ln   作:kiarina

67 / 84
12-6

[ NumberingTitle_巨体ノ影 ]

 

 ― 6 ―

 

 ISエネルギー開発機構研究所の館内で、緊急用アラートがけたたましく鳴り響き続けている。職員が右往左往と慌しく動き回っていた。その中で一箇所、一人の老人が特別待遇室と呼ばれる場所で豪奢な椅子に座り、下顎の髭を手で弄りながら泰然と構えていた。

「エッボ、説明を」

 持っていた杖を床に一回突いて合図する。脇で構えていた屈強な男性が膝を折って老人へと耳打ちしていく。

「はい。現在、施設に所属不明の物体が向かってきているようです。この部屋に被害が及ぶのも時間の問題かと。退避を――

「いや、もう少し見物をさせて貰うとしよう」

 呵々と不適に笑い、既に破損している強化ガラスの設置されていた部分から外を見る。

「我が娘は遊びに行ったようだが。君は行かんのかね?」

 エッボと同じように待機していた少女へと声を掛けた。

「私は、貴方の護衛が今の任務ですから」

 円夏がISを展開した状態で、視線だけを動かして答えだす。老人はふむと一つだけ頷いてみせた。

「では、君に新たな任を与えておこう。あそこにいる重騎兵の如き立ち振る舞う兵器、多分どこかのISだろうがね。私がアレから逃げ切るまでの間、前線に立って戦えるかね?」

 酷く挑発的な言葉だ。円夏は眉間に皺を寄せだす。

(普通であれば、私を近くにおいて然るべきだ。わざと遠ざけることに、どんな意味がある。この男、耄碌して判断能力も失ったか?)

 老人の言葉から、同じように考えている人間がいたのだろう。エッボも困ったような表情をしだした。また、いつもの病気かと。

「この任を選ぶのは、君の自由としよう。どうかね?」

「……解りました。一つ聞いても?」

「なにかね?」

「どうして、自身の死ぬ確率を上げる必要性が?」

 円夏の疑問に、老人は再び呵々と笑う。

「理解できなくていい、これは趣味のようなものだ。私はね、未だこの歳になってもだが、一種の興奮を楽しみたいと思う性分なのだよ」

「そうか。どうやら貴方は、狂っているようだ」

 エッボが老人の前に出て円夏を睨みだす。背広の内ポケットから、いつでも拳銃を抜き取りそうな勢いだ。

「やめよエッボ。ふむ、なかなか的を得ていて清々しい回答だ。気に入った、君の名を聞いておこう」

「エムだ」

「君が私の名を知っていようとも、こちらも名乗るのが礼儀だな。サモド=ペローフだ、楽しい会話は血を若くし滾らせる。良い一時をありがとう。時間だ、行ってくるといい」

 亡国機業を取り仕切る幹部の一人、サモドがにこやかに告げてくる。

「ふんっ」

 円夏が不快にして鼻を鳴らし、サイレント・ゼフィルスを駆って上空へと飛び出した。

 

     ◇

 

「領空より確認。なんだ、これは……?」

 戦闘機のコックピットから初めて目にする機械の塊に、思わず目を疑ってしまう。搭乗しているインド軍パイロットは、その馬鹿げた兵器の大きさに戸惑いを隠せない。

 まるで、馬鹿げたC級映画を見せられているかのような光景だった。

『A12。こちら指令基地、攻撃を許可する。所属不明の飛行物体は研究施設へ向け進行している。速やかに排除せよ』

「了解」

 数秒後、戦闘機から二発のミサイルが、真直ぐに煙を噴出して猛烈な加速を駆け出す。巨大なISが、進行方向から顔の角度だけを変えて反応してきた。

 そのまま重力を無視したようにして動き出す。人が跳躍したような軽やかさで宙を舞い、片方の巨腕を伸ばしきって張りきる。

「なっ!?」

 一瞬の判断さえ赦されない。緊急回避も間に合わず、ラリアットしてきた握り拳の先に左翼が激突してしまう。

(こっちは半年前に配備されたばかりの、最新鋭機で相手してんだぞっ!? あんなでかい図体で、なんでこんなにも動き回れるんだ!!)

 墜落確定の状態で、敵ISを盛大に罵る。脱出装置のレバーを引きながら、目の前の悪夢を直視する。

 死ななかっただけ、儲けものだったのかもしれない。遠くのほうで、チームの仲間が同じようにパラシュート降下していた。

 あの日本製としか思えないロボットを見て思う。

 ――これは近いうちに、戦争の構図が一変するのではないかと。自身の乗っていた機体が、ビジネスマンの集うビル群の一角へと激突した。

 堕ちる戦闘機を眺めていた千冬が、元凶の笑う顔を思い浮かべながら唇を噛み潰した。暮桜が手元にない、それが悔やまれても悔やみきれない。研修での緊急時対応として、IS学園はインド政府にIS一機の持込を申請していた。それが千冬の専用機である暮桜だったのだが、申請は当たり前の如く却下されている。

 その際、日本の領事館に派遣されている大使が、苛立ちと共に返答してきた。

『我が国で起こった問題に対し、自国で対処しきれないと言われるのか? こんなものを許可すれば、インドは軍事において諸外国中での笑いものだ。ご理解しているのだろ、ISは最新鋭兵器でもある。そんなものを入国審査で簡単に通せるはずがない。答えはノーッだっ!』

 面子、今後の対外交渉の不利化、体裁等の問題がふってわく。ここまで言われてしまっては、相手を信用するしかない。

 だが、現状はどうだろうか。宙に浮かぶあの凶悪な三体のISに対する防衛手段は、全く想定されていないはずだ。近くにいた生徒から叫び声があがる。

「織斑先生、血が!?」

「大丈夫だ、気にするな」

 噛み千切って出来ていた血溜まりを服の裾で拭う。これから起こるであろう大災害に、怒りを込めて前方を見据える。束の暴走を止めなければと、焦燥感だけが肥大していく。彼女の手に感触が走りだす。

「千冬さん、焦っても何も生まれません。心には時として業火の様な火も必要ですが、されど水のような冷静さがなによりも大切でしょう?」

「――ああ、そうだな」

 いつの間にか横にいたカーンティに両手で握られながら微笑まれ、千冬が一気に心を冷やしていく。まずは学園の生徒を無事に非難させきることが最優先だと、気持ちを切り換えた。

「師匠《せんせい》」

 ルピンデルが呼びかけると、カーンティがISを展開していく。

「ええ。行きましょう」

 ISが展開されていく。色は黄色が基調の赤と青の混じった外装だった。インドの第三世代機、『シヴァ』と『インドラ』が上空へと舞う。

(裕香がこの場にいないのが痛手だな……)

 運悪く、日本の国家代表がこの場にいなかった。だが、本人は柔軟に思考するタイプであり、なにをつけなくとも型破りな性格をしている。緊急時となれば、これ幸だとばかりに躊躇なくISを展開するだろう。

 目測で見て、おおよそ五分弱でこちらに到着できるといったところだろうか。一分以内に来れたら褒めてやろうと、可愛い後輩の顔を思い浮かべた。

 

     ◇

 

 ブラックペタルが戦場と化した街中で、標的を探しながら猛烈な加速をかけ続けていく。

(ちぃ、人ごみだらけで見分けがつかねぇ!)

 喜久の焦る表情に余裕がなかった。時間がない。発見するのが遅れれば遅れるほど、それこそ兎が穴倉へ引っ込むようにして、束はどこぞへと雲隠れしてしまう。

「ティアーニ、まだ快楽者を補足できねぇのか!?」

【見当たらないわね。地上に向かって最大範囲の顔認識サーチをかけても、それらしき反応が返ってこないわ】

「クソがっ!!」

 ただえさえ人で溢れているデリー市街地は、今まさにパニック状態と化していている。人々は逃げ惑うが、一体どこへ逃げていいのかも解らずにいた。インド軍が防衛の行為として出動させている戦闘兵器が、まるで紙屑のように破壊され続けていく。燃え盛る街は例えれば内戦状態、このままでは死人も必至だ。地獄絵図のような光景が、自ら引き起こした三年前の暴走行為を連想させる。

 決して許されない行為に、喜久の理性が何度も飛びかけていく。

『見ーつけたぁっ♪」

「 !? 」

 さらに、不条理は次から次へとやってくる。不意に陽気な声が聞こえ、喜久が慌てて後ろへと振り返った。

 ギィッ!

「あらぁ、外しちゃったわぁ」

 繰り出されたナイフからの一撃を咄嗟に右腕で防ぎきる。

『喜久っ!」

 突如として現れたISに、駆けつけた一夏が雪片弐型を振り抜いて応戦する。次の瞬間、気づけば二の腕に熱く鋭い痛みが走り出す。

「ぐっ!?」

 裂傷から伝って滴り落ちる血の雫。一夏があり得ないものを見たようにして驚愕してしまう。

(そんな、まさかシールドバリアーも絶対防御も突破されたのか……っ!?)

 襲撃を行ったクラーラが、髪と目を白く染め上げながらにんまりと笑い出す。切りつけたナイフを弄びながら、首を傾げて嬉しそうにする。

「あらぁ、思ったより浅かったわねぇ?」

「ざっけんなっ!!」

 ぺタルが一夏を取り囲むようにして守り、喜久が入れ替わるようにしてグリコシドを放つ。だが、いとも容易く回避されてしまう。クラーラが距離を離して嬉しそうに口を開いた。

『外に煩い羽虫がいると思ってぇ、遊びに出てきてみればぁ。なぁんだ、ちゃーんといるじゃなぁい? 全く嘘つきねぇ、あの金髪に銀髪はぁ。あっちを先に殺しちゃおうかしらぁ』

 間が悪すぎる、一度に二択は選べない。篠ノ乃 束を追いかけるのが最優先だが、目の前の厄災も野放しには出来なかった。この場を一夏に託しても、本人が一方的に攻撃を受けて殺されてしまう。

 喜久が苦渋の決断を下す。

「一夏、予定変更だ! 二人で目の前の奴を先に潰すぞ!?」

「わかった!」

『男性操縦者が二人ねぇ。エムには悪いけどぉ、丁度いいから一緒に頂いちゃいおうかしらぁ?』

 一夏が高速切替《ラピッド・スイッチ》で、武装を雪片弐型から風雪に選びなおす。後ろ手にして構えると、対するようにしてクラーラが三六機のビットを宙へと解き放っていく。

『なにをしている、織斑 一夏は私の獲物だ。勝手に殺してみろ、私が貴様を殺してやる』

 三人のいる上空からもう一段と高い場所で、円夏がスターブレイカーを構えていた。銃口がクラーラへと向けられている。

 一夏が言葉を呑みこんで動揺しだす。対して喜久が心中で盛大に舌打ちした。ただでさえ二人して互角ですらない怪しい相手に、思いもよらぬ敵の増援だ。

 勝てる見込みがない。勝機の可能性を見出すにはと、急激なストレスを溜め込みながら思考していく。

「一夏、クラーラは後回しだ。先にサイレント・ゼフィルスの方から確実に落とすぞ?」

 確実に一体目を行動不能にするならと、標的を絞り込む。それでも分が圧倒的に悪いことには変わりない。前と違いISTSが使用できない現状では、円夏が相手でも喜久自身の実力が僅差で敵わない可能性がある。

「ああっ!」

 喜久の提案で我に返った一夏が意気込む。風雪を構え、柄を思い切り握りこんでいく。

(――止めるんだ、俺が必ず円夏を止めてみせるっ!!)

 クラーラが愉悦の表情を浮かべた。

『あらぁ、エム。お兄ぃちゃんの考えだと、私より貴方のほうが弱いらしいわよぉ?』

『フン、兄妹揃ってフザけた奴らだ。織斑 一夏を殺せればそれで良い、ゲテモノはお前が殺せ』

『うーん、私はお父様を守らなきゃいけないしぃ。そうねぇ、でぇもぉ、目の前の二人を刺し殺せば、今の脅威度も落ちるかしらぁ?』

 クラーラが無邪気に笑い、円夏が不遜に応じる。

『護衛は最低限こなすが、今は非常事態だ。それに、私はお前に協力する気は無い』

『べっつにぃ、私も貴方に協力する気なんて無いしぃ。ああ、そうねぇ、私の邪魔だけはしないで頂戴ねぇエムゥ? 玩具を独り占めしたらぁ、一緒に殺しちゃうからぁ』

『言っていろ』

 言い合いが終われば、それが一方的な戦闘開始の合図となりだす。全部で四二機のビットから、計四二発分の射撃が敢行される。一斉に光の束が発射され、一夏と喜久に向かって暴風雨のように降り注いできた。

 

     ◇

 

 専用機持ちのメンバーがISを展開しきり、上空で次の指示を待つ。

『私はISを所持しておらず、すまないが一緒に闘ってやれない。ラウラ、お前に戦闘での指揮を任せる。頼むぞ?』

「ハッ。必ず完遂してみせます!」

 通信が切れ、ラウラが周りを見渡す。いつものメンバーから、既に箒が脱落していた。喜久を追って、一夏もこの場にはいない。

 欠けた部分を補うようにして一緒にいるのは、インドの国家代表であるカーンティとルピンデルの二名だ。敵機が迫ってくることで余裕がない、ラウラが即席での最善策を考えていく。

 各機体の持つポテンシャルを重視した相性よりも、呼吸の合う人間同士での相性を。隙なく連携行動をとれるペアを割り振っていく。

「鈴とセシリア、簪とシャルロットでツーペアだ。インド国家代表は、そのまま自国の候補生と組んでもらう。私は後衛で指揮と、苦戦しているペアへの補助をする。行くぞ!」

 指示された通り、各々が持ち場に向かって飛翔していく。身勝手な行動をとった一夏と喜久を頭の中で思い浮かべ、仮想的に二人の後頭部を思い切り叩いた。

(戻ってきたら学園の茶室に連行して、しばらくの間は矯正をしてやる)

 前方を睨めば、三組のペアが巨大なISと交戦を始めだしている。

(なんだ?)

 ハイパーセンサーが反応を示しだす。ラウラが慌てるように顔を向けると、半円ドームの天辺に少女の人影が確認できた。大きく編まれている三つ編みが靡き、それは鮮やかな銀色をしている。あんな、どこからも登ってこれないような場所に立っているだけで、不自然極まりない。

 認知しきれば、それは新たなる敵の出現だった。

「資料に目を通してはいましたが。やはり、指揮系統として機能している貴方が、一番邪魔な存在のようですね。排除させて頂きます」

 久遠はその無防備な素の状態で、ゆっくりと上空へ飛翔しだす。人が無重力化で浮くかのような光景だ。ラウラがありえないものを見たようにして、思わずその場で固まってしまう。

「ヴォータン・オージェ適合者、ラウラ=ボーデヴィッヒ。私と貴方は、境遇以外が良く似ているのかもしれないですね?」

「バカなっ!?」

 ラウラが驚愕の声を上げ、久遠の両目が金色に変色しだす。

 かつてラウラを苦しめたもの。移植手術を受けて色素が固定されてしまい、後遺症の残った力があった。だが、目の前にいる久遠は違う。その瞳の切替を可能としている。

「私の名前は久遠。他の場所では、不完全体と呼ばれていた存在です」

 青と銀の金属が殻のように久遠を包み込んでいく。それは、普段誰もが連想するISの姿とは一線を隔す形をしていた。

 両足が一つに纏められ、尾とも昆虫の腹部とも取れるような形状をしている。腕も手がなく、翼のように広がる関節のない平面に搭乗者の腕が格納されていく。鳥類なのか、それとも昆虫なのか。なんとも形容しがたいISの姿が、そこには存在した。

 ――――続く、肉の引きちぎれる音。それは人の枠を取り払った、とてもおぞましいなにか。

 久遠のISからいくつものケーブルが延び、背中へと喰らい付くようにして突き刺さりだす。ケーブルの接続されている場所から血が噴出し、汗のように垂れ落ちていく。

 傍から見える光景は、ISが人を捕食しているかのようだった。しかし、久遠は顔色一つ変えない。ラウラの引きつった表情に、少女は淡々と答えていく。

『ご心配なく、痛覚はカットされています。私の人体は、既に四割以上がサイボーグ化している。ようは、生身で残っている部位が減少しているのです。お解りですか、ラウラ=ボーデヴィッヒ。私よりも、貴方のほうがまだ人に還れているのですよ』

 久遠が空に溶け込んでいく。

 ハイパーセンサーが反応しなければ、視認も全く出来ない。初めて見るISの完全なステルス技術にラウラの目が見開かれた。

 悪い夢なら覚めて欲しい。そう思えるほどの技術格差をまざまざと見せ付けられる。篠ノ之 束は天才であり、科学の域を凌駕した世界にとっての天災といえた。

 彼女の匙加減、犀の一振りで混沌がやってくる。その一例が、今の久遠の姿に他ならない。

『では、始めましょうか?』

 瞬間、シュヴァルツェア・レーゲンの右腕に爆発の衝撃が走った。

 

     ◇

 

『……セシリア?』

「ええ、そうですわね。大きさが違えど、学園を襲撃してきたものと同系統でしょう。喜久さんが飛び出す前に言っていたことが、本当であればですが。――このISを作成したのは、篠ノ乃博士ということになりますわ」

 今まで学園襲撃を行い、無人機を裏で動かしていたのは篠ノ乃 束。世界最高の頭脳を持つISの始祖が起してきた犯行だと認識する。鈴とセシリアが息をのむ。

(なによこれ? こんな、巨大なものがISだっていうの……!?)

(なんて出鱈目な……、私の常識的価値観が、崩壊してしまいそうですわね)

 身の丈の数倍以上を超すISが、ゆっくりと構えを取り始めだす。標的は施設破壊を邪魔せんとする、IS試作第三世代機の二体だ。つまり、セシリアと鈴が敵として感知されだしている。

 ハイパーセンサーが同じ場所から、IS二機分の反応を捕捉していた。巨大な敵ISは内部に二つのISコアを有している。まさしくそれは、二人にとって得体の知れない怪物のように見えていた。

 鈴が口をへの字に結び、再度開いてセシリアに指示を飛ばしていく。

『セシリア、援護をお願い! あたしが切り込めるタイミングを作って頂戴!』

「なっ!? ああもう、相変わらず勝手ですわね!」

 相手の出方を窺うこともなく、鈴が先手必勝とばかりに飛び出していく。セシリアが文句を言いながら、射撃ビットを展開した。だが、相方の焦る理由も理解できている。

 ここはアリーナではない、だからシールドバリアーもない。あるのは地上で逃げ惑う人々と、無防備に乱立する多くの建物があるだけ。守れるものなら守らなければならない、街も人々も。大量の死傷者が出る前に、できるだけ短時間での決着が望ましい状況だった。

(飛翔なさい、ブルーティアーズ!)

 セシリアが必死の思いで射撃ビットを稼働させだす。いつものように六機までしか起動しなかったのが、今回は八機までがフル状態で射出されて宙に浮く。

(いけましたわっ!! さあ、このまま舞いなさい!)

 険しい表情のままに思考制御を開始していく。青い群れが割れるようにして、敵の視線を攪乱するように動き回る。

 鈴が双天牙月を振るい、一直線に巨大ISの右脇へと滑り込んだ。

『もらったわよ!』

 狙うは駆動する関節部分、一番装甲の薄そうな場所めがけて一閃のもとに切り込む。

 瞬間、敵の腕が肩から丸ごとパージされた。突飛な動きに対応しきれなくなりかける。勢いを殺さずに空振りによる振り抜きのまま移動、次には当たり前のように背中から衝撃が走り出す。

『きゃぁああああああああああああっ!?』

 セシリアの援護攻撃は確かに当たっていたが、余りの大きさにビクともしない。確実に敵のエネルギーを削っているはずだ。なのに巨躯が全力半回転、重力と重量無視による左腕からの殴打を鈴に放った。生身の人間が大型トラックに吹き飛ばされるように、甲龍が勢いよく上空へと投げ出される。

「鈴さん!?」

 セシリアに向かってパージされたはずの腕が向かってきだす。刹那の判断で瞬時加速をかけ、緊急回避に徹していく。ブルーティアーズにあるもう一つの武装、スターブライトネスmkⅠのエネルギー充填がようやく完了した。

「いつまでも、勝手はさせなくてよ!!」

 体を半回転、振りかぶるようにして上へと向けていた銃口を真下に定めなおす。

 ドンッ!!

 猛烈な衝撃が敵ISの頭部へと走る。腕部で防ごうとしたが、余りの弾速に対処し切れなかった。

『てぇああああああああああああああぁ!!』

 戦闘に復帰していた鈴が、敵ISの背後へと突貫した。わざとパージされていた巨腕が、見えない糸で繋がっているかのように動く。再び鈴のほうへと暴威の塊が飛来してくる。

 八連射、セシリアの偏向射撃によるビーム光が、一極集中で巨大な腕へと直撃した。腕が本来の軌道を外れ、鈴ができあがった隙へと合わせる様に双天牙月を振るう。両手で自身の真上に回転させだすと、瞬間的に最大速度を発生させきった。

「鈴さん、今です!」

『落ちろっつてんのよぉ! こぉんのおお、凶悪ISがああああっ!!』

 振り下ろした斬撃が、敵ISの装甲にぶちあたる。束によって新たに名を付けられていた、ゴーレムⅣの首から上が空高くへと回転していく。新たなパージが間に合わず、コードの引きちぎれた残骸が地上へと落下していった。

『 !? 』

 ゴーレムⅣの胸部が一部分開閉し、幾つものレンズアイが現れだす。例えれば、さながらタランチュラのような配置をしている。鈴がゴーレムⅣの出方を窺うために、距離を離してセシリアの横へと移動した。

「一撃が重過ぎる。セシリアの単発的な銃撃じゃビクともしない」

「鈴さんが決めきった白兵戦でも、直接ダメージとして有効打になりませんわね。ここは、手間がかかる方へと択びなおしましょう」

 ゴーレムⅣがパージしていた腕を肩口に付け直していく。両手が格納されて新たに飛び出すのは、巨大なレーザー式のシールドとブレード。騎士のように構え、楯を前に剣を突きの体制で威嚇してくる。

「ええ、そうね。持久戦はあたしの趣味じゃないけど、この際しょうがないわ。狙うのは、あの巨体のどこかに埋まってるISコア。私が装甲を破壊して、あんたが止めを刺す。狙撃専門なんだから、間違っても外すんじゃないわよ?」

「私を誰だと思っていますの? 鈴さんこそ、先に稼動停止して楽をしようなどとは、考えないで下さいね?」

 互いが不敵に笑う。牽制しあうようにして鼓舞しあい、目の前にいるゴーレムⅣを見据えていく。

「さあ、第二ラウンドよっ!!』

「ここで、幕引きにさせて頂きます!」

 セシリアが射撃ビットを解き放つ。鈴が一箇所めがけ、龍咆を撃ちこみながら突撃していく。首の無い敵が大鉈を振るうようにしてブレードを横薙ぎにしてきた。

「ぐうっ!?」

 双天牙月で受け止めると、勢いを殺す程度の防御が精一杯だ。

(賭けますわ鈴さん、あなたの狙った場所にISコアがあるのだとっ!)

 ドンッ!!

 スターブライトネスmkⅠから放たれた光弾が、ゴーレムⅣの楯を弾き飛ばす。続く偏向射撃、八つの光が尾を引きながら、目標へと連続で喰らい付いていった。巨大なISの装甲が破損し、破片が火を噴きながら地面へと落ちていく。

 菱形に輝くクリスタル状のISコアが、ゴーレムⅣの左胸に現れだす。

「読みが当たりましたわ! このまま――!?」

 腕、足、胴体と、ゴーレムⅣがバラバラに分かれていく。すばやく動く全てのパーツが群集となって、セシリアの方へと向かってきだす。

『セシリア!?』

 鈴が叫び、迷う暇も無くやってくる敵にセシリアが身構える。瞬時加速《イグニッション・ブースト》を使い、回避しきろうとする頬すれすれを敵の攻撃が通過していく。ゴーレムⅣの背部に備え付けられてる一〇ある砲門が開きだす。

 急激に光が溢れ出し、その全てが鈴とセシリアに向かってきた。

 

     ◇

 

 至るところで乱戦が始まっている。ラファール=リヴァイヴⅢが、今日で二度目のミラーシールドシステムを解き放つ。四方八方からプレスするように襲ってきた、ゴーレムⅣのパーツが全て弾き飛ばされていく。

 一撃の威力が必殺に匹敵する攻撃力に、全く気が抜けない。予断を許さない状況下で、後方に構えていた簪が大声を上げた。

『シャルロット、下がって!!』

「わかった!」

 打鉄弐式の砲門部分が連続で開ききり、山嵐を発動させる。計四八発の独立稼動型誘導ミサイルが、魚の群れのようにゴーレムⅣの胴体へと向かっていく。

 敵が両腕で前面を固め、両足で背部を防御しだす。

(甘い……!)

 ミサイルの群れが軌道を変えだし、隙間を縫うようにして直撃し続けていく。昼間の日の光が、強烈な爆発の閃光に飲み込まれた。これで三度目の正直、今度こそISコアを直接狙える状態に出来たことを確信する。

 煙が晴れず、肉眼での視認が出来ない。目を凝らし、身構えてハイパーセンサーへと気を配り続けていく。爆煙の下辺からゴーレムⅣのパーツが飛び出して落下していった。

(急激な熱源反応、これは……!?)

 いち早く反応したシャルロットが、鳥肌を立てて叫ぶ。

「簪、避けて!!」

『っ……!?』

 数にして幾つかも理解できない、例えれば豪雨が当てはまるだろうか。大量のレーザー光が簪に向かってくる。面で向かってくる射撃に対して、避けきれる場所が存在すらしない。

『ぐううううううううううぁぁぁあああっ!!』

 両腕で顔を隠して被弾し続ける。一発の衝撃は大きくないが、残量エネルギーの値を急激に削られ続けていった。シャルロットが簪の前に出て両腕のシールドを張るが、物理楯の装甲がもがれていく。

 三〇秒も続いた連続砲火が止み、煙が完全に晴れだす。佇むのは、人がISを纏った状態と同じ通常サイズのゴーレムⅣだ。パーツを根こそぎ切り離し、脱皮した後のようなすっきりした出で立ちをしている。

 ただ一点が違うとすれば、剥き出しのISコアが丸ごと一つの武装として機能している点だった。今まで機体重量などの欠点を補ってきた一つ分が、新たな一つへと集約していく。それは、防から攻への転化を意味していた。

 ゴーレムⅣがその場でISコアの嵌っている武装を構える。えら呼吸のようにみえる動作で、特殊なレーザー兵器が円状に広がっていく。

 束の設計したこちらの想像を遥かに凌ぐ攻撃方法に、うなじが逆立つ。

(戦闘する相手に対して、対応するタイプを変更してくるなんて……。貴重なISコアを武装だけに限定使用してくるのも、到底考えられない。認めたくないけど、このISを作ったのは間違いなく篠ノ乃博士だ)

 シャルロットが計算する。リヴァイブⅢと打鉄弐式に搭載されている最大火力を持つ武装で、どうやって強大な敵を攻略しきるかを。

 目配せするようにして、自身の最大化力を誇る武装を確認していく。打ち出せる回数は数回が限度だが、相方となっている機体の発射回数は一度きりだけだ。

「簪、旋風の準備をしてっ! タイミングは僕が作るから、それまでにターゲットの補足を!」

『うん!』

 簪が頷き、自身の周りに二つの無骨な塊を展開した。睨みながら標的を定めると、最高の合図を待つ。

 小型化したゴーレムⅣが、再びの攻撃を開始しだす。発射の一発分が千発分以上の光弾を発生させる。避けきれないが、ミラーシールドシステムを発生させることもしない。この武装の欠点は、展開中に通常速度での移動が出来ずに制限されてしまうことだ。

 両腕を前面にだして二種類のシールドを展開させる。シャルロットがダメージ覚悟の突貫を開始した。

 削れていく、迫りくる百近い光弾を受けて物理シールドが吹き飛ばされていく。残りのエネルギーシールドもどこまで耐えられるか判断がつかない。だが、それでも歯を食いしばって先へと前進し続ける。

(抜けきったっ!)

 光弾の嵐を抜け切った先、両腕にレーザーブレードを構えなおしたゴーレムⅣが身構えていた。

 近距離は独壇場、ラファール・リヴァイヴⅢが八枚羽と呼ばれているウィングスラスターをフル稼働させる。レーザーブレードが空を斬り、異常な旋回性能を活かしたシャルロットが完全に後ろを取りきった。

「お返しだよ、これでお相子だね。簪っ!!」

『いっけええええええええええええっ!!』

 ゴーレムⅣを羽交い絞めにして、簪が叫びながら打鉄弐式に指示を出す。数にして二〇〇の独立稼動型誘導ミサイルが、盛大な煙の尾を引きながら大空を舞う。その全てが未だ動けない敵を飲みこむようにして爆発した。再びの閃光、日が二つあるのだと錯覚してしまうほどの威力に、地上で逃げ惑う人々が足を止めてしまうほどの光景が広がり続けていく。

 爆発寸前でミラーシールドシステムを発動していたシャルロットが、視認不能と化したゴーレムⅣの様子を確認する。やがてハイパーセンサーから、一つ分のISコア反応が消失した。

 倒した、これで一つ目の戦闘が終わった。

「 !? 」

 煙を引きちぎるようにして機械の腕が伸びてくきだす。同時、それが鞭のようにしなりミラーシールドシステムに巻きついてくる。猿のような形状をしたもう一体のゴーレムⅣが、口を開いてギチギチと鋭利な歯の音を立てていく。

 慌てるようにして、重武装型ビームガトリングガンを展開した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告