001
目の前は暗く、ただ闇が支配している、その目に映るのは暗黒のみ。
目をつむっているのかと錯覚するほどの深淵が目の前を支配している。
何も見えない、何も見たくない、もはやただの永遠があるだけという状況に、少しずつ自身がおかしくなっていくがわかる。
スペースマリーン、自身が皇帝の栄誉を授かった兵士といえどこれは堪えるものがある。
ふと足に感覚がある、どうやら地面か床のようなものを踏み鳴らしたらしい、どこか雪のような感触を奇妙に思いつつも歩き始めることを開始する。
ズボリ、ズボリ、とまるで底なし沼に自ら進むかのような愚行をしている気分だ、だが進み続けるしかないのだろう。
自身しか見えない闇の空間へのいぶかしみが限界に到達した際、瞬時に世界は切り替わる。
女がいた、横の腹から血を流した女が、古びた電車の座席に座っている。
青色のロングヘアー、内側をピンク色にした若い少女がいた、ここはどこだ、そう聞く前に頭のなかに響くように
なにかが自身の中に入り込もうとしている。
「ぐぅ!?」
頭痛がする、吐き気もだ、スペースマリーンとなった時の試練に値するほどの辛さ、立てない、ぐらついた体を叱咤するように活を入れるが、それでも二足歩行になることは叶わず、手を地面へとつくこととなる。
「私の選択、そしてそれによって招かれたこのすべての状況」
少女がしゃべっている、だが、それが自分への返答なのかがわからない。
自身の頭の中に何かが映る、黒いドレスをまとった灰色の髪の少女、撃たれた機械。
どこか懐かしさを感じる、まるで生まれた時の記憶ともいうべき何か。
「結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたの方が正しかったこをと悟るだなんて」
景色が晴れる、電車の窓からは日の光がさしており、それは新たな門出を祝うのか、反対に夕日のようにすべてを終わらす闇に戻るのか
「……今更図々しいですが、お願いします」
「きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません」
「な、にを、いって」
頭痛が響く、声を一言出すたびにまるで地獄の業火に焼き尽くされるかのような痛みが走る。
「ですから……大事なのは経験ではなく、選択、あなたにしかできない選択の数々」
次々と頭の中の映像が切り替わる、青春、そう言える少女たちの思い出が、映る。
「責任を負うものについて、話したことがありましたね」
「あの時の私には分かりませんでしたが……。今なら理解できます」
「大人としての、責任と義務。そして、その延長線上にあった、あなたの選択」
痛みがよりひどくなっていく、まるで故郷の毒蛇にでもかまれたかのように意識が混濁していく。
「それが意味する心延えも」
「ですから、先生」
「私が信じられる大人である、あなたなら」
「この捻じれて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を……」
「そこへ繋がる選択肢は……きっと見つかるはずです」
「だから先生……どうか」
意識を失う、再び闇に包まれたとき、最後に見たのは、何かを託した、そう感じる少女の穏やかな表情だった。
002
「はぁ……」
七神リンは溜息を吐いた、今日この日、ここキヴォトスに先生と呼ばれる外の世界の人間が来る予定なのだ。
だが時間になっても近場の駅にも玄関にも現れることはなく、こうして入れ違いになった可能性を信じてこうして連邦生徒会ビルへと戻ってきていた。
だが外部の人間はいなかった、受付に確認してもそのような人間は来ていないらしい。
また溜息が漏れる。
どこか悩んでいた生徒会長の助けになるためにやってくるのであろう外部の人間が遅刻していることを許すことは出来ない厳しい性格をしているリン副会長ゆえなのだろう。
そしてその生徒会長も数日前から行方が分かっていない、外部の人間が来る、そういって生徒会長はいなくなった。
そのせいで暴動は発生し、犯罪率は増加、しかも生徒会長直属のSRTは責任者が行方不明になったことで宙ぶらりんの状態となった
「これは、厳しい状況ですね……」
思わずため息が連続して出るのも仕方ないだろう、この状況、生徒会長が予測していないとは思えない、それを承知して行方不明になったとしか思えない。
先生
その存在が生徒会長とプラマイゼロのイコールとなった、そうとしか思えない。
だがあの人の代わりが勤まる人類がいるとは思うことなどできはしないだろう、それほどあの人はすさまじいのだ。
『先生が到着します』
「えっ」
『■■■部屋に到着します、3、2,1』
続けて工事現場の一瞬の爆音に近い音が周囲を支配する、何事か、そう思ったが、この音が先生の到着を知らせる合図なのか、それとも別のトラブルなのかはわからないが、とにかく向かう必要はあるだろう。
走る、爆音がした部屋までは走って五分といったところだろうか、そこまで時間はかからないだろうが、何が起きているのかがわからない以上、素早くいくことは自身の安心感を高めるだろう。
足早の移動の末、ようやく到着したドア、その向こうに先生と呼ばれる存在がいる、ゴクリ、自身のつばを飲み込む音が聞こえるほど周りは不気味に無音に感じる。
「先生! 失礼します!」
ギィ、とドアが開かれる、何にも使ってない部屋ゆえに少量の埃が舞う、いや、少量ではない。
まるで重厚感のある何かが落下したかのように部屋の中は散乱としている、思わず部屋の電気をつけた瞬間、この状況を作り出した存在を目にすることとなる。
巨大、重厚、まるで生きた装甲車のような存在がそこにはいた、まるでブラックマーケットの者たちが持っているゴリアテを小さくしたかのような重厚感に少し圧倒される。
一応頭部と思われるところと、二本の腕、二本の足があるので無事を確認せねばならないだろう。
「もし! もしもし! 大丈夫ですか!?」
「ぬ……うぅ……」
重装甲なオートマタ? 人間? 判断はできないが生きてはいる存在が起き上がる、大きい、およそ2m60cmはあるだろう、天井に近しいくらいの身長があるようだ。
『ここ……は……』
「意識は大丈夫ですか?」
『あ、あぁ、少し待ってくれ……頭がすごい痛い……』
「何か冷やすものはいりますか? 近くに医務室があるので取ってくることも可能です」
『いや、大丈夫だ……』
装甲越しに頭を手で押さえているが、意味があるのだろうか? という疑問が七神リンの頭に浮かぶが、そんな考えをなくすかのようにコホンと咳をする。
「けががなくて何よりです、先生……であっているでしょうか?」
『先生……? あ……あぁ、そうだな、俺は先生だ』
チクリと先生と呼ばれた瞬間に頭痛がするが、気にしないでおこう、何か、そう呼ばれて納得している自分がいるのだと思う。
「では先生、こちらに、既に何名かの【暇な】学校の代表が集まっているので」
『言葉にとげを感じるな……』
ドアの外に出ると先生の姿を七神リンは再確認する、重厚感のある見た目なのは確かなのだが、それに加えて頭部と胸当て、そして肩当てが黄金に光っており、同時に黄金色の毛皮をまとっている。
それ以外は青色の塗装されており、まるで間違って伝わった黄金の国ジパングのような、よく言えば貴族的、悪く言えば悪趣味な色合いだ、だがそれを口に出すほど喧嘩を売るべき相手ではないだろう。
加えて新しい先生となるべき相手だ、心象は良いに越したことはない。
これが新しい先生と七神リンの出会いだった、それはキヴォトスの歴史に伝わる最初の歴史である。