窓口のバ美肉おじさんは配達者!?   作:塚山 泰乃(旧名:なまけもの)

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第10話 バ美肉おじさん、宝石姉妹の正体を知る

 俺は乃東君の不穏な言葉に不安を覚えながら、LONEの続きを見た。

 

◆     ◆     ◆

 

[何者かに妨害されてる]

[たぶんお前がよこ

した動画が原因だ]

 

              [もう嗅ぎつけたのか]

                [ごめん、皆を巻

               き込んでしまった]

 

[起きたことは仕方ない]

[それよりもお

前の姪の事だ]

[あのガキどもから

手を引いた方が良い]

 

                [警告ありがとう]

                [姪にも伝えとく]

 

[それと姪の事だが]

[しばらくの間事務所に

顔を出さない方がいい]

 

                     [何で]

 

[皆が姪の居場所を探ってる]

 

                     [は?]

 

[知らなかったのか]

 

                 [だから何で?]

 

[ネット上で姪が美女

だってんで一目見たい

って騒いでるんだよ]

 

                    [美女?]

               [確かに綺麗だけどそ

               こまでじゃないだろ]

 

[気がつかないのか?]

[お前どうかしてるよ]

 

                   [えぇ……]

 

[とにかく行くなよ]

[話はそれだけだ]

[じゃあな]

 

              [分かった。また今度]

 

◆     ◆     ◆

 

 俺は頭を抱えた。

 

 まいった、偉い人は思っていたよりも行動が早かった。

 

 ここまで用心深いとスレに参加していた奴らどころか、バクバク・イーツ全員の身元を洗われてる真っ最中なんじゃないだろうか。

 

 弓はどうなるんだろう。

 

 大元が俺だから何かしら接触してくるのではないだろうか。

 

 宝石姉妹を放置して野垂れ死にさせかけたくせして、異様な執着を見せるとは何のつもりだろうか。

 

 見た目は幼児でしかないのだが、何かあの2人に秘密でもあるのか?

 

 そんな事を考えていると玄関の呼び鈴が鳴った。

 

 時刻はもう深夜だ、更紗は別室で寝ちゃったしこんな時間に誰だろう?

 

 確か所長との会食はまだ先のはずだが。

 

 俺は部屋を出て廊下を通り玄関で靴を履いてから、ドアの覗き穴から外を覗く。

 

 玄関の前にいたのは所長ではなく、紺のコートを着た背広姿の壮年の知らない男だった。

 

 男は扉に向かって腰を折って一礼する。

 

「こんばんは。私、市賀《いちが》と申します。倉阪《くらさか》規《ただし》さんですね?」

 

 はて、と疑問がわき上がった。

 

 倉阪は表札にあるが規は表記されていない。

  

「単刀直入に言いましょう。宝石に関する話をしたいのですが」

 

 宝石と聞いてあの2人が思い浮かんだ。

 

 丁寧な物腰から荒事を行いに来たわけでは無いようだと判断し、チェーンロックを外して玄関の鍵を解錠し扉を開ける。

 

「中でお話を伺いましょう」

「ありがとうございます」

 

 市賀と名乗る男を居間に通す。

 

 座布団を出しテーブルの側に置くと、市賀氏は失礼しますと言って綺麗な所作で正座した。

 

 礼儀としてポットから注いだ急須で湯飲みに緑茶を淹れる。

 

「粗茶ですが」

「いえ、ありがとうございます」

 

 市賀氏は茶を一口飲んでから口を開いた。

 

「倉阪さんのご想像通り私はあの2人の姉妹を知る組織の一員です」

 

 こちらの行動はどこまでから知らないけど、ある程度は筒抜けになっているのだろうな。

 

「……色々と訊きたい事がある」

「答えられる範囲であれば」

「俺ら配達員のネットのスレッドを削除したり立ち上げられなくしたのはあなた達か?」

「そうです」

 

 市賀氏は悪びれもせずに頷いた。

 

「何故?」

「あの姉妹の情報が世間に広まるのは不都合なので」

「俺は姉の方と会話したが、警察から元いたアパートに戻るよう言われたぞ。おまけに断片的だが警察が『命令だ』とか『手に負えない』と会話してた事も聞かされた」

 

 経緯を一部話すが市賀氏は無言だ。

 

「あれもあんた達が手を回したのか?」

「ええ」

「何故?」

「必要でしたので」

 

 意味が分からず思考が止まりかける。

 

「……それは、彼女達が最終的に飢え死にする事がか?」

「そうです」

「お前……!」

 

 激昂しかけるが無理矢理自身を抑え込む。

 まだ質問は終わってない。

 

「…………それは、あんた達組織の利益になるのか?」

 

 その問いに市賀氏は少し沈黙する。

 

「…………不明です」

「は?」

 

 これまで淀み無く答えていた市賀氏が曖昧な返事をした。

 

「……じゃあ、別の誰かが利益を得たりするのか?」

「はい」

「それは誰だ」

「あなた達日本国民です」

 

 意味が分からん。

 

 いや、理解を拒絶しては駄目だ、まだ情報が足りない。

 

「あの子達が貧乏神だとでも?」

「似たようなものです」

「神様、では無いと思うが」

「いえ、れっきとした神です。位階は低いですけど」

 

 貧乏神、ね。

 

「オカルトの領域にでも入ってるのか?」

「そうとも言えますが本物です」

「なんつうか日本神話っぽいな。差し詰めあの姉妹は日巫女《ひみこ》みたいなものか」

「何故そうお思いに?」

 

 おや、受け答えしかしない市賀氏が質問してきた。

 

 何か興味を引くような事を言ったのだろうか。

 

「ほら、天の岩戸伝説で洞窟の中に……」

「時代が違います」

「え?」

「天の岩戸は天照《あまてらす》大御神《おおみかみ》が入ってました」

「あー……。いや、勉強不足だった。申し訳ない」

 

 いかんな、記憶が曖昧《あいまい》になってる。

 

「続きを」

「……天の岩戸は天照が何かの理由で引きこもり世界が暗くなったんで、外にいた人達が宴を開いて出てこさせた。……で合ってる?」

「まあ大体は」

「ああ、そうか。じゃあ勘違いだな」

 

 間違った思い込みってのは恥ずかしいもんだな。

 

「何がですか?」

「あの姉妹の遠い遠い先祖が日巫女だと思ってた。天照の方が先祖なのかもってな」

「……まあ先祖が何者であれ、彼女達は神様の血を引いているのは間違いありません」

 

 やけに確信してるような口調で語るな、この人。

 

「何故そう言い切れる?」

「最近では彼女達の祖先が太平洋戦争末期に奇跡を起こしています」

「奇跡?」

「アメリカ合衆国、ルーズベルト大統領の呪殺」

「は?」

 

 意味が分からない。

 

「自らの命と引き換えに成し遂げました」

「いやいや、ちょっと待て」

「何でしょう?」

「確か死因は心臓発作じゃなかったか? それに、俺が聞いたオカルト話では国が調伏《ちょうふく》の儀式を行った、としか。それに姉妹の曾祖母が関わっていた?」

 

 知られざる歴史の闇、というところなのだろうが今の問題はそこではない。

 

「時期は同じですが、行われたのは別の場所ですけどね」

「……待て。という事はあの姉妹の家系は先祖代々、生贄になっていると解釈できるんだが」

「血が絶えてしまうので、そこまで頻繁にはしていませんよ」

 

 こいつ、今の時代になっても古の儀式が効果あると考えてるのか。

 

「本当かよ……? で、あの姉妹の番が回ってきたと?」

「そうです」

「だったら、彼女達を置き去りにして出て行った母親を生贄にすればいいだろ」

 

 順番が違うとツッコミを入れる。

 

「儀式の前提条件として清らかな処女でないと駄目なのです」

「まだ幼児じゃないか。他に候補者はいなかったのか?」

 

 そっちかよと脱力しそうになる。

 

「いません。不幸を招きやすい体質なのでそれを知った異性はよほどの事が無い限り離れて行ってしまうので」

「なら、お前たち組織が金銭面で援助してやれよ」

「できません。儀式の前提条件に生贄が不幸の積み重ねをしていないと効果が期待できないからです」

「だから放置したと?」

「そうなります」

 

 何だそれは。理不尽すぎる。

 

「彼女達を生贄に何を目的としていたんだ?」

「教えられません」

「また呪殺か?」

「ご想像にお任せします」

 

 埒が明かないとため息を吐いた。

 

「……こうして俺に会いに来た目的は何だ?」

「あなたと姪の倉阪弓さんにあの姉妹と関わるのを止めていただきたく」

 

 弓の事も知ってるのか。どのくらいの知識を仕入れているのか分からないが、なるべく踏み込むのは止しておこう。

 

「しかしだな、あそこまで関わっておいて見捨てろなんてできないぞ」

「情でもわきましたか?」

「俺はそうでもないが、弓が親身になって世話してるそうだからな」

「ほう」

 

 市賀氏が感心したようにため息を漏らす。

 

 彼の態度から見上げた根性だと読み取れた。

 

「ただ、ここで俺が抜けて弓を1人にさせると、あいつへの負担が重くなりそうだからな」

「今後もあの姉妹と接すると?」

「そうなる」

「そうですか……」

 

 どう解釈したのか、市賀氏が腕を組んでウンウンと頷く。

 

「その場合、俺たちはどうなる?」

「どうもしません」

「は?」

「腐っても神ですので、影響力は計り知れません。このままではあの姉妹だけでなく倉阪さん達も不幸に見舞われるでしょう」

「……今のところ、金銭面で出費が多くなってるのは認める。……え、これ以上酷くなるのか?」

 

 関わると不幸のとばっちりを受けるわけか。

 

「過去の事例では貧乏になったうえ、事故に遭ったり病気にかかったりしましたね」

「それは、姉妹の近くにいるとなるのか?」

「近づけば近づくほどなります」

「だから市賀さん達の組織は関わらないのか」

「誰も貧乏くじは引きたくありませんからね」

 

 オカルトに通じているのは理解できたが、ちょっと用心深すぎではなかろうか。

 

「関わった人以外の人間や組織にも影響が出てくるのか?」

「そこまでではありませんね。あくまで彼女達に近づいた者達のみです」

「なら安心だな」

「はい?」

 

 俺の態度に不思議そうな顔をする市賀氏。

 

「勤務先まで悪影響が出たら流石に尻込みしたけど、それくらいなら問題無いな」

「あなた達は不幸になるんですよ?」

「姉妹を見捨てた方が寝覚め悪いわ。一応弓にもこの話を伝えても?」

「当事者ですので問題ありません」

「分かった」

 

 俺の様子に何やら感心した様子で話しかけてくる。

 

「今どき赤の他人を助けようだなんて珍しいですね」

「そうか?」

「普通は無視します」

「相手が弱者だからかな。悪人なら見捨てるよ」

「そうですか」

 

 いくら俺でも物事の善悪の区別くらいならできる。

 

「話を変えて質問に戻るぞ」

「どうぞ」

「お前達の組織の規模、国家に影響力を及ぼすほどか?」

「それなりに」

「はっきりとは言えない、か。もう一つ、姉妹を監視する組織はお前達だけか?」

「はい」

 

 それを聞いて安心する。どうやらあまり複雑怪奇な話ではないらしい。

 

「……組織内の派閥はいくつある?」

「大雑把に2つ。私達は穏健派で、もう一つが原理主義派。後者が多数派ですね」

「原理主義とは何だ」

「外国に対して強気な態度、所謂タカ派です。貧乏神を積極的に有効に活用したいと考えています」

 

 はた迷惑な派閥だな。

 

「穏健派は?」

「ハト派です。どうしようもない時やここぞと言うときにしか行動しません」

「と言う事は、今回の件は原理主義派が主導している?」

「おっしゃる通り」

 

 今までの様子からすると、原理主義派の行動に歯止めがかかっていないようだ。

 

「穏健派は何と?」

「何しろ少数派ですので、こちらの声を聞き入れてくれる事はまずありません」

「おいおい。……穏健派としての本音は?」

「今はその時期ではない、とだけ」

 

 何だ、本心では反対なんじゃないか。

 

「姉妹ともに神としての力があるのか?」

「確認済みです」

「そうか。……ん? なら何で2人とも? どちらか片方が犠牲になるだけで十分だろう」

「原理主義派の言い分によると、効果が半減するとか言ってましたね」

 

 2人共いっぺんに生贄にするなんて頭がおかしい。

 

「半減? ふざけた事ぬかしやがって」

「彼らは本気ですよ」

「なおさらたちが悪いわ。……で、あの姉妹がいなくなったらどうするんだ?」

「と言うと?」

「この世から貧乏神がいなくなった後の事だ」

 

 神の血が絶えたら組織も御役御免になるが。さて。

 

「また母親に産ませれば良いだけですので」

「やり直しがきくのかよ」

「実証済です」

 

 まあ、古代から続いてきた儀式らしいのでマニュアルか何かあるのだろう。

 

「そうかい。……それと、近々バクバク・イーツに新人が大勢入ってくる事になっているんだが、穏健派の差し金か?」

「原理主義派に属してる一派ですね」

 

 嫌な予感は当たるものだと内心ため息を吐いた。

 

「どういう思惑でやったのか分かるか?」

「実入りの良い収入源と思われたのでしょうか」

「内情はあんまり良くないぞ」

 

 国を動かすほどの組織のくせに調査が不十分だ。

 

 儲かるなら他の業種に行くだろうに。

 

「原理主義派は人海戦術も使いますので、塵も積もれば山となると判断したのかもしれませんね」

「はた迷惑な」

「どうなさるおつもりですか?」

「いらんちょっかいかけられても大丈夫なよう、各自ボディカメラとボイスレコーダー装備するようにしてある。どこまで効果があるのか不明だが」

 

 こればかりは実際に運用してみないと分からん。

 

「それで十分だと思いますよ」

「何故そう思う?」

「彼らのやり口は嫌がらせが主です。強硬手段に出てこなければ大丈夫でしょう」

「強硬手段?」

 

 その手の組織のやり方だと物騒な内容を想像したが、当たらずとも遠からずだった。

 

「殺人やそれに類するものです。それをした場合、労基署や警察の介入を招きますから滅多な事はしないでしょう」

「それなら良いんだが」

「あとは彼らに決して暴力に訴えてはいけません。最悪、顧問の弁護士に裁判に持ち込まれて途方もない賠償責任を負わされますよ?」

「既にバクバク・イーツの同僚達に伝えておいたよ」

 

 事前に根回ししておいて良かった。

 

「さすがです、感服しました」

「褒めても何も出ないぞ。……さて、思いついた質問は以上だ。今日のところはこれでお開きにしよう」

「そうですね」

 

 市賀氏は腰を上げるとにこやかな顔で告げる。

 

「ほんのいっときですが、姉妹の事よろしくお願いします」

「手の届く範囲内ならな」

 

 市賀は玄関で一礼すると退出していった。

 

 彼との話し合いは他者へ漏らす事のできない内容だ。

 

 というか貧乏神が実在するなんて言っても頭がおかしくなったと判断されるだけで、何の得にもならない。

 

 いや、弓の正体を知る所長なら情報共有しておいた方が良いかもしれん。

 

 湯飲みを片付けながらそんな事を考えていた。

 

◆     ◆     ◆

 

 風呂に入る前に化粧をしてサッシを所定の位置に置く。

 

「タンザナイトとモルガナイトの部屋」

 

 窓を開けると向こう側に宝石姉妹がテーブルに置かれたタブレットに流れているアニメを視聴しているのが見えた。

 

 邪魔するのも悪いと思い2人を眺めていると、タンザがこちらに気がついたようでぱっと顔を明るくしてこっちに歩いてきた。

 

「お姉ちゃん」

「こんばんは。夕飯は食べた?」

「うん」

 

 屑籠《くずかご》を覗き込むとプラスチック包装があり、柄からおにぎりと判別できた。

 

「牛乳は飲んだ?」

「うん」

 

 タンザの頭を撫でる。

 

「ちゃんと食べられて偉い偉い」

「えへへー」

「あー、ずるい」

 

 笑顔のタンザを見たのか、モルガがアニメ視聴を中断してやって来る。

 

「モルガちゃんは夕飯食べられた?」

「うん!」

「いい子いい子」

「むふー」

 

 モルガも撫でられてご満悦だ。

 

「2人共、元気そうだね」

「元気だよ」

 

 タンザの言葉通り、外見からは異常は見られない。

 

「ちょっと訊きたいんだけど、私がいない間、誰か来なかった?」

「ううん、いないよ」

「それならいいの」

 

 どうやら原理主義派は来ていないようだ。

 

「お風呂は?」

「まだー」

「じゃあ手伝うから入りましょう」

「分かった!」

 

 タンザは大丈夫だろうけど、モルガはまだ2歳だ。

 

 見ていない所で溺れたりしたら心臓に悪い。

 

 俺がまだ小学生だった頃、幼い弟や妹を世話した事あったけど、ここまで甲斐甲斐しくした事は無い。

 

 何でだろうな、2人を守ってやりたくなる。

 

 これが父性か?

 

 幸いにも今は冬なので汗はかいてないから入浴は簡単に済んだ。

 

 溜まった垢を念入りに落とした苦労に比べれば何ということは無い。

 

 ドライヤーで2人の髪を乾かしてパジャマに着替えさせると、敷布団に寝かせ布団を掛ける。

 

 最後に今日の終わりの挨拶をする。

 

「じゃあね2人共。おやすみなさい」

「おやすみなさい」

「おやすみ!」

 

 2人が仲良く並んで寝息を立て始めるのを確認した後、窓を閉めた。

 

 さて、ちょっとアニメを視聴してから俺も寝るとしよう。

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