ln   作:kiarina

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10-6-7

[NumberingTitle_新ジェノサイドリッパー_其々ノ戦場(上)]

 

_6/_

 

 

夕食時、ラウンジにいる生徒たちの間では今日の模擬戦の話題で持ちきりとなっている。お互いが専用機を有して戦った試合だったが、国家代表が一夏に対して圧倒的技量の差で勝ちを収めた。

「やっぱり国のトップはすごい」と、そんな声が各々のテーブルから聞こえてくる状態だ。専用機持ちの面々で食事をしているテーブルでは、一夏が盛大にへこんでぐったりとしていた。

食欲がなく、当たり前だが箸もまったく進まない。

 

「専用機の武装を抜きにしても、あんなに強いなんてな。瞬発的な動きが速いし、今日は本当に良い勉強になったよ…」

 

昼間の模擬戦を思い出す。一番最初に一夏が切り込んだ際、殆ど密着していた状態で裕香から三連撃のような攻撃を受ける。動きの早さもさることながら、ISを熟知し生身の手足のようにして機体を稼動させていた。

彼は自身のIS操縦技術がまだまだなのだと痛感する。

 

「情けないぞ一夏、男なら弱音など吐くな」

「そうは言ってもな、箒。あれじゃ、避けようがないしな」

「考えなしに飛び込む、お前が悪いのだ」

「うう…」

 

箒の駄目だしでさらにへこむと、彼はテーブルの上に顔を乗せる。

 

(それにしても、なんで喜久はいつもあんなに連続で瞬時加速《イグニッション・ブースト》を使用して体が平気なんだ?)

 

一夏が模擬戦で行った三連続《トリプル・》の瞬時加速《イグニッション・ブースト》、それは普段喜久が行使している技術だった。

授業の中で実践訓練を行う際に喜久はISの燃費を考慮しながら連続で瞬時加速《イグニッション・ブースト》を行使している。そして、これが彼の強みとなって対戦で相手を翻弄し勝利していた。

一夏もぶっつけ本番で初めてこの技術を行使する。しかし、結果は散々であり今も体に痛みが残っていた。

 

(しょうがない、今度本人にコツがないか聞いてみるか…)

 

一夏が考えていると、他のメンバーの声が聞こえてくる。

 

「しかし、流石は第二位といったところだな。あの動きは見事としか良いようがない。おまけに武装が対IS兵器だ、背後を取られた時は厳しいだろう」

「あれじゃあ天照なんて名前より忍者か死神の方があってるわね。それでなくても、八つに分離だなんてのも厄介だわ」

 

同じテーブルについている鈴とラウラはあれこれと天照の評価を話し合あっていた。

そんな中で、簪が一夏のことを気遣って話し掛ける。

 

「…一夏…大丈夫?」

「ああ、なんとか…」

「……そういえば…喜久は?」

「ん? あれ、そういえばまだ帰ってきてないな。セシリアとシャルロットもだ、あいつらどこに行ったんだ?」

 

模擬戦のことで頭が一杯だった一夏が頭を切り換えて喜久のことを思い出す。他のメンバーも不信に感じてお互いが顔を見合わせた。

 

「もう夜の七時だ、これ以上遅いと織斑先生が怒りかねない」

「三人揃って説教コースかしら。喜久はいつものことだけど、セシリアとシャルロットはどうしたのかしらね?」

 

箒と鈴が話し合っている横でラウラが首を傾げながら無言で考え込む。そして、一夏に気になったことを質問する。

 

「一夏、昼間に喜久のことを訪ねてきた人物というのは、どういった感じだった?」

「いや、俺に聞かれてもな。あいつは電話を自分で出て、後は直ぐに出てったきりだったから。一応なにがあったのか聞いてみたんだけど、いつもみたいに突っぱねられたぞ」

「…そうか。いや、しかし、ふむ。一夏、そういえばあの女は今日は見ないが? こんなイベントが合った場合は、一目散にお前をからかいに来るはずだ」

 

ラウラの言葉が指すあの女とは楯無のことをだ。そういえばと、一夏も思考して不思議に感じた。

 

「ああ、そういえば楯無さんも見てないな。試合が終わった後で生徒会室に寄ったけど留守だったしな」

 

一夏の言葉を聞いたラウラの感がなにかを告げる。これは余り良くない流れだと。そう思い、彼女はその場から立ち上がると他のメンバーに声をかける。

 

「今日は気分が優れん、悪いが私は先に上がらせてもらう」

「大丈夫かラウラ、なにか腹の調子でも悪くなったのか?」

「一夏、私なら大丈夫だ。私は毒の知識を頭の中にしっかりと叩き込んであるからな、無人島に放り込まれても自給自足が出来ように鍛えてある」

「無人島に毒って…。ラウラ、今の発言を食堂のおばちゃんが聞いたら嘆くぞ?」

「それよりな、今日は少し気をつけておいた方が良いかもしれんぞ」

 

ラウラの意図が読めない鈴と箒が彼女に疑問を投げかけた。

 

「なによそれ、あんたがそんなこと言うなんて珍しいわね?」

「どうしたのだラウラ?」

「いやな、私の単なる感だ。一応の警告と思ってな、まあ気にするな」

 

それだけ言うと、彼女はスタスタと歩いて出口へ向かっていく。取り残されたメンバーがラウラの言葉を考えたが、一向に答えが出せない。しょうがなく他の人間が話題を切り換えると、その場は再び和やかなムードになっていった。

 

 

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校舎と校舎の渡り廊下を歩いている生徒がいた。

彼女は用事を済ませて寮へ戻る途中だったが、歩行が完全に停止している。そして、顔を青ざめさせながら軽い悲鳴をあげた。

 

「ひっ」

「悪いが静かにしてくれると助かる。……良い子だ、行儀がなってるな」

 

その女性徒の額にはアサルトライフルの銃口が突きつけられていた。

次の瞬間、彼女の首筋に衝撃が走る。ぐったりと、倒れるようとしたところでアサルトライフルと持っていたサンティアスがそれを受け止めた。

彼は女性徒をその場にゆっくり横に寝かしていく。首筋に手刀を打ち込んだティーダが小声で、ものすごく面倒臭そうな声を出した。

 

「たぁく、これで何人目だよ…。人間センサーじゃねぇんだぞ、学園《ここ》のガキ共は本当に頭にくるくらい感が良すぎだ」

「確かにね。こんな場所でこれだけ優秀な人間を育てられるのなら、兵隊にすれば凄まじい戦力が出来上がるわ」

 

ティーダの言葉にジュサーヌが同意する。亡国機業に雇われ強襲作戦に参加した傭兵たちがいた。

彼らはIS学園に潜入してから既に六人もの生徒たちに発見されている。今回雇われた彼らの能力は傭兵という職業の中ではトップクラスの人材だ。が、IS学園で教育を受けている生徒は、彼ら同様に過酷な訓練を積んでいた。

だからこそ、通常の人間より違和感を多く感じ取って傭兵たちを発見してしまう。サンティアスたちはそんな状況に内心で溜息を吐き続けていた。

 

「しょうがない、合図が来るまでは目的の場所にC4を仕掛けて待機だ。あとは手はず通りにいくぞ?」

「あいよ、りょーかいだ」

「ええ、解ったわ。…しかし、それにしても豪華な施設だこと。ここにいる子供は随分と贅沢な暮らしをしてるみたいね。他の国じゃ飢えて死ぬ人間も沢山いるっていうのに」

 

ジュサーヌが学園施設を見ながら思わず言葉を吐き出す。ティーダが彼女に笑いながら小声で返答した。

 

「金が何処かに偏って流れてる良い証拠だ。ある意味じゃ、世界中の金がこの場所で消費されてるのかもな」

「二人とも、無駄口を叩くな。作戦に支障が出る」

 

サンティアスの注意で発せられた言葉を最後に誰一人喋らなくなると、再びその場所が静寂で包まれた。

 

 

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夜も良い時間を回った現在、俺は苛立ちを隠さずにしていた。

場所は更識がお勧めした料理店ではなく、海沿いにある店だ。

 

「馬鹿みたいに買い物に付き合わせやがって…。お前舐めてんのか?」

「初めての日本なのよ、ちょっとくらい楽しんでも問題ないでしょう?」

 

テーブル席の対面に座っているクラーラが、笑いながら返答してくる。俺の横に座っていた更識も嬉しそうにしながら返してきた。

 

「よっちゃん、良いじゃない。せっかくクラーラちゃんが日本のファッションを見てみたいっていうんだから」

「お前もふざけんじゃねぇよ更識!! なに一緒になって買い物してんだよ!?」

 

学園から電車に乗って移動すると、どこか適当な店に入って話し合いが始まると思っていた。

思っていたはずだったのに、今は目の前で楽しそうに飲みものを飲んでいるクラーラが女性服を見たいと言い出したのだ。おかげで意味のない買い物タイムが延々と続いた。

しかも、最後には対岸に学園が見える場所で食事をさせろといってくる始末だ。俺は既に我慢が限界に達しつつあった。

 

「いい加減、本題を話せ。お前の要求はなんだ?」

「そうねぇ。まあ良いわ、話してあげる」

 

クラーラがもったいぶったようにして話す。

 

「単刀直入に言うわね。お兄ちゃん、亡国機業に入る気はない?」

「はぁ? お前、なに言ってんだ?」

「あはは、面白い顔! そうよねぇ、普通はそうなるわよね。理由としては、貴方は私達側の人間に近いからよ。だってそうでしょう、お兄ちゃんはたくさん人を殺してるんだもの。ジェノサイドリッパーなんて良いネーミングだと思うけどぉ?」

「…止めろ、次にその名前を出したらお前の口を潰すぞ」

 

俺の中で忌まわしい記憶がフラッシュバックする。目の前の俺と同じ顔が笑いながら飲み物を飲んで、再度口を開いた。

 

「封印《シールド》されてた資料を流してもらったわ。よくもまあ、たったの三年であんなに人を殺したものねぇ? 私も吃驚したわぁ――

 

ダンッ!!!

 

「2048人、最後の暴走で3000オーバーだなんて凄いハイスコアねぇ?」

「てめぇ、殺されたいのか?」

 

無意識のうちに、俺は自分の拳で思いきりテーブルを叩いていた。

あらん限りの怒りを視線に凝縮してクラーラにぶつける。しかし、奴は全く動じた様子がなかった。

 

「よっちゃん、少し落ち着き――

「黙れ更識。…クラーラ、生憎だがお前のクソッタレな要求は破棄だ。向こうの偉いのに伝えろ、お前らみたいな地獄でのた打ち回ってるクソ集団は、そのまま釜で焼かれ続けろってな」

 

更識の言葉を潰して、俺はクラーラに自分の回答を出す。すると、奴はまるでそれを予想していたかのような顔をした。

 

「あはは、聞こえの良い回答をありがとう。さて、そろそろ花火が上がる時間なの。すごく綺麗だから、三人で一緒に楽しみましょう」

 

クラーラが嬉しそうにして、奴自身がはめている腕時計を見る仕草をする。

 

「3、2―――

 

パッと、海を挟んで見える学園の方で幾つもの閃光が走ったのがわかった。

直ぐに更識の方を向くと、本人の顔が険しくなっているのが解る。

 

「あらぁ、やっぱり綺麗だわ。まあ、今ので何人か死んだかもしれないわね」

「お前…」

「あはは、やあね冗談よ。私はそれでも構わないんだけどぉ、今回の殺害命令が出てるのは織斑 一夏といかいう男だけだから安心なさいなぁ」

 

「まあ、今ので運がない人は死んでるかもね」と、クラーラが嬉しそうに笑う。更識の柔和な顔は既に消え、あるのは奴に対しての敵意の視線だった。

 

「なぜ、一夏君を狙うのかしら? 私としては貴方を捕縛する前に、理由をきっちりと聞いておきたいわ」

「それは上の考えだからぁ、私が知るわけないじゃない。まあ、あったとしてもおしえるわけないけどねぇ」

 

クラーラが、どこまでも人を舐めきった口調で会話を続けていく。俺は憎しみに近い感情で確認すべきことを聞いた。

 

「俺と同じってことはISTSを使えるんだろ? なんなら、てめぇの少ない寿命をもっと縮めてやろうか?」

「あはは、バカねぇ。仮にも私と同じ血が混じってるのに、本当に脳味噌が足りないんじゃない?」

 

クラーラが奴自身の側頭部へ左手を持っていく。そして、指輪のついた指を立てながらクルクルと回し始めた。

歪な造形がされている指輪が光でチカチカと乱反射し、俺にはそれがIS待機状態のアクセサリーだと解った。

 

「ISTSは男だと寿命を縮めるけど、女は別にそんなもの無いのよ。だってそうでしょう、私は女で無理やりにISへ適合してるわけじゃあないのだから。使用で負荷が掛かり過ぎて死ぬことはあってもそれ以外は健全よ。要はこういうことね、お兄ちゃんは出来損ないで私が完成型なの」

「下らない論理だな、俺もお前も所詮はガラクタでしかねぇよ」

「それは、お兄ちゃんだけでしょう。そうそう、亡国機業の誘いというのは嘘だから。あはは、歪む顔が凄くセクシィだったわよ?」

 

これが、中東で暴走せずに進んでいたかもしれない俺のもう一つの未来の姿なのか…。

暴走して過去の業に苦しむ自分と、暴走をせずに育ったであろうクラーラを比べる。俺は、どっちに転んでも狂った未来しか想像できなかった。

 

「クラーラ=ペローフ。貴方の本当の目的はなにかしら?」

「あらぁ、やぱっり駄目ね。全然だーめだめ、冴えない人たちって大嫌いなの。あなたたち二人とも酷いわねぇ、やっぱり殺してあげましょう」

 

ふざけんなよ? ここは一般人だらけの場所なんだぞ!!

更識が疑問を投げかけると、クラーラがすっと座席から立ち上がる。

 

「まさか、こんな場所でドンパチを始めるつもりじゃないだろうな?」

「なに言っているのかしらぁ、それこそまさかでしょうにぃ? ここで始めなきゃ、私の目的が達成できないじゃない。その気持ち悪い顔をぐちゃぐちゃにしてあげるわぁ」

 

この野朗! 本当に展開しやがった!?

クラーラが一瞬でISを展開して、俺は見たことも無いISの形に言葉を失う。それは背中に巨大な輪を形成するような出で立ちをしていた。

そして、両腕で抱えている得物は巨大な砲撃を可能とするようなライフルを持っている。

 

「イギリスではBT兵器が研究されているでしょう? 私のISであるウコンバサラにはね、エムが使ってる機体データの流用で射撃ビットが背中に三十六機搭載されているのよ。全方位からの攻撃で踊り狂ったようにして相手を殺せるの、とても素敵な殺し方だと思わない? ねぇ、お兄ぃちゃん?」

 

クソが! BT兵器が三十六機分だと!? なんて馬鹿げた数してやがる!!

 

「あーら、品が無いのねー。おいたをする子はお仕置きが必要だと思わない?」

「うるさいおばさん、これだから年増は困るのよねぇ。良いわよぉ、貴方から最初に息の根を止めてあげるわ』

 

更識に返答したクラーラが機体を駆って一気に上空へ上がると、背中に搭載されていた巨大な輪がブロックのように細かくばらけて宙に停滞しだした。

 

「よっちゃん!! ステルスモードを解除して、今すぐISを展開しなさい!!」

「クソッタレが!!」

 

更識の焦って張り上げた声と共に、二人してほぼ同時にISを展開する。クラーラが片腕で指揮を振ったようにした仕草で俺たちのほうへと無機質な機械の指をむけた。

次の瞬間、三十六本分の光の束が俺と更識に降り注いできた。

 

 

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もうもうと煙の立ち込めている一箇所の上空で一機のISが停滞している。サイレント・ゼフィルスの射撃ビットから繰り出された攻撃によって、既に学園の発電施設が木っ端微塵に破壊されていた。

爆発音が学園中を駆け巡り、直ぐに予備で設置されていた残りの発電施設が稼動しだす。スコールがエムに指示を出していく。

 

『エム、次の設備を破壊しなさい。それと学生への攻撃は避けなさい、織斑一夏が出てきたら貴方が止めを刺していいわ』

「上からの指示では、ここにいる人間をいくら殺しても問題ないはずだが?」

『現場の指揮は、私に一任されていることを忘れないでちょうだい。無駄な犠牲は必要ないわ、貴方は指示に従って動きなさい』

「ち、まどろっこしいな。まあいい、了解した」

 

射撃ビットが次の目標を定めると、計六発分のビーム光が発射された。

 

ズンッ!!

 

学園の機能を落とすために予備発電施設を攻撃して爆発させる。次の瞬間、他の場所でも爆発が起こり始めた。

それは傭兵であるサンティアスたちが仕掛けたC4爆弾によるものだった。

マドカがその場で停滞していると、白い色をした機体が建物から飛び出してくる。他にも赤が2色と灰色の機体が彼女に向ってやって来ようとしていた。

 

(雑魚のおまけもついてきたが、一緒に葬ってやる。織斑 一夏、お前には精々無残な死体になってもらうぞ。その後で、お前の屍を晒して姉さんを人格崩壊させてやる)

 

 

_7/_

 

 

「行くぞ」

 

ズガンッ!!

 

 爆発音が響きわたり、傭兵であるサンティアスたちが部屋の一角へ流れ込む。屋外ではそこかしこで盛大な衝撃音が発されていたために、彼らは堂々と爆破作業を行なっていた。

 今は慎重さよりもスピード重視の行動でISの奪取を行なう。学園の第二整備室に潜入すると、すぐさまティーダが担いでいたバッグを地面に下ろす。ジッパーを全開にすると、中から銀色の無機質な機械が取り出された。

 ジュサーヌが自身の腕に嵌めてあるストップウォッチ機能つき腕時計で時間を測りだす。

 

「五分よ。それ以上だと、この施設の連中が気づくわ。さっさと済ませましょう」

 

 サンティアスとティーダがIS強奪用の機械を設置するために二人掛かりで準備に取り掛かった。

 整備室には二体のISが整備中のまま待機状態で鎮座している。ティーダが設置作業をのために手を動かしながら、冗談交じりで周囲の警戒をしているジュサーヌへと話し掛けた。

 

「このままIS様に乗り込んで、アメリカンコミックみたいに空を飛んでけりゃ楽なんだけどな。ジュサーヌ、お前が乗り込んでやってくれないか?」

「馬鹿言わないでよね、こんな精密機械を私が扱えるわけないでしょう?」

「ごもっともで。さてと、依頼主から預かった機械が誤作動を起すポンコツじゃなきゃ良いんだけどな」

 

 機械の設置準備が完了するとサンティアスがスイッチを入れる。部屋中に駆動音が響き渡り、機械が発光を開始した。

 瞬間、一瞬だけの強力な発光が放たれる。そして――

 

カン、カツン

 

 部屋中が発光現象に包まれた後で、静寂の中に小さな音が鳴る。それは部屋の中で待機状態だったISが強制的にアクセサリー状態になって地面に転がる音だった。

 ティーダとサンティアスが其々の意見を述べる。

 

「は、こりゃすごいな。本当にISがコンパクトに纏まりやがった。人間が搭乗してなけりゃ有効だと聞いちゃいたが、随分あっさりと作業完了だ」

「こんな物で100万ドルか、まるで本当に子供の玩具だな」

 

 サンティアスたちが使用したのは亡国機業が提供した機械装置だった。

 去年の学園祭で一夏の白式に使用した『剥離剤《リムーバー》』の派生型、無人の待機状態で機能を発揮する機械。それは『略奪《プランダー》』と名づけられている。二人が喋っていると、 ジュサーヌが足を地面に一回だけ打ちつけて合図をした。

 瞬間的に三人揃ってドアの入り口へとアサルトライフルの銃口を向ける。

 

「客よ。最悪ね、ISを装備した状態だわ……」

『やはり鼠《ねずみ》がうろついていたか、私の勘も満更ではないらしいな。貴様ら、何者だ?』

 

 入り口からシュヴァルツェア・レーゲンを纏ったラウラが三人を発見して部屋に進入してきた。

 

『返答なしか、まあいい。言っておくが、逃げきれると思わないことだ。悪いが拷問は覚悟してもらうぞ?』

 

 遅れて返されたサンティアスたち側の返答は鉛弾による連続した発砲音。ISを展開していたラウラが瞬間的にAICを発動させる。サンティアスたちはアサルトライフルで応戦するが、銃口から放たれた弾丸がラウラの手前で全てビタリと停止して力無く落下していく。

 

「弾が止まってやがる! これじゃあ本当に化け物じゃねぇか!? ジュサーヌ、例の支給品を投げ込んでやれ!!」

「今やってる、わよ!」

 

 ジュサーヌが思い切り振りかぶると、そのままラウラに向かって手榴弾のような物を投げ込む。

その場で強烈に弾けた音が木霊した。

 途端、紫色のガスと銀の粒のようなものが空中に撒き散らされていく。

 

『ふん、そんなものが効くわけがないだ――なに!?』

 

 シュヴァルツェア・レーゲンの知覚機能が一時的に乱れ、ラウラの視界とレーダの両方が潰される。予想外の意表をつかれ、戸惑ったラウラの声を煙越しに聞いたサンティアスが大声を上げた。

 

「散るぞっ! 後は各自で撤収地点まで向かえ!」

『逃がさん!!』

 

 ラウラの苛立った声が室内に響き渡った。

 

 

_\|/_

 

 

 冷静に判断できる人間がこの場にいない。状況を客観的に見れる喜久も、冷静に対処できる柔軟思考のシャルロットも、作戦を立てて的確に指示することが出来るラウラも。

 纏まりの無い多対一の戦闘が開始されていた。

 サイレント・ゼフィルスを駆る織斑 マドカが宙で停滞しながら宣言する。

 

『織斑 一夏、お前は生贄だ。ここで死んでもらう』

 

 その光景を一夏、箒、鈴、簪が見上げていた。

 

『ふっざけんじゃないわよ、あんた何様のつもりよ!』

「待て、鈴!?」

 

 一夏の静止を無視して、勢い良く鈴がマドカに突撃を敢行する。龍砲が放たれるが、マドカはそれを全て綺麗に避けきった。

 すると、今度はお返しとばかりにサイレント・ゼフィルスの射撃型ビットによる攻撃が飛んでくる。

 

『無能が』

『セシリアと同じ偏向射撃!?』

 

 鈴の回避行動に合わせるようにしてセシリアのビット攻撃と同じようにビーム光が曲がって襲い掛かっていく。

 

ズンッ!!

 

『鈴、無闇に突っ込むな!』

 

 それを箒が駆る紅椿の雨月から放ったレーザーで相殺した。

 マドカが箒の方を苛立たしげに見る。

 

『ち、雑魚共が』

「俺が行く、援護を頼んだそ!」

『待て一夏!?』

 

 今度は箒の静止を振り切って、焦りをの表情を滲ませながら一夏がマドカに突撃を開始しする。マドカが射撃ビットと防御ビットを同時に展開した。

 

『ふん、やはりお前も雑魚か。他となんら変わりないな』

「うおぉぉおおおっ!!」

 

 六つの射撃ビットから六発分のビーム光が放たれる。一夏は四つのビーム光までを避けきると残りを雪羅のバリアシールドで防御した。攻撃を受け止めたせいで白式の利点である速度が落ちる。

 

ドンッ!!

 

「ぐあっ!?」

 

 そこへ空中で停滞していた残りの防御型ビットが一夏へ襲い掛かり高性能爆弾薬の爆発を撒き散らす。一夏が爆風から飛び出して落下していく様をみた簪が叫び声をあげた。

 

『一夏!?』

 

 簪が憎しみにも似た感情でマドカを睨みつける。敵対心を剥き出しにした彼女は打鉄弐式のマルチ・ロックオン・システムでサイレント・ゼフィルスを捕捉してしきった。

 

(許さない……!)

 

 連続音が鳴り続けて打鉄弐式のミサイル発射口が全開になる。

 

『あたれぇええっ!』

 

 次の瞬間、機体の最大攻撃力を誇る『山嵐』が発動し、計四十八発の独立稼動型誘導ミサイルが発射された。

 四十八発のミサイルが水中で群れをなすニシンの大群のようになってマドカへと向かって行く。

 

『下らん攻撃だな』

 

 マドカが射撃ビットを飛ばしながら簪に急接近してくる。簪は地面すれすれを移動しながら射撃ビットからの攻撃に対して回避行動を行っていく。マドカは小型のレーザーガトリングで的確にミサイルを撃ち落しながら簪へと更に急接近した。

 

『死ね、雑――

『やらせん!』

『くっ!?』

 

 箒の二刀による攻撃をマドカがスターブレイカーの銃剣部分と蛍光ピンク色に発光するナイフで受け止める。

 

『邪魔だぁあ!!』

 

ズドドドンッ!!

 

 次の瞬間に箒の背中へと衝撃が走った。

 

『ぐうぁあっ!?』

 

 六つの射撃ビットの攻撃が箒の背中に全て直撃し、そのままマドカが箒の顔を鷲掴みにする。そして、龍砲を撃ち出そうとしていた鈴の方へ顔を向けながら箒の体を引き寄せ盾にする。

 

(なんて奴よ、このままじゃ箒に龍砲が当たっちゃうじゃない!?)

 

 鈴が咄嗟の判断に苦しんで戸惑った表情をし、その状態を見たマドカが嬉しそうに笑いながら淡々とした声で告げた。

 

『先ずは一匹目だ』

 

ズドンッ ズドンッ ズドンッ!!

 

『ぐうっ! がふっ! あぁああ!!』

 

 箒の苦悶した叫び声が響き渡る。サイレント・ゼフィルスのスターブレイカーによるゼロ距離射撃が箒の腹部に全てヒットし、紅椿のシールドバリアーを突破した衝撃が箒にダイレクトアタックした。

 

「箒ぃいいいっ!!」

 

 ダメージを負った状態から戦線に復帰した一夏が叫び声を上げる。同時、マドカの手から解放された箒が頭を垂れた状態で力なく落下していく。

 鈴が歯を食い縛りながら気絶した箒を急いでキャッチした。

 

『織斑 一夏、次は貴様の番だ』

「この野郎おぉぉおおおっ!!」

『駄目ぇ、一夏ぁああ!?』

 

 簪が叫ぶが、一夏の耳には全く入らない。

 完全に頭に血が上った一夏がサイレント・ゼフィルス目掛けて突撃していく。それに対してマドカは高速移動しながら、円軌道をランダムに描いてスターブレイカーによる精密射撃を行う。一夏が精密射撃と射撃ビットからくる大量のビーム光を避けるために瞬時加速《イグニッション・ブースト》を行った。

 マドカはその行為を嘲笑う。

 

『無駄な足掻きだな、死ね――!?」

「くらえぇえええっ!!」

 

 一夏が自身の体力、白式の急激なエネルギー消費と引き換えに三連続瞬時加速《トリプル・イグニッション・ブースト》で一気にマドカへと詰め寄る。

 

ズンッ!!

 

 雪片弐型による斬撃によって、スターブレイカーが真っ二つに切り飛ばされた。

 意表をつかれて自身の武装を破壊されたマドカが激昂し、一夏がさらに追い討ちをかける。

 

「貴様ァアアッ!!」

「もう一撃っ!!」

 

 マドカの目の前で白式の雪羅から荷電粒子砲が放たれた。

 

 

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 今年、上級して三年生になるファルテ・サファイアは一夏たちの元へと急いでいた。

 目的は破壊活動を行なっている敵ISの活動停止状態だ。卒業式が終わり、友人たちと談笑していた最中に起こった出来事に彼女はだるさを感じていた。

 

(はぁ、甲斐性なしの先輩はさっさと帰国しちゃうし。まったく、骨が折れるッスね……)

 

 自身以上に面倒臭がりの先輩であるダリル・ケイシーを思い出す。彼女は学園のカリキュラムからやっと解放されたとばかりに、さっさと自分の国へ帰国していった。

 そんな状況のせいで、今まで二人で行なっていた連携攻撃のイージスを使用することが出来ない。ISを展開して向かう先は自身のいる場所からそんなに離れてはいなかった。

 既に戦闘が始まっており、ISが何体も空中で乱舞して飛び回っている。

 彼女自身もIS専用機であるコールド・ブラッドを展開して上空に上がっていく。

 

ブッ!

 

「くっ!?」

 

 突然の光がファルテを襲う。彼女は自身に目掛けて飛んできたビーム光を避けきると、その場で自身の武装であるレーザーブレードを抜いて新たな敵を目視した。

 

『どこに行こうってんだ? 作戦に支障がでんだよ、邪魔だぞガキ』

「どこって、そんなの決まってんじゃないッスか。迷惑なお客さんに、ご退場願いに行くところッスけど?」

 

 敵ISの出現にフォルテは内心でうな垂れる。また、面倒臭いイベントが追加で増えてしまったと。口の悪そうな女は、そのにやけた顔つきからして悪役ですと言っているような印象を受けた。

 彼女が相手のISを観察すると、それは特徴的な形をしている。ボディにこれといって目を見張るものはないが、問題はその周りに浮いている4つの物体。そして、それが他の国で開発されているものだと判断できた。

 

「ふーん、チェコ産のISッスか。人形遊びに興じるつもりはないッスよ?」

『よく知ってやがるな。お前の相手は私がしてやろうってんだ、光栄に思えよガキ?』

 

 ……やりにくい相手だ、フォルテは内心で相手のISを警戒する。しかも、上手くやられればこちらがにジリ貧になりかねない。

 型式はチェコの第二世代型改良モデルで、通称が『パペッター』と呼ばれている機体だった。

 問題は本体でなく、本体の周りに浮遊している四つの物体がそのパペッターたる所以となっている。

 

「ガキガキうるさいッスね。こっちは、そんなに暇じゃあないんすよ。あんたらでしょ? 馬鹿みたいに何度も襲撃してくれちゃって、他にやることはないんッスか?」

『うるせぇな、こっちだってクソガキのサポートってだけで頭がイカレそうなくらいストレスが溜まってんだ。だからよぉ、オータム様が直々に、てめぇの体をバラバラに解体してやるって言ってんだよ!!』

 

 オータムの周りで浮遊していた四つの物体が、本人と同じくらいの大きさに変形していく。全てが形を変わりきると、四体の人型がその場で展開しきった。

 IS第二世代型でのスペックを最大限に使用したと言われているISがフォルテの前に立ちはだかる。一対一だったものが一対五への戦況に変化した。

 フォルテの駆るコールド・ブラッドの両手両足から計四本のレーザーブレードが飛び出す。

 

(私が持っている他の武装を使って、本体にさえ飛びつけばなんとかなるッスね。後は、どれだけ被弾せずにそのまま組み付いて、こちらの武装を放てるか……)

 

 短期決戦で一気に戦闘を終わらせたい。フォルテの面倒臭がりな性格と今の状態を考慮した結果が、彼女の頭の中で思い浮かぶ。

 

「悪いッスね、私も予定があるんで。最初から全力で行かせてもらうッスよ!!」

『あぁん、盛大にぶっ殺してやるよ! 手前如きが、このオータム様に勝てると思ってんじゃねぇぞ!?』

 

 学園内でIS同士、二つめの戦いが幕を切って開始された。

 

 

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 学園中がパニック状態に陥っている。千冬は自室の部屋から外の廊下へと飛び出た。

 目の前で一目散に彼女の横を走り抜けようとしていた真耶を捕まえる。そして大慌てで指示を出していく。

 

「山田先生! 他の先生がたに生徒たちの緊急避難指示を出せ!! 私は戦闘を行なっている方へ向かう!!」

「はい!!」

 

 真耶が走り去るのを見ると、千冬はギリィッと奥歯を鳴らす。

 

(外からの攻撃、束もしくは亡国機業か。今日は卒業式だったというのにな。どちらにしても、私のやるべきことは変わらん!)

 

 窓の外では、まるでそこが戦場だというような状況が広がっていた。

 千冬が一夏たちのもとへ向かうため、廊下の窓ガラスを開け放って外へ飛び出す。ISを展開して暮れ桜を身に纏うと、彼女の重力による落下が急停止する。

 

ピシィィイッ!!

 

 瞬間、高電圧の雷鳴と電撃が千冬のいる場所を貫いた。

彼女はそれを瞬時にスウェーで避けきり上空を見上げる。すると、そこには千冬よりも年上の女性がISを身に纏って停滞していた。

 

『クラーラのことと良い、織斑 千冬がISに搭乗してくるなんて予想外だったわ。初めまして、ブリュンヒルデ』

「何者だ?」

『スコールよ。それだけ名乗れば十分でしょう?』

 

 千冬がスコールから目を離さずに雪片と不知火を抜刀した。

 全体のフォルムが鋭角に角ばり、尖った印象の強いISが空中で停滞している。 両肩と両膝には丸いでっぱりがあり、その場所からは放電による発光現象が見て取れた。

 搭乗しているスコールが金色の髪を優雅に揺らしながら眼下にいる千冬を見下ろす。

 

 知っている。

 千冬はスコールが駆るISの存在を見たことがあった。

 スコールが丁寧な口調と共に両腕を開いていく。

 

『ブリュンヒルデ、貴方を行かせるわけにはいかないの。悪いけれど、ここで足止めさせてもらうわよ?』

「まさかイタリアもISを強奪されていたとわな。テンペスタ型か?」

『良くご存知ね。ところで、貴方は光よりも高速で動けるのかしら?』

「やったことがないからな、今の攻撃は論より証拠で成功したようだ。貴様にかまっいてる暇はない、今すぐにでも退いてもらうぞ?」

 

 イタリアの試作第三世代型であるテンペスタⅡ型が新たな攻撃を放つ。今度は放電されていた場所から巨大な竜巻が発生した。

 千冬は前もって予測していたかのように、大きく回避行動をとって攻撃を避け切る。彼女のもともといた場所では地面が盛大に抉れて陥没していた。

 

「ぬるい攻撃だな、試し撃ちとは私も甘く見られたものだ」

『人は自然には勝てないものよ。私と大気制御兵器を持つテンペスタⅡ型、『荒れ狂《レージング・》う自然《ネーチャー》』が貴方をワルツのダンスにお誘いするわ。踊る時間は、そうね。織斑 一夏と市隈 喜久の死亡するまでで、どうかしら?』

「悪いがその誘いは断らせてもらう。どうせだ、時間も短縮させてもらおうか。貴様が地に落ちて果てるまでの時間でどうだ?」

 

 千冬がセリフを言い終わった瞬間、二機のISによる本日三箇所目の激しい戦闘が始まった。

 

 

_\|/_

 

 

(たぁく、ISってのは本当に最悪の兵器だ! これじゃあ象と蟻じゃねぇか、勝負にならねぇよ!)

 

 ISと向き合って発砲したティーダが内心で盛大に舌打ちする。交渉人の話しではIS学園のIS保有数は世界一と聞かされていた。

 教育機関、其れゆえにISが大量に必要となる必然性が生まれる。だからこそ、そういった状況を考慮して国際IS委員会のような管理機関が生まれた。

 ティーダは暗闇が続く校舎の廊下を走り続けながら思考する。そして背筋に悪寒が走り、顔を蒼ざめさせた。

 ここにあるであろうISが全て出撃して他国を攻撃したら、きっとその国は半日も持たずに崩壊するだろうと。

 一国を破壊し尽くすのに六機で済むというのであれば、それは核一つ分の力に匹敵するのではないかと。

 女尊男卑とはよく言ったものだが、彼自身が傭兵も廃業すべきではないかという考えが脳裏に過ぎる。はっきり言ってしまうと、馬鹿らしくてやっていられないと感じたのだ。

 急停止するためにブーツの音を立てながら彼はその場で立ち止まる。ゆらっと揺れるようにして現れた少女がにこやかに笑い、ティーダの行く手を遮った。

 

「人のことを言えた義理ではないのだけれど、本当に学園《ここ》は穴だらけね。ハーイ、侵入者さん。悪いけど、貴方はここで打ち止めよ?」

「おいおい、銃を持ってる人間に素手で相手しようってのか。まだ若いんだぜ、死にたくなかったらどいてくれるとありがたいんだがな、お嬢ちゃん?」

「お生憎様ね、まあ運が悪かったと思って諦めてちょうだいな」

 

 次の瞬間、ミア=コリンズの体が消えたようにしてブレる。

 

ガッ!

 

「うおっ!!」

「ち、案外とできるじゃないの。どこぞの赤頭より断然優秀よ、貴方」

 

 ティーダが一瞬で距離を詰められ、持っていたアサルトライフルをミアに蹴り飛ばされる。彼女がティーダの顎を蹴りぬこうとした攻撃は、彼にギリギリで回避されていた。

 

「くらいなさい」

「クソ! ここは化け物の巣窟かよ!?」

 

 二発目の蹴りをティーダがまともにくらい、後ろに吹っ飛んで一回転した。

が、ミアには手ごたえが感じられず、逆に熱いものが頬の辺りを走る。スッと、 赤い血液が頬を伝い顎から地面に垂れ落ちていく。

 

「わざと後ろに飛んで衝撃を殺すなんてね。おまけに短時間でナイフを抜ききって反撃ができるとは驚きだわ」

「これでも一応プロなもんなんでな。悪いが本気でやらせてもらうぞ?」

 

 ミアが笑いながら自分の舌で垂れていた頬の血を舐め上げる。

 

「さて、これはなにかしらね?」

「!?」

 

カチャ、タタタタタタタッ!

 

 ティーダが落としていたアサルトライフルの銃口から盛大にマズルフラッシュが焚かれた。

 寸でのところで彼は横に広がっていた階段の方へ飛び込む。そのまま同時に息つく間もなく一気に階下へ飛び降りた。

 相手の死角となる壁を確保して隠れると、やっとの思いで一息つく。

 

(あのガキ! いつの間に俺の銃を拾い上げやがった!?)

 

「アハハハハ、最近はストレスが溜まっててどうしようもなかったのよ! 丁度良いわ、貴方は狩り甲斐がありそうだし楽しませてくれそうね!? 待ってて頂戴な、今からそっちに行くから!」

 

 ミアが大きな声で上機嫌にティーダへと呼びかけた。

 冗談じゃないとばかりに、彼の中で戦慄が走ると背中に冷や汗が噴出す。一刻も早く脱出すべきだと頭の中が警鐘だらけになる。

 

「前にね、携帯電話を掏られたことがあるのよ。貴方がナイフを抜いたときに掏ったものをお返しするわ!」

 

(な!? 俺の手榴弾!!)

 

ズンッ!!

 

 ティーダの居た場所が上から落下してきた手榴弾によって爆発した。

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