ln   作:kiarina

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[ NumberingTitle_其々ノ戦場(中) ]

 

 ― 8 ―

 

 

 ペタルを全て張って、防御した。

 俺以外の場所に被害が及ばないようにと。だが、ビーム光の三六発分を全て防御しきれるわけでもない。あちら此方から人間の呻き声が聞こえてくる。上空を見上げていると、ティアーニから状況報告が上がってきた。

【今のところ軽度の負傷者がいるようね、奇跡的に死傷者が出ていないわ。片腕が使用不能よ】

 やってくれたな、クソ野郎が……。

 さっきまで飲食店だったものが火事に見舞われて盛大に火柱を上げている。目を凝らして見てみれば、人々が煙に塗れながら逃げ惑う様子が窺えた。

 開戦と同時、自分の防御にまわした片腕が既に破損している。上空ではクラーラが停滞しながら腹を抱え、愉快そうに笑っていた。

『あはははは、他人を庇って自分が攻撃をくらうだなんてぇ。大量虐殺者が、今さら偽善を気取ってどうするのかしらぁ?』

「うざってぇんだよ。待ってろ、今からてめぇを引き摺り下ろしてやる」

 今までの言動で、奴に対してある程度予測は出来ていた。

 そして、結局は理解し合えるかどうかを考えてみた俺が馬鹿だったのだ。現に判断ミスの一つで大量の負傷者が出た。

 そこから得た結論だ。これ以上、奴が撒き散らす周りへの殺人行為が行なわれるのを止めるために。

 俺は目の前の存在を――――――――殺すしかない。

『お兄ちゃんが既に落ちてるじゃなぁい? それにしても、夜の青に映える大火の赤橙って本当に綺麗よねぇ?』

「ほざけ」

 俺はクラーラと同じ高さまで上昇する。そのままグリコシドを搭載しているビットを機体から切り離して両肩辺りに停滞させた。

 シャルロットの暴走を止めて伴った代償がある。だから、これ以上ISTSが殆ど使えない。しかし、相手は使用することが出来ることから、圧倒的にこちらが不利だった。

 ……だが、それがどうした。たとえ刺し違えても必ず奴の首を捻り切ってやる。

『ねえ、クラーラ=ペローフ。私がなんで海の近くに寄って食事を取るのに賛成したのか解るかしら?』

 回避運動を行なって既に違う場所にいた更識が、クラーラに対して不敵な笑みを称えながら声をかけた。

 三六機の射撃ビットを停滞させていたクラーラが適当に答える。

『さぁ、新鮮で柔らかな魚でも食べたかったのかしら。おばさんみたいに年取った人間は歯もぼろぼろになるらしいから、本当にどうしようもないわよねぇ?』

『良いことを教えてあげるわ、私の武器は水。即ち、海は全て私に従う従者となるわ』

 更識の言葉が途切れた瞬間、地響きのような激しい音が辺り一体を支配し始めた。

 ゴバアァッ!!

 海水が咆哮したように逆巻き、巨大な水柱が蛇のように空へと伸びていく。龍のように天を突き抜けそうな勢いがゆっくりと停止し、一定の形を保ちながら更識らしきの周りに留まる。全部で三つ、彼女が大蛇のような水柱を操りクラーラの方へと向けだした。

 奴が面白いものを見たような顔になる。まるで、心の底から楽しんでいるようだった。

『あらぁ、貴方が大道芸人だったなんて知らなかったわ。次はどんな出し物を用意してくれるのかしらぁ?』

『そうね。汚い人間の汚泥を流すなんて、どうかしら!?』

 更識の掛け声と共に巨大な三本の柱の先端が口を開けたようにしてクラーラを飲み込もうと動き出す。巨体のような体躯に合わない鋭い速さが上空を駆け抜けていく。

 強力な攻撃方法に思わず驚いてしまうが、それが通じ易い敵でもない。俺は油断だけはしないようにと、その場で大声を上げた。

「更識、絶対にゼロ距離まで詰め寄られるなっ!!」

『わかってるわっ!』

 クラーラに詰められれば剥き出しの体を一突きされて、人生丸ごとゲームオーバーだ。俺は背中にペタルを出現させると、さらに瞬時加速《イグニッション・ブースト》を使用してクラーラへ突進する。

『あはぁ、挟み撃ちかしら? なんだ、つまらなぁーい』

「くたばれっ!」

『あはははは、製品にもならなかったゴミがなにをしようって言うの?」

【避けなさい】

 ガツッ

 速い!?

 ティアーニが警告を発し、俺は咄嗟にペタルで自分を取り囲む。クラーラの髪と目が一瞬で真っ白に染まっていた。

 そして、奴がナイフを俺の首目掛けて刺そうとしたが既に攻撃が跳ね返されている姿が確認できた。

 予備動作も一切感じさせないクラーラの動きに俺の目が追いつかない。いつの間に、ただの金属ナイフで俺を刺そうとしていたのかが理解できなかった。

 ぎりぎりで先読みした行動が当たり、俺はそのままグリコシドを発動させていく。

「切り裂き魔が、馬鹿みたいに浮かれてんじゃねぇ!」

『面白いISに乗っているのね、少しだけ楽しめそうだわぁ』

 クソがっ!

 その場で放った全ての攻撃が当たらない。白い目をしたクラーラが余裕の表情で笑い、俺が放った三つのグリコシドがいとも容易く避けられる。もう一人の俺と相対して初めて理解した。

 得た答え、今まで自分が行使してきたISTSという能力の異常性を思い知る。

『大道芸人も頑張るわねぇ』

 ゴッ!

 クラーラと俺が同時にその場から離脱した。

 瞬間、更識が操っている巨大な水柱が俺たちのいた場所を貫く。挟み撃ちが失敗し、奴が全ての射撃ビットを俺と更識に向かって放った。

 数にして一八機、射撃ビットがレーザー光を撃ち放ってくる。

『よっちゃん、ISTSを使用しては駄目よっ!?』

「わかってるよっ!」

 そんなこと、言われなくたって理解してんだよっ!

 更識からの注意に対して俺が叫び返した。

 ペタルを全て張りながらでも対処しきれない数による光の蹂躙に瞬時加速《イグニッション・ブースト》を連続で使用しながら回避に徹する。

『あははははは、縊り殺してあげるわ。派手に爆散しなさいな?』

「いつまでも、調子こいてんじゃねぇ!」

 ガンッ

『 !? 』

 俺は回避行動を行いながらグリコシドを発動させ、手近まで迫っていた的射撃ビットの距離に近いものへと攻撃をぶつけた。

 片腕に搭載している分で一機、ビットとしているもでのもう一機の敵射撃ビットへと攻撃が命中する。攻撃に使用不可《ロック》が掛かった二機の敵射撃ビットがその場で停滞して行動不能に陥った。

 今まで余裕で対応していたクラーラが驚きの表情を作る。途端、奴の笑い声が消えた。

『なるほどねぇ、なかなか面白い武装だわぁ。……ふざけたことしてくれるじゃない、出来損ないのゴミが。良いわよ、塵も残さず殺しつくしてあげる』

【相手の顔つきが変わったわね。用心しなさい】

 ……ここからだ、ここからが本当の殺し合いの始まりだ。

 クラーラの目付きが変わり本気になったことが解る。瞬間、奴がものすごい勢いで俺へと向ってきた。

『よっちゃん、下がりなさいっ!』

 更識の声が聞こえ、俺は全てのペタルを背中に出現させてバックダッシュする。クラーラとの距離を一気に離すと巨大な海水の柱が三本、再度クラーラに喰らいついていく。奴が苛立たしげな声をあげた。

『邪魔よ、生ゴミ?』

『余裕が無いわねクラーラ=ペローフ、淑女は優雅に華やかに行くべきよ』

 更識が言葉と共に笑顔で答えると指を鳴らしたような動作をする。連動したように巨大な三本の水柱が空中で散霧し、強烈な濃度の霧を発生させた。

『いつもなら密閉された空間が条件なのだけれど、今の貴方に私の清《クリア・》き熱情《パッション》が避けきれるかしら?』

 ズズズッズンッ!!

「うおっ!?」

 強烈なフラッシュと共に夜の青が一瞬にして赤く染まりあがる。クラーラを中心にして巨大な爆発が発生した。

 俺は被弾を避けるために自分の前面に全てのペタルを出現させる。どれぐらいの規模なのか、想像できないほどの範囲が燃焼を起こして爆発音を轟かせ続けていく。ISでさえ、余程ではない限り、ダメージの大きそうな攻撃に俺自身が内心で舌を巻いてしまう。

『避けれるかですってぇ、なに言ってるのかしら?』

 いつの間に避けていたのか理解出来なかった。

 瞬間、余裕を含んだ声が更識の近くから聞こえてくる。

『くっ!?』

『さよなら、ゴミくずさんっ♪』

 目と髪を白くした負の権化が嬉しそうに笑う。なにかが刺し込まれる音が、自分の耳もとまで届いた気がした。

『ぐうぅっ!』

「更識ぃい!?」

 クラーラの振りぬいたナイフが更識の背中に突き刺さる。

 ガンッ!

 そのままの勢いで、奴が更識の胴体に盛大な蹴りを見舞った。

 強打によって一機のISが落下し、海中に叩きつけられて沈んでいく。

 俺は迷わずISTSをフルで発動させてクラーラに突っ込む。

『私に勝とうだなんて、生ゴミの発想で良くほざくわね? 自分の血を噴水にして浴びながら死んでいきなさいな』

「くたばれぇええっ!」

『あはは、当たらなーい。スカってばっかりねぇ?」

 俺のペタルによる回転ドリルの攻撃をクラーラが嘲笑うようにして避け切る。片腕、両足から繰り出される三連続の連撃を綺麗に回避された。

 お互いが能力を発動した状態では、回避能力が拮抗しているためにどちらの攻撃も当たらない。

「あらぁ、駄目よぉ。人間は劇的な喜劇より濃密な悲劇の方が心に残るでしょう?」

「ふざけんなぁああっ!」

 クソが、なんでだっ!?

 なんで、いつまで経っても奴にはISTSの反動が現れないっ!!

 クラーラが俺の焦っている顔を見て嬉しそうに笑う。まるで、思考していることが見透かされているように嘲笑われた。

「なんで私がISTSの反動で疲れないのかって顔をしているわねぇ? あはははは、私はお兄ちゃんみたいな出来損ないのゴミと違って一時間程度は体が持つのよ」

 一時間もだとっ!? 女のIS適合者は、そんなにも反動が出にくいのかよっ!

 俺の驚いた顔を見たクラーラが、狂気のように歪んだ笑みを称えていく。

「残念だったわねぇ、読みが外れて」

「クッソ野朗がっ! ごちゃごちゃと、うるっせぇんだ、よっ!」

 だったら、無理やりにでも俺が優位に立てるようになってやるっ!

 迷わず両手をクラーラに向けて翳す。

「なっ!?」

【やめなさい、今の貴方では直ぐに体が蝕まれるわよ】

「知ったことか、相打ち上等だぁあっ!」

 一気にクラーラのISへISTSの侵食を開始する。生まれて初めてくらっただろう攻撃に奴が戸惑いの声を上げた。

「ぐっ!』

「逃がすかぁあああっ!」

 クラーラの動きを止めたまま、俺の回転するペタルが奴の顔を貫こうとする。しかし、奴は回避行動を途中で中断すると、嬉しそうにしながら俺のほうへ眼球だけを動かしてきた。

「がぁあっ!?」

【逃げなさい、これ以上の戦闘行為は無意味よ】

 途端、体の自由が効かなくなる。強烈な圧迫感と吐き気がこみ上げてきだす。

「思わず焦っちゃったわぁ。ISTSに、こんな使い方があったなんて知らなかったぁ。お返しよぉ、お兄ちゃん」

 クソッタレがぁああっ!

 異常な反動と共に侵食が押し返されて、今度はクラーラによって俺の方が侵食され始めていく。

「う~ん、これは体が急激に疲れるから私向きではないわねぇ。まあ良いわぁ、さうよなら。もう一人の気持ち悪い私――!?」

 突然にクラーラが拘束を解いて俺の制限されていた行動が解放される。奴が回避行動を行った場所を巨大な水の柱が貫いた。

 眼下を見渡せば、更識がぼろぼろの状態のままで攻撃制御を行っている。海水を被った表情に全く余裕が感じられなかった。

 しかし、本人は精一杯の笑顔を作ってクラーラに向ける。

『除け者なんてズルイじゃない? おねーさんも、仲間に入れてくれると嬉しい、わ、ね……?』

『生ゴミの分際で煩いわね。良いわ、今から貴方を踊り死にさせて上げる』

 三四機の射撃ビットが群れを成したようにして全て更識の方へと向っていく。

「止めろぉおおおおおおおっ!?」

『処刑の時間よ』

 俺はクラーラを無視して背中に全てのペタルを張ると、瞬時加速《イグニッション・ブースト》を使用しながら更識に目掛けて突進する。

【やめなさい。貴方だけでも戦える状態でなければ、彼女と一緒に死ぬだけよ】

「黙ってろティーアニィイッ!!」

 合理性なんてクソなもんは、必要ねぇんだよっ!

 ティアーニ警告を無視して前方を目指す。クラーラの射撃ビットよりも、紙一重で更識に追いついて俺は彼女を抱え込むように抱きついた。

 ペタルで半円を描くようにして自分と更識を抱え込む。

 ズドドドドンッ!!

「がぁああああっ!」

「よっちゃん!?」

 既にISTSの反動がきつ過ぎて、俺に更識を抱えながら避けられるだけの余裕が無い。ペタルの防御を突破してきた攻撃が、全て自分に被弾する。激痛が体を支配し続けた。

『あはははは、良かったわねぇ。愛しの彼女まで間に合ったじゃなぁい? 次は二人もろとも破壊してあげるわぁ』

 攻撃が止んでから愉快に笑う声が聞こえる。ずたぼろの体のまま頭上を見上げれば、クラーラの射撃ビットがエネルギー切れなのか回収されていくのが確認できた。

「馬鹿ねぇ、よっちゃん。なんで、私を庇ったの。貴方は、無理、をする必要なんて無い、のよ……?」

 頭上を見上げ続けながら、切れ切れの更識の声が聞こえてくる。肌の触れ合う部分から更識が出血のせいで低体温になっていた。

 抱きつく瞬間に見えた背中の傷。肩甲骨の上から流血していたことから後遺症の可能性が低いことに、ほんの少しだけ安堵する。

「うるせぇぞ、更識……。どうせだ、くたばるなら俺が先になってやる……。だから、お前は一パーセントでも生き残れる可能性を探り続けろ。それでも無理なら……、俺が最後まで一緒に付き合ってやる、よ……」

 俺の目の前で、絶対にこれ以上の犠牲を出してたまるか…。

 本人を抱きかかえながら答えてやると、歪む視界の中でクラーラが何かを構えているのが見える。奴の構えた大口径ライフルの銃口が白い光を勢い良く溜め込んでいく。

『一発で粉々に吹き飛ばしてあげる。じゃあねぇ、仲良しさぁんっ♪』

 突然、ぼやけ続ける視界の中で青く光るビーム光が四つ見えた。

 クラーラへと伸びるそれを奴は自分の射撃ビットで相殺する。

『喜久さん!?』

『喜久!?』

 駄目だ来るな、お前らじゃ死ぬぞ……!?

 セシリアとシャルロットの声が聞こえた。

 声を出すだけの力がなく、俺の視界が黒一色の世界に閉ざされた。

 

 

     ◇

 

 

 既に地面の整地されている部分を見つけるほうが難しいほどに抉れ、陥没し、破壊の傷痕がそこら中に撒き散らされていた。

 空中では二機のISが攻防を繰り返している。

『良く避け続けているようだけれど。エムの言っていたことは満更に嘘でもなさそうね』

「馬鹿の一つ覚えみたいに飛び道具だけを飛ばしているのみではな。これでは、どうあがいても私には勝てんぞ?」

『近接武装しか持ってなさそうな貴方では説得力に欠けるわね』

 スコールが巨大な竜巻を発生させて千冬へと飛ばす。が、千冬は障害ともせずにスコールからの攻撃を綺麗に避け切る。そして、自身の背面へと飛来した高電圧の雷撃による攻撃もすんなりと回避した。

 そのままの勢いで千冬が攻め込めば、スコールは己のテリトリーに進入させまいと彼女から距離を離す。それによって、お互いが自身の間合いを牽制しあう長 期戦の流れが見え始めていた。

(私の得物から上手に間合いを計っている。モントグロッソでも見たことが無い顔だ。何故、これだけの実力がありながら今まで表に出てこなかった?)

 時間が惜しいと千冬の奥歯が歯軋りする。

 亡国機業のスコール=ミューゼル。夜空の明かりに照らし出される金髪が優雅に揺れる女性は、慎重に千冬の動きを観察し続けていた。

『表情が崩れずとも焦っている様子が窺えるわね。それじゃあ、これは避けきれるかしら?』

 スコールの掛け声と共に、テンペスタⅡ型である『レージング・ネーチャー』の機体部分四箇所から強力な発光現象が開始される。そして高回転するように光が渦を巻き始めると同時、強烈な風斬音が鳴り響きわたった。

 ゴォオオッ!!

 スコールの機体から放たれた攻撃が盛大な面の蹂躙を成すようにして千冬へと放たれる。雷撃と竜巻の混合された衝撃波のような攻撃が一気に彼女へと喰らいついて行く。

「確かに避けるのは難しいようだ。だが、私を討ち取るにも足らんな」

 今まで回避行動を優先していた千冬が、わざと攻撃を受けるようにして一直線にスコールの元へと突進していく。

 この人間は、どれだけ動体視力が人間離れしているのか。スコールが思わず内心で驚愕した。

『くっ!?」

 ザァンッ!

 千冬が必要最小限の被弾でスコールの攻撃を流しきると、一瞬にして零落白夜を発生させながら雪片で切り込んだ。彼女の攻撃を避けきれなかったスコールの駆るレージング・ネーチャーの一部分、ショルダーアーマーの端が綺麗に切り落とされていく。

 スコールが即座にバックダッシュを行い、さらに瞬時加速《イグニッション・ブースト》をかけて千冬から距離を離す。

 そして、彼女が称えていた余裕の笑みが初めて崩れ去った。

「私も腕が鈍ったな、次は外さん」

『……これほどとは思っていなかったわ、ブリュンヒルデの名前は伊達ではないということね』

 スコールが手を真上に翳す。様子を窺っていた千冬が見えない違和感に気づいた。

(熱気?)

 大気が強烈に揺らぐ中でスコールの体も蜃気楼のようになる。

『体の奥まで燃やし尽くしてあげるわ』

 ブゥアアアッ!!

 彼女が開いていた手を握る動きの後、一瞬にして辺り一体が盛大に燃え上がる。赤い光が闇夜を一時の昼間と錯覚させるように塗り潰した。

 煙がスコールの視界を遮って千冬を視認出来なくなる。彼女も同じように爆発に巻き込まれていたが、自身の周りに風と雷を操作して殻のような形状を作り出していた。

 それはさながら金の繭のようにも見えるような、自然現象を捻じ曲げて作り出した盾として機能している。

『私は自爆にならないけれど。これで、少しは堪えてくれていると嬉しいわね』

 ガンッ!

 次の瞬間、煙の中から雪片がスコールに向かって飛び出してきた。

 猛烈なスピードを纏った投擲による攻撃が金の繭によって弾かれる。そして、一瞬だけ気を取られた隙に、彼女自身の真下から声が聞こえてきた。

「こっちだ」

『なっ!?』

 ギィィィィイインンンンッ!!

 零落白夜を再び纏った千冬が不知火による貫きをスコールの真下から一直線に行う。盾となっていた金の繭が突破され、スコールは体を急激に逸らして致命傷を避けた。

 彼女の機体脚部の一箇所が丸ごと破損する。

「悪いが落とさせてもらうぞ?」

 タイムラグを全く感じさせない鋭い横薙ぎの一閃が不知火から繰り出された。

「……光の屈折現象か、厄介だな」

 スコールの胴体に与えたはずの攻撃が、実際は虚像の幻影を切り裂いただけに留まる。少し離れた場所では本物の彼女が千冬を笑顔で見ていた。

そして、恭しく一礼のポーズをとる。

『ブリュンヒルデに敬意を。確かに、貴方が世界最強のIS操縦者である所以を理解させてもらったわ。ご縁があったら、今度は最後にどちらかが朽ち果てるまで踊り明かしましょう』

 風、雷、火がスコールを中心して一気に放射される。全ての混じったエネルギーの衝撃波が、辺り一面をくまなく飲み込んだ。

 千冬が瞬時加速《イグニッション・ブースト》をかけて緊急回避に徹しだす。放射現象が晴れ辺りを見回すが、既にスコールの姿は見当たらなかった。

(イタリアの第三世代機、テンペスタⅡ型。スペックだけは目を通していたが。武装の種類が少なくとも、一つの兵器だけであれだけの応用が利くとわな。確かに、他の武装は必要ないと頷くことも出来るか)

 千冬が遠くの方を見れば、海上で一つ。学園で二つの光が放たれ続けている場所が存在した。

『織斑先生っ!」

「山田先生か」

 量産型ラファール・リヴァイヴを纏った真耶が応援に駆けつけてくる。千冬は地面に突き刺さっていた雪片を抜き取りながら指示を出す。

「こちらは敵に逃げられた。一旦別れるぞ、海上は距離があるから最後だ。まずは学園内のほうを片付ける」

「はいっ!」

 真耶が学園内で戦闘の行われている一方へと向っていく。

(今回の出来事に学園長一人では対処しきれず、周りから押されるだろう。各国の動きも慌しくなる。これは、今まで通りとはいかんかも知れんな……)

 事が大きすぎると、千冬が思わず溜息を漏らす。

 ……が、今は悩む余裕も無い。

 彼女は目標を定め、暮桜を駆って再び飛翔した。

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