ウォーハンマー×ブルアカ   作:eriza7170

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元ウォーハンマーのゆるやかな日常1

 001

 

 001 給食部、それは戦場

 

 給食部。

 

 それは、ゲヘナにおける戦場である。

 

 不良生徒、一般生徒、風紀委員、そしてパンデモニウム・ソサエティーの連中に至るまで。ゲヘナに籍を置くすべての生徒たちに食事を用意すること。それこそが、我らが給食部に課せられた使命である。

 

 腹を空かせた生徒に、身分も派閥も関係ない。

 

 あるのは食欲。食欲。そして、食欲である。

 

 ……もっとも、たまに食欲以外の何かが混ざっていることもある。

 

 コーン神だったり、スラーネッシュ神だったり、ティーンチ神だったり、あるいは――。

 

 ……ナーグル神はやめておこう。

 

 食べ物が腐るのは、今の身体では病気の原因になる。

 

 昔は腐敗だろうが毒だろうが、嬉々として敵にばらまいていたものだが、今は健康第一である。

 

 もちろん、発酵と腐敗の違いくらいは理解している。

 

 以前、納豆という、凄まじい臭気を放つ豆を食べたときには、思わずナーグル神の恩恵を感じてしまったものだが。

 

 ……あれは本当に食べ物なのだろうか。

 

「おにぎり給食、完成しましたー!」

 

「よし、次はステーキ給食だ! 肉を運べ、肉を!」

 

「コーン神よ! 本日は牛肉の脂を捧げます!」

 

 今日も給食部は平常運転である。

 

 給食部。それは戦場。

 

 ゲヘナという、まるでケイオスの権化のような名前を冠した学園にふさわしく、ここは文字どおりの渾沌に満ちていた。

 

 ブラックレギオンの一部。

 

 アイアンウォリアーの一部。

 

 ワールドイーター、デスガード、エンペラーズ・チルドレンの一部。

 

 そこに、元ケイオスマリーンではない一般生徒まで加わるのだから、もはや厨房というより異種混成軍の駐屯地である。

 

 しかも、全員が飯時になると山のように押し寄せてくる。

 

 腹を満たすために。

 

 己の欲望を満たすために。

 

 そして、たまに神々への供物を確保するために。

 

 ……最後の連中は、できれば厨房の外でやってほしい。

 

 では、そんな戦場で私は何をしているのか?

 

 野菜を千切りにしている。

 

 山のような野菜を。

 

 ケイオスマリーンの方々に手伝ってもらいながら。

 

 ……いや、彼女たちは私よりも手際がいいのだ。包丁を握る手つきも、野菜を刻む速度も、妙に洗練されている。

 

 かつて銀河を震撼させた戦士たちが、今では厨房でキャベツを刻んでいる。

 

 何とも不思議な光景だ。

 

 そもそも、ケイオスマリーンとは何なのだろう。

 

 詳しいことはよく分からないが、彼女たちは自分たちがそう呼ばれることを好んでいる。

 

 最初は、ヘルメット団とかスケバンとか、そういう個別の呼び名の一種なのだと思っていた。

 

 ところが、どうも違うらしい。

 

 彼女たちは数百年も前から、同じ名前を使い続けているのだという。

 

 ……数百年前って何だ?

 

 私たちは、そんな昔から生きていたのだろうか。

 

 いや、でも私にも、そういう特別な前世があったのではないかと思った時期がある。

 

 自分は何か大きな使命を背負って生まれ変わった存在なのではないか、とか。

 

 ……そんな話を彼女たちにしてみたら、猛烈な勢いで怒られた。

 

 そのうえ、ジュリ以外の全員からパンちゃんを三体ほど無理やり口の中に押し込まれた。

 

 あれは本当にひどかった。

 

 今でも、あのときのことを思い出すと少しだけ口の中がむずむずする。

 

 パンちゃんは悪くない。

 

 悪くないのだが、三体は多すぎる。

 

「美食研究会がやってきやがったぞーッ!」

 

「ブッ殺せェェェェェッ!!」

 

「あーっ! 待ってコンちゃん! 今離れちゃうのはダメ!」

 

「きゃーっ! 野菜炒めが暴れていますーっ!」

 

「デスガード印の、食用可能な毒ガス鎮圧剤じゃー!」

 

「ありがとうございます、デスちゃんさん!」

 

 ……訂正。

 

 パンちゃんも、たぶん悪くない。

 

 悪いのは、たぶん美食研究会だ。

 

 いや、待て。デスガード印の食用可能な毒ガス鎮圧剤って何だ?

 

 食用可能なら、毒ガスではないのでは?

 

 いや、しかし、デスガードの連中がそう言うのなら、何かしらの理屈があるのかもしれない。

 

 ……やっぱり、よく分からない。

 

 だが、そんなことをいちいち気にしていたら、ゲヘナでは生きていけない。

 

 給食部は戦場だ。

 

 それでも。

 

 なんだかんだで、私はこの場所が好きだった。

 

 騒がしくて、うるさくて、危険で、たまに食べ物以外のものが飛んでくる。

 

 それでも、腹を空かせた誰かのために料理を作る。

 

 できあがった料理を、みんなが笑いながら食べる。

 

 その光景を見るのは、嫌いではなかった。

 

 むしろ――。

 

 私は、この時間が好きなのだ。

 

002 コンちゃんとニワトリ小屋

 

「はい! 皆さん、お疲れさまでした! 今日もありがとうね!」

 

「「「お疲れさんっしたー!」」」

 

 給食部の活動終了を告げるフウカ部長の声が、厨房に響いた。

 

 それまで戦場のようだった調理場も、少しずつ落ち着きを取り戻していく。

 

 空になった鍋。

 

 積み上がった食器。

 

 磨かれていく調理台。

 

 そして、明日もまた大量の食事を作るために、黙々と片付けを進める元ケイオスマリーンたち。

 

 ……この光景だけを見れば、普通の給食部なのだが。

 

「私は、お料理の特訓のために残りますね。後片付けも、私がしておきます」

 

「じゃあ、私も残ろうかな。このあとパンちゃんが暴れたときに備えて、毒ガスを作っておかなきゃだし」

 

「俺は帰るわ。飼育小屋のニワトリの世話は誰だっけ?」

 

「ハッ! 本日は私の当番だな。アイアンウォリアー直伝の訓練術を見せてやろう」

 

 ……やはり普通ではなかった。

 

 さて。

 

 私の名前は、ワールドイーターの――。

 

 いや、別にそこは重要ではない。

 

 ここ、給食部ではコンちゃんと呼ばれている。

 

 なぜか?

 

 私が、やたらめったらコーン神に供物を捧げようとしていたからだ。

 

 肉の脂。

 

 切り落とした筋。

 

 調理の過程で出た余りもの。

 

 そういったものをゴミ箱に捨てる際、私はよく「コーン神よ、これを捧げます!」などと口走っていた。

 

 その結果、フウカ部長からつけられたあだ名が、コンちゃんだった。

 

 ……コーン神を略してコンちゃん。

 

 私ごときが、コーン神をかわいらしいあだ名にしてしまっていいのだろうか。

 

 最初は本気で悩んだ。

 

 だが、人間というのは不思議なものである。

 

 何度も呼ばれているうちに、いつの間にか慣れてしまった。

 

 今では、コンちゃんと呼ばれなければ落ち着かないくらいだ。

 

 我らが給食部の長、フウカ部長には感謝している。

 

 ……もっとも、同じワールドイーターの連中からは、あまり評判がよろしくない。

 

 だが、そんなことはどうでもいい。

 

 まずは私と友達になってから言え。

 

 同じ戦団に所属していたというだけで、友情が成立するわけではないのだ。

 

 昔の私たちにあったのは、せいぜい同じ敵を殺す理由くらいだった。

 

 それを絆と呼ぶのなら、ずいぶんと安っぽい絆である。

 

 私たちは、昔、殺すことしか考えていなかった。

 

 血を流し、敵を砕き、戦場に名を刻む。

 

 それが当たり前だった。

 

 では、今はどうなのか?

 

 何かを作ることが楽しい。

 

 野菜を刻むことも、料理を覚えることも、友達と話すことも。

 

 ……こんなことを言ったら、昔の私たちは何と言うだろうか。

 

 きっと笑うだろう。

 

 あるいは、私を臆病者と罵るかもしれない。

 

 まあ、どちらでもいい。

 

 少なくとも、今の私は気に入っているのだから。

 

 そんなことを考えながら歩いていたら、いつの間にかニワトリ小屋にたどり着いていた。

 

 別に、用事があったわけではない。

 

 ただ、ここにいると落ち着くのだ。

 

「よぉ。なんで当番でもないお前がいるんだ?」

 

 小屋の中から、聞き慣れた声がした。

 

 振り返ると、そこには一人の少女がいた。

 

 アイアンウォリアーの少女である。

 

 かつては、私たちワールドイーターとは敵同士だった。

 

 戦場で出会えば、互いに殺し合うのが当たり前。

 

 相手の顔を見れば、武器を握る。

 

 それが普通だった。

 

 ……本当に、奇妙なものだ。

 

「ここが落ち着くんだよ」

 

「そうか」

 

 少女はそれ以上、何も聞かなかった。

 

 私も、それ以上は答えなかった。

 

 それで十分だった。

 

 昔の私なら、こんな性格ではなかっただろう。

 

 もっと血を求めていた。

 

 もっと栄誉を求めていた。

 

 ……いや。

 

 今思えば、あれは単に殺戮を求めていただけだったのかもしれない。

 

 敵を殺す。

 

 次の敵を殺す。

 

 また次の敵を殺す。

 

 その繰り返し。

 

 元いた世界では、ありふれたことだった。

 

 あの戦いは、何だっただろうか。

 

 どうにも記憶が曖昧だ。

 

 狼に食い殺されたような覚えはある。

 

 だが、それが本当に最後の記憶だったのかさえ、今となっては確信が持てない。

 

 次に覚えているのは、この世界にいたことだ。

 

 少女の身体になっていたこと。

 

 そして、自分の中に残っていた、抑えきれない衝動のこと。

 

 私は、その衝動のまま周囲に当たり散らした。

 

 相手が誰であろうと関係なかった。

 

 気に入らなければ怒鳴り、逆らえば威圧し、手を出そうとした。

 

 ……だが。

 

 今にして思えば、あれは少し滑稽だったのかもしれない。

 

 何しろ、身体は少女なのだ。

 

 キヴォトスの生徒たちは、普通の人間よりもずっと頑丈だ。

 

 元ケイオスマリーンだったとしても、少女の身体で当たり散らしたところで、周囲に与える被害などたかが知れていた。

 

 そして、私は捕まった。

 

 ゲヘナ風紀委員の、圧倒的な数の暴力によって。

 

 ……あれは、ひどかった。

 

 どれだけ暴れても、どれだけ威圧しても、次から次へと人がやってくる。

 

 一人を振り払えば、三人が飛びかかってくる。

 

 三人を振り払えば、今度は十人がやってくる。

 

 最終的には、抵抗する気力すらなくなっていた。

 

 そして。

 

 私の中に、ひとつの感情が生まれた。

 

 ――腹が減った。

 

 そう。

 

 腹が減ったのだ。

 

 それまでの怒りも、苛立ちも、殺意も。

 

 あまりにも強烈な空腹の前では、すべてがどうでもよくなってしまった。

 

 腹の虫が鳴る。

 

 情けないほど、大きな音だった。

 

 警備をしていた生徒が、そんな私を見かねたのだろう。

 

 おにぎりをひとつ、差し出してきた。

 

 私は、それを食べた。

 

 ……涙が出るほど、おいしかった。

 

 米と、塩と、具材。

 

 たったそれだけのものが、どうしてあんなにおいしかったのだろう。

 

 今でも、あの味は忘れられない。

 

 それまで私は、何かを奪うことばかり考えていた。

 

 だが、そのとき初めて思ったのだ。

 

 これを作った者の力になりたい。

 

 自分も、誰かに食事を作ってやりたい。

 

 そうして私は、給食部に入った。

 

 そして、そこで知った。

 

 同じようなことを考えていた者が、ほかにも十数人いたのである。

 

 私たちは、顔を見合わせて笑った。

 

 どれだけ長い間、空腹というものを忘れていたのだろう。

 

 どれだけ久しぶりに、食べ物をおいしいと思ったのだろう。

 

 ……まったく。

 

 私たちは、いったい何をやっていたのだろうな。

 

「しかし、この状況は奇妙なもんだよな」

 

 私は、隣の少女に声をかけた。

 

「何がだ、ワールドイーター」

 

「お前と俺が、こうして一緒にいることだよ」

 

 少女の手が止まった。

 

「……一緒にいて、呆れ返るほどの殺し合いになっていない」

 

 かつてなら、考えられなかったことだ。

 

 私たちは、同じ戦場に立つだけで敵だった。

 

 思想も、信仰も、戦い方も違う。

 

 互いの存在そのものが、許せなかった。

 

 それなのに。

 

 今、私たちは同じ小屋にいる。

 

 同じ仕事をしている。

 

 同じ生き物の世話をしている。

 

 そして、同じ食堂で飯を食う。

 

「……ああ、そうだな」

 

 アイアンウォリアーの少女は、再びニワトリにエサを与え始めた。

 

 その横顔には、かすかな笑みが浮かんでいた。

 

 そこには、確かな友情があった。

 

 少なくとも、私にはそう見えた。

 

「ツァンゴ! ツァンゴ!」

 

「ツァンゴ!」

 

「ツァツァ!」

 

 ……ところで。

 

 私たちの足元では、ニワトリが鳴いていた。

 

 いや、ニワトリなのだろうか?

 

 見た目はニワトリに似ている。

 

 だが、全体的に青すぎる。

 

 そして、頭には角が生えている。

 

 どう見ても、私の知っているニワトリとは違う。

 

 もっとも、私が知っているニワトリが何なのかと聞かれたら、正直なところ自信はないのだが。

 

 エサの時間は、こいつらにとって至福のひとときなのだろう。

 

 我先にとエサへ群がる姿は、どこか微笑ましい。

 

 私だって、ごはんがあるのはうれしい。

 

「……というか、前から思っていたんだが」

 

 私は、足元の生き物を指さした。

 

「これ、本当にニワトリなのか?」

 

「正直に言って、見たことがないから知らん」

 

「だよなぁ……」

 

 私は、青い羽毛と角を眺めた。

 

 どこかで見たことがあるような気もする。

 

 だが、思い出せない。

 

 農業惑星を襲撃したときの記憶も、ほとんど残っていないのだ。

 

 そもそも、私は農業惑星で何をしていたのだろう。

 

 ……考えないでおこう。

 

「俺もよく分からんが……これ、ツァンゴールじゃないか?」

 

「ツァンゴール?」

 

「ワードベアラーの連中が言っていたんだが、ケイオスディーモンを呼び出したら、こいつに似た何かが現れたらしい」

 

「……ディーモンを呼び出して、これが?」

 

「そうらしい。こいつは、サウザンドサンの元ソーサラーからもらった」

 

「ふーん……」

 

 私は、改めて青い生き物を見た。

 

 ツァンゴール。

 

 ケイオスディーモンに似た何か。

 

 サウザンドサンの元ソーサラーから譲り受けたもの。

 

 ……。

 

「まあ、いいか」

 

「いいのか?」

 

「別に、今さらだろ。こいつらが何者だろうと、エサを食べて元気にしてるなら、それでいいじゃないか」

 

「……それもそうだな」

 

 少女は、わずかに笑った。

 

 私も笑った。

 

 小屋の中では、ツァンゴールらしき生き物たちが、相変わらず騒がしく鳴いていた。

 

 平和なひととき。

 

 その中に、ほんの少しの渾沌。

 

 それこそが、元ケイオスマリーンたちの日常である

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