてやるわ、その減らず口を黙らせてやるからね!!」
俺がセシリアを労いながら凰に話し掛けると、彼女は怒れる表情のまま射撃位置で玩具の銃を構えた。
「はん! こんなんあたしにかかれば、全部百発百中のど真ん中よ!!」
コンッ! ポテッ
コンッ! ポテッ
コンッ! ポテッ
コンッ! ポテッ
コンッ! コッコトコト
「く、位置がずれたわ…。当たったのに倒れないなんて、喜久みたいでムカつくわね」
流石は代表候補生、射撃はセシリアが専門だが命中精度は一般人より断然高いな。
五発中全てが的に当たったが、最後の一つだけは重みで倒れなかったらしい。凰の射撃を見ていた店員は余りの出来事に口をあんぐりと開けていた。
「次は私がやろう」
ボーデヴィッヒが凰と交代して射撃の構えを取り出す。傍から見てると彼女が着ている綺麗な着物が絵になって映える。が、的を狙う鋭利な視線からは町の看板娘というより、時代錯誤のくノ一見たいな印象を受けた。
コンッ! ポテッ
コンッ! ポテッ
コンッ! ポテッ
コンッ! ポテッ
コンッ! ポテッ
「駄目だな、威力はちょうど良いが止まっている的では簡単すぎる。はっきり言って、つまらんな」
「ぐっ! それはあたしへの当てつけじゃないでしょうね!?」
「誰もそんなことは言っていないだろう」
ボーデヴィッヒに凰が噛み付くが、あっさりとあしらわれる。因みに店の人は既に九つの景品を失って泣きそうになっていた。
俺は順番の回転を早くするために凰をなだめる。
「落ち着けよ凰、勝負してんのは俺とだろ?」
「ふんっ! わーったわよ!!」
「それじゃ次は簪がやってみるか?」
「……うん」
簪が控えめに構えて射撃の姿勢を取ると、狙いを定めた場所へコルクの弾を撃ち放つ。さっきから見てると構えた全員が真剣に挑んでいるため、もはやこれが気楽なゲームになっていないことが解った。
コンッ! ポテッ
コンッ! ポテッ
コンッ! コッコト
コンッ! コッコトコト
コンッ! ポテッ
「…一つだけ、固かった」
当たってもなかなか倒れない的へ連続して狙いをつけたために、最後はきっちりと当てきって景品が地面に落下する。店の人はボーデヴィッヒみたいなのが全員ではなかったのが解り安堵している様子だ。
しかしなんか、ただ当てるだけじゃつまらないな。
「なあ、一人づつなのも面白くないから残りの人間はいっぺんに撃たないか? 的が被ってどちらが早く落とせるかはや撃ちの要素も追加してさ」
「ええ、構いませんわ。射撃では私が一番の自信がありますし、面白そうです」
「僕もそれで良いよ、その方が楽しそうだしね」
追加で一つの提案をすることにして、俺の意見にセシリアとシャルロットが同意する。三人揃って射撃の姿勢を取ると、一斉に玩具の銃を構えだした。
コンッ! ポテッ
コンッ! コンッ! コッ
「喜久!?」
「喜久さん…」
俺の撃ったコルク弾がシャルロットのコルク弾に当たり、お互いの弾が弾けて明後日の方向に飛んでいく。それを見たセシリアが呆れて俺のほうを見る。シャルロットは俺が笑っているのに対して怒り出し、頬を膨らませていた。
「あー、わりぃ、なんか失敗したみたいだ。ごめんなシャルロット」
もちろんわざと当てたんだけどな。
コンッ! コンッ! コッ
コンッ! ポテッ
「喜久さん!!」
今度はセシリアのほうに当てると、本人から抗議の声が聞こえる。
「…喜久、まったく真面目にやる気がないね」
「いやぁ、至極真面目だよ。真面目に遊んでるぞ、実際すごく楽しいしな」
ニヤニヤしながら言うと、セシリアとシャルロットがすごく嫌そうな顔をした。
「あら、あそこにおられるのは更識会長ではありませんか?」
「なに!?」
コンッ! ポテッ
コンッ! ポテッ
「あ!? セシリア、お前騙したな…」
俺が吃驚して周りを見回している間に、セシリアとシャルロットが的の景品を的確に撃ち落としていく。
「騙すだなんて滅相もありませんわ、おほほほほ。どうやら見間違えだったようですわね」
セシリアがしれっとした顔で返答し、それを見ていたメンバーが面白い物を見たとばかりに笑っていた。
凰に至っては腹まで抱えて笑っている。
「あはははは、あんた馬鹿じゃないの!? だっさいわね!!」
「騙される喜久が悪いんじゃないの? 僕とセシリアが勝って、このままだと喜久が最下位決定だけどね。良かったね喜久」
「…上等だ、だったら今から真面目にやってやるよ」
イラッときたため、俺はちゃんとやるために標的に当たりをつけ始める。
コンッ! コンッ! ポテッ スカ
コンッ! ポテッ
「喜久!!」
もちろんシャルロットが狙っている的だが。
「早撃ちだろ? ルール違反じゃないんだからカリカリすんなよ。やり返すんなら、同じように俺の狙ってる的を落としてみれば?」
「うぅ…、フンだ!! もう良いよ! 解ったよ!! 喜久のイジワル!!」
シャルロットは俺みたいに相手の弾を撃ち落とせる芸当はないから、こっちのやりたい放題だな。
完全にへそを曲げたシャルロットがすごい睨みを利かせながら的を狙いだす。
コンッ! コンッ! ポテッ スカ
コンッ! ポテッ
そしてまた同じようにシャルロットが狙っていた景品を俺は難なく撃ち落した。
「喜久、そんなに僕を苛めて楽しい…?」
「いんや、セシリアはさっきのでもう三つ目の景品だったからな。俺が勝てるのはシャルロットだけしかいないんだよ。良かったなシャルロット、俺だけコルクの弾が残ってるからお前が最下位決定だ」
「……」
涙目になっているシャルロットを尻目に俺は楽しく最後の標的へと的を絞る。
「わっ!!」
「うお!? あ…」
いきなり後ろから大声を上げられて、俺は明後日の方向にコルクの弾を撃ち放った。
後ろを見れば、にこにこ笑っているシャルロットがいる。
「…お前」
「あれー? 喜久外れちゃったねー、惜しかったねっ♪」
「卑怯だぞシャルロット…。はぁ、まあいっか」
散々おちょくったし、これでお相子かもな。
俺は店の人に玩具の銃を返すと首を軽く回す。そして、一夏と篠ノ之が来ない状況にやっと気づいた三人組を見た。
「なんであの二人は来ないわけ!?」
「まさか、そういうことだったとわな」
「……喜久、もしかして…」
凰とボーデヴィッヒ、簪が俺のほうを向く。が、俺は何も知りませんとばかりにその場で首をかしげる。
「俺は先に行くって言っただけだけど? それより願い事したいから鈴を鳴らしにいこうや」
まあまあと言って俺は三人を宥める。この後、三人がさらに俺に詰め寄るが、セシリアとシャルロットが援護にまわってくれたので無事にそこでのことは回避できた。
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箒は用意が終わって一夏の前にいたが、ガチガチに固まったまま思考が絶賛パニック継続中だった。
先ほど喜久がお膳立てをしてくれたが、二人きりになればなったで緊張してしまう。
(わ、わわ、私にいったいどうしろというのだ!? しかし…、これは告白するチャンスだ!!)
「い、一夏!!」
「なんだよ箒? いきなり大きな声だして」
「一緒に来てくれ!!」
「ああ、別に良いぜって、おい、なんでそんなに引っ張るんだよ!?」
千載一遇のチャンスを逃す手はない、巫女装束を着たままの箒が一夏の手を掴むとものすごい勢いで歩き始める。そんな彼女の必死さに一夏がわけも解らずついていく。目指すは夏に過ごした秘密の場所、その場所まで辿り着けば誰にも邪魔されない二人の空間が出来上がる。ズンズンと歩みを止めずに針葉樹の群集の中を突っ切っていくと、あるところでぱっと視界が開けた。
「おー、冬の夜って言うのも風情があるな。夏以来だけど、空気が乾燥してる分だけくっきりと夜景が見える」
一夏が嬉しそうな声を上げて眼下に広がる夜の光景を見渡す。宝石箱の中身が無造作にばら撒かれたようなネオンの配置と満点の星空が広がっている世界は、まるで二人を幻想の世界へと誘っているかのような錯覚を与える。寒ささえなければという、最高のムードに箒は胸を高鳴らせていく。
(こ、この状態であれば、いくらなんでも……、いけるはずだ!)
まるで油が刺さっていないブリキの人形のような動きで箒が一夏の腕を両手で掴む。ぐっと少し力強く掴まれた彼が笑いながら声をかけた。
「どうした箒?」
「い、いや、たいしたことではない!!」
(くうぅ、なにを言っているのだ私は!? 違うだろう! 今度こそ告白できる絶好の機会ではないか!!)
どぎまぎした、なんとも情けない言葉だけしか吐き出せない自身に嫌気がさす。
(言うんだ、夏には花火のせいで失敗したが……今度こそは大丈夫だ!! 二度はないはずだ!!)
箒が大事な一歩を踏み出すために心の中で大量の鼓舞を行なう。すぅ、と息を吐いて吸うと、深呼吸した分だけ冷静さを取り戻していく。
(よし!!」
「よしって、何か良いことでもあったのか?」
「な!?」
最後に心の中で決意を固めたが、勢い余って口から漏れたらしい。ぼっと恥ずかしさのあまり箒が顔から火を噴く。一夏は何が気になったのか、箒の頭に自分の頭をいきなり重ねていく。
(~~~~~~!? な、なんだいきなり!? これは、まさか一夏のほうから!!)
先ほどまでの落ち着きがいきなり吹き飛んで、再び緊張してしまう。胸の鼓動が高回転したエンジンのように激しく暴れだす。
「熱は、う~ん。なさそうだな、良かったよ。なんか箒の顔が赤い気がしたからな、風邪なんて引いたらせっかくの休みがもったいないもんな」
「……」
心配してくれるのは素直に嬉しいが、それはないだろうと言った感情が箒の中で叫びとなって木霊する。そして、一頻り自分だけが騒いだことにおかしくて、つい笑いそうになった。
こんどこそ、今度こそ大丈夫だ。箒は落ち着いて言葉を紡ぎだす。
「一夏」
「なんだ?」
「私はお前のことが――
ゴーン、ゴーン、ゴーン……
「お、除夜の鐘だ」
一夏が嬉しそうに喋ると、除夜の鐘に言葉を阻まれた箒は泣きそうになった。
聞こえる鐘の音がまるで自分の頭に打ち付けられているかのような錯覚を覚える。彼女は余りの現状に思わずうな垂れた。
(一度ならず二度までも!! どうしてこうもタイミング悪く音が鳴り出すのだ!!)
ズンッ!!
次の瞬間、なにかが爆発したような音と眩い発光が篠ノ之神社の方から発生した。
「なんだ今の!?」
「く、今度はなんだというのだ!?」
一夏と箒が走って神社の方を目指す。走ってたどり着いてみれば、そこではものすごい光景が広がっていた。
境内を見れば鈴と縄が千切れて落下している。入り口の方を見れば鳥居の一部が煙を立てながら破損していた。
「……ごめん…なさい……ごめん…なさい……ごめん…なさい……ごめん…なさい……ごめん…なさい」
そしてその場で蹲り、呪詛を唱え続けるような謝り方をする簪がいる。箒は口をパクパクと開閉させ、余りの出来事に気を失いそうなった。
喜久が青い顔をして呆然と立っている姿を見つけた一夏は、慌ててことの経緯を問いただす。
「喜久、一体何があったんだ……?」
「…縁起でもねぇんだけどな、俺が鈴を鳴らしてたら縄が劣化してたのか急に切れて落下したんだ」
「それで、その後でどうして鳥居が破損してるんだ?」
喜久が簪の方へとゆっくり顔を向ける。
「鈴が落下して、けたたましい音を立てたのに吃驚したんだろうよ。簪がISを展開してミサイルが一発だけ誤発射された」
ああ、だから簪が泣きそうになってるのかと一夏は心の中で納得した。
それ以上に泣きそうな箒は地面に膝を突いている。新年明けての出来事は、篠ノ之神社の鳥居が破損して幕を開けた。