ウォーハンマー×ブルアカ   作:eriza7170

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元ウォーハンマーのゆるやかな日常2

001 

「あ?」

 

「お?」

 

 キヴォトス、とりわけゲヘナにおいて、日常と呼ばれる出来事が三つある。

 

 一つ。デスガードによるパンちゃん制圧戦。

 

 二つ。給食部と美食研究会による、フウカ争奪戦。

 

 ……三つのうち二つが食事関係なのはどうかと思うが、仕方がない。ゲヘナの生徒にとって食欲とは、それほどまでに重要な問題なのだ。

 

 なお、温泉開発部による爆破騒ぎも候補に挙がったが、さすがに毎日起きているわけではない。頻度としては、たまによくある。つまり、日常というよりは定期的に発生する災害である。

 

 そして、最後の一つ。

 

 これこそが、最も厄介で、最も面倒で、最も周囲に被害をもたらす日常だった。

 

「あ゛ぁ゛!? ゛」

 

「お゛ォ゛!? ゛」

 

 ――インペリアルフィストとアイアンウォリアーの喧嘩である。

 

 これは、そんな二つの戦団に連なる生徒たちが繰り広げる、実に不毛で、実に壮大で、そして誰にも止められない戦いの記録である。

 

002 数千年越しの肩ぶつかり

 

 そもそもの因縁は、大逆以前にまで遡る。

 

 発端となったのは、ある一人の男が口にした、あまりにも単純な疑問だった。

 

『攻め守りのアイアンウォリアーと、守り攻めのインペリアルフィスト。……結局、どっちが強いんだろうな?』

 

 誰もが一度は思いつき、しかし誰もが口にするのを避けてきた疑問。

 

 それを、あろうことか本人たちの前で口にしてしまった男がいたのである。

 

 ちなみに、その男は現在、大逆を起こしたエンペラーズ・チルドレンの総魔長を務めている。

 

 ……なるほど。

 

 そういうところだぞ、と言いたくなる人選であった。

 

 さて、時は流れてキヴォトス。

 

 場所はゲヘナの市街地。

 

 ここで両者が顔を合わせることになったのは、決して珍しいことではない。

 

 インペリアルフィストの一部はトリニティ総合学園に所属し、また一部は各地で活動している。一方、アイアンウォリアーもゲヘナを中心に、各種の施設管理や防衛活動に関わっていた。

 

 さらに、ゲヘナで事件が起きた後には、ヴァルキューレ警察学校が戦後処理や現場検証のために派遣されることもある。

 

 SRT特殊学園ほど自由に動けるわけではないものの、ヴァルキューレは各地に自治区を持ち、通報があれば現場に駆けつけ、情報収集や事件解決に当たる。

 

 そして、問題児の多いゲヘナでは、当然ながら通報の件数も多い。

 

 風紀委員と合同で対応することも珍しくない。

 

 ……そう。

 

 今回のように、たまたま同じ現場に居合わせることもある。

 

 そして、悲劇は起きた。

 

「あ?」

 

 どん。

 

 肩がぶつかった。

 

 ただ、それだけだった。

 

 ほんの少し歩く位置がずれていれば、何事もなくすれ違っていたはずの、些細な接触。

 

 しかし、ぶつかった相手が悪かった。

 

「あぁん? 時代遅れの骨董品を使ってるくせに、何しとんじゃワレ」

 

 アイアンウォリアーの少女が、肩を押さえながら睨みつけた。

 

 対するインペリアルフィストの少女も、負けじと一歩踏み出す。

 

「おぉん? 最新装備を揃えても総主長が行方不明になった連中が、肩をぶつけただけで何を騒いでいる?」

 

 ――静寂。

 

 周囲の空気が、目に見えて変わった。

 

 通りを歩いていた一般生徒が立ち止まる。

 

 近くで警備をしていた風紀委員が、ゆっくりと顔を上げる。

 

 そして、現場に居合わせていた元ケイオススペースマリーンたちが、揃いも揃って同じ表情を浮かべた。

 

 ああ。

 

 またか。

 

「「あ゛ぁ゛!? ゛」」

 

 次の瞬間。

 

 その場にいた生徒たちは、一斉に動き出した。

 

 逃げるために。

 

 可能な限り、遠くへ。

 

 それはアイアンウォリアーも、インペリアルフィストも例外ではなかった。

 

 なぜか?

 

 答えは単純だ。

 

 こいつらの喧嘩には、決闘の場が必要になる。

 

 そして決闘の場が用意された場合、周囲の建物や道路が無事で済む保証など、どこにもないからである。

 

 むしろ、無事だった場合には「今日は被害が少なかったな」と評価される始末だった。

 

003 攻め守り、守り攻め

 

 数時間後。

 

 ゲヘナの一角に存在する廃墟へ、二つの陣営が集結していた。

 

 片や、インペリアルフィスト。

 

 片や、アイアンウォリアー。

 

 忠誠と渾沌。

 

 攻めと守り。

 

 守りと攻め。

 

 相反する戦団の伝統を受け継ぐ者たちが、今まさに対峙しようとしていた。

 

 もちろん、当人たちはいたって真剣である。

 

「……お前ら、これ何度目だよ?」

 

 ワールドイーターの少女が、心底うんざりした声で呟いた。

 

「そーだよ。私たちを巻き込まないでくれる?」

 

 隣にいた元デスガードの少女も、深々とため息をつく。

 

 しかし、二人の言葉は届かない。

 

 インペリアルフィストとアイアンウォリアーは、互いに視線を交わすことすらなく、ただ無言で睨み合っていた。

 

 その姿は、これから戦いに臨む兵士というより、数千年越しの私怨をようやく晴らせる機会を得た復讐者そのものだった。

 

「……んじゃ、決まり事を読み上げまーす」

 

 ワールドイーターは、手元の紙を広げた。

 

「はぁ……」

 

 心の底から面倒くさそうなため息が漏れる。

 

 彼女は知っている。

 

 この二つの戦団が、どういう戦いをするのか。

 

 ワールドイーターにとって、戦いとは敵に向かって突撃し、殴り、斬り、殺すことである。

 

 もちろん、状況に応じた戦術くらいは理解している。だが、結局のところ、敵を殴れる距離まで近づくことこそが重要なのだ。

 

 しかし、この二つは違う。

 

 インペリアルフィストは、守りを崩すために攻める。

 

 アイアンウォリアーは、攻めを砕くために守る。

 

 そして、両者が本気でぶつかり合ったとき、そこに生まれるのは単なる喧嘩ではない。

 

 砲撃と銃撃。

 

 塹壕と防壁。

 

 補給と兵站。

 

 欺瞞と陽動。

 

 敵の防衛線を読み、味方の損耗を計算し、戦場の地形そのものを利用する、徹底した攻城戦である。

 

 ……ワールドイーターの彼女にとっては、ひたすら面倒な戦いだった。

 

「えー、では、コイントスを行いまーす」

 

 彼女は硬貨を指で弾いた。

 

「裏が渾沌! 表が偽りの皇帝!」

 

 その瞬間、元インペリアルフィストの少女が、ぎろりとワールドイーターを睨みつけた。

 

 だが、今は目の前の裏切り者どもを叩き潰すことが先決である。

 

 彼女は、ひとまず怒りを飲み込んだ。

 

 硬貨が宙を舞う。

 

 一度目。

 

 表。

 

 二度目。

 

 裏。

 

「……あー、今回はインペリアルフィストが攻め! アイアンウォリアーが守り!」

 

 ワールドイーターは硬貨をしまうと、さっさと踵を返した。

 

「んじゃ、俺は帰るからな。お前ら、周辺の建物だけはなるべく壊すなよー」

 

 返事はなかった。

 

 そもそも、誰も聞いていなかった。

 

 すでに両陣営は、それぞれの仕事に取りかかっていたのである。

 

 インペリアルフィストは攻めの陣を形成する。

 

 対戦車砲を配置。

 

 武装ジープを展開。

 

 レマン・ラス戦車を思わせる重装甲車両を前線へ送り出し、歩兵の進撃路を確保する。

 

 盾を持つ突撃兵が先頭に立ち、その後方にアサルトライフルを構えた兵士たちが続く。さらに後方にはスナイパーが配置され、敵の指揮官や重火器を狙う準備を整えていた。

 

 一方、アイアンウォリアーは防衛陣地の構築に取りかかっていた。

 

 温泉開発部やら何やらから、過去の騒動の際に少しずつ没収してきた建築資材を運び込み、廃墟の建物を防衛拠点へと改造していく。

 

 窓には対戦車砲。

 

 屋上にはロケットランチャー。

 

 建物の陰には対人用の罠。

 

 地面には塹壕。

 

 さらに、前回の決闘で破壊された地下通路まで、手慣れた様子で復旧していった。

 

 数分後。

 

 そこには、完璧な攻撃陣地と防衛陣地が完成していた。

 

 ……数分で、である。

 

 設計図も、長い打ち合わせも必要ない。

 

 彼女たちの魂には、数百年、数千年に及ぶ攻城戦の経験が刻み込まれているのだ。

 

 かつては敵同士だった者たちが、今は少女の身体で、その経験を余すことなく発揮している。

 

 元の世界で何度も繰り返した戦い。

 

 その記憶と技術は、転生した程度では失われない。

 

 彼女たちにとって、これはただの喧嘩ではなかった。

 

 誇りを懸けた戦いだった。

 

「いけぇぇぇっ!! 裏切り者どもに目にもの見せてやれぇぇぇっ!!」

 

「来るぞぉぉぉっ!! アイアンウォリアーこそ最強だと、骨の髄まで分からせてやれぇぇぇっ!!」

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」

 

 空に、フレア信号弾が打ち上がった。

 

 決闘開始の合図だった。

 

 次の瞬間。

 

 銃声が響いた。

 

 砲声が轟いた。

 

 ドローンが空を舞い、爆弾を投下する。

 

 戦場が、一瞬にして火線と爆炎に包まれた。

 

 インペリアルフィストは、戦車と武装ジープを盾にして前進する。

 

 アサルトライフルによる中距離射撃。

 

 突撃兵のサブマシンガン。

 

 盾を構えた兵士たちが敵の射線を受け止め、その後方からスナイパーが防衛陣地の火点を狙撃する。

 

 戦車は砲撃を繰り返し、廃墟の壁を削り、敵の射撃位置を潰していく。

 

 だが、アイアンウォリアーも黙ってはいなかった。

 

 対戦車砲が火を噴く。

 

 ミサイルを搭載したドローンが、煙を引きながら敵陣へ突入する。

 

 塹壕の奥から、古びたサブマシンガンやボルトアクションライフルが一斉に火を噴いた。

 

 さらには、どこから持ち出してきたのか、旧式の機関銃までが唸りを上げる。

 

 攻撃と防御。

 

 前進と迎撃。

 

 砲弾が土煙を巻き上げ、弾丸が防壁を削り、爆炎が廃墟の窓を赤く染めた。

 

 一人。

 

 また一人。

 

 インペリアルフィストの生徒が、迎撃を受けて戦線から脱落する。

 

 しかし、その一方で、アイアンウォリアーの防衛線にも損害が出始めていた。

 

 狙撃された重火器の射手。

 

 砲撃で吹き飛ばされた塹壕の一角。

 

 突破を許した防衛線。

 

 どちらかが一方的に押し切ることはない。

 

 どちらも、相手の手を知っているからだ。

 

「「あの憎たらしい旗持ちを狙えぇぇぇっ!!」」

 

 両陣営の指揮官が、ほとんど同時に叫んだ。

 

 旗持ち。

 

 陣営の象徴であり、戦意の中心。

 

 あれを倒せば、相手の士気を挫ける。

 

 だからこそ、両者は旗持ちを狙った。

 

 そして、両者の盾持ちが、ほとんど同時に動いた。

 

 旗持ちを守るために。

 

 攻める側も、守る側も。

 

 やることは、結局同じだった。

 

「オートガンなんて大したことないと思ってたけど、この身体じゃきっつい!」

 

「スナイパー! ドローンを狙って! 爆撃を通すな!」

 

「立て! インペリアルフィストは戦車砲ごときでは倒れん!」

 

 その叫びに、敵陣から怒号が返る。

 

「戦車砲ごときで倒れるなら、今回の戦果が一番乏しいのはお前だな!」

 

「あの儀式はもうやらないって決めたでしょ! ちゃんと約束を守りなさい!」

 

「アイアンウォリアーは守りに回っても万全だと、思い知らせてやれぇぇぇっ!」

 

 ……どうやら、戦闘中にも過去の因縁が飛び交っているらしい。

 

 何の儀式なのか。

 

 誰が何をやらかしたのか。

 

 そんなことを気にしている余裕は、もちろん誰にもなかった。

 

 本来なら、インペリアルフィストは防御を得意とし、アイアンウォリアーは攻城戦を得意とする。

 

 今回は、それが完全に逆転している。

 

 だが、彼女たちは本来の専門分野でなければ戦えないような兵士ではなかった。

 

 数百年、数千年に及ぶ戦いを生き延びてきた精鋭。

 

 戦術を学び、戦場を読み、勝利のために必要なことを積み重ねてきた者たち。

 

 今の彼女たちは、かつての肉体を失っている。

 

 キヴォトスの生徒としての身体能力は、特区戦力、いわゆるネームドと呼ばれる一部の突出した生徒たちと比べれば、決して特別なものではない。

 

 一般生徒。

 

 モブと呼ばれる程度の身体能力。

 

 それでも。

 

 彼女たちには、経験がある。

 

 訓練がある。

 

 戦術がある。

 

 そして何より、精鋭としての意地があった。

 

 一人ひとりならば、中堅程度の戦力かもしれない。

 

 だが、集団として編成された元アスタルテスたちは違う。

 

 互いの役割を理解し、隣の仲間を信頼し、戦場の状況に応じて動く。

 

 その連携は、単なる個人の強さを遥かに超えていく。

 

 軍として集まった彼女たちは、容易には崩れない。

 

 そして、その軍勢同士がぶつかり合えば――。

 

 こうなるのである。

 

004 最後に立つ者

 

 数日後。

 

 戦場には、静寂が訪れていた。

 

 あれほど轟いていた銃声も、砲声も、今は聞こえない。

 

 廃墟はさらに廃墟らしくなり、塹壕は崩れ、車両は横転し、あちこちに武器が転がっている。

 

 戦場の至るところに、生徒たちが倒れていた。

 

 気絶した者。

 

 力尽きて横たわる者。

 

 武器を抱えたまま、泥の上で眠るように動かなくなった者。

 

 ……念のために言っておくが、死者はいない。

 

 ここはキヴォトスであり、これは彼女たちにとっての決闘である。

 

 ただし、決闘という言葉から想像されるような、数分で終わる優雅なものではなかった。

 

 数日間。

 

 水分補給も最低限。

 

 休息もまともに取らず。

 

 互いに知り尽くした戦術をぶつけ合い、相手の陣地を奪い、奪い返し、何度も何度も攻防を繰り返した。

 

 そして、ついに。

 

 立っている生徒は、二人だけになった。

 

 一人はインペリアルフィスト。

 

 もう一人はアイアンウォリアー。

 

 二人とも、手には自陣の旗を持っている。

 

 そして二人とも、この決闘の発端となった、あの肩ぶつかりの当事者だった。

 

「……」

 

「……」

 

 言葉はない。

 

 もはや、言葉など必要なかった。

 

 相手が何を考えているのか。

 

 何をしようとしているのか。

 

 数千年にも及ぶ因縁が、互いの目を見ただけで理解させていた。

 

 二人は、ゆっくりと歩み寄る。

 

 一歩。

 

 また一歩。

 

 泥にまみれた旗が揺れる。

 

 周囲には誰もいない。

 

 誰もが倒れ、誰もが動けず、誰もが最後の瞬間を見届けることさえできない。

 

 そして。

 

「「オ゛ラ゛ァ゛ッ!!」」

 

 二つの拳が、同時に放たれた。

 

 クロスカウンター。

 

 互いの顔面へ、真正面から拳が叩き込まれる。

 

「「ぐぇーっ!!」」

 

 旗が、同時に手を離れた。

 

 二本の旗が宙を舞い、泥の上へ落下する。

 

 そして二人もまた、まったく同じタイミングで地面に倒れた。

 

 静寂。

 

 数秒後。

 

 戦場の端で、様子を見守っていたワールドイーターの少女が、ゆっくりと立ち上がった。

 

「……はい、引き分けー」

 

 誰も返事をしなかった。

 

「勝者なし、敗者なし。両陣営とも全員ノックアウト。これにて決闘終了でーす」

 

 彼女は、手元の記録用紙に結果を書き込んだ。

 

 そして、深々とため息をついた。

 

「……だから言ったんだよ。いい加減にしろって」

 

 もちろん、聞く者はいない。

 

 戦場には、泥まみれになった二つの旗と、倒れた二つの戦団の生徒たちだけが残されていた。

 

 今回の決闘は、勝者なし。

 

 敗者なし。

 

 同時引き分け。

 

 なお、数日後。

 

 目を覚ました二人は、互いに顔を合わせるなり、再びこう言ったという。

 

「あ?」

 

「お?」

 

 ――次の決闘まで、あと数時間。




??「新鮮なした、いえ負傷者が沢山ですね」
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