ln   作:kiarina

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11-13

[ NumberingTitle_学年別チームトーナメント三回戦 ]

 

 ― 13 ―

 

 目の前に迫って来る光、裁きの鉄槌とも呼べるような一撃を受けた。

 そう、表現できてしまうような神々しさを感じてしまう。アラルティアは呆然としながら更衣室のベンチに座っていた。

 勝つことが当然であるはずの試合で敗北し、眼は抜け殻のようになっている。

 ――しかし、終わった。

 余計なものが一つ終わったのだと、彼女は意識を切り替えていく。欲しいのは喜久の死だ、姉の仇を討つ。彼女の瞳に暗い光が宿りだす。

 今頃、本国《アメリカ》の方では今回の負け試合が問題になっている頃だろう。帰国すれば、代表候補生の枠を剥奪される可能性もある。今やISは、一国の軍事力の象徴的な部分も擁していた。

 それだけに軍事へと一番に趣を置く国で、一つでも汚点を存在させてしまうこと自体が許容される筈もない。

(フフッ……、良いじゃない別に。殺人を犯せば、どうせそこから先は一生を牢獄の中。ましてや、ISで人を殺すんですもの。私が消えない罪を負うのと引き換えに必ず仕留めきる。その後の事なんて、もう知らないわ…………」

 いつの間にか声に出ていることも気づかない。ロッカーの扉に設置してある鏡によって自身の顔が見える。なにもかも捨てられない、苦悩する人間の像が映り込んでいた。

 

     ◇

 

 夕食時間の現在、茶室では二人の人間が正座をしている。ポニーテールとツインテールの女子二人、痺れつづける足で真耶に睨まれ続けていた。

「解っているんですか、篠ノ之さん、凰さんっ!! 貴方たちのやったことは、この試合競技の意義を逸脱した行為ですっ! 二年生にもなって、いったい一年間なにを学んできたんですか!?」

「……反省しています」

「……もうしません」

「嘘ですっ! 貴方たちはそうやって、いつも問題を起すんです!?」

 口から火を吐かん勢いで吼える。彼女は初担任という重責、二人の問題児を抱えていたキャパシティが限界を迎えていた。

 そこに今回の専用機持ち同士の一騎打ち。通常の試合を視察にきていた、各国エージェントの呆れた顔を思い出す。この学園の教育を指摘されるのではと、真っ青な顔で肝が冷え切った。

 隠れ問題児があと二名もいたことに、もう落ち込まずにはいられない。きっと、近々にでも胃に穴が空いて入院だ。過酷なのは大量の業務書類整理ではない、問題児の多さが胃液を逆流させてくる。

 鈴は苦笑い、箒は溜息をついて考えていた。

 まずい、思ったよりも山田先生が立派に先生をやっていると。

(もう一時間以上だ、これ以上は姿勢を維持できる自信がない……)

(く~っ! これじゃ、いつもバカやってる一夏のバカと、喜久のバカと状態が一緒じゃないっ!?)

 二人は心の底で全く反省していない、嵐が過ぎ去るのをじっと耐えている。なぜなら、彼女たちは今日の試合から満足感を得ていたからだ。互いが全力を出し合った良い試合だった、ルールに関しては次の試合から守ればいいと考えていた。

「ふ~ん、あの子以外にも捻くれてるのが揃ってるじゃない?」

「裕香っ! 貴方も嬉しそうな顔で喋るのは、辞めて下さいっ! 今の彼女たちに必要なのは叱咤ですっ!」

「叱咤ねぇ。じゃあ真耶、二人に謹慎処分でも下すのかしら?」

 言われて真耶が考え込む。真剣な表情からは、どうも本気で検討し始めているらしいことが解った。

 謹慎処分、そんな言葉を耳にして恐怖しだしたのは鈴だ。彼女は自分の担当官からくらう、更に恐ろしい説教を想像してまう。

「もう、山田先生にご迷惑をかけるようなことはしませんっ! 約束します、だから謹慎処分だけはっ!?」

 余りの慌てぶりに、横で聞いていた箒が驚く。なにがそこまで彼女を必死にさせるのか全く理解出来ない。

 裕香がニヤリと笑う。すごく意地の悪い顔に、女子二人は誰かの顔を思い出す。

「じゃあ、相応の厳罰を用意しましょうっ♪ はい二人とも、これを見てちょうだいね?」

 真耶は、裕香が二人に手渡したプリントを見て理解した。

 確かにこれなら鈴と箒にとっては、かなりの罰に匹敵するだろうと。本当はもっと後で確認してもらい、なんとか怒れる二人を説得して宥めることになると考えていたのだが。

 なるほど、裕香は喜久よりも二倍ほど底意地が悪いようだ。次の瞬間、金切り声の悲鳴が上がりだす。

「ちょっと、なんで海外研修で喜久があたしと同じ部屋なのよっ!? 横暴よ、ふざけんじゃないわよ、なんなのこれっ!?」

「男子が女子と同じ部屋だなどと、先生は正気なのですかっ!! 私は認めません、職権乱用ですっ!!」

 箒と鈴が裕香に食って掛かる。しかし、彼女は余裕の表情で全く気にしない。

「はいはいシャーラップ、お黙りなさい。お咎め無しじゃ、他の生徒に示しがつかないでしょう? それに残念でした、もう最終決定稿だから変更はきかないわよっ★」

「それじゃ、今日よりも前にこの部屋割りが決定してたってことになるじゃないっ! 今からでも変更してもらうわよっ!?」

「お断りしますっ! あんな変態天邪鬼と寝泊りするくらいなら、野宿の方が一〇〇倍マシですっ!!」

「もう一つ残念なお知らせよ、これ決めたの私じゃないのっ♪」

「ひぃ!?」

 次の瞬間、噛み付くような勢いで四つの光る目が真耶の方へと向けられる。さっきまでの怒り顔はどこえやら、彼女が短い悲鳴をあげたす。

 流石に遊びすぎたと思った裕香が、二人に止めの落雷を落とした。

「篠ノ之 箒さん、凰 鈴音さん。決めたのは千冬先輩よ、良かったわね~?」

 意気消沈した女子二人、虚しい抵抗を悟って畳に膝を突いた。

 裕香が嬉しそうに鈴の肩を叩く。

「凰 鈴音、中国代表候補生。説教中に敬語を忘れていたわね? 今回のことは貴方の担当官にしっかりと伝えておくわ。精々、搾られなさい?」

 悪魔だ、悪魔がいる。鈴が瀬名川 裕香という人物を理解した。

 自国の代表を思い出す。あちらも癖が強いが、こっちの方が性質が悪いと感じた。

 

     ◇

 

 就寝の時間、暗闇の中で眠れずに目を開ききっている。全くの予想外だと、喜久がベッドで寝転びながら内心で舌打ちした。

 次戦ではアメリカの代表候補生と当たると思っていたのだが、勝利したのは一夏のチームだった。

 明日の三回戦では一夏と対戦する――――二発のみ、白式が放つ零落白夜からの風雪によるたったの二発だけだ。それだけで、専用機の一機が稼動停止状態に追い込まれた。

(あの威力は桁が違う、一撃をくらわない方法は……、やっぱり回避だけに徹するしかないな)

 楯無の条件を思い出し、再度内心で舌打ちする。

 そして喜久と同じように眠れないもう一人、同居人が声をかけてくる。

「起きてるか、喜久?」

「あん?」

「ISって……、なんだろうな?」

 一夏の呆けたような声が聞こえ、彼自身が心ここに在らずといった表情をしていた。

 なんとも気楽な疑問だなと、同じように楽になりたいと考えてしまう。今まで張り詰めていた意識が散霧していく。ISと聞かれれば、いつも通りの答えしかだせない自身がいる。

「大量破壊兵器」

 間髪いれずに返答し、一夏が面食らったようして上半身を起こす。確かにISは兵器だが、今だけ違う概念として一緒に考えて欲しいと思考していく。

「いや、そういうんじゃなくてさ……。なんかこう、表現しにくいんだけどな。喜久から見て、ISは生きてるって感じることはないか?」

「所詮は人工知能の塊だろ、ちょっと的を外せばティアーニが良い例だ。本当に中身を知りたきゃ、ここにいないクソ野郎にでも聞くこったな」

「クソ野郎って……、いったい誰だよ?」

 指示す人物名がぼかされ、一夏が戸惑ってしまう。

「篠ノ之の姉だ、それ以外ねぇよ。だいたい、一夏はなんでそう思うんだよ?」

「会ったことがあるんだ、去年の臨海学校で意識を失った時にさ。夢みたいな場所だったけどな、女性と女の子が立ってた」

「はあ? はぁ……、うーん――――まあ、一笑しちまうこと自体も間違いだわな。クローニングに高度人工知能、ましてやISの存在なんて、ほんの数十年前の人間にはSF小説の中だけの世界だったし」

 真っ黒な俺の存在自体もなと、喜久が心の中で付け足した。

「そうだな。俺と喜久がISに乗ってることだって、今の現実を覆すような出来事だしな」

 二人して思考する。互いに違う価値観はあれど、彼らは境遇が似通っていた。

 ISを起動させられる男性操縦者にして同年齢、果てしなく広い世界の中で同じ場所を選び共同生活を営んでいる。喜久が首を回しながら欠伸をしだす。

「一夏、話を戻すぞ? それで、どうしてその幽霊みたいのが気になったんだ?」

「試合中で倒されそうになった時に、声が聞こえたんだ。力が欲しいかってさ。望んだらデリートされたはずのシステムが復活して、理由は解らんが零落白夜が使えるようになった」

「なんだよ、そのまま使えなきゃいいのに。大体、ワンオフが使用できなかったのかよ……? 出鱈目だな、この反則野郎が」

「俺じゃないぞ、白式が凄まじいんだよ。それから、チートは間違いなくお前の方だ」

 認め合うというよりは、互いのポテンシャルが卑怯だと文句を言い合う。一頻り発展性のない会話が続き、一段楽したところで一夏が他の話題を振った。

「なあ、喜久。お前、最近は大丈夫か?」

「なにが?」

 特に気にしないような声で返されるが、一夏は余計に不信感が募る。

「最近、お前の顔が険しい気がするんだけど?」

「なにもねぇよ、単なる見間違いだろ?」

「――わかった。前から言ってるけどな、なにかあったら頼ってくれ。お前は一人じゃないし、俺で力になれることがあったら協力するからな?」

「ああ、そのときが来たら頼むわ。もう寝るよ、お疲れさん」

 喜久が上掛けを顔まで覆って潜り込む。同じようにして、一夏も瞼をゆっくりと閉じた。

 

     ◇

 

 快晴が続く三日目、学年別チームトーナメントも三回戦となる。ここまでに四チームが試合を勝利し続けている。男性操縦者である織斑 一夏と市隈 喜久、第四世代機を駆る篠ノ之 箒、優勝筆頭候補のラウラ=ボーデヴィッヒ。アリーナの画面には各チームリーダーの顔が映り込んでいた。

 来賓者席では、各国エージェントや世界企業の人間が試合の様子を観覧している。その中にはIS国際委員会幹部、カタリナ=エローラの姿もあった。

 彼女はその場の人間と同じようにして席に座り、隣の人物へと声をかける。

「御社長自ら、ご視察とは。やはり、トライアル試験に向けてのものですか?」

「ご想像にお任せする。IS委員会は鈍重で、血税の金食い虫ばかりだと思っていたが?」

 鼻で笑う行為、話し相手は小馬鹿にしたような態度を隠そうともしない。

 行動をしない役人が、オフィスで椅子に贅肉の体を窮屈そうに押し込んでいる。そんな例えにカタリナは澄まし顔で返す。

「出来れば、そうなりたいものです。こちらはデュノア社ほどの緩慢体質になれるような予算を組むには、些かシビアな環境ですから」

「……ふん、ここのところ忙しいようだが。最近、なにかと騒がしい出来事が多いそうじゃないか?」

「いえいえ、先進首脳一〇ヶ国の第三世代機開発も安定してきました。至って順調ですね」

 ヴァレール=デュノアが足を組みながら、眉間に皺を寄せる。皮肉の応酬が続き、自社の第三世代機であるラファール=リヴァイヴⅢに関して指摘をされると、苛立ちを表にだす。

「減らず口の多い娘だ。しかし、委員会の幹部自らが顔を見せるとはな。なんだ、デスクワーク以外も出来るのか?」

「はい。私自身は、そのように自負しております。娘様のご活躍は見られましたか?」

「ああ、この国の第三世代機に落とされたところを確認した。無様な上に結果も碌にだせない、いい恥さらしだ」

 酷く機嫌の悪そうな声を出し、自身の娘を否定していく。カタリナが眉を顰めるようにして言葉を続ける。 

「お忙しい中で、せっかくの機会ですが。娘様に、お会いにはなられましたか?」

「なぜ会う必要性がある?」

「親子だからでは?」

「ジョークに切れも面白みもないな。君は、私が家庭というものを重視すると思うか?」

 一言で表現すれば、冷め切っている。突き放すような言い方だけが返って来た。

 カタリナが特に表情を変えず、ヴァレールの人格を認識していく。

「いいえ、全く思えません」

「理解が早いのは優秀な証拠だ。それにしても驚異的なのはアジア圏だな、ここは優遇されすぎているのではないか?」

「日本はIS発祥地でありますから。今の状況は、当然かと思われますが?」

「それでもだ。操縦者や新世代機の配置等については、是非とも考慮してもらいたいものだな?」

「意見に関しましては、委員会の方へ直接お願い致します。これでも、分は弁えているつもりですので」

「ああ、勿論そうさせてもらうとしよう。そろそろ試合も開始されるようだ、退屈な会話も終わりにさせてもらうとしようか?」

 ヴァレールが顎を上げて示す。シールドバリアーで覆われた特殊加工ガラス越しに一〇機のISが見える。白の機体は巨大な剣を両手に持ち、相対した黒の機体が両肩の辺りで二機のビットを浮遊させていた。

 風雪を構えている一夏にミアが近付いていく。

『一夏くん」

「どうしたミア?」

「一つ言っておくわ。今回は作戦抜きよ、全力で好きなようにやって頂戴な?」

「ああ、わかった」

 前方で停滞しているブラックペタルのマスク、四つあるレンズアイが青白く光る。それが、昆虫類のような無機質感のある視線に感じてしまう。

 ミアが続けて申し訳なさそうな顔をした。

「私としては、お恥ずかしい限りだけれど。奴のチームに限っては、良い案が浮かばなかったわ」

「毎回、あいつ自身が裏を掻こうとするタイプだし。チームがここまで来れたのもミアの指示があってこそだ。ありがとうな、ミア」

「せめてもよ、一夏くんが戦い易いように、相手チームの動きだけは抑え込んでおくわ」

「そうしてくれると助かる」

 ――――5

 カウントダウンの秒読みが開始されていく。

 ――4

 相手側の出方を考える。核となる機体がなにを目標に動いてくるのかを。そして自身ならば、試合展開を優位に進めれる場所はどこかと。

 ――3――

 ブラックペタルに勝っている部分があるとすれば、――それは一極集中した状態のパワー開放による攻撃方法だ。最大の持ち味であるスピードは、イーブン止まりが良いところでしかない。

 2――

 今のエネルギーパラメーターは満タンの状態で、白式の場合は手数が残量値よって制限されていく。

 1――――

 結論、短期決戦で攻めきれば勝てるかもしれない。

 ビィーッ!!

 ブザー音が鳴り響いた瞬間、一夏が零落白夜を発動しだす。風雪の刀身が光を帯びて急激に膨張していく。

「はぁ、ああああああああああああああっ!!」

 初手から全開放、瞬時加速と共に剣先を前へと突き出す。

『市――

 叫ぼうとした香へ、余りある暴威の塊が迫りきっていた。

 彼女の前に張られたペタルが巻き込まれるようにして刺し貫かれていく。

「がぁ!?』

 寸前で両腕をクロスして防御に徹したが、それもあっけなく突破された。

 緑色の装甲が弾け飛び、衝撃に耐え切れず胴体ごと仰け反ってしまう。破壊の権化のような一撃が、切り返しの二撃目を放つ。一夏が真横からの一閃で一機目を落とそうとする。

「これでっ――!?」

 途端、振りの軸となる両腕が丸ごと何かに激突して堰きとめられだす。目の前で角度のついたペタルの面が、青紫に発光していた。

「一夏、お前の相手は俺だ」

 側面からの声と共に、鋭角に回転したペタルの突きが繰り出されてくる。即座に零落白夜を停止、高速切替した雪片弐型で防御しきった。

「初っ端から、随分と威勢が良いじゃねぇか?」

 切り結んだ箇所から眩い発光が拡散され続ける。

「ああ、そうさ。これが、俺の考えた最上の策だっ!」

「だったら、そのままエネルギー切れで潰れてけ」

「 !? 」

 浮遊していた二機のビットが一夏目掛けて突き刺さろうとする。

『一夏くん、離れなさいっ!!』

 ミアの声と共に、放たれてきたレーザーがビットの一機を撃ち抜く。

 ガッ

「ぐっ!?」

『逃すかよ」

 正面を向いたまま回避に徹っしたが、背中がペタルの壁に阻まれて激突する。淡々とした声が聞こえ、喜久が緑色に発光する片腕を突き出してきた。

 咄嗟に雪羅のモードをバリアシールドに展開しきって防御していく。

「阿呆が、予測済みだ」

「がっ!?」

 黒い機械の足、そのまま己が胴へとめり込んでくる。急回転した鋭角ペタルの蹴りが白式のエネルギーを削りだす。喜久が二発目の攻撃を繰り出さずに距離を離せば、目の前でミアが両腕のブレードを振り抜ききっていた。

『ち、脳筋野郎が』

「あら、サイズも蚤《ノミ》だと小回りが利くのね?」

 苛立ちの声と馬鹿にした発言が飛び交う。

(なんで罵りあいが始まるんだ……、この二人は本当に仲が悪すぎるぞ)

 そして一夏が呆れ果てる。

「一夏くん、このまま目の前の屑を稼動停止に追い込むわよっ!」

「おおっ! ってミア、屑は言い過ぎだろ!? せめてロクデナシ止まりだっ!」

『天然野郎がっ! てめぇの発言も、どっこいじゃねぇか!?』

 ミアが叫び、一夏が突っ込み、喜久が怒鳴りだす。ミアがペタルの六面によって囲まれていく。間が作れる試合運びが良いと判断し、喜久が残りのペタルで一夏を囲みこむ。

(エネルギー残量は、――あと四〇二っ!)

 零落白夜は一回の行使で急激にエネルギーを失う諸刃の剣、しかし使いどころさえ間違えなければ最強の一手となる。試合での使用回数は多く見積もって、あと三度が良いところだろう。

 二度目の零落白夜を発動し、高速切替で風雪を取り出す。瞬間二〇メートルの光を放ちながら一閃に振りぬいていく。横薙ぎの動きによって両側面と正面を阻んでいた青紫の壁が消滅した。

 斬撃を回避しきっていた喜久が焦りながら叫んだ。

「クソッタレが、避けろ!?』

「でぁああああああっ!」

 一夏が瞬時加速を使用しながら、一機のラファール=リヴァイヴに突撃していく。

『え――

 ズガァンッ!!

 猛烈な突きを放てば、相手機体が爆ぜるようにしてアリーナ端に激突した。

 側面に当たり、そのまま落下して地面へとバウンドしていく。機体エネルギーは多少残っているが、搭乗者が余りの衝撃に耐えられずに気絶していた。

 試合続行不可能とみなされると、失格扱いの表示が視界に現れだす。

「ぐあ!?」

 背中に衝撃が走る。いきなり機体制御がし辛くなった。

 グリコシドの搭載されているビットが突き刺さったのだと理解した瞬間、今度は真下から声が聞こえてくる。

『くらぇやぁ!」

「せああああああっ!」

 高速切替によって雪片弐型を振りぬく。

「ちぃ!?」

 喜久が切り飛ばされそうになった腕を引き、そのまま回避に徹して胴を丸ごと回転させる。一夏の放つ剣戟が綺麗にかわされた。

 続けて目の前を通過したレーザー光が、黒い機体を目前にしてペタルの壁に阻まれだす。

(くそ……、やっぱり固い。瞬間的に出現する壁のせいで、接近戦じゃないと攻撃が通用しないっ!?)

 ミアの放つ銃撃が有効打として機能しない。ブラックペタルは特殊性の高いIS機体にして、応用性の範囲も乗り手の想像力次第で更に飛躍していく。喜久はペタルズ・スワィルを攻撃要素と速度増加、相手への行動抑制に使用することを主眼に置いていた。

 しかし、本来の用途は防衛手段を目的としているもの。この機体は攻ではなく、防に徹した際に本領を発揮しだす。現に今も一夏が放つ、雪羅からの砲撃が一発もダメージとして通らない。

『一夏、ついてこれたら褒めてやるよ?』

 突然の挑発するような発言、次の瞬間に漆黒の機体が瞬時加速をかけだした。

「ああ、やってやるさっ!」

 呼応するようにして、一夏が瞬時加速を開始しだす。全ての横槍は引込め、力比べに第三者は必要ない言わんばかりに。

 白と黒の二機が、アリーナ中を我が物顔で飛び回っていく。どちらが最後まで力尽きずに一撃を決めきれるか。

 一回目、いつも通りの出だしだ、問題はない。

 二回目、体が軋みだす。無理やり軌道を曲げたツケに、片目を瞑って歯を食いしばる。

 三回目、今ある自身の限界回数だ。強烈な動きに精神と体力が悲鳴を上げだす。

 ――一〇メートルほど先に見える顔が、笑っていた。

 それは勝ち誇ったものではなく『もうばてたのかよ、ヘタレだな?』という、一夏にさらなる高みを望んできているかのような表情をしていた。

 もともと、勝負は最初から見えている。瞬時加速を平気で一〇回も行使できるような化物を相手に、同じ土俵で勝とうとすること自体が馬鹿げているのだ。

 であるばらば、自身がなぜ分の悪い勝負に乗ったのか。

(決まってる、――それが男の意地だからだっ!!)

 四回目、強引に瞬時加速をかけた一夏の体が限界を迎えた。

 

     ◇

 

「あぁあああああ、もうっ! バカ一夏、技術力で勝負したって、あの変態の独壇場に決まってんじゃないっ!」

 観客席にいた鈴が立ち上がって叫ぶ。横に座っている簪が指を唇に当てながら、目の前で繰り広げられる光景に釘付けになっている。喉が渇くのも忘れるほどに見入ってしまう。

「うん、確かにそう……でも……これは、」

 ――見ていて気持ちがいい。戦略でも駆け引きでもない、ましてや理屈も存在させない。そういった潔さに爽快感がある。

「え……!?」

「うそ!?」

 二人が驚きの声を上げた。

 

     ◇

 

 目の前が真っ白の世界になりかけていく。自意識が別のどこかへ、ごっそりと持っていかれるような感覚だ。

「――――ぉぉぉおおおおおおっ!!」

 超えられない壁を破ることとは、自身の限界を突破した時のみに訪れるもの。一夏が四回目から五回目の瞬時加速をかけきった。

『ち、馬鹿みたいに張り合って、エネルギー切れじゃ割にあわねぇわな』

 確実に一撃を取れると踏んでいた喜久が行動を取りやめる。同じようにして停止すれば、疲労困憊で目の焦点が定まりにくくなっていた。

「……はぁ、はあ……、ぐっ…………」

 息も上がり全身も発汗し、痺れる手のせいで握る力も弱くなっている気がする。これは正直かなりきついと、軽く笑って強がるだけで精一杯だ。

『――やられたな、最初に司令塔が潰されたのは本当に痛手だ。お前にとっては最高で、俺にとって最悪の展開か』

 喜久が喉の奥に何かが詰まったような声を発する。一機を相手取る時間が長過ぎたのだ、だからチームとしての連携を疎かにしすぎた。

 一夏がふらふらしながら、慌てるようにして周囲を見回していく。喜久側のチーム四機が待機姿勢のまま地上で煙を噴いている。低い位置で停滞していたミアが笑う。

『残りは一人だけ。いいザマね、もう終わりよ?』

『は、笑わせんな。本番はこっからだろが?』

 決して衰えない声、多勢に無勢であっても戦意がある。流石だと、一夏が素直に喜久の心構えを称賛した。

『一夏くん、そのまま切り込みなさいっ!』

「ああっ!」

 掛け声と共に雪片弐型から風雪への高速切替、そのまま再度として零落白夜を発動していく。

 ガンッ

「ぐあっ!?」

「一夏、お前は後回しだ。ゆっくり待ってろよ?」

 後頭部へと衝撃が走った瞬間、腹部へと喜久からの蹴りがめり込んできていた。

(後ろからの攻撃はビットか!? くそ、油断したっ!)

 さらに動き辛くなった機体制御のまま、地面すれすれで一気に態勢を整える。エネルギーは残り二二六。今いる場所から飛翔し、喜久の動きに追従していく。

 漆黒が緑へと喰らいつく、喜久が力量差で押し切り相手へとグリコシドの連撃を決めきっている。完全に射程内へと収めた瞬間、違和感から風雪を振りかぶろうとした動きを急停止させた。

『ち、このタイミングで頭の回転が並になりやがったか』

 苛立ちの声と共に確信する。相手が確実に、こちらの味方機体を盾に使用するつもりだったと。

(危なかった、これじゃ円夏の時の繰り返しだ。それにしてもだ喜久……、お前って本当にやり口が卑怯だよなっ!?)

『一夏くん、そのまま振り抜きなさいっ!』

「無理に決まってんだろっ! そんなん、出来るわけがあるかっ!?」

 仲間もろとも叩き斬れと、ミアからの檄に一夏が怒鳴る。確かにもう一人、チーム内で危険思考型の人間がいた。

『きゃあああああああっ!』

 悲鳴と共に、グリコシドを打ち込まれ続けた一機が待機姿勢に陥りだす。喜久が飛来する射撃を全てペタルで防御しきっていく。放つ射撃が殆ど通じない、この厄介な相手には打撃しか効かない。

 そのまま平然と四対一をこなしていく様に、一夏が思わず口を固く結び込む。零落白夜を解けば、エネルギーが赤色で四二と表示されだす。

(駄目だ、これ以上は瞬時加速も零落白夜も使えない……!?)

 これほど一撃決定打としての機体性能を持っていたはずだったが、全く活かしきれない状態でリミット寸前だった。

『一夏くん、回避なさいっ!』

「なっ!?」

 確かに敵機を視認していたはずだ。一夏は失敗を認めたくないと、否定感だけが心に募る。だからこそ、自身が極度に疲労し過ぎている状況を認識しきれない。

『お前は馬鹿か、実践だと即死だぞ?」

 頭上を見上げれば、上空から降り注いでくる脳天を割るような一撃が炸裂した。

 ズガンッ!

「ぐあああっ!!」

 迫る、一夏に最後の一撃を決めようと、緑に輝く腕が迫って来る。

「沈――がっ!?』

 それをさらに他の機体が弾き飛ばした。

 一夏の目の前で、ミアが平然と笑いながら自身の髪を掻き揚げていく。

「猿真似だけど瞬時加速って便利ね、相手を突き飛ばすのに丁度良いわ」

『クソが……、やってくれるじゃねぇか? ウドの大木が、てめぇから潰してやる』

 吹き飛ばされた喜久が、飛来したレーザーをペタルで防御しながら唸りだす。攻撃の矛先がすべてミアに向けられていく。

「一夏くん、残りのエネルギーは?」

「一〇だ、ぎりぎりで持ち堪えてるってところだな」

「奴も残量値は半分以下のはず。提案よ、あの亀みたいな硬さはどうしようもない、だからこのまま零落白夜を発動した一瞬で切り倒す。出来るかしら?」

「無理だ……って、言いたいけれどな。やるしかないか」

「来るわよっ!」

 舞う。黒い塊が流線を描くようにして向かってくる。もともと悠長に話す暇などくれる相手ではない、一夏が回避に徹してタイミングを待つ。

『くたばれっ!』

 ミアが防御した瞬間、喜久が瞬時加速をかけだす。他のチームメイトが助けに入ろうとブレードからの突きを放つ。

『てああああああっ!』

『クソが、邪魔だってんだよっ!?』

 乱戦に突入した状態から咆哮が聞こえ、そこにもう一機の味方が加わりだす。ブレードが六本、計三体の連続的な攻撃に盛大な舌打ちが聞こえた。

『上等だっ! 纏めて沈めてやらぁああああ!!』

 六つの斬撃が綺麗に避けきられた。今度こそが喜久の全力、そのまま一機目の顔面を掴みきって二機目へと突撃していく。背後からミアが追撃をかけようとした瞬間、一二枚のペタルが彼女の目の前をが阻みだす。

 瞬時加速、そのまま二機目の攻撃を避けきり、残りの片腕が攻撃を外した相手の顔面を抑え付けた。

『このまま、試合終了まで寝てやがれっ!!』

『ぐうぅ!?』

『きゃあああああ、がふぁ!!』

 喜久だけが地面ぎりぎりで離脱すると、切り離された二機がそのまま激突していく。

『体力が限界のようね、くらいなさいな?』

 ミアが狙撃を行う。喜久がこの試合で初めて、ペタルの展開速度を間に合わせられなくなった。

『があっ!』

 直撃、ブラックペタルが左肩を軸にして仰け反りだす。一夏が瞬間的に零落白夜を発動させた。

(ここだっ!)

『今よっ!』

 ミアの叫びを合図にして、白式が突貫を開始する。刹那の間にエネルギーも削れだしていく。

 武装は風雪、

 構えは突き、

 失敗は考えない、

 ただ愚直に前だけを見て進むのみ。

 地上付近にいた喜久が顔を振り上げた。

『一夏、てめぇが堕ちろっ!!」

「勝つのは俺だ、喜久っ!!」

 二人が叫ぶ。次の瞬間、アリーナの中心が爆ぜた。

 

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