ln   作:kiarina

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[ NumberingTitle_インド国家代表 ]

 

 ― 2 ―

 

 二年生が海外研修に向けて学園を出立し、残りの学生は通常通りの授業風景となる。一日のカリキュラムが終了した放課後の現在、生徒会室で一人の女子生徒が気だるそうにしてボールペンを口に加えていた。

 椅子の後ろ足を軸に使って、シーソーのようにギコギコと体を前後に揺らす。強制奉仕に借り出された最上級生は、半眼のまま視線を動かしていく。

「なんで私が生徒会の雑用を……?」

 データの打ち込みの作業をしていた楯無がにこやかに返す。

「フォルテは暇でしょ? 国家代表候補生は、他の三年生と違って就職活動なんていらないもの」

「既にロシアの国家代表で収まってる人が言うと、皮肉以外のなんにも聞こえないッスけどね」

「一夏くん達が抜けた穴はどうしようもなし、フォルテの手も借りたいのよ。イェレナちゃん、蘭ちゃんもありがとう」

 楯無の目を向けた先に、二人で仲良く作業をしている一年生がいる。話しかけられた蘭が、苦笑しながら答えだす。

「いえ、中学時代も生徒会役員でしたので。会長には、依然助けて頂いたこともありましたし。だから、なにかお役に立てればと思っていた部分もあったので」

 蘭は去年行われたキャノンボールファストの際、楯無に助けられた経験がある。友人であるイェレナが生徒会役員ということもあり、今は彼女の手伝いという名目で作業をしていた。

「蘭、会長に気を使う必要はないわよ。この人は弱みを見つけたら、骨の髄まで搾りとるのだから」

「そーッスね、悪魔に魂を売ったようなものッス。一度犯されると、二度と元には戻れないかも」

 イェレナの痛烈な批判にフォルテが便乗する。切り返すようにして、言葉を発したのは楯無ではない。イェレナが溜息を一つ吐いて、澄まし顔になった。

「フォルテ先輩の場合は自業自得です。私と一緒にされては困ります」

「一年生、ものは言いようッスよ。悪魔の囲いに括られてる時点で、私も君も哀れな羊じゃ?」

「不真面目の代表格のような発言には、まるで説得力がありません。会長に聞いた話では、先輩は規律違反を犯し遊戯に勤しんだとか。私が会長に丸め込まれた理由とは、全くの真逆ですね?」

「ちょっと、イェレナ!?」

 最近ストレスが溜まっているのか、イェレナの攻撃色に対し蘭が慌てて止めに入る。だいたいの原因は、二人のやり取りを楽しそうに見ている楯無だ。

 同じようにして、フォルテが嬉しそうに笑顔を作りだす。良い暇つぶしが転がっていたとでもいいたげな表情だ。

「へー、あれッスか? だったら今どき珍しい、箱入り娘さんッスか? 世間知らずの経験不足に泣く、立派なお嬢様ッスか?」

 澄まし顔だったイェレナの額に青筋が立つ。どうしてこうも、自身の上級生は癖が強すぎるのばかりが多いのか。少しムスッとして返答する。

「世間知らずだなんて、いったい私のどの部分を見て言われてるのですか?」

「はい問題、これは?」

 フォルテがポケットから出したものに、蘭が顔を赤くしながら両手で口元を覆ってしまう。楯無が少し苦笑いして、フォルテにとりあえずの忠告をした。

「フォルテ、退学処分を受けたいのかしら? 頼むから在学期間中に、問題を起こさないでね?」

「残念だけど私がこれを使う機会には、まだ恵まれてませんッスね。さて一年生君、これがなにかわかるかな? あれ……?」

 おかしい、なにも返事がない。イェレナを見てみれば顔を高潮させ、その場で思い切り固まっていた。どうやら意味が解っているが、本人にとっては余りに刺激が強いものだったらしい。暫く硬直していたが、彼女は目を見開いて激昂しだした。

「そ、そそ、そそそっそ――

「大丈夫ッスか、過呼吸なんてオチは無しッスよ?」

「そんなものを、学園内で持ち歩くなんてっ!!」

「えー、そんなものじゃ解らないッスね。名称は?」

 ブチリと、イェレナのなにかが切れた。彼女はもの凄い剣幕で怒鳴りだす。

「そんなものは、そんなもので充分ですっ!! 会長も会長です、笑ってないで叱りなさいっ!!」

 思い切り睨むが、規律を遵守すべき楯無は完全に今の状態を見て微笑んでいるだけだ。フォルテがイェレナの羞恥心を過剰反応させる。

「彼氏が出来たらあげますッスよ。まあ、一年生君も頑張って?」

「頑張ってじゃありませんっ!!」

 一頻り遊んで満足したのか、フォルテが楯無へと話しかけていく。イェレナはまだ抗議の声を上げていたが、盛大にスルーされた。

「そういえば、二年生は今週が研修期間だったんッスね?」

「正解。今頃、今年のモンドグロッソ開催国であるインドに到着してるころじゃないかしら? まあ、研修のメインはエネルギー開発研究機関の見学でしょうけどね」

 今年のモンドグロッソ開催地となっているインド。楯無は大会二回目の参加となり、国家代表としては最年少出場選手となる。

「前回の優勝者は現役を引退してるッスからねー。実質、今のところの一位は日本代表ッスか。現ロシア国家代表として、勝てる見込みは?」

 フォルテの問いかけに楯無が肩を竦める。

「上位からズラリと強豪揃い。日本代表の裕ちゃんにドイツ、フランス、イタリア、アメリカ、中国、イギリス、韓国、インド、上げたらきりがないわね」

 国家代表クラスは、一般に所属しているIS操縦者との実力が雲泥の差で違う。一国の頂点に君臨する彼らは、国の威信を背負う自負と力、なによりも覚悟のあり方が異なっていた。

 今年は新たに加盟した国によって、モンドグロッソに二六ヶ国が参加。この大会は互いの国同士が実力を測りあう場であり、一種の祭典でもある。

 フォルテがにこやかな顔で喋る楯無を見ながら、軽く挑発するような言葉を投げかけだす。

「今年のモントグロッソには、前回の一位がいなくて良かたッスね。大差で完敗した本人としては、多少は身が軽いんじゃ?」

「まあね~、あの人は鉄面皮だから。とにかく表情が読み辛かったわ。織斑先生と実力も拮抗してるでしょうし、前回は手も足も出なかった。もう一度争おうにも、彼女は現役から引退してるから対戦することも出来ない」

 苦笑いしか出来ない。楯無の中で、それほどに鮮烈な印象が残っていた。そして、思い当たることもある。

「それにしても、似てるのよねー」

「なにがッスか?」

「――よっちゃんと、引退した一位の動きが」

 

     ◇

 

 日本から飛行機の移動距離にして、八時間程度かかる場所。IS学園の生徒達は空港から貸切バスに乗って移動すると、厳重体制のガードがついた状態でホテルまで移動していた。

 インドは一言でいってしまえば、治安が悪い。祭典や式典間近には、身長一八〇センチを越える屈強な兵士が、空港出口から一キロ範囲内に四ヵ所以上の検問を敷いている。肩から提げるアサルトライフルから読み取れるそれは、平和の二文字が程遠い。

 国境を越えればパキスタン、数珠繋ぎでアフガニスタンが隣接している。危険が目と鼻の先に存在し、彼らが到着する半年前にも爆破テロが起きていた。

 デリー空港から市街へ入ると、人がごった返したようにして雑踏と化している場所だらけだ。区画ではなく、建物と建物の隙間から見える奥へと続く道に、山のような数の建物に人、人、人。人が密集している。

 それもある場所でいきなり風景が変化しだす。デリーから、区画分けされたニューデリーへ入ると、野良牛とテゥクテゥク(三輪自動車のタクシー)が姿を消した。バスに乗っていたガイドが説明を始める。

「IS学園の皆様、インドへようこそ。景色が変化したことに気づかれる方もおられると思いますが、ニューデリーでは通行、進入禁止されている乗り物等があります。また、政治、経済の中枢であるこの場所では、それに関連する様々な施設が設置させれております。皆様が明日にご見学へ行かれるISエネルギー開発機構研究所が、右手に見える建造物となります」

 生徒達がガイドに従って、顔を右へと向ける。高層ビルに真っ白な半円の巨大なドームが聳《そび》えていた。それが、先進性の高さを主張しているように見えなくもない。

「現在、我が国は保有権利するISの軍事開発転化を行い、エネルギー開発を行っております。これは国連承諾によって世界全体事業による実験稼動、研究を目的にしています。ISエネルギーは、核エネルギーに変わる革新的な技術として注目を集めています」

 ガイドの言葉に対し、生徒達が半信半疑で聞いている。三号車となっている三組のガイドの直ぐ傍には真耶が、奥では裕香が座っていた。

(――へぇ、授業中はいつも適当にしか話を聞いてないのに。目の色が変わったように、今は真剣そのものの表情ね)

 裕香が内心で感想を漏らす視線の先に、喜久が座ってじっとしていた。一言、一単語さえ聞き漏らすまいと、ガイドの口頭に意識を集中させている。説明が終了すると、彼は窓の外に見える半円型のドームとあるものを交互に見比べていく。なんともチグハグな光景に見えてしょうがないと、それが継接《つぎは》ぎのように感じた。窓の外には指を擦り合わせている物乞いの女性と、芸をする三、四歳程度のストリートチルドレンがいる。

 それに鼻で笑い、思わず疑問を投げかけてしまうのだ。

 誰に聞こえることもない声で「世界救済する前に、まずは足元からなんじゃないの?」と。

 

     ◇

 

 湿度はえらく低いが、茹だるような暑さが印象的だ。一夏は草臥《くたび》れた調子で襟元を楽にした。ホテルの廊下を歩き仮住まいとなる部屋の前まで来ると、事前に渡されていたドアキーをドアノブの上にある挿入口へ差し込む。夜の集合時間まではゆっくりしたいとドアを開け、目の前の光景に言葉を失った。

 下着を纏った着替え中の少女が、まるでありえないものを見たようにして目を丸くしている。黒髪に浅黒い肌、高い鼻と独特の雰囲気から現地人だなと理解できなくもない。

「え、いや、あれ……? な、なんで俺が泊まる部屋に女の子が!?」

「……」

「しかも学園生でもない!?」

「……チュ、チュッルー バ、バルッ」

 互いが言葉も纏まらず、

(げっ!? なにを喋ってるのか全然わからんっ! てか、何語だこれっ!?)

 聞きなれないヒンデゥー語のせいで、パニックに拍車がかかる。

「チュッルー バル パーニー メン ドゥーブ マローッ!!」

 国や地域の独特な文化や価値観は、どの宗教が根ざすかで異なる。例えば、場合によっては肌の露出を極力人前では出さないようにとすることも、見られること事態が大きなタブーとなっていることもあった。

 パンジャビドレスを胸に抱えた少女が、瞬間的にISを部分展開させだす。黄色を基調に統一された機械の腕に紫電が疾走する。

「わあ、待て、待ってくれっ!! 話せばわかるっ!! だから――

 解放された獣のように、雷が巨大なうねりを伴って襲ってきだした。待ったなしの状況に、一夏が青ざめさせていた顔を険しくさせる。素早く白式を部分展開し、雪羅のバリアシールドで防御しきっていく。

「ぐあっ!?」

 衝撃を殺し切れず、廊下の壁に背中を打ち付けてしまう。さらに打った後頭部を抱え込み、目の前に星も確認できそうなほどクラクラになった。

「ぐおお、痛ってーっ! なんでこんな目に……、ん?」

 前方を確認すれば、少女があり得ないものを見たような顔をして固まっていた。そしてすぐに、我に返ったようにしてゆっくり近づいてくる。下着姿の状態で廊下まで出てこられると、今の状況が悪化しかねない。一夏は少女の行動を無視し、全力で扉を閉めきる。

「ちょ、おいっ! なんでいきなり締め切るのよっ!?」

「日本語できるのかよ!? じゃなくて、部屋から出るなら、ちゃんと服を着てから出てきてくれっ!!」

「うるっさいわね、わかってるわよっ! この変態っ!!」

「不可抗力だ、なんでそうなるんだよっ!!」

 涙目になりながら、白式の展開を解いて粒子化していく。蹲って打ち付けた後頭部を擦りながら考える。

(今のって、間違いなくISからの攻撃だったよな……? じゃあ、あの女の子はISに携わってる人間ってことになるのか)

 寄りかかっている廊下の壁を見上げる。一部が黒い染みのようにこんがり焼けていたのを確認して、これが現実だと理解していく。溜息を吐いて、肩を落とすとドアが開いた。

 今度はきちんと民族服を着ている。少女が苛立ちながら、足の先を地面に打ちだす。

「一夏 織斑でしょ? 世界初の男性操縦者よね?」

「え、なんで知ってるんだって……、それもそうなのか」

 実感がわかない、わかなくとも一夏の情報は独り歩きし続けている。ISを操縦できる男性の話題は、この国でも当然の如く知られていた。

「一人で納得しないでくれる? たく、覗きだなんて真似して、てか、どうやって閉めてた鍵を開けれたのよ?」

 少女にとって当然の疑問だ。しょうがなく、カードキーを見せたが納得してくれるはずもなく、

「はぁ!? なんで私と同じ部屋番号のカードキーを持ってんのよっ!」

「こっちが聞きたい……、それと」

「なによ?」

「俺、まだ君の名前も知らない」

「……ルピンデルよ、ここの代表候補生。師匠《せんせい》の後釜でもあるわ。で、なんで私と同じ部屋のカードキーを持ってるのか聞いていい?」

 カードキーの説明を食い下がるように求められ、自身の方が途方に暮れそうになってしまう。 

「ええと、ルピンデルさん。はっきり言って、俺にも理由がわからないんだ……。因みにさっき言ってた言葉って、どういう意味だ?」

「ああ、恥を知れって意味よ」

 聞かなきゃ良かった。鍵のことをどう説明したものかと困っていると、思わぬところから助け舟がやってくる。千冬がかいた汗を鬱陶しそうにしながら車椅子を押して来ていた。

 椅子部分に乗っているのは、一夏よりも少し年上の女性だ。千冬は一夏の前まで来ると、真顔で恐ろしいことを告げてくる。

「すまない織斑、学園側の手配ミスだ」

「 ?? ?? ?? 」

 嫌な予感しかしない。

「部屋の割り振りで問題が発生した。すまないが、研修中はお前の横にいるインド候補生と相部屋で過ごしてもらう。注意しておくが、くれぐれも粗相の無いように」

 助け舟は、沈没船だった。膝を突き、思い切り肩を落としていく。

「師匠《せんせい》っ!?」

 ルピンデルの戸惑うような声が聞こえ、つられるようにして顔を上げてしまう。この場には四人しかいなく、千冬、一夏、ルピンデルに車椅子に座る女性だけだ。

 女性はにこやかに微笑む。

「ルピンデル、今回はしょうがないわ。なにかあれば、その都度私のところへ報告にきなさい」

「くっ……、はい。わかりました」

 キッと、素直に応じたルピンデルが全力で一夏を睨み付ける。

「寝込みを襲ってきたら、消し炭にするからね?」

 死んでもしませんと、一夏は心に誓いを立てた。

「IS学園の生徒さんですね?」

「はい。えっと、貴方は? 今さっき、師匠《せんせい》とか呼ばれてましたけど?」

 オレンジのサリーを纏い、長い髪を後ろでに束ねている。丸い顔は、愛らしさと優しさを感じさせた。

「初めまして。私はISインド国家代表を務めさせてもらっています、カーンティです」

 車椅子の女性、インドにおける頂点のIS操縦者が笑顔で答えてきた。

 

     ◇

 

 一夏が女難に合っている頃、同じようにして廊下で嘆く男子がいた。

「なあ……、おい。お前等が俺と一緒の部屋にされて、憤ってるのは理解できる。俺だって先公共の狂った頭に、一発ずつかましてやりたい。でもな、部屋に届けられてた俺の荷物を廊下に放り投げ捨ててる、お前らの頭はもっとおかしいんだよっ!?」

 喜久が通路の真ん中に座り、嘆きの叫び声をあげる。返ってくるは無慈悲な通告だけだ。

「うっるさいわねっ! 鬼畜変態甲斐性無しは、昔から宿無しと相場が決まってんのよっ!」

「喜久、貴様が敷居を跨いだ瞬間、私は躊躇なく貴様を斬るっ!!」

 ドア越しから鈴と箒の怒声が聞こえてきた。彼らは、こんなやりとりを飽きもせずに三〇分ほど続けている。元来が怠け者の性格な喜久だが、部屋無しは勘弁だと食い下がり続けていく。

「お前ら人間じゃねぇ!!」

「ハン、アンタが日頃してる行いの結果でしょ! 研修中は廊下で寝て、今までの行為を悔い反省するいい機会よっ!」

「善悪の区別さえままならない天邪鬼だ、これを機会に禅を組んで瞑想に励め」

 ブツリッと、喜久の中にある理性の千切れる音がした。

(こいつら……、はは、ふっざけんじゃねぇ。――上等だ、こうなったら二人揃って恥をかかせてやるよっ!!)

 策を練るために一〇数秒、彼は悪知恵を働かせるために頭の中をフル回転させだす。追い出したことを後悔させてやると、彼は顔に邪悪な笑みを称えた。

 その場から立ち上がってドアに数度のノック、再び元の位置に座り込む。嘘をつくために最適な人物の声を真似る。

「あー、一夏だけど。鈴に箒、いるか? なんか専用機持ちはロビーで明日見学の施設について打ち合わせがあるらしい。じゃ、俺は先に行ってるから」

 バンッ!

「いない、どんだけ速足で歩いてってんのよ!? ちょっとくらい、待っててくれたって良いじゃない!」

「く、既に影も形も無いだと!? 女性を置いていくとは、男の風上にもおけん!」

 開かずのドアが、思い切り開け放たれた。様子を見ていた喜久は、効果覿面《こうかてきめん》の状況に呆れだす。

(瞬間移動じゃねぇんだ、人間がそんな速く移動できるわけねぇだろ。盲目にしても、こいつら真性の馬鹿だな。それにしても、凄まじいほどに言い分が自己中すぎだろ……。さてと、このままやることやっちまうか)

「ふ~、やっと開いたか」

 わざとらしく一声あげた瞬間、ドアが壊れんばかりに閉め切られた。箒と鈴は無言で目を血走らせている。殺意の視線は、『屍にしてでも入れる気は無い』と語っていた。

 喜久はしょうがなくと言った表情で、箒と鈴の肩を叩く。

「わかったよ、降参だ。他をあたることにするわ」

「なによ、他に泊めてもらえるアテでもあるってわけ?」

「まあ、適当だ」

「追い出しておいてなんだが、打ち合わせには間に合うようにするのだな」

「間に合ったらね」

 怪訝な表情を浮かべる二人に対し、手をひらひらとさせて答えた。

「なに、専用機持ちで集合かかってるのに、アンタは行かないわけ?」

「めんどいし、俺は出来れば行きたくないな」

 はあと、箒が溜息を吐いて両手を腰に据える。鈴も肩を竦めてやれやれと言わんばかりに苦笑した。

「信用度ゼロのあんたじゃ、どこも受け入れてくれないでしょうね。門前払いくらって戻ってきたら、ベランダくらい空けといてやるわよ」

「そうだな。最大限に譲歩して、鈴のいった場所までなら受け入れてやらんでもないな」

「野晒しのベランダより、屋内の廊下のほうが随分ましだろ。気持ちだけは感謝しとくよ、じゃあな」

 喜久が背を向けて去っていくと、二人もロビーへ向かって歩き出す。人影が全てなくなると、手の中でカードキーを二枚ほど弄びながら喜久だけが戻ってきた。当たり前のようにドアの鍵を開錠して、部屋の中へと進入する。

 入ってすぐ脇には、三枚目のカードキーが置かれていた。それを見て思わず苛立ってしまう。

(くそ、男女《せながわ》め。俺のカードキーをあの二人に渡しやがって! ふざけんじゃねぇ、奴にも後で同じ目に合わせてやる)

 喜久が締め出しにあった最大の原因がある。それは裕香が軽く悪戯をして、喜久分のカードキーを鈴と箒に渡していたことが騒動の発端だ。掏《す》ったカードキーを用済みだとばかり、適当な場所へ放っていく。新たに取り出した鍵で、備え付けの金庫を開錠する。目的のものを見つけると、彼は嬉しそうにそれを取り出した。後は何も手をつけず、金庫を閉めて鍵を抜いてベッドの上へと放る。立派に犯罪行為をやり遂げた彼は、最後にオートロックのドアをきっちり閉めきった。数十分後、騙された箒と鈴が二人してパニックになったのは言うまでもない。

 

      ◇

 

「なんだ、私のところに来るとは珍しいな」

「篠ノ乃と凰に追い出されて、ホームレス化した。床で寝れれば良いんで、泊めて下さい」

 喜久がげんなりしながら頼み込む。ドアを開けて対応したラウラがフムと頷いて、どうしたものかと考え出す。部屋の奥では、一緒に泊まっている貝田が吃驚したようにしていた。

「なぜ私を頼る? シャルロットとセシリアに頼めば良いのではないのか。あの二人なら、諸手を上げてお前を歓迎するだろう」

「だから頼めないんだよ……。仮に出来てもシャルロットまでだな。セシリアの場合は、逆にこっちが寝込みを襲われかねないだろ?」

 想像してみれば、確かに喜久がいったことが起こりかねない。安心して眠れるはずもなく、寝不足で倒れる姿が予想できた。

「別に問題ないのではないか? 単に子が出来るだけではないか」

「大有りだろうがっ! お前の線引きは、明らかにおかしい!?」

 ラウラに真顔で返された喜久が、猛反発した。貝田も顔を赤くして、当人の爆弾発言に戸惑っている。

「じゃあさ。お前は一夏が迫ってきて、子供が出来たら嬉しいわけ?」

「ああ、もちろんだ。一夏との子だ、私が全責任を持って一人前に叩き上げる」

「……頑張ってくれや。で、話し戻すけど泊めてくれません?」

 ラウラが後ろを向く。しょうがないなといった表情で、もう一人が苦笑した。

「私は別に良いよ、市隈君の事情が事情だし。篠ノ乃ちゃんと凰さんは、説得するには骨がおれるキャラだしね。ただし、私とボーデヴィッヒさんが着替えのときは、廊下に出てちょうだいね?」

「同室人の許可がおりた、入れ」

「恩にきます、マジで助かったわ。ああ、忘れてた。戦利品があるんだ、なにかに使えないか?」

 二人が小首を傾げ、喜久が自身のポケットから先ほど盗んだものを取り出す。一ページ目を開けてみれば、箒と鈴の顔写真がある。所為、パスポートと呼ばれるものだ。

 ラウラが喜久の窃盗技術に感心し、貝田が残念な男子に頭を抱えた。

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