ln   作:kiarina

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(うぅ……、胃が痛い…………)

 

 職員室で自身の席に座り唸る人間がいた。

 今年、初めて副担任から担任に昇格した山田 真耶が、キリキリと痛む腹部を擦ってうな垂れている。彼女は目下クラスの問題児たちに頭を悩まされていた。

 隣の席では瀬名川 裕香が落ち着いた表情で座り、お手本のような姿勢でお茶を飲んで寛いでいる。

 

「ストレスの溜めすぎね。一度、カウンセラーにでも行ってみた方が良いんじゃない?」

「なに他人事のように、いけしゃあしゃあと。はぁ……」

「そんなにしてると老けるわよ?」

「裕香、その原因を作っているのは誰でしょうか?」

 

 「さあ、私以外じゃない?」と、裕香が茶菓子を食べながら笑う。真耶は喜久より性質が悪い腐れ縁の親友に対して額に青筋を立てた。

 彼女は心の中で願う。この無作法女に近い将来、必ず天罰が下るようにと。

 

「それにしても、あの二人の男の子は本当に面白いわね。感情を表に出すだけの無垢さが残ってるのは、まだまだ純粋な証拠かしら?」

「穢れを知った大人は老けますからね。そんなことを言っていると、理知ではなく歳臭いぼやきになりますよ?」

「なに言ってるのよ、真耶の方が口端に小皺を作ってるじゃない?」

「ええっ!?」

 

 真耶が慌てたようにして自身の顔を両手で触りだす。焦ってべたべたと触りすぎたために眼鏡が少しだけずり落ちた。

 

「あらあら冗談よ、それとも本当に小皺があるのかしら?」

「裕香っ!」

「相変わらず仲が良いことだが、学生ではないのだ。二人とも周りを考えて行動するように」

 

 千冬が呆れた表情と共に、二人のいる場所まで歩いてくる。彼女は小脇に抱えていた書類をそれぞれに手渡すと、真耶の剥れている表情に首を傾げた。

 彼女が千冬に懇願しだす。

 

「織斑先生、それでしたら目の前の人をどうにかして下さい。問題児を二人も抱えた私の胃は崩壊寸前です……」

「問題児なんていないじゃない。市隈くんは私が面倒見てるんだから、寧ろゼロとも言ってさしつかえないわよ?」

 

 怒り心頭の真耶が一瞬だけ白目を向いて気絶しそうになる。彼女の精神が限界を迎えた。

 

「どの口が、どの減らず口がそんなことを言いますか……、裕香ぁ! 貴方はこの前だって、市隈君にクラス生徒たちの点数を知られたばかりじゃないですか!?」

「ああ、そんなこともあったわね」

 

 裕香が口元に指を当て、さも何事も無かったように過去のことをさらりと流す。つい最近、彼女は喜久にテストの丸付けを強制させていた。

 彼はその内容を誰かに暴露するつもりも無く口を閉ざしていたのだが、用意された個室という空間が良くなかったのだ。青春真っ盛りの世代にとって、恋愛事情はなによりも美味しい格好の話題となる。男子生徒と若い女教師が区切られた密室で何をしていたのか。

 話題は彼らを遠巻きに観察していた女子たちから寸時も置かずして、密かに尾ひれがついた噂の如く学園中へと拡散されていく。結果、そのことに戦慄したのは真耶だった。

 

 不順異性交遊 → あるまじき行為 → 担任の監督問題 → 職務怠慢 → 責任追及 → 懲戒免職 → プー太郎

 

 思考しただけで一気に恐怖感が襲ってくる。裕香を質問攻めにしてことの真意を聞き出し、死ぬほど安堵した後で疲れ果て、全身真っ白の状態になった。

 きっと頭からはオーバヒートした煙が出ていたに違いないと、彼女は後日に当時の状況を思い返す。千冬が溜息を付いて裕香の頭を軽く小突く。

 

「あ痛っ」

「瀬名川先生、山田先生をからかい過ぎだ。これでは本人が干からびたミイラになってしまうだろう」

「はぁーい。以後、気をつけさせて頂きます」

 

 裕香のまるで反省がない間延びした声に対し、真耶がジト目で彼女を見る。これでは一向に話が進まないなと千冬が無理やり進行の軌道修正をすることにした。

 

「海外研修の宿泊施設における部屋割りが仕上がった。悪いが二人とも、最終チェックをしてくれないか?」

「はい、わかりました」

 

 真耶と裕香が彼女から手渡された資料へと目を通す。一組の部屋割りは一夏が千冬と同室になっている。去年と同じ内容に、まあ妥当な判断だなと心の中でうなずく。そして、真耶があるところでページの捲っている動作を停止させた。

 

「織斑先生、私がなにをしたっていうんですか……」

「まあ、そう泣きそうな顔をするな。想像してみろ、山田先生が一人で市隈を御しれると思うか?」

 

 真耶の宿泊する部屋は三人用となっている。メンバーは真耶と裕香、おまけに喜久が追加されていた。

 彼女は顔を資料から背けて過去を振り返る。去年の臨海学校では、なぜかアダルトチャンネルを点けた自身がいた。

 記憶が歯抜けのようになっているが、喜久と一緒だったからこそ起こった出来事だ。彼女はなんとしてでも同じ過ちを繰り返したくはない。

 

「……無理です。なので、こうしようと思います」

 

 真耶が部屋割りを即座に書き換える。今度は裕香が嫌そうな顔をしだした。

 

「何で私と市隈君の二人だけになるのよ? 間違いが起こったら大変じゃない」

「本当にそうなったらどうするんです?」

「そうね。彼を海岸の絶壁から、躊躇《ちゅうちょ》なく突き落とすんじゃないかしら?」

「そういうことです。市隈君では裕香の腕力には勝てませんし、何がどう転んでも間違いは起きないでしょうから」

 

 これでは学生とたいして変わらないと、千冬が二人の言い合う様子に溜息を吐く。彼女は妥協案を提示するため、自らの持っている資料に書き換えを行う。そして喜久の位置を移動させ、ある場所へと配置換えをした。

 

「ふむ。ならばこれでどうだ?」

「え、これはちょっと……」

「あら、面白そうじゃない。私は賛成させてもらうわ」

「研修先で市隈が暴れられないように、ある程度は精神と体力の両方を削る必要性がある。奴の性格から来るお調子者の部分に対して増長防止にも丁度良い。それに奴は貞操観念に関して、他の女子生徒たちよりも妙にうるさいしな。過去にオルコットやデュノアと一緒の部屋だったことからみても、まあ問題は起らんだろう」

 

 真耶の口元がひくついて、裕香が満足げにしている。そして千冬が楽しそうに笑う。部屋割りは真耶と裕香の二人部屋で、喜久は他の女子の部屋に放り込まれた。

 彼がここにいれば、悲鳴にも似た絶叫を上げていたに違いない。彼が配置された場所には篠ノ乃 箒、凰 鈴音の氏名が記載されていた。

 犬猿の仲に油と水のような性格の違いの二人と一緒にされる。こうして彼が吐血するような事実を知るのは、もう少し先の話だった。

 

 

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 第三アリーナでは、白式を纏った一夏が静かに空中で停滞していた。

 片手には雪片弐型が握られている。

 

「来い、風雪っ!」

 

 彼が叫ぶこと十秒、武装が入れ代わるようにして十メートル級の大剣が姿を表した。

 余りの展開速度の遅さにげんなりし、上手く瞬時切換《ラピッド・スイッチ》できないことに心の中で溜息を吐く。一朝一夕で身につくものではない技術に、どうしたものかと頭を抱えだす。

 

(今まで武装の入れ換え自体が殆ど必要ない機体だったからなぁ。それにしても、シャルは二十以上の武装を切換えてるのに、なんで頭がパンクしないんだろうな……)

 

 シャルロットはラファール=リヴァイヴ・カスタムに搭乗していた際、二十以上の武装を瞬時切換によって使いこなしていた。

 対して一夏が入れ換え必要な武装はたったの二つだけ。彼は改めて代表候補生の実力に感心し、自身の力のなさに気持ちがへこんでいく。同じチームの佐々木が軽く提案して始まった訓練だったが、一夏にとって予想以上に厳しい現状が浮き彫りとなった。

 本来、白式にとって瞬時切換の技術は必要のないものだ。雪片弐型のみが展開武装として固定され、試合や戦闘の際には準備万端で既に展開後の状態となっている。それを今回は雪片弐型を粒子化する動作で一つ、新たな武装として風雪を展開し直す動作で二つの手順を踏まなくてはならない。しかもほぼ同時に思考して、瞬時に行う必要性がある。彼はシャルロットから聞いた瞬時切換のコツを思い出した。

 

『コツといっても、結局はイメージトレーニングの反復練習が必要なんだよ。実物の重量、形状、色調、硬度等をいかに意識として固められるか。見えないものが手の内にあって、まるで錯覚して実際に見えているように感じられること。一夏の場合は入れ換えたい武装の形状が細かい銃器類じゃないから、直ぐにできるようになるはずだよ?』

 

 シャルロットの扱っている銃器類よりは、一夏の武装の方が造りは単純だ。しかし、それにしても言葉の簡単さと実際の出来にはかなりの隔たりが生じている。

 ――足りない。まだ、何かが抜けている。散々反復の練習を繰り返しているのに後一つ、どうしても上手くいっている手応えを感じられない。

 

 ――くん、ちょっといいかしら?」

 

 そう思っていると、一夏は背後から声が掛かっているのに気づいた。

 彼が後ろを向くと、いつもの様に楽しそうな笑顔の楯無が立っている。一夏は風雪を粒子化して白式を地面に着地させていく。

 

「おねーさんの声が聞こえなかったみたいだけど、随分と集中してるのね。なあに、もしかしなくても新武装の扱いに困ってるの?」

「おつかれさまです。いえ、そうじゃないんですけど……。シャルの使ってる瞬時切換えが上手くいかないんですよね」

 

 一夏が苦笑いして彼女に事情を話し始める。一通りの練習内容を話すと、笑顔を崩さない楯無が両手を合わせて嬉しそうにしだす。

 

「やっぱり困っている後輩を助けるのは、いつだって先輩の役目よね~。良いわよ、おねーさんに任せなさいっ♪」

「いや、それはありがたいんですけど」

「なぁに~、訓練が終わった後も付き合って欲しいのー? 一夏くんも、やっぱりお年頃なのかしら~」

「だ、誰もそんなこと言ってないでしょう!?」

「やぁ~ん、今日は替えの下着を持ってきてないのに。匂いフェチだなんて、変わった性癖があるのねっ★」

「真面目に話してください……、俺はノックアウト寸前です」

 

 この酷い言動をなんとしても直して欲しい、一夏が溜息を吐きながら心の中で願う。彼は白式を粒子化して地面に着地する。楯無のサポートは厳しくも優しく、相手の育成に対し愛情がある。一夏はそれを肌で感じて理解しているが、苦笑して断りをいれた。

 

「楯無さん、俺の練習をいつも見てくれてるのは解るんですけど。国家代表が学年行事で一つのチームに肩入れするのって不味くないですか?」

「一夏くんが可愛いんだもの、人である以上少しくらい贔屓するのはしょうがないのよっ♪ 目指すは優勝、特によっちゃんを負かすことが大事よ?」

「何で喜久に限定して勝つことが必須なんですか?」

 

 楯無が腰を左右に捻って両手を自身の頬に当てだす。彼女は恥ずかしそうにしながら説明を始めた。もちろんいつもの演技で。

 

「おねーさんがよっちゃんを優しく看病するためには必要なの。一夏くん、私の愛の巣作戦を成就させて頂戴。よっちゃんを倒す際には、大怪我までならオーケーよ?」

「……そんなにしたら、俺が後で喜久に逆襲されます。奴の報復は死ぬほど恐いし、それでなくとも勝てるかどうか自体が危ういですよ」

 

 この生徒会長は、また何かいらないことを画策している。一夏は楯無の野望に呆れ果てていく。そして、喜久と対戦した際のことを思い浮かべた。

 

 ――――勝てない。単独で挑めば勝率は圧倒的に低く、チーム戦であったとしても引き分けに持ち込むだけで精一杯に感じてしまう。

 歴然とした操縦技術の差が、自身よりも冷静さのある判断力が、そして何よりも相手を倒そうとする心構えが違う。最初に感じたのは去年のクラス代表戦だった。

 一夏が喜久とセシリアの対戦を観戦した際に認識したものがある。それは、相手に対する容赦の無さだ。顔面を狙った零距離射撃に始まり、これがもし仮に戦争が起こって戦場でISを操縦したならば、確実に相手の息の根を止めてしまうのではとも考えてしまった。

 楯無は一夏の考え込む様子をじっと観察している。彼女は自身の本当の目的を隠して、彼との話を成立させていく。本来の目的は喜久の単身渡米阻止だ。今回その役割を一夏に担ってもらおうと、彼女は彼に白羽の矢を立てていた。

 

「さて一夏くん、君は瞬時切換を習得したいのよね?」

「え、あーはい、そうなりますね」

 

 楯無はウィンクを一つして、悪戯っ子の仕草をする。一夏はよくわからないといった表情で彼女のことをみた。

 

「一夏くん、実物を確認する時にどうやって確認してるのかしら?」

「えっと、展開して出して、それから持ってみてますけど?」

「それは一夏くんが直に触ってるのかしら?」

「――あ、もしかして素手で触って確認してみろってことですか?」

「正解よ、どんな武装でもISという補助が付いたら重いものも軽くなるでしょ。質感も肌で感じた分だけ、頭の中でリアルに表現できるの。一夏くん、もう一度白式で風雪を展開してから地面に放置してISを粒子化してみなさい」

 

 「可愛い子にはご褒美よ、後は頑張ってね」と、それだけを言い残して彼女はアリーナを去っていく。タッグマッチまでの残り時間はごく僅かだが、これだけヒントを与えれば大丈夫だろうと心の中で一夏の勝率が上がったことを確信する。楯無の背中から、一夏の感謝が大声で聞こえてきた。

 

 

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 第一アリーナでは一対四の模擬戦が行なわれていた。

 喜久が体の一部を捻るようにして首の関節を鳴らす。彼が眼下を見渡せば、地上で煙を噴出している三機の訓練用ラファール=リヴァイヴを確認することができる。それとは別に、一機が辛うじてエネルギー残量のある状態だ。

 

「駄目だな、専用機つっても中身はただの人間だろうが。蔡さ、要はやりようなんだし、もう少し位は粘ってみろよ?」

『うっさいっ! 理解してるわよ、そんなことっ!!』

 

 香の駆るラファール=リヴァイヴが単身で喜久へと迫って来る。彼は淡々と自身の相方に向かって指示をだしていく。

 

「どうせ模擬戦だしな。ティアーニ、荒技を試してみるぞ?」

【扱いが酷いのはいつものことでしょう、もっと機体を大事にしなさい】

「ああ、それもそうだな。今更だし、もっと好き勝手やるか」

【ISは自爆特攻機じゃないのよ、犠牲は貴方だけにして欲しいわね】

 

 喜久がブラックペタルを駆って二連続瞬時加速《ダブル・イグニッションブースト》を行使していく。香桃が即座にライフルからレーザーブレードへと武器を入れ換えて、彼を迎え撃つ体勢をとった。

 黒の機体が変則軌道を行使しラファール=リヴァイヴの脇を一気にすり抜ける。彼女が後ろ取られそうになりながら叫んだ。

 

『そう、何度も同じ手をくうかぁああっ!」

「だよね。じゃあ、これでどうだ?」

 

 ガガッ!

 

「なぁ!?」

 

 彼女のブレードが獲物を捉え切れずに虚しく空を切った。

 喜久がペタルを出現させて作り出した、即席の壁を蹴り飛ばす。もともと変則的だった瞬時加速からの軌道をさらに切り換えていく。足に掛かる衝撃も二段階の踏み込みによって段階的に減少させながら、彼は両腕に搭載されているグリコシドをラファール=リヴァイヴに突き刺した。

 香の機体が完全に行動不能になり、後はゆっくりと地上へ降下していく。

 

(結局これも不意打ちの類だし、試合で使えるのは一回きりか。クラーラと殺しあっても避けられるのが落ちだし……もっとこう、決め手になるものが欲しいところだな)

 

 彼の中での戦闘想定は試合ではなく、常にクラーラ=ペローフとの対峙に重点を置いている。目下の課題はISTSへの対策、最近まで彼自身が使用していた能力に対して勝利することだ。

 喜久が地面に着地してISを粒子化する。戦闘を見学していた整備科と情報科のチームメンバーが、ゆっくりと彼の元へと歩いてきた。

 

「市隈の言ってた三十分以上の戦闘には届いていないわ。そっちのエネルギー残量は?」

「半分以上残ってるな。最初の模擬戦時よりは、大分良くなったんじゃないの?」

「はぁ……、貴方が強いってことは認めるわよ。香《シャン》、リーダーとしては今の状態をどう思う?」

 

 香がくたびれた様子で地面に座っている。彼女は顔を左右に振って、メンバーに今の状態では駄目だという意思表示をした。

 

「専用機が相手だとしても、こっちが四対一でやってるのに勝てないのは情けない話しでしょ。ましてや不意打ちだらけのタイプに負けるのは悔しいし」

「捻くれ者の戦法だものね。他の専用機持ちが相手なら、市隈ほどは酷くないかも」

「最近、オルコットさんの第三世代機がセカンドシフトして強力なったって聞いたけど。市隈、そこら辺どうなのよ。あんた彼女と仲いいでしょ、何か知らない?」

 

 喜久が肩を竦めて苦笑いする。最初の最悪な出だしよりは互いの仲がまともにはなったが、チームメンバーが彼に対してシャルロットのような毒舌を浴びせていた。

 だが、当の本人は万年毒舌AIとのやり取りで多少の耐性が出来上あがっている。

 

「セシリアの新しい武装は強力だけど、本人がまだ扱いきれてないらしい。これからって感じなんじゃないの?」

「ふーん、そっか。機体に振り回されてる状態なら、なんとかなりそうね」

「どうだかね。それよりも、俺はボーデヴィッヒのところが一番の難敵と思ってるけどな。チームの統制は学年で一番だろうし、ボーデヴィッヒ自体がやばい。シュヴァルツェア・レーゲンには柔軟に対応出来る武装も豊富だしな」

「ああ……、あそこは色んな意味で危なそうね」

 

 女子の一人が顔を引き攣らせる。現在学年内で優勝筆頭候補に上がっているのはラウラのチームだった。

 原因は傍から見てもわかる軍トレーニングのような鍛え方だ。彼女のチームメイトは、最初に瀕死のような断末魔を上げ続いていた。

 しかし、これが二週間を過ぎた辺りで黙々と訓練に励む、現役軍人のような状態に変わってきている。普段は緩やかに過ごしているが、ラウラの掛け声一つで彼女たちの顔付きが変貌した。

 その状態を見た千冬は、やりすぎるなとラウラを注意している。彼女のチームは色々な意味で恐いと、学園中の話題になっていた。

 喜久が欠伸をしながら自身の意見を述べていく。

 

「まあ、試合なんてのは始まってみないと解らんしね。俺は当たった相手に対して、その場で対応のやり方を組み上げてけば良いと思うけど?」

「なに言ってるのよ、あるのは優勝のみよ。そっちは男性操縦者なんてアドバンテージがあるけど、私たちには競争する相手が多いの。それは、学園に在籍している学生全体にも言えることよ」

 

 全世界で登録されているISコアの総数は467個。今現在の状況においてISコアは地球上の各国々に割り振られ、国家代表専用機と候補生専用機等でそれ以外に搭乗できる人数は限られていた。

 IS学園に配備されている機体数は教育用として世界最多の保持数を誇っている。そして亡国機業に強奪、もしくは現在に於いて何らかの理由からコアが破損して使用不可能になったものを合わせると、純粋にISを操縦できる人数はぐっと減ってしまう。

 ISが発表されてから十年という月日が流れている間に、ISコアの比率に対して操縦者等の人数が上回っている。導き出される答えは人数過多の飽和状態だった。

 人が増えてもISの椅子が増えるわけではない。だからこそ、一生を通してISに携われる職務に就くことのできる人材は限られてくる。

 

「たぁく、世知辛いくらい狭い間隔だな。仕事なんて、職種は幾らでもあるんだからIS関係以外の進路も考えて動きゃいいだろうに」

「学年一位様ほど気楽に生きていければ、苦労なんてしないわよ」

「それじゃあ、なんのために貴重な三年間を犠牲にするのか意味が解らなくなるじゃない?」

「折角IS学園に入ったのに、他の事なんて考えれるわけないでしょ? ほんと、あんたは考えなしよね」

 

 喜久が呆れた表情で進路に関する視野の問題を提起すると、他のメンバーから盛大に反発が帰ってきた。

 IS学園に在籍している殆どの生徒は、この場所に憧れて入学してくる。だからこそ、意地でも将来はISに関わる仕事を求めるのだ。

 生徒たちにとっては、ISという存在が華々しい未来への約束された道として映る。しかし、喜久にとっては殺戮を行うためだけの戦争兵器としての印象しかない。それも最近になって半縄技研の笹崎と接してから、少しだけ印象が変わりだしている。だが、未だ過去の記憶は鮮烈に残っていた。

 こうした彼らの温度差は、どうしても縮めることが難しい。

 

「市隈、そういうあんたは将来どうしたいのよ?」

 

 彼の気だるい発言ばかりの様子に、香が見かねたようにして声をかける。喜久は言われてから数秒考え込んだ。そして、手をぶらつかせながら苦笑した。

 

「そうだな。出来ることなら普通にどっか就職してさ、暇な日は一日ごろ寝して本でも読みながら惰眠を貪りたいね」

「だったら、今すぐ退学して実行すればいいじゃない……」

 

 まるでやる気の無い将来のビジョンを聞いた香が、思わずツッコミを入れた。

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