ウォーハンマー×ブルアカ   作:eriza7170

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ウォーハンマーキヴォトスの日常 オルクハンター編 一話

オルクハンター — 鉄塊は勲章を望まない

 

 

廃棄された工業区画。

かつてはキヴォトスの物流を支えていたその場所も、今では錆びついたコンテナと崩落した高架道路、そして無数の弾痕だけが残る死地と化していた。

風が吹くたび、建物の骨組みが軋む。

砕けたアスファルトの隙間には、緑色の血液が乾ききらないまま染み込んでいた。転がっているのは、粗雑に溶接された装甲板。人間の手では扱いきれない大口径弾の薬莢。引き裂かれた車両の残骸。そして、いずれも尋常ではない筋力で破壊されたと思しき鉄骨の数々。

ここには、オルクがいた。

そして今も、いる。

 

 

「……依頼の内容を確認するぞ」

 

 

重低音が通信回線を震わせた。

発声器官を通して響く声は、もはや生身の人間が発するものとは思えない。金属製の胸郭に設けられたスピーカーが音声を増幅し、低く、硬く、無機質な響きを周囲へと伝播させる。

その声の主は、崩れた高速道路の上に立っていた。

全高は人間を大きく超え、肩幅は一般的な車両の横幅に迫る。分厚い装甲板が幾重にも重ねられた巨体。鈍い金属光沢を放つ装甲の各所には、幾度もの戦闘で刻まれた傷跡が残されている。

頭部は装甲に覆われ、眼部に設けられた光学センサーだけが赤く輝いていた。

その姿は、まるで戦場から歩き出してきた重装甲戦車だった。

ただし、戦車と違って彼には腕がある。

しかも、左右の腕はそれぞれ独立した重火器プラットフォームとして構成されていた。

 

 

「対象は元オルク生徒の武装集団。推定戦力、四十から六十。大型個体を含む。小型車両三台、重火器複数。依頼内容は武装集団の排除、および付近の物流路の再開」

 

 

彼は手元の端末に表示された依頼書を確認した。

 

 

「報酬は?」

『基本報酬、六十万クレジット。対象の排除数に応じて追加報酬が発生します』

「追加報酬の条件は?」

『大型個体の撃破で十万。車両の回収が可能な場合は別途査定。武器や弾薬などの鹵獲品については――』

「こちらの取り分は?」

『……契約書に記載されているとおりです』

「よし」

 

 

彼は端末を閉じた。

 

 

「話が早くて助かる」

 

 

その言葉に、背後で待機していた小型の随伴機が首を傾げた。

 

 

『オルクハンターさん。敵の規模に対して、今回の報酬は少し安くありませんか?』

「そうか?」

『はい。過去の戦闘記録から算出すると、予想される損耗率と弾薬消費量が――』

「弾薬代は別途請求できる。装甲は交換できる。腕も交換できる。俺は死なない。問題ないだろ」

『……最後の項目については、保証できません』

「だから慎重にやるんだよ」

 

 

彼はそう言って、ゆっくりと首を巡らせた。

視界の向こうには、工業区画の中心部にそびえる巨大な倉庫があった。

その屋根には、緑色の塗料で描かれた粗雑な紋章がある。

オルクたちの印だ。

彼はそれを数秒ほど眺めた後、淡々と告げた。

 

 

「さて。仕事を始めようか」

 

 

 

最初の銃声が響いたのは、それから三分後のことだった。

倉庫の屋上に設置された見張り台。

そこにいたオルクが、双眼鏡越しに異様な影を見つけた。

 

 

「オイ、ナンダアリャ?」

 

 

仲間を呼ぶ声。

粗雑な翻訳機を通しても、その疑問は明白だった。

遠くの道路に、何かが立っている。

大柄な人影。

いや、人影というには大きすぎる。

装甲車のような肩。異常に太い腕。頭部を覆う金属の兜。赤く光る眼。

その両腕には、巨大な銃器が取り付けられていた。

 

 

「ニンゲンカ?オートマタカ?」

「シラネェ! デモ、デケェゾ!」

「ブッコワセ! デケェノハイイモンモッテル!」

 

 

オルクたちは笑った。

彼らにとって、巨大な敵は恐怖の対象である以前に、戦う価値のある相手だった。

強そうな敵を倒せば、自分たちがもっと強くなれる。

そう考える彼らにとって、目の前の重装甲機械は、まさしく格好の獲物だった。

見張り台の重機関銃が旋回する。

銃口が火を噴いた。

次の瞬間、数十発の弾丸が道路を薙ぎ払った。

コンクリートが砕け、路面が抉れ、粉塵が噴き上がる。弾丸はオルクハンターの装甲に次々と衝突し、火花を散らした。

それでも、彼は歩いていた。

一歩。

また一歩。

装甲の表面に弾痕が刻まれる。衝撃が巨体を揺らす。だが、その歩みは止まらない。

彼は敵の射撃位置を確認し、わずかに頭を傾けた。

 

 

「高所に重機関銃。射手は二名。右側の窓にも一名。射角は限定的……」

 

 

彼は左腕を持ち上げた。

 

 

「悪くない配置だ。だが、道路を撃つだけなら誰でもできる」

 

 

腕部装甲が展開する。

内部の駆動機構が唸りを上げ、巨大なガトリング砲が露出した。

複数の銃身が回転を始める。

甲高い回転音が、廃墟の静寂を切り裂いた

 

。

「こちらの仕事は、敵を排除することだ」

 

 

ガトリング砲が火を噴いた。

轟音。

それはもはや銃声というより、巨大な機械が咆哮する音だった。

高速回転する銃身から吐き出された弾丸が、見張り台を覆う鉄板を打ち砕く。重機関銃の銃架が吹き飛び、射手たちは遮蔽物の陰へと転がり落ちた。

弾丸は倉庫の外壁にも叩きつけられ、薄い鉄板を紙のように引き裂いていく。

オルクたちの笑い声が止まった。

彼らは初めて理解した。

目の前の敵は、ただ大きいだけではない。

自分たちが普段振り回している粗雑な銃器とは、火力の次元が違う。

 

 

「オイ! アレ、ナンダ!」

「シラネェヨ! 撃テ! 撃チ返セ!」

 

 

倉庫のシャッターが開いた。

内部から現れたのは、装甲板を貼り付けた改造トラックだった。荷台にはロケットランチャーが据え付けられ、運転席からはオルクの怒号が響いている。

発射炎。

ロケット弾が飛来した。

オルクハンターは横へ飛び退かなかった。

避けられないからではない。

避ける必要がなかったからだ。

爆発。

衝撃波が周囲の瓦礫を吹き飛ばし、道路を白煙で覆い尽くした。

倉庫の窓ガラスが一斉に砕け、錆びついた看板が吹き飛ぶ。

しばらくして、煙の向こうに影が現れた。

オルクハンターは、まだ立っていた。

肩部装甲には新たな損傷が刻まれ、表面の塗装が剥がれている。右腕の装甲板からは、焼けた金属の匂いを伴う白煙が上がっていた。

だが、光学センサーの輝きは変わらない。

彼は損傷箇所を一瞥した。

 

 

「右肩、装甲損耗。右腕、駆動系に軽微な異常。修理費……まあ、許容範囲だな」

 

 

そして、トラックを見た。

 

 

「おい。そこの運転手」

 

 

拡声器を通した声が、戦場に響き渡る。

 

 

「その車両、依頼主の所有物じゃないよな?」

 

 

返答はなかった。

代わりに、トラックの荷台から二発目のロケット弾が発射された。

オルクハンターは右腕を持ち上げた。

装甲板が左右に開き、内部から噴射口が姿を現す。

火炎放射器。

点火機構が作動した瞬間、燃料供給管に圧力がかかった。

 

 

「そうか。なら、遠慮はいらんな」

 

 

炎が走った。

紅蓮の奔流が道路を舐め、トラックの前面を包み込む。熱に炙られた装甲板が赤く変色し、タイヤが破裂する。運転手が慌てて車両を後退させようとしたが、すでに遅かった。

オルクハンターは歩みを止めない。

火炎放射器を構えたまま、ゆっくりと前進する。

その巨体が一歩進むたびに、路面の瓦礫が押し潰され、燃え残った弾薬が乾いた音を立てて爆ぜた。

オルクたちは逃げ始めた。

だが、彼は追わなかった。

逃走経路はすでに把握している。

倉庫の裏手には崩落した道路があり、東側には物流用の狭い通路がある。北側の出口は瓦礫で塞がれている。

逃げられる場所は限られていた。

そして、彼はそのすべてを見ていた。

 

 

「逃げるのは自由だ」

 

 

オルクハンターは通信回線を開いた。

 

 

「ただし、契約の対象が残っている限り、仕事は終わらん」

 

 

戦闘開始から十八分。

倉庫の内部は、もはや倉庫ではなくなっていた。

棚は倒れ、鉄骨は曲がり、壁面には無数の弾痕が刻まれている。天井から垂れ下がった照明器具が火花を散らし、床には破壊された武器や装備が散乱していた。

その中央で、一体の大型オルクが咆哮した。

他の個体よりも一回り大きな身体。無数の装甲板を継ぎ接ぎした鎧。右腕には大型のビッグッチョッパ、左腕には改造された重機関銃。

その胸部には、無数の勲章らしき金属片が釘で打ち付けられていた。

オルクの首領だ。

 

 

「オマエ! オレサマノ仲間、イッパイヤッタナ!」

 

 

オルクハンターは、わずかに首を傾けた。

 

 

「そうだな。だいたい四十七体」

「オレサマガ、オマエヲブッコワス!」

「それは困るな」

 

 

彼は右腕の火炎放射器を停止させた。

 

 

「まだ請求書を書いていない」

 

 

大型オルクが突進した。

床が砕ける。

ビッグチョッパのチェーンが唸りを上げ、巨大な刃がオルクハンターの胴体へと振り下ろされた。

火花。

刃が装甲を削り、金属片が飛び散る。

大型オルクは笑った。

だが、その笑みは長く続かなかった。

オルクハンターは後退していなかった。

両足を床に固定し、巨体を支えたまま、敵の攻撃を受け止めていたのだ。

 

 

「……なるほど」

 

 

彼は相手の腕部構造を観察した。

 

 

「出力は高い。だが、振りが大きすぎる。駆動系も露出している。装甲の継ぎ目も甘い。何より――」

 

 

左腕のガトリング砲が回転を始めた。

 

 

「近づきすぎだ」

 

 

至近距離での射撃。

銃口から吐き出された弾丸が、大型オルクの胸部装甲に叩き込まれる。

一発。

二発。

十発。

装甲が砕け、溶接部分が剥がれ、衝撃で巨体が後退する。

大型オルクは重機関銃を乱射した。

弾丸がオルクハンターの胴体に食い込み、装甲表面で跳ね、火花を散らす。

彼は射撃を続けた。

弾薬残量を確認。

駆動系の温度を確認。

装甲の損傷率を確認。

敵の姿勢を確認。

そして、結論を出した。

 

 

「よし。終わりだ」

 

 

ガトリング砲が停止する。

代わって、右腕の装甲が展開した。

内部に格納されていたのは、短砲身の大口径砲だった。

砲口が大型オルクの胸部へ向けられる。

 

 

「お前の装甲は悪くない。素材としては、な」

 

 

発砲。

爆発的な衝撃が倉庫内を震わせた。

大型オルクの身体が後方へ吹き飛び、背後の鉄骨に叩きつけられる。歪んだ金属が悲鳴のような音を立て、崩れ落ちた。

静寂が戻った。

オルクハンターは、ゆっくりと歩み寄った。

大型オルクはまだ動いていた。

彼はその様子を確認し、追加の射撃を一発だけ加えた。

そして、動かなくなったことを確かめる。

 

 

「対象、排除」

通信機に告げる声は、戦闘開始前と何ら変わらなかった。

 

 

「大型個体一。武装集団、排除完了。物流路の安全を確認する。車両三台のうち一台は回収可能。残り二台は……まあ、鉄屑だな」

 

 

彼は周囲を見渡した。

 

 

「鹵獲品の査定を頼む。あと、追加報酬の条件をもう一度確認しておけ。大型個体の撃破は十万だったな?」

『はい。契約どおりです』

「よろしい」

 

 

彼は頷いた。

 

 

「仕事というのは、こうでなくてはな」

 

 

 

戦闘終了から一時間後。

物流路の入口には、依頼主の車両が到着していた。

担当者は、目の前の光景を見て言葉を失っていた。

道路には破壊された車両が並び、倉庫の外壁は穴だらけになっている。重火器の弾痕が路面を抉り、焼け焦げた金属片が至るところに散乱していた。

その中央に、オルクハンターが立っていた。

彼は損傷した肩部装甲を開き、内部の駆動部を点検していた。随伴機が修理用の工具を運び、彼自身は端末で請求書を作成している。

 

 

「……あの」

 

 

依頼主が、おそるおそる声をかけた。

 

 

「本当に、終わったんですか?」

「見てのとおりだ」

「す、すごい……。これだけの敵を、たった一人で……」

「一人じゃない。こいつがいる」

 

 

彼は随伴機を指した

 

 

『私は戦闘に参加していません』

「記録係だ。重要な役割だぞ」

『ありがとうございます……?』

 

 

依頼主は、困惑した顔で笑った。

やがて、彼は一枚の書類を差し出した。

 

 

「今回のご活躍、本当に感謝いたします。あなたの働きは、キヴォトスの安全に大きく貢献するものでした。つきましては、後日、表彰式を――」

「報酬は?」

「……はい?」

「報酬。振込はいつだ?」

「そ、それは規定の処理を経て……。もちろん、あなたの功績は十分に評価しております。特別な勲章の授与も検討しておりまして――」

 

 

オルクハンターは、動きを止めた。

ゆっくりと顔を上げる。

 

赤い光学センサーが、依頼主を正面から見据えた。

 

 

「いいか」

 

 

低い声が響いた。

 

 

「俺は勲章を食えない。勲章で装甲は直らない。勲章で弾薬は買えない。勲章を売っても、俺の整備費用には足りない」

 

 

彼は請求書を差し出した。

 

 

「契約どおりの金を払ってくれ。それで十分だ」

 

 

依頼主は、何度も頷いた。

 

 

「は、はい! もちろんです! ただちに処理いたします!」

「よろしい」

 

 

オルクハンターは請求書を手渡した。

 

 

「また何かあれば連絡してくれ。オルクでも、ジーンスティーラーでも、武装不良でも構わん。料金表は送っておく」

そして、彼は歩き出した。

 

 

重い足音が、廃墟に響く。

一歩ごとに、金属製の脚部が路面を踏みしめる。駆動機構が低く唸り、背部の排熱機構から白煙が噴き出した。

彼は戦場を振り返らなかった。

英雄と呼ばれることに興味はない。

誰かに讃えられることにも、特別な意味を見いだしてはいない。

彼が欲しいのは、正当な報酬。

働いた分の対価。

そして、自分の判断で生き、自分の判断で戦い、自分の判断で仕事を選べる自由だ。

かつてカイザーは、彼に勲章を与えた。

数々の戦果を讃え、英雄として称賛した。

だが、彼はその勲章を置いて去った。

なぜなら、彼は知っていたからだ。

どれほど立派な勲章を胸に飾ろうとも、次の戦場で弾薬が尽きれば死ぬ。

どれほど美しい称賛を浴びようとも、装甲が壊れれば修理費が必要になる。

そして、どれほど英雄と呼ばれようとも、働いた者に報酬を払わない組織に忠誠を尽くす理由などない。

だから彼は今日も戦う。

オルクを撃退し、物流路を取り戻し、危険な仕事を片付ける。

誰かが英雄と呼ぶなら、好きに呼べばいい。

誰かが怪物と呼ぶなら、それでも構わない。

彼にとって大切なのは、ただ一つ。

端末に表示された振込予定額が、契約書の金額と一致していること。

 

 

「……さて」

 

 

彼は通信回線を開いた。

 

 

「ナビ。次の依頼を回してくれ。できれば、もう少し割のいい仕事がいい」

『お疲れさまです、オルクハンターさん。次の依頼ですが、元ジーンスティーラーの武装集団が――』

「報酬は?」

『……まだ確認していません』

「先に確認してくれ。話はそれからだ」

 

 

彼は歩き続けた。

鋼鉄の巨人は、夕暮れのキヴォトスを進んでいく。

その背中に、勲章はない。

あるのは無数の傷跡と、使い込まれた装甲。そして、次の仕事を待つ重火器だけだった。

彼は英雄ではない。少なくとも、自分ではそう思っていない。

彼はただの傭兵だ。

契約を読み、戦場を見極め、必要ならば敵を皆殺しにする。

そして仕事が終われば、請求書を提出する。

その名を、オルクハンター。

キヴォトスの裏側で、今日もまた、鋼鉄の仕事人が稼働している。

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