ln   作:kiarina

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[ NumberingTitle_暴走IS_対話ノ時間_出サレタ答エ ]

 

 ― 9 ―

 

 

「あぁぁぁあああぁぁあぁああああああああああっ!!」

 おいおい、ボーデヴィッヒは一体なにしてんだよ?

 ボーデヴィッヒの悲痛な叫び声がアリーナ中に響き渡る。それは何を求めて叫んだのか、理解不能な雄叫びに聞こえた。

 一直線にダッシュして、尻餅を着いているシャルルを立たせる。

「大丈夫か?」

「僕は平気だよ。それより……」

 一夏の方を向いて異常が無いのを確認すると、俺は再びボーデヴィッヒの方を向く。そこには、IS以外のなにかに変態《メタモルフォーゼ》していくような、シュヴァルツェア・レーゲンの姿があった。

 黒いスライムがボーデヴィッヒを覆いきって、中に取り込んでいく。そして、それは人型に落ち着くと、原型とまるで違うISの形をしていた。

「――VTシステム?」

「え?」

 無意識のうちに黒く象られたISの名前を呟き、それにシャルルが反応した。

 昔にいたところで、学習させられた知識が蘇る。しかし、あれは条約かなんかで禁止されている筈だ。なぜこんなところで、ボーデヴィッヒの奴が、それを起動させてるのか理解できない。

 焦りながら考えていると、突然に一夏がVTシステムに飛び掛かった。

 その行為に思わず叫んでしまう。

「馬鹿やろうがっ!」

 その場から咄嗟に瞬時加速《イグニッション・ブースト》をして、一気にVTシステムへ距離を詰める。一夏は剣戟による一撃の打ち合いの後、二撃目を避けた瞬間にISが粒子化した。

 エネルギーが切れてISが強制解除されたらしい。

「それがどうしたああっ!」

「どうしたじゃねぇだろ!? お前は阿呆かっ!!」

 ガッ

 まずいな、思ったより吹っ飛んだよ……。

 俺がISの腕で、一夏の顔に軽くラリアットをかます。極力加減して抑えたISの威力は凄まじ、く一夏は後ろへと盛大に吹っ飛んだ。

「死にてぇのかよ、一夏?」

「うるせえっ!! 邪魔すんじゃねぇ、喜久っ!!」

 一夏が立ち上がり、VTシステムに再び突撃しようとする。俺は溜息を吐くと、持っていたスナイパーライフルの銃口を奴の目の前に突きつけた。

 流石にこれは効いたのか、一夏が思わずその場で立ち止まる。

「もう一度聞くぞ。お前は、死にに行きたいのか?」

「頼む喜久、どいてくれっ! あれは、千冬姉なんだよっ! 千冬姉だけのもを……あいつはっ!」

「頭冷やせよ。お前、興奮しすぎだぞ?」

 説得するようにゆっくりと話す。少し落ち着いたのか、VTシステムばかり見ていた一夏がやっとこちらを向いた。

 視線だけ動かしてVTシステムの方を確認する。奴は俺と一夏が問答している最中に、攻撃を仕掛けて来なかった。

 そのことから、カウンター型に設定されているらしいことがわかる。

「それにな、喜久。俺はあんなものに振り回されてる、ラウラのことも気に入らねーんだよ。ISもラウラも、一発ぶっ叩いてやらねぇと気がすまねぇ」

 周りを見渡す。アリーナは騒然としていて、既に緊急用シャッターが閉まり始めている。そして警報音と共に、緊急避難の呼びかけが始まっていた。

 よく聞いていると、生徒と来賓がアリーナから出るように言われている。教師達は騒動の鎮圧にくることがわかった。

 一夏に笑って答えてやる。

「なあ、一夏。そんなに、あの黒いのをぶっ飛ばしたいか?」

「ああ」

「じゃあ、乗ってやるよ。そういうのは大好きだからな。俺がバックアップしてやる」

 一夏が嬉しそうに頷き、俺は両手に1丁づつ持っていたスナイパーライフルを高速切替《ラピッドスイッチ》でに二刀流のブレードへと展開する。それを見ていたシャルルが、溜息を吐きながら一夏に呼びかけた。

「一夏、ISのエネルギーはどうするの? 普通ISじゃ無理だけど、僕のなら変換して白式にエネルギーを渡せると思うよ。良ければ使う?」

「ほんとかシャルル!?」

「その代わり約束して。絶対に負けないって」

「もちろんだ。喜久もついてるからな、これで負けたら男じゃねぇよ」

 一夏が篭手のついている腕をシャルルに差し出す。

「じゃあ、負けたら喜久と一緒に、女子の制服で学校に通ってね?」

「はぁ!? おい待てよ、なんでそうなる?」

 なんでいつも、俺は他人に巻き込まれなきゃいけねぇんだよ……?

 慌てて抗議の声を上げる。すると、シャルルが俯いた仕草でぼそりと呟いきた。

「さっきから、下半身がズキズキするんだよね。喜久、なんでか知らない?」

「行くぞ、一夏っ! さっさとエネルギーを転送してもらえっ!」

 待ってくれ、そういうネタ振りは後でにしてくれ……。

 一夏を慌てて促し、奴はエネルギーをシャルルから転送してもらう。転送作業が終わると、俺は一夏にどう動くか指示を出していく。

「俺が、あいつの一刀を止めてやるよ。その間に、一夏は止めを刺せ」

「ああ、頼んだ」

 一夏が部分展開で零落白夜を発動させると同時、俺は一気にVTシステムに突っ込んだ。反発して振りぬかれるVTシステムからの一撃は、とても綺麗な剣戟の軌跡を描く。普段なら、避けきるのは難しいような剣速だ。

「俺を切りたきゃ、もっと早く振りぬくんだなっ!」

 ISTSを発動させて五感と同調率を強化、そのまま両腕をクロスさせる。敵の得物と俺のブレードが、かち合って青い火花を散らした。

 俺の横を一夏が鋭い切り込みで飛び込んでいく。

「いぇあっ!!」

 一夏が叫びの咆哮と共に、VTシステムの胸から下へと零落白夜を切り付けた。

 ――俺はどこにいるんだ? ここは、コックピットの中なのか?

 突然、飛び交う戦闘機が視界内に入る。俺は辺りを見回そうと首を動かすが、まったく動いてくれる気配がない。

 ――泡が見える。世界は薄い緑色のフィルターが掛かり、気泡がぶくぶくと下から上がり続けている。俺は、それを眺めながらガラスの外を見た。

 外では、同じようなタンクが幾つも並んでいた。

 ――大人の軍人らしき人間たちと、同じようにライフルのスコープを覗いている。的に狙いを定め、的確に撃ち抜く。そこで、初めて理解した。

 これが、ボーデヴィッヒの記憶なのだと。

 ……そうか、お前も俺と同じ側の人間だったのか。

 ――「遺伝子強化試験体C-〇〇三七、今日から君の名前はラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 軍人の格好した男から名前を言い渡されていた。

 ――織斑姉が視界に入る。外見は変わらないが、軍服を着ていた。

「……よくわかりません」

 ボーデヴィッヒが、なにかに対して返答している。

「今はそれでいいさ。いつか日本に来ることがあるなら会――

 そこで、俺の視界が再びアリーナに戻る。まるで、ビデオのフィルムが一気に巻き上がったような感覚だった。

 慌てて状況を確認すると、一夏がVTシステムから出てきたボーデヴィッヒを抱えようとしていた。

「終わったか」

 混乱したままで、ぼそりと呟く。

「……まぁ、ぶっ飛ばすのは勘弁してやるよ」

 もう、くたくただよ……。

 ボーデヴィッヒに笑いかけながら話す一夏に安堵し、ISTSの反動で疲れが増したのを認識する。いつの間にか到着していた教員が、こちらにやってきた。

 俺はISを粒子化して、今の混乱した頭を整理しだした。

 

 

 ― 10 ―

 

 

 現在、俺は一人でだるく感じる体を引きづりながら、ある部屋を目指している。どうしても、やっておきたいことがあった。

 そのため、体に鞭を打ちながら移動し続けている。目的の場所につくと、先客がドアから出てくる様子が遠巻きに見えた。

 タイミングが良いのか悪いのか、俺は出てきた織斑姉に呼びかけられる。

「市隈、なにをしている?」

「見舞いですよ、そんだけ」

 織斑姉は俺を一瞥すると、にやりと笑いだす。

「どうしてこうも、ラウラの見舞いに来るのがお前だとわな。いがみ合ってた割に、馬が合うのか?」

「それならそれでも良いですよ。俺にはどっちでも構いませんから」

 ボーデヴィッヒに不意打ちをくらったのを思い出す。だが、今の俺には全く怒りなんてもんが湧いてこなかった。

「ほう、ちゃんと成長してるじゃないか。あまり時間をかけるなよ、相手は病人だからな」

「イエス」

 織斑姉がヒールを鳴らしながら去っていく。俺は、軽くノックして目的の部屋へ足を踏み入れた。

 部屋に入ると、ボーデヴィッヒがこちらに気づいて話し掛けて来る。

「なんだ、やられた私を笑いに来たのか?」

「いんや。そうして欲しかったのか?」

 俺の返答に、ボーデヴィッヒが嫌な顔をしだす。

「馬鹿をいえ。そんなことされて、喜ぶ人間がいるわけないだろう」

「ごもっとも。かけてもいいか?」

 ボーデヴィッヒのベッド近くにあるパイプ椅子に座っていいか質問する。奴は少し迷ったようだったが、そっぽを向きながら俺の返答に応じた。

「好きにしろ」

「お言葉に甘えさせてもらうよっと」

 椅子を引いて座らせてもらう。そして猫背になりながら、両手を組んで、ぼそりとボーデヴィッヒに対して言葉を発した。

「コード〇二一一って、単語を知ってるか?」

「いや、知らんな」

「じゃあ、中東で三年前に起きたISの暴走事件って言えばわかるか?」

 瞬間、ボーデヴィッヒが驚いた顔をして俺の方を向く。

「なぜ、お前がそのことを知っている。あれは、アメリカが必死に隠蔽工作をしているものだぞ。……まさか、関係者か?」

「いや、当事者だ」

 本人の目が見開かれるのがわかった。

 俺は気にせず話しつづける。

「そして、加害者だよ。あの事件で暴走したIS操縦者ってのは、俺なんだ」

 二人揃って少しの間だけ沈黙した。

 やがて、ボーデヴィッヒがゆっくりと喋りだす。

「しかし、それでは私の知っている知識と矛盾する。資料では暴走したISは、そのまISのコア以外は抹消されたと記されていたぞ」

「それは、向こうがでっち上げたもんだよ。いつもそうだけど、表に出るものと本当のものは違う。現に俺は生きているし、こうして今もここにいる。這っても這ってもな、拭えない業を背負ってるんだよ」

 ボーデヴィッヒは考え込むような仕草をして、頭の中を整理しているようだった。

 しかし、俺の独白が腑に落ちないらしく、疑問をぶつけてくる。

「なぜ。お前は、秘匿しておかなければならないことを私に話す? ひけらかして、語る内容ではないだろう」

「俺はな、ボーデヴィッヒ。お前と同じだよ。お前と同じ、試験管ベイビーだ。まあ、俺の場合は使い捨てのタイプだったけどな」

 ボーデヴィッヒの過去を俺が知っていることに、奴はいきなり慌て始めた。

 取り乱したといった方が正しいだろうか。

「待てっ! なぜ、お前は私の過去を知っている!?」

「まあ、最後まで話させてくれよ。相手の話はちゃんと聞くもんだろ?」

 興奮しているボーデヴィッヒをしばらく宥めてから、俺は話の続きを口にする。

「そして、俺にはISとの同調を促すなんて能力もある。もちろん、代償はあるし負荷がすさまじいんだけどな。前にAICを無理やり破ったことがあるだろ? あれは、俺がお前の同調率に侵食したから出来たんだ」

 まあ、あの時はぶっつけ本番で使ったんだけどな。正直、今でもよく成功したと思うよ。

「……そうか。いやしかし、そんなことが可能なのか? ……だが、事実だからな。お前が持っている能力で、私の停止結界をキャンセルしたのか。しかし、それと私の記憶がどう繋がる?」

「一夏が、お前のことを助け出しただろ。俺は補助に回っててな。お前を止めるために、少しだけ能力を使用したんだ。その時、原因は不明だけど、俺はお前の記憶を覗いた。不可抗力だし、見たくて見たわけじゃない」

 なぜ俺が、ボーデヴィッヒの記憶を覗けたのかはわからない。だが、相手の大切にしているものを盗み見してしまった。

「俺のエゴだけどな。フェアじゃなきゃ嫌だって感覚がある。ボーデヴィッヒが差し出したわけじゃないが、俺はなにか返さないといけないと思った。これが、お前の腑に落ちないことの答えだよ」

 俺は、そのために自分からリスクを犯す。だからシャルルの時も、それに見合うだけのものを差し出したつもりだ。

 俺が真剣な顔をしていると、ボーデヴィッヒは何がおかしいのか突然に大笑いし出した。

「ぷぅ、あははははっ!! だぁ、めだ、あははははははははははははっ!!」

 なにが、つぼに入ったんだよ……俺はボーデヴィッヒのなにかに変なスイッチをいれたのか?

 部屋中に奴の笑い声が木霊す。

「いやぁ、すまん。ひぃ、腹がよじれそうになった」

 やっと笑いが収まり、ボーデヴィッヒは一呼吸置いて喋りだす。

「お前のエゴとやらにな、思わず笑ってしまった。理由を聞けば、フェアではないからと来たものだ。まるで子供の理屈じゃないか、随分とリスキーな性格をしているものだな?」

「ごもっともで。否定はしないよ」

「楽しませてもらった礼だ。今のことは、私の胸の内に閉まっておいてやる」

「感謝しますよ、お嬢さん」

 ボーデヴィッヒが笑い、俺もつられて笑う。和やかな雰囲気に、思わず浸かるような気持ちになる。

「私から、お願いがあるんだが?」

 おや、珍しいこともあるもんだ。

「なんでしょうか? 今だけなら、なんでも聞いてやるよ」

「教官にもっと、誠実に接してはくれないだろうか? あの人は、私にとっての恩人であり憧れでもある。そしてなにより私にとっては、とても大切な家族のようなものなんだ」

 ――家族に恩人ね。

 ボーデヴィッヒが本音で語ったであろう言葉に、色々なものが自分の胸辺りでぐるぐると回る。自分にも、もちろん家族のような人間がいる。それだけに、これらのキーワードが心によく響く。俺は一夏を大切にしている織斑姉を思い浮かべた。

 その中にボーデヴィッヒが加わる。三人は、仲良く笑っていた。

「きっついこと、要求してくれるな。でも、俺にも血の繋がってない大切な家族はいるしな。できるだけ、努力はさせて頂きますよ。保証は出来そうにないけどな?」

「そうして欲しい。できれば、保証もして欲しいものだがな」

 俺が苦笑いし、ボーデヴィッヒは小さく笑った。

 ふと、夕暮れ時の陽射しが無くなり始めたのに気づく。窓の外をのぞけば、夜の帳が降り始めているのが確認できた。

 

 

 ― 11 ―

 

 

 眠い……。

 夕食を食べ終えて俺が自室に帰ると、シャルルは外出中みたいだった。

 そう考えながら明かりも点けづに、そのまま着替えることもなくベッドへと倒れこむ。ひんやりとした感触が、無償に気持ち良い。そう思っていたら、ふいにドアのノック音が聞こえてきた。

「市隈君、いますか?」

「開いてまーす」

 もう、動く気力が残ってないので返事だけする。すると、山田先生がなにやら嬉しそうにして入室してきた。

「良いお知らせがありますっ! なんと、今日から男子の大浴場が使用解禁ですっ!」

「あっそぉ」

 心底どうでもいい。適当に返事をして、顔をベッドに埋める。すると、俺から返ってきた冷たい反応に、山田先生がおろおろし出した。

「そんな!? 織斑君は、ものすごい喜び方をしていたのに……」

「俺は睡眠と惰眠の方が幸せですから」

「そんなこと言わずに、せっかくなんですから。勿体無いですよ、ね?」

 なんで、そんなにしつこいんだ……。

 こっちは、今すぐ寝たいんだよ。

 自分のやりたいことを阻害されて、俺はいい加減イライラしだした。

「勿体無いのは、俺の時間が今現在も先生に一秒ずつ削られ続けていることですから」

「そこまで、拒否しなくても……」

 違うんだ……、こっちは座るんじゃ無くて、この場から立ち去って欲しいんだよ。

 山田先生が、その場で打ちひしがれたように座り込む。しょうがなく、俺は頭を切り替えて意地悪な質問をすることにした。

「山田先生が、一緒に入浴してくれんなら入ります」

「え、そんな……」

 おいおい、そこは即座に否定して早く退室してくれよ……。

 山田先生が、その場でフリーズする。一〇秒くらいした頃だろうか、再び本人が始動して立ち上がった。

「それは、いけませんっ! 市隈君、一体なにを考えているんですか!?」

「エロいこと」

 怒ってもまったく迫力を感じない。そして、俺の回答に山田先生は力なく壁に持たれかかった。

 そのまま、なにやらブツブツと独り言を呟きだす。

「織斑先生、私は教師に向いていないのでしょうか? 私には、大事な生徒を育てる力が無いのでしょうか? どうせ私なんて――

 勘弁してくれ、泣きたいのはこっちだよ……。

 末寺の坊さんが唱えるお経のように、山田先生は永遠になにかを呟き続けそうな雰囲気を醸しだしている。大体、風呂一つで何でそんなに大事へ発展するんだ。

 しょうがなく風呂に行く旨を伝えて、山田先生を納得させつつ部屋から退出してもらった。

 

 

     ◇

 

 

 おいおい、これはどういうことだ……?

 なんで、一夏とシャルルが一緒に風呂入ってんだよ?

 お前ら、そういう関係に発展してたのか?

 山田先生をフリーズさせたように、今度は俺が大浴場の脱衣所でフリーズしている。そう考えたが一夏のことを思い浮かべ、それは無いだろうなとシャルルが哀れに思えた。

 さて、どうするか。俺は、このまま立ち去るべきだろうと考える。それが、あの二人にとって良い結果に繋がる筈だと思うからだ。

 しかし、良い気分でアップの後は、それがダウンの落ちに繋がらないと面白くない。少し考えた末に、軽く悪戯を決行することにした。

 二人の脱衣籠を確認する。そこにはきちんと畳まれた衣類があった。

 律儀だ。両方の下着だけを交換して入れ替えた後、脱衣所のドアを挟んで反対の廊下側に退避する。後は、どっちかの悲鳴が上がるのを待つだけだった。

 ――――――――きゃあああああぁぁああっ!!」

 俺が廊下に出て一五分ほどたった頃、シャルルの悲鳴が上がった。

「シャルロット大丈夫か!? うおっ!!」

 すると、今度は一夏の声が聞こえる。

 あーあ、中が覗けたら面白いのにな。しかし、一夏め。確認するなら、浴場からガラスドア越しに安否を聞けばいいのに。最後の驚きは、間違いなくドアを開けちまった声だな。

「ぎゃああああああああああっ!! 一夏のエッチィ!!」

「違う、待ってくれっ!? 俺はただ悲鳴が聞こ、ぐぼぉあっ!!」

 予想より被害がでかくなってるな。まあいいか、俺は関係ないし。

 シャルルのすごい叫び声が聞こえ、次いで一夏の言い訳となにかに悶絶した声が聞こえてくる。そろそろ退散した方がよさそうだ。俺は壁に寄りかかるのを辞めて、ゆっくりと廊下を歩き出した。

 しっかし、シャルロットてのは、シャルルの本名かなんかだろうか?

 

 

     ◇

 

 

 部屋で寝ていると、雑なドアの開閉音が聞こえてシャルルが入ってきた。

「……うぅ。もう、一夏の馬鹿ぁ」

 なんか半泣き状態だな。それしたのは俺だけど、言ったら後が怖そうだ。

 そう思っていたら、ぱたりと倒れこむような音がした。

 衣類の擦れる音がして、シャルルがベッドに潜り込んだのがわかる。

「喜久、起きてる?」

「ん?」

 声だけを聞きながら、とりあえず起きてることを知らせる。

 

 

 

 

「大事な話があるんだ。一夏には、もう話したことなんだけど」

 彼女の声が静まった室内に響く。まどろみの中で眠りかけの頭を起した。

「僕の本当の名前。お母さんがくれた大事なもの」

「わりぃ、眠いんだよ。明日じゃ無理か?」

「え、ああ。ごめんね。そうだね、もう遅いよね」

 そういって、視線を机の方へ向ける。シャルルのISが待機状態のアクセサリーで置かれているのを確認すると、安心してもう一度布団に潜り込む。シャルルは静かに言葉を喋った。

「喜久、お休みなさい」

「ああ。お休み、シャルロット」

 きっと、部屋は時間が止まったような空間になったに違いない。シャルルからは、ピシリとなにかで頭に皹を入れられたような音が聞こえてきた気がした。

「……なんで知ってるの?」

 これは、断じて名前の確認でないのがわかる。俺は起き上がって、顔が真顔になっているシャルルをみた。

「だって、脱衣所には俺も入れるだろ?」

「……まさか、いや、そっか。あは、頭が混乱してて、全然思い浮かばなかったよ」

 シャルルの視線がゆっくりと、ある場所へ移動するのがわかる。もちろん、俺はその場所を知っているから安心だ。ベッドから飛び起きると、机のところまで素早く移動した。

 そして、シャルルのIS待機状態のアクセサリーを掴み取る。シャルルが一拍遅れで動いた為に、すごく悔しそうな顔をした。

 しかし、そのあとはまた笑顔になる。

「フフ、ウフフ、ウフフフフフフフフフフフフフフ」

 これは壊れたな。

 乾いた笑いが木霊する部屋は、なにか異質な空間を連想させる。俺は急いでドアを蹴り開けると、そのまま全速力で廊下を走り抜けた。

「喜久あぁっ!! 絶ぇ、対にぃ、許さないからあぁああああああああっ!!」

 後ろでは怒りが頂点に達したシャルルが、猛然と追いかけてくる。結局、この鬼ごっこはシャルルが力尽きるまで続いた。

 

 

     ◇

 

 

 あくる日の朝。シャルルから先に教室へ行ってほしいと言われて、俺は自分の席で欠伸をかみ殺している。

「なあ、喜久。なんでお前の片目辺りに青タンができてんだ?」

「シャルルに昨日ぶっ叩かれたんだ。まあ、原因は全部が俺だけど」

 本当は一夏にも殴られそうだが、二度も殴られたくないので黙てった方が良さそうだ。

「今度はシャルルさんに、なにをされたのです?」

「いや、軽くからかったら仕返しされただけ」

「数少ない男性同士なのですから、喜久さんはもっと仲良くすべきです」

 ああ、そうだね。

 セシリアに窘められて納得する。まあ、今後は寝不足になるのは避けたいから考えて行動しようと。そうこうしている内に、チャイムが鳴ってホームルームの時間が始まる。

 山田先生は挨拶を終えた後、視線を彷徨わせながら、たどたどしい説明を開始した。

「えー、今日は皆さんに転校生を紹介しますというか。……既に知っているんですが。そうぞ、入ってきて下さい」

「失礼します」

 そう言って入ってきたのは、女子の制服を着ているシャルルだった。電子ディスプレイにはシャルロット・デュノアと表示されている。

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めて宜しくお願いします」

 思わず、心の中で笑ってしまった。

 そうか、自分なりに考えた答えが出たのかと。そんなことを考えていると、突然クラスの連中が、すごい勢いで騒ぎ始めた。

「ちょっと待ってよっ! じゃあ、今まで市隈と一緒で大丈夫だったの!?」

「あんたっ! シャルロットさんに変なこととか、してないでしょうね!?」

「いんや、だったら既に俺は退学してるから」

 慌てずに答えて、セシリアの方を見る。彼女はよく俺の部屋に入り浸っていたので、大丈夫なことを知っていた。

 現に俺の方を見て、今もにこにこと笑っている。それを見た女子達は怪訝な視線を向けるが、大丈夫なのかもといった表情だった。

「それより、昨日って男子が大浴場を使ってなかったっけ!?」

 そんな誰かの声が聞こえた瞬間、セシリアの顔が一気に豹変しだす。

「喜久さん!?」

「それもノータッチだ。シャルルと一緒に入ってたのは、一夏だけだし」

「おい、喜久っ! なんで、お前が昨日のことを知ってんだ!?」

 セシリアが安堵しだす。一夏が叫びながら、傍と昨日の答えを見つけたらしい。ものすごい顔で俺を睨み始めた。

「この野郎っ! 犯人はお前かぁ!?」

「おい、一夏。ドアの外と篠ノ之は良いのか?」

 ドンッ!!

 すると、一夏はぞっとしながら突然の衝撃音が鳴った方を向く。それは怒りに任せて登場した凰が、ISを展開しながら叫び声を上げているところだった。

「ぅう一夏ぁあっ!!」

 いや、流石にそれはありえないだろ!?

 そして、いきなり衝撃砲を一夏に向けて発砲した。

 すぐに惨劇が浮かんだが、その光景は意外なところからの助けで免れる。それは、寸でのところでボーデヴィッヒがIS展開してAICを発動、凰の衝撃砲を防いだからだった。

「助かったっ! ありがとうなラウラ。むぐっ!?」

 うわ、ボーデヴィッヒって、やることなすこと大胆だな。

 奴は一夏の顎を掴むと、いきなりディープキスをした。

「お、お前は私の嫁にするっ! 決定事項だ、異論は認めんっ!」

 前言撤回、ボーデヴィッヒはまさに強引の権化だった。

「嫁? 婿じゃなくて?」

 戸惑った一夏が、俺も思ったことを聞く。

「日本では気に入った相手を『嫁にする』というのが一般的な習わしだと聞いた。故に、お前を私の嫁にする」

 そんなもん、この国のどこで言っても通用しねぇよ……。

 あいつは、誰に騙されたんだ?

 俺は知恵を分け与えた奴が、ボーデヴィッヒを不幸にしていることに気づいているのか理解に苦しんだ。教壇を見れば、既に状況についていけない山田先生がおかしな笑いを発し始めている。

 可哀想に、こうなると場の収集は織斑姉だけが頼りだな。

「あんたねえええっ!!」

 あいつ本当に死ぬんじゃないのか?

 凰が叫び、再び衝撃砲を放とうとしている。一夏は逃げ惑うが、奴の刺客は次々と現れた。

 恐ろしいことに、セシリア以外の専用機持ち達がどんどんISを展開していく。見れば、シャルルもといシャルロットも同じようISを展開していた。

 すごいな。これで今現在展開してる全員が暴れたら、この校舎自体が崩壊するんじゃないのか?

 しょうがねぇな。これで昨日の貸し借りは無しだぞ、一夏。

 歯止めの利かない状態に、深く溜息をつく。両手でメガホンを形作ると、入学日以来で久しぶりに織斑姉の声を真似る事にした。

「この、馬鹿者どもがっ! 今すぐISを解除しなければ、お前ら全員夜まで廊下に立たせるぞっ!!」

 織斑姉の声は絶大的な効果だ。これなら本人が来るまでは、問題なさそうだな。

 クラス全ての人間が、全員ビクゥといった感じで声の発生源を探し始める。ISを展開していた人間は、神の一声を聴いたかのように恐れ慄いていた。

 席でだらりとすると、窓の外を見る。天気は快晴で、太陽が眩しく輝いていた。

 

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