[NumberingTitle_顔合ワセ_仲間ノ対応]
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「ねえ、聞いた!? 四組にアメリカの代表候補生がいるらしいよっ!」
「それって、短期留学生って話でしょ。なんか実験的に、他の第三世代機との性能差データ収集が目的だって聞いたけど?」
「見た見た、私も見たっ! 背が高くて足長いし、腰細いし、胸も大きくて。なんか、ハリウッド女優みたいだよね!?」
新学期が始まり、学年の話題は短期留学で日本へ来日した代表候補生のこと一色になっている。それは、どのクラスでも同じような状態であり、殆どの女子生徒が羨望の眼差しのようなものを話題の留学生に向けていた。
ISの登場から十年が経過した現在においても、世界中の国家間によるミリタリーバランスは依然として変わらない。小規模の変動があったとしても、国全体の軍事力と合わせてみれば誤差の範囲内となっている。そして、それはひとえに最大の原因として、ISの分配量が問題となっていた。
優先的に配分される量が先進国に偏っている。特にアメリカのIS保有数は、他の国に対して群を抜いていた。
各国間の体裁と言う意味で、この国は留学生を定期的にIS学園へと送り込む。しかし、自国で賄えるだけの設備が揃っている状態から、国家代表候補生は秘蔵の扱いとされていた。
結果、アメリカは学園に対して今まで一度たりとも、代表候補生を留学させたことがない。
それが、なぜ今になってと方々で噂されている。その中で唯一人、周囲の空気とは違う思いを募らせている人間がいた。
(クソ大佐の野朗が……。ついに、こんな下らない出し物まで引張ってきやがったか)
春の陽気を無視するかのように、朝のホームルームが始まる前から市隈 喜久が危機感を募らせていく。彼は余裕の無くなってきているジャスパーが、次の手を打ってきたと感じていた。
渡米を待ち構えているだけだと思っていたが、確実に自身を潰せる可能性の高い人間を送り込んできたのだと。
喜久は代表候補がミアの駒として機能していることを知らない。だからこそ、米軍の送り込んできた刺客と捉えてしまう。
机で寝そべりながら考える。どうやって、ジャスパーから送り込まれてきた駒を叩き潰すか。策を練るのか、相手に直接警告を発するべきか。良い手を考えなければ、相手の出方次第で校則無視の戦闘行為が始まってしまう可能性を考えた。
結論、騒ぎを起すのは出来るだけ避けたい。最低限、秋の渡米まではひっそりと過ごすべきだ。
「ねぇ、あれって例の子じゃない?」
「うそ、なんでうちのクラスに!?」
「え? そっちは……」
しかし、問題は喜久の元へとやって来る。否応無に対処しなければならない状況が発生しだし、彼は女子の戸惑いを上げた声に反応した。
そして、普段は見慣れない背の高さがある留学生を彼は目の前にして警戒しだす。
「ここの学園には男子がいるって聞いたの。確か、名前はヨシヒサで合ってるよね?」
微笑ながら話し掛けてくる女子がいた。
彼女は友好的に接するようにしてコンタクトをしてくる。その行為が喜久の感情を圧迫した。
彼はアラルティアを見据えながら、ボソリと呟いていく。
「0211、中東、大佐」
「……え?」
「アイリア」
「ちょっと待って、なに言っているの?」
喜久の内情に関わる言葉を彼が端から順番に羅列しだす。彼女は彼のいきなりな対応に面を喰らって困惑してしまう。
「ナイザ」
「 !? 」
ナイザという言葉に、アラルティアが過剰反応した。
彼女の顔に苦悶の表情が浮かび上がる。喜久は答えが出たなと思いながらも、頭の中で新たな混乱が始まっていた。
表情に出すぎていることや、ナイザという単語にのみ反応したことが理解出来ない。反応するなら、もっと前の単語でも問題が無い筈だと。
彼は平静を装いながら、アラルティアへと適当に話し掛ける。
「独り言だ、気にすんなよ。んで、あんた誰?」
「……貴方が」
「なに?」
アラルティアの感情が爆発しそうになる。今すぐにでも、目の前の存在を壊してやりたい。姉を殺した人間に対して制裁を加えてやりたいと。
「いえ……、なんでもないの。私はアラルティアよ。ところで、今日の放課後は空いてる?」
再びにこやかな笑みを作る。彼女の精一杯にみえるぎこちない笑顔が、喜久に更なる不信感を与えた。
(なんだ、こいつ? 前に送られてきた、どこぞのウド女よりも演技が下手糞すぎる。クソ大佐が、こんなマヌケな奴を俺に張る意味は、一体どこにあるってんだ……)
喜久が視線だけを動かし、アラルティアを下から上まで眺めていく。彼女は彼の視線に違和感を感じ出す。舐め回されるようにして見られていることに、酷く嫌悪感を催した。
喜久が適当にニヤケながら彼女へと返答する。
「随分と大胆だな。なに、一発やらせてくれんの?」
スパァンッ!!
次の瞬間、顔を真っ赤にしたアラルティアの強烈なビンタによって、彼は椅子から転げ落ちた。
彼女が無言のままに踵を返し、怒りに満ちた表情で教室を後にしようとする。教室の入り口で、箒と鈴が入れ違うようにしてアラルティアとすれ違う。
二人が困惑したまま喜久の下へとやって来た。
「あんた、またなにかやったの?」
「頬に手の跡が残っているが、どうしたのだ?」
今のやり取りを直情型の二人に話すと非常にまずい。彼は即座に頭を切り換えて誤魔化しを述べだす。
「軽いスキンシップだよ、過激な答えを貰ったけどな。あー痛ぇ、思い切り引っ叩きやがって。たぁく、奴は何がしたいんだか……」
喜久はアラルティアに、どんな答えが返ってくるのかを試してみた。
だが、取り入って繕う訳でもない。懐柔もなさそうなら、やり取りからの目的も見えなかった。
彼は椅子を直して口の中を確かめる。箒と鈴は、またいつものように呆れた顔をしだした。
「ねえ、ティアーニ。この馬鹿喜久は、なにを仕出かしたの?」
【誘ってきた相手に、交尾の要求を持ちかけただけよ】
正直なAIの暴露に、予想外の返答をされた鈴の顔が真っ赤になり、次いで口がアワアワとしだす。
「おい!?」
喜久が大声で怒鳴った次の瞬間、いつものメンバーで一番聞かれてはいけない人間の耳に情報が入ってしまった。
「よ、よよ、喜久……」
生真面目人間の箒がプルプルと肩を震わせて、拳を握りながら口から火を吐きそうな勢いで喋りだす。
「おい、待てよ!? 俺はなにもして――
「問答無用っ!! お前は一度、三途の川を拝んで来いっ!!」
不順異性交遊はご法度とばかりに、箒は豪快な蹴りを喜久の鳩尾に見舞った。
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アラルティアが、もの凄い勢いで廊下を大股にして歩いていく。彼女の胸中は荒れ狂い、怒髪天という言葉が似合っているような形相をしていた。
(信じられない!? 初対面の相手に、いきなりあんなことを言ってくるなんてっ!)
喜久の口から姉の名前を出されて沸点を超えそうになり、放課後の空いた時間を誘えば誘ったで思いもよらぬ返答が返ってきてしまう。彼女は頭の中で、最低最悪の人間というレッテルを彼の顔面に貼り付けた。
無理やりに留学を決めて学園までやって来たが、酷く不快な感覚だけが気持ちを蝕んでいく。そして、足を止めてから傍と気づく。
自身が、どうしようもないミスを犯してしまったことに。
(相手から誘ってきたのに。どうしよう、ビンタまでかましたから、余計に近付きづらくなっちゃった……)
自身が最終的に喜久の言った状態まで持っていかなければならなかったのに、不意打ちのような言葉をもらって対応し切れなくなった。
アラルティアが頭を抱えて蹲《うずくま》る。周りから見て取れるそれは、彼女が頭痛を必死に堪えているようにも見えた。
いつも、なにか一歩が足りなくなってしまう。本人にとって、なかなか直すことが出来ない癖がある。それは、どうしても簡単なミスをしてしまうという問題だった。
呪いのようなそれは、ことあるごとに顔を覗かせる。現に今が、まさにその状態といえた。
なんとか喜久との関係を修復しなければと彼女は意気込む。そして、ポツリと本当の気持ちが漏れ出していく。
(私にできるの……? 本当に……人を殺すことなんて……)
アラルティアは喜久やミアと違い、殺人行為を行った経験がない人間だった。
彼女が苦悩していく。葛藤すればするほど、恐怖心から呼吸がし辛くなっていった。
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「変態ですわね」
「同情の余地がないね」
「不潔……」
「はいはい、俺が悪いですよ。でも、既に何発も殴られたんで、反省はしないけどな」
朝の出来事を聞いたセシリア、シャルロット、簪が軽蔑の視線を喜久に向ける。昼休みになると、開口一番に彼へと避難の声を上げる三人がいた。
ラウラはどうということも無さそうにしており、一夏がなんともいえない表情をする。
「喜久、相手への声のかけ方をもう少し考えろよ……」
「適当に言っただけだ、本気なわけないだろ?」
肩を竦ませて答える喜久に、その場にいた殆どの人間が頭を抱えたくなった。
彼にとって、今一番必要なものはデリカシーなのだと。このまま呆れられ続けるのも御免だとばかり、喜久は別の話題を一夏に切り出す。
「そういえば、一夏さ。ボーデヴィッヒとクラス代表を争って、模擬戦したんだろ?」
「……ああ。俺のほうが、ぼこぼこになっただけだけどな」
「どんまいだな、次に繋げてけば良いんじゃない?」
「そうなんだけど、やっぱり難しいんだよな」
つい先日、一夏とラウラはクラス代表をかけて争っている。試合は結局のところ、ラウラのAICに翻弄された一夏が負けてしまった。
彼は雪片弐型と雪羅のコンビネーションで連続的な攻撃を繰り出すが、ラウラに全ての攻撃軌道を読まれてしまう。
一夏にとっての目下の課題、それは白式以上に彼の戦略的な行動の成長が急務となっている。そして、彼が不意に思い出すようにして他の話題を持ち出した。
「そういえば、白式を管理してる倉持技研から、珍しく顔を出すように言われたんだよ。簪は呼ばれてないか?」
「私は……呼ばれてない」
一夏の駆る白式と簪の駆る打鉄弐式。この二機は倉持技研が管理開発を行なっている。いつもは、学園で処理しているISのデータを送っているので、特に問題は発生していなかった。
しかし、今回は彼だけが倉持に呼ばれている。
「そっか。一体なんだろうな、俺だけ呼ばれるだなんて」
「案外、白式の改修とかじゃないの? 一夏、あんたの白式はそれこそ燃費が悪いから、効率的にするための課題が残ってるじゃない」
首をかしげる一夏に、鈴が嗜めるような発言をした。
「む、それなら必要ないだろう。私の紅椿が持っている絢爛舞踏があれば、特に問題ないはずだ」
「いえ、ISは一機が独立して動けてこその兵器です。白式は、今の状態ですと単なる欠陥機となってしまいますわ」
箒が意見を言うが、セシリアが横からやんわりと彼女の意見を否定した。
「しかしだな、私が一緒に動けば大丈夫な筈だ」
納得の行かない箒が食い下がる。そして、更にラウラからの追い討ちが入りだす。
「箒がよくとも、今回は上手くいかんだろう。チームタッグマッチ戦では、お前が一夏と対立するのだぞ?」
「そうだね。ここにいる全員が、当日は対戦相手になるから。今日の放課後はチームメンバー同士の顔合わせもあるし。これからちょっとの間は、みんなで食べる機会も少なくなりそうだね」
シャルロットがチームタッグマッチの話題を述べると、いつものメンバーが思い思いの顔をしだす。
「あたしが組むチームには、ルームメイトのティナが一緒なのよね。一夏はどうなのよ?」
「のほほんさんが一緒だな。後は、この前会ったミアもそうだ」
一夏がミアの名前を出した瞬間、セシリアとシャルロットが厳しい顔をしだした。
二人の顔を見た喜久が、呆れた表情のままに手をぶらつかせて適当に答える。
「心配すんな、一夏は問題ないだろうよ。ミアの奴は毒気を抜かれっぱなしだったからな」
シャルロットとセシリアが、一夏の顔を見ながら考え込む。結論が出たらしく、二人は喜久の言葉に納得がいった。
「一夏ならそうかも知れないね」
「一夏さん、頑張ってくださいな」
「なんだろうな、そこはかとなく馬鹿にされた気がするんだが……」
一夏が腑に落ちないとばかりに、げんなりとしだす。他のメンバーは話についていけず、戸惑ったようにして聞くに徹している。
そして、朝の出来事が巻き直されたかのように、再び一人の女子生徒がメンバーのテーブルにまでやって来た。
周囲のテーブルでは、ざわついた声がそこかしこから聞こえてくる。喜久にとって、害になるのか判断のしにくいアラルティアが声をかけてきた。
「朝のことは、お相子にしてくれると嬉しいんだけど。答えをもらうために、もう一度聞きにきたの。ヨシヒサ、放課後に少し話できないかな?」
相手の出方をどう見るべきかと、彼は結論を出しあぐねる。
(……ミアの時は一方的にやられたが、二の轍を踏まなければ問題ないか)
ミアの時のようにはやられない。やられる前にやってやると、今後の方針を固めていく。
「付き合ってやるよ。んで、俺は――
「喜久さん、なにを仰られているのですか?」
「喜久。今の発言みたいなことは、僕に対して一度も言ってくれたことがないよね?」
彼の前には仁王立ちしたセシリアとシャルロットが立ちはだかった。
喜久に話し掛けてきたアラルティアも、思わず一歩後退してしまう。それほど彼女たちは恐い笑顔を浮かべていた。
喜久も順序の組み立てを間違えたなと、内心で溜息をつきだす。セシリアが腕を組みながらアラルティアの方をみた。
「お噂は、兼ねがね聞かせて頂いておりますわ。初めまして、アメリカ国家代表候補のアラルティア=アトウッドさん。私はセシリア=オルコットと申します。喜久さんに、なにか御用ですか?」
(うわ、私この人苦手だ……)
アラルティアが内心で辟易する。押され気味の雰囲気に何とかして耐えながら、彼女は言葉を吐き出した。
「そんな気にするようなことじゃないの。彼に聞きたいことがあるだけよ?」
「シャルロット=デュノアです。アトウッドさん、気にするようなことが無いなら、別にここでも言えるよね?」
なんて好戦的な二人なのだろうと、アラルティアは胸中で白旗を上げそうになる。喜久を懐柔する前に立ちはだかる壁の高さに、いきなり根を上げそうになった。
彼女に対してセシリアとシャルロットが対応していると、場をややこしくするのが三度の飯より好きな人間が顔を出す。
「あらー、なんか楽しそうね~♪ おねーさんも混ぜくれないかしら?」
「更識っ! 昨日は、よくもやってくれたな!?」
楯無がにこにこしながらやって来ると、今まで平静を保っていた喜久が盛大に荒れだした。
彼女は嬉しそうにしながら体をくねらせる。
「あん、怒っちゃって。あれは、私からよっちゃんへの愛情表現の一環よ?」
「ふっざ、けんじゃねぇ! いい加減にしろ、サド女っ!!」
「喜久、落ち着け!?」
喜久が吠え、一夏と他のメンバーが彼を落ち着かせようとした。
アラルティアは呆然としたまま事の成り行きを眺めている。昼休みの休憩時間、彼女は喜久に対して接触を図ろうとしたが、見事に横槍が入ってしまった。
結局のところ、彼女がミアと二人で描いたシナリオは、開始一日目で見事に破綻した。
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「ラウラは一体、なにやってんのよ……。喜久、あんたには意味がわかる?」
「俺に聞くなよ、凰。どうせまた、軍人の血が騒いでんだろ?」
「あれは、ISの役に立つのか?」
一日のカリキュラムが終了して放課後になると、クラスの生徒たちが各々目指すべき場所へと教室から去っていく。そんな中、鈴が窓の外を覗けばラウラの姿が確認できた。
声をかけられた喜久と、同じように窓の外を覗きこむ箒が疑問を感じている。外ではラウラが竹刀を片手に怒声を発していた。
「スピードが落ちているぞっ! もっと早く走れっ!」
「ひぃ!?」
「も、もう、無理……」
「よし、プラス五周だ。さっさと行けっ!」
彼女は同じチームのIS操縦者メンバーをひたすらに走らせていく。怒声と地面に打ち付けられた竹刀の音に、走っている女性徒が悲鳴を上げ続ける。
「こん、なの、やって、何の意味が、ある、のよ!?」
「ほう、無駄口を叩く余裕があるようだな。お前には、あと十周追加してやる。気絶するまで走り続けろっ!」
「鬼~っ!!」
ラウラから放たれる有無を言わせないような鋭利の視線に、文句を言った女子生徒が恐怖して再び走り出した。
彼女は胸中で今後の訓練メニューを思考する。
(先ずは、逆境の中でも勝ちに行く気力を振り絞れるだけのメンタル作りからだ。急ごしらえだが、この調子で行けば一週間ほどでISのチームワーク訓練に入れそうだな)
学園のカリキュラムは生温い。それがラウラの率直な感想だ。これから毎日の終わりには体力も精神も限界まで追い込んでいき、それを乗り越えられるだけの力を積ませるべきだと考えている。そのために今は、基礎体力の底上げと精神の胆力充実に力を入れていた。
彼女の考えを知らない三組の面々は、それぞれの感想を述べだす。
「完全に軍隊式ね。脱走する女子が出なきゃ良いけど……」
「俺なら即座に脱走してるわ。ボーデヴィッヒの奴が織斑先生に見えるな。出席簿まで持ったら完璧だろうな」
「大会当日には、ラウラのチームだけ全員目が据わっていそうだ」
きっと、大会の日には異様な空気を放つチームがいるに違いない。三人は苦笑いしながら外の様子を窺いつづけていた。
「市隈君、荷物を運ぶの手伝ってくれる?」
「ん? たぁく、面倒臭ぇな。それじゃ、またな二人とも」
彼らの横から裕香が声を掛けてきた。
喜久は鈴と箒に軽く手を振ると、特に反抗もせず指示された通りに動いていく。彼は模擬戦に負けてからというもの、約束通りに彼女のいうことを聞き続けている。
それは、喜久が必ず守るものである中道、中立、平等を重んじていることに他ならない。
二人で廊下を歩いていると、喜久が裕香に質問する。
「なあ、一つ聞きたいんだけどさ?」
「なに?」
「そんなに野郎みたいな性格で、学生時代は周りから浮いたりしなかったの?」
彼は男子ということもあるが、本人の性格に難点があるために学園中から浮いている。それが裕香であった場合はどうかと思い、聞いてみることにした。
彼女は笑って平然と答える。
「そりゃあね、勿論浮いたわよ。まあ、特に気にしなかったけど。たまにあるじめった感覚って、私の肌には合わないのよ。突っかかってきたのは、当然片っ端から締めさせてもらったけどね」
「レディースかよ……。山田先生は、あんたによく付き合ってくれたな?」
「ああ、それは私が散々に真耶を引張りまわしてたから。あの子は真面目すぎだったのよ。だから、彼女の溜まってたストレスを吐き出させてた面もあったわ」
授業中に真耶は裕香のことをよく叱っている。だが、本気で嫌がっているようでもないように喜久からは見えていた。
「良くも悪くもってところか。随分と面倒見が良いことで」
裕香は笑いながら「まあね」と答える。二人はそのまま職員室方へと歩いていった。
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IS学園において、今年の二年生に課されているチームタッグマッチがある。そして現在、一夏が食堂ラウンジの一角で集まったチームメンバーの押しの強さに困惑していた。
「ちょっと待ってくれ!? 俺にはリーダーなんて無理だっ!」
「おりむーにー、拒否権はな~い。専用機持ちーは、おりむーだけなんだからー」
「織斑君にやってもらうのが、一番良いと思いますっ!」
「そうだそうだー、多数決に従えー」
整備科の布仏 本音を筆頭にして、他の女子も一様に一夏をチームリーダーへと祭り上げる。彼は状況を脱すべく、顔を左右に向けていく。視界に納まった一人、話し合いを聞くに徹して足を組んでいる女子へと助け舟を求めた。
「ミア、お前も俺の他に、適任者がいると思わないか?」
「織斑君で充分でしょう。専用機持ちはISの華よ、チームメイトを鼓舞する音頭取りとしても機能するしね」
「ミコリー、良く言った~。これで決まりだね~♪」
「ミコリー……」
長い袖をはたはたとさせた本音に、変なあだ名を付けられたミアの口元が引き攣る。天然は苦手だと、彼女は内心で溜息をついた。
「おりむー、諦めて頑張れ~」
「……はぁ」
一夏がミアと同じようにうな垂れた。
(駄目だ。ここには、俺の意見に賛同してくれる仲間がいない)
自分なんかが何の作戦を立てられるのかと、一夏は試合のことを頭の中で想像する。しかし、なにも出来ずに惨敗する気がした。
彼の様子を見ていたミアが、軽く指を鳴らしてチームメイトの注目を集めだす。
「織斑君、あなたはチームの音頭を取れれば充分よ。作戦の立案は他の人に任せればいいわ。もしよければ、私が参謀役を請け負いましょうか?」
「本当か、助かるよ!?」
一夏は助け舟が来たとばかりに、嬉しそうな声を上げた。
「貴方って作戦とか立てられるの?」
「ミアって、学年成績がそんなに高くない印象があるけど?」
「織斑君が駄目なら、ミアじゃなくて私がチームの頭脳をやっても良いわよ?」
ミアの意見に何人かの女性徒が不審そうな顔をしだす。中には、一夏へのアピールがしたいために、対立案を出す者もいる。ミアが嬉しそうに笑い、意地の悪そうな顔をした。
「あらぁ、良かったわ。チームの責任重大な要の問題を請け負ってくれるだなんて。喜んでお願いするわね」
「うっ……」
「貴方がやってくれるのかしら?」
ミアにとって参謀などの役回りは、正直どうでも良かった。
ただ、気まぐれ的に一夏に助け舟を出しただけ。彼女自身は目的を達成できている。他に立候補するものがいれば、それに押し付けてしまえば良いと考えていた。
「いえ、やっぱりやめておくわ」
「そう、残念ね。他にやりたい人がいれば言ってね?」
言葉で上手く誘導されていまいそうだと、チームのメンバーがミアに対して警戒しだす。そして、じっと彼女のほうを見ている女子がいる。その視線に気づいた一夏が声を出した。
「どうした、のほほんさん?」
本音がうんうんと考え込んでいたが、ぽんと手を打って嬉しそうに喋りだす。
「ミコリーは~、策士というよりー悪女だね~♪」
「悪女……」
ミアが彼女のストレートな発言に思わず唸る。そして、軽く頭を抱えてしまう。
彼女にとって、布仏 本音という人間が天敵化した。
「ああ、確かに言えてるかも。なんか映画のスパイ役が似合いそうな感じだ。ミアって役者っぽいもんな、男の俺から見ても背が高くて格好良いし、モデルか女優が向いてそうだ」
一夏は本音の例えに納得したらしく、笑顔のままにミアの職業適性を述べだす。
殆ど天然な性格である二人のせいで、ミアはいつもの調子を崩されてしまう感覚に陥る。どうしてこう、恥ずかしいことを平気で言えるのだろうかと。
全くどうにもやり辛い、ほんわかとした空間は勘弁して欲しいと心の中で嘆いた。
彼女の得た結論、駆け引きしようがない相手は疲れる。
そこで、一夏が大事なことを思い出す。
「ああ、そうだ。俺さ、学園が休みの日に白式を見てもらってる倉持技研に行かなきゃいけないんだよ。なんの通達かは聞いてないんだけれど、もしかしたら改修作業とか追加パーツの話しかもしれないんだ。だから、作戦を考えるのは、それが終わってからにしてもらえないか?」
彼の話を聞いたチームメンバーが納得したようにする。そして、一人から手が上がった。
「ん、えっと……情報科の佐々木さんだっけ?」
「大正解っ! こんな機会って滅多に無いからね。織斑君、倉持の件が終わってからでいいから、今度白式を見せてもらえないかな!?」
妙にハイテンションな佐々木が、一夏に両手を合わせてお願いをする。各国の試作状態である第三世代機は、殆どの学生が接触することは出来ない。
その理由。国の機密保持部分やヨーロッパで行われているトライアル・テストなどのため、IS学園の生徒であったとしても表面部分までしか整備できない状態だった。
そんな中で、企業として登録されているだけの白式、ブラックペタルは例外となっている。さらに第四世代機の紅椿に至っては、各国の涙ぐましい努力を無駄にするほど異端な存在だ。
佐々木が言っているのは、チームなのだから機体調整が必要という建前と、国の正式実験機登録をなされていない白式なら尚のこと許されるのではと考えていた。
彼女は今回のチームタッグマッチを心から喜んでいる。余りの興奮に両手の指がワキワキと開閉しだし、一夏が頬を掻きながら苦笑いした。
「う~ん、どうなんだろうな。特に問題は言われてないし、去年の専用機タッグマッチも自分で調整してたし。良いんじゃないか?」
ISの条約や企業の秘匿条項の扱いを殆どよく解っていない一夏が、首を捻りながら佐々木に許可を出す。
「やったーっ!!」
「やっぱり、どうなんだろ……?」
彼は彼女の余りの喜びようを目の当りにし、やっぱり駄目だったのかもしれないと考え込んだ。そして、本当は倉持から技術非公開をされていることを後で知った。
チームメンバーは勘違いする。白式は情報開示を許可されている第三世代機なのだと。
後日、一夏は千冬から盛大に叱られた。
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「あれ、もう揃ってんのか。悪いね、ちょっと用事で遅れたわ。俺のことは気にしないで、話を続けてくれよ」
第二整備室で一つのチームがミーティングを行っている中に、遅れてきた喜久が声をかけて部屋に入ってくる。和気藹々と話していた女子生徒たちが、皆一様に嫌悪感を示しだす。彼女達から露骨に嫌がられていたのを彼は理解したが、適当な場所を陣取って腰を下ろした。
いつものように、飄々としながら欠伸を一つする。そして、喜久を見ていた一人の女子が神経を逆撫でされたように感じて席から立ち上がった。
「ふざけないでくれる!? あんた一人のせいでね、私達のチーム全体が纏まらなくなるのよっ!」
「そら、言いがかりだろうがよ。俺は、まだ何もしてねぇじゃん?」
他の女子も呼応したように喜久を睨みつける。
「まだも何もないでしょう。そっちの普段からくる態度に、私達が納得してるとでも思ってるの?」
「国家代表にまで噛み付いてさ。協調性の欠片もない貴方に、こっちがどう合わせろって言うのよ?」
喜久の所属するチーム内で初めてのミーティングは、メンバーの女子たち全てが彼を敵視していた。
今までのやる気のない態度、教師への度重なる反抗、専用機を所持していることへの嫉妬等、様々な感情が女子たちの心中で渦巻いている。彼女達にとっては余りにも面白くない、そんな存在として認知されていた。
しかし喜久は、そんなことは百も承知だといったような表情をする。
「はいはい、言いたいだけどうぞ? 俺はあんたらを邪魔するつもりもないし、好きにやってくれて構わないから。そっちは、俺に作戦の指示だけ飛ばせば、チームの連携に関しては支障が出ないだろ?」
「あんたがいるだけで邪魔だって意味が解らない? こっちは顔も見たくないって言ってんの」
「あっそうって、今さらチーム替えなんぞ出来ないだろ。ガキじゃねぇんだし、それぐらい我慢したらどう?」
「あんたの方がガキじゃない!? 今だって一人だけ遅れてきて、えらっそうにっ!」
口喧嘩が止まらない。喜久はやってられないと思いながら内心で溜息を吐く。どうにも溝が広がる会話ばかりが続いていく。
「男女の手伝いをして遅れたんだよ。そこらへんは俺個人の問題だから謝るけど。すいません、遅れて申し訳ありませんでした。これで良いか?」
「全然、反省の顔してないじゃない!? ふざけてんの?」
彼は素直に頭を下げる。だが、その行為自体に苛立った女子が声を上げた。
「ふざけてねぇよ、至って真面目だけど?」
「誠意がたりないって言ってんのよ。大体、なんであんたみたいなのが専用機を所持できるわけ?」
話が纏まらず、喜久に関して他の話題が出だす。どうにも収拾がつかなくなり始めてしまい、当の彼も言われ放題な状況にだんだんと苛立ちを持ち始める。
「専用機は関係ないんじゃない、話を逸らすなよ? しっかし、これだけ不毛な会話ばっかじゃ初戦敗退が目に見えてるな」
「うっさいわね、全部あんたの責任でしょうが!?」
ダンッ!
短気な性格を抑えていた苛立ちが限界を迎え、喜久が片足をその場で思い切り踏み込む。激しい音に女子の数名が、一瞬だけ緊張した。
彼が自分の座っていた場所から立ち上がると、ぎらついた目付きで周囲を睨みつける。
「四の五の言ってないで、きっちりさせりゃあ良いんだろうがよ。簡単だろ、要は強いか弱いかの優劣がつけば互いが納得する。俺みたいな人間を黙らせるには、すごく簡単な方法だ。だったら話が早いよな、専用機を使用していいんなら一対四で相手してやるよ。機体は互角、技量差で力比べなら俺も訓練機に搭乗して一対一だ。譲歩してやっから、対戦方法はあんたらで決めろや?」
女子たちが輪を作って話し合う。結論が出ると、グループの中で一番操縦技能の高い女子が彼に対して発言をする。
「後で不公平なんて言われたくないからね。私が一対一で、あんたを負かしてやるわ」
「エリート意識が高すぎて、流石にプライドが邪魔するか。もったいねぇな、やるなら一対四の方が勝ちの可能性が高かったろうに。感情論は馬鹿を見るだけだろうがよ?」
「うるさいわね、人殺しみたいな顔をしてる奴が、えらっそうにしてんじゃないわよっ!」
人殺しという言葉が喜久の心を抉った。
笑っていた彼の表情が固まる。そして、まっ平らな表情になった後、再び笑った。
女子生徒たちが急な表情の変化に戸惑う。
「良いね。とっても良い例えだ、気に入った。お前さ、名前は?」
「……蔡《ツァイ》 香桃《シャンタオ》よ。だから、どうしたって言うの?」
彼は右手を上げて指を二本ほど立てる。
「――蔡、予告してやる。戦闘開始の二分でお前の下らないプライドごと、機体を地面に沈めてやるよ」
チームとして行動するなら、まずは腹を割って話せる状態を作らなくてはならない。喜久は彼女達のプライドを粉々に粉砕することにした。
彼自身の課題でもあるが、彼女達の傲慢な下地を取り払うことが急務だと方針を固める。この日、第一アリーナで訓練機同士の模擬戦が行なわれた。
試合開始の一分で片方の機体が一方的に射撃ダメージを受け続けて地面に落下していく。そして、残りの一分間は機体エネルギーの残量が切れるまで、ブレードを顔面部分に当てつづけられた。