──警報の余韻がまだ空気に残る中、UMAの攻撃は止まらなかった。
実菜水は即座に判断した。
攻撃は無理、避けるしかない。
鋭い爪が視界を裂くたび、紙一重で身をひねり、床を滑り、弾丸のような連撃をかわしていく。
だが、それも限界だった。
「……っ!」
迫る一撃を完全には避けられず、実菜水は腕を差し出して防いだ。
骨が砕ける衝撃、焼けるような痛み。右腕が千切れ飛ぶ。 本来なら、ショック死してもおかしくないほどの激痛。
だが、極限状態のアドレナリンが、脳の痛覚を麻痺させていた。
そのおかげで、彼女の意識は途切れず――見てしまった。 UMAが間髪入れず、新足に狙いを変える瞬間を。
回避しようとするが、すでに腹の傷で動きが鈍っていた。
「ぐっ……!」
渾身の拳を腹に叩き込まれ、新足の身体は壁に叩きつけられる。石壁が軋むほどの衝撃。
血を吐き、膝をつく彼の姿に、実菜水の胸に絶望が広がった。
(もう……勝ち目はない……)
その瞬間。
カツン。
乾いた靴音。煙の向こうから影が現れる。
「——チッ、ひでえ有様だな」
兎真だった。
彼はためらいなくスモークを投げ、視界を封じる。
「実菜水、邪魔だ。一人で逃げろ」
「……そんなわけにはいきません!」
実菜水は震える声で返す。「あなた一人でどうにかできる相手じゃない。それに……新足さんを見捨てれば、確実に死にます!」
兎真はほんの僅かに目を伏せ、低く言った。
「……時間がない。頼む」
切ない響きに、実菜水の胸が痛む。だが、UMAの視線が煙の中で兎真を捕捉する。
迫る攻撃に、兎真はナイフで応じ、わずかな隙を生み出す。
実菜水は唇を噛み、「UMAが現れたことを報告します……だから、耐えてください」と告げて全力で離脱した。
残された兎真は、再びスモークを展開。銃を撃ち、手榴弾を転がす。
轟音。爆炎。だが煙が晴れたとき、そこに立つUMAの肉体にはかすり傷程度しか残っていない。しかも、その傷さえも瞬時に再生していた。
「……やっぱり怪物だな」
兎真が歯を食いしばったとき、背後から階段を駆け上がる音が響く。
「爆発音が聞こえたから来てみたら……これは大惨事だな」
三国だった。いつもの軽口ながら、声には鋭い緊張が混じる。
そのすぐ後ろに河凪も現れる。
「……まだ、生きていたのか」
低く、怒りを押し殺した声。新足の瀕死の姿を見て、銃口をUMAに向ける。
「新足をやったのは……お前か」
引き金を引く。しかし弾丸は効かない。
「兎真、一人じゃ無理だろ。俺も行く!」
三国が刀を振り下ろし、鋭い斬撃がUMAの肉体を裂いた。わずかだが血が散る。UMAは目を細め、距離を取る。
兎真、三国、河凪は背を合わせるように立ち位置を固めた。
「倒すのは無理だ。……だが、時間を稼ぐ。実菜水が援軍を呼んでる。生き残れ」
兎真の言葉に、全員が頷いた。
再びスモークが焚かれ、戦闘が続く。
兎真と三国が左右から攻め、河凪が援護射撃。UMAは冷笑しながら全てをはじく。
その最中、新足が意識を取り戻す。
「……リーダーなのに……すまない」
「大丈夫です。動かないで!」河凪が叫ぶが、新足は首を振る。
「もう……長くはもたん。だが俺の銃なら……」
新足は震える腕で銃を構え、UMAの片目を正確に撃ち抜いた。
UMAが苦悶の声を上げ、三国が斬撃を叩き込む。兎真も刃を突き立て、ようやくダメージを与える。
だが、UMAはすぐに新足を脅威と認識し、一気に迫った。
「させるかッ!」
河凪がUMAに飛びつき、その動きを封じる。
「新足のところには行かせない!」
必死の抵抗にUMAは苛立ち、叩き落とそうとするが、そこに三国が追撃。
「おいおい、こっちも見ろよ!」
刀が背中を裂き、兎真が体当たりを加える。UMAは一瞬バランスを崩し、大きく距離を取った。
「案外……俺たちだけでもやれるかもしれねえな」兎真が吐き捨てる。
「でも距離を取られたら攻撃できるのは新足だけだ」三国が冷静に返す。
睨み合いが続いたその時——。
銃声が響く。
「仲間を置いて逃げるなんて、できませんから」
その声とともに駆け寄る影。実菜水だった。
彼女は新しい銃を構え、素早く仲間に物資を渡す。
「組織に連絡しました。すぐに援軍が来ます。それまで……皆で生き残りましょう!」
再び希望の光が差した——その矢先。
「……もういい」
UMAが低く呟いた。
「今まで手加減していたが……もう面倒だ。皆殺しにしてやる」
その身体からあふれ出すオーラは、死を呼ぶ“絶望”そのものだった。