ln   作:kiarina

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[NumberingTitle_噴出ス業_厚イ壁]

 

_5/_

 

 

昼食後の休憩時間、俺は自室の部屋で休んでいる一夏へと声をかけた。

 

「一夏、お前は本当に馬鹿だな。なんであんな安い挑発に乗るんだよ?」

「普通、あれだけ言われて黙ってられないだろ。それよりも喜久の方が言い過ぎだったんじゃないか?」

「そんなもん、売り言葉に買い言葉だろ。こちとら、あんな馬鹿女は相手にしてらんねぇんだよ」

 

言いすぎもなにも、吹っかけてきたのは向こうが先だ。俺はやってられないとばかりに肩を竦める。一夏は話を切り換えて、奴自身が疑問に思っている別のことを俺に聞いてきた。

 

「なあ喜久、国家代表ってやっぱり強いのか?」

「たしか更識がロシアの国家代表だろ。だったら最低でもあれクラスか、それ以上だと思っておけば良いんじゃないの?」

 

相手の実力が少し理解できたのか、一瞬で一夏の顔が青くなる。きっと、普段の更識から受けてる訓練の厳しさを思い出したのかもしれない。最終的には体が溶けるように、その場でぐったりとしだした。

 

「俺は全く勝てる自信がなくなってきた…」

「そんなに勝ちたきゃ、相手がISを展開する前に雪羅の砲撃で吹き飛ばしちまえば良いじゃん」

「駄目に決まってんだろ!! 喜久、なんでお前はいつもそんなに卑怯なんだ…」

「一夏が勝ちたいって言ったんじゃねぇかよ。大体な、俺は―――

 

テゥルルル テゥルルル テゥルルル テゥルルル

 

突然、俺の言葉を切るようにして部屋の備え付け電話が鳴り出す。一夏より俺のほうが位置的に近かったので、そのまま受話器を手に取って応対した。

 

テゥルルル、プッ

 

「はい、市隈です」

『寮の管理課の者です。一階のロビーでお客様が待っておられますので、来ていただけますか?』

「客? それって誰ですか?」

『14、5歳くらいのお嬢さんですね。0211と市隈さんに言えば、本人は解るとおっしゃられているんですが』

 

ち、米軍かそれに近い関係者かよ。リアムの場合は直に連絡を寄越すから白だしな。しかし、少女ってのは一体…?

0211は俺が引き起こした事件のコード名だ。そんなものを呼び出しの引き合いに出す人間が、取り合えずまともな奴じゃないことだけは理解できた。

冷静に対応して電話の向こうに喋りかける。

 

「今すぐに降りていきますんで、そのまま待ってもらえるように言ってください」

『わかりました。お客様には、市隈さんの言ったように伝えておきますね』

「よろしくお願いします」

 

電話の受話器を片すと、一夏が俺のほうを怪訝な表情で窺ってくるのが解る。それに俺は軽く笑って、ベッドに放り投げていた制服の上着を着ながら対応した。

 

「喜久、誰からの電話だったんだ?」

「ああ、お前が気にすることじゃねぇよ。俺はちょっと出てくるから、後は適当にやっといてくれ」

「本当に問題ないんだな?」

「大丈夫だ、お前は心配性なんだよ。今は俺のことより、あの馬鹿女にどうやったら勝てるかどうかだけ考えとけば良いだろ?」

「まあジタバタしてもしょうがないからな、やるだけやってみるよ」

 

俺は一夏に軽く手を振ると、貴重品だけ持ってそのまま部屋を後にした。

 

 

_\|/_

 

 

…予想が外れたな、てっきり男だと思ってたが。これが、織斑 マドカがいってた俺と同じ顔の奴か。

寮のロビーで、いくつか年下の少女が立っている。そして俺と同じ顔をした奴は、こっちに気づくと嬉しそうに恭しく一礼して挨拶をしてきた。

 

「あらぁ、予想以上によく似てるわね。初めましてお兄ちゃん、私の名前はクラーラ=ペローフよ」

「市隈 喜久だ。一人で堂々と敵地に乗り込んでくるなんて随分と余裕だな?」

「やあねぇ、なにいってるのかしら?」

 

クラーラがとても嬉しそうに笑いながら髪をかきあげる。

 

「ここじゃあ、どれだけの人間が束になろうと誰一人として私には勝てないわよ」

「どういう意味だ?」

「クスクス、そうねぇ。まあ、ブリュンヒルデだったら、もしかして案外と良い線いくんじゃないかしら。有限実行って大切よねぇ、なんなら今からこの場所にいる全員を殺し尽くしてあげましょうか?」

 

ち、篠ノ乃 束といい。目の前の奴といい、どっちも似たり寄ったりで思考性が狂ってやがる…。

オーストラリアの基地が壊滅したといった更識の言葉が頭に過ぎった。

危険は直ぐにでも遠ざけるべきだ。俺は相手の手札が見えないことに内心で歯噛みしながら、クラーラに対して出来るだけ平静を装う。

 

「いんや、そんなことをする必要はないだろよ。わざわざご足労いただいたんだ、そっちの用件を聞いてやる。ここまで尋ねてきた目的はなんだ?」

「素直な人は好きよ。そうねぇ、まずはここから離れましょうか? せっかく兄妹が会ったのだし、外で気軽にお話をしましょう。さぁ、エスコートの時間よ?」

 

クラーラが近付いてくると、そのまま横に並んで片腕を俺の腕に絡みつけてくる。ずいぶんとオープンな性格に俺は内心でどうしようかと思考を巡らせた。

 

「あらん、よっちゃん。顔が随分と似てるけれど妹さんが尋ねて来られたの?」

 

ち、どっから湧いてきやがった…。

いきなり後ろから更識の声が聞こえてくる。後ろを振り返ると、奴は嬉しそうにしながらしながらクラーラのほうを向いていた。

 

「可愛い妹さんね~、おねーさんの名前は更識 楯無っていうの。貴方のお名前はなんていうのかしら?」

「初めまして、クラーラ=ペローフよ。ねぇ、貴方も今はお暇なのかしら?」

「更識、悪いが取り込み中だ。お前は邪魔だから、さっさとどっかへ行け」

 

これ以上、目の前の悪魔《クラーラ》みたいな人間に他人を寄せ付けるわけには行かない。俺は苛立ちを全面に出して更識へ警告する。しかし、本人は冬の旅行で俺が話した内容からクラーラの素性がわかっていた。

考え無しな発言をした過去の自分を殴り飛ばしたくてしょうがない。

 

「そんな邪険に扱うなんて、よっちゃんたら薄情ね~。ねぇ、クラーラちゃん。おねーさん、美味しい料理が食べれるお店を知ってるのよ。ご一緒して良いかしら?」

「ええ、是非とも。お兄ちゃんのお話も聞きたいわ、なんせ離れ離れで生まれて初めて会えたんですもの。一杯色んな話を聞いてみたいし」

 

…更識、お前は俺をそんなに困らせたいのか?

今すぐに目の前の馬鹿も殴り飛ばしたくてしょうがない。クラーラが嬉しそうに笑いながら更識と話す姿に嫌気が差す。

 

「おい、更識。三度目はないぞ? うざってぇんだよ、これ以上関わるな」

「いけずね~、サーフォちゃん。亡国機業の人がわざわざ遊びに来てくれたのよ? 生徒会長としては最大の御もてなしをするべきだわ。ねぇ、クラーラちゃんもそう思うでしょう?」

 

こいつ!?

更識が俺の昔の名前と、わざわざ伏せていた名前をあっさりと口に出す。途端、クラーラの表情が更に嬉しそうになった。

 

「その名前を知ってるのであれば、私も演技をする必要が省けて助かるわぁ。ところで、貴方は専用機を持ってるのかしらぁ?」

「ええ、勿論よっ♪」

「なおさら好都合ね、それじゃあ外に出かけましょう。貴方とお兄ちゃんのことをよく知りたいわ。ねぇ、お兄ぃちゃん?」

 

クラーラのにんまりと笑う顔がどこか歪んだように感じる。俺はなにもかも台無しにしてくれた更識に引き返させることを諦めた。

 

「…ああ、俺としても聞きたいことが山ほどある。更識、今さら後悔しても手遅れだからな」

「後悔なんて私の辞書には存在しないわよ? 良いお話が出来ると良いわね」

「て、おい!? 歩きにくいんだよ、さっさと離れろ!」

「あらん、妹さんだけだなんてずるいじゃない? おねーさんも甘えたい時があるのよん」

 

クソが!! 俺は一夏じゃねぇんだよ! 人を玩具にすんじゃねぇ!!

更識が意味不明な言葉を吐いて、俺の空いていたもう片方の腕に奴の腕が絡みついてくる。するとクラーラが意外なものをみたような顔した。

 

「あらぁ、意外ともてるのねぇ。貴方はお兄ちゃんの彼女なのかしら?」

「ええ、そうよ。ね、ダーリンっ♪」

「おい、いい加減にしろ更識…」

 

そういった誤解を招くような嘘を平気でつくんじゃねぇよ…。

更識のせいで、敵対者のクラーラを相手している以上に疲れきってしまう。俺はうな垂れながら連行される囚人のように、少し引きずられるようにして歩き出した。

 

 

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一夏が自室で休んでいると、部屋の出入り口に設置してあるドア越しに鈴の声が聞こえた。

 

「一夏、アリーナに行く時間よ」

「迎えに来てくれたのか、ありがとな鈴」

 

準備を済ませてドアを開けると専用機持ちの面々がいる。彼がドアを閉めると皆一様に苦笑いしているのがわかった。

一夏がそれを疑問に感じたが、箒が新たな情報を伝えるために話し掛ける。

 

「一夏、先ほど山田先生に聞いたのだが瀬名川さんは前回のモントグロッソで二位だと言っていたぞ。しかも昔は織斑先生から直に鍛えられてたんだそうだ」

「え! 箒、それ本当か!?」

「精々揉まれるしかないな…」

 

箒の遠い目が一夏の精神を圧迫した。

 

(あの人って、そんなに強かったのかよ…。それに、千冬姉が鍛えてたってことは変な話が俺の姉弟子にあたる人になるんじゃないのか……?)

 

喜久が言っていた不意打ちのやり方を思い出すが、そんなことをしても簡単に回避されてしまいそうだと一夏は思わず心の中で唸る。横でその姿を見ていた簪は、うな垂れている彼へと励ましの言葉をかけた。

 

「…一夏なら勝てる。…頑張って」

「ああ、ありがとな簪」

「一夏、そういえば喜久はどうしたの?」

 

シャルロットが違和感を感じて一夏に話し掛ける。

 

「あいつなら、なんか人が訪ねてきたから先に部屋を出たよ」

 

一夏の何気ない言葉が気になり、セシリアもシャルロットと同じように喜久のことを聞く。

 

「珍しいですわね、お姉さまが訪ねられて来られるだなんて」

「いや、そんな感じじゃなかったぞ。それに急いで部屋を出てってたし」

 

ピクリと、セシリアと一夏のやり取りを聞いていたシャルロットの眉間に一瞬だけ皺が寄る。そしてその場で少しだけ考えた後で、彼女が少し焦ったようにセシリアを誘いだした。

 

「セシリア、僕は喜久を追いかけるけど一緒に行く?」

「どうされたのですか、シャルロットさん?」

 

セシリアは、きょとんとした表情でシャルロットの方を見る。シャルロットが小声でセシリアにだけ解るように耳打ちして説明をしていく。

 

「喜久がまた一人でなにかやろうとしてる気がするんだ。嫌な予感がするし、このままだと危ないかもしれない」

「わかりましたわ、ご一緒させて頂きます」

 

喜久はいつも一人で先走る癖があることを二人はよく知っている。そのために会話が少量で成り立ち、まるで阿吽の呼吸のように息が合う。シャルロットがセシリアが一夏へと断りをいれた。

 

「一夏、ごめん。ちょっと僕とセシリアは喜久を探しに行ってみるね」

「一夏さん、申し訳ありません。国家代表は強敵ですが、一夏さんでしたらきっと勝てますわ」

「ありがとな、精一杯あがいて頑張ってみるよ。喜久は一階のロビーの方へ行ったぞ」

 

一夏は手を振って彼女たちと別れる。今は自分のやるべきことをやる、深呼吸を一回だけして彼は再び歩き出す。目指べき世界第二位の実力者がいる応接室へと。

 

 

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男性操縦者の織斑 一夏と日本国家代表の瀬名川 裕香が模擬戦を行なう。そんな情報が、たったの一時間もしないうちに学園中で広まった。

放課後の第三アリーナは既に活気で満ちている。卒業生でも興味がある者は帰国フライトの時間や帰宅時間を遅らせてでも残って観客席に座り見物をしに来ていた。

そんな中で一夏と裕香の二人がアリーナの中央で話し合いをしている。

 

「一夏君、君の白式は第二移行《セカンドシフト》をしていると聞いたわ。どう、未だに機体を使いこなせず振り回されているんじゃないかしら?」

「そうですね。まだ、扱いきるには時間が掛かると思っています」

「それだったら私との模擬戦が良い参考になると思うわ。私の機体は打鉄がベースの改良型第二世代機なのだけれど、第二移行《セカンドシフト》をしているから君と同じ状態なのよ」

「わかりました、よろしくお願いします」

 

一夏は裕香から少し離れると、その場で自身の相方となるISへ呼び掛けを行ない始める。

 

「来い、白式!」

 

人体が白の装甲に覆われていき、白式を展開しきるとその場で停滞をしだした。

瀬名川はその様子をじっと観察すると、思わず少し笑いそうになる。

 

(思っていたよりは展開速度が速いわね。最低ラインはクリアというところかしら? しかし、掛け声とポーズを見ると子供が喜びそうなヒーロー番組みたいね)

 

一頻り心の中で感想を述べた彼女が片足を軽くトントンとついて、リズムを取るようにした後で姿勢を整えた。

 

「お出でなさい、天照《あまてらす》」

 

(展開が早い!?)

 

そして、それを見ていた一夏が次の瞬間に驚愕する。

裕香が掛け声をかけた後に、一瞬でエメラルドグリーンの装甲が彼女を覆う。それは、普段喜久が瞬時展開する速度よりも更に早いものだった。

世界上位クラスの実力を見た一夏が今の自分と比較して相手との力の差を知る。

 

(これが、裕香さんのISか)

 

天照と呼ばれたISはスカート部分が長く、足を覆うようにして六枚の装甲で覆われている。先端の部分にある形状から六枚全てにスラスターがついているのが一夏には理解できた。

逆に上は装甲がすっきりしていて、左右には丸い球体上のものが浮遊している。そして、明らかに斬撃武器だとわかる雪片弐型のような武器を裕香が右手に携えていた。

お互いが距離を取ると、彼女は一夏に喋りかける。

 

『一夏君、君は故事に強いのかしら?』

「はい! 全くもって苦手です!!」

『ぷぅ…、あはははは! そんな正直に言わなくて良いのに実直なのね。君は面白い子だわ、少し気に入ったわよ』

「あれ、俺ってなんかおかしなこと言いましたか?」

 

裕香は一夏の生真面目な性格に、思わずその場で笑い出してしまった。

仕切りなおしとばかりに、彼女が剣を下段に構える姿勢を取る。ブンッとレーザーの刃が光りだすと、柄の下側も同じように短いレーザーの刃が浮かび上がった。

 

『先攻を君にあげるわ、好きなタイミングでかかって来なさい。それとヒントを一つ、これは天叢雲剣《あめのむらくものつるぎ》というの。後は二つだけ装備があるんだけど、それを想像してから攻撃してくることをお勧めするわよ?』

「はい!」

 

一夏は勢いよく返事をするが、頭の中では謎かけのような裕香の言葉がまるで理解出来ない。

 

(う~ん、今言ったのって三種の神器とかいうのだよな。じゃあ後は勾玉と鏡か? どういった意味なのか、さっぱりわからないぞ…)

 

「行きます!!」

 

そして、結局は彼女のヒントを活かせずに突進を開始した。

白式の機動性をフルに使用すると、一気に間合いを詰めて雪片弐型による斬撃を放つ。裕香は下からの切り上げで対応すると、そのまま雪片弐型の斬撃を横に逸らすようにして防御する。

 

ガッ!

 

「ぐっ!!」

「無駄な動きが多いわね、相手の得物から間合いを計ることはとても大切なことよ?」

 

そして彼女は柄の下から出ているレーザーの刃で峰打ちのような攻撃を一夏に腹部に入れた。

間合いが余りにも近すぎるために、相手からの連続的な攻撃で雪羅の起動時間が足りない。さらに裕香からの上下一回転による踵落しが彼の肩に炸裂する。

 

「がぁっ!?」

「とどめよ」

 

ズンッ!!

 

最後に盛大な突きが一夏の腹部に激痛と機体ダメージを蓄積させた。

アリーナ中から歓声が沸く。模擬戦の試合が始まって、たったの一分と経たずに一夏と裕香の圧倒的な力の差を見た生徒たちが驚きの声をあげる。アリーナの観客席にいた専用機持ちのメンバーも集中して試合を見守っていた。

 

「くそっ!!」

 

間合いを出来るだけ離して一夏がダメージを受けた腹部を抱える。余りにもある差が彼の疲労感を増大させる。

 

(強い…。これが国家代表か。だけど、俺だってまだやれる!!)

 

『これは序の口。さて、ここから本番を行かせてもらうわよ?』

 

今度は裕香が天照を駆って一夏に突進を仕掛けてくる。そして、途中で一気に加速して急接近してきた。

 

(瞬時加速《イグニッション・ブスート》!? いや、違う!?)

 

一夏は天照のスカート部分にあるスラスターが全て全開稼動状態になったのを予測する。先ほどの連撃を予想して雪羅のバリアシールドを張りながら、二撃目用の対策として雪片弐型も防御用に構えなおした。

ヂッと、掠るようにして裕香の斬撃による攻撃が一夏の雪羅で防御される。裕香が速度を落としきらずにそのまま彼の目の前を突っ切って行った。

 

(く、なんだ今の牽制は!? ……ハイパーセンサーが反応しない!?)

 

一夏の内心で衝撃が走る。白式のハイパーセンサーが裕香の位置を感知できない。次の瞬間、不敵に笑っているような彼女の声が聞こえた。

それも一夏の真後ろからだ。

 

「勾玉は陰を司るって聞いたことが無いかしら?」

 

ザンッ!!!

 

「があぁあっ!!!」

 

背後からの防御できない無防備な状態を鋭い斬撃が襲う。背中への強烈な一撃が白式のエネルギーを一気に削り取った。

裕香が再び距離を取って一夏から離れる。彼女は構えの姿勢を取ると片目を瞑り、一夏に向かってウィンクの仕草をした。

 

『種明かしをするわ。私の肩あたりで宙に浮いてる球は相手のセンサーに引っ掛からないようにする対IS兵器で、八尺瓊勾玉《やさかにのまがたま》よ。来なさい、やられっぱなしじゃ面白くないでしょ?』

「もちろんです!!」

 

一夏が吼えるようにして叫びながら白式を駆って突撃をしだす。裕香は中段の構えをして彼の様子を見ているが、あるところで一瞬だけ緊張が走った。

白式が瞬時加速《イグニッション・ブスート》から、さらに瞬時加速《イグニッション・ブスート》をかける。ここまでは彼女の予想範囲内だったが、一夏はその先を更に行なっていく。

 

(ぐうぅ!! 反動が強すぎる!? まだだ! それでも、もう一回だけやってやる!!)

 

白式が三回目の連続瞬時加速《トリプル・イグニッション・ブスート》をかける。ビキリと体中に空気抵抗や圧力の負荷がかかるが、それを強引に気力で捻じ込んだ。白式がランダム軌道のような動きで裕香の天照へと一気に詰め寄る。

 

「うおおおおぉおあああ!!!!」

 

ガァンッ!!

 

「くっ!!」

 

裕香が油断していたこともあり、一夏の助走がついた威力のある斬撃がまともに天照へと入る。が、寸でのところで裕香は天叢雲剣《あめのむらくものつるぎ》を使い防御した。

一夏が発汗した汗を顎から垂らし、体が酸素を求めて息をあげる。裕香はとても嬉しそうにして一夏のほうを見た。

 

『面白いわ、肉を切らして骨を絶つ行為なんて』

「これで、ぐ…、一矢は報いましたよ…」

『ええ、そうね』

 

裕香が構えを解いて一夏からゆっくりと、もとからあった距離を更に離していく。そして、あるところでぴたりと停止した。

 

『礼には尽くさなきゃね、お礼に面白いものを見せてあげるわ。これが天照だけの唯一使用《ワンオフ》の《・》特殊能力《アビリティー》、八咫鏡《やたのかがみ》よ』

「な!?」

 

天照が突然発光した次の瞬間、いきなり三機に分離して宙に停滞しだす。そして最終的に八機まで分離すると、八人の裕香が搭乗した状態で各々違う剣の構えをし出した。

一夏に向かって其々の裕香が不敵に笑いながら、重複音のような喋り方をしてくる。

 

『さあ、どれか一つだけが本物よ。七つは特殊なフォログラフィーによる虚像の投影、君には見分けがつくかしら?』

 

八咫鏡《やたのかがみ》が司る日である陽は自身の像を照らし出す。八尺瓊勾玉《やさかにのまがたま》が司る月である陰は自身を隠していく。虚像の投影兵器と対ISステルス兵器が揃う時、陽陰の交じり合ったが如く天照がその本領を発揮する。

 

(全然わからない…、くそ! どれだ、どれが本物だ!?)

 

『行くわよ!!』

 

一夏が混乱した五分後、天照の攻撃を一方的に受けつづけた白式の残量エネルギーがゼロになった。

 

 

_\|/_

 

 

アリーナの控え室で二人の人間がベンチに座っている。一人は瀬名川 裕香、もう一人は織斑 千冬だった。

千冬が微笑みながら裕香に話し掛ける。

 

「で、うちの馬鹿はどうだった?」

「一言でいってしまえば、まだまだですね。あれでは千冬先輩の足もとにも及びません」

「そうか。まあ、これであいつも今の自分の実力がよく解っただろう」

「…でも、正直一回だけひやっとさせられた場面がありました。常人より吸収力があるのであれば、今後なにかの切欠で彼は間違いなく化けます。今の年齢でこのまま行けば、ISも第三移行《サードシフト》まで行けるかもしれません」

 

千冬は苦笑いになると、裕香は既にシャワーで洗っていた水濡れの頭をタオルで拭き始める。

 

「裕香、それは買いかぶり過ぎだ。くく、しかしな。市隈には声の掛けかたを気をつけろと言っといたはずだが?」

 

うっと裕香の顔が苦虫を噛み潰したような感じになった。

失敗をした子供のようにいじけた表情をして情けない顔になる。

 

「…それは反省してます。男の子は挑発すれば乗ってくると相場が決まっているんですけどね、あの子に関しては逆効果でした。それにしても! あそこまで言われたのは初めてです!! なんなんですかあの子は!?」

「昔のお前にそっくりだろ?」

 

裕香は悲鳴とも抗議とも取れるような言葉を口にした後で、千冬の指摘に対して更に嫌な顔をする。そして、視線を逸らしたようにして居たたまれないような表情になった。

 

「千冬先輩、それは忘れてください…」

「世界一位の強さなんて、所詮は風評。ブリュンヒルデなんてたいしたことないと言ったお前の言葉が懐かしいものだ」

「お願いですから辞めて下さい!!」

 

顔を真っ赤にして抗議の声を上げるが、直ぐに消沈したようになる。裕香は千冬の前や親しい人間の前では表で出すような棘がなくなるタイプの人間だった。

 

「そう怒るな。まあ、あいつもお前と同じ眷属といったところだろう」

「千冬先輩、ひどいです…。まあ、確かに…。私も昔は上の方に反抗し続けてましたからね。真耶を無理やり付き合わせて、夜遊びして次の日には盛大に怒られたのなんて今では良い思い出です。彼、市隈君もそんな感じなんですか?」

「あいつの場合はそれ以上だな。全く、手を焼かされる」

 

今回の裕香が一夏と喜久に行なった挑発行為はわざと強く行ったものだった。

それは、千冬が日本国家代表である裕香に一夏と喜久の実力を測って欲しいと頼み込んだから起こった出来事となる。誘い方を裕香に任せたのだが、まさか喜久まで挑発するとは思っていなかったのが千冬の失敗した部分になってしまう。しかも裕香が逆に言い負かされるといった出来事に、彼女は思わず吃驚してしまった。

千冬が髪をドライヤーで乾かしていた裕香に話し掛ける。

 

「今日はすまなかったな、また良かったら二人のことを見てくれると助かる」

「千冬先輩の頼みは断れませんからね、了解しました。はぁ、私はあの市隈って子は苦手ですね…。いくらなんでもババアは酷すぎです…」

「そう、うな垂れるな。市隈は口が達者な奴だからな。裕香、今日はもう戻るのか?」

「ええ、用事も済みましたから帰らせてもらいます。また今度遊びに来させて頂きますね」

 

裕香が髪を整え終わると、千冬が座席から立ち上がり二人で控え室を後にした。

 

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