「オケアニスが生息していると思われる基地を探索せよ。」
そう指示を受けて、僕たちは軽装のまま、錆びついた廃墟の中を慎重に進んでいた。
壁はひび割れ、あちこちに植物が侵食し、金属と緑が混じった異様な匂いが鼻を刺す。
「なんでこんな危険な場所を、新人だけで探索しなきゃならないんだよ……」
隣を歩く三国が舌打ちまじりに不満を漏らす。
「しかも、この装備で敵と戦えってか? 上のやつら、正気かよ。」
そう言って、彼はナイフとハンドガンを見せつけるように振ってみせた。
「……そうですね」
高橋が怯えた声で応じる。周囲を警戒しながら、心細そうにうなずいていた。
確かに、この装備で未知の敵と戦えというのは無謀すぎる。でも、僕たちに拒否する権利なんてない。
「おい、雑談してる暇があるなら、荷台代われよ。」
最後尾から兎真が苛立った声を上げる。彼が押している荷台には、最低限の物資と武器が積まれていた。
偵察の実菜水と護衛の新足を除けば、残りの四人で交代しながら運ぶ決まりになっていたのだ。
じゃんけんの結果、兎真が押すことになった。文句を言われても仕方がない。
(……もう少ししたら、交代するか)
そう思った、その時――
「皆さん。この先のエリアにゴビーを4体確認。戦闘になります。私語は控えてください」
実菜水の冷静な声が、空気を凍らせた。
僕は銃を構え、喉が渇くのを感じる。ついに……ついに、オケアニスと戦う時が来た。
三国は不敵に笑い、高橋は唇を噛んで不安をこらえる。
兎真は荷台から手を離し、肩をぐるりと回して戦闘態勢に入った。
やがて、数十メートル先に敵の姿が見える。
「奥に1体、手前に3体……」
新足が冷静に状況を読み上げる。
「俺が奥のやつを仕留める。残りは任せた」
言うが早いか、新足の銃が火を吹いた。乾いた銃声が響くと同時に、ゴビーたちがこちらに気づき、突進してくる。
「俺は右の一体をやる」
三国がナイフを抜き放ち、地を蹴る。
「わ、私もサポートします!」
高橋も覚悟を決めたのか、銃を構えて三国の後を追う。二人は左へ回り込み、1体と交戦を始めた。
残る2体が、こちらへ向かってくる。
僕も銃を構え、狙いを定めようとするが――
(う……)
目に映った敵の姿に、体がすくんだ。
肌はどろりと溶けかけ、異様に長い手足、濁った目。
――こんなの、生き物じゃない。
引き金にかけた指が、震える。敵が距離を詰めてくる。撃たなきゃ。でも、指に力が入らない。
一瞬の躊躇。その間に、ゴビーが酸を滴らせながら迫る。
(まずい……!)
「チッ、見てられねぇな」
兎真の声が聞こえた瞬間、閃光のような動きが視界をかすめた。
ナイフがゴビーの頭に突き刺さる。暴れる敵の腕を掴み、容赦なくへし折る兎真。
「ギギィッ!」
苦悶の声を上げるゴビーに、兎真はさらに腹へ重い蹴りを叩き込む。
倒れた敵の上に乗り、ナイフを引き抜いて――再び、頭部へ突き立てた。
グチャッ。
「……ビビってんなら、最初から戦闘に参加するなよ。迷惑だ」
冷めた声とともに、兎真は血まみれのナイフを拭い、実菜水のもとへ歩いていく。
僕は、震える指を見つめた。
(俺は……本当に、戦えるのか?)