ウォーハンマー×ブルアカ   作:eriza7170

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元ウォーハンマーの日常
先生の常識外の行動リスト1


「あー、テスト、テスト。……よし、ちゃんと録音されているな」

 

 マイクの向こうで、誰かが書類をめくる音がした。

 

「さて。ここでは先生、およびアレックス・オリバー・ゴールデンの行動についてまとめる。

 

 なお、本調査は連邦生徒会から正式に依頼されたものである。したがって合法だ。異論は認めん。認めないったら認めない」

 

 そこで一度、録音が途切れた。

 

「……はい、そこのアルファレギオンA。なんだ、その顔は」

 

 どうやら、録音担当者の目の前には複数のアルファレギオンがいるらしい。

 

「はぁ? なんでこんな依頼を引き受けなきゃならないのか、だと?」

 

 声の主は、心底面倒くさそうにため息をついた。

 

「お前ら、先生のことを何だと思ってるんだ。あの人は、私らと違ってまだキヴォトス初心者なんだぞ。知ってるだろ?」

 

 もちろん、知っている。

 

 何しろ、対象人物はキヴォトスに来てからというもの、さまざまな騒動に巻き込まれている。いや、正確には、騒動に巻き込まれているだけで済んでいるなら、ここまで大がかりな調査は必要なかった。

 

「そんな先生が、私らのいた世界の常識を引っ提げて、この世界で活動しているんだぞ。それもボルトライフルと、遺物クラスの近接武器を持ってな」

 

 録音の向こうで、誰かが「ああ……」と納得したような声を漏らした。

 

「そうだ。分かるだろう? 先生が、不良どもに奪われた戦車を使ってヒラキを作ったこと」

 

 沈黙。

 

「……ヤバさが分かったか?」

 

 再び沈黙。

 

「よろしい」

 

 満足げな声だった。

 

「まあ、連邦生徒会長が最低限の常識は教え込んだらしい。だが、あくまで最低限だ。私らがやるのは、万が一に備えた予備調査。先生が問題行動を起こした際、全学園の生徒が協力して先生を止められるようにするための……そうだな、勉強会に必要な資料を作ることだ」

 

 そこで、声の主は少しだけ間を置いた。

 

「……だからといって、安心できるかどうかは別問題なんだがな」

 

 まったくもって、そのとおりである。

 

 これは、そんな危険極まりない人物を観察することになった、とあるアルファレギオンたちの記録である。

 

ケース1:食堂にて

 

対象施設:ゲヘナ学園・食堂

 

関係者:給食部、美食研究会、先生

 

記録形式:現場録音

 

【録音再生】

 

ハルナ『おや、先生。ゲヘナに何かご用事ですか?』

 

先生『そうだな。まさかゲヘナ列車が爆発して、昼飯時まで遅延するとは思わなかったが』

 

ハルナ『ゲヘナには慣れましたか? その程度のことは、こちらでは日常茶飯事ですわ』

 

先生『このような環境に慣れたいと思ったことはないな。俺は平和主義者なんだぞ』

 

ハルナ『まあ。先生のいらした世界では、さぞかし厳しい環境だったのでしょうね』

 

 ハルナは、世間話でもするかのように続けた。

 

ハルナ『私も、元ケイオスマリーンを名乗る方々にフウカさんの拉致を阻止されるまでは、自分の実力にはそれなりの自信があったのですが』

 

先生『それはお前が、フウカの許可を得ずに拉致しようとするからだろう……』

 

 先生の声には、隠しようのない疲労が滲んでいた。

 

 どうやら彼は、キヴォトスの治安や倫理観について、いまだに理解できない部分が多いらしい。

 

先生『……しかし、困ったな。なかなかの暴動具合だ』

 

 録音の向こうから、金属がぶつかる音、怒号、食器の割れる音が聞こえてくる。

 

 銃声も混じっている。

 

 食堂というより、包囲された要塞の内部である。

 

ハルナ『いえ、暴動ではありませんわ。給食の取り合いです』

 

先生『……給食の取り合い?』

 

ハルナ『ええ。いつもなら、給食部に所属する元ケイオスマリーンの方々がいらっしゃって、鎮圧してくださるのですが……今日は不在のようですわね』

 

 そこでハルナは、わずかに声を弾ませた。

 

ハルナ『先生が鎮圧なさいますか? なんて』

 

 数秒の沈黙。

 

先生『なるほど。それが早いな』

 

 ――直後。

 

 ズガァンッ!!

 

 重々しい銃声が、録音機のマイクを飽和させた。

 

 続けざまに、何かが砕け散る音。

 

 さらに、床材が大きく崩落する音が響く。

 

 爆発音ではない。

 

 少なくとも、録音を解析した技術部の見解では、爆発物が使用された形跡は確認されていない。

 

 単純に、ボルトライフルが発射されたのである。

 

 しかも、対象は人間ではなく床だった。

 

先生『そこに並べ。一列に』

 

ハルナ『先生!?』

 

 録音は、そこでいったん終了していた。

 

【録音終了】

 

「……と、まあ、このような具合だ」

 

 報告者の声には、疲れが混じっていた。

 

「分かったか? 先生は、スペースマリーンの中でも相当に常識から外れている」

 

 彼は一度、咳払いをした。

 

「自称ウルトラマリーンの後継戦団を率いている立場らしいが……ぜってぇ嘘だろ。よくてスペースウルフだ。いや、スペースウルフでも、もうちょっと手加減というものを知っている」

 

 録音の向こうで、アルファレギオンの一人が何かを指摘した。

 

「……は? 帝国の正式な認可証を持ってる?」

 

 声の調子が変わった。

 

「偽物皇帝のいる帝国の認可証を? マジかよ……」

 

 しばしの沈黙。

 

「いや、待て。そもそも、お前、よく先生に話しかけたな」

 

 アルファレギオンAが答えたらしい。

 

「……快く話してくれた?」

 

 報告者は、理解不能なものを聞いたという声で繰り返した。

 

「先生って、秘密を守るために相手の記憶を消すだとか、そういうアレはないのか?」

 

 別のアルファレギオンが何かを返した。

 

「グレイナイトじゃないんだから、そんなものはない? ……それもそうか」

 

 納得するのが早かった。

 

 なお、先生がグレイナイトのような秘密主義者ではないことと、先生に秘密がないことは、まったく別の話である。

 

 この時点で、その違いを理解していた者は少なかった。

 

ケース2:対象の過去を聞いてみた

 

対象:先生、アレックス・オリバー・ゴールデン

 

接触方法:一般生徒への偽装

 

担当:アルファレギオンA、B

 

記録形式:現場録音

 

【録音再生】

 

アルファレギオンA『いやー、噂の先生と直接お話しできるなんて、実に幸運ですわ!』

 

アルファレギオンB『本当ですわね、オホホホ! それで先生、本日お伺いしたいのは、先生の過去についてなのです!』

 

先生『ふむ。俺の過去か?』

 

アルファレギオンB『ええ! 噂の、外の世界からやってきた大人! そんな方がどのような人生を歩んでこられたのか、みんな知りたがっておりますのよ!』

 

アルファレギオンA『そこで我々クロノススクールが、直接取材をさせていただこうと思いましてね!』

 

先生『大して面白い話でもないが、それでいいのか?』

 

アルファレギオンB『もちろんですわ! 情報としての価値がございますので……いえ、いえ! 情報に貴賤はありませんもの! オホホホ!』

 

先生『そうか。なら、まずは俺の父親代わりだったジョンという男の話から始めようか』

 

 録音は、その後も延々と続いていた。

 

 最初の数分こそ、取材する側も余裕を保っていた。

 

 だが、十分が経過し、二十分が経過し、三十分が経過しても、先生の話は終わらなかった。

 

 戦団の創設者。

 

 父親代わりの初代戦団長。

 

 共に戦場を駆けた先輩たち。

 

 そして、スラーネッシュの手によって失われたもの。

 

 それは、華々しい英雄譚というより、一人の戦士が背負い続けてきた喪失の記録だった。

 

 アルファレギオンたちは、当初の目的を忘れかけていた。

 

 彼らは秘密を探りに来たはずだった。

 

 しかし、気がつけば、先生が語る過去に耳を傾けていたのである。

 

 やがて、録音には取材の終盤と思われる会話が残されていた。

 

アルファレギオンA『……つまり、スラーネッシュの連中にしてやられて、先輩方を失った、と?』

 

先生『まあ、そういうことだ。あいつの仲間は大半を仕留めたが、肝心の原因はまだ生きている。いつか、決着をつける日が来るだろう』

 

アルファレギオンB『……先生は、エンペラーズ・チルドレンが苦手なのですか?』

 

 少しだけ、間が空いた。

 

先生『……まあ、少し』

 

 もう一度、間が空いた。

 

先生『いや、だいぶ苦手だな』

 

 先生の声は、先ほどまでよりもわずかに重かった。

 

先生『俺が殺した連中と同じ戦団に属する者が、この世界では俺の生徒になっている可能性がある。……そのことに、今さら気づいた』

 

 小さく息を吐く音がした。

 

先生『……気まずいな』

 

 それは、何十年、あるいは何百年という戦いを生き延びてきた超人の言葉にしては、あまりにも人間くさい一言だった。

 

アルファレギオンA『まあ、アイアンウォリアーとインペリアルフィストが同じ世界にいる時点で、今さらですよ。オホホ』

 

先生『……歪な世界だな』

 

 先生は、しみじみと呟いた。

 

先生『俺と君たちの関係のようだ。なあ、アルファレギオン』

 

 沈黙。

 

 そして。

 

アルファレギオンA『……あら。バレました?』

 

先生『ああ』

 

 あまりにもあっさりとした返答だった。

 

先生『君たちは知らんだろうが、俺はプライマリスだ。装備のスキャン機能も、君たちの時代より進歩している。シールだか何だか知らんが、入れ墨はしないほうがいいぞ』

 

 録音の向こうで、二人が息を呑んだ。

 

 しかし、先生は気にする様子もなかった。

 

先生『あと、右にいるアルファレギオン。君は少々痩せすぎだ。もっと飯を食ったほうがいい』

 

 数秒の沈黙。

 

アルファレギオンA・B『『セクハラですよ、若手スペースマリーンが!』』

 

先生『……セクハラ?』

 

 心底不思議そうな声だった。

 

【録音終了】

 

「……なるほどな」

 

 報告者は、録音を止めてからしばらく考え込んでいた。

 

「先生は、スペースマリーン特有の男所帯で育ったせいで、セクハラという概念を正しく理解していない。これがお前らアルファレギオンの見解というわけだな?」

 

 アルファレギオンたちは、どうやらそのように結論づけたらしい。

 

「それで、エンペラーズ・チルドレンと主に争ってきた、と。あとはオルクどもか……」

 

 そこで彼は、ふと別の方向に目を向けた。

 

「おい。そこのサウザンドサン。どうした?」

 

 問いかけられたサウザンドサンは、何やら深刻そうな様子だった。

 

「……何? お前が死んだ戦場も、そんな感じだった?」

 

 しばしの沈黙。

 

「……まあ、どんまい」

 

 慰めの言葉は、実に軽かった。

 

「今は生身の体があるんだ。せっかくキヴォトスに来たんだから、楽しもうじゃないか」

 

 ここが、魔術も異端も裏切りも当たり前の銀河ではなく、銃弾が飛び交う学園都市であることを、彼らは時折忘れそうになる。

 

 もっとも、その学園都市にも、別種の理不尽が山ほど転がっているのだが。

 

 報告者は咳払いをし、話を本題へと戻した。

 

「さて。お前らの見解を聞こう。先生という人物を、どう評価する?」

 

 アルファレギオンたちは、互いに顔を見合わせた。

 

 そして、何やらひそひそと相談を始めた。

 

 数分後。

 

「……なるほど」

 

 報告者の声に、わずかな感心が混じった。

 

「女経験がなさそうだから、ハニートラップを仕掛ければ、案外うまくいくんじゃないか……と?」

 

 沈黙。

 

「よし。次はその線で――」

 

 ドォォォォォンッ!!

 

 突然、轟音が響いた。

 

 建物が揺れ、録音機のマイクが激しいノイズを拾う。

 

「……なんだ、この爆発音は?」

 

 椅子を蹴る音。

 

 慌ただしく動き回る足音。

 

 そして、報告者の声が急激に険しくなった。

 

「おい、誰だお前!」

 

 何かを見たらしい。

 

「……なんだ、その狐のお面は――」

 

 そこで、録音は途絶えた。

 

【録音終了】

 

――記録は、以上である。

 

 なお、本調査報告書の作成者は、その後しばらく連絡が取れなくなった。

 

 先生へのハニートラップ作戦が実行されたかどうかについては、現在も確認されていない。

 

 ただし、以後、アルファレギオンたちが先生の女性関係について議論する際には、必ず誰かが周囲を警戒するようになったという。

 

 その理由について、彼らは決して語ろうとしない。

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