[ NumberingTitle_其々ノ戦場(下)_蒼イ虚空ノ会座 ]
― 9 ―
闇夜の戦闘は続いていた。
密着状態になった織斑 一夏が織斑 マドカのスターブレイカーを切り裂き、続けざまに雪羅の砲撃を命中させようとする。白式の右腕から繰り出される攻撃に対し、青い機体が胴を丸ごと捻りきって回転させながら攻撃回避を行なう。連動するようにして、回し蹴りを一夏の胴体へと浴びせていく。
「ふんっ!」
「ぐあっ!?」
打撃が直撃し、彼が苦悶の声を上げた。
マドカが背を見せず、距離を離し隙を突く。複数ある射撃ビットの狙いが一箇所に定められ、冷徹で鋭利な視線が目標を完全に補足しきった。
『先ずは、その可変武装からだ』
ズンッ!!
「がぁあああああっ!」
一夏が衝撃からくる激痛に思わず叫び声を上げる。マドカの攻撃動作に対してバリアシールドの展開が間に合わず、雪羅に計六発のビーム光が全て直撃し爆発した。
『いいっ加減に、好き勝手やってんじゃないわよっ!』
鈴が焦りの表情を見せながら双天牙月を構えてマドカへと切り込んでいく。
『貴様が私に殺されたい二匹目か?』
『くっ!?』
不意打ちによる一撃を与えたはずだった。
背後からの一撃は回避できない鋭い斬撃。しかし、マドカは彼女自身が持っている異常な身体反射速度で鈴からの攻撃を難なく避けきる。
『雑魚が』
既にサイレント・ゼフィルスに回収されていたマドカの射撃ビットが再び宙へと舞って、淡い赤色に発光するビームを撃ち放つ。鈴は攻撃を回避するために、龍咆による牽制射撃を行ないながら距離を離しだす。だが、いくら緊急回避を取ろうともマドカの偏向射撃よる攻撃が、飢えた獣のように鈴の後を追い掛け回していく。
『だったら、あんた自身に当ててやるわよっ!』
それならばと、鈴はマドカから放たれた攻撃を相手自身へ当ててしまえばと判断を下した。
彼女が叫びながら一旦離した距離をマドカ目掛けて一気に詰めなおしていく。マドカが嘲るようにして笑う。
『死ね』
『させないっ!』
簪が近接武装である薙刀の夢現《ゆめうつつ》を振りかぶりマドカへと切り込んでいく。対するようにして、マドカが蛍光ピンクの光るナイフを片手に構えてだす。
『そうか、貴様が先か』
簪から放たれる渾身の一撃が迫る。威力のある斬撃を刀身の短いナイフで苦にすることも無く、マドカはその斬撃軌道を綺麗に逸らしきった。
『ぬる過ぎるぞ?』
そのままの勢いでお返しとばかりに簪に蹴りを見舞う。
『ぐっ!?』
同時、鈴を追っていたはずのビーム光が全て軌道変更し、簪の背中に直撃した。
ズンッ!!
『きゃあぁああああああっ!!』
『くらえ』
「させるかぁああっ!」
マドカが簪に対して二発目の蹴りを放つ寸前、片腕が行動不能に陥っていた一夏の雪片弐型による斬撃が放たれてくる。彼の攻撃に対して彼女が嬉しそうに歪んだ笑みを向けだした。
『織斑 一夏、貴様は無能の極みだな?」
「なあ!?」
乱戦状態の中、マドカが負傷した簪の腕を掴んで自身へと引き込む。致命的な一打、一夏は片腕のみで雪片弐型による斬撃を行っていた。
(片腕のせいで攻撃が止まらない!?)
彼にとって剣戟を勢いで振り抜く動作は、普段使用してる両腕でなければ途中で停止させることが出来ない。両腕で振り抜く動作に慣れ過ぎていた一夏が自身の選択を誤った。
ザァンッ!!
「ああぁあああああああああああああっ!!」
「簪ぃいいっ!?」
悲鳴と叫びと斬撃音が上空で乱舞する。雪片弐型から放たれる必殺の一撃が、簪の胴体に深刻なダメージを与えた。
「待たせたな、貴様には屍になってもらう」
マドカが無造作に簪の腕を放すと、彼女が戦闘不能のままに力なく落下していった。
強大な敵との圧倒的な力量差の中で、一夏が零落白夜を瞬間的に発動させる。
「うおぉおあああああああああああっ!!」
彼が激昂し、怒りの叫び声を上げながら雪片弐型を横薙ぎに一閃した。
◇
海に隣接した飲食店が火災に見舞われている。燃える光源が闇夜を赤々と照らし出していた。
シャルロットとセシリアが視界に収めた先では気絶した喜久と、それを抱えている戦闘不能状態の楯無がいる。二人の普段の実力を知っているシャルロットとセシリアが、思いがけない光景に思わず言葉を失う。
そして、少女の無邪気な声が聞こえてきた。
『あらぁ、グッドタイミングじゃない。丁度ねぇ、今しがた玩具が壊れたところなのよ。新しいのが来るなんて、今日は本当に遊び甲斐があるわぁ』
「喜久……と、同じ顔?」
「ええ、そのようですわね。ですが、どうやら私たちにとっては敵のようです」
二人は敵意を剥き出しにして少女を睨む。様子を見ていた少女が、嬉しそうにしながら恭しく一礼してくる。
『初めましてぇ、クラーラ=ペローフよ。そしてさようなら、先ずは蒼いのから頂くことにするわぁ』
口元で歪んだ笑みを称えたクラーラが、自身の専用機であるウコンバサラを駆って突進を開始した。
三四機の射撃型ビットが先行するようにして、シャルロットとセシリアの二人へと向かってくる。
「セシリア、下がって!?」
「はいっ!」
シャルロットが焦りながら叫び声をあげ、セシリアがスラスターを噴射しながら一気に後ろへと下がり始めていく。二人の方へ向かってきたクラーラの目と髪が、いきなり白色化した。
『あらぁ、棺桶に直行したいのなら答えてあげなくちゃねぇ?』
三四機の射撃ビットが軌道を変え、シャルロットの方へと向かいだす。彼女は高速切替《ラピッドスイッチ》で六連装計四門のビームガトリングガンを展開しきると、そのままクラーラに向かってビーム光の面射撃を開始した。
しかし、クラーラが撃ち放たれた大量の光弾をいとも簡単にすり抜けて来る。ISTS、悪魔のような能力を行使した人間がISという名の牙を振るってきた。
『あはぁ、踊り狂って死んで行きなさいなぁ』
嬉しそうな声と共に、三四機の射撃ビットから光の束が盛大に発射される。
(今だっ!)
ジィンッ!!
『なっ!?』
クラーラが初めて目にする相手ISの防御方法に、驚きの声を上げた。
シャルロットが全面展開したミラーシールドシステムによって、直撃しかけたビーム光が跳ね返りだす。白色の光線が射撃ビットへと、映像を逆再生するかのように戻って行く。
「逃がさないよっ!」
『甘いですわっ!』
『ちぃ!?』
シャルロットからのビームガトリングガンによる攻撃と、セシリアから放たれる射撃ビットの攻撃によって、クラーラの意識が削がれてしまう。彼女は射撃ビットへの指示が間に合わず、避けきれなかった半分程がその場で爆散した。
クラーラが二人の攻撃を全て避けきると、その場でピタリと動きを止める。
(――雰囲気が変わった?)
シャルロットが彼女から妙な圧迫感を感じた。
様子が変わり、クラーラの髪が静電気を帯びたように逆立っていく。彼女が怨嗟のような声で喋りだす。
『よくも、やってくれたわね……。この子を傷つけた代償は高いわよ、貴方たちゴミの命が幾つあっても足らないくらいにぃ、ねえぇえええええええっ!!』
喜久と楯無を倒した相手に、気を抜いてはいけない。シャルロットが全力で対抗するために、エネルギー消費効率の考えを捨て、再びミラーシールドシステムを発動させる。
ジィンッ!
『煩《わずら》わしいゴミね、喉を一突きして終わらせてあげるわっ!』
クラーラが顔を歪ませ、苛立ちの声を上げる。システムを解放したまま、シャルロットがビームガトリングガンを構えた。
『あはははは、馬鹿の一つ覚えは愚策でしかないわねぇ?」
グッ
突然、シャルロットの体に異物が混ざるような衝撃が走っていく。
「あぐぁあっ!?」
「今さっき覚えたばかりなのよぉ、結構効くでしょう?」
クラーラによるISTSの侵食が開始され、シャルロットの駆るラファール・リヴァイヴⅢが行動不能に陥る。彼女の体に、急激な圧迫感と吐き気が襲い掛かった。
(体の自由が利かない!?)
意識が乱雑に引き裂かれ、機体が制御不能に陥る。シャルロットの周りを覆っていた、強固な円の壁が消失していく。クラーラが金属ナイフを展開して機械の手に装備しだす。
無残に何人もの人間を刺し貫いた刃が、絶対零度のような印象をシャルロットに与えた。
「断末魔の悲鳴を上げながら絶命なさいな」
『させませんわっ!』
セシリアが射撃ビットからビーム光を撃ち放つが、クラーラは彼女の攻撃を難なく避けきっていく。
「そう、だったら先に貴方の方へ止めを刺してあげる」
クラーラが向きを変えて、一気にセシリアへと突撃を開始した。
身動きを取れなかったシャルロットがISTSの侵食から解放される。体が自由になると同時、彼女はクラーラに向けてビームガトリングガンを撃ち放っていく。
まるで後ろに目が付いているかのような動きで、クラーラがシャルロットの攻撃を回避しきった。
『くっ!』
セシリアがスターライトmkⅢと射撃ビットによる攻撃を行うが、クラーラには一切当たらない。二人の距離が、みるみると縮まっていく。
先ほどからの戦闘を行っていて得た結論として、セシリアは彼女に近づかれれば自身が戦いに敗れることを理解していた。
彼女は距離を離そうとして回避行動を取るためにバックダッシュに瞬時加速《イグニッション・ブースト》をかけていく。膨大な量の攻撃を避けきったクラーラが、回避途中のセシリアへと無機質な機械の指を向けた。
『あはははっ! そぉら、避けてごらんなさいなっ!?』
セシリアが彼女の笑い声と、満月のように見開かれる目に胸中で抱くもの。其れは、なにもかもを呑みこんでしまう獰猛な怪物のように映った。
大量の射撃ビットが四方八方から白色光の束を発射する。
射撃ビットから繰り出される攻撃を六発目までを避けきっていく。
ズドドドドドドドドドドドッ!!
『きゃあぁあああああああああああっ!』
しかし、残りの攻撃を避けきれずに全て被弾した。
三六〇度の円を描くように配置された射撃ビット。セシリアの機体が踊っているかのようになりながら、ダメージを受け続けていく。光景を目にしたクラーラが愉悦の表情を浮かべた。
『蒼い色なら海の藻屑にぴったりねぇ。さようならぁ、ゴミくずさんっ♪』
高速切替《ラピッド・スイッチ》を行い、大口径のライフルを展開する。即座に狙いを定めて発射した巨大なレーザー光が、回避行動に移ることの出来なかったセシリアの胴体を勢いよく撃ち貫いた。
クラーラからの攻撃によってセシリアが海面へと落下していく。
「セシリアァアアアアアアッ!?」
シャルロットが、悲鳴のような叫び声をあげた。
◇
IS学園では苛烈な一対四の激しい戦闘が続いている。フォルテ・サファイアとオータムが互いに剣戟と射撃の連鎖を起こし続けていた。
チェコで開発されたIS第二世代型であるパペッターの自立稼動していた四機の人形は、既に一機が大破して地上に落下している。そして、フォルテの駆るコールドブラッドも残量エネルギーのゲージが心許ない数値になりだしていた。
『おらおら、最初の威勢はどうしたクソガキッ!?』
「うるさいッスよ、おばさん。キーキー声なんてあげて年中ヒステリックなんて、本当にみっとも無いたらないッスね?」
スコールの嘲笑に対してフォルテが挑発する。
『うるっせんだよガキがっ!!』
当たり前のようにオータムが切れだす。あのハイテンションはどこまで持つのだろうと、フォルテが身構えながら下らないことを思考した。
戦闘中の最中、他の方向から声が聞こえてくる。
『フォルテさん!?』
「あ、山田先生じゃないッスか」
量産型ラファール=リヴァイヴを纏った真耶がスナイパーライフルを構えながらフォルテの横に並ぶ。もっと早く来て欲しかったと、フォルテが内心で溜息を吐いた。
「丁度いいところに来てくれて助かります。だるいんで、後は任せましたッスよ?」
「ぇえっ!?」
「冗談です、ちゃっちゃと倒しちゃいましょう」
「酷いです……」
フォルテが自身の機体、コールド・ブラッドの右腕に内蔵している武装をちらりと見る。一撃を当てれば相手に大量のエネルギー消失を与えられるそれは、ただ静かに鋭い牙を研ぎ澄ませて攻撃の瞬間を待ち続けていた。
「山田先生、私が本体のおばさんを攻撃するッス。なんで、他のをお願いしても?」
「はい、わかりましたっ!』
オータムの駆るパペッターから計一〇発分のレーザーが放たれ、真耶とフォルテが左右に別れて回避していく。真耶が自立稼動兵器を攻撃するためにオータムへ向かって突撃しだす。
(わかりました。なんて、簡単に言ってくれちゃって。まったく、素直なんだか馬鹿なんだか……。ああ、ようは生真面目馬鹿ッスか)
今までフォルテが苦労して戦闘していたのはどこえやら。真耶がなんの躊躇もなく了解すると、そのまま対戦相手が多いほうへと向かっていく。彼女は気を持ち直して、オータムにへと攻撃を開始した。
『は、今さらの援軍か? 雑魚が何人来たとしても結果は同じだってんだよっ!』
『うぅ、この人は一体なんなんですか……?』
オータムが叫び、敵が奇声を発しているように見えた真耶の顔が引き攣る。彼女はオータム目掛けてグレネードランチャーから弾を連続で投擲した。
『はっ! 誰がそんなとろい攻撃に当たるか!?』
オータムが自身を囲うようにして三体の自立稼動兵器である人形がシールドを張る。真耶がそのまま何発も同じようにグレネードランチャーによる投擲をし続けていく。
『ちぃ、イラつく攻撃ばっかしてきやがってっ! 人形ども、あの緑髪の女を殺して来いっ!』
意のままに動く兵士のように、三体の人形が赤い目を発光させて真耶の方へ向かいだす。そこをフォルテが切り込むようにしてオータムへと両手のブレードを振るう。
「がら空きッスよ、おばさん?」
『お前くらい本体だけで充分なんだよっ!』
オータムがレーザーブレードを両手に展開してフォルテに対応する。二人のブレードが切り結んだ部分から紫電の火花が飛び散っていく。フォルテが皮肉ったようにしてオータムに笑いかける。
「惜しいッスね。おばさんは二本、私は四本なんで」
「ちぃ!?』
コールド・ブラッドの両脚部に其々搭載しているブレードをフォルテが連続で振りぬく。放たれる攻撃をオータムが焦りながら緊急回避に徹した。
「もらいッス」
『舐めんじゃねぞ、ガキィ!』
再びフォルテが両腕に搭載されているレーザーブレードで切り込む。オータムが叫びながら両肩に装備していた物理シールドを展開しだす。
「私の機体に近付くと痛い目合うッスよ?」
『 !? 」
フォルテの駆るコールド・ブラッド、その右腕部に搭載されていたブレードが収納される。瞬間、入れ替わるようにして腕が変形し、新たに白熱化した五指と肘に当たる部分から排出口のようなものが飛び出していく。第三世代型特殊兵装、『強制流血《エネルギー・ブリード》』が発動した。
敵物理シールドの間を縫うようにして、フォルテの右腕が相手ISのシールドエネルギーに触れだす。
「ぐあっ!?」
強烈な衝撃がオータムを襲う。彼女が視界端を覗けば余裕のあったエネルギーの残量が根こそぎ削られていく。コールド・ブラッドの右腕部から伸びていた排出口から七色の粒子が放出され続けた。
強制流血《エネルギー・ブリード》、その機能は相手ISのエネルギーを一方的に消失させていく能力を有している。
「一丁上がりッスね」
「クソ、ガキがぁああっ! 人形ども――!?」
苦戦を強いられたオータムが自立稼動人形を呼び戻そうとする。しかし、既に三機の全てが真耶の攻撃によって撃墜されていた。
形勢が一気に逆転していく。
「観念するッスよ。二対一じゃ、どう見たって勝つのは無理でしょ?」
「ふざけんじゃねぇえええええっ!!」
『オータム、下がりなさい』
他から女性の声が聞こえ、フォルテが身の危険を感じた。
オータムから離脱すると同時、自身のいた場所へ雷撃のような攻撃が走る。上空を見上げれば新たなISが一機、フォルテと真耶の方をじっと窺っていた。
スコールが二人を一瞥してオータムの方へと向きなおす。
『本命の作戦は終了したわ、撤退よ』
『……クソガキ、覚えとけ。今度あった時は、てめえの体を引き裂いてやる』
「そんなん面倒くさいッスね、おばさんの戯言は他でやってくださいよ?」
スコールが竜巻と雷撃を混合した衝撃波をファルテと真耶に向かって撃ちだした。
巨大な面の攻撃にフォルテが思わず驚愕する。彼女はその場から背を向けて一気に離脱しだす。真耶も避けきれない攻撃に四苦八苦するようにして緊急回避を行なう。
(く、なんて出鱈目な攻撃方法なんッスか!?)
エネルギーの爆発が止む。フォルテの視界から文字通り完全に敵が消えていた。
真耶も同じようにして見渡すが、残っていたのは抉れ陥没した地面と嵐の去ったような光景が広がっているだけだった。
◇
一夏が零落白夜を発動させて雪片弐型を横薙ぎに一閃する。筋力のリミッターを瞬間的に外し、目の前にある全てを粉砕するために。
彼の怒りで我を忘れたような行為が、マドカの目には下劣な生き物のように映った。
鋭い速度から放たれる剣戟だが、彼女からすれば単純すぎる軌跡からの動きは流れの終点が予想しやすい。
一夏の攻撃を軽々と避けきり、彼女は次いでの反撃によって、手に持っていたナイフを彼の剥き出しになっていた上腕へと突き立てる。
「ぐあっ!?」
白式の残り少ないエネルギー残量値が削られていく。
「死ね、織斑 一夏」
「まだだぁあああああああっ!!」
『一夏、下がってっ!』
鈴が龍咆を放つために一夏へと呼びかける。だが、張り詰めた声が彼の頭の中でピクリとも反応しなかった。
怒り狂った感情が、他人の言葉を一切として受け付けようとしない。マドカが本人の焦る表情から脆弱な精神を理解し、自身の流れが好転していると感じる。
(射撃ビットでエネルギーを削りきれば、ISの強制解除までは時間の問題か)
一夏に対し、死刑宣告のような言葉を告げた。
「終わりだ」
ズドドドドドドドッ!!
「があぁああああっ!!』
射撃ビットから放たれた攻撃が、全て一夏へと直撃していく。鈴が一夏の力なく落下していく姿を視界に収め、激昂する。彼女の中の理性がブツリと、音を立てて千切れた。
龍咆を連続で放ち、マドカへと急接近しだす。
『こん、のぉおおおおおおおおおおおっ!!」
「邪魔だ、雑魚が」
ガンッ!!
「ぐうっ!?」
鈴が双天牙月を振りぬく寸前、マドカが腹部に蹴りを見舞う。次いで彼女の顔面を掴むと同時、射撃ビットから放たれたビーム光が全て背中に直撃した。
ごっそりと甲龍のエネルギーが削られ、激痛によって鈴が苦悶の表情になる。
「沈め」
「がっ!?』
マドカが続けざま顔側面へと、ハイキックを直撃させた。
頭部が揺さぶられ、脳へ打撃の衝撃が波及しだす。一気に脳震盪《のうしんとう》を引き起こし、ISの制御が利かないままに地上へと落下していく。
邪魔が入らなくなったのが解り、マドカがの目が一夏を捕え直す。射撃ビットに光が溜め込まれていく。
『エム、分が悪いわ。本命の目標は達成できたから今日はもう引きなさい』
しかし、後一歩のところでスコールからの通信連絡が入ってきた。
「笑わせるな、なにを言っている? 組織の目的なんぞ知ったことか、私は私の好きなようにやらせてもらう」
『ブリュンヒルデがISを所持していたわ、私は彼女と戦って敗れた』
「姉さんがISを所持?」
スコールからもたらされた初耳な情報に、思わず眉間へと皺を寄せだす。
『オータムの方も相手を抑えきれず、突破されているわ。今が良くとも、直ぐに戦況が相手へと傾くわよ?』
「……邪魔が多すぎるか、了解した。だが、織斑 一夏の止めだけは刺させてもらうぞ?」
マドカが眼下を見下ろして殺害目標を見据える。無感情、無感動、虚無感を纏ったような瞳が、一夏を虫けら以下のように見下す。
彼女が抱く感想。それは自分の下で這いつくばっているだけの兄、なんの感情も持てないような無能だけが取り得の人間だと。
(これが私の肉親、もう一人の私か)
射撃を暇《いとま》もなく連続で敢行し続け肉片も残さずに殺し尽くす。
そう――
『どうやら貴様を倒せば、この騒ぎは終息のようだな?』
懐かしく響く声。あどけない頃の記憶が頭の中で反芻する。昔はその声が聞けるだけで頼もしく感じた。
凛々しく雄々しい、誰にも汚されない気高き女性の声だ。しかし、今の彼女にとっては、その声が心の奥底まで、全て復讐心の対象となっている。マドカは千冬の方を向くと、おもむろに自身の顔を覆っていたバイザーに手をかけた。
まるで必要ないとばかり、自らのバイザーを無造作に剥ぎ取る。瞬間、マドカの顔を見た千冬の顔が硬直した。
『円夏《マドカ》……?』
千冬が有り得ないようなものを見た表情を浮かべる。それに対し、円夏は本当につまらなそうな侮蔑の視線を千冬へと向けた。
「ええ、そうよ。初めまして、もう少しで姉さんの絶望する顔が見れると思っていたのに。とても残念でしかたないわ」
六機の射撃ビットが向きを変え、未だ立てずにいる一夏へと狙いを定めだす。
「姉さんが父さんと母さんを殺した。私を生のある地獄に叩き落した。覚えておけ、私の望みは唯一つ。それは、姉さんに私以上の苦悩と絶望を味わわせることだけだっ!!」
『待て!?』
千冬が叫んだ瞬間、円夏は六機の射撃ビットからビーム光をばら撒くようにして発射した。
一旦、拡散したように放たれた光が、偏向射撃によって全て一点に集中していく。目標は一夏、理由は姉の絶望に歪む顔が見たいがために。
焦った千冬が暮桜を駆って一夏へと向かう。そして次の瞬間、彼女の姿が消失する。
( !? )
円夏が構わずに一夏の居た場所へとビーム光を直撃させる。粉塵が舞い、煙が晴れると彼の姿は存在しなかった。
『くっ……』
呻く千冬の声を聞こえる。方向を探ってみれば、上空で一夏を抱えている彼女の姿が確認できた。
円夏には、千冬が一体どうやって一夏を助けたのかが理解出来ない。
(――ここまでか、次は姉さんも纏めて必ず殺してやる)
彼女は戦闘に区切りをつけ、唸るようにしてその場から離脱した。
― 9・5 ―
水面《みなも》は静かに揺れていた。
地平線は、どこまでも遥か彼方へと広がっている。そこには始まりも無ければ、終わりも無いような澄み渡った青空の世界が広がっていた。
セシリアはIS学園の制服を着用し、素足のままで水中数センチ下の砂利を踏みしめている。彼女は今まで一度足りとも見たことの無い光景に、唖然としたままの表情で虚空《こくう》の会座《えざ》を眺め続けていく。
「随分ぼんやりとしているわね。此方に来なさい、貴方のお話を聞きたいわ」
「え……あ、はい?」
セシリアの前方には、西洋風の白色を基調としたガーデンテーブルとガーデンチェアが二脚置かれている。既に一つの席に先客がおり、気品の漂う貴婦人の女性がセシリアへと声をかけいた。
彼女は促されるままに、空いていた席へと腰掛ける。
「あの、もし。……貴方は、いったい?」
「いつも会っているでしょう。それに、貴方は私のことを理解している。覚えているでしょう、貴方は苦心して私と一度だけ触れ合っているのよ?」
「はぁ……」
セシリアは女性の言っていることをいまいち理解しきれない。生返事で返していたが、だんだんと意識がはっきりと回復し始めた。
「私は!?」
彼女は現実的に有り得ない風景を目の辺りにして、理解しようと必死になり始める。
「落ち着きなさい。私が貴方をここへ招き入れたの。そして、それは貴方が望んでいることでもあるのよ?」
「今は、そんな悠長に構えている場合では!?」
セシリアが席から立ち上がり、両手でテーブルの上を叩く。女性は彼女の行動に対し、冷静に喋り続けていく。
「前人未到の荒野はいつも貴方の目の前に広がっている。後は己の足で踏み出すの。貴方はなにを望むのかしら?」
「私が、望むもの……?」
女性の問いかけに、セシリアが真っ直ぐな瞳を向けた。
「そう、貴方が望むものよ」
決まっている。
一切の迷いなど無い。
セシリアにとって、今まさに必要なものがある。彼女は胸に手を当てながら真剣な表情で、女性へと自身の気持ちを訴えた。
「私の望みはただ一つ、目の前で蹂躙されている私の大切な人たちを助けたい。ただ、それだけですっ!」
「湖面は静寂を保っているわ。そこに新たな水を自らの手《みて》で一滴垂らせば波紋が広がっていく。貴方は一滴を投じて目を瞑り、再び瞼《まぶた》を開き前方を見据えることができる」
女性が、なにかを悟ったような言葉を紡いでいく。セシリアは静かに頷た。
「はい、私はどこまでも自身が決めた覚悟に対し、揺るがない決意を持ちます。それは今も、これからも、いつまでも変わりませんわ」
女性は嬉しそうにすると、彼女自身も答えの得たような顔をする。
「良い答えを聞けて私も嬉しいわ。お行きなさい、セシリア。貴方の舞台はこれから始まるのよ。幕が上がるわ、主役は袖の端には居ないものでしょう?」
「はいっ!」
綺麗な瞳と笑顔で答える純粋な声が、一面に広がった。
セシリアの意識が、新たな目醒《めざ》めと共に再浮上していく。
◇
セシリアは海中に落下していた。
シャルロットが苦しげな表情でクラーラを見据える。クラーラが悪魔のように笑い、陽気な声が辺り一面に木霊していく。
『あはははは、もうゴミのサポートは無いわっ! 随分と梃子摺《てこず》らせてくれた貴方には敬意を表して全力で殺してあげる』
『僕は諦めが悪いからね、そっちの思い通りになる気は無いよ』
『強がっている小動物が、なにを言おうと虚しいだけよぉ。さあ、このままミンチ状に――
海面が発光し、闇夜の青を急激に蒼い光が塗り潰していく。それは、一機のISが胎児のような産声をあげた瞬間だった。
ザバァンッ!!
セシリアの駆るブルーティアーズが、深い海中から急上昇して海面を突き破る。
「シャルロットさんっ!」
『セシリア!?』
シャルロットが驚きの声を上げながら、セシリアの声がした方を向く。確かにクラーラから放たれた射撃ビットと巨大なレーザー光の攻撃が、セシリアに全て直撃していた。
しかし、ブルーティアーズの機体が破損しているように見えない。それどころか、今しがたロールアウトされたばかりの新品のような輝きを放っている。シャルロットが改めてセシリアの様子を観察していく。
(ブルーティアーズの形が違う。これは、第二形態移行《セカンド・シフト》……!?)
背中に巨大なウィングスラスターが付属し、両サイドには射撃ビットが翼のようにな形状で四つずつ格納されていた。
シャルロットと同じように光景を眺めていたクラーラが、そんな馬鹿なといった驚きの表情を顕にする。
『……しぶといわね。面白いじゃない、二人まとめてこの世から葬ってあげるわっ!』
「シャルロットさん、援護致しますわっ!」
『うんっ!』
シャルロットがセシリアの様子に一瞬だけ安堵し、気持ちを切り替えるとクラーラに向かって突進していく。それを援護するように、セシリアが計八機の射撃ビットを射出した。
そのままスターライトmkⅢを展開すると、クラーラに向かってロックオンを行う。
(ふふ、そうですか。スターライトmkⅢの形状も違うのですわね。後で新しい名前を付けてあげなければなりませんが、それは目の前にいる敵を撃ち抜いてからですっ!)
セシリアが使用していたスターライトmkⅢの形状が変化していた。
彼女の使用している遠距離射撃武装はフォルムがより長く、後部の放熱射出口が巨大化している。セシリアがクラーラの動作予測を思考しながらサイトの中心にロックオンを行なう。
(――充填型武装?)
セシリアの新しい武装がエネルギーチャージを行なっていく。銃口が光をものすごい勢いで溜め込みだした。
前方ではシャルロットがクラーラに攻撃を仕掛けようとしている。
『一突きして息の根を止めてあげるわ』
『こっちだって、二度も同じ手を受けるつもりもないよっ!』
シャルロットが、六発分の地対空ミサイルを展開して射出する。そのままクラーラに向けて攻撃を放つと同時、高速切替《ラピッド・スイッチ》でビームガトリングガンを展開し直して構えていく。
『当たれぇええっ!』
ゥゥゥヴッ ヴヴヴウウンンンンッ!!
シャルロットの声に応えるようにして、重武装が低い唸り声をあげた。
彼女が狙い撃つのはクラーラではなく、自身が撃ち放ったミサイルだ。大量の光弾がミサイルに被弾し、クラーラを巻き込むようにして盛大に爆発した。
灼熱の爆風と煙が、円状に放射されていく。
『はん、そんな攻撃が当たるわけないでしょうにぃ?』
クラーラが余裕で回避をした先にセシリアのビット射撃から攻撃が放たれた。
が、クラーラは当たり前のように攻撃を回避しきる。
『セシリア、撃ってっ!』
『 !? 』
シャルロットが叫び声を上げ、クラーラが何事かと警戒してセシリアの方を向きだす。そして、それが一瞬の隙を生み出した。
『嘘《フェイク》って、大事だと思わない?』
『なっ!?』
シャルロットが、背中に搭載している八枚の独立稼動ウィングスラスターを使用して高速度旋回を行なう。彼女の急激な速度変化と言葉の心理戦に対してズブの素人だったクラーラが、盛大に舌打ちした。
次の瞬間、ラファール=リヴァイヴⅢが物理盾の下から覗かせた『城壁殺《トリプル・シールド・ピアーズ》し』がクラーラに向かって射出される。
『外した!?』
『あはははは、そんなノロマな攻撃が当たるわけないじゃないっ!』
ラファール=リヴァイヴⅢが放つ、最大攻撃力の一撃が回避された。
クラーラがシャルロットの攻撃を避けきって、歪んだ笑みを見せる。
「シャルロットさん、回避してくださいっ!」
『わかったっ!』
シャルロットがセシリアの声に応じてクラーラから距離を離す。
「これがブルーティアーズの本領です。その身をもって、体感なさいっ!!」
セシリアの声と共に、進化したスターライトmkⅢが咆哮をあげていく。銃口から撃ち出された鋭い閃光が、一直線上にクラーラの駆るウコンバサラを貫こうとした。
『なっ!?』
圧倒的な速度を叩きだした光弾に、クラーラが驚愕の声を上げながら紙一重で緊急回避を行なう。セシリアの放った攻撃が、ISTSを使用した状態でも殆どスローモーションにならない。その事実にクラーラが警戒心を強めた。
閃光が海面に到達した瞬間、海中で爆発した威力に伴い盛大な水柱が吹き上がる。その光景を見ていたクラーラはシャルロットから距離を離すと、宙に停滞させていた射撃ビットを全て回収した。
彼女の白い目と髪が通常時の色素へと戻っていく。セシリアとシャルロットが其々の武装を構えながらクラーラの様子を窺う。
彼女が遊ぶことに疲れた表情で、気の抜けたような顔をしだす。
『今回は止めね、流石に私も疲れちゃった。貴方たち二人の顔は覚えさせてもらったわ、下で転がってるゴミ共も含めてねぇ。死に損ないに伝えておいてちょうだい、私と同じ顔には吐き気しかしないの。次は確実に息の根を止めてあげるって』
クラーラが当たり前のように背を向けて飛び去っていく。
追おうと思う――――――が、追えない。
追撃したいという心の動きに対して理性が頑なに拒否をする。 セシリアとシャルロットはクラーラが視界から消えるまで、気を抜くことができなかった。
完全に姿が見えなくなるのを確認すると、二人はやっとの思いで精神的な緊張を解《ほぐ》していく。
「……あれが、私たちの敵なのですわね」
クラーラが持っている反則的なまでの能力。それが余りにも強すぎると、セシリアが正直な感想を心中で吐露する。そして、シャルロットも同じような感想を自身の胸の内に抱く。
『攻撃が殆ど当たらなかった。当たったのも、僕の最初に行なった不意打ちだけ』
「シャルロットさん、喜久さんと更識会長の元へ急ぎましょう」
『そうだね、直ぐに学園へ連れて帰らなきゃ』
二人は喜久と楯無の回収へと向かった。