ln   作:kiarina

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[NumberingTitle_楽シイ外出+絶叫ト狂喜]

 

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 夜も遅い時間、どこからかノック音がする。一夏が自室の部屋から廊下へと続くドアを開くと、もの凄く気まずそうにしているアラルティアがいた。

 彼女は蒼ざめた表情に、消え入りそうな声で彼へと話し掛ける。

 

「……ヨシヒサ、いない?」

「喜久ならベッドで本を読んでるよ。喜久、お客さんだぞ?」

「ああ、思ったより早かったな。来るなら、明日のHR前だと思ってたけど」

 

 一夏の横に喜久がやって来ると、彼は紫色の輪っかを人差し指でクルクルと回転させた。

 彼がにやついている様子に、一夏が不思議そうな顔をする。

 

「喜久、お前が指で回してる細い髪留めみたいなのってなんだ?」

「これはだな、目の前の奴がポカをやらかして忘れていったもんだ」

「返して……」

 

 アラルティアが泣きそうな声で呟き、喜久は彼女の言葉を無視して喋り続けていく。

 

「アメリカの第三世代機がIS待機アクセサリー状態――

「返してよ!?」

 

 金切り声が廊下中に響いた。

 一夏が困惑して、喜久は溜息を吐きだす。

 

「大声は他の部屋の住人に迷惑なんだよ。ほらよ、次からは絶対に無くすな?」

「え?」

 

 彼はあっさりと、ヘアバンドをアラルティアに手渡した。

 彼女は屋上のやり取りから要求を拒否されるものだと思っていたが、余りの拍子抜けに不思議そうな顔をする。

 

「明日からの授業に支障が出るし、何よりもこんな下らない鉄の塊を取り合って、当たり前に殺し合いだって起きるんだ。相棒なんだろ、もっと大事にしてやれば?」

 

 喜久は、内心で呆れたままに言葉を続けていく。最早、駆け引きをする必要も無い相手だと。

 

「ナイザは、お前の関係者か?」

「 !? 」

 

 アラルティアの鼓動が爆発的に早くなる。IS全面展開までの時間、ゼロコンマ三秒。瞬間的に相手の首を締め上げれるだけの行動を取れる自信があった。

 相手は二人、喜久の横には一夏がいるために早計な行動は控えるべきだと思う。だが、今ここで殺せればとも思考していく。

 彼女の様子を窺っていた喜久が、手をぶらつかせながら首を捻る。

 

「俺がしつこく聞きたいのは、お前がアメリカから来た目的だけだ。なんのために、わざわざ日本まで来た?」

「……チームタッグマッチが終わったら。喜久が呼び出した場所で、私の目的を教えるわ」

「解った、約束だ。終わったら、きちっと理由を聞かせてもらうからな?」

「ええ、必ず教えるわ」

 

 アラルティアが狙いを定める。鷲が獲物を補足するようにして、彼女は彼との決別場所を決めた。

 

 

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 土曜日の放課後、いつもの様に一夏が本音と共に生徒会室で書類整理の作業をしている。すると、突然に出入り口のドアが開け放たれた。

 楯無が彼らに対して背を向けて入ってくるが、何かを引きずるようにしている。もそもそとしながら入室してくる様は、餌を運んでいる最中の働き蟻のようにも感じてしまう光景だ。

 

(なんだ、今度は何をしてるんだ……?)

 

 二人が自ら行なっている作業の手を止めて、一夏が不思議そうに楯無の行動を窺う。彼女はなにかをやり切ったような、爽快さのある表情で額を拭った。

 

「ふう……、運んでくるのに意外と時間がかかったわね。怪我で動かしていなかった、肩のリハビリにも丁度よかったわ」

 

 ぼてっと、人形台ほどの大きさがある物体が、ソファーに放られる。そこには青い顔で痙攣しながら気絶している女子生徒がいた。

 最早、学園が法ではない。更識 楯無が法なのだと言わんばかりの状況に、一夏が呆れた表情をする。

 

「楯無さん、この子どうしたんですか……。まさか、拉致とかじゃないでしょうね?」

「おお~、新人さんだー♪ どこでー、ゲットーしてきたんですか~?」

 

 本音が嬉しそうにしながら長い袖を振り回す。楯無が嬉々として説明を始めた。 

 

「一年生の教室がある階を歩いていたら倒れてたのよ。だから介抱するために、ここへ連れてきたの。背中に背負って歩いている時に言っていたわ、『私は生徒会に入ります』と。そう、この子が新しい生徒会メンバー、イェレナちゃんよ~♪」

 

 イタリアの国家代表候補生であるイェレナ=アスティーニ。彼女がぐったりしている様子に、一夏が哀愁の視線を向けた。

 

(ああ、そうか。多分だけど、この子はもう生徒会から逃げられないな……)

 

 彼は新しい仲間の増えかたに溜息を付く。そして、楯無に強襲されたイェレナの口元から呻き声が聞こえてくる。

 

「……う、うん――ここは!?」

「ようこそ生徒会へっ! 新しい役職は会計書記よ、おめでとうっ★」

「ふざけないで下さいっ!! 人に一服盛るだなんて、貴方は人間失格ですっ!」

 

 イェレナが顔を真っ赤にしながら怒り出す。彼女が激しい剣幕で設置されていたテーブルの上を叩いた。

 

「あら、おねーさんは、ラウンジでお茶でも一緒にと誘っただけよー? お茶に何かが入ってるだなんて知らなかったわ」

「白々しいっ! こんな場所に連れてきて、私に一体なにをするつもりですか!?」

 

 楯無が自身のポケットから手帳を取り出し始める。彼女の行動を見た一夏は、悪魔的審判のでせいで止めの攻撃が決まったことを確信した。

 

「イェレナ=アスティーニ、イタリアの国家代表候補生。ご両親は健在で、お父様が国会議員をなされている。あらあら、彼は浮気がお母様に解ってしまい、ご自宅から叩き出されたことがあるのね」

「な!?」

 

 イェレナが驚愕する。なぜ、そのことを知っているのかといった表情だ。楯無の暴露、彼女にとっての拷問はまだまだ続く。

 

「賄賂を受け取ったことは無し、国の財政問題に尽力したことから仕事には真面目っと。イェレナちゃんについての情報は、スリーサイズと寮の部屋に設置してあるシャワーの使い方を間違えて故障させたことね。あとは、学園入学初日に――

「わ、解りましたっ! 解りましたから、辞めてくださいっ!!」

 

 イェレナが大慌てで両手をばたつかせる。そこには、彼女が普段繕っている上品さが崩壊していた。

 あまりの必死な形相を見た本音が嬉しそうにする。

 

「わー、後輩が出来たー。よろしくね~、イエティー」

「イ、イエティ!?」

 

 本音がイェレナに即席のあだ名を付けた。

 ありえないとばかりに、彼女が思わず素っ頓狂な声を上げだす。

 

「ぶっ」

「そこ、笑わないで下さいっ!」

「あ……、ごめんな」

 

 未確認動物の雪男を連想した一夏が、思わず吹き出してしまう。イェレナが彼を睨みつけた。

 楯無が三人は仲良くやれそうだと判断し、イェレナに対して最後のカードを切る。

 

「さて、イェレナちゃん。おねーさんは、貴方が学園に来た理由も知ってるわ。その辺りの情報を提供する変わりに、生徒会へ入ってくれないかしら?」

「――どこでそれを?」

 

 イェレナの目付きが変わり、鋭いものとなる。片方の眉がピクリと吊りあがりだす。楯無は微笑みながら、彼女に言葉を投げかけた。

 

「さーあて、ね。そして、貴方の目の前に答えもあるわよ?」

「どういう、ことでしょうか?」

「一夏くんの側に付いていれば、目的の人物にも行き当たる。まあ、そういうことよ」

「え、俺ですか?」

 

 一夏が自分を指差して、楯無に聞き返す。イェレナが俯きながら考え込み、彼女の言った意図を計りはじめていく。

 

「……本当はお断りしたいところですが、解りました。私でよければ、生徒会の役職を引き受けさせて頂きます」

 

 イェレナは結論をだすと、生徒会の役員を引き受けた。

 一夏は彼女の目的というのを今一理解しきれない。だが、新しい仲間が増えることに対しては、素直に喜ぶ。

 

「よろしくな、イェレナっ! 一緒に頑張ろうな!?」

「イエティ~、よろしくねー」

「イエティは、辞めてください……」

 

 勘弁して欲しいと、イェレナがげんなりする。その後、本音によってイェレナの生徒会入りが二年生中に広まった。

 学年主席にして文武両道、おまけに普段の上品さから品格を疑う余地もない。愛称はイエティ、通称未確認生物の雪男《イエティ》として認識された。

 そのことを知ったイェレナは、仲良くなった五反田 蘭と雑談している最中に、本音が悪魔のようだと語った。

 

 

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「二人揃ってさ、なんで更識に嵌められてんの?」

「まさか、こんなことになるなんて思ってなかったのよ……」

「先輩、酷いです……」

 

 週末の日曜日、快晴の中で二人ほどの人間が落胆していた。

 今現在、四人ほどのIS学園生徒がアトラクション遊園施設に来ている。

 

「なあ、なんで鈴もシャルも落ち込んでるんだよ? せっかく偶然に入り口のゲートで会ったんだから、今日はみんなで楽しもうぜっ!」

「偶然じゃなくて、必然的にされたんだよ。誰かさんのせいでな」

 

 一夏が爽やかな笑顔を三人に向けるが、喜久がやんわりと彼の意見を否定していく。鈴が溜息を吐きだす。彼女は一夏と施設へ行くなら、この日だと計画を練っていた。

 問題は無かったはずだったのだが、嬉しそうな顔は半時と持たずに崩壊している。それは、施設の入場口でシャルロットと喜久に出くわしたからだ。

 シャルロットが同じようにして一夏と鈴を見つけた瞬間、ここにはいない楯無に嵌められたことを理解した。

 彼女は楯無に『シャルロットちゃん、今週の日曜日はとっても晴れるらしいの。遊びに行くなら、その日がいいと思うわっ♪』と、言われたのだ。

 それを疑うことも無く受け入れてしまう。そうだ、楯無も喜久のことを好いていたのだと気づいた時には、もう後の祭り状態だった。

 しかし、一夏と鈴の予定をどこで聞きつけてきたのか。生徒会長の情報網は恐ろしいの一言に尽きる。シャルロットは、楯無という名の強大な壁を垣間見た気がした。

 

「しょうがねぇな。シャルロット、まずはどこから回りたいんだ? 凰も諦めて付き合えよ、一夏は全く理解できてないみたいだからな」

「なんだよ、俺は何もしてないぞ?」

「唐変朴」

「考えなし」

「なんでだよ!?」

 

 喜久が呆れ、鈴とシャルロットが一夏を否定した。

 四人が入り口のゲートを潜ると、電動式で稼動するアトラクションが目に入る。喜久が眠たい目を擦り、一夏は女子の二人にこれからの予定を聞く。

 

「最初は何に乗るんだ?」

「あれよっ!」

 

 鈴がある方向へと、勢い良く指を向けた。

 

「え……、観覧車? ねえ鈴、観覧車って普通は一日の最後に乗ったりしない?」

 

 シャルロットが疑問を述べた瞬間、鈴が片腕で彼女の首を後ろからロック状態にする。

 

「うわ、な、なにするのさ!?」

「いいからっ!」

 

 女性同士が小声で会話を開始する。

 

「シャルロット、よく聞いてね。私と一夏は観覧車に乗って、あんたたちは乗らない。喜久の馬鹿は、それくらいの意図は理解できるでしょう?」

 

 鈴の言葉にシャルロットの心が揺らぐ。一組が観覧車に乗った後で、もう一組は乗らない。

 そのまま二つのグループが強制的に分離可能だ。喜久は恋愛に関して普通の感覚を持ち合わせているために、鈴の望みは直ぐに気づくことが出来る。シャルロットの心中で葛藤が始まった。

 

(喜久と二人きりになれるチャンスだよ? これを活かしきれないような女は、婚期とかを逃して人生の墓場にまっしぐら確定なんじゃないの?)

 

 悪のシャルロットが、いつもの様に誘惑を開始する。

 

(そんなことないよ、誠実さが一番大事なことでしょ!? ちゃんと自分の気持ちを正直に伝え続けるべきだよ!?)

(うるさいな、君は邪魔だよ。いつだって恋愛のルールは、早い者勝ちの既成事実勝ちなのさ)

 

 善のシャルロットが叫び、悪のシャルロットが凄い意見で否定した。

 悪は背中から槍をとりだし、善が弓を構えて身構える。善は慈悲の心を持って悪に正邪を説き始めていく。

 

(槍では飛び道具の弓に勝てないんだ。素直に降参して諦めるべきだよ、正しいことが全てにおいて一番の近道じゃない?)

(じゃあ、これでどうかな?)

 

 悪のシャルロットが嬉しそうにガトリングガンを取り出した。

 

(そんな、武器の時代設定が違う!?)

(心の中に時代なんて関係ないでしょ?)

 

 善のシャルロットが大量の銃弾を浴びて蜂の巣になる。最後は粉々となって塵あくたと化した。

 悪のシャルロットが現代武器を使用し、相手に容赦の無い勝ち方をして高笑いする。

 

「鈴、二人で頑張ろうねっ♪」

 

 シャルロットがラウラと結託して以来、再び悪の道へと走り出す。

 

「幸い、邪魔者はいないわ。この機会を逃す手はないわよ?」

 

 二人の少女が嬉しそうに笑った。

 四人の光景を遠巻きに見ていた楯無が、ISをステルスモードにしたままで嬉しそうにしている。他にはラウラ、簪、箒とセシリアがいた。

 そして、無理やり借り出されたイェレナが嫌々そうな顔をしている。なんで私までと、彼女は心の中で泣いていた。

 なぜかといえば、楯無が強制参加させたからだ。最初は本音を誘っていたのだが、彼女はイェレナをダシにして逃げている。とばっちりを受けた一年生が、悲劇的な役柄のようになっていた。

 

「イェレナちゃん、せっかくの遊園地よ。お菓子でも食べながら、面白いことをしましょう?」

「私は学園に戻りたいです。それでなくても、人の恋路を邪魔するだなんて……、会長は本当に酷い人です」

「イエティちゃん、人の不幸は蜜の味なのよ。一緒に大人の階段を登りましょう?」

「私の名前はイェレナです。会長の言った階段は、直ぐに踏板が抜けそうな造りをしてそうですね?」

 

 二人が言い合いをしている中で、一夏達が行動を開始する。彼らは近くにある観覧車の列に並んで搭乗を待つ。

 

「喜久、僕達は別行動するよ!?」

「え、今かよ!?」

 

 そして、一夏と鈴が乗り物へと搭乗した瞬間に、シャルロットが喜久の手を掴んで引っ張り出す。彼が溜息を付きながら、しょうがないなと彼女の提案を了承した。

 

「ふむ、二手に別れたか。それにしてもシャルロットめ、考えたな。あの乗り物は、一度乗ってしまえば降りるまでに時間がかかるからな」

「なにを冷静に語っている!? 一夏と鈴は狭い空間に、二人きりだけの状態なのだぞ!?」

「 !? 」

 

 ラウラが分析し、箒が叫び、簪が衝撃を受ける。三人のトリオな動きを見ていたイェレナが、思わず笑いを堪えた。

 楯無がにこやかに笑顔のまま、彼女の肩に優しく手を置く。

 

「どう、イエティちゃん。これが蜜の味よ?」

「なぁ、私は違います!?」

 

 彼女は思わず動揺してしまう。絶対に会長の発言を認めてなるものかと。そして、違う場所では暗い顔をしているセシリアが静かに笑い出す。彼女は頬に手を当てながら、黒々しいオーラを発し始めた。

 

「ウフ、ウフフフフフフ。お二人ともお手を繋ぎあって、とても楽しそうですわね。私、是非とも蜜を樽一杯に飲み干してみたいと思いましたわ」

「ひっ!」

 

 セシリアの顔がメデューサのようにも見える。イェレナが短い悲鳴を上げた。

 

「うるさいぞ、イエティ。標的に気づかれる」

「イエティ、セシリアはいつものことだ。気にすることはないぞ?」

「イエティ、静かに……して」

「私の名前は……もう、いいです」

 

 彼女はラウラ、箒、簪の三人から注意を受けて、最早抗う気力も失せた。

 

 

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「うぅ……鈴、次に乗るのは大人しい乗り物にしようぜ?」

「なに言ってんのよ。一夏、次はあれに乗るわよ?」

 

 一夏が疲れきった表情で唸り、鈴が嬉しそうに彼の腕を引く。観覧車に乗って互いが空の景色を眺めながら、何気ない雑談を交わす。ここまでは普段通りで良かったのだが、その後が問題だった。

 

「絶叫マシンばかり乗るって、お前って本当に昔から変わってないよな……」

「良いでしょ、好きなんだから。ISの飛行訓練と一緒じゃない、いつもと変わんないわよ」

「喜久の奴は、いきなりシャルとどっか行っちまうし。まったく何考えてんだよ」

 

 笑顔だった鈴の顔が怒りの色に染まる。一夏が一番考えなしだと、彼女は額に青筋を立てた。

 さっきからアトラクションに乗るたびに、彼女はわざと叫び声をあげて彼の腕に抱きついたりしている。

 しかし、涙ぐましい必死のアプローチも全く理解してくれない。そんなことも相まって、感情は二乗増しで怒り狂う。

 

「なにも考えてないのは、あんたでしょうがっ!?」

「なんでそうなるんだよ!?」

「いいから、次行くわよっ!」

「はあ……、また絶叫マシンか」

 

 楽しむ気分が萎んでいる一夏を鈴が引っ張っていく。二人の様子を遠巻きに見ていた三人が、怒られている一夏を見て溜息を付いた。

 いつもと変わらない光景に安心し、苛立つ鈴の気持ちを察する。

 

「それにしても、ジェットコースター系統に乗るとしたら次で五つ目だぞ。鈴の奴は、一体あと幾つ乗れば気が済むのだ?」

「この遊園施設は、そういった物を集中的に建造しているのが特徴らしいぞ。館内地図には大小合わせて十三あると書かれているな」

「一夏……大丈夫かな?」

 

 箒が呆れてしまい、ラウラが拷問のような数字を淡々と述べる。簪が弱っていく一夏の体を心配した。

 凰 鈴音の好きなもの。その一つに、絶叫マシンがあった。

 とにかく刺激的な速さに面白みを感じてしまい、それが彼女の大好きなものの一つとなっている。普段使用しているISも絶叫マシン以上の速度を叩き出すが、自身で行なう操縦が爽快感を阻害してしまう。なにも思考せずに高速と重力を感じられる乗り物は、彼女に得もいえぬ快感を与えていた。

 

「今度は、バンジージャンプのある場所に向かいだしたぞ。私だったら胃がもたなそうだ……」

「温いな。箒、スカイダイブの降下訓練は、あんなお遊びとはわけが違うぞ?」

「いや、そういった意味ではないのだが……」

 

 ラウラの価値基準は、彼女の育った環境に依存し易い。なので、どうしても物事を過酷な軍の訓練と比べてしまう。どう答えたものかと、箒は困った顔をした。

 二人がやり取りをしている隣で、簪が一夏と鈴の方を観察している。

 そして、不意に服の袖を引張られていることに気づく。彼女が顔を後ろに向けると、小学校低学年ほどの男の子が瞼を腫らして泣きながら立っていた。

 

「どうしたの?」

「ひぐ、えぐぅ、お母さん、見つからない……」

 

 簪は家族と逸れてしまった迷子の男の子に、優しく配慮をしながら声をかけ続ける。

 

「そっか。じゃあ、お姉ちゃんと一緒にお母さんを探そうね?」

「……うん」

 

 いつものたどたどしい言葉が消えていた。

 一人のために行動する彼女は、母性に満ちた母親のような顔をしている。

 

「一夏のこともあるが、探すか。ラウラはどうする?」

「付き合おう、親探しの方が優先だ」

 

 箒とラウラが互いに頷き合う。三人は男の子を慰めてから、一夏と鈴の元を離れた。

 

 

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 シャルロットが普段の生活を忘れて一日を満喫する。セシリアの邪魔も無く、気兼ねせずに喜久を振り回し放題出来る環境が楽しくてしょうがなかった。

 まるで夢のような幸せに包まれ、彼女は彼に甘え続けていく。

 

「喜久、次はあれに乗ろうよ!?」

「メリーゴーランドって……。普通、幼稚園か小学生で卒業しないか?」

 

 喜久の腕を思い切り引っ張り、満面の笑みを向ける。勿論、怖い方の笑みだ。

 

「乗・る・よ・ね?」

 

 彼は溜息を一つ付くと、自身の指を絶叫マシンの方へと向けた。

 

「乗るなら、まだあっちの方が良くない?」

「い・い・か・ら、乗・る・の!?」

「……はい」

 

 これはどうしようもないと、喜久が諦める。今日のシャルロットは、やたらとテンションが高い。そして、とうの彼女は自身の中で今後の流れをシュミレートしていく。

 

(設置されてる白馬の方に二人で乗れば、自然に体がくっ付くはずだよね。これなら、別になにもおかしくないし、喜久だって不信に思わない……よね?)

 

 過激にならない程度の自然なやり方で、喜久との距離を縮めるために体を密着させたい。普通は男性が思考しそうな下心だが、今は彼らの立場が逆転していた。

 そんなシャルロットの考えをある程度は予想できる喜久が、今日一日ぐらいは彼女が楽しめるように努力するかと思考していく。

 ここのところ、彼女は度重なるストレスの中で生活している。一時だけでもガス抜きの手助けになるならと、彼は彼女と一歩距離を置いた考え方で接することにした。

 子供向けのアトラクションは並ぶ人数も少なく、二人は直ぐに入り口ゲートへと移動する。係りの人間に促され、喜久が迷わず設置されている馬車の方へと向かいだした。

 シャルロットが満面の笑みをしながら慌てるようにして、彼の動きを制止する。

 

「喜久、僕はあっちの方に乗りたいな?」

 

 彼女が馬を指差す。馬車と馬のどちらに乗るのかで駆け引きが始まる。

 

「え、馬の奴って二人乗りだけど、明らかに尻が痛くなりそうじゃん。俺は普通に座れる方が――

「う・ま・だ・よ・ね?」

「……はぁ、馬なら良いんだな?」

「うんっ!」

 

 喜久がげんなりし、シャルロットが一瞬で押し切って圧勝した。

 わくわくしながら彼女が先に馬へと腰掛ける。そして、彼が当然のように隣の馬へと跨った。

 シャルロットがジト目で喜久の方を向く。

 

「喜久、絶対にわざとでしょ?」

「シャルロットさん、後で間違いなく今のことをセシリアに言うでしょ?」

「……そうだね」

「たぁく、そんなこったろうと思ったよ」

 

 シャルロットはセシリアに対して、今日のことをきっと自慢するだろう。そう考えていた喜久の予想が的中した。

 彼が溜息を吐きながら、彼女が腰掛けていた馬の後ろに乗り直す。

 

「わっ!?」

 

 シャルロットが驚いて、恥ずかしそうに下を向いた。

 彼女自身が確かに望んでいたことなのだが、いざ実行に移されると思わず赤面してしまう。

 

「これで良いんだろ? 頼むから後で火種になるようなことは、しないでくれよ?」

「約束します。ありがとう、喜久」

 

 メリーゴーランドが回りだす。シャルロットにとって、これ以上ないほど楽しく幸せな時間が流れていく。

 二人が仲睦まじくしていると、遠巻きに見ていたセシリアの顔がメデューサを超えて、荒ぶる閻魔のようになっていた。

 横にいるイェレナが、無言のままにセシリアから一人分の間を空けて距離を遠ざける。彼女は同姓もとい、女性の嫉妬がいかに恐ろしいかを垣間見た。

 

「セシリアちゃん、出番よっ★」

「はぁ……?」

「これを使用すれば、よっちゃん達に気づかれないわ」

 

 楯無がおもむろに背後から着ぐるみの頭部を取り出した。

 一体どこから出した、そんな疑問がイェレナの頭の中で浮かぶ。楯無が残りの部分も取り出していく。

 

「ちょっと係りの人に借りてきたの。さあ、セシリアちゃん頑張って。あの二人のお花畑のような空間を根こそぎ刈り取ってくるのよっ♪」

「更識会長、それは拝借されたのではなく、窃盗をなされてきたのでは?」

「大丈夫よ、ちゃんと置手紙をしてきたから。安心して、抜かりは無いわ」

 

 駄目だこの人と、セシリアの目が死んだ魚のようになった。

 しかし、これはチャンスでもある。二人の邪魔をしてやろうと、セシリアが意を決して楯無から着ぐるみを受け取った。

 この人でなしと、イェレナが彼女へ軽蔑の視線を向けだす。

 

「ご自分で、やらないんですか?」

「大丈夫よ、イェレナちゃん。既に第二段も用意してあるわ」

 

 イェレナが楯無の後ろを見る。そこには、あと二着ほどの着ぐるみが放置されて地面に転がっていた。

 彼女は呆れる。一つは人でなしの会長、もう一つは巻き込まれた私の分ですかと。

 

「会長、今後は貴方のことを『脅迫会長』と呼ばせて頂きます」

「あら、それじゃあ人でなしと、謀略が足りてないわよ?」

 

 楯無が笑顔で答える。

 

「自覚があるのであれば、今すぐその性格を直しなさいっ!!」

 

 イェレナの理性が限界を迎え、その場で大声を上げだす。もはや上級生と下級生の関係など知ったことかと、彼女は目の前の悪戯天邪鬼に明確な反抗態度を示した。

 メリーゴーランドの回転が終了し、シャルロットと喜久がアトラクションの外へと出る。二人が休憩とばかりに、設置されたベンチへと腰掛けた。

 シャルロットは、るんるん気分で嬉しそうにしている。快晴の陽射しに耐えられなくなった喜久が、背もたれに体を預けてぐったりとしだす。

 

「暑ぃし、体が溶けどうだ。今日は本当に良く晴れてるよな」

「そ、そうだね。喜久、次は何に乗ろうか?」

「それよりも、なんか飲み物でも飲まないか? 俺の奢りだ、ちょっと待っててくれよ」

「え、あ、ありがとう。じゃあ、ここで待ってる……ね?」

 

 彼との会話を気恥ずかしくしていた彼女が、少し離れた場所から手を振っている狐の着ぐるみを見て不思議に感じてしまう。

 なぜ、こちらを向いて手を振っているのだろうと。シャルロットと喜久が様子を窺っていると、件の着ぐるみがスキップをしながら二人の前までやって来た。

 狐は両手の指を合わせて長方形の形を作る。シャルロットが、着ぐるみのジェスチャーに首を捻った。

 

「……カメラかな?」

 

 どうも正解したらしく、狐が親指を立てて嬉しそうにする。

 

「撮ってもらうにしても、カメラなんて持ってきてねぇよ。それでなくても、狐だなんてスキー旅行の狩りを思い出しちまうよな」

「ああ、そんなこともあったね……」

 

 喜久が呆れた表情になり、シャルロットが苦笑いする。二人は去年の冬休みに行った旅行のことを思い出した。

 

「あの時は、ボーデヴィッヒの奴が本当にやってくれたよな。セシリアも世間知らずの非常識ご令嬢だし、あれならロンドンの街中でも猟銃を持ち歩いてんじゃねぇの、うごっ!?」

 

 次の瞬間、狐の鋭いストレートが喜久の顔面に突き刺さった。

 彼が勢いよく後ろに倒れ、シャルロットが吃驚してしまう。狐が軽快な動きで追撃とばかり、喜久の腹部を蹴りつけようとする。彼は咄嗟に攻撃を避け切って、機敏な動作のままに立ち上がった。

 

「喜久、大丈夫!?」

「痛ってぇな、上等だクソ野郎……。顔面部分を剥いで、同じ目に合わせてやるっ!」

 

 理不尽な攻撃を受けた喜久が額に青筋を立て、走りこみながら狐に攻撃を繰り出していく。

 

「なっ!?」

 

 巨大な物体が彼に向かって飛来し、慌てながら目の前を両腕でクロスした。

 狐は頭部を投げ捨てて走り出す。そして、直ぐに草むらの中へと飛び込んでいく。喜久が苛立ちながら、着ぐるみの頭部を蹴り飛ばした。

 

「クソッたれが、逃げ切りやがった。後で係りの奴を見つけて、中身を割り出してやるからな。あの野郎、覚えてろよ」

「喜久、直ぐに戻るからベンチで座って待ってて」

「あん、なんでだよ?」

「良いから!?」

「はぁ……、わかったよ」

 

 シャルロットが小走りにどこかへ向かっていき、喜久がベンチで痛む頬を抑える。狐が放った殴打が思いのほか強烈だった為に、彼は中身をプロボクサーかなにかの格闘技経験者だと連想してしまう。

 数分ほどでシャルロットが戻ってくると、彼女は彼の横に腰掛けた。

 そして、喜久の頭を引っ張って自身の上腿部分に乗せだす。

 

「おいっ!?」

「怪我してるんだから、しばらくこのままで。わかった?」

 

 慌てだす喜久の頬に、彼女が濡らしてきたハンカチを当てだす。彼が感じるひんやりとした感触、女性に足に触れる行為と自身の体勢に対して妙に気恥ずかしさを感じてしまう。

 

「少ししたら、また違う乗り物に乗ろうよ。ね?」

「はいはい」

 

 シャルロットの笑顔を見た喜久が内心で苦笑する。まあしょうがないかと、彼は素直に従うことにした。

 違う場所では、既に狐の着ぐるみを脱ぎ捨てたセシリアがうな垂れていた。

 喜久のここにはいないであろうと予想して言われた発言に、彼女は思わずカッとなってしまう。そして、そのまま怒り任せに彼を殴ってしまった。

 もっと上手く二人の仲を引き裂くはずが、自身のせいで裏目に出たと彼女は嘆く。

 

「うぅ、私としたことが……。それでなくとも、非常識令嬢だなんてあんまりですわ…………」

「セシリアちゃん、よく頑張ったわっ♪」

 

 ぽんと、楯無がセシリアの肩を叩く。彼女が次の着ぐるみをセシリアに渡そうとしたところで、苛立ちを隠さないイェレナが止めに入る。

 

「会長、それ以上は私が許しません。やめて下さい」

「イエティちゃん、貴方に思い人はいるのかしら?」

「いませんが、全くもって余計なお世話です」

「私は、よっちゃんなのよ。私の望みを叶えさせてちょうだい?」

「セシリア先輩、会長の大嫌いなものを今すぐ教えてください」

 

 楯無が即座にセシリアの口を塞ぐ。セシリアは真っ直ぐに、ある方向へと指を向けた。

 

「セシリアちゃん!?」

 

 イェレナが視線を移す。そこにはポールに紐で繋がれている子犬が、地面でごろごろと寛いでいた。

 楯無が、まさかの裏切りにあったような表情でセシリアの方を見る。セシリアの目が『なにが裏切りだ、当たり前の正当行為だ』と、語っていた。

 イェレナが笑い、とても嬉しそうにしだす。

 

「会長、今すぐに帰宅しましょう」

「イェレナちゃん、私のささやかな幸せを奪わないで」

「生徒会室で犬を飼いませんか? 私、良い品種を知っているんです」

「酷いっ! あんまりだわ!?」

「同姓の嘘泣きほど見苦しいものはありません。さ、帰りますよ?」

 

 イェレナは容赦無く楯無を引きずり、落胆しているセシリアと共に学園へと帰宅した。

 

 

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「もう駄目だ。頼む鈴、少し休ませてくれ」

「だっらし、ないわねー。もやしっ子じゃあるまいし、貧弱すぎなんじゃないの?」

「いや、この施設にある全部の絶叫マシンに乗ったんだ。どう考えたって、普通ぐったりするだろ……」

 

 遊園施設内にある十三のもの激しいアトラクションに乗り切った一夏と鈴が、食事の出来る場所を探している。かたや生気を失い、もう一方は満足げにして顔が綻んでいた。

 

「あのさぁ、一夏」

「うん、どうした?」

 

 鈴がもじもじとしながら、上目遣いで一夏を見る。彼は首を捻りながら彼女の方を見返した。

 

「帰宅の時間だけど、多少遅くても平気よね?」

「いや、明らかにまずいだろ? 外出時間には限度があるし、寮監の千冬姉に説教をくらうだろうしな」

「少しくらい良いじゃない、たまの休日で出かけなんだから。ここって、夜になると花火が上がるらしいのよ。せっかくだし、観ていっても損はないと思うのよね。どう?」

 

 鈴が想像する。深い藍色の幕が落ちた舞台に、発光する大輪の花によって場が華やかに演出されていく。色鮮やかな世界は人の心を一時のみ、天に昇らせていく幸せを与えてくれる。

 彼女がもう一度一夏のほうへと視線を向けて考えた。

 自身の気持ちを伝えるのであれば、その時において他にはないと。

 一夏は鈴の言葉に悩み、夜までこの場所にいるかを判断する。結論をだすと、彼は気持ち自体が半々ですといった表情をした。

 

「いや、やっぱり寮の規則を破るのはよくないぞ。しっかりと時間を守って帰るべきだ」

「あ~、もうっ! あんたって、そういったところで本っ当に、融通が利かないわよね!?」

「大体、鈴は代表候補生だろ。だったら、なおさら不味いんじゃないのか?」

 

 彼に言われ、鈴が頭の中でギラリと眼鏡の光る自身の担当官を思い浮かべる。両手を腰に当てながら、目尻を釣り上げている光景が目に浮かぶ。

 

『なにを考えているのです、凰 鈴音代表候補生。貴方のような者が率先して規律を破ること自体、我が中国にとっての恥です。一部の甘さによる軽率な行動は、必然的に他国からの笑いものとなるのですよ。理解できているのですか? 貴方が自身の顔に泥を塗り、国家主席の顔へと泥を被せる。これから――

 

 神経質の代表格であるような、楊代表候補生担当官の説教は永遠に続いて行く。鈴は青い顔をしながら思考を停止させた。

 

「あは、ははは……そうね、一夏の言った通りにする」

 

 彼女が乾いた笑いを発し、げんなりしていく。テンションも一気に急降下した。

 一夏がその様子を見て苦笑し、鈴の肩を軽く叩きだす。

 

「よし、昼飯は俺の奢りだ。鈴、なんでも好きなものを食っていいぞ?」

「え、本当? じゃあ、あそこの店のやつにするわ」

 

 彼の優しさに触れた彼女が、ある場所を指示してとても嬉しそうに笑う。施設内にある一番高い料理店の看板を見た一夏の顔が、盛大に引き攣った。

 昼食を食べ終えて、二人は午後の時間も楽しく過ごす。設置されていたお化け屋敷を一夏が全力拒否する以外は、特に問題もなかった。

 問題があるとすれば、鈴はその間に全く告白のタイミングが見つけられなかったことだ。時が儚く過ぎてしまい、日は辺りを夕色へと染め上げている。

 

(あああぁぁあああああ、あたしは『好き』って言いたいのよっ! なのになのに、たったの二文字が、なんで言えないわけ!?)

 

 彼女は心の中で頭を抱え、盛大に叫び続けていく。

 本当は花火の際に最高のタイミングで、ムード満点の中でと思考していた。

 だが、現実は上手くいかない。そろそろ帰宅の時間だとばかり、一夏が出口のゲートへと向かって歩き出す。

 

(まずい、ここを出たらタイミングを失う!? なんとかして一夏を止めなきゃっ!)

 

 鈴が必死の思いで彼の腕を引っ張る。

 

「うお、なんだっ!? 鈴、どうしたんだよ?」

「い、一夏、最後にあそこへ寄ってきましょうよ!?」

「うん? あれって、なんのアトラクションなんだ?」

「そんなん、行ってみなきゃわからないでしょ? いいから行くわよ!?」

 

 しょうがなく、一夏は言われるがままに鈴の後をついて行く。施設の中に入ると、係りの人間からアクリル板の塊のようなもを渡される。説明を受けてみれば、どうも簡単な心理分析をする場所のようだった。

 二人はどういった内容を分析するか、設置されたパネルから項目を選び始めていく。鈴の視線が、あるところでブレーキをかけて急停止した。

 

「一夏、あんたこれにしなさい」

「えっと、異性との相性? 俺としては、将来の職業適性の方が良いんだけどな」

「どうせ、あんたの場合は死ぬまでISの操縦でしょ。だったら、あたしが言ったものの方が無駄にならないわよ」

「ぐ……。言われてみれば、確かにそんな気がする。それにしても、俺の進路って一体どうなるんだろうな」

 

 鈴に指摘され、一夏は傍と今後のことを考える。彼の中で、将来のビジョンが未だに漠然としていた。

 元々は高校を出たら社会で働き、姉の経済的な負担を減らすことだけを考えていたのだ。しかし、今は中学時代に描いた未来図とかけ離れた生活を送っている。

 確かに今後のことをしっかりと考えなければならないと、彼は身の振り方を思考していく。

 

(それに、円夏のこともある。タッグ戦が終わってからだ、そこで必ず千冬姉から本人のことを聞かなきゃな)

 

 聞かなくてはならないことがある。今は敵だとしても、大切な家族には変わりない妹の存在が脳裏を過ぎりつづける。

 

「一夏、ぼけっとしてないで早くこっちに来なさいよね。たく、とろいんだから」

「鈴が早いんだよ。相変わらず、せっかちなところが直ってないよな」

 

 気持ちを切り換えて、一夏が鈴に笑顔で答えた。

 二人で用意された設問を答えていく。十数個の問題に答えると、出口付近で係りの人間にデータがプリントアウトされた用紙を渡された。

 鈴が分析結果を見て嫌な顔をする。

 

「なによこれ、気が短いですって? 私のどこが気が短いってのよ!?」

「たぶん、今の状態じゃないか?」

「うっさいわね。そういう一夏の方はどうなのよ?」

「俺か? 俺のほうは、相手の気持ちに気づきにくい鈍感人って書かれてるな。鈍感人ってどういう意味だ?」

「そのまんまでしょ……、まんま、あんたのことよ」

 

 二人揃って首を傾げながら他の分析箇所へと目を向ける。

 

「異性との相性、貴方は真面目な方と相性が良いって書いてあるな」

「真面目……」

「どうした?」

「え、いや、何でもないわよ」

 

 鈴は一夏と相性の良い相手の特徴がわかった。

 今後において彼に対し、どう接してアプローチをして行こうか考える。そんなことを考えていると、彼女の特別な時間が終わりを告げた。

 

「あ、箒たちだ」

「えっ!?」

 

 二人から離れた場所で箒、ラウラ、簪が三人で歩いている。彼女たちは互いに会話をしながら、一夏と鈴に気づいていない様子だった。

 

(あ・の・三人、は~~~~!?)

 

 どうせ、自分たちのことを追って来たに違いない。鈴の怒りボルテージが上がっていく。そして、もちろん追い討ちもついてきた。

 

「お~いっ! 三人とも、ぐぼっ!?」

「あんたはそこで、なんで当たり前のように他の人間を呼んでんのよ!?」

 

 一夏が三人に呼び掛けを行なっていまい、鈴の感情が爆発を起こして彼の鳩尾に殴打を叩き込んだ。

 

 

_\|/_

 

 

「ヨシヒサと、二人だけで会う約束をこぎ付けたの」

「頑張ったわね。これで邪魔者も無く、お姉さんの仇が討てるわよ?」

「うん……」

「どうしたの? 上手くいったのだから、喜ぶべきだわ」

 

 IS学園にある寮、ミアの部屋でアラルティアが暗い顔をしながら報告をする。彼女の乗り気ではない様子に、ミアが優しく声をかけた。

 

(アラルティアの性格から鑑みて、私の予定通りにことが進んでる。織斑 一夏も保険の駒として使えるかを試してみたけど、奴とは程々の距離を保っているだけで問題がない)

 

 ミアの用意している手札は、今のところにおいて二つある。一つはアラルティア、もう一つは彼女自身が最近手に入れたものだ。喜久に最も近い一夏は、目下ISの訓練に集中していて他へと意識を削ぐ余裕がない。

 最初は手駒にでも出来ないものかと画策していたが、彼女にとって最悪の邪魔者は単に放置しておけば問題がないと感じた。

 二日前、アメリカにいるアスティンとの定期連絡中にした会話を思い出す。

 

――少しでも妙な素振りを見せたなら、君の手であのモルモットを処分して欲しい』

「そちらで何か問題が?」

『君が知る必要はない。処分が決行された場合の手筈は、こちらで整えてあるから安心してくれたまえ。駐在大使館か米軍基地に逃げ込めば、その後のことはどうとでもなる』

「……解りました」

 

 どうにも、きな臭い会話だった。

 彼からの今までになかった命令に対して、ミアが疑問をもつ。本国でなにかしらの動きが出ていると。

 しかし、彼女の雇い主であるジャスパーは、軍の階級において大佐の地位にある。彼女が思考していくが、あの権力が揺らぐということ自体、かなり難しいと推測できた。

 そして、誰に言われなくとも自身の母親を解放するために、近いうちだが処分は実行する。

 

「ねぇ、ミア」

「なにかしら?」

 

 アラルティアの言葉によって、思考が現実に戻りだす。彼女は改まりながら、か細い声で言葉を続けていく。

 

「私……、人を殺せる自信が無いの」

「大丈夫よ、私が貴方の後ろについているわ」

 

 ミアが内心で舌打ちする。善人には最後の一歩が踏み出せない、やはりショック療法を使用するべきかと。

 彼女はアラルティアの復讐心を強固にするため、使用するかどうかを迷っていた方法があった。

 短期留学の時間は限られているが、刺激が強すぎるためにアラルティアの精神が崩壊する可能性がある。しかし、躊躇している時間も無くなり始めていた。

 アラルティアを駒として使用できる時間には、どうしても制限が付き纏っている。結論、手段を選んでいる余裕はない。

 

「アラルティア、奴の本性を見せてあげる」

「え……?」

 

 ミアが予め机の上に用意しておいた、ノートPCを立ち上げていく。時間にして一分程度した頃、その極秘資料映像が再生され始めた。

 動画は一人称視点で、上空ではIS同士が戦闘し合っている様子が映っている。画面の右下には映像の撮られた日付が表示されていた。

 三年前のもの、それが鮮明に当時の光景を映し出していく。一機のISがブレードを展開して、相手ISに搭乗している人間の頭部を貫いた。

 

「そんな、絶対防御を突破したっていうの!?」

 

 アラルティアが残酷な光景よりも、絶対防御を貫通した攻撃に目を見張る。彼女の中にあるISの常識が覆りだす。ISTSの存在を初めて認知し、心中でその脅威性に対して衝撃を受けた。

 

『アイリアッ!?』

「お姉ちゃん!?」

 

 懐かしい声に動揺してしまう。今はいない、彼女の姉であるナイザの叫び声が聞こえた。

 

「まさか、このカメラ視点は……」

「そうよ、貴方のお姉さんが搭乗していたISに搭載されていたもの。よく見ておきなさい、これが奴の暴走時に撮られた映像よ」

『サーフォ――あ……なた、はぁあああっ!!』

 

 悲痛な声が部屋中に木霊する。ISの激しい動きによって映像が乱れだす。撮影側が強烈な加速をかけて、移動を開始した。

 目標は当時の最新鋭IS第二世代機、砂漠に迷彩塗装された量産型ラファール・リヴァイヴ。フルフェイスマスクのために相手の顔が見えない状態で、ナイザは猛然と勢いに任せて突進していく。

 

『あははは、大丈夫だよ。お前も直ぐに殺してやるから』

『あぁぁぁああああっ!!』

 

 嬉しそうに笑う、幼い男の子の声が聞こえてくる。絶対的余裕とも取れるそれは、既に勝敗がどちらにあるかを示しているかのようだった。

 両者がブレードで切り結ぶ。紫電が迸り、一瞬だけ互いの力量が拮抗しているようにも見える。

 

『くぅ!?』

『じゃあね』

 

 力で捻じ伏せることが出来そうな背丈の小さい男の子が、ナイザのブレードを軽々といなした。

 互いが距離を取り、体勢の立て直しを計ろうとする。映像に映っている男の子の方が反動動作を瞬殺して、瞬時加速を使用しながら一気にナイザへと突っ込んできた。

 

「そんな、速すぎる!?」

 

 どんなマジックを使用したのか、人間の人体コントロールを超越したような動きに言葉を失う。そして、最後は当たり前のようにやって来る。

 

「やめてっ!?」

 

 アラルティアの叫び声も虚しく、カメラの視界が衝撃によって上下にバウンドした。

 彼女が悟る。ブレードがナイザの腹部を貫いたのだと。

 男の子が嘲るような言葉で語りだす。

 

『馬鹿だね、手の内が丸見えなんだよ。僕にブレードの使い方を教えたのは、アンタじゃないか?』

 

 ナイザの震える手が男の子のフルフェイスマスクに触れる。

 

『サー、フォ。ご、めん、なさい……私が、もう少し、しっかり、していれば……こんな、ことには、ならな、かったのに、ね……?』

『なんで謝るのさ? 逆にこっちが感謝したいくらいだよ。僕は足枷が無くなって、嬉しくてしょうがないんだから。これからここにある全てを壊しきって、本当の自由を手に入れるんだ』

 

 彼女の手がマスクに搭載されているスイッチを押す。ゆっくりと男の子の顔を覆っていた前面部分が開放されていく。

 そこには、幼い顔をした喜久の歪んだ笑顔があった。

 

『サーフォ――お願い、貴方は……生きて…………』

 

 画面がふっと、真っ黒になる。動画の再生が終了した。

 

「いや、嘘よ……こんなの、嘘、よね?」

「事実よ」

 

 脆弱し憔悴しきったような否定の声と、淡々とした肯定の声が交わされる。

 姉の理不尽すぎる最後を目の当たりにした妹の顔が、一瞬にして苦悶の表情を作り出す。視界が霞み、焦点がぶれ続ける。悲しみの余り、自身の心臓を引き裂かんとしてしまうような感情が爆発していく。アラルティアが頭の側面を両手で覆い出した。

 

「いやああぁぁぁああぁあああっ!!」

 

 喉を掻き乱したくなるほど発狂寸前の悲鳴をあげだす。ミアが彼女の様子を見て嬉しそうにする。これで、確実に喜久を殺せると。

 一人の絶叫と、一人の狂喜が部屋中に満たされた。

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