ln   作:kiarina

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11-11

[ NumberingTitle_学年別チームトーナメント一回戦 ]

 

 ― 11 ―

 

 

 快晴の朝、第一アリーナは熱気に包まれていた。

 二年生は普段の実力を発揮してチームタッグマッチに臨む。一年生は強制参加の末、一人残らず全員が試合見学をする。三年生は自由観戦となり、見学したい者だけがアリーナに集っていた。

 生徒会の雑務を終えたイェレナが目の下に隈をつけ、げっそりとしながら観戦席のバックヤード側を歩き続けている。昨日、彼女は一睡もせずにある作業へと没頭した。

(あの会長は化け物ね……)

 楯無の横でどうしようもない出し物の準備を手伝わされ、全て完了するまで生徒会室に監禁状態にされていたのだ。最初は反抗したのだが、彼女の強力なくすぐり攻撃にあい悲鳴を上げる。結果としてストレスが限界に達し、その場で半狂乱のままISを展開しようとした。

 無断の展開が罰則でありご法度であったとしても、きっと許される。というか最早、私の気が晴れるほうが大事だ。精神的に支障をきたせば、三年間の学園生活が灰色になってしまう。全てを粉砕してジ・エンドだ。地に沈め生徒会長、この恨みの一撃で吹き飛ばされてしまえ。

 イェレナがIS展開の発光現象と共に内心で高笑いする――と、いうことは起こらなかった。体に変化はなく、代わりに普段身に付けているイヤリングが無くなっていた。

 彼女の目の前で、悪魔が愉快に指へと引っ掛けていた輪っかをぶらつかせる。その上で人でなしの一言。

『甘いわよイエティちゃんっ♪ さあ、欲しければ取ってごらんなさぁい?』

 イェレナが闘犬のような叫び声を上げて飛び掛かっていく。そして再び彼女は楯無のくすぐり地獄を全身痙攣するまで味わった。

 すったもんだの末に、結局手伝いを継続。作業が終了してぐったりとしながら顔を上げてみれば、窓の外は日が昇り始めている。手も足も出ずにあしらわれたことが悔しかった。しかし、それ以上に彼女は楯無の胆力に衝撃を受けていた。

 イェレナの三倍以上の作業をこなし、朝までノンストップで動き続ける。そして全く疲れた様子もないままに、陽気な足取りで生徒会室から出て行く。無尽蔵のような体力を見て、ナポレオンも真っ青だと正直に感想を抱いた。

 ドアから出て行く際、楯無がイェレナに言葉を残していく。

『とっても助かったわ、本当にありがとう。私の机の上にお礼を置いておいたから、是非とも受け取って欲しいの。きっとイェレナちゃんの役に立つわよっ♪』

 一人だけ部屋に残った彼女が、言われた通りに机の方へと這うようにして向かう。そして、数十枚の用紙を纏めてクリッピングしてある資料のようなものが目に入る。何気なく一枚目を捲ると、同じように纏められていたデジタルプリント写真の内容に驚き、その場でボソリと呟いた。

 ――やっと見つけたわよ、裏切り者と。

 しばらくの間、彼女は写真を眺めてから小脇に資料を抱えて生徒会室を出る。一旦自室に戻って備え付けのシャワーを浴び、それからアリーナを目指した。

 長い廊下を抜けきり会場に着くと、多くの席が生徒たちでごった返している。自身の座れる場所を探して周囲を見回すが、空を見上げすぎて首が痛くならずに済む座席は既に埋まっている様子だ。そんな彼女に遠くから大声で呼びかけを行ってくる者がいる。

「イェレナー!」

「あ、蘭」

 入学式以来、仲の良い友人である五反田 蘭が嬉しそうに座席から立ち上がり、イェレナへと手を振っていた。

 一緒に観戦をしようと言われていたため、彼女の元に向えば一つ分の空席が存在する。安心して腰をかけようとして、にこやかに笑い話しかける。

「席を取っておいてくれてありがとう。それにしても、よくこの――!?」

 イェレナが蘭の横を陣取っている他のメンバーを見て目を疑った。

 理由は蘭の左側を鈴、箒、セシリア、ラウラと四人の上級生が陣取っていたからだ。専用機を所持している上級生が勢揃いしている状態に、異様な威圧感を受けてしまう。

「私も席を探して困ってたんだけどね。一夏さんが『どうせ試合の順番のせいで誰かの席は空くだろうから。蘭の座る場所がなかったら、ここを使ってくれよ』って言われたの」

 蘭の無邪気な笑顔にイェレナが溜息をつく。彼女はこの前楯無によって借り出されたアトラクション遊園施設のことを思い出した。

 そこから得た結論として、彼女は極力二年の専用機持ちとは関わりたくないと思ったのだ。しかし、そんな決意とは裏腹にことが進む。

「あら、あんた確かイタリアの代表候補生よね。えっと、名前は確か……」

 鈴は今回が彼女との初対面になる。必死に名前を思い出そうとしていると、横にいた箒が声を掛けてきた。

「鈴、彼女の名前はイエティだ」

「イェレナです、イェレナ=アスティーニ」

 イェレナが澄まし顔で訂正し、内心で泣きそうになる。この場所から離れたい気持ちで一杯だったが、いまさら超満員のアリーナで空席を探すには時間が遅い。他に良い位置も見つけられそうにないので、諦めて蘭の横に座る。そして、自身の疑問を鈴に問いかけた。

「先輩方、試合準備の方はもう宜しいのですか?」

「あたしのとこは、もう終わってるから。他チームの戦闘を見て状況分析の後に、対策ミーティングで午後の試合に臨むってとこかしら」

「私も鈴と同じだ。午前中は気になる相手が多い、一夏の新武装も気になる」

 鈴に続いて箒もイェレナへと返答していく。

「アメリカのISも気になりますわね。あの国の第三世代機は、私達にとってどれだけの脅威となりえるのか。国家代表の搭乗しているファング=クェイクは、ある程度の情報が出回っています。しかし、それとは別アプローチをかけた試作第三世代機があると耳にしたことがありますわ」

「それを今回、留学生が所持している可能性がある。だとすればだ、この観戦は相手の戦力を分析できる良い機会だ」

 セシリアとラウラがアメリカ代表候補生のISを注視する。あの国はブラックボックスになりやすいと、二人は鋭い視線を他の場所へと向けた。

 ピットの壁に寄りかかり、腕を組んでいるアラルティアが遠巻きに確認できる。本人を観察してみれば、ただ静かに自身の試合を待っている様子だ。数分すると、開会式が始まりだす。

『それでは、これより二学年チームタッグマッチ・トーナメントを開催したいと思います。代表挨拶、更識 簪』

 学年代表である簪がアナウンスに呼ばれ、壊れたロボットのような動きをしながら壇上へと登っていく。余りにもぎこちない動きが、撮影枚数の少ないコマ撮り映像のようにも見えた。

 彼女は壇上に立つと、今にも倒れそうな蒼い顔をしている。あの上級生は大丈夫なのかと、思わずイェレナが気を揉んでしまう。

『お、おは、おはよう……ござ、ございます。こ、ここ、これより、チーム……タタ、タッグマッチッチ………………』

 どもりまくり、噛みまくり、緊張しまくりで言葉が途切れていく。ついにはしゃがみ込んでしまい、その場で蹲ってしまった。

 動悸が激しくなりすぎて過呼吸にでも陥ってしまったのだろうか。気弱な彼女には荷が重かったのかと、担任が諦め顔でフォローを入れるかステージの端で考え出す。しょうがない、代役を他の人間にお願いするかと思った二秒後、会場中に気合の入った言葉が響き渡りだした。

『これから学年別チームタッグマッチを始めるわよぉ! 二年生ぃ、用意は良いかしら!?』

 別人のようになった簪が、まるでロックライブ中に行うような掛け声をあげだす。代表挨拶を聞いた学園教頭は、余りの乱暴な口調にその場で卒倒した。

 会場中が唖然とする中で、日本国家代表候補生の挨拶は続く。

『やるからには全力でぇええ、体が砕け散るぐらいで相手にぶつかっていきなさいぃいいいっ!! ――あん? ああ、そうだったわね』

 勢いのままにシャウトしきると、何かを思い出したようにして制服のポケットを漁りだす。折り畳まれていた四つ折の用紙を取り出すと、開いて片手に携え再び言葉を続ける。

『生徒会からお達しが届いているわっ! 読み上げるからよく聞いてちょうだい!? 今回、優しい我が姉である生徒会長から、皆に嬉しいお知らせがあるわっ! 題して、全学年対象の優勝チーム予想応援・食券争奪戦よっ!』

 会場中が一斉にどよめきだす。去年、専用機タッグマッチで幻に終わった賭博が、再びの復活を遂げたのかと。その場にいた一年生が破天荒な企画に驚き、上級生は素直に喜びの声を上げだす。

「あの女、一度ならず二度までもっ!!」

「ラウラさん、落ち着いてくださいな!?」

「どうしたのだラウラ!?」

 イェレナの近くに座っていたラウラが再び競走馬にされたことへ激怒し、驚いたセシリアと箒が彼女の興奮状態を止めに入った。

 簪から飛び出す厄災の言葉は他の人間にも降りかかる。

『さらに、優勝チームを当てた中から抽選で特典がつくわっ! その豪華景品とは、織斑 一夏の部活動奉仕、連続三十回っ!!』

 簪が勢いよく一夏を指差た次の瞬間、会場が熱気の渦に飲み込まれた。

 そこかしこで喜びの奇声があがり、女子生徒たちの目が飢えた野獣のようになりだす。ピット端では何も知らずに話を聞いていた一夏が、苦悶の表情と共に地面へと膝をついた。

 チームメイトの佐々木が慰めるように彼の肩へ手を置く。同じようにして、反対側の肩を本音がサムズアップしながら嬉しそうに叩いた。

 他の場所では、一緒に試合待機している喜久とシャルロットの呆れた顔が確認できる。二人の動かす口の動きから『今年中に一夏が禿げるか賭けないか?』『いや、それよりも内科のある病院に通う方が早いと思うよ……』という会話が見て取れた。

『以上、細かい開会挨拶は素っ飛ばして、試合をガンガン進めていくわよっ!』

 会場が生き物のように激しく脈動し、簪が天に向って握り拳を突き上げる。手の中には、楯無に『魔法のお菓子』と称して渡されていたお酒入りチョコレートの包み紙があった。

 どうしようもない状態を目の当たりにしたイェレナが、混沌とした空間に対し乾いた笑みを浮かべる。この楯無の出し物準備に荷担した自身が、なんとも居た堪れない存在に思えたのだった。

 

 

     ◇

 

 

 もの凄い開会挨拶の後、アリーナ中央で十機のISが宙に停滞していた。

 アリーナにいる人間全てが、大会試合初戦の緊張感を共有している。一試合目となる中で、殆どの人間が一機のISに注目の視線を注いでいく。

『やっぱり目立つよなぁ……』

 風雪を構えた一夏が情けない声を上げる。巨大な大剣は本人の意思に関係なく、観客席にいる生徒たちに異様な威圧感を放ち続けていく。白色の塊は畏怖の象徴のようにも見え、一種の神々しさを錯覚的に感じてしまいそうにもなる。それは彼の対戦相手となるチームにも、同様の印象を与え出していた。

 ラファール・リヴァイヴⅢを展開していたシャルロットが、チームメイトの肩に手を置く。

「雰囲気に飲まれちゃ駄目だよ、試合が始まったら僕が一夏と戦うから。だから他の相手をお願いね?」

「え……、ええ。織斑君の新しい武装を初めて目にしたけど、当たったら物凄い衝撃とダメージを受けそう」

「そうだね。だけど大丈夫、チームの背中は僕が守る。だからいつも通り行けば、問題ないはずだよ?」

 にこやかに笑ってチームメイトを安心させる。彼女の抱擁するような感覚にチームの緊張がゆっくりとほぐれだす。そして、シャルロットが自身の発言した内容と真逆の思考をしていた。

(大きい……、あれが一夏の新武装。隙のある大振りの攻撃しか出来なかったとしても、一撃が決れば強烈なダメージを負うことになる。高速切替《ラピッド・スイッチ》が加わって雪片弐型との連携が組めているとしたら、零落白夜も発動された際に危険度が増すだろうし――抑えるなら早いうちが良いかな)

 狙いを定めて目を細め、一夏のチームを確認していく。彼のチーム配分は、専用機以外の全機がラファール・リヴァイヴで固められていた。

(前衛を全て一夏にまわす? いや、きっとそれだけじゃない)

 シャルロットがスライドさせている視線を途中で停止させる。ピタリと止めた視界の先にいた背丈のある女生徒が自身のことを見返してきた。

 ふっと、視線の先にいるミア=コリンズが笑う。彼女の小さな笑顔を見たシャルロットが、なにかあると本能的に勘を働かせていく。

(胸がざわつく……、一夏よりもあっちの方を注意すべきだね)

 試合開始直前まで思考に耽る中、合図の秒読みが開始された。

 ――――――――5・4・3・2・ビーッ!!

「フォーメーションD、マークポイント4!」

 試合開始の合図が放たれた瞬間、シャルロットが指示を飛ばしてチームが一斉に素早く行動を開始する。

 フォーメーションDはシャルロットだけが前衛に飛び出す陣形。マークは注視、ポイント4は相手訓練機に割り当てた即席の番号となる。そして、その対象にはミアが置かれていた。

『はぁああああああああああああっ!」

「一夏っ!?」

 一瞬にして一夏がシャルロット目掛け風雪を振るってくる。白式の弾き出した余りの速さに目を剥いてしまう。瞬時加速を使用せずに何故ここまでの速度がと、完全に虚をつかれて急遽の対応に迫られた。

 巨大な塊が強烈な圧迫感を与えて自身に迫ってくる。彼女が歯を食いしばりながらミラーシールド・システムを解放した。

「がぁ!?」

 風雪の豪快な斬撃から繰り出されるエネルギーが、全て白式にリバースしだす。一夏が盛大に後ろへと仰け反った。

 その光景を見たシャルロットが呆れてしまう。

(一夏って武装が変わっても、本当に性格は変わらないんだね。もっと相手の得物をよく確認しようよ……)

 改修されたのであろう白式の速度に驚かされたが、彼女は本人の力量がまだまだだと判断した。

 シャルロットのお家芸、本家本元の高速切替が本領を発揮しだす。一瞬にてラファール=リヴァイヴⅢが、両手に六連装計四門のビームガトリングガンを携えた。

 ゥゥゥヴッ ヴヴヴウウンンンンッ!!

 ミラーシールド・システムを消失させると同時、蹂躙の咆哮が唸りを上げだす。一夏が大量の光弾を雪羅によるバリアシールドで防御し、風雪から雪片弐型へと武装を展開し直していく。シャルロットが攻撃を加えながら上空に回避行動をとり、彼との距離を縦に離した。

 攻撃を一旦停止させ、対戦相手へとにこやかに笑いかける。

「再展開が速いね。さすが一夏、高速切替までもう少しかな?」

『教え上手な先生が二人もいたからな、なんとか試合までに間に合った。だけど俺のチームは、これだけで終わりじゃないぜ?』

 一夏が不適に笑い、シャルロットが違和感に眉をひそめだす。

「もう一人っ!?」

 ハイパーセンサーによる索敵を行えば、答えは自身の真後ろに存在していた。

「悪いけど、ここで倒れてくれると嬉しいわね?」

 内心で舌打ち。専用機同士で一騎打ちの戦闘になると思い込んでいたため、彼女は一つのミスを犯していた。

 最初、白式のスピードに圧倒されてしまい、彼女は一夏にばかり気を取られる。だからこそ、他から後ろを取られたことに気づけなかった。

 痛恨事が表面化し、背後からミアの声と共にレーザーブレードがシャルロットの体を一閃していく。

 ギジィンッ!

「ちぃ、やっぱりフランスの第三世代機は旋回速度が異常ね」

 ラファール=リヴァイヴⅢの背にある八枚の独立ウィングスラスターが稼動し、シャルロットが左腕のレーザーシールドを展開しながら急反転した。

 防御に成功し、そのままの動きでさらに相手の背後を取ろうとする。再度の高速旋回から繰り出される攻撃に対しミアが叫ぶ。

「一夏くんっ!」

『おうっ!」

「くっ!?」

 一夏が雪片弐型を使用してシャルロットへと切り込む。先ほどから白式が圧倒的なスピードと共に攻撃を繰り出してくることに、彼女は極端な焦りを感じてしまう。単体であれば問題ないが、一対ニになればやり辛くてしょうがない機動性に苦虫を噛んだ表情をする。しょうがなくミアへの攻撃から自身の防御へと切換え、ミラーシールド・システムを即座に再発動させた。

 エネルギー消費量を考えれば、システムの連続使用は好ましくない。しかし、手を抜いて相手をするには難しい。

 他の場所では訓練機同士、四対三の戦闘が行われている。シャルロットのチームはラファール=リヴァイヴと打鉄のペアが二つ、攻守のバランスを維持しながら磐石の態勢を整えていた。

 攻と防、近遠に対応できる全体的にバランスの良い布陣。一夏のチームはラファール=リヴァイヴが三機、確実に纏まって遠巻き距離を保ちながら狙撃だけをし続けている。交互に入れ代わりながら絶え間なく銃撃を行っているため、場が膠着し始めていく。その結果、専用機同士の戦闘に勝利した方が、戦況を有利に進めていく試合展開と化していた。

 シャルロットが緑白色に輝く円の中で、高速切替えによって新たな武装を取り出す。攻撃を停止させていた一夏が彼女の側面に回りこもうと移動していく。

「また後でね、一夏」

「まずい、避けろミアっ!?』

 シャルロットが一夏の動きを牽制したまま、瞬時加速を掛けてミアの方へと向かいだす。彼が上手に肩透かしをくらってしまい、切羽詰った表情で叫ぶ。前方では展開して既に発射した、計六発分の空対地ミサイルが先行し飛翔していた。

 先ず一つ目の機体を確実にエネルギー切れにして、地面へと落下させよう。意気込んだ先でシャルロットがミアの背後を取ろうとする。

「なっ!?」

「機体性能はそっちが上でも、動体視力と動作予測は私のほうが上のようね?」

 対するようにして、二刀流のレーザーブレイドが蛇のようにしなりながらラファール=リヴァイヴⅢに追従して来た。

 ミアが笑う。彼女は持ち前の驚異的な反射神経でミサイルを全て避けきり、相手の行動を先読みした上で攻撃を放つ。シャルロットが攻撃を間一髪で回避しきるが、連撃による猛攻は続く。一夏が雪片弐型を風雪へと武装を展開し直しながらシャルロットに追いついた。

『うおおおおっ!」

 風雪の胴を狙った横薙ぎの一閃が豪快な風斬り音を発生させていく。

「引っ掛かったね、本当の狙いは一夏だよ?」

 シャルロットが優しく微笑み、一夏が困惑する。ラファール=リヴァイヴⅢが背部に搭載した八枚羽を器用に動かす。世界中のありとあらゆる生き物よりも精密に、この世に存在するどのISよりも全体の動作を鋭く、橙色の機体が残像をかけながら超高速で旋回運動を行った。

「剣を振り抜いて、そのまま真っ直ぐに抜けきりなさいっ!』

「なぁ!?」

 ズガガガァンッ!!

「がああぁあっ!!」

 ミアが叫んだ次の瞬間、一夏の背中に強烈な衝撃が走る。白式のエネルギーがラファール=リヴァイヴⅢの放つ城壁殺し《トリプル・シールド・ピアーズ》にごっそりと持っていかれた。

 ISのシールドバリアを貫通して受ける激痛が、一夏の精神を削って疲弊させる。白式の背後を完全に掌握したシャルロットが、絶え間なく自身の攻撃ターンを保持し続けていく。高速切替でビームガトリングガンを両手に携えると、更なる追い討ちをかけようとした。

 ミアが内心で賞賛を送る。流石は代表候補生、機体ではなく貴方本人が優等生なのねと。

 しかし、やられたい放題は彼女の性分として面白いものではない。反撃の狼煙を直ぐにでも上げようと、標的を捉えるために視線を鋭利にしていく。

『一方的にレイプだなんて野暮ね、お返しをさせてもらうわよ?』

 シャルロットに向かってミアが突貫を開始しだす。彼女の両腕にはレーザーブレイドが展開されている。ラファール=リヴァイヴⅢが持つ高火力の近接武装に対し、構わず格闘戦を求める姿勢から余程の自信が見て取れた。

 対応するなら手数の多い方が有利、シャルロットは頭の中で判断すると高速切替換で両手に近接ブレイド《ブレッド・スライサー》を展開し迎え撃つ。一撃目、二撃目と互いの近接武装が切り結ぶようにして、ぶつかり合い火花を散らす。連撃の動作を取ろうとしたミアの攻撃を読むようにして、シャルロットがウィングスラスターを小刻みに稼動させる。

(次の攻撃を避けきってから、カウンターで――!?)

 ミアの動きが一瞬にして速くなりだし、ラファール=リヴァイヴⅢの物理シールドで慌てるように攻撃を防御しきった。

 装甲の削れる金属音が耳に響き渡り、彼女の口端が吊り上がる。

「惜しいわね、今の攻撃に対応出来るとは思ってなかったけど」

「さっきまでの動きは、フェイクってことかな?」

「随分と思考が柔軟ね、攻撃動作だけは速度を抑えてたの。遅い方に目が慣れてきてただろうに、よく避けれたわね?」

 シャルロットが警戒する。前に喜久から聞いていた相手の情報、肉体改造を施した人間の能力に内心で舌を巻いてしまう。瞬発的肉体強化実験の被験者が、隠していた本当の実力を曝け出し始めた。

「さてと、ここからが私の全力よ。避けれるものなら、やってご覧なさいな?」

「くっ!?」

 会話が終わった瞬間からブレードの連撃が再開される。ミアの駆るラファール=リヴァイヴが駆動系に負荷を掛けそうな程の動作で激しい攻撃を行う。シャルロットは体勢の建て直しを計るためにバックダッシュしようとした。

 ミアが合わせるようにしてシャルロットへと一直線に突進してくる。瞬間、ラファール=リヴァイヴⅢの八枚羽の一枚一枚が単独で稼動しだし、ミアを軸に円運動を開始しだす。

「背後を取らせるつもり無いわよ?」

「それなら、取らせてくれるまで付き合ってもらうだけだから」

 ミアが急激な逆回転をしてブレードを振るう。シャルロットはレーザーシールドでガードした後で、右腕を勢いよく振りぬく。

「がぁあっ!?」

 正面から一時の間も与えずに城壁殺しを射出した。

 ラファール=リヴァイヴのエネルギーが白式以上に削られる。次の瞬間、ダメージを受けていたミアがシャルロットに抱きついて身動きを封じだす。

「なあっ!?」

「捕まえたわよ、動けないでしょ? 悪いけどよっぽどのことが無い限り、私に極端な人体的ダメージが通ることはないの。残念だったわね」

 ゼロ距離によって攻撃できず、シャルロットがその場でミアを引き剥がそうとする。しかし、機体同士が悲鳴を上げるだけで離れることが出来ない。ミアが嗜虐的な笑みを浮かべ、ある方向へと顔を向けた。

「一夏くん今よっ!」

「そんな、まさか捨て身で!?」

 ダメージから立ち直った一夏が瞬時加速を使用し、シャルロットの元へと切り込んで来る。

(城壁殺しの攻撃を受けたのは、わざと!?)

『すまんミア、一発だけ耐えてくれっ!!」

 シャルロットが心中で衝撃を受けつつ、ミラーシールド・システムを展開しようとする。二機の競り合うスピード勝負、防と攻のどちらが先に成立となるか。

 ザァァアアンッ!!

「ぐぅ!?」

 たったコンマ数秒の差、瞬時加速の勢いに乗って風雪を振り抜いた一夏に軍配が上がった。

 ラファール=リヴァイヴⅢが、背中からまともに攻撃を受ける。強烈な一撃によって背部を襲う抉られるような鈍痛に、シャルロットの目が眩む。シールドバリアを突破した衝撃が、彼女の意識を気絶寸前まで刈り取りかけた。

 攻撃が一撃で止まらない、一夏が機体を横回転させて再度の斬撃を加えていく。ミアがシャルロットから急いで距離を取った瞬間、風雪の二撃目が炸裂する。意識を保ち浮いているだけで精一杯だったシャルロットが、アリーナの端まで吹き飛んで壁に激突した。

 試合中に気絶するわけにはいかない。頭がくらくらのままにラファール=リヴァイヴⅢを上空に浮かせる。視界の先では彼女を助けようとしたチームメイトが、打鉄とラファール=リヴァイヴのコンビネーションで一夏とミアの相手をしだす。だが、シャルロットのラファール=リヴァイヴⅢに戦闘で競り勝った二人を相手にするには役不足だった。

 打鉄の防御に対して白式の風雪が猛威を奮い、一撃で機体を吹き飛ばす。仲間の窮地を助けようとしたラファール=リヴァイヴが、ミアの機体から狙撃用ライフルによって放たれるレーザ光に対し身動きが取れなくなった。

 先読みと体の運動性能をアドバンテージにして、精密な射撃が二機の連動をストップさせる。そして、連続で攻撃を受け続けた打鉄がエネルギー切れになって機能停止しだす。シャルロットが歯を食いしばり、完全に意識を復活させた。

(――く、背中に受けた衝撃が貫通して腹部にまでダメージ……。でも、まだ一機が落とされただけ。逆転の可能性は充分に残ってる)

 機体の周りに六発分の空対地ミサイルが展開される。目標を一夏に定めると、射出した瞬間に今度はミアへと一直線に向かいだす。

 エネルギー残量は風雪の攻撃を受けたことと、数度ミラーシールド・システムを使用したことにより心許ない数値となっている。しかし、それは一夏の白式も同じことだ。

 ミアがシャルロットに気づいて体制を立て直す。先ほど一緒に風雪の一撃による衝撃を受けた筈なのに、彼女は余裕の表情を保っている。

『もう少しくらい、眠ってて欲しかったわね?』

「眠り姫は貴方に譲るよ。試合終了まで、ゆっくり寝ててくれると嬉しいんだけど?」

『悪いけど、それは私のがらじゃないの。だから、そっちが行動不能になって頂戴なっ!」

 シャルロットが高速切替を使用してビームガトリングガンを展開する。ミアがブレードを振るい、直接銃器に斬りつけようとした。

 互いが不敵の笑みと余裕の笑顔を見せ、相手の出方を見定めようとしていく。シャルロットが重武装のゼロ距離射撃を行う。

「終わりよ――!?」

「残念、それはこっちの台詞だね」

 レーザーブレードが空を切り、連続で高速切替を行ったシャルロットが両腕の盾を起動させる。防御を重視したままに高速度旋回を行い――

「馬鹿の一つ覚えねっ!」

「リヴァイヴⅢには、こんなことも出来るんだよ?」

 ミアの逆回転に合わせる様にして回転を切り返し、二倍以上の速度で逆回転しだした。

 右腕の物理盾に装備されている武装が最高の瞬間を捉える。

 ズガガガァンッ!!

「がぐっ!」

「おつかれさまっ♪」

 城壁殺しがラファール・リヴァイヴに突き刺さり、機体が完全に稼動限界を迎えた。

 ミアが舌打ちするようにして、ゆっくり地上に降下していく。入れ替わるようにして、今度は一夏がシャルロットの元へと突進してきた。

 彼の両手には雪片弐型が握られている。二人の駆っている機体は既にエネルギー残量が100を切っていた。

 高速切替による動作でビームガトリングガンを展開しなおす。

『うおおおおおっ!!」

 シャルロットの攻撃を受け続けたままに、一夏が雪片弐型を振り上げる。ラファール・リヴァイヴⅢが白式の動きに合わせる様にしてバックダッシュしだす。

 射撃によって放たれる大量の光弾で白式がエネルギー切れになる。最初の試合が終わったと、シャルロットが確信した目の前で一夏が斬撃を加えてきた。

(後ろに引けば避け切れる、これで――!?)

 雪片弐型が風雪に高速切替される。一瞬にして剣の尺が何倍にも伸びだし、シャルロットの右肩に斬撃が決まった。

 視界が乱視のようになりだし、次の瞬間には地面でバウンドした衝撃が体に走る。動きがやっと収まって右端に視線を動かせば、エネルギー残量がゼロになっていた。

 そこまで状況整理を行うと、シャルロットは自身が一夏に負けたことを始めて理解しだす。

(――負けちゃった。まさか、本当に高速切替を習得してたなんて。やっぱりすごいね、一夏は)

 彼女が頭上を見上げれば、一夏が決めポーズのような動作で剣を振るっている最中だ。絵になっている彼の動きに、シャルロットが心から称賛を送った。

「なにをしているの一夏くん、避けなさいっ!」

「ぐあっ!?」

 ミアの怒声のあと、ラファール=リヴァイヴの射撃が白式に直撃する。一機の機体が情けないやられ方で、ゆっくりと苦笑しているシャルロットの近くへ降下してきた。

「一夏、あのね。チーム戦だってことを――

「解ってる、言わないでくれ……」

 油断大敵。完全に余裕を見せていた一夏が、もの凄く気まずそうな顔で溜息を吐く。彼の視線の先には呆れた表情のミアがいた。

「一夏くん、私が体を張って犠牲になったことを全て無意味にしてくれたわね?」

「すいません……」

「覚えておきなさいな、初戦敗退したら一週間は扱き使ってあげるわ」

 一夏の顔が蒼ざめていき、シャルロットがほんの少しだけミアに同情する。このあと試合の結果は、ぎりぎりで一夏のチームが勝利した。

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