ウォーハンマー×ブルアカ   作:eriza7170

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ウォーハンマーキヴォトスの日常 斬合キレル編 1

 

 

「……当たらない」

 

 

瓦礫の散乱する廃工業区。

廃棄された輸送コンテナの陰に身を隠しながら、斬合キレルは手元の銃をじっと見つめていた。

手にしているのは、オルク製のダッカ。

無骨な金属板を無理やり組み合わせたような外見。銃身は妙に太く、弾倉は必要以上に大きい。どこをどう見ても、まともな技術者が設計したとは思えない代物である。

しかし、これでも立派な銃だ。

少なくとも、弾が出る限りは。

 

 

「ええいっ! 当たってよぉ!」

 

 

ダダダダダダダダダダッ!!

キレルは引き金を引き続けた。

銃口から大量の弾丸が飛び出し、敵の潜んでいる廃車やコンテナを叩く。

火花が散り、金属板がへこみ、周囲に轟音が響き渡る。

弾幕だけなら一人前。

むしろ、一人でこの量の弾をばらまけるのは大したものだろう。

ただし。

 

 

「ちょっ、ちょっと! 全然当たってないじゃない!」

 

「当たらないなら撃つのをやめなさいよ! 弾がもったいないでしょうが!」

 

「うるさーい! 撃たなきゃ当たらないでしょーっ!」

 

 

敵もまた、キヴォトスに生きる少女たちだった。

装備は統一されていない。改造銃を持った不良、拾い物の装甲板を盾にする不良、どこから持ち出したのか分からない機関銃を構える不良。

統率が取れているとは言い難いが、遮蔽物を利用して銃撃を避ける程度の知恵はある。

そして何より、キレルの射撃が絶望的に下手だということを、彼女たちはすでに理解していた。

 

 

「いい? あの子、弾をばらまいてるだけよ! 落ち着いて狙えば勝てる!」

 

「了解!」

 

 

パンッ! パンパンッ!

敵の銃撃が返ってくる。

キレルは慌てて頭を引っ込めた。

 

 

「ひゃあっ!?」

 

 

コンテナの縁が砕け、金属片が頬をかすめる。

 

 

「いったぁ……!」

 

 

痛みはない。キヴォトスの生徒らしく、多少の銃撃で倒れるような身体ではない。

しかし、怖いものは怖い。

撃っても当たらない。

隠れていても追い詰められる。

そして、相手は少しずつ距離を詰めてきている。

 

 

「……どうしよう」

 

 

キレルの額に冷や汗が浮かんだ。

そもそも、彼女は射撃が得意ではない。

銃を持ったのも、撃てば敵を倒せると思ったからだ。遠くから安全に敵を撃ち倒せるなら、それに越したことはない。

近づいて殴り合うなど、できれば一生やりたくない。

だからこそ、彼女は必死だった。

 

 

「お願いだから当たってぇぇぇっ!」

 

 

ダダダダダダダダダダダダダッ!!

銃口が跳ねる。

弾丸が飛ぶ。

敵の頭上を通過し、壁を砕き、地面を削り、意味もなく遠くの廃車に穴を開ける。

そして。

ガギンッ!!

 

 

「……へ?」

 

 

嫌な音がした。

続いて、手元から煙が上がる。

ダッカの銃身が妙な方向に曲がり、内部から何かが弾け飛んだ。

カラン、カラン、カラン……。

小さな部品が地面に落ちていく。

キレルは、しばらくの間それを見つめていた。

 

 

「…………」

 

「……あの子、銃が壊れたわよ!」

 

「今よ! 撃てーっ!」

 

 

敵の少女たちが一斉に射撃を再開する。

 

 

「うわああああああああっ!?」

 

 

キレルは悲鳴を上げながら走った。

銃を抱えて逃げる。

しかし、壊れたダッカは重い。

しかも、走るたびにガチャガチャと不吉な音を立てる。

「なんでぇ!? なんでこうなるのぉ!?」

弾丸が足元を跳ねる。

コンテナの破片が飛び散る。

ついには、手元のダッカから最後の部品が外れて、地面に転がった。

そして、キレルは悟った。

このままでは負ける。

いや。

もっと正確に言えば――。

このままでは、何もできずに負ける。

 

 

「……っ!」

 

 

そのときだった。

視界の端に、一本の鉄パイプが転がっていた。

錆びついている。

表面には傷があり、片方の端は潰れている。

武器と呼ぶにはあまりにも頼りない。

しかし、今のキレルには、それ以外に選択肢がなかった。

彼女は壊れたダッカを投げ捨て、鉄パイプを掴んだ。

 

 

「……ええいっ! もう、どうにでもなれぇっ!」

 

 

そして。

敵に向かって走り出した。

 

 

「は?」

 

 

敵の少女が、思わず間の抜けた声を漏らした。

銃が壊れた。

武器を失った。

普通なら、逃げるところだ。

それなのに。

 

 

「ちょっと! なんでこっちに来るのよ!?」

 

 

キレルは走っていた。

半泣きだった。

目には涙が浮かんでいた。

足は震えていた。

それでも、走っていた。

 

 

「知らないよぉぉぉっ!!」

 

 

ダダダダダダダダダッ!!

銃弾が飛ぶ。

キレルの肩をかすめ、頬の横を通り過ぎ、背後の壁を砕く。

彼女は思わず目をつぶった。

――当たる。

そう思った。

けれど。

一発目は、頭を傾けたことで避けていた。

二発目は、足を踏み出した瞬間に身体が横へ流れていた。

三発目は、転びそうになった身体を立て直したことで、結果的に射線から外れていた。

本人に自覚はない。

ただ、怖かった。

撃たれたくなかった。

だから、身体が勝手に動いていた。

そして気がつけば。

キレルは、敵の少女の目の前に立っていた。

 

 

「……え?」

 

 

敵が驚いた顔をする。

近い。

あまりにも近い。

銃口を向けるには距離が足りない。

銃身を振り回すにも、仲間が邪魔だ。

そして、キレルの手には――。

 

 

「う、うわあああああっ!!」

 

 

鉄パイプがあった。

ゴッ!!

一撃目。

狙ったのは頭ではなかった。

銃だった。

鉄パイプが銃身を横から叩き、敵の少女が構えていた銃を大きく弾き飛ばす。

 

 

「えっ、ちょっ!?」

 

 

ゴンッ!!

二撃目。

敵が慌てて身を引いたところへ、鉄パイプが腕に叩き込まれる。

少女が悲鳴を上げ、武器を手放した。

キレルは止まらなかった。

止まり方が分からなかった。

 

 

「ご、ごめんなさいぃぃぃっ!!」

 

 

ゴッ! ガンッ! ドカッ!

三撃目、四撃目、五撃目。

鉄パイプが振るわれる。

敵がよろめき、倒れ、銃を取り落とす。

キレルは必死だった。

必死すぎて、考える余裕などなかった。

ただ、目の前に敵がいる。

敵が銃を構えている。

銃を向けられたくない。

ならば、撃たれる前に武器を叩き落とす。

武器を失っても向かってくるなら、動きを止める。

倒れた相手が立ち上がろうとするなら、立ち上がれないようにする。

その一連の動作が、恐ろしいほど滑らかにつながっていた。

キレル自身は、そんなことを考えていない。

ただ怖くて、必死で、無我夢中だった。

だが、その動きには確かな理屈があった。

銃口の向き。

相手の重心。

足の位置。

腕の動き。

攻撃が届くまでの距離。

それらを理解しているわけではない。

それなのに、彼女の身体は、敵の動きを見た瞬間に最適な行動を選び取っていた。

少なくとも、近接戦闘においては。

 

 

「な、なんなのよ、こいつ!?」

 

「銃が効かないわけじゃないでしょ! なんで当たらないのよ!?」

 

「近づけさせるな! 距離を取って――」

 

 

その少女が言い終える前に。

キレルは、彼女の銃を鉄パイプで弾き飛ばしていた。

 

 

「ひゃあああああっ!!」

ゴンッ!

 

 

「きゃあっ!?」

一人。

二人。

三人。

次々と、敵の少女たちが倒れていく。

もちろん、キレルは無傷ではない。

服は汚れ、頬には擦り傷ができ、呼吸は乱れている。

何より、本人が一番混乱していた。

 

 

「なんで!? なんでぇ!?」

ゴッ!

 

 

「ちょ、ちょっと待って! 話し合いましょう!?」

ガンッ!

 

 

「いやああああっ!?」

ドカッ!

 

 

そして、最後の一人が逃げ出した。

 

 

「覚えてなさいよぉぉぉっ!!」

 

 

「ま、待ってぇ! 私も逃げたいぃぃぃっ!!」

 

 

キレルは反射的に追いかけようとして、途中で立ち止まった。

敵がいなくなった。

銃声が止んだ。

廃工業区に、奇妙な静寂が訪れた。

彼女は手元の鉄パイプを見つめる。

錆びついた、ただの鉄パイプ。

次に、地面に倒れている少女たちを見た。

全員、戦闘不能。

最後に、壊れたダッカを見た。

 

 

「…………」

 

 

そして。

 

 

「……勝った?」

 

 

返事はない。

 

 

「私が……?」

 

 

もちろん、返事はない。

 

 

「……勝っちゃった?」

 

 

その瞬間。

 

 

「こ、怖かったあああああああああっ!!」

 

 

キレルはその場にへたり込んだ。

鉄パイプを抱きしめ、涙目で震えながら、盛大に泣き始めた。

 

 

「死ぬかと思ったぁぁぁ! もう嫌ぁぁぁ! 銃の練習するぅぅぅ! ちゃんと当たるようになるぅぅぅ!」

 

 

彼女はまだ知らない。

今の戦闘を見ていた者が、自分以外にもいたことを。

廃工業区の少し離れた屋上。

そこに、一人の少女が立っていた。

少女は、キレルが鉄パイプを振るう一連の動きを見届けると、静かに端末を取り出した。

 

 

「……射撃は壊滅的。でも、接近してからの動きは異常」

 

 

端末に記録を残す。

 

 

「相手の射線を外す動き。武器を持つ腕への攻撃。重心を崩してからの追撃。本人は無自覚みたいだけど……」

 

 

少女は、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしているキレルを見つめた。

 

 

「……あれ、絶対に何かの才能よね」

 

 

その言葉を最後に、少女は屋上から姿を消した。

この日、廃工業区で起きた戦闘は、ちょっとした噂になった。

曰く、たった一人の少女が鉄パイプ一本で不良集団を壊滅させた。

曰く、銃弾の雨をすべて見切り、敵の懐に飛び込んだ。

曰く、最後には戦車すら鉄パイプで殴り倒したらしい。

もちろん、戦車などいなかった。

銃弾をすべて見切ったわけでもない。

キレル本人は、ただ必死に逃げ回り、偶然にも敵を倒してしまっただけだ。

だが、噂というものは、得てしてそういうものだった。

 

そして数日後。

 

 

「君、剣術に興味はないか?」

 

 

「……はい?」

 

 

キレルは、目の前に立つ少女を見上げた。

少女は真剣な表情だった。

 

 

「君には才能がある。ぜひ、私のもとで近接戦闘を学んでみないか?」

 

「え、えっと……」

 

 

キレルは少し考えた。

そして、はっきりと答えた。

 

 

「私、射撃が上手くなりたいんですけど……」

 

「なるほど。では、まずは剣の基本から始めよう」

 

「なんで!?」

 

 

こうして。

斬合キレルの、本人にとってはまったく望んでいなかった近接戦闘の伝説が、始まったのである。

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