ln   作:kiarina

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[NumberingTitle_欲界ノ住人達]

 

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(撤収した後というのはどうにもな。残骸と当時の余韻があるだけか…)

 

今はもう使用されていない施設の薄暗い廊下を歩きながら手持ちの軍用ライトを方々へ翳していく。当たった壁の部分は光を浴びた分だけ克明に当時の状況を物語っている。ツーマンセルで行動する探索者のうち、一人は男性でもう一人は女性だった。

 

「ニコル」

「どうしたサンナ?」

 

サンナに呼びかけられたニコル=アノイがライトを様々な場所に当てて確認作業を行なう。あるところでライトをピタリと停止させると、部屋の識別プレートを確認する。破損して使い物にならなくなっているドアを押しのけて室内に入ると、研究室長室と記載された部屋は機材が壊れていて全てが燃えた火災後のようになっていた。

ニコルとサンナは辺りをゆっくりと見回す。

 

「自殺のさいに、ごっそりと研究資料を道連れにしたみたいね。本当にこんな状態で目的の資料が残っているのかしら?」

「まあ、それは探してみないことにはどうにもね。簡単な宝捜しだと思えば楽しいものさ」

「宝捜しね、冗談を言っていられる間は楽しくやれそうだわ」

 

二人して今は使い物にならなくなった幾つもの液晶型ディスプレイの中を強引に抉じ開けていく。手持ちの工具が無いために、荒い物音を立てながら破壊しては中身を細部まで確認した。

が、目的の資料となるものが残っている気配が無い。ニコルとサンナが首を捻りながらお互いの顔を見合わせる。

 

「正確性の高い情報だったんでしょうね?」

「本当だろうさ、現にこうして僕達は秘匿されて地図に無い研究施設に訪れることが出来たんだからな」

 

サンナがジト目でニコルを見るが、彼はにこやかに微笑みながら肩を竦めた。

現在、二人の訪れている場所は奇跡のIS男性操縦者を生み出した研究施設だった場所になる。彼らは、世界中のどの地図にも載ることが無いその残骸的な施設へ足を踏み入れていた。

 

「しかし、ジャスパーも随分と慌ててたみたいだな、後始末がなってない部分が多く残ってる。まあ、おかげでこっちの仕事はやりやすいけど、ね!」

 

バキッと、音が鳴ってニコルが壁に向かって投げつけたディスプレイが破損する。サンナはその光景を見て溜息をつく。

 

「で、貴方が今破壊したので最後のディスプレイのようだけど。嬉しいご報告は貰えるのかしら?」

「ん~、今度デートしないか? ヨットで沖まで出れば誰もいない二人の空間だ、綺麗な夜景も独り占めできるしね」

「はぁ、誘うなら他の子にしてね。私は貴方みたいのはタイプじゃないのよ」

「おっと、そりゃ残念だ。どうやら、僕はどちらにもふられたらしい。ハズレだ、さてと…」

 

ニコルはそういって、今度は煤塗れになった机の上に乗る。そして、ぐっと腰を落とす。

 

「サンナ、悪いけど少し下がっててくれないか?」

「ええ、わかったわ」

 

次の瞬間、彼は思い切りジャンプする。そのまま部屋の天上に設置されているプロジェクター目掛けて盛大にハイキックをいれると、プロジェクターの破損する音が室内に響く。長年使われず手入れもされていない無人施設のせいで劣化していたのだろう。プロジェクターの本体が数秒後に床へ落下して更に破損した。

 

「…ビンゴだ。あったぞサンナ」

「残業はせずに済みそうね」

 

ニコルが破損したプロジェクターの中から目的のものを発見する。彼はそれを手に取り上げると、サンナに視認させた。

ディスク状のものが四枚、ビニールに包まれて簡素に纏められている。ディスクには黒マジックで記載した本人の名前が書かれていた。

そこには当時、研究の陣頭指揮をとっていた人間であるティアーニ=イリノイカのサインがされている。

 

「研究データだ。これで、六割程度の証拠を抑えたことにはなるな」

「残りの四割はどうなのかしら?」

「それは日本にいるサーフォ君が来れば埋る数字だな。リアムを交渉に回したが、僕としては予想外の要求で驚いたけどね」

 

ニコルが苦笑いすると、サンナもつられて同じようにする。

 

「そうね。ドクター篠ノ之の居場所なんて、寧ろこっちが教えて欲しいくらいなんだけど」

「まあ、こっちはサーフォ君から言われた要求をしっかりと呑んだからね。ちゃんとした正規の極秘資料だ、彼はさぞ喜ぶに違いないさ」

「あの資料を渡したって、本人は嫌な顔をするだけだと思うわよ?」

「まあ、それならそれでも良いさ。後は、彼がこちらのことを信用して話に乗ってくるかだな。僕たちは彼を信じて待つとしようか」

 

ニコルはそう言ってディスクの入ったビニールを自身が着ているスーツの内ポケットにしまい込んだ。

 

 

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暗い室内でぼんやりと唯一の光源となっている空中投影ディスプレイがある。画面の中では音声チャンネルオンリーと表示されたブラウザが立ち上がっていた。

現在の会話に参加している人数は六人、そのどれもが殆ど高齢男性の特有の声を発している。

 

『それでは、これより議題の話し合いを始めたいと思う』

『ああ、始めてくれ』

 

一人の声が取り仕切るようにして、その会議は進行していく。音声を聞き取っている女性はベッドの上で寝転がりながら、前方の空中投影ディスプレイをぼーっとした表情で見つめていた。

進行役以外の音声が室内に響く。

 

『まず私からの議題提出だが、オーストラリアの件だ。あれは些かやり過ぎだな、これでは我々の意に反する結果をもたらしてしまう可能性がある』

 

オーストラリアの件、それはISの強奪を行なった際に想定以上の被害を出したことが問題視されている。襲撃した際に基地に駐屯していた人間で助かった兵士の生存人数は二人。重症を負ったIS国家代表者と男性兵士で他の人間は全て死亡していた。

このことに関しては、彼らの望んでいた結果とはズレが生じている。

 

『確かに、無能は要らないが有能な人材を消去する必要はない。軍事関係者からは支障が出ると怒りの抗議がくるだろう。今回の案件に携わった実働部隊の人員は難有りだよ、ペローフ氏は一体どういう教育を施しているのやら』

『しかし、今のところISの奪取には有能な人材であるのもまた事実だ。だとすれば、他の人員のように監視用ナノマシンを注入する必要が出てくるが?』

 

号令一つで脳の中枢神経を即座に焼ききることができる鎖の首輪を模したような機能、それは命令違反を犯した際に発生するペナルティとしての制御用ナノマシンである。この機能を埋め込まれている構成員の一人にエムと呼ばれる少女が当てはまる。彼女は彼らが議題の中であげている実働部隊に所属する人物だった。

そして、今のやり取りをしている彼らはそれを取り仕切る側の幹部にあたる運営側の人間たちだ。彼らの組織名は亡国機業、それは裏で蠢く住人たちの巣窟として機能していた。

 

『ナノマシンの投与は止めておけ、それではペローフ氏の反発を招くだけだ。彼は自身の娘にご愛着なのだよ。あれは下らないセンチメンタルに縋る哀れな老人だが、その部分を除けばとても有能な人間ではある』

『ふむ、しかし保留にして良い部分でもあるまいて。一応の釘はさしておくべきだろう、氏に直接の警告はすべきだな』

『ああ、今回はそれで良い。さて、次に学園施設襲撃の件だが?』

 

議題が次の内容へと進む。

 

『ISの新たな広告塔の織斑 一夏という少年だったか、機体の能力値と掛け合わせて本人は我々の持ち駒より強力なのかね?』

『いいや。実働部隊の彼女、スコール=ミューゼルの報告ではISは三世代半止まりで四世代には届いていない。それに、本人の能力値はさほど気にする必要は無いそうだ。ようは、機械に振り回されている子供と言ったところだろう』

『ふむ。しかし、最初の広告塔である彼女、ブリュンヒルデを潰してISにおける今後の発展に対しては警告を促したつもりだったのだがな。親族を再度として同じような立場に立たせるとは、彼女は案外と賢くは無いようだ』

 

「まあ、今のところは役立たずなのが幸いだが」と音声は笑いながら織斑 一夏を一蹴する。

 

『となると、問題で上がるのは新たな広告塔の二人だな。他の資料は皆に届いていると思うが?』

『ああ、こちらにも来ているよ。第四世代機ともう一人の男性操縦者だな。能力値に関しては、報告にもある通りだが市隈 喜久のほうが上だろう。ジャスパー、彼の言い分なら先ほどの案件であったペローフ氏の娘と同程度の力を持っているだろうからな。後は第四世代機を保持している奴の親族に関してだがね』

 

会議に参加している全ての人間が一人の発明家を思い出す。篠ノ之 束、ISの始祖にして未だに捕捉が困難な指名手配人物は現在も逃亡生活を送っている。所在は全く掴めずに世界中が探し回っている最重要人物は亡国機業にとって厄介以外のなにものでもない。

 

『第四世代機か。あの開発者は、また下らない玩具を作ってくれたものだ。それに奴が学園施設を襲撃してくれたおかげでこちらの計画が狂ってしまったな』

 

最近発生したIS学園の襲撃事件に関しても、諜報員から逐一彼らへと報告があがってきている。世界中の機関を調べ上げ、どこも襲撃していない白だと発覚すれば、おのずと行き着く答えは確定していた。

 

『しかしだ、あやふやな部分であった地下施設が露呈したのは幸いだった。あれが襲撃を受けたらしいのもあるが、施設の内容について漏れた情報もあるようだからな。その部分の報告も受け取っていたはずだが?』

『届いた報告では、地下特別区画は施設に通う生徒を避難させるとあるがな。もう一つは保管しているISを早急に退避させて他に奪われないようにするための施設でもあるらしい。なんとも笑える話だ、手元にある報告では生徒よりもIS保管の退避が最優先と記載されていたぞ?』

 

地下特別区画の役割も今回の事件で使用目的の内容が割れている。国際IS委員会が設置したそれの機能は、外部機関からの接触があった場合にいち早く学園内で所持しているISを秘密裏に隠すことが第一とされていた。

その他には、大事な人材である学生の緊急時の最終避難場所と、表に出しにくいものを保管あるいは管理していくことが目的となっている。

 

『IS学園と言うだけのことはあるな、我々も非情だが彼らも似たような者たちらしい。国際IS委員会といえど、人命の尊重よりISを奪取される流出の可能性を防ぐというほうに趣をおく部分は己可愛さ保身派揃いということか』

『ははは、確かに沽券のほうが大事な辺りは余り我々と大差ないようだ。さて、今回の強襲作戦では学園のISを強奪することが目的だが、相手の戦力も大分見えたようだな』

 

一人が強襲作戦という言葉を口にする。会議の一番の目的に各々の人間が意見を交わしていく。

 

『余計な摩擦はあれだが、地上攻撃からの派遣も行い施設を使用する学生への被害が出ても許容範囲とするかね?』

『必要処置だな。まあ、施設に通う学生の三分の一程度が死のうと全人類の相対数から見れば微々たる被害だ。特に問題はあるまいて、強襲を行なう人間には雇われの傭兵を使うとしよう』

 

現在の人類全体人口は70億人を突破している。その中の数百人程度の死傷者が出たとしても問題が無い、彼らが全体人数として捉えるスケールは常に世界人口の総数だ。だからこそ、被害の規模が万人の値を超えない限りは蚊ほどにも気にならない人数だった。

 

『私兵ではなく、傭兵か。捕まった際は口を割る可能性があるが?』

『それは何枚もの壁となるように依頼ルートを理解させにくくすれば問題はない。襲撃を受ける側の人間に、こちら側の人間の素性を割れないようにすれば良いだけのことだ』

『あちらのISの対処には我々側の駒を使用し、傭兵は出来るだけ少数精鋭で腕の良いものでも雇うとするか。こちらの手配を早急に行なうとしよう。後はヴァレール氏だが、彼は誘いにのってくるのかね?』

 

会話の途中でIS生産における世界第三位の企業トップの名があがる。亡国機業はヴァレールへの参加を打診していた。

彼らはこの世の中に存在する全てのISを奪取し尽くすという目的がある。それが完遂された際に欲しい人材として認識されているのがヴァレールだった。

最終段階の後始末、そのためにヴァレールの力が必要とされている。

 

『彼は様子見といったところだろう。しかし、旨い見返りを用意すれば頷くだろうさ』

「一つ宜しいですか?」

 

トンッと、静かな空間の中で単調な音が響く。今まで、話を聞くだけに徹していた女性が始めて口を開き会話に参加する。

 

『なにかね?』

「今回の作戦においては、ISの新たな広告塔になっている二人の男性操縦者には劇のステージに幕を降ろして退場してもらう良い機会だと思っておりますの。彼らにはそろそろ死んでもらうのが宜しいかと」

 

彼女は彼らに新たな提案をする。静かに上品に、優雅な口調で黒い言葉を平然と喋った。

 

『そうだな、作戦に支障が無い限りは問題無いだろうさ。私はそれで構わんが』

『右に同じだな、私もそれで構わん』

「ありがとうございます。では、二人に関しては間引く側に入るということで決定させて頂きます」

 

女性の口元が笑う。

 

『では、手はず通りに』

『そうだな、後は実働部隊の方へ今回の襲撃内容を伝達するとしよう。では、また』

『ああ、また』

 

会話の参加者がどんどんと音声チャンネルを閉じていく。最後の一人までそれが閉じきると、女性は空中投影ディスプレイの電源を落とさぬままに別の場所へと顔を向けた。

 

「たとえISの行き着く先が終わりだとしても、ISは女性のものよ。それに一時でも男が跨ごうとする行為は女の尊厳を傷つける許されない強姦行為に等しい罪。ねぇ、可愛い坊やたちにもこの意味がわかるでしょう?」

 

女性の独り言と共に再びトンッと、室内で単調な音が響き渡る。二本目のダーツ矢が的に設置されていた写真へと突き刺さっていた。

一枚は織斑 一夏、残りの一枚は市隈 喜久の顔が写っている。ダーツ矢は二本とも彼らの頭部を貫いていた。

女性は自身の行なった好意に愉悦を感じ嬉しそうに微笑む。これから彼らの末路はこうなるのだと確信して。

 

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「楯無さん、これで良いんですか!?」

「ええ、その位置で大丈夫よ。一夏くんは背が高いから、いると本当に助かるわね~」

 

一夏は楯無の指示に従って宙に吊るされている看板の角度を整える。現在、彼は生徒会の役員として学園の卒業式準備に借り出されていた。

大道具のような仕事をこなし、雑用全般に精を出している。三月の行事で三年生は卒業し留学生は帰国の途に着き、他の生徒たちも選考した分野等へ再び新たな次のステージが待っていた。

淋しく思う生徒たちもいるが、皆がそれを経験し新たな人生の門出に立つ。

そんな大切な出来事の一場面を無事に成功させるために。一夏は春に差し掛かるほんのり暖かくなり始めた季節で、汗を掻きながらやるべきことに全力投球する。そして、もう一人のさぼり魔人間へと盛大に腹を立てていた。

 

(それにしても喜久の奴!! 先に行っててくれなんて言っといて、まったく来る気配がないじゃないかよ!!)

 

放課後の卒業式準備で楯無が一夏に補充要員のお願いをして、彼は喜久に手伝いを頼んでいた。

確かに伝えていたのだが、一夏の指摘した通りに彼はさぼりを決行している。これならば、喜久と一緒に来るべきだったな一夏は心の中で反省した。

 

「一夏くーん! よっちゃんは、まだ来ないのかしらー?」

「はぁ、後で来るって言ってたんですけどね。あいつはきっとさぼりです」

「あの子は相変わらずねー。こーなったら、おねーさんが捕まえにいってくるわっ♪」

 

(いや、あなた以外でこの現場を指示できる人なんていないでしょ。そんなに喜久をいじって楽しみたいんですか…?)

 

こっちも相変わらずだなと楯無の言動に一夏が嘆く。最近だが、一夏はやっとのことで楯無に対しての耐性が構築され始めていた。

が、それでもまだまだ彼女の良いようにやられ続けてはいたが。そんな二人のやり取りをしている場所へ同じ生徒会役員である虚が歩いてやってくる。

 

「お嬢様、ステージの設置が整いましたのでチェックをお願いします」

「あらん、虚ちゃん。それなら一夏くんにお願いできるかしら? 彼には一通り流れを理解できるように仕込んであるのよ、私はちょっとホールの配置図が載ってる用紙を生徒会室に忘れたから取りに行って来るわね」

 

(いやいやいや!? なに言い出してるのこの人、俺は初耳だぞ!?)

 

一夏は盛大に慌てだして楯無の方を見る。すると彼女が嬉しそうにした。

 

「楯無さん! 俺はそんなことは、なにも――

「あん、そんなに見つめちゃって! もう、昨日は激しくしたばかりじゃない。まだおねーさんを求めてくるなんて、本当に底なしなのね!」

「だあっ!! いきなりなに言い出してるんですか!?」

 

楯無がいやんいやんと嬉しそうに頬を赤く染めながら両手で顔を覆う。一夏は彼女から発せられる言葉と行動に悲鳴をあげた。

二人の様子を見ていた虚はギラリと目を光らせる。主に楯無に対してだけ。

 

「お嬢様、いらぬ噂の元になりかねません。そういった流言は宜しくないかと思いますが?」

「あはっ♪ そうかしら?」

「そうです、おやめ下さい」

「わかったわ、でも配置図を忘れたのは本当よ。ちょっと取ってくるわね、戻ってきたらステージのチェックを行うわ」

 

そう言って楯無は一旦席を外すようにホールから出て行こうとする。一夏はその後姿を恨めしそうにして見ていた。

 

(あの人は見返っても美人なんだけどな。でも、頼むから普通の会話をさせてくれ…)

 

一夏のげんなりした表情に虚が軽く笑いながら優しく声をかける。

 

「お嬢様のあれは、もはや代えがきかないわ。あなたも慣れることが大切よ?」

「う~ん、そうですね…。でも、なかなか難しいと思います」

「おりむ~、さぼらなーい。私のとこー、手伝ってー!」

 

手の空いた一夏を発見した布仏 本音が大きな間延びの声で呼びかけてくる。制服のサイズが合っていないのか、わざとそうしている作りなのかという両手の出ていない腕をハタハタとさせながら彼女は一夏のほうを向いていた。

が、虚がそれを見逃すはずもなく、すぐさま本音を嗜め始める。

 

「本音、さっきまで他の人と雑談していた貴方が言えることではないでしょう? しっかりとなさい」

「うえ~、でもー」

「でももなにも無いわ、いいわね?」

「うぅー、はぁ~い」

 

一夏はこの姉妹もいつも通りだなと思いながら、再び作業へ従事することに頭を切り換えた。

 

 

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スパンッ!!

 

「きゃあ!!」

 

放課後のテニスコート内で強烈な打撃音が響き渡り、威力の強い打球が地面に突き刺さる。それを返球することが出来なかったテニス部の部員は、同じ部員仲間に呼び掛けを行なった。

 

「ちょっとセシリア! ラリーの練習なのに球の威力が強すぎるわよ!?」

「私はなにごとであっても、手を抜かない主義でしてよ!!」

 

スパンッ!!

 

「ひっ!」

 

再びセシリアが打ち放ったテニスボールが相手のコートに突き刺さる。今現在、セシリア=オルコットの心は荒れ狂い、その怒りが全てボールの打撃へと変換されていた。

 

 

冬休みも終わり三学期が始まってすぐのことだ。シャルロットがどこから手に入れてきたのか、アトラクション遊園施設の入場無料券を携えて喜久をデートへと誘う。しかし、またいつもの様に喜久は面倒臭そうして断るだろうとセシリアは判断を下して安心しきっていた。

セシリアの判断は見事に的中し、喜久はシャルロットの申し出をのらりくらりとかわそうとする。

 

(くうぅっ!! まさか更識会長がシャルロットさんの援護をするだなんて!?)

 

が、そこへ楯無が割って入り喜久を言い包めてしまった。

傍観していたセシリアの行為は裏目に出てしまい、彼女がシャルロットの行動を牽制する前にデートが成立してしまう。セシリア自身も喜久をデートに誘う行為が既に成立しているのだが、それとこれとは話が別だった。

誰であったとしても、大抵の場合は好きな相手が自身以外の同姓と仲良くされるのは余り面白くない。ましてや、楯無がシャルロットのことを応援したという事実に尚のこと腹が立ってしまう。なぜ、なぜ楯無がシャルロットの援護に回ったのかと、その理由が解らずに悶々としてしまう彼女だった。

 

(こうなったら、私とデートする際は一流のシェフがいるお店を貸切にして!? いいえ、それでしたら寧ろ最高級のホテルでディナーを食した後で、そのままチェックインしてしまった方が!! このさい、いっそ学生の身分など関係なしに忘れてしまえば!! ええい、それでしたら――

 

「セシリア!! ちゃんと前を見て!?」

「え? へぶぅっ!!」

 

部活仲間に大声で呼びかけられたが、考え事をして頭をフル回転させていたセシリアの顔面にテニスボールが勢い良く突き刺さった。

そして、そのままノックダウンしてその場に倒れこむ。考え事で目の前のことを見逃すなど、なんて情けない。思わず彼女は心の中で気持ちがへこんだ。

 

「あ、ちょうど良いところに!? 市隈、セシリアが倒れたの! 見てやってくれない!?」

 

(えぇ!? なぜこの場に喜久さんが!!)

 

大好きな人間の名前が出て思わず顔をむくりと上げる。すると、コートの金網を挟んで気だるそうにする喜久がいた。

今日は楯無の手伝いを一夏と一緒にする筈ではとセシリアが頭の中で思い出す。

 

「なんか、ものすごい勢いで顔を上げてんだけど…。どう見ても元気なんじゃないの?」

「…ごめん、やっぱ元気だったみたい。ごめんね市隈、呼び止めちゃって」

 

彼が呆れた表情でセシリアの方を見ると、彼女は自身が選択を誤ったことに気づいた。

 

(はっ!? 私としたことが、とんだ失態を!! このまま倒れていれば喜久さんに介抱して頂けたのに!?)

 

もう一度倒れてもわざとらしい、しかしボールが当たって鼻が痛いのも事実だ。最後の手段だとばかりに、セシリアはじっと喜久に無言の圧力もとい介抱してくれと心の中で願いながら己の目で訴えることにした。

 

「はぁ…。セシリア、早く鼻血を拭けよ」

 

喜久の方が折れて、なくなくセシリアに応えるためにコートに入ってくる。彼女はルンルン気分で彼を出迎えた。

 

「テニスの練習で腕を動かしすぎて疲れてしまいました。喜久さん、申し訳ありませんが拭いて下さいなっ♪」

「嘘つけよ。心中じゃ、どうせ嬉々として笑ってんだろ? しょうがないな、まったくさ」

 

怪我をした人間に対して優しいところがある。セシリアは喜久に甘えられることで気分が上々となっていく。彼は溜息をついてポケットからハンカチを取り出すと、セシリアの鼻に優しく添えるようにした。

 

「氷でちゃんと冷やしとかないと、ピエロの赤っ鼻みたいになるからな。練習に戻る前にちゃんと処置しとけよ?」

「はい、ありがとうございます。それにしても、喜久さんがこのような場所へ来られるとは珍しいですわね。もしかして、私の華麗な姿を目に焼き付けたいと思われたのですか?」

 

彼女が喜びの笑顔を向けながら喜久の方へと期待の視線を向ける。ぱぁっと、胸中で様々な花が満開に咲き誇った。

そして感情がどんどんとヒートアップしていく。

 

(いけませんわ、告白をするにしてもこのような公衆の面前で!? 私といたしましても、まだ心の準備が!?)

 

「いや、単に通りかかっただけだよ。一夏に頼まれたことからサボって逃げてる最中だったからな、それと野暮用が一つってところだ。だからさ、変な期待はやめとけよ」

 

心の内が見透かされたような言葉をかけられて、セシリアの頭上になにかが落下する。咲き誇っていた花々も、ものすごい勢いで萎《しお》れだした。

 

「喜久さん、私の気持ちをそこまで解って下さっていて。本当に貴方という人は…」

「悪いけどそういう人間なんで。さてと、俺はもう行くけどセシリアは保健室でコールドパックとかもらっといた方がいいかもな」

「そうさせて頂きますわ。それにしても、野暮用とはどういった内容なのです?」

「ああ、穴から兎を引っ張り出すための方法を教えてもらいにだな。ハンカチはいらないから適当に使ってくれよ」

 

喜久はセシリアに意味深な内容を告げるとコートから出て行こうとする。気になった彼女はその場から立ち上がってさらに彼へ呼び掛けを行なった。

セシリアのむっとしていた顔が真剣な表情へと変化する。

 

「喜久さん、またなにか私からお隠れになって、ことを起されるおつもりですか?」

「いんや、それはもうしないよ。ほら、休み中にセシリアとボーデヴィッヒは狩りにいっただろ? 俺もそれの真似事をしてやろうと思ってさ。今度、よかったらやり方を教えてくれると助かる」

「…はぁ。喜久さん、隠し事は許しませんわよ? 私だけ除者はごめんですから」

「あい、それじゃまた夕食でな」

 

そう言って後ろ手に手を振りながら喜久がコートから出て行った。

 

 

_\|/_

 

 

「本当に俺の要求が通るなんてな。そんなにクソ大佐を落としたいのか?」

「俺に聞くな。小僧の要求を押し切ったのはニコルさんだ、感謝をするならそっちにしろ」

「…ち、あの野郎に借りを作るなんて思ってなかったけどな。死ぬほど嫌いな奴だけどな、今回だけは素直に受け取ってやるよ」

「まったく、口数の減らない奴だ」

 

リアムが呆れたようにして肩を竦めた。

三学期の真っ只中、一日の授業が全て終わったのを見計らったかのように連絡が入る。内容は篠ノ之 束に関する資料だ。放課後に一夏の予定を素っ飛ばして、俺は電車に乗り前回ニコルと会った忌々しいカフェテリアに来ていた。

誰にも言わずに黙って学園を抜けてきたために、今から寮に戻ったところで規則の時間をオーバーしてるだろう。が、今の俺にはそんなことなど、どうでもよかった。

手元にあるディスクをもてあそびながら、今後の流れをリアムに聞く。

 

「あんたらCIAがくれたディスクだがな、あくまでこれが本物だった場合の話だ。俺はいつアメリカに出向けば良い?」

「それについては追って連絡をしてやる。小僧はまだ待機していろ。遅かれ早かれ、いずれは動き出すからな。本国への入国は表からではなく、密入国経由の方向で話が進むだろうな。覚悟は――まあ、聞く必要はないだろう?」

「ああ、どんな方法だろうが関係ねぇよ。俺はクソ大佐を沈められりゃそれで良い、それと腰巾着のアスティンもついでに潰してやるさ」

 

船を使って等の密入国の方が俺としても都合が良い。これでジャンボジェットにでも乗った際に狙われようものなら、機体を丸ごと落とされかねない状態が発生する可能性がある。その時はISを展開した俺以外が全て死亡者だ。リアムはふと、俺から視線を外して他の方を向く。

 

「小僧、お前は生まれ故郷をどう思っている?」

「非人道的なことを好む、サディストだらけだ。俺みたいな人殺しを作り出すパワーだけのごりおしな国なんてのは、恨みを買い続けるだけだろ?」

「そうだな、だから俺たちみたいな種類の人間もいる。しかし、お前の母親もアメリカの人間だ」

「だからどうした? あの国じゃ、どこかでなにかを間違えた人間は即座に抹消される。自由の国なんてほざくが、上を牛耳ってる連中は自由を履き違えた人間だらけなんだよ。あの国は蹂躙で全てが成り立ってるしな、そんな国を誰が好むってんだ」

 

なんでそんな話をする?

リアムの下らない話に俺はイラつき始めた。

奴が再び口を開く。

 

「…そうか、まあいい。俺は行かせて貰う、お前はコーヒーの一杯でも飲んでいけ」

 

奴はそう言って立ち上がると、そのまま店の出口のほうへと歩いていく。俺はぐったりして、しばらくそのままの姿勢で手に持っているディスクを眺めていた。

 

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