ln   作:kiarina

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[ NumberingTitle_6月ノ転入生_3人目ノ男_模擬戦ト訓練 ]

 

 二巻分

 

 ― 1 ―

 

 

 クラス対抗戦も無事に終了し、外は緩やかな空気に包まれている。五月病なんて言葉があるが、俺の五月病は女子の空間に慣れすぎて麻痺したことかもしれないと感じていた。

 横ではもう一人、それに慣れちまった人間が一緒に教室へと向かっている。ちなみに今は六月で梅雨の時期を迎えていた。

「なあ一夏?」

「ん、どうした?」

「なんで、ここって男子が少ないんだろうな?」

 なにを今更と言ったような顔で一夏が俺を見返してくる。

「貴方たちが他の殿方と違っているからでしょう。それよりも、そのだらしない姿勢を直しなさいな」

 一夏とは俺を挟んで反対側を歩いていたセシリアが、誠にありがたくない注意を飛ばしてきた。

 凰と篠ノ乃は一夏を挟み反対側に並んで歩いている。

「しかし、なんで俺らの部屋は別々なんだ。一夏は、なんでか聞いてない?」

「いいや、俺にも解らないな」

 一夏と二人して首を捻った。

 セシリアとの精神的に落ち着かない同居生活は、このほど教師の天の声で終了を告げる。しかし、蓋を開けて引っ越してみれば、なぜか一夏との同室にはならなかった。

 これが腑に落ちず、俺は織斑姉の不敵な顔を思い浮かべる。前回は、本当にはめられたと思った。

 だからこそ、今回もと考えてしまう。

「私としては、同室でも構わなかったのですが……」

 横でぶつぶつとセシリアがぼやく。それに俺は笑いながら返答した。

「この国は男女七歳にして同衾せずってな。それじゃなくても、今までがありえない状態だったんだよ」

「なにそれ。あんた、ジジ臭いよ」

「なに!? そんなことはないぞ!」

 俺の言葉の変なところに凰と篠ノ之が反応した。

 そのまま「またな」と言って凰と別れ、教室のドアを開ける。次いで、いつもと違う違和感を教室内から感じた。

「なんだよ、これが理由っだのかよ」

「理由とは何だ? 先がつかえるぞ、進んでくれ」

 先頭で教室に入ろうとしたために、後ろでつっかえた篠ノ之が声を上げる。俺は進みながら指を二回ほど別々の場所へと指し示していく。

「ほら。他の連中は気づいてないけど、机が二つ増えてないか?」

「あれ、ほんとだ。喜久よく気が付いたな」

 一番後ろの列に見慣れない、はみ出した机が二つ並べられていたのが確認できた。

「もしかしたら俺と一夏のほうか、篠ノ之とセシリアのどっちかにルームメイトが増えるかも」

「なんですの、それ!? 喜久さんの部屋に女子が来ると言うことですの!」

「冗談ではないぞ!? 一夏の部屋に女子が来ると言うのか!」

 うおっ!?

 なんで二人して俺に食って掛かるんだ、そういうのは一夏だけにしてくれよ……。

 俺は一夏の方を向きながら話を進める。

「まあ、普通は転入生ならそうだろうさ。とはいえな、それじゃあ俺と一夏が同居から外れる意味がないだろ。だとしたら、最低一人は男だろうって結論は考えられない?」

「でもよ、それじゃあ世界でISを扱える男はそいつを含めて三人にならないか? そんなに、ぽんぽんと男の適正者って見つかるもんなのかよ? 俺は来るのは女子だと思うぞ」

 一夏の馬鹿野郎……。

 そこでまた、女子なんて単語を出すんじゃねぇよ。

「一夏ぁ! お前は、女子が来た方が良いと言うのか!?」

「一夏さん、不健全ですわっ!」

「なんでだよっ! 俺は、ただ単に予想しただけじゃんかよ!?」

 しょうがないな、まったく。

 矛先が自分から一夏のほうへ向く。俺は一歩下がって呆れ顔でその様子を眺めた。

「なあ、賭けないか? 転入生の最低一人は男かどうか。俺は男だと思うけど、一夏は?」

「良いぜ。喜久が男子なら俺は女子にする。どう見てもそっちの方が可能性が高い」

 助け舟とばかりに一夏が俺の話しにくいついてくる。

「学生が、そんなことしていいわけないだろう!? 私はやらんぞっ!」

「あら、では私は分の悪い方が愉しそうですので。男性に賭けさせて頂きますわ。篠ノ之さん、意外とお堅いのですね?」

 ぎょっとして、篠ノ之がセシリアの方を見た。

 セシリアが意外とノリが良いのにびっくりしてるらしい。

 いや、賭博はイギリスが本場だぞ。イギリスの競馬場は社交場でもあるんだからさ。

 チャイムが鳴ると、俺たちは各々の席に座り教師二人がいつもの様に入ってきた。

「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介しますっ! しかも二名ですっ!」

「え……」

『えええええっ!?』

 朝のホームルーム中に山田先生が告げた報告で、一気に教室内が騒がしくなる。数秒遅れて教室のドアが再度スライドすると、二人の生徒が教室に入ってきた。

「失礼します」

「……」

 俺は一夏のほうを向くと、当の本人はそんな馬鹿なとでも言いたそうな顔をしていた。

 篠ノ之も呆気にとられている。セシリアと二人して満足げにアイコンタクトしあうと、俺は前を向いて転校生を確認した。

 そして、実は一夏のほうが当たりかも知れないと思った。

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

 ……違和感を感じる、こいつは男じゃないと。

 先にフランス人の方が挨拶してくる。柔和な笑顔を皆に向けるが、俺は一番後ろの席から食い入るように観察していた。

 金髪を後ろに束ねて中世的な顔をしている。男にしては体が角張っておらず、スマートさが際立って見えた。

「お、男……?」

 誰かが声に発し、丁寧にデュノアが返事をする。

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて、本国より転入を――

「ちゃんとした、三人目の男子よっ!」

「根暗に見えないし、どっかの誰かとは全然違うっ!」

「美形の男子が二人もうちのクラスにいるなんて!?」

 拍手喝采で女子に迎え入れられるデュノアに対し、当たり前のように対比として俺が槍玉に上げられた。

 一瞬、昔みたいにぐれてやろうかと思考が過ぎる。教師二人は騒ぎを止めるために口を開く。

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

「み、皆さんまだ自己紹介が終わってません。静かにしてください~!」

 なんかこう、一言で表現するならヒトラーユーゲントみたいだな。

 もう一人の銀髪が姿勢を正したまま、微動だにせず立っている。肩より下に伸びた髪とナチ党みたいな黒い眼帯が特徴的だった。

 だが、独特の威圧感のようなものが、さらにその特徴を圧倒している。 背はシャルルより低いが、そんなことを感じさせない軍人のような印象を受けた。

「挨拶しろ、ラウラ」

「はい、教官」

 教官なんて呼んだってことは、前のどこかの教え子か?

 呼ばれた女子は織斑姉に素直に従っている。しかし織斑姉はめんどくさそうにしながら続きを喋りだす。

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒とかわらん。呼称は先生を使え」

「了解しました」

 自己紹介で随分と面倒臭い状態になってるな。

 ラウラと呼ばれた女子が織斑姉から生徒側を向いて俺らを見据える。

 へえ、随分蔑んで見てくれるじゃねぇかよ。

 姿勢を正すと、ただ一言だけ奴が自己紹介を始めた。

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「……。あの、以上ですか?」

「以上だ」

 しばらくの沈黙の後で山田先生が続きをうながすが、当人はきっぱりとそれを拒否した。

 続けて、ボーデヴィッヒは俺のことを指差しながら睨み付ける。

 なんでだよ?

「お前が教官の弟か?」

「はぁ? 髪の色が違うだろ。一夏は、お前の目の前にいるよ。なんだよ、片目のせいで見えにくいのか?」

 俺が指摘すると無言でこちらを更に睨みつけてきた。

「貴様、後で顔を貸してもらうぞ。お前が織斑教官の弟か?」

「そうだけど?」

 一夏が答えると、突然ボーデヴィッヒがその場で激昂しだす。

「貴様がっ!」

 パンッ

 すげぇな、綺麗に一夏の頬を叩きやがった。

 おいおい、いきなりなにやってんだよ……。

 綺麗な音が教室内に木霊す。

「いきなりなにしやがるっ!」

「ふんっ」

 一夏が怒って席を立つと、ボーデヴィッヒはそのままつかつかと無視して歩いていく。俺の横を通過していくと空いている席に無言で座った。

 そして、それは位置的に俺の真横になる。

「貴様、逃げるなよ?」

 ボーデヴィッヒが小声ですごみながら、こっちを見てきた。

 あとは、機械のようにして静かに前を向き続ける。

 俺にも平手打ちってか? そんなの絶対ごめんだね。

 俺はにやりと笑って先手を打ってやろうと手を上げた。

「先生、ボーデヴィッヒさんが部屋に忘れ物をしたそうです」

「なに、本当か市隈? ここに来て、まだ不慣れなのはしょうがないか。ラウラ、なにを忘れた?」

 いきなりのことにボーデヴィッヒが戸惑いながら俺の方を睨みつけてくる。その後、立ち上がって姿勢を正し織斑姉に答えた。

「いえ、なにも忘れていません。ん? な、そんなはずは!?」

「なんだ、なにか忘れたのか。ならば今すぐとりにいって来い。時間は厳守だからな、この後の授業には遅れるな。各自、着替えて第二グラウンドに集合だ。今日は二組とISの模擬戦闘を行うので、迷惑をかけないようにな。解散っ!」

 まあ、恥をかかすならこんなもんだろ。

 織斑姉はパンパンと手を叩いて先を促す。俺は手に隠し持っていたボーデヴィッヒの部屋の鍵を奴に向かって軽く放った。

 他の方を向いていた奴が、即座に反応してそれをキャッチする。なんてことはない、さっき俺の横を通る際にボーデヴィッヒから掏っただけのことだった。

「手癖が悪いのが特技なんだ。俺は急ぐんで、用があるならまた今度な」

「貴様っ!」

 一拍の間を置いてから激昂するボーデヴィッヒを無視して俺は席を立つ。そのまま奴から逃げるように教室の出口へ向かうと、いきなり後ろから襟首を引っ張られた。

「うぐぉ、誰だよ!?」

「私だが?」

 見ると、織斑姉が後ろに一夏とデュノアを従えていた。

 

 

 ― 2 ―

 

 

 織斑姉が後ろに一夏とデュノアを従えている。そのまま廊下に引き釣り出されると、やっと襟首を離された。

 喉の調子を確かめながら半眼で織斑姉を見る。ちなみに、俺を追いかけてきたボーデヴィッヒは、織斑姉を見て悔しそうに引き下がっていった。

「時間厳守じゃ?」

「織斑とお前で、デュノアの面倒を見ろ」

 二人で見る必要なんてないだろがよ。

 俺は嫌々な顔をしながら答える。

「一人で充分なんじゃないすか?」

「デュノアはお前のルームメイトだ、しっかりみてやれ」

 デュノアの部屋の割り当てが、なんで一夏でなく俺なんだよっ!

 くそ、強制的に決めやがって……。

 これが教員特権てやつなのか、次から次へといらないものを俺の頭に落としてきやがって。

「喜久、数少ない男子じゃないか。お互い助け合おうぜ?」

「あのなぁ……」

 俺は溜息をついてデュノアのほうを向く。

「ごめん、迷惑だったかな?」

 当たり前だ、フランス人。

「はぁ。着替えに行こうぜ、デュノア。それじゃ、急ぐんで」

 俺は織斑姉に礼を取ってから三人で歩き出す。そして、廊下の角を曲がったところで今度は女子の一群がやって来た。

 多分、デュノアを見に来たのだろう。俺はしょうがなく本人の手を掴んで早歩きをしだす。

「え、ちょっと!?」

「なんだよ喜久、おい!?」

 面倒を見ろと言われたのはデュノアだけだ、後は知らん。

 デュノアと一夏が戸惑ったように声を出した。

 俺は早歩きから、いきなりダッシュに切り換える。

「遅刻したくなけりゃ、一気に突っ切るぞ?」

「うわぁ!」

 俺は悪評のせいで周りの人だかりが十戒のようにして、廊下の真ん中を開いていく。しかし、一夏のほうで潮が引き返すように人間の壁が出来上がっていった。

 デュノアを捕まえられない分だけ全て一夏へ集中されていく。

「待ってくれ喜久、デュノアッ!」

「あ、え、あれ、大丈夫なの!?」

「先に行ってるぞ、一夏」

 後ろで薄情者とか叫ばれたが気にしないことにした。

 更衣室に到着すると、後ろから一夏が息切れしながらやってくる。

「たす、けて、くれたって、良いじゃんかよ……」

 俺は、水の入ったペットボトルを投げて渡す。一夏は蓋を回して開けると、それを一気飲みした。デュノアが思わず一夏に声をかける。

「大丈夫?」

「女子に群がられるのは俺のせいじゃないし。時間ないから早く着替えて集合場所行こうや?」

 扉を開けてロッカールームに入る。俺は適当なロッカーを開きながら、デュノアのほうを向いた。

「俺の呼び方は適当でいいから。なあ、呼び方はデュノアで良いのか? あとさ、デュノアってフランスの会社に同じような名前があるけど?」

「そうだね、僕の父はそこの社長だよ。呼び方は喜久でいいかな?僕のことはシャルルで良いし、織斑君もそう呼んでくれると嬉しいな」

「ああ、わかった。しっかし、社長の息子かー。道理でさ、気品みたいなもんがあると思った。シャルル、俺も一夏で良いからな?」

「……よろしくね、一夏」

 一瞬だけシャルルの顔が翳った気がした。

 そのまま目の前で奴の仕草を観察していくと、俺の中で核心だけが深まっていく。

 それにしても戦争屋の子供がご入学か、良い宣伝にはなるだろうな。

 そう思いながら上を脱いで着替えを取り出し始める。

「うわっ!?」

「どうした!?」

 なんか阿吽の呼吸みたいだな……。

 デュノアが叫び声をあげて一夏が反応する。くだらないことを考えながらシャルルのほうを向くと、奴は両手で顔を覆って下を向いていた。

「ごめん、なんでもないよ……」

「どうしたんだよ?」

 一夏は原因がわからず俺は理解できたために、やっぱりなと内心で溜息をついた。

 気づかない一夏もだが。シャルルもなんで、男装なんぞ馴れないことしてんだろうかと疑問ばかりが膨らんでいく。

「一夏に喜久さ。ちょっと向こう向いて着替えてくれない?」

「? いやまあ、人の着替えジロジロ見る気はないが……って、シャルルはジロジロ見てるな」

「見てないっ! 別に見てないよ!?」

 しょうがない、少しいじってゲロらせるか。

 一夏に指摘されたシャルルが慌てて否定する。俺は気にせず近くに歩み寄った。

「なぁに、女子みたいなことしてんだ、よ!」

 スパンッ

「ぎゃぁあっ!! いきなり、な、なにするんだよ!?」

 シャルルの尻を適当に叩く。すると、当たり前だが奴が泣きだしそうな顔をしだした。

 俺は気にせず言葉を続ける。

「なに言ってんだよ。野郎同士じゃ、こんぐらい普通だろ? なあ一夏?」

「う~ん、そうだな。まあ、体育会系の部活じゃ当たり前だな」

「ええぇ、そうなのぉ?」

 シャルルは情けない声を上げてその場に崩れ落ちそうになる。

「喜久、シャルルは慣れてないみたいだし。今後はそういうの、やめてやれよ」

「一夏あぁああっ!」

 そして、一夏の言葉に復活して心の底から喜んでいる。まるで飴と鞭みたいだ。俺はわかったよといいながら着替えを続けていく。すると、シャルルが慌てて一人だけロッカールームの反対へ移動しだした。

 俺はそれにかまわず反対側に聞こえる声の大きさで話を続ける。

「それより、一夏や俺の着替えだけで反応するなんてさ。シャルルって、同姓に欲情するタイプか?」

「……え?」

 俺の言葉に一夏がびっくりした顔をしてこちらを向く。すると、既に着替え終わったらしいシャルルが、真っ赤な顔して飛び出してくる。

「ゲイなら先に言っといてくれよ? 国や文化が違っても、俺は受け入れるからさ」

「ないっ! それだけは絶対にないっ!!」

 かなり必死の形相に一夏が引いてしまう。シャルルの猛烈な抗議に俺は笑いながら対処する。結局、見かねた一夏が止めに入った。

「おい、落ち着けシャルル。喜久、お前も煽るようなことすんな」

「つい、からかいやすそうなんでさ」

「つい!? ついって、どういうことっ!!」

 本当は早くぼろを出すか、正体を明かして欲しいんだけどな。

 シャルルを見ると、今のところはまだ耐えているように見える。俺は着替えを終えるとロッカーを閉めて扉の方へ歩き始めた。

「悪気はないんだ、それじゃ遅れないように行きますかね?」

「おい、ちょっと待ってくれよ。てか、シャルル着替えるのはやっ!! なんかコツでもあるのか?」

「い、いや別にって……、一夏は、まだ着替えてないの?」

 一夏は、まだ半分くらいしか着替えていない。時計を見て、これは遅刻確定だなと急いで授業に間に合わせることを諦めた。

 それにしても、どういう仕組みのスーツなのか年頃のシャルルの胸が殆ど平らだ。制服はわかりにくいが、どうやって胸を抑えているのか。

 着ている本人が苦しくなさそうなので、体系を隠せる機能に思わず感心してしまう。

「これ、着るときに裸だろ? 履こうとすると、引っかかるんだよ」

「ひ、引っかかって!?」

 俺がシャルルにしたセクハラより強烈だな……。

 気づいてない一夏のほうがわかっていない分だけ、発言がストレートだ。なので、シャルルは顔を真っ赤にしてしてもじもじしている。

「なあ、シャルル……。その行動じゃ勘違いされてもしょうがないぞ?」

 俺が言うと、はっとなったシャルルがこちらを向く。男連中の中に一人だけ女子が放り込まれると、こんな感じだろうか。

「だから、違うって!?」

「じゃあ、お前の好きな女子の好みのってどんなの?」

「えっ!?」

 俺がシャルルに質問すると、奴が戸惑った表情になる。

「え、えっと。優しい人かな……」

「そう言うお前はどうなんだ?」

 すると、着替えが終わった一夏が俺に話を振った。

「そうだな。乳と尻がでかいだけのお頭の弱い女かな」

「喜久、さいてーだね……」

 シャルルが死んだ魚のような目でこっちを見てきた。

 一夏も「なんだよそれ」とシャルルに追従していく。

「まあ、本当は違うけどな。そういえば、シャルルは向こうのエロいのとか持ってきてるか?」

「そんなもの、ここには必要ないでしょ。持ってきてないよ」

「持ってきてないってことは、持ってはいるんだよな?」

 阿呆だなこいつ……。

 なにもしていないのに、勝手にドツボにはまったよ。

 俺の回答に、もはや投げやりだったんだろう。シャルルは適当に答えたのが失敗して罰の悪そうな顔をしている。

「向こうってモザイクもないんだろ、過激なのも多いのか?」

「知らないよっ! 僕は先に行くからっ!!」

 ついにシャルルは限界を超えたらしく、キレて先に行くために走り出した。

「どうせ遅刻だしな。俺はゆっくり行くけど、一夏はどうする?」

「おまえ、シャルルを苛めすぎだ。あれじゃ嫌われるぞ?」

 そんなの知ったことかよ。

 一夏がシャルルの後を追いかけるが、俺は適当に欠伸をしながらグラウンドを歩いていった。

 

 

 ― 3 ―

 

 

 俺が歩いて集合場所にたどり着くと、既に授業が開始されていた。

 先に到着した一夏とシャルルが、集団に混じって織斑姉の話を聞いている。一番後ろに混ざろうとすると、織斑姉が授業を中断して俺を呼び止めた。

「市隈、お前が一番最後だ。何をしていた?」

「遅刻が決まっていたんで、諦めてゆっくり歩いて来ただけですけど?」

「お前は反省という言葉を知らんのか……」

 本人を見れば両手を腰に当てて溜息を吐いているのがわかる。

 まあ、織斑姉の中で俺の評価が駄々下がりだろう。が、もう既に底に着地してるだろうから落下のしようもないだろうな。

「市隈、これはお前のだろう?」

 そんなことを考えていると、織斑姉は手に収まるサイズくらいのものを俺に向かって軽く投げてくる。すかさずキャッチすると、手に重みが加わった。

 金属質の質感を手に感じて開いてみれば、ラファールの待機状態になっているアクセサリーが目に入る。

「ラファールの修理が終わったのでな。次は壊してくれるなよ。それと、お前には遅れてきた罰として模擬戦闘をしてもらう。良いな?」

 全然良くない、反抗したくてしょうがねぇよ……。

 だいたい、ISなんてもう持たなくて済むと思ってたのに。

 俺が嫌そうな顔をすると、織斑姉が軽く笑う。

「はぁ。イエス。で、相手は誰っすか?」

「お前が遅れている間に説明は既に終わっている。相手は凰とオルコットだ、お前の側には山田先生がつく」

「よ、よろしくお願いしますっ!」

 織斑姉に言われ、ISを装備したままの山田先生が律儀に頭を下げてきた。

 セシリアと凰は準備万端と言った感じで、俺と山田先生の方を見ている。そして、二人のやる気に当てられた俺はモチベーションがどんどんと下がっていく。

 あいつら……、なんか織斑姉に吹き込まれでもしたんか?

「鈴さん、喜久さんは気を抜ける相手ではありません。最初から全力で行きます」

「なによ、そんなに警戒しちゃって。喜久って、そんなに強いわけ?」

「やってみればわかりますわ。向こうは、山田先生と私が五人はいると仮定してください」

「へぇ、案外と歯ごたえがありそうじゃない」

 おいおい、五人分は過剰評価しすぎだろ……。

 前回、戦闘をしたことがあるセシリアは明らかに俺を警戒している。対照的に俺と対戦経験がない凰は、余裕の笑みを浮かべていた。

 そして、山田先生の扱いが軽く蚊帳の外に置かれていた。

 仮にも先生なんだから生徒より弱いわけないだろう。俺は酷い扱いを受けているなと感じながらISを展開すると、山田先生に話し掛けることにした。

「山田先生、俺が場をかき混ぜるんで。適当に後ろから、あいつ等を誘導して詰めてください」

「はい、わかりました」

 俺は山田先生へと戦闘に関するお願いしてISの状態をチェックする。別段変わったところがなく、特に問題もなく稼動するのがわかった。

 一通りチェックを済ませていると、音声センサーがシャルルと一夏の会話を拾う。

『ねえ、一夏。喜久が乗ってるのってリヴァイヴみたいだけど、彼って強いの?』

『それがさ、あいつがセシリアと試合した時なんだけどな。喜久の奴は最初だけ、わざと手を抜いててさ。真面目にやれば一方的過ぎて、千冬姉が止めてたけどな。初回からちゃんとやるのは今回が初めてじゃないか?』

 悪いな一夏、正直いって真面目にやるかどうかは悩んでる。

『あんなに変態なのにISを操縦するのが上手いなんて、なんかずるいね』

『うーん。あいつ普段は下ネタなんて、あんまり言わないんだけどな。あそこまでしつこいのって正直いって珍しいぞ。実はあいつも新しい男子が増えて浮かれてるのかも』

 あいつら、言いたい放題言いやがって……。

 浮かれてもないし、シャルルの中じゃ俺の格付けは変態で確定か。意識を切り替えて織斑姉の方を向くと、模擬戦開始の合図が出ようとしていた。

「始めっ!!」

 四人で一斉に上空へ上がっていく。俺は誰よりも早く動き出し、瞬時加速《イグニッション・ブースト》で凰の後ろを取ろうとした。

『甘いのよっ!!」

 凰が掛け声と共に両手にある斬撃武器見たいな二刀を連結して、一刀の得物を勢いよく振りぬいてくる。画面には双天牙月なんて名前が表示されていた。

「えっ!?」

「一つとったぞ? 俺は一夏みたいに直線的な動きはしないんだよ」

 瞬時加速《イグニッション・ブースト》からの二回目の瞬時加速《イグニッション・ブースト》で変則的な動きを加えて、双天牙月を避けきると凰の後ろへ完全に回り込む。

「それじゃな」

「ぐぅ!!』

 そのまま凰の背中に蹴りをお見舞いして反動を利用し加速する。続いてやって来たブルーティアーズの四つ分のビットとライフル攻撃をそのまま紙一重で避けきった。

 今度は垂直に上がってセシリアと凰から距離をとりつつスナイパーライフルを取り出す。眼下を見下ろせば、山田先生がスナイパーライフルの射撃で見事に二人の行動パターンを削っている最中だった。

 面白いように二人の逃げ道がみるみると消されていっている。しかし、山田先生が行なっている射撃を凰が強引に突破して俺の方へ向かってきた。

『喜久ぁあっ!! よくも踏んづけてくれたわねっ!!』

「あー、女子の怒った顔ってのはまさに般若だな。本当に恐いわ」

 俺は急降下してタイミングを計りながら一気に凰へと接近を開始する。さっき見ていたが、凰の奴は突破してくる際に山田先生に向かって肩から見えない砲弾を打ち出していた。

 傍から観察していて解ったことだが、撃ち出すまでにほんの少しラグがあるらしく時間を食っている。それならば、撃ち出される前に近づいて自分の得意な範囲まで詰めてしまった方がいい。

 咄嗟に俺の読みに気づいたらしい凰が再び双天牙月を構える。俺はそれにかまわずスナイパーライフルを逆さに振り上げながら、フルスイングの状態で突撃を敢行した。

 スナイパーライフルは射撃武器で打撃武器じゃない。結果として、当然だが切り結んだスナイパーライフルが、凰の双天牙月によって粉々に破壊されてその場で爆散した。

「くっらえぇええっ!!」

 凰が双天牙月を振りぬいた勢いで、一回転しながら切り込んでくる。しかし、その瞬間に彼女の腹部辺りで衝撃と爆発が起こった。

「が、ぐぅ!?」

 凰が驚いた顔をしてこちらのほうを見ると、俺は笑いながら瞬時展開した新しいスナイパーライフルを見せてやる。

「なんで、そんなに早い展開ができるんだって顔してるな。手品みたいだろ?」

 さらに瞬時展開で、もう一丁ほどスナイパーライフルを取り出して面射撃を敢行する。あまりに突然すぎる行動に凰が対応しきれなくなっているのがわかった。

「きゃあっ!!」

「ライフル一本壊したぐらいで、油断してんなよ?」

 殆ど間近にいた凰は、俺の面攻撃を両手で庇いながら防御一辺倒の体勢になっている。片手間にハイパーセンサで他の連中の位置を確認すると、山田先生がセシリアをこっちに誘導してきている最中だった。

「こりゃ詰んだな」

 急いでその場から離脱する。俺が凰から距離を取りきった瞬間、セシリアのブルーティアーズが凰の機体に激突した。

 お互い一瞬のことで判断が鈍っているのがわかる。案の定、凰は俺と勘違いしてセシリアを殴り飛ばしかけていた。

 山田先生はタイミングを見計らい、二人へ同時に当たるようグレネードを投擲する。

 ドンッ!!

 綺麗に命中する音と共に二人仲良く地面へ落下していく。激突して煙が晴れるとセシリアと凰が地面にめり込んでるのが確認できた。

 俺と山田先生はお互いを確認して地上へ着地し、俺だけISの展開解除を行う。

「アンタねぇ……。良いように誘導されてんじゃないわよ。しかも、ビットを早く出しすぎなのよ」

「そっちこそ、あれ程言ったのに。喜久さんに一撃も当てられていないではないですかっ! 完全に手のうちも読まれて衝撃砲も出せずじまいですしっ!」

 止めるのもなんか阿呆らしいな、ほっとくか。

 俺が呆れて見てみれば、そこではセシリアと凰の間でギャーギャーと責任の擦り付け合いが始まっていた。

 今更だが品格も何もあったもんじゃない。周りを見渡すとそこらの女子から笑い声が出ている。俺が一夏とシャルルの方へ近づくと、シャルルが意外そうな顔で見ていた。

「喜久って、本当に強かったんだね」

「その発言はどっから聞いて出た言葉だよ。俺は自分が強いなんて、一言も言ってないぞ?」

「ごめんな喜久、俺がシャルルに言ったんだよ」

 うるせぇ、こっちはお前らの会話を途中まで聞いてんだよ。

 俺はシャルルの背中に組み付くと軽くヘッドロックをかます。いきなりの行動に吃驚したのか、慌ててシャルルがその場でジタバタとし始めた。

「わ、なにするのさ!? ギ、ギブッ!」

「てめぇ、シャルル。なんでお前から見ると俺は変態なんだ?」

 そう言った瞬間、シャルルの顔が急に青くなった。

「お前らの会話はISを展開してる間だけ筒抜けだったぞ。言いたい放題だからって、勝手に言ってくれやがって」

 俺はシャルルを開放して、一夏を軽く睨んでから織斑姉の方を向いた。

 織斑姉は全員を前にして喋りだす。

「さて、これでIS学園にいる教員の実力は解ってもらえただろう。以後は敬意を持って接するように。専用機持ちは全部で五人か。専用機として貸し出している市隈を含めると六人だな。これから専用機持ち一人につき、十人のグループを作るように。各リーダーは専用機持ちが勤めろ。では、行動開始っ!」

 途端にものすごい勢いで迫る女子の群集によって俺が跳ね除けられる。専用機を持っていない女子たちは、一夏とシャルルに猛アピールをしながら群がって行った。

 二人はどうしていいかわからず、困惑して対応に追われている。そして織斑姉が溜息をつきながら頭を抱えていた。

「この馬鹿ものどもが……。出席番号順に1名ずつ各グループに入れっ! 次にもたつくようなら、今日はISを背負ってグラウンド百周させるからなっ!!」

 恐怖の怒声がグラウンド中に響くと女子たちが無言で迅速な動きを発揮する。二分もせずに整列すると、俺の前にはとても嫌そうな顔をした女子の一団がいた。

「最初からそうしろ。馬鹿ものどもが……」

 織斑姉のはごもっともな意見だな。

 他の奴らを見渡せば、わりと和気あいあいにやっている。無言の空間が吹雪いているのは、俺とボーデヴィッヒのグループだけだ。まあ、お互いが今更な光景だった。

 山田先生の指示で、俺と同じ型のラファールリヴァイブを女子たちが運んでくる。待機姿勢を取らせると、一同が嫌そうな顔をしながら俺のほうに寄ってきた。

「ああ、織斑君の方が良かった。なんでこんな奴に習わなきゃいけないの」

「デュノア君のところも楽しそう。今日は最悪な一日ね……」

「あなた、二人のことを知ってる限り私に提供しなさいよっ!」

 残りのメンバーも大体同じ言葉を口走っている。俺は首を軽く鳴らしながら、適当にやろうと待機状態のラファールに近づいていく。そして、やっぱりやってられないとばかりにその場で胡坐をかいた。

「雑談するなら練習に付き合う必要はないよな。俺は適当に休むし困らないから良いけど、あんたらはどうするの?」

「なによ、男のくせに生意気ねっ!」

「ふーん、だったら生意気な俺よりISの操縦が上手いよね?」

 しっかし、えらい嫌われようだな。正直ここまでだと付き合ってらんないよ。

「ちょっとぐらい動かせるからって、調子にのってっ!」

「俺、本当にもう休んでいいか?」

 俺は胡坐から雑魚寝へと姿勢を変更する。欠伸をしていると、後ろから肩を軽くタッチされた。

 振り返って見れば、貝田が俺を上から覗き込むような姿勢で立っている。

「あれ、貝田さんじゃん。グループ一緒だったっけ?」

「そうよ。良かったら教えてくれない?」

 女子が全員同じように見えていたのか、俺はまったく貝田の存在に気づかなかった。

 一人だけでも受け入れてもらえると少しは気が楽になる。心の中で彼女に感謝して、今度なにか奢って借りを返そうと思った。

「良いよ。ラファールに乗って、そのまま起動してくれる?」

「わかったわ」

「えぇ、ちょっと貝田さん!?」

 まあ、当たり前か。

 貝田の行動で女子一同が困惑し始める。彼女はラファールで乗り込んで立ち上がると直立の姿勢を取った。

「試験の時もそうだったけど、視線の高さが違うだけで面白いね」

「上手いじゃん。じゃあ、歩かなくて良いから、俺の手に掴まってくれる?」

 貝田が纏ったラファールの手を俺のほうに伸ばしてくる。

「これで良い?」

「じょうとうだよ」

 俺は笑いながら機械の手を掴むと、ゆっくりと左右前後にラファールをスライドさせ始めた。

 移動する感覚に慣れさせると今度は実際に歩いてもらう。そして一通りISに慣れさせてから俺は他の組とは違う事を提案した。

「それじゃあ、最後に軽く飛翔でもするか?」

「えぇ!? そんなの今日のカリキュラムにはないわよ?」

「そっちは何もしなくて良いから」

 俺はISを展開して貝田の後ろに回り込む。そして、彼女の腰回りに腕を軽く回して10メートルほどその場から飛翔していく。

「わぁあ、すごい……!」

「だろ?」

 貝田が子供のようにはしゃぐ。そのまま少しだけ静止してから俺はゆっくりと降下した。

 着地したところでタイミング良く織斑姉の怒声が聞こえてくる。

「市隈っ! 今日のカリキュラムに含まれていないことをするなっ!!」

「イエス」

 適当に答えて織斑姉のほうを向いて会釈する。他の奴らはどうかなと俺は一夏の方を見ると、奴は篠ノ乃をお姫様抱っこしていた。

 どうも前の奴が待機姿勢を取らずに降りたらしい。おかげで篠ノ乃は嬉しそうにしている。そのまま視線を動かすと、凰が悔しそうに歯をギリギリと鳴らしていた。

 あれは、一夏は後が怖いな……。

 そしてもう一人。セシリアが俺の方を向いて、いつでも刺してきそうな雰囲気を纏っている。俺は気にしないようにして貝田に待機姿勢を取らせつつラファールから下りるようにお願いしていく。空を飛んだことに感動したのだろう、貝田が嬉しそうにして俺から離れていった。

「それじゃあ、次に飛びたい人いる?」

「え、先生にさっき怒られたばっかじゃない。貴方、なに考えてんの?」

 まあ、当たり前だわな。

 俺が適当に話すと聞かれた女子達が怪訝な表情をする。

「俺はどっちでもいいよ。でも、ISに乗れる時間は限られてるしな。少しくらい他のやつより無理してやんなきゃ、どんぐりの背比べで終わっちまうだろ? 上手くなるなら貪欲にならなきゃな。俺がサポートする限りは、怪我をさせるつもりはないし。制限時間はあの軍曹が俺の頭に拳固を落とすまで。誰からやる?」

 みな一様に黙っていたが、一人が耐え切れずにその場で笑い出す。

「ぷ、軍曹って。貴方、先生に怒られるわよ?」

「拳骨が落ちるのがあんただけなら、やってやっても良いわよ?」

 限られた時間だけ、貪欲に。エリート思考の女子達へと煽りを入れていく。それに反応した何人かは、俺のやり方に同意した。

 ――ISは嫌いだが、この学園に来てから少しだけ考えを改めることにしたことがある。

「そんじゃ、始めますかね。まずは起動からやってみようか?」

 それは、ISを乗りたいと思う人間を否定してはいけないと感じたことだ。ここで出来た友人は俺と違ってみんな素直で良い奴ばかりだった。

それを否定すんのは、なんか小門が違う気がする。だったら協力してやるほうが筋だろうと考えた。

 俺は名前も知らない女子に行動を促して、練習用のラファールを起動させた。

 

 

     ◇

 

 

 結局のところ、授業中に無理やり最後のメンバーまで俺は飛翔させた。

 しかし、その間に織斑姉からは頭に三発、減らず口を叩いて顔に一発の拳骨をもらう。なので、目下二箇所からの痛みに耐えている。俺が無理やりやったことにしたので、女子達の分もこっちに集中していた。

「一人の馬鹿が暴走したが、お前達は絶対に真似をするな。お前だぞ、市隈っ! 今度こんな真似をしてみろ。お前にだけ、特別メニューを加算してやる」

「イエス」

 面倒臭いので適当に答える。こっちを見ていた織斑姉は俺から生徒全体へと向き直った。

「では、午前の実習はここまでだ。午後は今日使った訓練機の整備を行うので、各人収納庫に班別で集合すること。専用気持ちは、訓練機と自機の両方を見るように。では、解散っ!」

 しかし重いよこれ、人力とかって明らかにおかしいだろ……?

 俺は後片付けで織斑姉に指示された通りにIS用のカートで訓練機を運んでいく。面倒臭さを感じながら周りを見れば、みんな同じように運んでいた。

 同じ班の女子達に任されたとはいえ、くだらないくらいやってられない。やる気がゼロの俺はISを展開してカートを押し始める。すると一夏から非難の声が飛んで来た。

「おい喜久、普段のIS展開は禁止だろ?」

「楽なほうが良い、ばれなきゃ良い、共犯者が多ければ怒られかたが分散するので、なお良い」

 反省なんて、はの字もない。俺はカートをすぐさま運び終えてISを粒子化する。後はシャルルと一夏を待つだけだが、シャルルは他の力がありそうな女子数人に運んでもらっていた。

 一夏はうらやましそうにそれを見ている。そして、俺に「ズル野郎」と嘆きならISを目的の場所へ運んでいく。

 あいつは本当に真面目だな。

 ISの状況を確認していると、一夏が訓練機を運び終えていた。

 俺は作業を終えて一夏のほうへ歩いていく。

「そんじゃ、戻って飯にしますか?」

「そうだな。もう、いい加減にくたくただ」

 二人してシャルルの方へ歩いていくと本人はまだISの確認作業中だった。シャルルは作業を中断して、こちらへ振り向く。

「一夏に喜久さ。僕はちょっと機体の調子を少し見たいから、先に行っててくれないかな?」

「良いよ、終わるまで待ってるから。早く終わらして飯くいにいこうぜ?」

「そうだな。少しくらい時間も余裕あるだろ。シャルル、後どのくらいかかる?」

 俺の返答にシャルルはどう答えたものか、少しの間が空く。一夏は何気なく、俺は理由を知りつつ聞いた。

 おおかた着替えを見られたくないんだろう。

「まだ少しかかりそうかな。本当に大丈夫だから、二人とも先に教室に行っててよ」

「ああ、まあそれなら。それじゃシャルル、できるだけ早く来いよ。行くか喜久?」

「そうだな。シャルル、ほらよ」

 持ってきていたドリンクとタオルをシャルルに放って渡す。それを見た一夏が驚いた様子で見ていた。

「お前、それどこから出したんだよ?」

「授業に来るさいに持ってきといてグラウンドの端に置いといた。まあ、飲み物の方は外気で温くなってるけど。陽射しは直で暑いし、これくらいないとやってらんないよ。シャルル、ボトルは適当に捨てといてくれればいいし、タオルは適当にそこらへ放っといてくれ。あとで回収しとくから」

 もともとは自分が飲みたいから用意してたんだけどな。まあ、それは言わぬが華だろう。

 シャルルの奴は信じられないといった目で俺の方を見る。しばらく鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたが、やがて笑顔に変わった。

「ありがとう、喜久」

「またあとでな。行くか一夏?」

「そうだな」

 俺と一夏はシャルルから離れて教室へと歩き出した。

 

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