ln   作:kiarina

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[ NumberingTitle_天才ガ敷ク原則 ]

 

 ― 9 ―

 

 ラウラが上空で、なにもない前方を威嚇し睨みつけていた。驚異のステルス技術を用いた敵ISを捕捉することができず、焦りだけが募ってしまう。左下端へと視線を動かせば、エネルギー残量値も残り僅かだ。平常心を保つも、ジリジリと精神が疲弊していく。

『ラウラ=ボーデヴィッヒ、一つ教えて差し上げます。私が使用しているIS、七宝《しっぽう》は貴方と同じ第三世代型どまりです』

 声の発生した方向を捉えることが出来ない。それでいて、言われていること自体に拒否感が伴う。

(これだけのポテンシャル差がありながら、私の機体と同世代だと!?)

 額に流れる一筋の汗、ぼっきりと心がへし折れかける。歯を食い縛り、気力を振り絞った。戦意を失ってはいけない、まだ負けが決まったわけではないのだ。後悔も反省も、死力を尽くしたあとにすればいい。絶望的な戦力差を埋めるためだけに思考していく。

 シュヴァルツェア・レーゲンからワイヤーブレードを射出した。既に四本のうち一本が、激しい戦闘の末に大破している。三本の線がランダム軌道を描いて乱舞しだす。

 ステルスシステムが完全であっても、久遠が物理的に消滅しているわけではない。ブレードのうち一本だけが当たれば場所を特定できる。あとは一拍の間も空けずして、近距離勝負へと持ち込めるか。

 三本が同時に動きを止めた。次の瞬間、ワイヤーブレードが爆散しだす。あっという間もなく、一つの武装が全て使用不能になってしまう。

「見つけたぞ!」

 叫びながら両腕にプラズマ手刀を発生させていく。標的を絞り込み、二刀をもって一直線に切り込む。塵煙《じんえん》が舞う。不自然に流動する箇所、一部が引っかかりのようにして濃度を増していた。そこに久遠がいる。

「空間歪曲が出来ない、三次元の世界で留まっている。確かに、貴様は私の機体と同程度でしかないようだ!」

 所詮はカメレオンのように擬態化しているだけ。赤紫に輝く刃で一閃のもと、クロスして振りぬく。久遠が実態化して両の翼を盾にした。少女が真顔で質問してくる。

「これが貴方の本気ですか?」

「私を舐めるなよ、小娘」

 両手を前面に振りかざす。ダブルAICを発動させ、七宝《しっぽう》を完全にホールドしきった。頑丈な檻が何乗にも増して、捕捉困難だった凶敵を捕らえ続ける。レールカノン砲を構え、久遠の眼前に定めていく。

「もらったぞっ!!」

 一撃を決めきった確信の言葉を言い放ち、

「ラウラ=ボーデヴィッヒ、残念です。なぜ貴方は、この場が私一人だけなのだと誤認していたのですか?」

 相対し冷めた金の双眸が細まっていく。諦めではなく呆れだと受け取れる表情から、全身に寒気が走った。シュヴァルツェア・レーゲンの機体から、金属質の光沢が消失しきる。絶望を体現するかのように、巨大な影がラウラの全てをすっぽりと覆いつくす。透明化していたゴーレムⅣが現れ、回避不能なブレードの一撃を放ってきた。

「がっ!!」

 捨て身でレールカノンから砲弾を撃ち切った刹那、衝撃、激痛、混乱へと大量に様変わりする色の世界が襲ってくる。シュヴァルツェア・レーゲンが地上を抉り、立て続けに商店の連なる建物へと突っ込む。三軒分を並々に貫いても勢いを殺せず、四軒目を突き破って大通りへと転がり出た。

 瞼が重い、強烈な眠気に苛まれだす。息も切れぎれに状況を確認する。機体の甚大な損壊によって、緊急アラートがけたたましく耳に入ってくる。

(エネルギー残量値、二二。くそ。私ができるのは、ここまでなのか……!?)

 意識が朦朧とし、腕が上がるか上がらないか程度の余力しかない。巨躯を従えた少女が見下ろしてくる。金色の瞳で見据え、淡々とした声が告げてきた。

『さようならです』

 ゴーレムⅣが横回転し、背中を向けてくる。一〇門の発射口が開かれると、死の光が収束しながら現れだす。動けない、これ――

 ズンッ!!

 全く別の場所から破裂するような音が聞こえた。久遠が即座に顔の向きを変えだす。ハイパーセンサーが、突如として新たに出現した機体に反応していく。

 空気を突き抜ける微弱の衝撃波がラウラの肌に突き刺さる。空中で紅い機体が停滞していた。ぴくりとも動く様子がなく、搭乗者も顔を下に向けている。

(箒……、なのか?)

 胸を締め付けられるような、圧迫感といえるなにか。なんとも気持ちの悪い感覚を受けた。

『かあ、あ……あぁぁあア。アア…………、アアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 怒声。いや、これは悲鳴に近いものだろうか。

「なんだ、あれは?」

 紅椿を中心にして赤紫の光が溢れ出す。止め処なく流れ出続けていく姿は禍々しく、まるで世界を枯らしてしまうかのような光景だった。機体が紅より深く、展開装甲は淡い赤から青紫へと変色しきっている。呟かれる怨嗟が空間を侵食していく。

『――――コワシてやル…………、なニもカモ……………………』

 箒が両腕で上半身を抱え込み、展開装甲のエネルギーが伸縮しだした。一二ヵ所から光の刃が敵めがけて向かいだす。

『 っ!? 』

 指令を受け取ったゴーレムⅣが、盾になるようにして久遠を庇う。シールドバリアーと絶対防御が突破され、巨体が串刺しになった。ビタリと停止したエネルギーソードの挙動が、数拍の間を置いて上下左右に動き出す。

 強度を持つ装甲が飴のように引き裂かれ、宙でそのまま分割された。スクラップになったゴーレムⅣの残骸が、朽ち果てた二つのISコアまで含めて落下していく。他の専用機メンバーが苦戦した相手をたったの一体で駆逐していた。

 久遠が七宝を駆ってステルス化し、目標物を捕捉できなくなった箒が吠えだす。

『ニが、サん……、うあアウウうウウがアアアアアアアアアッ!!』

 ラウラが呆気に取られて上空へと顔を向けていた。視界画面に警告文が流れ出し、思わず戦慄する。

 【『黒緋椿《くろあけつばき》』より急激上昇する熱反応を感知。広範囲兵器『浄土旱魃《じょうどかんばつ》』の使用を確認】

 個体識別名である紅椿の呼称が変化していた。周囲を気にせずに攻撃を放とうとしている。今の異常事態を認識しきって、過去の記憶が蘇った。去年、自身が引き起こしたVTシステムの惨事を。

(まさか、ISが暴走状態に陥ったというのか!?)

 連続の暗転。白の世界、黒の世界、また白の世界。生まれた閃光が昼間の光、喧噪の騒ぎ全てを呑み込む。箒のいる場所をを中心にして、半径〇・五キロが焦土と化しだす。

「ぐうぅ!」

 ラウラが歯を食いしばって衝撃波に耐える。建物、牛、車、人、ありとあらゆるものが突風に吹き飛ばされだす。束の襲撃が始まって半日と立たず、一国の一つの首都が壊滅していく。

 久遠が再び実体化し、防御した状態のまま灼熱に飲み込まれていた。箒は荒れ狂う、目の前に存在するISを狩り尽くすために。

 七宝の装甲が熱を帯びて変色し、瓦礫色のように黒ずむ。

『ああアアああアあアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!』

 絶叫が木霊す。展開装甲から放たれる一二の光刃が、迷わず久遠を貫かんとする。透明化しても無駄だといわんばかり、問答無用でありとあらゆる場所を串刺しにしていく。

 素早い広範囲攻撃から逃げきれない。丸焦げになっている七宝が姿を現し、防御に回した翼が切り刻まれた。後ろに吹き飛びながら、冷静に目を細めていく。

『仕方ありません、ここまでですね』

 短く呟いたあと、数百個のデコイを空中に散布しだす。計器類に誤作動が発生したと思うほどに、ハイパーセンサーが莫大なISの数を捕捉しだしてしまう。

 突然現れたイナゴの群れのようだった。認識固体名が全て七宝と表示されていく。目視で捕捉しきろうとも、久遠は既に透明化しきっていた。

 目標を取り逃した箒が雨月と空割れを振り回す。苛立つようにしてデコイを破壊し続け――

『てキ?』

 恐怖の言葉を発した。

 箒の顔が、ぐるりと向きを変えていく。標的が変更され、新たな敵を捕捉しだす。暴威が見る視線の先にはラウラがいた。

「やはり、敵味方の判別能力も失ったかっ!? 箒、目を覚ませ!」

『てキ、アイエす……、コワす……、全テっ!!』

「ちぃ!」

 黒緋椿《くろあけつばき》が再び動き出し、全速力で向かってくる。体力は疲労困憊、機体の稼動限界も近い。ISの暴走は、ISのみでしか止めることが出来ないのだ。

 最早、ないないづくしでの戦闘が始まった。

「くそ、速すぎるっ!?」

「ハジけトべッ!!」

 接近を許したつもりもなければ、一キロ以上の距離も開いていた。狂気に駆られた仲間が、音速を突き破ってきたのだ。しかも急停止の反動を簡単に殺しきっていた。ゼロ距離で穿千が放たれる。

 翳しきっていた腕からのAICで防ぎきり、急場を凌ぐ。予断を許さぬ連撃、展開装甲から一〇の光刃が舞う。踊るようにして広がり、落下するような勢いでラウラの咽元数ミリを裂く。

「ゼハ、ハァ、ハァ……!」

 荒い息を吐き散らし、見境のない破壊の権化を檻へと閉じ込めることに成功しきる。残されていたもう一つのAICを起動し、箒の動きを抑え込む。視線だけ動かせば胸部、側頭部、下腹部のありとあらゆる急所が狙われていた。

 目の前には怒りに満ちた目が、涙を流しながらラウラを睨みつけ続ける。

「箒、すまない。恨むのであれば、私を恨め」

 レールカノン砲をかざす。残りは撃てて一発、確実に稼動停止へと持ち込める相手の首へと狙いを定めていく。

 泳ぐ視線が気になった。箒が何かを操作しているように感じとれたときには、もう回避だけで精一杯だった。

「がっ!?」

 ラウラの右足太腿が数センチ裂け、鋭利な激痛が走る。展開装甲のビットが上空から一気に急降下して胴体を刺し貫こうとしてきていた。殆ど奇跡に近い回避に成功するが、片足を負傷してしまう。

 目の前に佇む禍々しい姿が網膜に焼付く。殺されたと思った。だが、違った。

「こワす――

 突然現れた白い機体が、体当たりをして箒を巻き込んでいく。二機は上空高くへと飛翔し続ける。怪我を負っていた一夏が必死の形相で呼びかけた。

『箒っ!!』

 まるでハッとなったような表情で、箒の顔がみるみると変化しだす。瞳が正気の色を取り戻し、機体が粒子化されていく。

『…………………………イ…………、ち、カ……?』

『もういいんだ!? 戦闘は終わったんだ! だからもう、戦わなくていいんだ』

『わタしハ……、わたしは、なにを、一体なにをしたんだ――――

 

     ◇

 

 世界の歴史上において、新たな出来事が刻まれた日。それは今まで各国間の勢力抑制として機能していたISが、初めて軍事行動をとったということだった。

 IS同士の大規模な戦闘が終結してから五時間が経過していた。一国の首都は多大な被害を被り、未だ辺りは炎の熱気に包まれた瓦礫だらけの空間が広がる。充満する血臭と子供の泣く悲痛な叫び声、道端には運悪く巻き込まれ負傷した人々の姿が目立つ。一日で出来上がった内戦後のような風景が、ISという兵器の威力を物語っている。

 軍も警察も機能していない治安麻痺の状態で、パニック化した人々が店々を集団で襲う。我先に略奪した戦利品を両手に担ぐ。首都の中心部から一帯に大停電が起こり、交通状況もクラクションの嵐が鳴り響き渡る。正確な負傷者数と死亡者数が未だに特定できず、自国のマスコミも混乱の危険度合いから取材ができずにいた。

 破壊されたもの、破壊を免れたものがある。暴威の去ったISエネルギー開発機構研究所内の一角で、その女性は鼻歌を歌っていた。既に施設は厳重な施錠のち完全放棄され、研究員まで含めて一人残らず退避している。なのに不法侵入の女性は、設置された椅子に座って当たり前のように寛ぐ。指で小振りに指揮をとり、顔を左右に揺らして待ち人を待つ。

 聞こえてくる音は、どこか楽しげだった。

「ふん、ふーん、ふふふん~っふふんっ♪」

 約束をとっているわけではない。だが、女性は当たり前のようにここに来ると確信しきっている。

「おっそいな~、まーだかな~?」

 リズミカルにテーブルを叩きだす。軽く打って遊んでいると、やがて違う音が混ざっていく。足音がゆっくりと近づいてくるのを確認し、女性はにんまりと笑顔を作った。手遊びを止め、両手で三角を作りながらで迎える。

「やっぽー、ちーぃちゃん」

「お前の携帯に繋がらなかったのでな。こちらから出向かせてもらった」

 千冬が束の反対側にある椅子に腰をかける。

「いやー、私としては、このちゃっちぃーっな建物を壊せれば、それだけで良かったんだけれどね。予想よりも被害が大きくなっちゃったのは、まあしょうがないか」

「嘘をつけ。今回の惨事はお前の中での想定内だろう。学園生がいる間での攻撃だ、防衛網はきっちりと敷かれる。束、本当の狙いはなんだ?」

「さっすがちーちゃん、解ってるくせにぃ♪ 」

 少しの間が空き、全ての元凶は正解を紐解く。

「――そうだよ、私の目的は警告なのさ。私が目指すISの理念から外れたものには罰を。当然だよね、誰の許可もなく横道に逸れるんだもの。だから、今回はその見せしめ」

 楽しそうに語る束にしてみれば、積まれていた積み木を引っくり返したような感覚に近かった。ようは、束の最終目的は警鐘だったのだ。私に賛同しないものは、それ相応の裁きを受ける。今回はゴーレムⅣによる都市破壊という出来事。ここからインドが被ったものは、計り知れない程の経済的打撃だ。首都機能の麻痺は国全体の機能低下を意味する。人間で言えば、血液を循環させる心臓のようなポンプシステムを失ったことに等しい。重要な案件もこなすことが出来ず、他国との経済競争にも大きなマイナス要素を孕む。

 束がインドに対して行った代償は、余りにも重過ぎた。さらにこれは他国への警告も含み、私の神経を逆撫でするなと一方的に告げるもの。全世界に対し、地球という一括りに対して、その眉間に銃口を突きつけるような行為だった。

 天才は嬉しそうに外を眺める。外にある自身の行ったものを見つめながら。その行為が後悔を目に焼き付けているのか、達観した我関せずのような他人事のように見ているのか。彼女の瞳の色は何も語らない。

「まあ、暫くは都市機能の建て直しに専念だね。予算に手間暇のかかる研究所も凍結。これでももう一度稼動なら、私ももう一回動こうかな」

 黙って聞いていた千冬が口を開く。

「なぜ、学園の行事と重なるようにして騒ぎを起した?」

「え~、私が非効率を嫌うのは知ってるでしょー? 一緒にしちゃった方が楽で良いし」

 束がテーブルに肘をつき両手を組む。指の上に顔を乗せて体をリラックスさせていく。そんな解りきった話は退屈でしょうがないと、違う話題を要求するような仕草だった。だから、無理やりに話を切り換えだす。

「良かったね、ちーちゃん。これであの時に白騎士へ搭乗したことが、正解だと立証されたも同然だよ。ミサイルを撃ち落さなかったら、きっとこんな風になってたんじゃないかな?」

 九年前のあの日、束が最悪の舞台を整えた日。千冬が白騎士を駆っていなければ、日本は終わっていた。それの体現が、今ある目の前の光景だと。そう、束がにこやかに語る。

 千冬が束から目を逸らして外を見た。黒煙と騒音を感じ、再び視線を戻す。

「そうだな、悪くない選択だったと言えなくもない。だが、お前だけではない。これは私の軽率さが招いた結果でもある。束、お前を止めれなかったことが、私の最大の罪だ。それもここでを終わらせる」

 嘘偽りない真摯な瞳で捉える。束は愉快に手を叩く、千冬に純粋な喜びと愛情の眼差しを向けて。

「いやいや~、まだまだ序章だよんっ♪ 前菜を取らずにメインディッシュを食べたらツマラナイでしょ? いっくんは着実な進化を遂げている。箒ちゃんも第四世代機を使いこなすまで、もう少し」

「悪いが、二人はお前のモルモットではない。即時に独り善がりの享楽から開放しろ、付き合う義理があるのは私だけだ」

「なにいってるの、勿論ちーちゃんも一緒に含まれてるよ?」

「IS委員会としては、お前を自由にさせておくとしている。しかし、私は違う。この場で拘束させてもらうぞ?」

 腕が伸び、束の襟首を通過する。千冬は自身の目が誤魔化されていたことに気づき、束の座っていた椅子を蹴り上げた。軽い、人体の重さが全く感じられない。激しい落下音をあげる椅子と機械のボールが地面で転がる。

 実体化を持った虚像があるわけがない。先ほどテーブルを叩いていた音はなんだったのか。構造の仕組みを予想できない。だが、理解できないことは切り捨ててしまえばいい。優先順位の判断を間違えて思考力を削ぐ意味は無いのだから。見るべきとことろ、目的となる核は別にもある。

『あっははーっ! 騙されたね~? よく出来てるでしょう、この束さん特製フォログラフィーっ★ 流石の私でも、ちーちゃんに力で勝てるとは思ってないからねー』

「そうか。だが、私にも囮の役割があってな。――いるのだろう、この場を見届けている者が?」

『さすがだね、ちーちゃんっ! ステルス技術は完璧なはずなのに、くーちゃんの場所は解るんだ!?』

「姿を消そうと、本人の気配までは消せまい」

 次の瞬間、けたたましい音と共に一機のISが割り込んできだす。真耶が軍用に配備されていたラファール=リヴァイヴを駆って、問答無用とばかりに部屋へと雪崩込んできた。同時に刃が剥き出しの刀を投げ渡す。千冬がすかさず片手で柄を掴み、振りぬく勢いで構えた。

『織斑先生っ!?」

「ああ、ここで捕らえきるぞ」

『えーぃ、捕まってなるものか~。くーちゃん! 全力逃亡、よ~いドンッ★』

『了解いたしました』

 何もない空間から声が聞こえ、

「そこか」

 千冬が脇目も振らず、一点目掛けて刀を投擲していく。空中で何かにぶつかり、異常な挙動で撥ね返りだす。真耶がグレネードを三連続で投擲した。ISにとって密閉された空間では、行動範囲が制限を受ける。久遠が実体化して防御していく。

『子供だましで捕獲ですか?」

 三発目として放たれていた弾が爆発し、七宝を覆うように捕縛用ネットが飛び出す。室内が光による蹂躙で満たされる。久遠からの攻撃でネットが燃え尽きた。

「そうだな、子供にはこれで充分だろう?」

 真上から声が聞こえてくる。ダークグレーのスーツ姿が見えたところで久遠の顔に衝撃が走りだす。千冬が投げ捨てた刀を拾って跳躍、強烈な一撃を加えきった。しかし、ISの機能に守られて久遠には傷一つ入らない。

「真耶!」

「はい!」

 今度は真下、久遠を挟み込むようにしてアサルトカノン《ガルム》の銃口から火が生まれる。少女が焦ったようにして下を向く。千冬からのが目くらましだと気づくが、それ以上に納得がいかない点が存在した。久遠の七宝と床の間に、他のISが割り込めるスペースが殆ど無いのだ。そう、三〇センチ程度の幅にそれ以上の大きさを挟める余地がない。

「部分展開!?」

 真耶が両腕以外を粒子化していた。続けざまに放たれる近接ブレード《ブレッド・スライサー》から斬撃、床を蹴ったと同時にラファール=リヴァイヴが全面展開されていく。完全に懐へと入られては防御の仕様も無い。

 久遠が自爆覚悟の爆発を仕掛ける。大量の細い透明なチューブを射出し、室内を再び光で蹂躙した。

「くっ!?」

 焼け焦げた銀の装甲に満開の火花が散りだす。返されるは重機関銃《デザート・フォックス》からの近接射撃。真耶が防御しきって反転攻勢をかけてくる。防御から攻撃に転じだすまでの素早い技巧に久遠の動きが追いつけない。一息つく間も空けてもらえないほどに苛烈な攻撃量。IS戦闘での世界二位と同列の実力を持っている者が、その優れた技で迫ってくる。

 真耶の後ろに隠れていた元世界一が、横薙ぎの斬撃を久遠へと容赦なく放つ。走る首筋への衝撃、素の人間であれば首から上が斬り飛ばされている。真耶からの攻撃以上に千冬の目眩ましの方が厄介だった。判断遮断された数秒の隙間を縫うようにして、真耶が両腕に連装ショットガン《レイン・オブ・サタデイ》を構えきっていく。

「終わりです!」

 屋内という狭い空間、一対二、世界と渡り合える実力者。むこうの三つのカードに対してこちらのカードが悪かったようだと、久遠は冷静に判断して一室を爆発した。ホールへと黒煙から飛び出すようにして七宝が後ろへと距離をとる。

 グレネード弾が久遠の顔面に接地する瞬間、七宝が膨大な光を放つ。弾が久遠の体を突き抜けて壁に直撃した。爆発して出来た破片と煙も同じようにして体を通過していく。物理に反した現象が起こり、気づけば少女の姿がISごと消失していた。

 これが久遠の七宝が扱う隠し玉の武装、『瞬間転移《ワープドライブ》』。暴走した紅椿と相対していても余力を保っていたが、目の前にいるのはそれ以上の実力者。二人に対しては逃げ切れないと判断を下した。

 真耶がハイパーセンサーで索敵しようとするが、千冬が顔を左右に振る。探したところで見つからないと、操作の中断を促す。ぼろぼろに刃毀れした刀を見ながら、これからのことを考えていく。

「取り逃がしたな」

「はい、面目ありません……」

「気にせんことだ。しかし、こちらの読みを上回ったか。まさかここまでの機能をISで実装してくるとわな」

 千冬が服に付着した埃を払い、真耶がラファール=リヴァイヴを粒子化していく。ここにきて、今回の戦闘に本当の意味での終焉が訪れた。

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