ln   作:kiarina

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[NumberingTitle_(暴君ノ形+修羅ノ構造)_究極ノ忘レ物]

 

_5/_

 

 

 一夏がチームリーダーに祭り上げられた週の日曜、彼は私服で倉持技研の施設を訪れていた。

 受付で待つように言われると、やたらと大きい玄関ロビーに設置してある椅子に座って相手方の対応を待つ。普段なれない場所だけに、彼は物珍しさも相まって周りを見渡すように観察していく。

 

(ホテルのロビーみたいな造りだ。やっぱり、色んな人を出迎えるから設備的に必要なのかもしれないな)

 

 受け付け嬢の人間が一夏の側までやって来る。彼は飲み物が入った紙コップを受け取って喉を潤した。

 再び正面入り口の方を眺めていると、ジョギングウェアを身に纏った中学生程度の少女が荒れた息を整えながら入館してくる。ラウラと同程度の背丈をしており、黒髪に少し深い藍色の目をしていた。

 

(随分幼いな、施設関係者の子供かなにかか? て、え……なんでこっちに向かって、早歩きしてきてんだ!?)

 

 少女は息を整えると、真っ直ぐ一夏の元へとやって来る。

そして、しげしげと彼の顔を観察しだす。

 

「ふーん、貴方が織斑 一夏ね。宜しくね、ハンサムさんっ♪」

「ハンサムって……。えっと、君の名前は?」

 

 一夏の問いに、少女は鼻をフフンッと鳴らして嬉しそうにする。彼は彼女の言動に褒められているのか、馬鹿にされているのかをいまいち理解出来ない。

 

「蓮葉《はすは》よ。倉持《ここ》の職員なの」

「えぇ!?」

「……なによ、その驚き方は。私を何だと思ったわけ?」

「いや、普通に技術者の子が、施設見学に来てるもんだと思ってたんだけど」

 

 蓮葉は呆れた表情で、人差し指を彼女自身の額に当てる。一夏はどうしたのだろうと、彼女の顔を観察した。

 

「仮にも軍事施設に普通の子供が入れるわけないでしょう……。そんな危険なことを許可する人間がいたら、私が見てみたいわよ」

「それもそうか」

「はぁ、ハンサムさんは顔だけのようね?」

「ぐっ……」

 

 思慮の足りない部分を指摘された一夏が、思わず言葉に詰まってしまう。蓮葉は軽く背伸びをすると、彼に笑いながら話し掛ける。

 

「さてと、行きましょうか。私が案内するから、ついて来てちょうだいね?」

「あ、ああ……わかったよ。ありがとな、蓮葉」

 

 戸惑っていた一夏が笑顔で返すと、蓮葉がニヤニヤしながら口元を両手で覆いだす。二人が歩き出したところで、彼女が嬉しそうに彼のことを指摘しだした。

 

「一夏って、随分と笑顔が爽やかね。なに、いつもそうやって周りの女子を誘いまくってるの?」

「なぁ!? そんなわけないだろっ!」

「なに焦ってんのよ~。軽い冗談に決まってるでしょ?」

「……ここにも、楯無さんみたいな子がいるのか」

 

 キャッキャと笑っている蓮葉に、一夏は学園の生徒会長を思い出した。

 二人で施設内を歩いていく。機密保持のためにガラスが殆ど設置されておらず、あるのは電子錠が掛かった部屋のドアが幾つもあるだけだった。

 

「そういえば、蓮葉って歳はいくつなんだ?」

「十四よ」

「そんなんで、研究職ってつけるもんなのか?」

「現に私がそうだから、案外と平気なのかもしれないわね。それを言うなら篠ノ之 束だって、ISを発表したのは十四歳の時でしょう。私みたいに後付け開発じゃなくて、全ての基礎構築をした人間の方が異常よ」

「異常ってなぁ……。でも、確かにそうだよな。あの人は千冬姉と色々やってたみたいだからな」

 

 一夏は傍と考え込む。それは、箒の姉である篠ノ之 束の存在が、いかに規格外で出来ているのかと。新世代の機械を基礎理論の構築から開発、実用に至るまでを殆ど一人で行なってしまった人間がいる。

 ISの存在以上に、束という個のポテンシャル自体の方が凄まじいのではと思考していく。結論、本当の天才という人間は、本当に一握りではあるが存在するのだと感じた。

 

「そうそう、一夏を倉持に呼んだ理由だけどね。試験運用の武装を渡したいから来てもらったの」

「え、武装?」

「普段使っている武装、雪片弐型と交換することになるけどね。バス・スロットに余裕がないなら、交換することで武装展開を成立させたわ」

 

 蓮葉の言葉に一夏が考え込む。

 確かに白式のバススロットには余裕がない。だったら交換してしまえとは、それにしても随分と豪胆な発想だと感じた。

 一つの扉の前に来ると、彼女がカードをリーダーに通す。短い電子音の後で、扉が開錠される。

 

「さてと。改めて初めましてね、一夏。私が倉持技研、白式担当の主任研究員を務めている蓮葉《はすは》=オッペルよ」

「へぇ、すごいな。通りで白式のって、……蓮葉が!?」

「そうよ。子供で悪かったわね? 飛び級だけれど、きちんと工学系の大学院まで卒業してるの。一夏よりも頭が良い自信はあるわよ?」

 

 一夏が驚いてしまう。蓮葉が研究員だとは理解していたが、まさか白式の専属主任担当だとは思っていなかったからだった。

 彼女は少し不貞腐れたように喋りだす。

 

「まあ、あの変人よりは落ちるかもしれないけれどね」

「変人?」

「篠ノ乃 束に決ってるでしょう。あれは紙一重で天才よりも馬鹿に近かったけれど、本人の能力はISを開発したという実績だけで充分でしょうからね」

 

 蓮葉の苛立った表情に一夏が困惑する。

 

(なんで束さんに対して、こんなに辛辣なんだ……?)

 

 どうにも腑に落ちず、彼は質問をすることにした。

 

「なあ、蓮葉。流石に言い過ぎだと思うんだが。束さんのこと嫌いなのか?」

「嫌いじゃないわよ、好きじゃないだけ」

「言葉が矛盾してるぞ」

「はぁ……。要はこういうことよ。ISは好きなんだけど、私の作業を悉く邪魔してくれた部分には腹が立ってるの。私も含めてうちのスタッフが打鉄弐式の整備をしてたら、横からいきなり白式の整備を始めろだなんて通達でしょ? そんなにやりたきゃ、自分で直接いじれば問題ないのに。だから、押し付けられて頭に来てるってことよ」

 

 ああ、そういうことかと一夏が理解する。

 蓮葉が首を捻ったあとで、軽く溜息をつく。彼女は肩を竦ませると、扉を開き一夏を促して部屋の中に入っていく。室内は暗く、工業用倉庫のような広さがあった。

 

「大体、一つの武装でバス・スロットが埋るとか、どれだけ尖ったピーキーな機体を作りたいのよ? ワンオフの『零落白夜』は凄いけれど、それだけに武装の持てる数が制限されるなんてナンセンスもいいところじゃない。そんなにパイロット性能の方へ依存したいのかしら。凡人の私には、全く理解出来ない案件ね」

 

 蓮葉がリモコンのスイッチを入れる。暗い部屋に強烈なライトの筋が入りだす。一夏が目の前で鎮座している巨大な物体に目を見張った。

 余りのスケールに圧倒される。これが、今回倉持から支給される試験武装なのかと。

 

「すげぇ、なんだこれ……。大剣の類にしても大きすぎないか?」

「そんなに手持ちの原始武器を振り回したいのならって、私が篠ノ之 束に対して嫌味を込めながら作ったのよ。雪片弐型の派生系、倉持での武装コードネームは『風雪《ふうせつ》』になるわ。どうかしら、馬鹿げるほどに大きくて、暴君のような立派さを兼ね備えてるでしょ?」

 

 彼の身の丈を優に超え、全長が10メートルを超える白色の大剣が威圧感を周囲に放つ。遥が言った暴君という言葉がしっくりと来る出で立ちに、思わず一瞬だけ心臓が止まったかのような錯覚を感じた。

 

「暴れ馬を手懐けるのか、それとも振り回されるのかは一夏次第よ。エネルギー消費効率は、普段使っている雪片と同程度まで抑えてあるのが、この武器の最大の利点になるわね。重量も特殊な金属の合金を使用してるから、見た目よりは軽い仕様になってる。どう、使ってみたい?」

 

 喉がゴクリと音を立てる。彼が新たな力を手に入れられる状況に唾を飲み込んでいく。

 ふと、円夏のことが頭に過ぎる。攻撃を受けた箒、鈴、切りつけてしまった簪が頭に浮かぶ。

 

(俺に使いこなせるのか? ……いや、違う。俺は、この『風雪』を必ずものにしてやるっ!!)

 

 一夏は決意する。自身の周りにいる誰をも傷つけさせないための力を手に入れると。

 これ以上、円夏が誰かを傷つける前に、自分が彼女の行為をとめるのだ。それは誰の役割でもない、自分が成すべき行いだと。

 

「ああ、使わせてもらうよ。蓮葉、ありがとうな」

 

 彼の真剣な顔を見ていた蓮葉は思う。一夏は笑っている顔よりも、こっちの顔の方が似合っている。やはり、男の子は力強く格好良い顔の方がいいなと。

 

「ちなみに零落白夜を使用すると、刃の長さが二倍に膨れ上がって伸びるから。競技用のアリーナを破壊しないように気をつけてね」

「はあっ!? 二倍って……。こんな馬鹿でかいのが、更に倍の長さになるのか?」

 

 一夏が、『風雪』の刃が二倍の長さに伸びるような光景を想像する。それは、最早大剣の域を越えて、対艦刀のようなイメージになってしまう。

 蓮葉が笑いながら彼に声をかけた。

 

「アリーナの壁に甚大な被害が出でも、破損費用は倉持じゃ持たないから。頑張ってちょうだい」

「うぅ……わかった」

 

 自分の能力では、風雪を捌ききれずにアリーナを瓦礫だらけの山にしてしまうかもしれない。そんなイメージが拭えなかった。

 アリーナの壁を一回破壊すると、改修費用が一体いくらかかるのかを考える。しかし、一夏は途中で考えるのを放棄した。

 

 

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 半縄技術研究所の一室は沈黙に包まれていた。

 そして、研究主任である笹崎が机の上に手を乗せて指をトントントンと、叩き続けていく。ふっと、彼女の口から紫煙が舞う。

 煙草を灰皿に押し付けて潰すと、溜息を一つ吐いて喋りだす。

 

「通りでね。市隈君が、なぜISを操縦できるのか納得がいったわ」

「薄々とは、気づいてなかったんですか?」

 

 対面するように設置された席に喜久が座っている。彼は、ISTSのこと等が笹崎に気づかれているものだと思っていた。

 だが、実際は予想と反している。彼女は喜久から視線を外して違う場所へと視線を移していく。

 

「ティアーニ、なぜ今まで黙っていたのかしら? 貴方、半縄に寄越しているデータを一部改竄していたわね?」

【猿も木から落ちるし、機械も間違えを起こすものよ。私も気づかなかったわ】

「嘘は良くないわよ。AIであるはずの貴方は、そんなに市隈君を気に入ったのかしら?」

【私の場合は気に入ったのでは無く、受け入れたのよ。喜久しか、笹崎の要求を満たせない。彼以外で私と共に、ISの鍵を開けられる人間が存在しないわ】

 

 ティアーニの放つ言葉一つ一つに喜久が考え込む。なぜ、自身を庇って味方をしてくれているのかと。しかし、納得のいく回答が思いつかなかった。

 笹崎はティアーニにルールを課している。その中で一つ、『ISの情報を公開する』というものがあった。

 ティアーニは彼女の要求を的確に行っている。しかし、改竄をしたデータが笹崎の下に流れてきていた。

 だから、一部のグラフデータがISTSの使用によって100パーセントを振り切っても、正常値として記録され続けていた。

 笹崎は唸るようにして、ティアーニに命令する。

 

「ティアーニ。今後において、データ改竄をするのは辞めなさい」

【了解したわ】

 

 更に他のルールである『笹崎の要求に逆らわない』が適用される。ティアーニの情報改竄が禁止された。

 笹崎は二本目の煙草を取り出して火を点ける。一息吸ってから喜久へと視線を戻す。

 

「さて、市隈君。お話をして良いかしら?」

「ええ、どうぞ」

「貴方が渡米したいといった換わりに持ってきた条件、本当に良いのかしら?」

「かまいません、俺の寿命は残り四年しかない。だったら、やることをやれれば、残りの時間を全て笹崎さんの研究に使ってくれて構いません。それだけ、俺にとっては今後のことが自分の中で価値的な行為なんです」

 

 喜久は自分の生い立ちを全て笹崎に話した。

 そして、彼が残り時間でやりたいことを語る。一つ、秋に渡米し過去との決着をつけること。二つ、篠ノ之 束を捕縛すること。三つ、自分と同じ能力を持つ人間の息の根を止めること。

 笹崎は溜息を一つ、喜久の眼を確かめるようにしながら言葉を紡いでいく。

 

「市隈君、紅蓮という単語の意味をご存知かしら?」

「紅って言葉から、炎なんて言葉が浮かんできますけど。違うんすか?」

「それでは蓮の意味が足りないでしょう。蓮は背中の筋肉繊維を指す言葉よ。八寒地獄と呼ばれているものがあるわ。地獄に落ちた罪人が、雪山の中で凍えていく。そのうちに肌が凍りつき始めて、身を守るために自身の体を必死に抱え込もうとするの。やがて、剥き出しの背中の皮膚が裂けて、ピンク色の筋肉繊維が露出する。紅い蓮はここが由来になるわ」

「笹崎さんは、どうして俺にそんな話をするんです?」

 

 喜久が腑に落ちない例え話を聞いて、笹崎に質問した。

 回りくどい例えだと、彼は少し苛立ってしまう。

 

「それはね、市隈君が今まさに同じ状態だからよ。今のままだと凍えて死んでいくことになる。貴方の体は紅い蓮だらけになるわ」

 

 喜久は彼女の言葉を心の中で一蹴し、鼻で笑い飛ばす。

 もう、とっくのとうに蓮だらけだ。今さら一つ増えようが、二つ増えようが関係ない。既に血塗られた手の行き着く先は、地獄だけが口を開きながら待っていると。

 

「貴方の基調は修羅にある。そこを中心にして周りを振り回し、相手を傷つけてしまう。人になる時もあれば、当たり前のように地獄界にまで落ちていく」

「修羅で結構ですよ、俺にはそれくらいが丁度良いんです。人である限りは、最後の一撃に歯止めが掛かっちまいますから」

「頑固者ね。貴方の気持ちは汲んで上げれるけれど、一人も信用していない閉じこもった心は良くないわ」

「頑固者で良いんですよ。他を巻き添えにするのはごめんだ。俺は、それで構わない」

 

 笹崎が漏らす率直な心中での感想。それは、喜久が酷く淋しい人間性を持っているというものだった。

 彼は、必ず相手が納得できるように交換条件を持ちかけてくる。だからこそ解ること、決して心の底からは相手を信用していない。

 彼女は吸いきった二本目の煙草を灰皿に擦り潰していく。

 

「市隈君からの私への条件は無しよ。そのかわり、私からの条件があるわ。アメリカに行きたければ、一人で構わない。心を許せる仲間に協力を請いなさい」

「無理です。俺には、他を巻き込むなんて考えられない」

「だったら、それでも良いわ。私は今すぐ上層部へ報告に行くから。後は、上が決めてくれるでしょう?」

 

 喜久が唸る。この場を切り抜ける良い方法が浮かばずに、奥歯を鳴らしてしまう。彼の余裕の無い態度に、精神的な幼さが見え隠れする。

 

「……揺さぶるつもりですか?」

「市隈君を脅して、私に何の得があるのかしら? 決めるのは貴方よ、私の方針に従うのか。それとも、従わないのか」

「解った。従いますよ、これで良いんだろ?」

 

 彼が片手だけを上げて答える。当たり前のように一時凌ぎをしようとして、笹崎が自身の携帯電話を取り出した。

 

「そう。じゃあ、これで今すぐ連絡を取りなさい。私に子供騙しの嘘は通用しないわよ? 貴方は独り善がりの気があるわ、誰かを頼ることを覚えなさい」

 

 放り投げられた携帯電話が放物線を描く。喜久はそれをキャッチすると、真剣な表情で彼女を見た。

 

「説教は聞き飽きてますよ」

「馬鹿ね、説教なんてものを私が好むわけないでしょう。市隈君の死亡率を減らすためには必要なことなのよ。私は不確かな感情論より、優位に物事を図れる確率の問題を重視するわ」

 

 口では到底勝てそうにも無いと、喜久は他のことを考え始める。そして、彼は自身の携帯電話を取り出すと、メモリーから一人の電話番号を開いた。

 彼が知っている中で、一番融通が利きそうな人物だ。他の人間では渡米や今後の行動に反対、もしくは付いて来ようとする。だが、彼女だけなら後でなんとでもなると考えた。

 何度かのコールによる呼び出し音のあと、その人物は電話に出る。

 

『はい、どちら様かしら?』

「更識か、頼みがある」

 

 

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 第三アリーナでは、空中を乱舞して飛び回る機体がいた。

 一対四の模擬戦を行い、今は三機を落とした甲龍が最後の一機と対峙している。

 

「ぬっるい攻撃ばっかしてないで、もっと激しく来なさいよっ! そんなんじゃ試合当日は、一機も落とせないわよ!?」

『く、わかってるわよっ! はぁあああっ!!」

 

 訓練機である打鉄が鈴の駆る甲龍に向かって勢い良く飛び込んくる。打鉄が近接ブレードを横薙ぎからの一閃を繰り出す。鈴が双天牙月で防御して、相手の攻撃を弾き飛ばした。

 

「直ぐに防御に切り換えて、二撃目は無しっ!」

「 !? きゃあっ!』

 

 甲龍から放たれた龍砲による近距離からの攻撃によって、打鉄がアリーナの端まで弾き飛ばされた。

 エネルギー切れに陥り、あえなく行動不能になる。鈴は双天牙月を肩に担ぎながら、チームメイトに助言をしていく。

 

「欲はかいちゃ駄目よ、敵は五人もいるんだから。一人で出過ぎれば、袋叩きにあうわよ?」

「りょーかい、はぁ……。訓練機と専用機じゃあ、スペックが違いすぎるわね。鈴の龍砲は、それでなくても視認しにくいし」

「それはやりようでしょ。連携すれば、専用機でも必ず落とせるから。山田先生が相手だと、あたしでもまだ勝ててないしね」

 

 鈴が悔しそうな顔をしだす。

 彼女は今までに真耶と三度ほど対戦をしたことがある。一度目は去年の六月頃に行い、その後二度ほど実践訓練で連敗していた。

 そういった経緯もあり、真耶に次こそは必ず勝つのだと意気込みながら訓練に励む。

 

「山田先生も使用してるのは、訓練用のリヴァイヴだものね。う~ん、やっぱり、そうなると技量の差になるのかしら?」

 

 チームメイトが考え込むような仕草をする。鈴が肩を竦めて自身の考えを語っていく。

 

「実践訓練の際に専用機同士で武装の違いがあっても、操縦者の能力次第で戦況が色々と変わってくるからね。……だから、次に会うときまでに力をつけるしかないのよ」

 

 最後は彼女自身に課しているかのような発言で言葉を締めた。

 三月の卒業式に四対一で対戦した相手を思い出す。サイレント・ゼフィルスを駆っていた、自分と同程度の歳をした少女の歪む笑みを思い出して苛立ちを覚える。なにも出来なかったと、自戒して冷静さを心がけた。

 自身の繰り出す攻撃を散々に避けられ、相手からの蹴りをまともに頭部へと受けてしまう。最後はISの制御を殆ど行なえないままに地面へと激突した。

 口を強く結び悔しさをバネにする。勝気で強気に軽快なまま、全てにおいてポジティブなフットワークで、凰 鈴音はどこまでも先を目指す。彼女はぐっと拳を握り込み、真っ直ぐに前を見た。

 ISを待機状態にしたティナが鈴の元へとやって来る。

 

「鈴、今週の休みは空いてる?」

「ん、どうして?」

「個人的に第三世代機相手の模擬戦をやりたいのよね。アリーナの使用許可申請とかは、事前に済ませとかなきゃならないし」

「ええっと……、ごめん。その日はちょっと、外出の用事があるのよ。他の日なら大丈夫だから、そこでお願い」

 

 鈴の言葉が微妙に歯切れの悪いものだった。

 ああ、そういうことかとティナが納得する。また、いつもの発作のように、怒りながら帰ってこなければ良いなと感じた。

 彼女は気の抜けた表情のまま、鈴の肩へと手を乗せる。

 

「わかったわ、それじゃあ今度ね。それと、次は私のお菓子を勝手に食べるなんてことには、ならないようにして欲しいんだけど?」

「な、な、なんのことかしら!?」

「はいはい、頑張ってね」

 

 ティナから力の抜けた応援を受けて、鈴が顔を真っ赤にした。

 

 

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 喜久と裕香が対面の座席に座っている。二人して事務用机で作業をこなし、裕香は考え込むようにしてノートパソコンの画面を覗いていた。

 そして、彼はいい加減に苛立って、自身の課されている作業の手を止めだす。

 

「おい、不真面目教師。テストの丸付けを手伝えとか、手を抜きすぎだろ?」

「山のような書類整理があるのよ。国の機関との行き来もあるから、肩が凝ってしょうがないのよね。だから、猫の手も借りたいってわけ」

「俺がクラスの奴等の点数知ってますなんて山田先生がわかったら、顔が般若みたいになんじゃないの?」

 

 「そんなの当たり前でしょう」という裕香に「情報漏洩で告発するぞ」と喜久が呆れながらいう。ここ最近というもの、彼は彼女の手伝いをことあるごとにさせられていた。

 

「だからばれないように、図書室の個室スペース借りてるんじゃない。一枚一円のお駄賃もあげてるんだから、嬉々としてやってちょうだい」

「……俺はISの訓練をしたいんだよ、小学生の小遣いなんぞいるかっ!」

「はいはい、目上には敬語を使いましょう。君は短気さも直しなさい」

「うっせぇっ! ……くそ」

 

 喜久が座席から立ち上がって、また席に座る。そして、やりたくもないテストの丸付けを再開した。

 模擬戦で彼が提示した約束が彼自身の本心を阻む。文句をぐっと堪えて内心で泣きそうになった。

 彼が何よりも大事にしている、常に相手に対してフェアであること、その信条が本音を邪魔し続けている。

 

「そういえば、人に丸付けをやらして、あんたは何やってんだよ?」

「海外研修で泊まる宿泊部屋の割り当て作業と、国の軍事演習資料に目を通してるけど。なに、見てみたいの?」

「軍事機密の資料をこんなとこで確認してんじゃねぇ……。守秘義務はどうした?」

「大丈夫よ、君が口を割ったら締め上げるだけだから。格闘技の有段者に勝てる自信があったら口外してもいいわよ?」

 

 潔良いくらいにさっぱりした言葉だと、喜久が目を横に泳がす。この大人は駄目駄目だと感じながら、溜息をついた。

 裕香がにんまりと笑ってノートパソコンをくるりと回す。

 

「部屋割りなんだけど、君の部屋はこれでどう?」

「……はぁ!? 却下だ却下っ! ふざけんじゃねぇ!!」

 

 女子十一人の中に喜久がプラスされている。彼は地獄絵図の光景を想像して悲痛な叫び声を上げた。

 きっと、現実に起こったたら即座に部屋から叩き出されると感じてしまう。

 

「冗談よっ♪ しかし、女性恐怖症でもないでしょうに。私は面白いと思うんだけど?」

「胃が千切れ飛ぶんだよ。あんただって、俺が血を吐いて倒れる光景を見たいわけじゃないだろ。はぁ……、丸付けは終わったから、俺はもう席を外させてもらうからな?」

「お疲れ様。それじゃあ、これでジュースでも買いなさい。お釣りはいらないわ」

 

 裕香が笑いながら財布を取り出して、千円札を喜久に渡す。彼はお札を受け取ると、猫背のままに図書室を後にした。

 近くに設置されていた自動販売機で、適当に炭酸類の飲み物を買う。そして、タイミングを窺っていた女子生徒が彼に話し掛けてくる。

 

「喜久、今から話せるかな?」

「ああ、そろそろ来るころだろうと思って待ってたよ。誰も来ない場所を用意してある。その場所で話でもしようや?」

 

 喜久が不敵に笑い、アラルティアが嬉しそうに笑い返した。

 

 

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 第一アリーナで白い機体が宙を駆っていた。

 

「ぐっ!?」

 

 白式の稼動するジョイントに負荷が掛かり悲鳴をあげる。一夏が、大剣である風雪の斬撃軌道を無理に変化させて、振り抜くことに失敗した。

 勢いに任せて流れるような振り方に対しては、そこまでの過負荷は掛からない。連撃も可能であり、大量のダメージも与えられる。だが、それでは相手に軌跡予測を簡単にされてしまう。

 実際の試合では軌跡の流れに変化を与え、相手の意表をつく攻撃でなければならない。余りに扱いの難しい新武装に対して、一夏は汗を垂らしながら考え込む。

 

(得物が変わるだけで、こんなにやり難いなんてな。もう少しは、いけると思ってたのに……)

 

 普段使用している雪片弐型よりも刀身のある全長10メートル以上の武装に歯噛みする。チームタッグマッチ開催日までの時間は限られていた。

 試合当日までには、なんとしても風雪を使いこなせれるだけの技量を身に着けなければならない。でなければ、自分のせいでチームが負けると彼は内心で焦る。

 一人で訓練をしていると、他の場所から声がかかった。

 

「一夏くん、降りてきてちょうだい。ミーティングの時間よ?」

「ああ、今行くよ」

 

 ミアに声をかけられた一夏が風雪を粒子化して地面に降下しきり、ISの展開を解く。彼女に飲み物とタオルを渡されて、お礼を言いながら二人でピットへと向う。

 

「それにしても、随分と大きいプレゼントを渡されたものね。正直、最初に見たときは驚いたわ」

「俺も吃驚したけどな。主任の背は小さいのに、風雪は常識外の規格武装だったよ」

 

 どこからともなく、『余計なお世話よ』という声が聞こえてきそうな評価をする。一夏が笑顔でミアに答える。彼女は他にも意外だとばかりに喋りだす。

 

「ISの始祖もそうだけれど。十四の子が、IS開発の主要として機能しているのには恐れ入るわ。確か、日本人とドイツ人のハーフなんでしょ?」

「ああ、蓮葉本人が言ってたからな。未だに箸だけは、上手く使えないとか言って愚痴をこぼしてたけど」

「一つ位欠点が無いと、こっちがやってられないわね。さてと、雑談は中断しましょう」

 

 彼女が話を中断して、今後のことを話し合っていたチームメンバーが二人に話しかける。

 

「おりむー、お疲れ~。なんかー、盛大に振り回されてたねー?」

「織斑君、やっぱり雪片弐型の方が良いんじゃない? このままだと、連携の練習をする時間がなくなるよ?」

「専用機持ちの中でも織斑君の成績は、余り芳しくないし。個より群を重視した訓練をするべきだわ」

 

 本音やメンバーから言われた言葉に対して、一夏は手を顎に当てながら思考に耽る。彼女達の言っていることは、もっともだと。

 今は自分の我を優先すべきではないと考えながら、彼は頭を切り替えることにした。

 

「わかった、みんなの言っている通りにするよ。武装を風雪から雪片弐型に変えよう」

「いいえ、その必要は無いわ。今のままで行きましょう」

 

 ミアが一夏の風雪を使用したいという本心に対して、賛同するような意見を述べる。彼女は、一拍置いてから周囲に説明を始めていく。

 

「白式の欠点であるエネルギーの問題を考えれば、試合は短期決戦のスピード勝負になるわ。後手に回れば回るほどに、一夏くんの動きは制限されていく。それでは、訓練機が五機の状態と変わらない。専用機を三機分の戦力と仮定するならば、五対七の比率になってしまうの」

 

 確かにと、メンバーが納得して首を縦に振る。一夏も自分の力量を認めながら頷いた。

 

「特に、もともと専用機を所持している代表候補生の能力値自体が高いのよ。学年の上から三人は、技量もずば抜けてるしね」

 

 上位とは、喜久、ラウラ、シャルロットのことを指す。シャルロットはラピッドスイッチ、ラウラは軍人としてのアドバンテージ、喜久は三年生をも置き去りにするほどのIS操縦技術がある。

 ミアの中では、これらの人間に勝つ方法が一つしか思いつかない。それは一夏を中心にして、試合を優位に進めていくしかないのではと考えていた。

 

「私達は一夏くんのサポートに徹して、彼に攻撃を与えられるだけの隙を作ることが重要になってくると思うの。どうかしら?」

「……そうね。他へ対抗するとしたら、それしかないわ」

「はいはいっ! 提案がありますっ!?」

 

 ミアの言葉にチームメイトが佐々木が手を上げる。彼女は嬉しそうにしながら自身の意見を述べていく。

 

「白式の燃費とバススロットの問題だけど、この部分を改良するのはどうかな? 織斑君も雪片弐型をと風雪を両方使えれば、試合の際に攻撃手段の選択幅が広がると思うんだけど?」

 

 ISの下地を開発する情報科の彼女らしい意見が出だす。

 

「う~ん、どうだろうな。蓮葉がバススロットの拡張は、難しいって言ってたぞ?」

「やってみる価値はあると思うのっ! 私にやらせてくれない!?」

 

 佐々木が意気込んで鼻を膨らませる。チームメイトが考え込み、ミアが疑問を提示する。

 

「貴方がやるのは自由だけれど、結果が求められるわ。試合当日までの期限で、完成させられるかしら?」

「任せて、必ずやりきるわっ!!」

「……わかった。それじゃあ、佐々木さんにお願いするよ。宜しくな、俺にも手伝える部分があったら言ってくれ。なんでもするからさ」

「ありがとう、頑張るわねっ!」

 

 佐々木の言葉に一夏が笑って頷いた。

 彼のチームが纏まっていく。目下の課題は白式の扱いだが、各々が意見を出し合って改善を行っていった。

 

 

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 セシリアは寮の自室で、イギリスのIS整備部門担当者と電話による話し合いをしていた。

 

『おめでとうございます、セシリア=オルコット。第三世代機の試験稼動においてのセカンドシフト化は、我が国でも大変に話題となっています。ヨーロッパ圏の中では初となる、大変貴重な存在ですね』

「ありがとうございます。結果が出せたのだと、私自身も納得しておりますわ。前回、私が幾ら頼もうとも実弾装備を送って下さらなかった整備部の方あってこそのおかげだと、大変感謝しておりますの」

 

 セシリアが感謝の言葉を述べるが、それはブラックユーモアの皮肉でしかない。去年、彼女は成績落下の状態時に整備部へ実弾兵器を送ってもらおうとした。

 だが、最もな理由で説明しきれずに、整備部から一蹴されてしまった過去がある。そして今は立場が逆転したと、彼女は上機嫌だった。

 

『……未だに、根に持っておいでなのですね』

「勿論ですわっ♪」

 

 彼女が満面の笑みを浮かべながら嬉しそうに語る。担当者が電話の向こうで溜息をつく。少しくらい、セシリアの要望を聞いておけば良かったのかもしれないと。

 

『わかりました。次からはもう少し配慮させていただきます。さて、ここからは少し込み入ったお話になるのですが、宜しいですか?』

「はい、なんでしょうか?」

『第三世代機のセカンドシフトによる功績に対しての動きです。IS学園卒業の後、セシリア=オルコットに国家代表の枠をといった内容が、本国の議題で上がり始めました。今後の経過次第となりますが、頭の隅にでも置いておいて頂ければと思います』

「……ほへっ?」

『貴方がIS開発に新たな可能性を見出した、正当な評価として受け取っておいてください。それでは、引き続き稼動データの報告をお願いします』

 

 通話が途切れ、セシリアがポカンとしながら受話器を眺める。そして、次の行動に移るまで少しの時間を要した。

 

(わ、私が国家代表にっ!? ……それでしたら、今度のチームタッグマッチで優勝すればっ!)

 

 これで、学園での成績が上手く出せればと、彼女の気持ちに気合が入る。両親の残したものを守れるという期待に胸を膨らませていく。それに、七月に行なわれる海外研修の前には、喜久とのディナーも待っている。まさに順風満帆の風が吹いていると感じてしまう。

 ――最後に、彼と同じ顔をした少女の笑みが頭を過ぎった。

 浮かれてばかりもいられない、気を引き締めるべき部分がある。鏡台に映る自身の眼差しを真剣に見つめだす。

 おそらく上位クラスの国家代表と同程度か、それ以上の能力を持っている反則的な実力者がいる。同じBT兵器を使用する敵に、セシリアは自身との力量の違いを比べ始めた。

 三十六機もの射撃ビットを使用し、他の武装による同時攻撃を繰り出して来なかったことから、ビットの扱いが思考制御型だと解る。そして、彼女自身が射撃ビットによる三十六機の思考制御など、頭の脳内処理が到底追いつかないと想像する。偏向射撃はして来なかったが、数の暴力が余りある破壊力を作り出していた。

 そして、手持ちの武装を即座に切り替えることが出来る技術、高速切換《ラピッドスイッチ》を使用する事が出来る。彼女は、その切換攻撃によって胴体にダメージを受けたことがあった。

 おまけは、戦闘中のシャルロットに放っていた、ISTSによる絶対防御突破の蹂躙行為だ。

 近中遠と、死角の見えない相手の攻撃範囲に打開策の糸口を辿る。彼女は思考の渦に飲まれかけていく。不意に、部屋の出入り口からノック音が聞こえてきた。

 

「はい、どちらさまでしょう?」

「お邪魔するわね~♪」

「なあ!?」

 

 鍵が閉まっていたはずのドアが、当たり前のように開け放たれていく。楯無が寮のマスターキーを使用して、問答無用とばかりに入室してきた。

 彼女の嬉しそうな顔に、セシリアがげんなりとした。

 

「……更識会長。人のプライバシーを侵害するのは、辞めて頂けないでしょうか?」

「セシリアちゃんにとって、耳寄りな情報があるのよ~。今週の休みに面白いことをするのだけれど、一緒に楽しまない?」

「はぁ……、なんですか、それは?」

「い・い・こ・と、よっ★」

 

 セシリアが嫌そうな顔をして聞くと、楯無は扇子を開く。そこには『崩落』とか書かれている。嫌な二文字だなと、セシリアの表情が引き攣った。

 

 

_\|/_

 

 

「汗べったべたー。埃もかぶったし、早くシャワー浴びた~い」

「訓練といはいえ、軽い打撲の後が出来たりするのは正直困るのよねー」

「それじゃあ、また明日ね。デュノアさん、お疲れ様っ!」

「うん。また明日、宜しくね」

 

 チームタッグマッチの訓練を終えた生徒が女子更衣室で着替えている。それぞれが会話を交わして明日に備えるために、挨拶を交わしながら部屋を立ち去っていった。

 一番最後に残ったシャルロットが、考え込むようにしてベンチに座っている。

 

(……僕は、一体どうしたいんだろう?)

 

 いつまでISに携わればいいのかと、シャルロットは悩む。興味の無い会社の姿勢に嫌気が差すが、現状を放棄すれば強制帰国を余儀なくされる。去年のラファール=リヴァイヴⅢによる暴走行為の後で、彼女は今後の身の振り方を判断出来ずにいた。

 喜久と一緒にいたいと思う感情の反面、ISには余り搭乗したくない。そして、最も由々しき問題としてクラーラの存在がある。シャルロットは殺人行為を肯定する相手が、また必ず彼を狙ってくることを理解していた。

 思い人を守る為には自身の対抗する力として、どうしてもISの力が必要になる。所為、ISが登場して以来の通説は、ISに対抗できる存在がISのみと認知されていた。

 まだ、ラファール=リヴァイヴⅢを使用する必要がある。せめて、彼の問題が全て解決するまではと。

 そう思いながら、彼女は一枚のチケットを眺める。冬のスキー旅行で手に入れた、アトラクション遊園施設の一日フリーパスがついているものだ。

 

(IS学園が、安定してない状況で不謹慎かもしれない。……だけど、少しくらい楽しんでも良いよね?)

 

 今週の休みには喜久とのデートがある。自身を二度も救ってくれた彼の側に居たい。二人だけの時間が欲しいと、彼女は胸を高鳴らせる。

 

 

_\|/_

 

 

 喜久とアラルティアが、夕日の差し込み続けている寮の屋上にいる。彼女は笑顔のままに彼へと顔を向けた。

 

「ありがとう。やっと、ゆっくり話せるわね。私は――

「でだ、率直に聞くけどな。お前の目的はなんだ?」

 

 底冷えするような声に、アラルティアが絶句しそうになる。笑うでもなく、真剣な表情と言った様子でもない雰囲気が喜久から伝わってきた。

 そこにあるのは、相手を射殺さんばかりの形相だけだ。彼女が生まれて初めて味わう、他人からの殺気に戸惑う。

 

「お前のIS展開速度がどれくらいかは知らないがな。少しでも変なマネをしてみろ、その時はお前の胴体が吹き飛ぶぞ?」

「ちょっと、待ってよ!? 私はヨシヒサに興味があっただけで、それ――

「みえみえの嘘ばっか、こきやがって。糞な演技にもならない芝居には、嫌気が差すんだよ。舐めてんのか、てめぇ?」

 

 喜久が、二度ほどアラルティアの言葉を潰す。

 寮の屋上は千冬によって閉鎖されていたが、喜久は事前に再度として、扉を抉じ開けていた。

 そのおかげで、屋上の鍵が開いていることをこの学園の人間は誰一人として認知していない。彼とアラルティアのやり取りを邪魔する人間は存在しなかった。

 極度の緊張状態が場の空気を張り詰める。彼女は足が竦みそうになるが、気力を振り絞っていく。今の状態を乗り越えて信用を勝ち取るのだ。自分が相手の懐に潜り込んでからが、本当の勝負なのだと。

 

 ――でなければ、彼女が姉の仇を取るために、わざわざ日本へ来た意味がない。

 アラルティアが、にこやかに笑う。

 

「おい、なにしてんだ。お前は露出狂の気でもあんのか?」

「私はヨシヒサを気に入ったの。ねぇ、私を欲しくはない?」

 

 喜久が不愉快そうに顔を顰める。彼女は上半身の服を脱ぎだすと、下着だけを纏った状態になった。

 そして、制服を適当に地面へと放りながら、ゆっくりと彼に向かって近付きだす。喜久は即座にISを起動させて、片腕だけを部分展開した。

 無機質な金属が腕を覆っていき、彼とアラルティアの間に二枚のペタルが出現する。

 

「それ以上、俺に近付いてくんな。目的を言え、最終警告は一度しかないぞ」

「この前の朝の続きよ。私のことを好きにして良いわ」

 

 彼女が両手を頭に置いて、紫色に光る金属質のヘアバンドを外す。束ねていた髪が落ちだし、夕闇の中で緩い風によって長髪が靡いていく。ヘアバンドには細かい線が歪に入っていた。

 アラルティアはそれを喜久に見せるようにすると、地面に落とす。IS待機状態アクセサリーが小さな金属質の音を立てた。

 彼女の『私は無力です』というアピールに、彼が初めて困惑の顔をし始める。

 

(こいつ……、一体なにがしたいんだ?)

 

 発光する青紫の壁にアラルティアが片手で触れる。彼女の口から、甘い猫撫で声が発せられていく。

 

「ねえ、この壁を解いてくれないかしら? 私はヨシヒサの肌に触れたいの。温もりを感じさせて?」

「俺は、てめぇの体になんて興味ねぇんだよ」

「私がヨシヒサを知りたいの。教えてちょうだい、焦らさないで?」

「……」

 

 数秒後、喜久が無言のままにペタルを消滅させた。

 彼はISを解除して粒子化させる。アラルティアは嬉しそうにしながら近付く。彼女は喜久の手を取ると、自ら自身の胸に触らせた。

 彼女は内心で喜び、喜久が自身に対して心を許したと感じる。 

 

(やった、上手くいったっ! これで懐柔しきればって――え?」

 

 ベチンッ

 

「痛ぁぁあい!?」

 

 次の瞬間、呆れた喜久の顔が見える。同時にアラルティアが疑問の声を上げ、彼女の額に衝撃が走った。

 彼はアラルティアにデコピンをかまし、彼女が痛みに耐えるようにして、その場で蹲る様子を眺め続ける。

 

「阿呆か、しょうもねぇストリップなんてしてんじゃねぇ。まったく、シラけちまったじゃねぇか。無理して気張って足震わせてんじゃ、様にもなってないんだよ。たく、目に毒だから早く服を着ろ」

 

 喜久が地面に放置されていたアラルティアの服を拾い上げて彼女に渡そうとする。彼女は、それを全力で奪い取るようにして受け取った。

 彼を睨むと半べそを掻きながら抗議の声を上げだす。アラルティアの精神が、ついに限界を迎えた。

 

「私だって、こんなことしたくないわよ!? しょうがないじゃない、必要だったんだものっ! なのに、素っ気無い態度ばかりか、挑発だらけの奴に一体どう接しろって言うの!? まったく、やってられないわよっ!!」

「行動が矛盾だらけの上に、勝手にキレだしやがった……」

「当たり前でしょ!? あんたみたいなチビに、なんで私が付き合わなきゃいけないのよっ!!」

 

 アラルティアが泣きながら制服を抱えて大声を出す。喜久は溜息を一つ付くと、地面に置いていた缶ジュースを適当に彼女へと放る。

 それを、アラルティアが慌ててキャッチした。

 

「少し温くなってるけどな、それ飲んで落ち着いてから下に降りろ。天下のアメリカ代表候補生様が、泣いた姿を周囲の目に晒したんじゃ格好がつかないだろ?」

 

 話は終わりだとばかりに、喜久は欠伸を掻きながら出口の方へと向かい出す。

 

「ヨシヒサに、私の気持ちが解るわけない!?」

 

 彼の背後からは悲痛にも似た叫び声が木霊する。しょうがなく、喜久は後ろへ振り返ってから、アラルティアへと適当に喋った。

 

「知るかよ、そんなこと。でもな、出来もしないことを無理しすぎなんだよ。せめて、もっと肩の力くらいは抜けば?」

「全部、そっちが取った態度のせいじゃない!?」

 

 アラルティアが全速力で喜久の横を走り抜けていく。彼女は感情のままに言葉を言い放って、屋上を去っていた。

 そして、彼はさらに呆れてしまう。あいつは考え無しの直情型人間だと。

 

(あーあ、ISの待機状態アクセサリーを忘れていきやがった……。ISコアだけでも、国同士が権利の取り合いをしてる代物なのに。俺が言えた義理じゃないけど、専用機の開発担当者が見たら卒倒する光景だろうな)

 

 喜久がヘアバンドのIS待機状態アクセサリーを拾い上げる。さて、これをどうしたものかと彼は考え込んだ。そして、彼女の目的を聞くために利用する材料として使用しようかと、今後の方針を定めた。

 

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