ウォーハンマーキヴォトスの日常
「野郎ども、戦だあああああああああああああああ!!!!!!!!」
「WAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGG!!!!!!!!!!」
雄叫びが轟く。
エンジンが唸る。履帯が大地を噛み砕き、装甲車の車輪が舗装路を削り上げる。
戦車、装甲車、そして何に使うのかもわからないほどガラクタを溶接してくっつけた戦闘車両の群れが、限界を超えた速度で突っ込んでくる。
排気筒から黒煙を噴き出し、車体のあちこちから火花を散らし、エンジンが今にも爆発しそうな悲鳴を上げている。
だが、止まらない。
止まる理由がない。
なぜなら、彼らはオルクだからだ!
そして、その進路上にある建物の名前は――カイザーローン第十三支部。
そう。キヴォトスにおいて悪名高き企業、カイザーコーポレーションの支部である。
「WAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAGGGGGHHHHHH!!!!!!」
「ぶっ壊せェェェェェェェ!!!!」
装甲車が正面玄関に突っ込んだ。
ガラスが砕け、鉄扉がひしゃげ、受付カウンターが吹き飛ぶ。エントランスに飾られていたカイザーの企業ロゴが、車体に押し潰されて粉々になった。
なお、なぜ元オルクたちがカイザーを襲撃したのか。
理由?
そんなものに大した意味はない。
今日の襲撃先を決めるのはウォーボスだ。
そして本日のウォーボスは、カイザーローン第十三支部を襲うと決めた。
それだけである。
「クソッ! また来やがったぞォォォォォ!!」
「撃て! 撃ちまくれ! これ以上、入口に突っ込ませるな!!」
カイザー側も、もはや慣れたものだった。
二階、三階の窓が一斉に開き、ロケットランチャーが火を噴く。
爆炎が道路を舐め、先頭を走っていた装甲車が宙を舞った。ひっくり返った車体が後続車両に激突し、金属の塊同士が凄まじい音を立ててぶつかり合う。
正面玄関では、盾を構えた重オートマタたちが横一列に並び、銃撃の嵐に耐えながら反撃していた。
その装甲に銃弾が叩きつけられる。
火花が散る。装甲板が歪む。何発かは関節部に食い込み、何体かは膝をついた。
それでも、彼らは射撃をやめない。
対する元オルクたちも負けてはいなかった。
「DDAAKKAAAAAA!!!!」
「ロキット! ロキットをブチ込めェェェ!!」
「そいつの頭はワシのもんだァァァ!!」
オルク製のダッカが火を噴き、シュータが弾丸をばら撒き、ロキットランチャーがロケット弾を吐き出す。
さらには、理屈も原理も説明できないサイキックな何かまで飛び交い、カイザーの重オートマタを片っ端から粉砕していく。
装甲が裂ける。
手足がもげる。
頭部が吹き飛ぶ。
そして、戦闘不能になったオートマタは、即座に戦場から運び出されていった。
「オイ! そいつの頭も持ってけ!」
「そっちの銃は売れるか!?」
「知らねェ! とりあえずトラックに積めェェェ!!」
元オルクたちは、トラックに戦利品を放り込むと、再び戦場へと駆け戻っていく。
戦っては運び、運んでは戦う。
撃ち、殴り、奪い、積み込む。
実に忙しい。
……本来のオルクならば、こんな真似はしない。
連中の基本方針は単純明快だ。
敵をぶっ殺す!
建物をぶっ壊す!
そして、気に入った場所を占領する!
売却益の計算? 部品の仕分け? 戦利品の輸送計画?
そんなものは、オルクにとって戦闘の邪魔でしかない。
だが、彼らは元オルクである。
少女の姿を得たことで、戦闘以外の欲求の大半を失った彼女たちにも、金に困るという事情は存在した。
そして、彼女たちは学習したのである。
カイザーの建物を破壊するよりも、カイザーの建物から売れるものを奪った方が儲かる。
カイザーの重オートマタは、倒すだけで終わらせるには惜しい。
武器も、装甲も、部品も、売れるものなら何でも売れる。
しかも、こちらは一団にすぎない。
復讐に燃えるカイザーの戦力は、個々の襲撃部隊を遥かに上回っている。
ならば、どうするか?
一度に全部を奪おうとする必要はない。
奪えるものだけ奪って撤退し、戦力を整え、また別の機会に奪いに来ればいい。
襲撃、略奪、撤退、再襲撃。
これぞ元オルク式・無限稼ぎ戦術!
しかも、この襲撃を行うのは毎回同じ一団とは限らない。
別の一団がやって来て、また別の一団がやって来る。
カイザーが対策を整えた頃には、違う連中が違う方向から突っ込んでくる。
被害がようやく収まったと思えば、また次の襲撃。
カイザーにとって、それは頭痛の種などという生易しいものではなかった。
頭痛の世界樹である。
そんな戦場の片隅。
荷車に積まれた、破損したオートマタの頭部があった。
砕けた装甲の隙間から、まだ生きているアイレンズが覗いている。
そのレンズが映していたのは、勝ち誇ったように略奪品を積み上げていく元オルクたちの姿だった。
――またか。
――また、奪われて終わるのか。
カイザーのオートマタは、無言のまま戦場を見つめていた。
だが。
今回は違った。
いや、違うはずだった。
何かが、空から来たのだ。
◆
ボガァァァァァァァァン!!!!!!!!!!
大地が爆ぜた。
正確には、何かが空から落ちてきた。
いや、落下などという生易しいものではない。
それは着弾だった。
舗装路が陥没し、破砕されたコンクリート片が周囲に飛び散る。衝撃波が砂埃を巻き上げ、近くにいた元オルクたちがまとめて宙へと放り出された。
十人ほどの元オルクが、悲鳴を上げる間もなく吹き飛ばされる。
ひっくり返る装甲車。
横転するトラック。
宙を舞うガラクタアーマー。
そして、砂煙の中心に、黒い巨影が立っていた。
重い。
黒い。
そして、異様なまでに頑丈そうだ。
全身を覆う装甲は、単なる防弾板の寄せ集めなどではない。巨大な戦闘用オートマタのために設計された重装甲が、幾重にも重ねられている。
肩部は分厚く、胸部は巨大で、腕部は人間の胴体ほどもありそうな太さを誇る。
その顔面には、頭蓋骨を模したエンブレム。
まるで、ドロップポッドで戦場に降り立ったスペースマリーン。
あるいは、ジャンプパックで敵陣に突入する戦闘修道士。
その姿には、そんな連中を思わせる威圧感があった。
しかし、彼はスペースマリーンではない。
身長、およそ二メートル五十センチ。
体重、三百キログラム。
カイザー製重オートマタ621型。
かつてカイザーに所属していた、対オルク戦闘の専門家。
そして今は、カイザーを辞めた身である。
頭脳部を除けば、もはや当時の面影などほとんど残っていない。
装甲は換装され、武装は改造され、各種機構も独自のものへと置き換えられている。
それでも、彼の仕事は変わらなかった。
敵を見つける。
敵を止める。
そして、報酬を受け取る。
そう。
彼は今回、カイザーを救うために来たのではない。
依頼を受けたから来たのだ。
「……ターゲット確認」
重低音の機械音声が、砂煙の中から響いた。
「元オルク集団。武装多数。車両多数。略奪行為を確認」
一瞬、彼は周囲を見渡した。
銃撃の音。
爆発の閃光。
逃げ惑うカイザー職員。
略奪品を積み込む元オルクたち。
そして、こちらを見ている無数のアイレンズ。
「……あー」
彼は、心底面倒くさそうに呟いた。
「また随分と派手にやってくれたもんだな、お前ら」
次の瞬間。
ガチャンッ!
彼の前腕部が展開した。
装甲板が左右に開き、内部機構がせり出す。油圧シリンダーが唸り、回転機構が噛み合い、無骨な砲身が定位置へと固定される。
そこに現れたのは、巨大なガトリングガンだった。
そして――
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!!!!!!
鋼鉄の嵐が吹き荒れた。
発射された弾丸は、こちらへ突っ込んできた元オルクの装甲車を正面から食い破った。
装甲板が剥がれ飛び、車体の内部で火花が散り、エンジンブロックが粉砕される。
数秒後。
装甲車は、爆炎と黒煙を吐き出しながら爆散した。
「WAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAGGGHHHHHH!!!!」
運転席にいた元オルクが、爆発の勢いを利用してこちらへ飛び込んでくる。
無茶苦茶である。
あまりにも無茶苦茶である。
だが、オルクとはそういうものだ。
オルクハンターは、飛び込んできた敵を一瞥すると、腕を振るった。
ドゴォッ!!
横殴りの一撃。
元オルクの身体が数メートルも吹き飛び、道路を転がった。
それだけだった。
オルクハンターは、何事もなかったかのようにガトリングガンを構え直した。
そして。
「「オルクハンターだァァァァァァァァ!!!!!!!!」」
戦場に、二種類の歓声が響き渡った。
カイザー側からも。
元オルク側からも。
両陣営が、同じ名前を叫んでいた。
カイザーにとっては、待ちに待った救援である。
今まさに自分たちを蹂躙していた元オルクどもを、圧倒的な火力で粉砕してくれる存在が現れたのだ。
歓喜するのも当然だろう。
だが。
元オルクたちまで歓声を上げているのは、いったいどういうわけなのか。
答えは簡単だった。
今や、キヴォトスにおけるオルクハンターは、元オルクたちにとって最高級の戦利品なのである。
頭蓋骨のエンブレム。
黒い重装甲。
両腕に備わった凶悪な武装。
そして、元オルクを相手に数々の勝利を重ねてきた実績。
これだけの存在を討ち取り、その頭部を持ち帰ることができれば、どれほどの価値があることか!
もちろん、元オルクたちにとっては純粋な記念品というわけでもない。
その装甲、武装、内部機構。
どれを取っても、売却する価値がある。
いや、そもそもオルクハンターという男は、彼女たちを相手にしている限り、常に高価な獲物だった。
元オルクたちから見れば、彼はウォーハンマー世界におけるコミッサー・ヤーリックのような存在である。
自分たちを執拗に追い回し、戦場に現れては計画をぶち壊し、何度でも立ちはだかる宿敵。
違うのは、ヤーリックがオルクたちにとって畏怖すべき敵であるのに対し、こちらはキヴォトス製の巨大な重オートマタだという点だ。
そして、その頭部には高値がつく。
つまり。
敵としても最高。戦利品としても最高。
元オルクたちが歓喜しない理由など、どこにもなかった。
「野郎どもォォォォォ!!」
元ウォーボスが、ガラクタアーマーの奥から叫んだ。
「オルクハンターが来たぞォォォ!! 後続も全部突っ込ませろォォォ!!」
「WAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAGGGHHHHHH!!!!」
「ストームボゥイ! ロキット点火ァァァ!!」
ロケット噴射の轟音。
背中にロキットを取り付けたストームボゥイたちが、一斉に空へと飛び上がった。
そのまま一直線にオルクハンターへ突っ込んでくる。
手には斧。
口からは雄叫び。
目の前にいるのは、欲しくてたまらない戦利品。
彼女たちの頭の中に、撤退という選択肢は存在しなかった。
「来るか」
オルクハンターは、冷静に敵の進路を見極めた。
次の瞬間、背部からサブアームが展開する。
ガシャンッ!
その先端に、重装甲のシールドが固定された。
ストームボゥイたちが殺到する。
「WAAAAAAAAAAGH!!」
「死ねェェェェ!!」
斧が振り下ろされる。
だが、オルクハンターは一歩も退かなかった。
シールドを構えたまま、真正面から受け止める。
そして――
ドゴォォォォォォンッ!!!!
シールドバッシュ。
それだけで、先頭のストームボゥイたちがまとめて吹き飛んだ。
まるで、ボウリングのピンをなぎ倒すように。
一人が別の一人に激突し、二人まとめて装甲車の側面へ叩きつけられる。さらに後続の一団が衝突し、ロキットの噴射で互いを巻き込みながら地面を転がった。
その隙間から、オルクハンターのガトリングガンが火を噴く。
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!!!!
突っ込んできた装甲車が、次々と粉砕されていく。
エンジンが爆発し、車体が裂け、砲塔が空へと舞い上がった。
さらにオルクハンターは、拳を振るった。
一人の元オルクが吹き飛ぶ。
盾で殴り飛ばす。
別の一人が転がる。
サブアームで敵を弾き飛ばす。
戦場は、もはや一方的な暴力の展示会と化していた。
拳。
盾。
ガトリングガン。
そして、重装甲の巨体そのもの。
あらゆるものが武器となり、元オルクたちを蹴散らしていく。
吹き飛ばされた元オルクたちは、子供が蹴ったサッカーボールのように、あちらへ転がり、こちらへ飛び、車両にぶつかって地面に叩きつけられた。
だが、オルクハンターは無傷ではなかった。
シールドの表面には無数の傷が走り、サブアームの関節部からは火花が散っている。
ガトリングガンの砲身も、連続射撃によって赤熱し始めていた。
それでも彼は止まらない。
一歩。
また一歩。
敵を押し返し、戦線を押し上げていく。
「オルクハンターッ!!!!!!!!!」
元ウォーボスが吠えた。
その声に、オルクハンターの光るアイレンズが向けられる。
ギョロリ。
赤く、あるいは白く輝くレンズが、砂煙の向こうにいる巨大な影を捉えた。
元ウォーボスが乗っているのは、バトルワゴン。
無数のガラクタを溶接して作られた、巨大な戦闘車両である。
車体には追加装甲。
側面には無数の銃器。
前面には、何を考えて取り付けたのかもわからないほど巨大な突撃用の鉄塊。
そして、エンジンは轟音を上げ、排気筒から黒煙を噴き出していた。
その巨体が、オルクハンターへ向けて突進してくる。
「WAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAGGGGGHHHHHH!!!!!!」
止まらない。
減速しない。
ハンドルを切る気もない。
元ウォーボスは、真正面からオルクハンターを轢き潰すつもりだった。
オルクハンターは、シールドを構えた。
だが。
ドゴォォォォォォォォォンッ!!!!!!
激突。
重装甲の巨体が、バトルワゴンの突撃を真正面から受け止めた。
大地が震える。
舗装路が砕ける。
シールドが軋み、サブアームの関節が悲鳴を上げる。
ガガガガガガガガガッ!!
嫌な音が響いた。
オルクハンターの足が、地面を削りながら後退する。
一メートル。
二メートル。
それでも、彼は倒れなかった。
「……重てぇな、オイ」
機械音声に、わずかな苛立ちが混じった。
その間にも、バトルワゴンは押し込んでくる。
装甲が擦れ合い、火花が散る。
サブアームの一本が、嫌な音を立てて歪んだ。
だが、オルクハンターはシールドを支えたまま、もう片方の腕を持ち上げた。
ガトリングガンの砲口が、バトルワゴンの車体へと向けられる。
照準?
そんなものは必要ない。
狙うのはエンジン周辺。
装甲の隙間。
配管。
燃料系統。
そして、その他諸々の壊れたら困る場所。
要するに――
数撃ちゃ急所に当たる戦法である。
「食らえ」
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!!!!!!
至近距離からの乱射。
弾丸がバトルワゴンの装甲を穿ち、内部へと食い込んでいく。
火花が散った。
エンジンから異音が響いた。
そして。
ベギィィィィィンッ!!
オルクハンターの片足、その膝関節部がついに破損した。
巨大な装甲脚が折れ曲がり、支えを失った巨体が傾く。
同時に。
ドゴォォォォォォォォンッ!!!!!!
バトルワゴンのエンジンが爆発した。
炎が噴き上がり、車体の前半分が吹き飛ぶ。
衝撃波が両者を包み込んだ。
元ウォーボスが吹き飛ぶ。
オルクハンターもまた、爆発の勢いで後方へと放り出された。
二つの巨体が、砂煙の中へと消えていく。
◆
静寂。
いや、正確には静寂ではなかった。
燃え盛る車両の爆ぜる音。
遠くで続く銃撃。
破損した機械が発する警告音。
それらが混じり合い、戦場には不気味なざわめきが残っていた。
やがて、砂煙が晴れる。
そこに立っていたのは、二つの影だった。
一人は、ボロボロになった元ウォーボス。
制服は裂け、ガラクタアーマーはあちこちが潰れ、手に持ったビッグチョッパにも無数の傷がついている。
もう一人は、オルクハンター。
両腕のガトリングガンは破損。
片足の装甲と関節も壊れ、背部のサブアームは見る影もない。
それでも。
それでも、彼は立っていた。
元ウォーボスが、ビッグチョッパを握り直す。
「くたばれェェェェェ!! オルクハンターァァァァァ!!」
雄叫びとともに、斧が振り下ろされる。
オルクハンターは、動かない。
いや、動けないのかもしれない。
だが、その右腕だけは別だった。
破損した装甲の奥で、何かが駆動する音が響いた。
ガチャン。
ガコン。
そして。
ガシュンッ!!
右腕が、肘から先を勢いよく射出した。
ジェットパンチ。
オルクハンターに搭載された、隠し機能の一つである。
「――オラァッ!!」
ロケット噴射の勢いを乗せた鉄拳が、ビッグチョッパと激突した。
刃が拳へ食い込む。
金属が裂ける。
火花が散る。
だが、拳は止まらなかった。
そのまま斧を押し切り、元ウォーボスの顔面へと突き進む。
ドゴォォォォォォォォンッ!!!!!!
直撃。
元ウォーボスの巨体が、地面から浮き上がった。
そして、後方へと吹き飛んでいく。
数メートル。
十メートル近く。
最後には瓦礫の山へと叩きつけられ、そのまま動かなくなった。
「これで勝ったと思うなよォ……! ガクッ」
『もう勝負ついてるから』
オルクハンターは、淡々と告げた。
◆
今回も、オルクハンターの辛勝で終わった。
……いや、正確には、辛勝という言葉すら生ぬるい。
両腕の主武装は破損。
片足は関節部から大破。
サブアームも全損に近い。
最後の一撃に使った右腕も、射出したまま戻ってきていない。
もはや、立っていること自体が奇跡に近い有様だった。
それでも、彼は倒れなかった。
しばらくして、カイザー側の重オートマタと警備部隊が、慎重に戦場へと進み出てきた。
周囲には、破壊された装甲車。
炎上するバトルワゴン。
地面に転がる元オルクたち。
そして、勝利した黒い巨体。
カイザーの責任者が、恐る恐る近づいてくる。
「……助かったよ、オルクハンター」
彼は、目の前の惨状を見渡した。
建物は半壊。
警備用オートマタは多数損傷。
車両も武器も、相当な被害を受けている。
だが、それでも。
今回は、奪われずに済んだものが多い。
何より、元オルクたちの襲撃を止めることができた。
「本当に助かった。君が来てくれなければ、今回もまた……」
「で」
オルクハンターが、言葉を遮った。
「報酬はどうする?」
「……え?」
「報酬だよ。依頼料。契約時に決めたやつ」
カイザーの責任者が、固まった。
そうだった。
この男は、カイザーの社員ではない。
かつてはカイザーに所属していたが、今は違う。
彼は独立した傭兵であり、便利屋であり、オルクハンターという二つ名を持つフリーランスの戦闘ユニットなのだ。
そして、何より。
彼は、金にうるさい。
「いや、しかし……今回の被害も相当なもので……」
「そりゃそうだろ。だから俺が来たんだろうが」
「いや、そうなんだが……」
「報酬の話をしてるんだよ」
カイザーの責任者は、顔を引きつらせた。
そして、恐る恐る尋ねる。
「……具体的には、何を希望する?」
オルクハンターは、顎をしゃくって戦場の一角を指した。
そこには、元オルクたちが略奪しようとしていた荷台があった。
積まれているのは、銃器や弾薬、その他の武装類。
「荷台に積まれてる銃器の三割。それと、俺の修理費」
「…………」
「何か問題でも?」
「くっ……!」
カイザーの責任者は、歯を食いしばった。
銃器の三割。
決して安い額ではない。
しかも、オルクハンター自身の修理費まで負担しなければならない。
だが。
今回、元オルクたちに奪われていたらどうなっていたか。
銃器も、装甲も、オートマタの部品も。
売れるものはすべて持ち去られ、次の襲撃の資金に変えられていただろう。
それを考えれば。
「……わかった。銃器の三割と、修理費を負担しよう」
「よし。話が早くて助かる」
オルクハンターは、満足げに頷いた。
「それじゃ、俺は修理に行く。次の依頼が入ってるんでな」
「……次の依頼?」
「元ジーンスティーラー絡みだ。面倒なことになってるらしい」
そう言いながら、彼は壊れた足を引きずり、戦場から離れようとした。
その背中を見送りながら、カイザーの責任者は思った。
――ああ。
――この男は、本当に変わらない。
かつてカイザーに所属していた頃。
彼は、数々のオルクを撃退した。
カイザーの施設を守り、社員を救い、敵の襲撃を何度も食い止めた。
その功績を称えられ、彼は勲章を授与された。
だが、彼が欲しかったのは勲章ではなかった。
名誉でもない。
称賛でもない。
給料だった。
「……勲章なんかより、給料をくれ」
それが、彼の言い分だった。
結局、カイザーは彼を引き留められなかった。
そして今。
かつての社員は、依頼料を受け取って去っていく。
カイザーのために戦ったわけではない。
正義のためでもない。
ただ、契約を結んだから戦った。
そして、契約に従って報酬を受け取った。
実に合理的。
実に現実的。
実に――
「……交渉も強いな、あいつ」
カイザーの責任者は、深々とため息をついた。
その視線の先では、オルクハンターが修理工場へ向かって歩いていた。
片足を引きずり、両腕を失い、装甲はボロボロ。
それでも、彼は堂々と歩いていた。
まるで、何事もなかったかのように。
そして、その背中には、次の戦場が待っている。
元オルク。
元ジーンスティーラー。
そして、その他諸々の厄介事。
彼の仕事に終わりはない。
なぜなら、キヴォトスには厄介事が溢れているからだ。
そして、厄介事がある限り。
それを片付ける便利屋も、また必要とされるのである。
もちろん。
報酬が出るなら、の話だが。