ln   作:kiarina

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2-7-8

[ NumberingTitle_荒レル砲撃音_学年別トーナメント ]

 

 ― 7 ―

 

 

 織斑姉にノックアウトの完封負けを帰してから俺の精神は疲れきっている。唯一の癒しだった煙草はセシリアに駆逐されて完全に無くなってしまった。

 そして、シャルルには毎度の如く毒舌の嵐をくらい続けている。

「喜久さん。今日こそは、私の練習に付き合って下さいましね?」

 なにが悲しくて、授業外にこんなとこ来なきゃいけないんだよ……。

 俺はいつもより、やる気がさらにない状態で第三アリーナに来ていた。

 主にセシリアに無理やり引っ張られてだ。

「セシリア、俺は基本的に傍観だぞ。補助と助言はするが、お手本になるような実演はごめんだ」

「私は、それで全然構いませんわっ♪」

 二人で話しながらアリーナのピットゲートを潜る。すると、俺たちより先客がいた。

「あれ、凰じゃん。あいつも練習か?」

「そのようですわね」

 セシリアと二人で凰の方へ歩いていく。音でわかったんだろう、向こうもこっちに気づいて振り返ってくる。

「あら、随分珍しいわね。あんたが来るなんて今日は雨かしら?」

「良いなあ、雨で練習中止になれば最高だな」

「く、相変わらずやる気がないわね……」

 皮肉なんて単語は知らない。

 しっかし、ほんとに雨天中止にならんかね……。

 セシリアはISを展開して、その場に待機する。

「鈴さんも学年別トーナメントに向けて練習を?」

「そうよ。あたしとしては、この前のあんたとの決着を直ぐにでもつけたいんだけど?」

 勘弁してくれよ……。

 凰が挑戦的な発言をしてくる。どうせ、授業の模擬戦のことをいっているんだろうと理解できた。

 もちろん俺としては、そんなものをやる気がさらさら無い。結果、適当に手をぶらつかせながら答える。

「そうか、二人で仲良くやってくれ」

「なに言ってんのよ!? あんたのことよ、喜久っ!」

 興奮しながらISの展開が出来るなんて器用な奴だ。

 凰がISを展開しながら、怒った表情のまま俺へと機械の指を向けてくる。するとセシリアが俺と凰の間に割ってはいった。

 なんだ?

「待ってください。鈴さん、貴方とは一度よくお話をしておくべきだと思っておりますの。この意味、お解りでしょう?」

「ふーん、なんなら二人一緒にでも、あたしは構わないわよ?」

 女同士の争いは不毛にしか見えない。俺はセシリアの後頭部を軽く拳骨する。

「痛ぁ! 喜久さん、なにをなされるのです!?」

 セシリアがぷりぷりとした表情で俺を見てきた。

「セシリアなに挑発してんだ。凰も練習すんだろ? だったら、こん――

 ドンッ!!

 なことと、言う前にアリーナへ砲撃音が響き渡った。

 咄嗟に部分展開をして攻撃を防ぐ。

「ぐぅあっ!!」

 着弾した爆風の衝撃と爆音から来る耳鳴りで意識が吹き飛びかける。セシリアと凰は攻撃を避けきって、既に空中へと浮いていた。

 片目の視界が赤い……ち、額かどこかを飛び散った破片で切ったか?

 顔を適当に拭って砲撃の飛んできた方を向く。黒いボディに赤いラインが特徴的な機体は、視界の画面端にドイツ製シュヴァルツェア・レーゲンと名前が表示された。

 乗っているのは銀髪のチビだ。

「おい、てめぇ。冗談にしちゃ程があんだろ? 舐めてんのか、ドイツ人」

『フン、今のはこの前の礼だ。貴様は教官を侮辱していると聞く。ならば、ここから消し飛ばしてやろう』

 ボーデヴィッヒが再びレールカノン砲を構えた。

 ――良い度胸だ、久しぶりに切れちまったよ。最低でも腕の一本はへし折ってやる。

「喜久さん、ご無事ですかっ! 貴方、一体何を考えておられますの!?」

「ちょっとアンタッ! 無防備な人間に攻撃って、頭がおかしいんじゃない!?」

 セシリアと凰が叫び、ボーデヴィッヒが嘲笑の笑みを浮かべた。

 そして、奴は手招きするように俺たちを挑発する。

『お前らは所詮、有象無象の雑魚だ。私は三人でも構わんぞ? とっとと来い』

「セシリア、凰、お前らは絶対に手を出すな」

 できるだけ低い声を心がけて出すと、二人が俺の方をぎょっとして見てくる。ISを展開し、笑いながらボーデヴィッヒへと喋りかけた。

「なあ、ドイツ人。そんなにあのクソ教師がお気に入りか? お前の国じゃあ、同性愛が美徳なのかよ。お前は、あのメスゴリラの妾でもなりたいのか?」

『貴様ァ! それ以上、教官を侮辱すると許さんぞ!?』

 クソッタレの思考を鈍らせるなら、もう一押しってところか。

 ボーデヴィッヒの琴線に触れたらしく、冷静だった目つきが怒りの色に染まっていくのがわかる。

「なんだぁ、聞こえねぇよ。ああ、でもお前みたいな小さい奴じゃ肉もついてないしな。粗大ゴミに混ぜられて捨てられるのがオチか。いや、もう捨てられてんのか?」

『殺してやるっ!!』

「さっさと始めようや、てめぇの体を使い物にならなくしてやるからよ?」

 完全にキレたボーデヴィッヒが一直線に突進してくる。すると、奴の機体から突然、電子ワイヤーのようなものが飛び出してきた。

 

 

     ◇

 

 

「織斑先生っ!」

「騒がしいぞ、どうした?」

 千冬が歩いてアリーナへ向かっている途中、女子生徒が慌てたようにしてやってくる。なにやら騒ぎでもあったのかと、彼女は心の中で軽く溜息を吐いた。

「ボーデヴィッヒさんと市隈がISを使用して戦闘を始めましたっ!」

「あの二人か、まったく……」

 千冬の受け持っている生徒たちがアリーナで喧嘩を始めた。

 しかし、模擬戦を行なっている程度のことであれば、特に問題は無いだろうとも感じた。

「模擬戦のような状態であれば、大丈夫なはずだがな。他になにか慌てるような原因があるのか?」

「市隈が突然、織斑先生の悪口を言い出したんです。そしたらボーデヴィッヒさんが、殺してやるって!?」

「なに!?」

 喜久は学年全体の生徒たちから敵視されている。それは彼がIS批判を行なったことが原因だった。

 そしてセシリアと争った際には、ゼロ距離射撃を平然と相手の顔面へ行なっている。おまけは千冬への反抗態度だ。

 三拍子も揃った彼の行動は、周りから見れば非難の的でしかなかった。

 その結果、女子生徒から千冬に伝わる情報も改変されていく。

(あの馬鹿ものどもがっ!)

 千冬が頭の中で喜久とラウラの力を測り始める。ラウラは現役の軍人であり、間違いなく学園全体でもトップクラスの実力者だ。そんな人間が我を忘れて攻撃をし出したら、先ず相手がただでは済まない。そして、もう一人の相手である喜久も不可解な部分が多すぎると千冬の中で焦燥感が更に増大した。

 無抵抗なセシリアを平気で骨折させようとした凶暴性の強い性格、そして本人が隠しているであろう謎の力だ。

 無人機の頭部と胸部が損失していたことを思い出す。もし、喜久の実力がラウラより上だった場合は非情にまずいと感じた。

 絶対防御を突破するような攻撃が可能であれば、一歩間違えれば相手を殺しかねない状態になる。

「よく知らせてくれた。今から急いで向かうから安心しろ」

「はいっ!」

 千冬は女子生徒に礼をいうと、そのままアリーナに向かって走り出した。

 

 

     ◇

 

 

 全部で四つか。

 ボーデヴィッヒが突進しながら電子ワイヤーのようなものを発射してくる。俺は避けるのも面倒なので、ブレードを瞬時展開して先の二つを叩き落とす。次いで、残りの二つをさらに瞬時展開したスナイパーライフルで弾き飛ばした。

『くらえっ!』

 ボーデヴィッヒが叫びながらレールカノン砲を発射する。俺はスナイパーライフルを撃って砲弾の軌道をずらしながら避けると、そのままブレードを構えた。

 途端、俺との距離を縮めきったボーデヴィッヒが片手を前に翳してくる。

 は、腕をプレゼントしてくれんのかよ? だったら、お望み通りに切り飛ばしてやるよっ!

 俺は高速切替《ラピッドスイッチ》でスナイパーライフルからブレードへと変換し、素早く二刀流で対応していく。そのまま沈み込むような構えで、両手を後ろに下げて攻撃の瞬発力を溜め込む。

「ふん、馬鹿めっ!」

「なあっ!?」

 くそ、なんだこの歪んだシャボン玉の膜みたいなのはっ!

 こんな攻撃方法見たことないぞ!?

 次の瞬間、ガクンとなにかが落ちたようにラファールの機体制御が効かなくなった。

 両手は後ろにまわしているため、正面ががら空きになっている。有無も言わさず、ボーデヴィッヒのレールカノン砲が俺の顔面辺りに下ろされた。

「五体満足で済むと思うなよ? 貴様は絶対に八つ裂きにしてやる」

 くそったれがっ! 挑発したわりに、思ったより言葉が冷静じゃねぇかよ!?

 俺は忌々しいISTSを一瞬だけ発動すると、やたら軋む音を無視して全力で片腕だけを前に翳す。

「なに、動けるだと!?」

 ドンッ!!

 強烈な発射音が鳴り響き、俺は砲弾の直撃をもろに受けて後ろに吹き飛ばされる。

「がぁっ!」

 転がりながら体制を立て直すと、片腕がだらりと下がる。視線を動かして確認すると、攻撃を受けた装甲が破損して使い物にならなくなっていた。

 ち、これじゃ武器の出し入れが出来ないな。それにしても、まだ何か隠し玉があるんじゃないか……?

 腕部破損、読めない攻撃方法、おまけにISTSの反動で体も少しだるくなる。俺はしょうがなく、壊れていない腕の方を高速切替《ラピッドスイッチ》して、ブレードからライフルに持ち替えた。

『まさか停止結界が破られるとは予想外だったが。貴様のIS、中々面白いものを積んでいるようだな。それに今しがた一瞬だけ、髪の色が変わった理由はなんだ?』

「誰が教えるかよ。知りたきゃ俺を潰してから聞けよ、スクラップ」

 口が裂けても教えられるわけがない。しかしISTSを使って、ぶっつけ本番で相手のIS同調率へ侵食を試みたのは初めてだ。上手くいかなかったら、間違いなくさっきの一発で病院行きだった。

 挑発に乗ったボーデヴィッヒの目が鋭利になる。

『貴様、本気で死にたいらしいな? 望み通り殺してやる』

「うるせぇごたくばっか並べやがって。さっさと、やってみろや?」

 ボーデヴィッヒが再び突進を開始する。俺も瞬時加速《イグニッション・ブースト》で真っ直ぐに進みながらスナイパーライフルを放つ。しかし、さっきと同じように停止結界とかいう、ふざけた膜にライフルの弾が止められた。

 クソが、何でもかんでも止めやがってっ!

「ふん、学習能力のない猿め」

「余裕ぶっこいてんじゃねえよ、スクラップッ!」

 俺は短連続の瞬時加速《イグニッション・ブースト》で無理やり方向軌道を変える。後ろを取ったが奴が動じる気配は無い。

「その程度で取ったつもりか?」

 そんなこと、とっくに知ってんだよっ!

 ボーデヴィッヒが電子ワイヤーを射出する。スナイパーライフルを投げ捨て、そのまま奴の背中に組み付く。ボーデヴィッヒの電子ワイヤーが一瞬だけ動きを止めた。

「貴様!?」

 は、マヌケが威張りくさってんじゃねぇ!

 そのまま、瞬時加速《イグニッション・ブースト》でボーデヴィッヒを掴んでアリーナの端まで飛んでいく。俺の後ろから組まれた腕のせいで、奴は腹を圧迫されて息に詰まった。

「ぐっ!?」

「一発、壁にぶち当たって来いっ!」

 ガァンッ!!

 俺はボーデヴィッヒを切り離して上空へ離脱し、奴だけが壁に激突する。衝撃を受けた壁が方円上に広がる盛大な亀裂を走らせた。

 本人が速度を出して突っ込んだんだなら、例の停止結界ってのも意味ねぇだろ。借りは返したからな、これでイーブンだクソ野朗が。

 起き上がろうとするボーデヴィッヒを上空から見下ろす。

「来いよスクラップ。本番はこっからだろ?」

『貴ィ、様ァアアッ!!』

 ボーデヴィッヒの声から、今度こそ本気でキレたのがわかる。

 おもしれぇ、来てみ――

『そこまでだっ! 二人とも戦闘を停止しろっ!!』

「ち、良いところで水差しやがって」

 誰だ、クソ教師を呼びやがった奴はよ。

 織斑姉の言葉がアリーナに響き渡り、ボーデヴィッヒがビタリとその場で停止した。

 俺は織斑姉のいる管制室の方を向く。

「今は模擬戦中ですが。続行はさせてくれるんすよね?」

『模擬戦で壁を破損させる馬鹿がいるか。市隈、また謹慎をくらいたいか?』

『教官、やらせて下さいっ! この反抗分子は、今すぐにでも排除すべきですっ!』

 俺とは違う理由でボーデヴィッヒが織斑姉に食い下がる。

『馬鹿者どもが。市隈、生徒から報告があったぞ。私のことを随分言ってくれたようだな?』

 は、そんなこと知るかよ。別に減るもんでもねぇだろーがよ。

 俺は気にせず織斑姉の方を向き続ける。

『ラウラ、三度はないぞ。今すぐにISを解除し自室へ戻れ』

『く、了解しました……』

 ボーデヴィッヒは言われるままにISを解除して地面に着地した。

「おいおい、ふざけんなよ。……け、しらけちまった」

『市隈、貴様もISを解除しろ。今なら一発殴り飛ばすだけで勘弁してやる』

 地面に着地してISを解除する。俺がボーデヴィッヒのほうを見ると、奴も俺のことを親の仇のように見ていた。

『二人とも、学年別トーナメントがあるのは知っているな? ちゃんとした公式の場で勝負を競えば、今後の禍根は残さず済むだろう。それまで、一切の戦闘行為を禁ずる』

「了解しました」

「クソッタレが。わかったよ」

 織斑姉を無視して攻撃してやりたいが、向こうが返して来ないんじゃ意味がない。

『教師には敬語を使わないか。市隈、保護者に連絡を入れて欲しいか?』

「……イエス」

 流石にこんな下らないことで、姉さんに迷惑をかけるわけにはいかない。しょうがなく、俺は織斑姉の言うことを聴くことにした。

『解散しろ』

 ボーデヴィッヒは無言でアリーナを後にした。

 すると、直ぐにセシリアと凰が走り寄ってくる。俺は疲れた笑いをしながら地面に腰を下ろした。

「よう、大丈夫か?」

「喜久さん、直ぐに保健室へ!?」

「あんた、なにやってんのよ……。馬鹿なんじゃないの?」

 俺はボーデヴィッヒが歩いていったアリーナの出口を見る。すると、そこから一夏とシャルル、篠ノ乃が走ってきていた。

「ボーデヴィッヒって、意外と強いな。驚いたよ、痛ぁ!」

 セシリアが俺の後頭部を叩く。

 確か、初対面でもされたよな。

「なにを考えておられるのです!? 喜久さんは、もう少し体に気をお使いになるべきですわっ!」

 だよね、俺もこんな模擬戦は二度とごめんだ。

「喜久」

「あん?」

 パンッ

 俺は走り終えて到着していたシャルルのを向く。そしてボーデヴィッヒが対面初日に一夏を引っ叩いたように、今度は彼女が俺を引っ叩いた。

 周りにいた全員が驚いて固まっている。

「どういうつもり、こんな危険な真似をして?」

「勘弁してくれよ。先にやってきたのは向こうだし」

 適当に反発して言うと、シャルルはさらにすごんで見せた。

「それを買ったのは、喜久でしょ?」

「あ、それは反論できないな。ところでさ、シャルル」

 手をシャルルの方へ差し出す。

「なに? まだ、説教は終わってないよ」

「肩貸してくんない? 頭から血が出続けたせいで、貧血なのかわからないけど視界が悪いんだよ」

 この後、俺は保健室に連れて行かれて治療された。

 壊したラファールは、また修理行きになって一時返却扱いになる。そしてシャルルの説教はアリーナから、俺が自室で寝るまで途方もないくらい続いた。

 こんなんだったら毒舌の方が良いと俺はぐったりする。今回の騒動で一番多く俺を叱り飛ばしたのは、何故かシャルルだった。

 

 

 ― 8 ―

 

 

 シャルルに散々怒られてから数日が経ち、俺は自室でぐったりとしていた。

 回収されたラファールは欠損部分が思った程ではないらしく、もう少しすれば修理が終わるらしい。しかし、今の俺にはそんなことはどうでもよくて、全然違うことを考えていた。

「……煙草が吸いたい」

「それって、禁断症状だよね。一体、幾つから喫煙してるのさ?」

 シャルルが私物らしきノートPCでISのデータチェックをしながら、呆れたようにして聞いてくる。

「一四」

「ヘビースモーカは早死にするよ。いい機会だから、この際に辞めちゃえば?」

 うるさい、こんな状態にしたのは全部お前だろう。

 俺の備蓄してた煙草は、前回シャルルのせいでセシリアに根絶やしにされた。

 そのせいで、今は一本も無い。

「ああ、購買に売ってれば良いのに」

「未練たらたらだね」

「おかげ様で、たらたらだよ……」

 シャルルが適当な会話をしていると、ふいに廊下に出る為のドアからノック音が聞こえてきた。

「一夏だけど。入っていいか?」

「シャルルが着替え中だ」

 俺が答えると、一夏はドアを開けてそのまま入ってきた。

「だったらお前は部屋にいないだろ、喜久?」

「あら、シャルルはちゃんと一夏に自分のこと話したんだ」

 一夏の返答に、俺はシャルルが自分の秘密を一夏に告白したことを知る。ベッドで寝転んでた姿勢を直すと、一夏に席を勧めた。

 シャルルは作業を中断して、三人分のお茶を入れ始める。最近なんだか緑茶にはまったらしく、そればかり飲んでいるみたいだ。

「はい、一夏。熱いから気をつけて」

「サンキュなシャルル」

 一夏はシャルルからお茶の入ったコップを受け取って、手を添えながら膝の上に置く。俺も受け取って、ベッド脇の備え付けテーブルにお茶の入ったコップを置いた。

「喜久はシャルルの秘密を自力で気づいたんだって?」

「まあ、そんなとこ。変わりに煙草のことを黙っててもらってるけど」

 黙るもなにも、もはや一本たりとも残ってないがな。

「まだ吸ってるんだってな。喜久、いい加減に禁煙しろよ。セシリアが辞めてくれないって嘆いてたぞ?」

「だろうね」

 勘弁してくれ、あいつは俺の姑かよ……。

 一夏が困った顔をして、シャルルが頷く。俺は本題を切り出すため、この話を一旦区切ることにした。

「話しを変えるけど、一夏はシャルルのことをどう思ってる?」

「シャルルがしたいようにすべきだ。俺は、そう考えてるし協力もする。生き方を決める権利は本人だけが持ってるんだからな。それに対して親なんてのは関係ない」

 一夏の意見は、随分と熱意の篭った返答だった。

「ありがとう、一夏」

 暗に守ってやると言われたシャルルは、とても嬉しそうにしている。

「一夏が言った方向で、概ね俺の意見も一緒だから。まあ、問題はなさそうだな」

「ああ」

 シャルルは俺が思ってたよりも早く一夏に打ち明けたみたいだな。これは、予想して考えてたより良い傾向だ。

 これで今のシャルルにとって、一番アウトになりそうな原因が除外された。

「喜久、ありがとね」

「ん?」

 ふいに、シャルルが話し掛けてくる。

「喜久が僕の背中を押してくれたから、一夏にも正直に話すことが出来たんだ。だから、ありがとう」

「そう思うなら、なんで煙草の在り処をセシリアに教えたんだよ?」

「決まってるでしょ。それは、僕も喜久に煙草を辞めて欲しいからだよ」

 ぐあっ!

 ……敵が二人から三人に増えやがった。

 俺は心の中で、早く二〇歳にならないかと虚しく願う。シャルルは気分よさそうに満面の笑みでこっちを見ているが、俺の気持ちは沈み込む一方だ。そんなことを考えていると、一夏が話題を変えてきた。

「それより、喜久は誰とペアを組むんだ?俺はシャルルと組むことになったけど」

「そうだね。僕は一夏と組むけど、喜久はセシリアさんと組むのかな?」

 ペアを組むとは、学年別トーナメントのことだ。今回は、学年別トーナメントでペアを組んでの参加が義務付けられている。俺は、内心でそれに対しての方針を既に固めていた。

「俺はセシリアとは組まないよ。フリーで良いし、組んだ奴に合わせて行動するよ。ただし、ボーデヴィッヒの奴と当たるまでだけどな。あいつに当たったら、全部好きにやらせてもらう」

「セシリアさんと組まないのは、一対一で勝負したいから?」

 相変わらず女の勘てのは鋭いよな。恐れ入るし、すごい能力だと思う。

 俺は心中で手放しに、シャルルへ賞賛を送る。

「そうだよ。あいつは連携を望むだろうからさ。でも、それじゃあ一夏のねーちゃんに、お預けくらってる意味が無いだろ?」

「気持ちはわかるけどな。でも、ラウラは強いぞ?」

 前に頬を叩かれた記憶が過ぎったのか、一夏が少し嫌そうな顔をした。

「シュヴァルツェア・レーゲンには、AICもあるしね。喜久、勝算はあるの?」

「無いよ。だけど、一回は身をもってAICをくらってるからな。もう、あんな不意打ちは食らわないさ。皮肉だけどな、ISの操縦だけなら俺はあいつに負ける気はしない」

 俺が意気込んでいると、来客を告げるノックが廊下側のドアから聞こえた。

 話を中断してドアの方へ向かう。

「どちらさんすか?」

「セシリアです、開けて頂けますか?」

 うわ、話題に上がってた人が来ちゃったよ……。

 俺が後ろを向くと、一夏とシャルルが苦笑していた。

 さて、なんて言って向こうに納得してもらおうか。頭の中で思案しながら、ゆっくりドアを開けて彼女を迎え入れた。

 

 

     ◇

 

 

 学年別トーナメントの当日。俺は、相方になった人間とアリーナの中央で相手チームを見ていた。

 そして、胸糞悪い相方に対して盛大に舌打ちをする。

「くそったれ、なんでお前が相方なんだよ?」

「それはこっちの台詞だ。これでは、貴様との勝負を預けた意味が無いではないか」

 俺の労力を返せや、このドイツ人め。

 よりにもよって、自動的に決められた俺の相方はボーデヴィッヒだった。

 これじゃあセシリアに、ものすごい苦労してペアを断った意味が無い。自分の中でのやる気が、どんどん萎んでいくのがわかる。

「俺はお前とやる以外、なにも興味ないからな。試合が始まっても、戦う気なんてさらさら無いんだよ。むしろ、棄権したい」

「貴様との勝負は預けといてやる。私は織斑一夏にも用があるのでな。もし勝手に棄権してみろ、その時は貴様を血祭りに上げてやるから覚えておけ」

「は、言ってろよ」

 最早、チームプレイのチの字もない。だらけた姿勢のまま対戦相手を見る。そこには、やる気満々な一夏とシャルルが居た。

「お前の力は借りん。せいぜい後ろで指を咥えて観戦しているのだな?」

「名案だな。そっちが全部やってくれんなら、俺は後ろで寝てるとするわ」

 ビーっと、試合開始の合図が鳴る。ボーデヴィッヒが前に、俺は後ろに下がりISを粒子化した。

 そして、そのまま寝転んで欠伸をする。楽をさせてくれると言うのだから、喜んで答えよう。前方ではボーデヴィッヒと一夏、シャルルがアリーナを最大限に利用して戦闘を開始している。そして、一夏から「喜久、まじめにやれっ!!」と大声が聞こえた気がした。

 そんなの知ったこっちゃない、文句はボーデヴィッヒに言えよ。

 ISは完全に仕舞い込んでしまったので、今は通信さえできはしない。織斑姉の阿修羅のような怒り顔が浮かんだが、気にしないで俺は観戦を楽しむことにした。

 しかし、そうはさせまいとアリーナ中に響く、織斑姉のふざけた命令が俺の耳に入ってくる。

『織斑にデュノア、お前たちの試合形式を変更する。暫定ルールだ。参戦していない馬鹿を倒したら、その場で勝利したことをを認めてやる。今すぐに銃弾を浴びせろっ!!』

 ふざけんな、何でそんなにドSなんだよ!?

 ISを瞬時展開してスナイパーライフルを構えると、シャルルが俺の方へ向かってきた。

 おいおい、俺のことは無視してくれよ。本当にさ……。

「さぼる喜久が悪いんだよ。そのまま、僕に倒されてくれない?」

「やだね。だいたいな、俺は『面倒臭いは放棄する』ってのが、座右の銘なんだよ」

 オレンジの装甲に包まれたシャルルが高速切替《ラピッドスイッチ》を使いながら多種類の武器から銃弾を弾幕のように放ってくる。俺は短連続の瞬時加速《イグニッション・ブースト》を利用して、それを一発も弾が掠ることなく避けきった。

 すると、今度はライフルとブレードに装備を整えながら、シャルルが俺との距離を計ってその場で停滞しだす。

「さすがは喜久。怪物じみた動体視力だね?」

「そんな評価は嬉しくねぇよ」

 俺はスナイパーライフルを両手に持って、弾丸を発射した。

 シャルル目掛けてそれを撃ち放つと、そのまま急接近を仕掛ける。すると、シャルルは俺の攻撃を避けながらライフルをすぐさま高速切替《ラピッドスイッチ》し、マシンガンの乱れ撃ちを開始した。

「じゃあさ、これには付いて来れるか?」

 笑いながら言って、持っているスナイパーライフルをシャルル目掛けて思い切り投げる。次いで瞬時展開で取り出した二つ目のスナイパーライフルを構えると、そのまま投げぬいたスナイパーライフルに向けて弾を発射した。

 シャルルの近くで投げたスナイパーライフルが爆散して、円状に飛び散る破片と煙を発生させる。

「くぅ!?」

「破片の散弾効果だ。避けられないだろ?」

 煙の舞っている状態に構わず、シャルルの元へと突進していく。灰色の世界が覆う視界の中へ突っ込むと、シャルルが盾を構えているのが目に入った。

 どうやら、ぎりぎりで高速切替《ラピッドスイッチ》して防御したらしい。本人の技巧が優れている分、その堅実な部分が硬さになってISに反映されているのがわかった。

 打撃は受けられる。しかし、掴むことはできるだろう。すかさずシャルルの後ろに回りこむと、持っていたスナイパーライフルを粒子化してシャルルの片足を両手で掴みとる。

「股が裂けたら、責任とってやるよ?」

「なぁっ!! 変――

 変態と言いかけたんだろう顔の真っ赤なシャルルの言葉が千切れ、俺を軸に盛大な回転を開始する。片足ジャイアントスイングはISの力を借りて、ジェットコースター並みの速度を直ぐに叩き出した。

 男じゃなけりゃ、股関節が地味に痛くなるくらいの筈だ。俺は目標物の狙いを定めるために、辺りを見回す。確認すると、離れたところで一夏とボーデヴィッヒが接近戦を行っていた。

「一夏ぁ! プレゼントだこの野郎っ!!」

「ええ!? きゃあああぁぁぁああああああああああっ!!」

 最後の一回転に瞬時加速《イグニッション・ブースト》で捻りを加えて、悲鳴を上げ途中のシャルルを投げ飛ばす。人間砲弾の如く飛んでいったシャルルが、ボーデヴィッヒの背中に激突した。

 そのまま仲良く一夏を巻き込んで、アリーナの端に二度目の激突を起こす。

 すると、いち早く起き上がったボーデヴィッヒが、お返しとばかりにレールカノン砲から弾を発射してくる。俺は再び瞬時展開したスナイパーライフルで射撃し、飛んでくる砲弾の軌道をずらしながら避けきった。

『なんの真似だ、貴様ァ!!』

 激昂したボーデヴィッヒが、俺に向かって叫ぶ。もちろん、俺の方に一人よこしたから送り返しただけだ。当然、織斑姉のことをボーデヴィッヒに八つ当たりするのも忘れない。姿勢を直すと、スナイパーライフルを更に展開して両腕に装備を整えた。

「一夏に投げたんだ。でも外れたみたいだな?」

『ぬけぬけと嘘を吐くなっ! 思いきり、狙っていただろうが!?』

「俺を殴りたきゃ、二人に勝ってからしろ。もちろん、俺は手伝わないから。あしからず」

『貴様っ! 終わったら、覚えていろっ!?』

 やなこった。

 俺は適当にその場で待機して、戦いを見守る。対戦相手の一夏とシャルルも、俺のやる気が完全に無いのがわかったのだろう。

 二人掛かりでも厳しいボーデヴィッヒの方へ、攻撃を集中し始める。戦闘が本格化して時間が流れていくが、有利だったボーデヴィッヒがあるところで押され始めた。

 ボーデヴィッヒの能力値は高い。が、連携の取れた一夏とシャルルにやり返され始めている。俺は戦うつもりが無いので、ボーデヴィッヒが負けたら棄権するかなどと考え始めた。

 ――そして、一気に試合進行が変化し、シャルルがボーデヴィッヒを追い詰め始める。いつの間にやら覚えたのか、瞬時加速《イグニッション・ブースト》で一気に距離を詰めていく。しかしそれも束の間で、このままだとシャルルがボーデヴィッヒのAICに止められてしまう。

『ふっ。だが、私の停止結界の前では無力っ!』

 あれじゃ、まんま悪役の台詞だな。

 ボーデヴィッヒが勝利を確信した台詞を叫ぶ。しかし、ボーデヴィッヒがAICを発動する前に、一夏がシャルルのアサルトライフルで発射した弾丸を奴に当てきった。

 続けざまに、シャルルのパイルバンカーみたいな攻撃が決まる。ボーデヴィッヒの表情が歪んで見えると、威力が強すぎて人体にも影響が出ているのがわかった。

 シャルルはそのままの勢いで同じ攻撃を放ち続けながら、ボーデヴィッヒと一緒にアリーナの端まで移動し続ける。

 これは、流石に決まっただろうな。

 俺は棄権するために、手を上げて白旗を揚げる準備をする。

「一夏、俺は棄権する――

 からと言いかけた瞬間、ボーデヴィッヒを中心に閃光が走った。

 シャルルが、その場から盛大に吹き飛ばされた。

 

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