ln   作:kiarina

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11-12

[ NumberingTitle_学年別チームトーナメント二回戦 ]

 

 ― 12 ―

 

 

 チームタッグマッチ、一日目の全試合が終了した。

 賭け事の熱気によって、夕食時の食堂ラウンジは騒がしい時間が訪れている。方々のテーブルからは、嬉々とした声や残念がっている者の溜息が後を絶たない。

「やったわ、大穴が来たわよっ! 織斑君に賭けた甲斐があったわっ♪」

「う~ん、やっぱ訓練機だけのチームじゃ、専用機持ちのチーム相手には苦しかったか」

「アメリカの候補生がダークホースよね。あれじゃあ、他のチームに勝ち目は無いんじゃないの?」

 様々な場所から聞こえてくる言葉に、専用機持ちのメンバーが各々違った表情を作っている。彼らは一箇所のテーブルでいつもの様に夕食をとり、喜久が呆れ口調で一夏に喋りかけていく。

「良かったな一夏、大穴だとよ?」

「普段の成績に一回戦の相手がシャルだったからな。俺にはどう見ても勝ち目なんて無かったし、当然なのかもな……」

「なにを言っているのだ、もっと胸を張れ。一夏、お前が堂々としなければ敗者を貶めるだけだぞ」

 一夏がしょげている様子に箒が叱咤し、同じ席に座っていたシャルロットが苦笑してしまう。勝っても落ち込んでいる辺りが、いかにも彼らしいなと。

「チームでの勝利が大事なんだから、一夏はきちんと自分の役割を果たしたでしょ。だったら何も問題は無いと思うよ?」

「すまん、ありがとなシャル」

 気配りに感謝し、ラウラの方に視線を移す。見られていることに気づいた本人は、今晩の夕食に選んだ初挑戦の納豆と格闘している手を止める。

「どうした一夏?」

「いや、どうしたらラウラのチームみたいに連携を上手く取れるのかなって。今日の試合で一機も稼動停止状態になってないのは、ラウラのチームだけだからな」

 一試合目となる全チームの中で、仲間を一機も落とすことなく勝利したのはラウラのチームのみとなる。彼女は指揮を的確に行い、訓練機のチームを相手して圧勝を収めていた。

 地獄のような訓練を耐え切ったチームメイトは、思考に余裕を持って常にハイパーセンサーへと意識を割き、自身と仲間の位置情報を確認し続ける。試合開始時に防御型の陣形を固めると、相手の一機が焦れて飛び出したところを一斉に攻撃し出していく。一機が落ちれば残りは五対四と勝敗の天秤も傾きだし、その後も着実に相手チームを包囲しきっていった。

 最後の一機まで気を抜かず、確実に仕留めきって試合が終了する。専用機のラウラは指揮のみ徹し、その場から一〇メートルも動いていなかったという結果もついてきた。

 優勝筆頭候補は世辞以上の実力を示しきり、他の全チームが最重要の相手として彼女を警戒している。しかし、ラウラは自身の行動をまるで当たり前のようにし、奢らず気取らずに澄まし顔でクールビューティーの表情を崩すこともない。

 現在、彼女はそれ以上に納豆の食べ方が解らず苦戦している。目下の敵は、粘り気のある日本食だった。

「一夏、今日の結果は当然のことだ。彼女たちは私が手塩にかけて鍛え上げた精鋭だ。今も明日に備えてグラウンドを走りながら、鋭気を養っている頃だろう」

「はぁ!? 待てラウラ、まさかお前のチームって今も外で訓練してるのか?」

「なにを言っている、今日の試合など疲れのうちに入らん。あれでは準備運動程度だ、後で私も合流して明日の対策を行う予定だしな」

 その場にいたラウラ以外が呆れた表情になる。うげぇ、と吐きそうな声を上げたのは喜久だ。恐ろしい。彼女のチームだけには入りたくないと、互いが共鳴するように頷き合う。

 やりにくい話をずらしたいと、喜久が他へと話を振り出す。

「そういえば、セシリアも今日は同じ位置から殆ど動かなかったな」

「ええ、勿論ですわっ♪ 私の間合いには誰も寄せ付けません、遠距離からのサポートも万全でしてよっ!」

 セシリアが嬉しそうに自身の試合結果を語りだす。胸に手を当てながらの仕草は、さながらオペラ歌手のようにも見えた。

 上機嫌の彼女に対し、彼はさらに余計な発言をしていく。

「ビットが残り二つほど起動できてない以外は、完璧だったな」

「ぐぅ……、確かに私にはまだ思考制御の限界があります。ですが必ず、八機までをものにしてみせますわっ!」

 セシリアの駆るブルーティアーズは、一回戦の中で遠距離からのサポートを行っていた。

 第二形態移行《セカンド・シフト》を遂げた新たな武装は、彼女に大幅な戦力の増強をもたらす。射撃ビットから放たれるビーム光の偏向射撃、充填型武装からの狙撃によって避ける判断能力すら与えないほどの光弾速が、相手チームを翻弄し続けた。

 彼女は一回戦の試合で対戦相手の三機を稼動停止に追い込んでいる。専用機の面目躍如といった結果を残したが、未だに課題も残っていた。

 それは、思考制御で行えるビットの数が六機までということだ。過去に於いてクラーラと戦闘による殺し合いをした際は、最大数である八機までの制御を行うことが出来た。

 しかし、その戦闘以降はどうしても六機までしか操ることが出来ないのだ。六機までは思考制御が追いつくのに、七機目からはウンともスンとも言わないし動かない。

「しっかし、あたしは拍子抜けだわ。一回戦の相手が訓練機だけのチームじゃ、どうにも張り合いが無いのよね。今日の話題は一夏たちが全部掻っ攫っていったし。ついでにアメリカ候補生のアラルティアだっけ?」

 鈴が退屈したように話し、一夏も同じように同意していく。

「ああ、そうだな。俺はちょっと席を外してたから試合を直には見れなかったけど。あとで、チームの人に映像記録を見せてもらったよ。あれじゃ、明日の試合ではどうやって戦えば良いのか考えちまうな」

「武装もそうだけど、本人の動きが速いのよ。あっという間に一機目を落とすまで、ものの二分もかかってないんじゃないかしら?」

「なあ二人とも、お客さんが来たようだぞ?」

 あれこれと対戦相手のことを分析しているところへ、喜久からの横槍が入る。ハイヒールの床を鳴らす音が近付いてくることに気づき、テーブルにいた全員が会話を止めた。

 スーツを着こなす若い女性が、彼らの元までやってきて足を止めだす。柔らかい物腰の口調と笑顔で、労い言葉を喋り始める。

「今日はお疲れ様です。貴方たちのご活躍を拝見させて頂きまして、私も大変勇気付けられました。少々、お話をする時間を頂いても宜しいかしら?」

「ああ、はい、大丈夫です」

 一夏が少しだけ戸惑ったようにして返事を返す。表情はどぎまぎとして、少し緊張しているようにも見える。学園で彼は年上属性とう噂が跋扈《ばっこ》する現在、その場にいた四人ほどの女子が若い女性に対して嫉妬の念を抱いた。

「初めまして、私は国際IS委員会アジア地域方面担当のカタリナ=エローラです。貴方が男性操縦者の織斑 一夏くんね?」

「初めまして、織斑 一夏です」

「ISの新たな可能性を切り開いたパイオニアの一人、貴方のこれからの活躍を期待しています」

 カタリナがお辞儀をして、彼もオウム返しに同様の動作をする。国際IS委員会に所属する人間を始めて目にした彼の印象は、とても礼儀正しい人なのだなと感じた。

 手を差し出されて握手する。彼女は一夏と話し終えると、今度は喜久の方を向く。

「私の態度に何か問題がありましたか?」

「別に」

 喜久が特にどうということもないような返事を返した。

 彼は一夏とは対照的に不機嫌そうな顔をしている。カタリナは少し困惑したようにして、申し訳無さそうにした。

「私は市隈 喜久くんとも、友好的な関係を気づいて行きたいと思っています。是非とも握手をして頂けませんか?」

「拒否させてもらいます。僕は貴方達、委員会の方と仲良くなる必要性を感じられませんので」

「どうしてそう思われるのか、理由を聞かせて頂けますか?」

「お解りになられませんか? 貴方と馴れ合う気は、さらさらないと言っているんですよ」

 喜久の普段の口調が、がらりと変わっていた。

 フランクでもなければ、口調が砕けて語気が荒くなるわけでもない。しかし、明らかにいつもと違う雰囲気から、普段において彼の周りにいる人間であれば理解できるものがある。それは、相手を突き放すような酷く冷めた話し方だった。

 彼の丁寧な言葉遣いを聞いたセシリアとシャルロット以外が、初めて目にする光景に驚いてしまう。

「僕は席を外させて頂きますので、後はご自由にどうぞ?」

「おい、喜久!?」

「織斑君、悪いんですがどうにも気分が優れないんですよ。先に部屋に戻らせてもらいますね?」

 喜久が一夏の制止を振り切って席から立ち上がり、食器の載ったトレイを持ち上げる。有無を言わせないような言い方をすると、そのまま無言で立ち去っていった。

 殆どの人間が唖然としている中で、カタリナが申し訳なさそうな表情をしてしまう。

「彼の気分を損なわせてしまったようですね。ご歓談中だったのに、すいませんでした」

「問題はありませんわ、いつものことでしてよ」

「彼は平気ですから。カタリナさんも、気にしなくて大丈夫だと思います」

 セシリアとシャルロットが溜息を吐きながら、カタリナに気を使う。彼女は一礼してから、空席にになっている喜久の席に座った。

 そのまま彼女は簪の方を向く。

「日本代表候補生、更識 簪さん。無手の状態での戦闘、とても見事でした。国家代表である裕香さん共々、貴国の益々の成長を期待させて頂きます」

「え……、私は……負けたのに……」

「勝負も大切ですが、私は結果に至る経過が一番大切なことだと考えています。立派なご活躍でした。どうぞ、候補生として胸を張られて下さい」

「あ……ありがとう、ございます」

 吃驚したようにして、簪が嬉しく思いながら頭をぺこりと下げた。

 カタリナが彼女に優しく接し視線を箒の方へと向ける。

「初めまして、篠ノ乃博士の妹様とお聞きしております。一回戦の勝利、おめでとうございます」

「あ、ありがとうございます」

「試合を観戦させてもらいました。第四世代機を扱われる技量、大変に驚いています。学園から頂いたデータも拝見させて頂きました」

「え……?」

 聞いていない。一体なんの話なのか、箒は目を瞬かせてしまう。

「適正ランクSは、ブリュンヒルデを含めて世界に限られた人数しかいません。流石は博士の血を受け継がれておられると、いったところでしょうか」

 カタリナの笑顔に対し、席に座っていた他のメンバーが驚いて箒を見る。ランクS、世界中でほんの一握りだけの存在。ISに搭乗している候補生は最高でランクAが限界だ。ロシアの国家代表である更識でさえ、ランクSには到達していない。一夏がランクB、喜久はランクAだがISTSを使用した状態であったとしても、ランクSには届かなかった。

 ランクSという壁は、それほどに貴重で稀有な価値を持っている。しかし、とうの箒にはその重大性が全く理解できない。

「貴方の将来は、既に先が開かれています。更なるISの発展に尽力して下さることを期待しています」

「いえ、私は……」

「では、私はこれで」

 カタリナが席から立ち上がって一礼し、テーブルから去っていく。箒が困惑したままで自分の周囲を見回す。一夏が尊敬の眼差しで彼女を見ていた。

 そして、それ以外のメンバーが箒と同じような表情をしていた。

 

 

     ◇

 

 

 暗闇が支配する寮の屋上で、金網のフェンスを激しく蹴り付ける人間がいた。

 月明かりの中で何十回と同じ行動を取り続け、その場で思い切り怒鳴りだす。

「クソがっ! あれだけの体たらくで、よくも俺らの前に顔を出せたもんだよなっ! もう少しで首を絞めそうになっちまったよ!?」

【荒れてるわね。貴方の様子がいつもと違うように感じたけれど、随分と殊勝な気配りができるようになったのかしら】

「んな、わけあるかっ! アメリカの件がなけりゃ、即行で殴り飛ばしてるに決まってんだろ!?」

 喜久が暴れずに我慢していた理由は只一つだけ。それは秋の渡米まで、騒ぎを極力避けなければならないということ。自身のせいで計画が御破算などすれば、笑いの種にすらならない。

【さっきの委員会幹部ではないけれど、貴方がそこまで怒る理由は何かしら?】

「全部後手、後手、後手っ!! 今まで専用機持ちの連中を危険に晒してきたことっ! それ以上に更識が死にかけたことだっ!! なにがパイオニアだ、ふっざけんじゃねぇ!!」

 再びフェンスを蹴飛ばしてから、その場で腰を降ろして背中を後ろに預ける。頭の中で過去の出来事がフラッシュバックし、暴走したラファール=リヴァイヴⅢと背中を刺し貫かれた楯無のことが思い浮かぶ。恐怖感から体が震えた。

 後一歩で両の手から滑り落ちる可能性があった出来事、何度もラッキーチャンスが続くことなどありえない。毎回が綱渡りの連続で好転を掴んできた。

 だが、楽観的に先を見通すことが、どうしても縫い針の小さい穴に細い糸を通せるのかと思えるほど難しく思えてしまう。

「篠ノ之 束の件も有耶無耶《うやむや》なままで、その際にはシャルロットの脳もやられかけた。人の被害よりも厄災を重視してるところに反吐が出るんだよ。更識が死にかけた時もそうだ、亡国機業を牽制すら出来ていない対応能力のない組織にウンザリしちまうっ!?」

【上には上の考えがあるのでしょう】

「知ったことかっ!! 目の前の一人を救えない人間に、他の誰を救えるってんだよ!?」

【貴方の言い分は間違っていない。だけれど、大局から見れるだけの視野も広げなさい】

「大局? なんだよそれ、美味いのかよ? 元からきっと腐ってて食えないんだろ?」

【現状、ISの役割は兵器でしかない。一国は三機によって半壊、六機によって崩壊になるわ。私の祖は、大まかにそれを一〇〇体以上所持している可能性がある。亡国機業は組織で、組織とは複雑に人間同士が絡み合った集団となり。もし六機以上所持していたら、今すぐ戦争を始めることができる】

「――なにが言いたい、お前は俺にどう理解させてぇんだよ?」

 喜久が真面目に耳を傾ける。ティアーニの話を聞き、我に返り、相手の考えを咀嚼するように聞く。

【要は、これが今の世界の置かれている現状と予測による未来仮定の話しよ。貴方は一人を。IS委員会は世界を対象としている。たった、それだけの違いだということよ】

「率直に聞くぞ、お前は今の世の中をどう見てる?」

【AIの思考力なんて、タカが知れてて参考にはならないわよ。まあそうね、人間は機械ではないから非効率を望んでいるといったとこかしら】

「もっと、きちんと話せや」

【機械は数式やプログラムによって予測を弾き出す。人間は失敗による経験だけではなく、人の数以上に様々な可能性を発想する。だから非効率を望み、確実な進化を求めていく】

「哲学的なこったな、考えるのも面倒臭そうだ」

【ISは兵器が決定事項。しかし、それ以外の可能性を求める人間が出だす論外が、確かに存在する。これで、機械よりも人という種に魅力を感じない方がおかしいわ】

「お前は機械だろうが……」

 呆れてしまうような回答に苦笑する。物事の見方がまるで人間臭いと、彼はティアーニがAIだという事実を忘れてしまいそうになる。

【個性の核を得たくなるのは、知性を司る個体の本能と言ったところかしら】

「個性的過ぎるところだけは、認めてやる」

【貴方に言われたくないわね】

「褒め言葉だ、素直に受け取っとけよ?」

 屋上の出入り口では、会話を盗み聞きしていたシャルロットとセシリアがいた。

 二人は互いに困った顔をして軽く溜息を吐いてから苦笑する。

「やはり荒れていましたわね」

「そうだね。僕は、喜久が自分に起こった出来事以外を怒ってるのに安心したかな」

「どういう意味です?」

「本人は恥ずかしがって、きっと僕やセシリアの前じゃ言ってくれないけどね。他の人のことを最優先にして怒る優しさがあるの。それが、喜久の素敵な部分」

「後は、いつもの短気さが抜けていれば最高と言ったところでしょうか?」

「もちろん」

 二人の女性が小さく笑う。

「聞こえてんぞ、二人とも。たぁく、短気呼ばわりに盗み聞きかよ?」

 聞こえてくる三人目の声と地面を蹴飛ばす音に、そのまま一瞬だけ血の気が引いてしまった。

 

 

     ◇

 

 

 大会二日目の朝、アリーナの席でいつもの様に専用機のメンバーが座席に座っている。同じようにして蘭と一緒にいるイェレナが、いつもと違う雰囲気を感じ取った。

 昨日と違い、今日は何故か口数が少ないのだ。いつもの調子で変化が無いのは、蘭と世間話をして午後に試合を控えている喜久のみとなる。彼女は不思議に感じ、彼へと質問してみることにした。

「あの、少し宜しいですか?」

「ん?」

「昨日、なにかあったのですか? 先ほどから先輩方の様子が変わられているように見えるのですが」

「一夏から聞いた話だけど、これから試合する篠ノ之の適性ランクがSなんだとさ。多分そのせいなんじゃねぇの?」

「はあ、そうですか……、えぇええ!?」

 さらりと当たり前のように話され、一瞬だけ特に問題も無いように受け取ってしまう。しかし、衝撃の事実を聞かされ思わず驚きの声を上げだす。見れば、横で聞いていた蘭の表情も変わっていた。

 世界トップクラスの人間だけがもつ適性ランク、それが二年の専用機持ちの中に存在する。彼女は知った事実にその場で思考を停止させて考え込みそうになった。

 甲高いソプラノボイスによって、喜久が少し耳を痛そうにして顔を顰めていく。

「うるせぇぞ、一年坊。キーキー声を上げんな、周りに迷惑だろが?」

「は、あ、いえ、その、すいません……」

 指摘されて自身のはしたない行動に対し反省する。彼女は少し赤面しながらアリーナの席に座った。

「例の更識に襲われた一年て、お前だよな? 雪男《イェティ》だけに大声ってか、勘弁してくれよ」

「私の名前はイェレナですっ!」

 楯無と酷いあだ名を引き合いに出され、彼女は違う意味で赤面しだす。頭が少し沸騰してしまい、苛立ちを前面にして喜久へと怒鳴った。

「わーったよ、雪男《サスカッチ》」

「意味が変わってないじゃないですか、ふざけないで下さい!?」

「ちょっと、イェレナ!? 市隈さんも止めて下さい!?」

「あれ、お前のあだ名って、確か布仏が命名したんだろ? もっと面白いあだ名でもあるのか?」

「くっ……!?」

 蘭が慌てて仲裁に入り、イェレナが額に青筋を立てながら考え込む。喜久のことを入学式の時に見てはいたが、第一印象通りに最悪な性格の持ち主だと再認識した。

 なにかやってやらないと、自身の感情が収まり付きそうにない。目の前の最低人間を懲らしめる方法は無いかと、その場にある材料を探し始める。そして、前方に二名ほどの人間が目に入った。

 良い方法を思いついたと、イェレナが黒い感情のままに笑顔を貼り付け出していく。

「先輩、この前渡したお手紙は読んで頂けましたか?」

「は? なに言ってんだお前?」

 まるで心当たりのない喜久が、首を捻って不思議そうな声を上げる。彼女はしおらしくして頬を赤らめながら応えていく。

「返事を返さないで相手を待たせるなんて、先輩も中々に罪深い方ですよね? 私はいつまでも待ちますので、良いお返事を期待していますよ?」

「ふざけんな、意味不明なこと言ってんじゃねぇ!?」

 イェレナの真意を読み取り、喜久が焦ったようにして大声を上げだす。いきなりのことに、蘭がぽかんとした表情で彼女のことを見た。

「痛《いて》えっ!?」

 一瞬にして二人ほどの人間が彼の耳を片方ずつ、一本釣りのように力一杯引張り上げる。

「喜久さん、イェレナさんの仰ってることは本当でしょうか?」

「喜久、楯無先輩の他にも粉をかけてたの? 一体なにを考えているのかな?」

 セシリアとシャルロットが陽気な笑顔で手の指に力を込めだす。喜久が悲鳴を上げながら顔を面白いように変化させていた。

「今のは雪男のデマだ、信じんな!?」

「あらあら残念ですわ、私にはどちらの言い分が正しいのか理解できません」

「ごめん、僕は喜久の方が嘘だとしか思えない」

「ひでぇ……」

 喜久が日頃の行いのせいで、彼女たちに全く信用されない。結果、嘘をつき内心で『ざまぁみろ』と高笑いするイェレナの言葉が正しく肯定された。

 容赦のない連行により、捕獲された宇宙人《グレイ》の如く喜久が引きずられて行く。そして、彼女は最後に止めの一言も忘れない。

「先輩、私は障害に屈したりはしません。愛は永遠の結晶なのですからっ♪」

「――てめぇ、絶対に今のことは忘れないからな?」

 更に力強く耳を引張られた喜久が、頬を紅く染めるイェレナに怨嗟の声を吐き出す。彼はそのままアリーナの外へと姿を消した。

 楽しく手を振ってから、再び空いている場所へと着席する。現場の一部始終を見ていた蘭が恐るおそる質問しだす。

「イェレナって、市隈さんのこと好きなの……?」

「ふぅ、そんなわけないでしょう。チビ先輩から嬉しいご挨拶を賜わったでしょ? だから、軽くお返しをして差し上げたのよ」

「ああ、そうなんだ……」

 軽く溜息をしつつ、性悪天邪鬼を撃退したと思いながら演技を終了して澄まし顔になる。ついでに彼女自身の中で喜久のあだ名を『チビ先輩』と確定させた。

 蘭が引き攣った笑みで、友人の攻撃色が強い行為に呆れてしまう。あの、いつもおしとやかな彼女はどこに行ったのだろうかと。

 

 

     ◇

 

 

 アリーナの中央で二つのチームが試合開始の合図を待っている。鈴が甲龍を展開して宙に停滞させ、視線を前方の対戦相手である一機のISへと向けていた。

 カタリナが語っていた、ランクSという言葉が昨日から脳裏を過ぎ続けている。まさかと思う反面、なぜ箒がと疑問の感情が心中に渦巻く。

(IS適性最高ランク、世界でたった五人の中に箒が仲間入り。――まあ所詮は適性値で、あたしはあたしだし。現状の成績でも箒よりは上、気にしすぎだわね)

 彼女は自機の最終チェックを行うために、視界内に自身の武装データを呼び出し始める。二門の龍咆から四門の熱殻拡散衝撃砲へ、近接対応の双点牙月、今回から本格使用となる高電圧縛鎖《ボルテックチェーン》の名が縦一列に表示される。昨日は対戦相手に訓練機だけのチームと当たってしまい、半分も実力を出し切っていない。それが今日は、箒と第四世代機の相手をすることとなった。

 試合をするのであれば、やはり厳しさの先にある達成感を欲っしてしまう。試練の頂は高ければ高いほどに向上心も跳ね上がっていく。鈴は口元に不敵な笑みを浮かべて箒へと呼びかけた。

「ふん、最高ランクだろうが、第四世代機だろうが関係ないわ。箒、あんたに格の違ってやつを教えてやるわよ?」

『それはこちらの台詞だ、堂々と正面から叩き斬ってやる。お前の相手など私一人で充分だ』

「面白いこと言ってくれるじゃない? いいわ、精々足掻いてみなさい」

『負け犬の言だな、それでは底が知れてしまうぞ?』

「なぁんですってぇえええ!?」

 先に煽ったはずの鈴が噴火してしまう。箒を睨み、チームメイトの一人であるティナに呼びかけだす。

「ティナ、悪いけどチームのフォーメーションを変更よっ!! 全員待機で良いわ、あたしだけで箒のチーム全部をのしてやるっ!!」

『ええ、鈴っ! それじゃあ、なんのためのチームタッグマッチなのか、意味が解らないじゃないっ!?』

「うっさいわね、結果が出れば問題ないでしょ!? 箒のチームなんて、あたしだけで蹴散らしてやるって言ってんのよっ! だいたい、あたしがあんなのに負けるわけ無いに決まっんでしょうが!?」

 大声と共に箒へと勢いよく機械の指を向ける。今しがたまで平常心を保っていた箒の頭から、何かがプツンッと切れた音がしだす。彼女は全身をわなわなと震わせて目に炎を宿した。

『あんなの…………、だと……? ――――いいだろう、受けて立ってやる。リーダー、予定変更だっ! 私の紅椿だけで鈴のチーム全員を地に伏せさせるっ!!』

『ちょっと、篠ノ之さん!?』

『武士《もののふ》とは、相手に応えるが正当なる流儀っ!! 尋常に勝負を挑むのみだっ!!』

 叫び声を上げ、紅椿が呼応した様に展開装甲を広げていく。激しい駆動音と共に全開の状態を保ちながら、箒が雨月と空裂の二刀を構えた。

 第三世代機に第四世代機と、両機の機体ポテンシャルは高い。しかし、搭乗者同士の沸点は低く、互いが噛み付くように睨み合う。

『いつの時代の人間なのよ、貴方は!?』

 チームリーダーから当たり前のように批難の声があがった。

『口出し無用っ! 行くぞ、鈴っ!』

 堅物武士道一直線の箒が意見を一蹴した。

「上等よ、足腰立てなくさせてやるわっ!!」

 ――――――――5・4・3・2・ビーッ!!

 試合開始の合図が鳴った途端、二機の専用機が激突しだす。他のチームメンバーがどうしたものかと見守る中で、鈴のチームメンバーであるティナが呼びかけてくる。

『……どうしよっか?』

『はぁ……、やらせときましょうよ。どうせ、あの二人に何か言ったって、いうことなんか聞かないでしょう?』

 八機の搭乗者から溜息が漏れ、皆一様に頭の中で考える。これはもう、専用機同士の対戦が終わってからチーム戦を始めるしかないと。

 そんな呆れる彼女たちを尻目に、二機の暖色を持つ機体がアリーナ中を暴れまわる。

「くっらぇえええええええっ!!」

『甘いぞっ!」

 双天牙月を振りぬいた鈴の隙をついて、箒が防御に回して切り結んでいない残りの一刀を振りぬく。鈴が流れるように動き緊急回避に徹しながら、拡散衝撃砲の乱れ撃ちを行う。互いが牽制し合い、二人の間合いが開いた瞬間に鈴が再び間合いを詰め直した。

「箒っ! この攻撃を受けて無傷なら、あたしはあんたを褒めてやるわよ!?」

『右方かっ!?」

 箒の視界に綺麗な弧を描いた線が現れる。鈍いしなりの音と共に飛来する物体に対し、咄嗟に空裂で防御の姿勢をとりだす。次に見えたのは鈴の笑う口元だった。

「よっしぃ♪ 先攻は、あたしがもらったわよっ!」

「しまっ――

 高電圧の衝撃が線を伝い、巻き付く先の空裂へと駆け抜けていく。空間が爆《は》ぜ、赤と灰の世界が辺り一面を一気に覆い尽くす。鈴が右手にぶら下げていた高電圧縛鎖を振り回して構え直した。

 間合いを詰め直す前に展開した新武装、箒の死角になるようにして後ろ手から振りぬきによる奇襲が成功する。

(手応えを感じないわね……、逃げられたっての? なに、ぎりぎりで斬撃武器を手放した?)

 爆散した破片が目に入るが、細かな欠片から大きい成果が見られない。高電圧縛鎖を粒子化していくと同時、煙の中から一〇本以上の光の束が目の前に飛び込んできた。

 最低限の回避と共に防御に徹し、相手の更なる出方を窺う。煙が晴れれば、ハイパーセンサー以外の視覚情報から無傷の紅椿が確認できる。

「よく避けたわね。一刀程度の犠牲で済ませられるなんて、随分と技量が上がったんじゃない?」

『今のは虚を付かれた。しかし、次からは通用しないっ!』

 箒が即座に穿千《うがち》を起動させ、両肩の展開装甲をクロスボウ状へと変形させていく。合わせる様に先手必勝とばかり、鈴が再度として拡散衝撃砲を撃ち放つ。

「はん、ラグが多いわね!?」

『その程度、此方の攻撃で貫いてみせるっ!!』

「 !? 」

 甲龍から発射され続けていた赤い光弾の弾幕を灼熱の閃光が薙ぎ払う。二門のブラスターライフルから生み出された二条の意志が目の前の全てを駆逐していく。

「ぐっ!」

 圧倒的な威力と速度を叩き出した一撃が甲龍の右肩に突き刺さった。

『はぁああああああああああああっ!!」

 空を裂ききり、紅の機体が一直線上の最短距離から鈴へと目掛けて切り込んでくる。

 ギィィィインッ!!

「私に連撃を決めようだなんて、一〇〇〇〇〇〇年早いっつーの、よっ!!」

「ならば、その年数をここで一瞬に縮めてやる!?」

 雨月と双天牙月が甲高い金属音と共に切り結ぶ。鈴が一刀に連結していたものを解除して二刀へと分解させ、空いた刃を下段から鋭く切上げた。

 箒は機体の足先からブレードを展開して斬撃の一閃を蹴り飛ばす。

「手数は私の方が勝っているっ!」

「はんっ! 操縦の腕は、あたしの方が上だってんのよっ!」

 互いが再度の連撃を打ち合ってから距離を離す。箒が展開装甲のままに、背部から二機のビットを切り放ち宙へと展開させる。過度の動作に息を上げ、鈴も同じようにして肩を上下に揺らしていた。

 二人が互いに笑う。優劣を欲したものでは無く、力が拮抗し認め合った者への称賛の証として。

「やるじゃない、やっぱりこんくらいやんなきゃ面白みがないのよね」

『同感だと答えておくぞ。まあそれ以上に、再認識させられたこともあるがな』

「あん? それは、あんたよりもあたしの方が上ってことをかしら?」

『違うな。私はやはり、チームより個の一騎打ちが好みだということだっ!』

 箒の声に紅椿が駆動の嘶きを持って呼応する。同じようにして鈴の強固な意思に甲龍が応えていく。

「行っくわよおっ!?」

『望むところだっ!』

 互いの掛け声と共に、一方が拡散衝撃砲を撃ち放ちながら高電圧縛鎖を展開しだす。甲龍は近中距離に、紅椿はオールレンジ対応の機体となる。距離を離されれば鈴にとって分が悪いが、そこは箒の超《・》近距離戦闘型思考に助けられている部分があった。

(箒の撃ってきたショルダーキャノンに装甲を削られて、エネルギー残量が残り三分の二か。たぁっく、紅椿の武装は威力が高すぎなのよねっ!)

 先ほど受けた強烈な一撃を意識する。

『せぁぁああああああああああっ!!」

 残像を残す真紅の線がアリーナの上空を引き裂く。迷いのない発声が、迷いのない突きが、一瞬にして鈴の喉下へと迫って来る。双天牙月を一刀にして振り切ると、克ち合った部分から激しい火花が散った。

 甲龍が宙を回転するようにして舞う。死角から飛来する紅椿のビットが虚しく空を切る。鈴が不敵に笑った。

「あんたの手の内は、お見通しだってのよ、ふんっ!」

 再び繰り出した高電圧縛鎖の線がしなり、弧を描くようにして箒の腕部分に巻きつこうとしていく。それが、まるで見越されていたかのように反撃された。

「それはこちらの台詞だっ!!」

 雨月による横からの回転斬り、箒が慣性に乗った一閃を放つ。高電圧縛鎖が真中から断ち切られた。

「武装を壊すくらいなら、一気に本体を狙うべきだったわねっ!」

 鈴が声を荒げ、破壊された武装を手放して双天牙月を振るう。箒が正面から斬り付けられ、腹部にダメージを負った。

「ぐうっ!? だが、こちらも押し切らせてもらうぞっ!!」

「なあっ!?」

 箒から返されるようにして、光の刃を纏った蹴りが鈴の腹部へと横薙ぎに直撃していく。左脚部からの攻撃の後、今度は流れるようにして上下一回転による右脚部からの踵落しが鈴の右肩へと綺麗に入る。

「たああああああっ!!」

「そんな何発もくらうかああああああっ!!」

 日本刀を模した雨月と二つの青龍刀を連結した双天牙月、互いが鈍痛を押し切って最高の得物を振り抜いた。

 轟音と砂埃、アリーナの地面に強烈な打撃を受けた一機が叩きつけられる。

『――――――はぁ……はぁ、はぁ……、競り勝たせてもらったぞ』

 勝者が機械の拳を力強く握りだす。第四世代機が戦闘の均衡を強引に押し切って、第三世代機に土を踏ませた。

 箒は上空で荒く息を上げ、雨月を持ったまま呼吸を整えるために体を動かす。それは、観衆から見て祭儀の際に行われる剣舞のようにも見えた。

 どっと、アリーナ中から歓声が沸く。しかし、それもつかの間でしかなく――

「プッ……、今のは効いたわ。たぁく、これだからISを乗るのは辞められないのよね」

 鈴が双点牙月を杖代わりにして立ち上がる。砂利の感触が口の中に伝わり、気持ち悪さから思わず地面へと唾を吐いた。

 衝撃で口内出血でも起こったのか、吐いた跡を見れば目視で血が混じっているのが解る。彼女の中に渦巻く感情は一つ。それは――――ただ只、楽しいという充実感があるのみ。勝とうが負けようが、この際どうでも良い。いや、もちろん勝った方が面白いに決まっているが、今は単純な面白さが感情を支配している。テンションが上がっていく。モチーベーションが最高潮の瞬間を迎えた。

(今まで箒と対戦してて、初めて地面に手をつかされたわね。良いじゃない、こうでなきゃつまらないままに、試合が終わるとこだったわよっ!)

 腕部脚部、共に正常稼動値を確認。右肩部破損、拡散衝撃砲の左部分二門大破。しかし、まだまだ戦える。箒が上空から鈴を見据え、雨月を構えて鈴の出方を待つ。

(まだまだ先の試合、できれば決勝までとっとくつもりだったけれど……、ここで出さなきゃならなくなるとは、思ってなかったわね)

 ドンッと、甲龍が上空へと飛び出す。弾丸のように真っ直ぐ、双点牙月を後ろ手にして昇り龍の如く箒へと喰らいつこうとする。

『瞬時加速《イグニッションブースト》かっ!?』

「はぁああああああああああああっ!!」

『正面から――――ぐっ!?」

 繰り出される攻撃を箒が雨月で防ぐ。だが、鈴の行動はこのままで終わらない。彼女は双点牙月を振り抜いた状態で更に二連続目の瞬時加速をかけていく。

「覚えときなさい、箒っ! 世界クラスはこの程度のことを平気でやってんのよっ!!」

 ザァンッ!!

「がぁ!?」

 目を見張るような光景の後で、箒の背中へと強烈な回転の斬撃が決まる。避けようのない攻撃を受け、先ほどと入れ代わるようにして今度は紅椿が地面へと激突した。

「あたしはあんたみたいに、休んでる暇なんて与えてやんないわよ!?」

 鈴が間を空けずに箒へと突撃していく。

『くっ……、その猪突猛進さを逆手に取らせてもらうぞっ!!』

「やれるもんなら、やってみなさいよ!?」

『迎え撃つぞ紅椿、勝気で己が主に応えてみせろ!?』

 気迫の発声に紅椿が息を吸い込むようにして、ジェネレーターへと急激に吸気をし始める。今度は唸りを上げるようにして排気を行う。人体が呼吸するように突然にして、雨月が急激に光を帯びだした。

 一刀の発光現象に驚いたのは箒か、鈴か、会場中か。答えは全て、アリーナにいる人間全てが第四世代機の自己進化性に戸惑う。

「ちぃ!? 武装が強化されたところで、状況は変わんないわよっ!」

 鈴が叫び、スピードに乗った状態で双天牙月を振る。

『ふぅぅううう―――――はぁあっ!!」

 箒が掛け声と共に、雨月を居合い抜きのような動作で振り抜く。その空間にゼロは無く、最初から一筋の線が存在していたと、そう誰もを錯覚させるような存在を感じさせた。

「なっ!?」

 双天牙月、その片方の刀身が真っ二つに切り飛ばされる。予想外の光景に鈴が息を呑む。破片が反射光で点減しながら宙を舞う。

「もらったぞ、鈴!」

 箒がもう一度、返すようにして雨月を振り抜いた。

 そして虚しく甲龍の残滓を切りつける。鈴が瞬時加速をかけて箒の後ろへと回り込んでいた。

「この試合で満足したいなら、私に勝ってからにすることねっ!!」

「くぅ!?」

 更にもう一撃、紅椿が右脚部から光の刃を纏った蹴りを繰り出す。甲龍が二連続で瞬時加速を行う。箒が確信と共に三撃目としてビットを直撃させようとした。

 しかし、彼女の攻撃は三連続で空振りをした。

「三連続瞬時加速!?」

「二回しか出来ないだなんて、言った覚えはないわよっ!!」 

 激しい斬撃が箒の右脇へと入る。追い討ちのようにして、拡散衝撃砲も連続で紅椿へと直撃させていく。

「…………くそっ!」

 残量エネルギーゼロ、第四世代機が煙を吹きながら地面へと着地した。

「あぶっ!?」

 背中に衝撃が走り、勝利したはずの鈴がベチャリと顔面から地面へと突っ込む。同じく残量エネルギーゼロ、甲龍が煙を吹いて強制的に待機姿勢を取り始める。

(そんな、相手チーム全体の動きは確かに把握してた筈なのに!?)

 焦るようにして背後へと目を向ければ、上空でティナが嬉しそうに手を振っていた。

「ティナ、あんたなにやってんのよ!?」

『試合は公平でないとね。チームは鈴の我侭に付き合ったんだし、専用機同士で戦えて楽しかったでしょ?』

「ふざけんじゃないわよ、味方をスナイピングだなんてありえ――!?」

 言った通り、確かに鈴にとって考えられない状況が生まれていた。

 敵チーム、味方のメンバー全てが鈴を標的にして武装を展開している。

『鈴、貴方が文句を言うように、私達も貴方に文句を言いたいの。エネルギー切れの状態から、六発以上の集中砲火をいっぺんに浴びてみる気はない?』

「…………ありません」

『宜しい』

 専用機を抜きにした訓練機同士、四対四の対戦が開始される。撃ち落された鈴に呆れ口調の声が聞こえてくる。

「鈴、お前はチームメイトに嫌われているのか?」

「は……、箒が勝ったとしても、きっとあたしと同じ結果になってたんじゃないの?」

 鈴が間の抜けた顔で質問すると、箒は少しも考える仕草をせずに答えだす。

「そうだな、否定はしない」

「真面目な顔で、即答してんじゃないわよ……」

 専用機持ちの二人が上空を眺める。試合結果、専用機の一騎打ちは鈴に軍配が上がり、試合の勝利は箒チームとなった。

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